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東京地方裁判所 昭和46年(むのイ)1589号 決定 1971年12月18日

被告人 上石洋子

決  定

(住居、職業・氏名等略)

右の者に対する兇器準備集合被告事件について、昭和四六年一一月二三日東京地方裁判所裁判官がなした勾留の裁判のうち勾留場所の指定に対し、同年一二月一五日弁護人渡辺泰彦から適法な準抗告の申立があつたので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件準抗告の申立を棄却する。

理由

第一、本件準抗告の申立の要旨

申立人は、

原裁判中勾留場所を警視庁菊屋橋分室とした部分を取り消す。被告人の勾留場所を東京拘置所とする。

との趣旨の裁判を求め、その理由として、

(一)  監獄法一条三項によれば、被疑者の勾留場所は拘置所が原則であつて、代用監獄は例外であることが明らかであり、さらに、被疑者の勾留は刑事訴訟法六〇条一項各号の事由ある場合にのみ認められるにすぎず、従つて勾留場所の決定については捜査の便宜を考慮することは許されない。しかるに、原裁判は勾留場所として代用監獄である警視庁菊屋橋分室留置場を指定しており、違法・不当である。

(二)  さらに、被告人は、本件勾留事実につき昭和四六年一二月一一日東京地方裁判所に公訴を提起されたが、その後も依然として右留置場に勾留されている。被告人を公訴提起後も、その食事、入浴、差入れ、接見などにつき裁量権を有する捜査機関の下におくときは右地位を利用して被告人を取り調べ(現に被告人は公訴提起後も警察官より長時間にわたつて取り調べられている)、あるいは自白を迫る虞があり、公正な裁判の点からも不当である。

と主張するのである。

第二、当裁判所の判断

一、(一)の理由について

被疑者の勾留場所については、被疑者および弁護人の防禦権の行使のみならず、勾留後における捜査の必要をも考慮して、両者の調和のうえに決定すべきものと解されるところ、一件記録によれば、本件は「一一・一九沖繩返還協定批准阻止闘争」が全都にわたつて行なわれた昭和四六年一一月一九日の午後六時三〇分ころに、被疑者(現在被告人)を含む約七名の男女が警戒警備中の警察官に対して共同して危害を加える目的をもつて、火炎ビン一〇本ほか石油入りの容器を買物袋などに隠し持つて、国鉄秋葉原駅総武線プラツトホームに集合し、同所から一団となつて総武線浅草橋駅を経て地下鉄日比谷線東銀座駅で下車し、東京都中央区銀座四丁目一三番一一号喫茶店「ユー」に至り、その間右火炎ビンなどを持ち運び、さらに右喫茶店においても、他への電話連絡などの間火炎ビンを所持していたという事案であつて、本件が事前の綿密な謀議に基づく組織的計画的集団犯罪であることに鑑みると、被疑者(現在被告人)の刑事責任の有無およびその程度を確定するためには、被疑者(現在被告人)の外形的行為を特定することは勿論、なお本件犯行についての事前謀議の内容、被疑者(現在被告人)の右謀議への関与の程度、右謀議への参加者の特定、本件火炎ビンの入手先などについてさらに捜査を尽くす必要が存するものというべきところ、被疑者(現在被告人)は逮捕以来犯罪事実についてはもとより身上関係についても完全黙秘しており、そのため捜査機関としては他の共犯者、目撃者など多数の事件関係人の供述に頼らざるをえない状況にありかかる事情の下において、被疑者(現在被告人)を東京拘置所に勾留するときは、右多数の関係人の取調および被疑者(現在被告人)との面通し又は対質、火炎ビンなどを示しての被疑者(現在被告人)が取調、現場の引当りなどについて、捜査を著しく困難にし、その迅速性を害するものと認められ、従つて原裁判がかかる事情を考慮して被疑者(現在被告人)の勾留場所を代用監獄に指定したことは相当であつて、なんら違法・不当は存しない。

二、(三)の理由について

弁護人は、被疑者(現在被告人)が勾留された後の事情特に本件については公訴が提起されたことを主張するが、そもそも勾留の裁判に対する準抗告の申立があつた場合、準抗告裁判所は、勾留の裁判のなされた時点において勾留の裁判をなしたことにつき違法または不当とすべき事由があるか否かについて判断をなしうるにすぎないものであるから、勾留後に生じた事情を考慮して勾留の裁判の当否を判断することは許されず、従つてこの点に関する本件準抗告の理由(二)は失当であることが明らかである。

よつて刑事訴訟法四三二条、四二六条一項により主文のとおり決定する。

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