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東京地方裁判所 昭和46年(ワ)2562号 判決 1971年7月16日

原告

金子ひろ

被告

住友海上火災保険株式会社

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、請求の趣旨

被告は原告に対し金五六万円およびこれに対する昭和四六年四月八日より支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

仮執行宣言申立

第二、請求趣旨に対する答弁

主文同旨

第三、原告の主張

訴外金子義春は、昭和四一年一〇月二〇日午前八時五〇分頃群馬県利根郡白沢村大字生枝三九四四番地先路上で自己所有の小型貨物自動車(郡四の九六三〇号)を運転中運転を誤り、車を崖下に転落させ、同乗していた原告の夫金子亀三に胸部内臓破裂の傷害を負わせた上即日これを死亡させた。原告は、亀三の治療費九二四五円、葬儀費五五万一七一〇円を支出した。

義春は、昭和四一年七月一四日、被告会社と保険期間昭和四一年七月一四日から翌年七月一四日まで保険金額一五〇万円とする自賠法五条による責任保険契約を締結した。

よつて、原告は、被告会社に対し自賠法一六条一項により前記原告の支払金内金五六万円と訴状送達の翌日である昭和四六年四月八日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

被告会社の時効の抗弁は、後記事実関係に照らし、権利の濫用であり、許されない。

なお、かりに右請求が理由がないとすれば、原告は昭和四一年一二月二四日被告会社に対し右保険金の支払を請求したところ、被告会社は昭和四二年一月一三日頃原告に対し「親子間の交通事故に対しては損害賠償責任が発生しないから、右保険金は支払えない。」旨通知し、原告の保険金支払請求書の受付を拒絶したので、原告はそのように信じ、本訴に至るまで被告会社に対する保険金支払請求を差控えた。そのため、原告の保険金請求権は自賠法一九条により昭和四三年一〇月二〇日時効により消滅した。右原告の請求権消滅は、前記被告会社に対する通知に起因するものであるが、被告会社の右通知内容は正しくなく、このような通知をすることは過失というべきである。よつて、被告会社は原告に対し原告の右請求権消滅による損害を賠償する義務がある。

第四、被告の主張

金子義春と被告会社との間に原告主張の内容の保険契約が締結されたことは認めるが、その余の主張事実は知らない。

かりに、原告が被告会社に対しその主張の保険金請求権を有していたとしても、右請求権は自賠法一九条により事故後二年を経過した昭和四三年一〇月二一日時効により消滅した。

第五、証拠〔略〕

理由

金子義春と被告会社との間に原告主張の保険契約が締結されたことは当事者間に争いがない。

原告の主張によれば、保険事故は昭和四一年一〇月二〇日生じたというのであるから、自賠法一九条により原告の被告会社に対する原告主張の保険金請求権は昭和四三年一〇月二〇日の経過により時効消滅したことになる。

原告は、被告の時効の抗弁は権利の濫用であつて許されないというが、自賠法三条にいう「他人」のうちに同居の親族が含まれると解すべきかどうかは争いのあるところであつて、被告会社はこれを消極に解し、かつ、被害者亀三は義春の同居の親族であるとの判断のもとに〔証拠略〕原告の保険金請求に対し原告主張のような通知をなしたからといつてこれを過失というのはあたらない。なお請求権を有するか否かは原告が自主的に判断すべきところであるから、時効期間を経過するまで原告が本訴提起を怠つたことに対し被告会社が時効の抗弁を主張することは、時効制度の趣旨に照らし必ずしも権利の濫用ということはできない。

原告は、被告会社の不法行為を云々するが、前記の理由により、原告主張の事実をもつて違法に原告の権利を侵害したものということはできない。

よつて、原告の請求はすべて理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 坂井芳雄 新城雅夫 佐々木一彦)

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