東京地方裁判所 昭和46年(ワ)10844号 判決
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〔判決理由〕一、<証拠>によると
(一) 本件事故現場は隅田川をまたぐ小台橋上であり、加害車は尾久方面から荒川土手方面に時速約三〇キロメートルで進行し、被害車はこれと対向進行していた。当時は風がかなり強く、帽子が吹き飛ばされる程であつた。
(二) 加害車は橋をわたりはじめる前、工事中のコンクリートミキサー車が右側に停まつて、事実上道路の右側が閉塞されていたため、工事中の整理員の指示で荒川土手方面から来る対向車の通過するのを待つてから発進した。加害車と同一方向には加害車の前方に三台位の車が、後方にも貨物自動車が停車して対向車の通過待ちをしていた。やがて対向車が通過し終ると、加害車は前車に引き続き発進し、前記速度で進行中橋の中途で前車が右に避けるような行動をとつた際、右側端を対向走行して来る被害車を発見した。被告根本は同乗がふらついて危険な走行状態のため急拠ハンドルを右に切つたが、ほとんど右の方に車体が行くか行かないかの状態で、被害車と加害車の左側面とが接触した。このため被害車に乗つていた訴外檜山昌夫が転倒し、同訴外人胸腹部附近が加害車左後輪で轢過された。
(三) 被害車はサドルまでの高さが八九センチメートル、タイヤ径二六インチの大人用自転車であり、亡昌夫の身長は一三六センチメートルである。
(四) 加害車は車幅2.50メートルの大型貨物自動車で後輪はダブルタイヤである。事故当時左側ドア下部から、後部荷台足掛けにこすつた痕跡が残されていた。
(五) 被害車は、加害車の前方を走行していたライトバンの運転手訴外大沢啓蔵が危険を感じて無意識に右ハンドルを切り、思わず「危いなあ」とつぶやいた程、一見して危険な状態で進行していた。
以上の事実が認められる。
ところで被告根本が被害車を発見した時の加害車と被害車との距離であるが、事故当日の被告根本の指示による実況見分調書(乙第一号証の二)によると約30.8メートル、それから二日後の同被告の指示による調書(乙第一号証の五)によると45.7メートル、それから五日目の四月一四日の調書(乙第一号証の七)によると21.95メートル、公判廷における被告根本の供述(乙第六号証の四)によると一七〜八メートルと夫々異なつている。そのいずれかがより正確であるかは両車が対向走行していることおよび加害車の直前は死角になることから見て確定することは困難である。しかし被告根本の供述には被害車がいずれの方向に向いて進行していたかについて、一度は前言を取消して、同一方向に進行していた旨供述するなどの態度(乙第五号証の二)に徴し、多少事故のために気が動てんしていたことを斟酌しても、少くとも事前に十分認識してこれに対処したというより前車が右へハンドルを切つて避ける時点までは明確な認識はないものと認めざるを得ない。
よつて被告根本があらかじめ被害車のために速度を調節しあるいはより広く自転車のために自車と歩道縁石との間隙を開けていたとは認めることができない。
次に問題となるのは加害車が進行左側の歩道縁石との間にどの程度の間隙をもうけて走行していたかということである。これについては被告根本の供述自体、および目撃車の指示(乙第一号証の三)とも多少の喰い違いがあり、一義的には確定しがたい。しかしながら乙第一号証の二乙第一号証の三により、1、2メートル以上から1.55メートルの間隙はあつたものと認められる。確かに道路幅員は6.5メートル(半分は3.25メートル)であり、加害車は2.5メートルであるから仮りに加害車の右側が道路の中央ぎりぎりに走行していたとすれば0.75メートルの間隙しかないことになるが、当時対向車はなかつたことは前掲証拠から明らかであり、又目撃者山田二三子が特に被告根本に有利な指示説明をしているとも認め難い(寧ろ、同目撃者は被告根本に不利な供述をしている)から、やはり加害車の右側は多少中央を超えて走行していたものと認めざるを得ない。
そこで前記認定事実および右各点を考慮すると、被告根本には被害車の発見がやや遅れ、右側に避けて接触を未然に妨止すべき注意義務を尽さなかつた過失があると言わざるを得ない。よつて同被告には、民法七〇九条の責任があり、被告会社が運行供用者であることについては当事者間に争いがなく自賠法三条の責任があるので、被告らは連帯して原告らに生じた損害を賠償する義務がある。
他方亡昌夫もともすれば身長の関係から不安定になりがちな二六インチの大人用自転車を強風下に乗り出した点、又右側を走行し、風のため左右にふらついても、そのまま降車することなく前方を良く見ず走行した点に過失が認められるので、過失相殺はまぬがれない。
そこで加害者の前記過失および被害者の過失を比較するとともに、加害車が大型貨物自動車であり、比較的自由が効かず、加害の危険性は被害車に比して極めて大きいこと、実際にも同じような亡昌夫の運転状態であつたにもかかわらず加害車の前車はとにかく接触せずに無事転把して被害車とすれ違つていること、等を斟酌すると損害賠償額の算定にあたり、三〇%の過失相殺をするに止めるのが相当と認められる。
二、損害額の算定については、別紙計算書のとおりである。
原告らは亡昌夫が稼働開始後昇給をするものとしてほぼ五年単位に分けて逸失利益の現価を算出している。しかし、亡昌夫は事故当時一一才の小学生であつて、このようないまだ就労先も全く確定しがたい未就労者の昇給についての逸失利益分は将来の確実な事実としてにわかに認めがたい。
そこで本件の逸失利益の算定にあたつては児童の死亡事故についても最も一般的方法である算出方法によることとし、養育費の控除については原告主張のとおり一か月五〇〇〇円とし、年五分の中間利息を控除して現価を算出するについてはライプニッツ式計算方法によることとする。<後略> (佐々木一彦)
計算書
(1) 葬儀関係費用 (原告昌彦出捐)
30万円(弁論の全趣旨から真正なものと認められる甲1〜29号証,なお本文参照)
(2) 逸失利益現価 4,338,565円
(イ) 推定年収 861,600円(当裁判所に顕著な昭和44年賃金センサス男子全労働者の平均年収)
生活費 収入の5割
稼働開始時 9年後
稼働可能年数 40年間
養育費 月額5,000円
中間利息の控除 年5分ライプニッツ式計算法
(ロ) 計算
(ハ) 相続 (弁論の全趣旨)
原告らは亡昌夫の両親であるので法定の相続分にしたがい各1/2宛相続した
(3) 慰藉料 35,000,000円
弁論の全趣旨および成立に争いのない乙4号証の2により,原告らの主張の事実を認める。
原告らにとつては,唯一の男子であり,将来を期待していた亡昌夫を失つたことを特に斟酌した。(各175万円)
(4) 過失相殺 30% (本文参照)
原告昌彦(30万円+216万9,283円+175万円)×0.7=295万3,497円
原告みどり (216万9,282円+175万円)×0.7=274万3,497円
(5) 損害の填補 5,000,000円
(争いのない)
各250万円づつ相続分にしたがい受領した(弁論の全趣旨)
原告 昌彦 295万3,497円−250万円=45万3,497円
原告 みどり 274万3,497円−250万円=24万3,497円
(6) 弁護士費用 (原告昌彦) 70,000円委任したことは記録上明らかであり損害の填補を控除した認容総額のほぼ一割に相当する7万円が相当である。
(7) 認容額
原告 昌彦 52万3,497円
原告 みどり 24万3,497円