大判例

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東京地方裁判所 昭和46年(ワ)1429号 判決

原告 岩崎さく

被告 国 ほか五名

代理人 大道友彦 ほか二名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実<省略>

理由

原告が本件土地を所有し、同地上に本件建物(一)(二)が存在していること、および、同建物はもと本郷孝子が本件土地を原告から賃借してこれを所有していたところ、同女が昭和四二年四月六日死亡し相続人がないため相続財産となり、昭和四四年七月一三日東京家庭裁判所の特別縁故者に対する相続財産分与の審判が確定したが、同審判において本件建物(一)(二)の所有権および本件土地の賃借権は分与されずに残り、その結果本件建物(一)(二)の所有権が国庫に帰属したことは当事者間に争いがない。

みぎ事実によると、本件建物(一)(二)の所有権の移転と共に、本件土地の賃借権も先ず法人たる相続財産に承継され、次いで国庫に帰属したことが明らかである。みぎ賃借権の国庫帰属は、相続ではなく民法九五九条の特別規定によるものであるが、もとより通常の譲渡と同視すべきでなく、財産権の従前の主体の死亡に因り新たな帰属主体を定める点において相続に準じて考えるべきものであるから、その場合には賃貸人たる原告の承諾を要しないで、被告国は原告に対して賃借権の国庫帰属を主張することができると解すべきである。もつとも、一般に賃貸人の承諾なくしても背信性がない等の理由により賃借権の譲渡が賃貸人に対して主張できるような場合、当該譲渡行為のあつたことを全く知らない賃貸人に対して、無断譲渡と同時に賃借権移転の効果が生ずると解することは、債権関係が人的関係である本質に徴し賃貸人の権利保護上問題があり、従つてそのような賃借権譲渡の場合は、譲渡当事者間では直ちに譲渡契約が有効に成立するとしても、賃貸人に対する関係では譲渡の通知をするなどの方法により賃貸人において賃借権譲渡の事実を覚知したときに、譲渡の効力が生ずる(もしくは、少くともそのときに旧賃借人が賃借人としての責を免れるに至る)と解すべきであろう。しかしながら、本件のような民法九五九条の規定による国庫帰属の場合は、法律の規定による当然帰属であるから、相続の場合と同様に、何らの手続も要しないで、帰属原因が生ずると同時に、賃貸人に対する関係においても、賃借権移転の効果が生ずるものと解すべきである。

つぎに(証拠省略)によると、原告が昭和四五年六月一五日相続財産管理人たりし本郷千代子に対し、原告主張の如き滞納賃料の支払の催告ならびに期限付の契約解除の意思表示をなした事実が認められる。しかしながら、法人たる相続財産は、最終の捜索公告期間後三か月内に特別縁故者への分与請求があればこれが許否の審判をなされ、同審判が確定して残余財産の生じたとき、もしくはその時点でなお財産管理人の清算が未了である場合は、その清算が結了して残余財産が確定したときに、その存立の目的を達して消滅し、法人消滅と同時に財産管理人の代表権も消滅するのである。本件では、分与審判確定時になお清算が未了であつた旨の主張立証は何ら存しないから、前記昭和四四年七月一三日分与審判確定と同時に残余財産が国庫に帰属して相続財産法人が消滅し、それと同時に相続財産管理人本郷千代子の代表権もまた消滅したものである。従つて前記原告のなした催告ならびに解除の意思表示は代表権の無い者に対してなされたものであるからその効力を生ずるに由なきものである。成程、相続財産管理人はこのように代表権が消滅した後も、残余財産を現実に国庫に引渡すまでの管理義務、その引渡義務、管理の計算義務などをなすべき任務が残つておりそれらを全部すませた時に任務が終了するのであるが、みぎ任務はすべて法人の代表者としての地位に基くものではなく、したがつてみぎ事後的な管理も法人存続中の管理とはその性質を異にし善良な管理者の注意義務をもつて保存行為をなし得るだけであつて処分行為をなす権限は有しないから、相続財産管理人が法人消滅後もかかる任務を有しているとはいえ、法人消滅後にその者に対してなされた前記催告や解除の意思表示は、これを受領する権限のない者に対してなされたものと謂わなければならない。

そして被告国を除くその余の被告らが本件建物(一)(二)の各占有部分を同建物の所有者から借受けていることについては、原告の明らかに争わないところであるから、被告らはすべて前記本件土地賃借権を援用することができるものである。

すると、原告の被告らに対する請求はすべて失当であるからこれを棄却し、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 安井章)

物件目録(省略)

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