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東京地方裁判所 昭和46年(ワ)2216号 判決 1972年6月27日

原告 松原邦男

右訴訟代理人弁護士 島田正純

同 島田叔昌

被告 菅野商事株式会社

右代表者代表取締役 菅野勝光

被告 伊藤光雄

被告伊藤訴訟代理人弁護士 大塚一夫

主文

一  原告の主位的請求を棄却する。

二  被告らは各自原告に対し、金七、二五〇、九七六円および内金七二五万円に対する昭和四三年一二月一六日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は全部被告らの負担とする。

五  この判決は原告の勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(一)  原告に対し、被告らは連帯して、金七、四四五、八四二円およびこれに対する昭和四三年八月一八日から支払済みに至るまで元金一〇〇円につき一日金二銭九厘の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言を求める。

二  請求の趣旨に対する答弁

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、被告菅野商事株式会社(以下「被告会社」という。)に対し、昭和四二年四月一七日金九五〇万円を左の条件で貸与した。

(1) 弁済方法 昭和四二年五月末日より、毎月末日限り金二五万円宛支払うこと。

(2) 利息 元金一〇〇円につき一日金二銭九厘の割合とする。

(3) 割賦金の支払と同時に、それまでの利息金を支払うこと。

(4) 右割賦金・利息金の支払を一回でも怠った時は、期限の利益を失う。

2  仮に右契約が金銭消費貸借でないとしても、原告は、前項と同じ条件で被告会社に金九五〇万円を寄託した。

3  被告伊藤光雄は原告に対し、被告会社の右債務につき連帯保証をした。

4  よって原告は被告らが連帯して貸金または消費寄託金残金七、四四五、八四二円およびこれに対する昭和四三年八月一八日より完済に至るまで元金一〇〇円につき一日金二銭九厘の割合による遅延損害金の支払をなすことを求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1項の事実中原告主張の日時に被告会社が原告から金九五〇万円の交付を受けたことは認めるが、その余の事実は否認する。被告会社は原告から、運用利益金を支払う約で金九五〇万円の消費寄託を受けたものである。

2  同2項は寄託を受けた金額は認めるが、その余は否認する。

3  同3項は否認する。

被告伊藤光雄は単純な保証をなしたにすぎない。

4  同4項は争う。

三  抗弁

被告会社は次のとおり、昭和四二年五月三一日から同四五年七月三一日までの間に合計金三、九七六、〇〇〇円を返済した(左記のうち利息については、仮に日歩金二銭九厘の利率の定めがあったと認定される場合を前提としてその額を計算した。)。≪以下事実省略≫

理由

一  (主位的請求について)

原告が被告会社に対し昭和四二年四月一七日金九五〇万円を交付したことは当事者間に争いがない。原告は、右金員は被告会社に対する貸金であると主張し、原告本人主張に添うような供述をしているが、そのまま信用できない。また、≪証拠省略≫によれば、原告は、被告会社から後記二、(三)認定のとおり毎月二五万円宛の元金の分割返済を受けた際、順次残存元金から金二五万円を減額した金額を額面とする被告会社振出名義の約束手形(最初の手形の額面は金九二五万円、最終の手形の額面は金七五〇万円)の交付を受けたことが認められるが、右のような手形の授受があったからといって、当初の金九五〇万円の交付が貸金であって、右各手形が借用証に代わるものと認めなければならないものではない。他に原告の前記主張を肯認するに足る証拠はない。

かえって、≪証拠省略≫によれば、原告は訴外川崎農業協同組合の業務部長として同組合の貸付業務を担当し、金員貸付の実務についてかなり精通している者であること、原告は、被告会社に交付した前記金九五〇万円を訴外松原ミサエの名で同組合から借受けて調達し、該貸借に関し公正証書をもって詳細な契約条項を定めているのに反し、被告会社に交付した金九五〇万円については被告会社から単に預証を受取っただけで、利息、返済条件等を記載した借用証書を徴していないことが認められる。さらに、≪証拠省略≫によれば、被告会社は原告から交付を受けた金九五〇万円をガソリンスタンドの経営資金として使用し、利便を享受したことが認められるところ、後記二、(三)認定のとおり原告が被告会社から最高年四割七分から一割七分、一割六分、一割五分等その都度割合の異る利息を数回に亘って受領しており、右利息の割合はいずれも原告の川崎農業協同組合からの借受利率日歩二銭九厘(年一割五厘)を上廻っていることからすると、原告は金を貸して一定割合の利息を収取するというよりも、被告会社による前記金九五〇万円運用の成果に期待し、被告会社から妙味ある運用利潤の配分を受ける目的で該金員を交付したことが窺われるのである。叙上の諸点をあわせ考えると、前記金九五〇万円は消費寄託の趣旨で交付されたものと認めるのが相当である。

従って、前記金九五〇万円が貸金であることを前提とする原告の主位的請求は理由がない。

二  (予備的請求について)

(一)  原告と被告会社間に金九五〇万円の消費寄託が成立したことは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によれば、寄託金の返還方法は昭和四二年五月末日より毎月末日限り金二五万円宛支払うこと、右割賦金を一回でも怠ったときは分割返済の期限の利益を失なうことと定められたことが認められる。しかし、日歩金二銭九厘の割合による利息の約定があったとの点については、当裁判所の措信しない≪証拠省略≫を除き、他にこれを肯認しうる証拠はない(被告らは、抗弁中で返済金の充当を主張するに当り、利息を日歩金二銭九厘の割合で計算しているが、右は利息が日歩金二銭九厘の割合と約定されたと認定される場合を前提とする主張であるから、日歩金二銭九厘の割合の利息の約定があったとの原告主張事実を被告らが自白したものと理解するのは適当でない。)。

(二)  ≪証拠省略≫によれば、被告伊藤は原告に対し被告会社が原告に対し負担する金九五〇万円の返還債務につき保証をなしたことが認められ(る。)≪証拠判断省略≫

(三)  (抗弁について)

≪証拠省略≫を総合すれば、次の事実を認めることができる。

被告会社は原告に対し、左記のとおり合計三九七万六、〇〇〇円の元利金を返済した。

(返済年月日) (金額) (元利金の別)

(1)  四二・五・三一 五五万円 四二・四・一七~五・三一 の利息(年四割七分)

二五万円 元金

(2)  四二・六・三〇 一三万五千円 四二・六・一~三〇の利息(年一割七分)

二五万円 元金

(3)  四二・七・三一 一三万一千円 四二・七・一~三一の利息(年一割七分)

二五万円 元金

(4)  四二・八・三一 一二万円 四二・八・一~三一の利息(年一割六分)

二五万円 元金

(5)  四二・九・三〇 一二万円 四二・九・一~三〇の利息(年一割六分)

二五万円 元金

(6)  四二・一〇・三一 一二万円 四二・一〇・一~三一の利息(年一割七分)

二五万円 元金

(7)  四二・一一・三〇 一〇万円 四二・一一・一~三〇の利息(年一割七分)

二五万円 元金

(8)  四二・一二・三一 一〇万円 四二・一二・一~三一の利息(年一割五分)

二五万円 元金

(9)  四三・三・三一 五万円 利息

二五万円 元金

(10)  四五・六・三〇 一五万円 損害金

(11)  四五・七・三一 一五万円 損害金

(以上のうち(1)の返済年月日および四〇万円の限度における返済金額、(2)、(3)、(4)の各返済年月日、各返済金額、(5)、(6)の各返済年月日、各二七万円の限度における返済金額、(8)の返済年月日、二五万円の限度における返済金額、(9)の返済年月日、三二万円の限度における返済金額、(10)、(11)の事実(但し、利息か損害金かの点を除く。)は当事者間に争いがない。)。

このように認められ(る。)≪証拠判断省略≫また、≪証拠省略≫中被告会社が前記利息に相当する金員を原告の給料として支払った旨記載した部分は、≪証拠省略≫によれば、被告会社が原告の課税対策上の要望を容れて記帳処理したにすぎないことが窺われるから、当該金員を利息と認めることの妨げとなるものではない。

また、本件消費寄託における期限の利益喪失約款によれば、被告らが昭和四三年四月末日に元金二五万円を支払った事実が認められない以上、同日限り分割返済の期限の利益を失い、残額を一時に支払うべきこととなるから、(10)(11)の支払金は利息でなく、損害金と認めるべきである。他に右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定事実によれば、被告会社は原告に対し元金として二二五万円を返済したことが明らかである。利息、損害金のうち(9)ないし(11)は利率の約定が明らかでないから民事法定利率により充当関係を考えるほかなく、これによれば、昭和四三年一月一日以降同年三月三一日までの間は元金七五〇万円、同年四月一日以降は元金七二五万円として計算すると、同年一二月一四日までの利息、損害金および同月一五日分の損害金中一七円(銭以下切捨)に充当されることとなる。

三  (結論)

以上によれば、原告の本訴請求は被告らに対し連帯して、

(1)  消費寄託金残金七二五万円、

(2)  これに対する昭和四三年一二月一五日分の残余の損害金九七六円(一日分金九九三円から支払済分金一七円を差引いた残額)、

(3)  前記七二五万円に対する昭和四三年一二月一六日以降完済に至るまで年五分の割合の損害金

の支払を求める限度において正当として認容し、その余は失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九二条第九三条を仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 蕪山厳)

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