東京地方裁判所 昭和46年(ワ)4100号 判決
原告
山本吉兵衛
ほか一名
被告
大崎運送株式会社
ほか一名
第二 主文
一 被告らは連帯して原告らに対し各金四六万二五〇〇円宛およびこれらに対する昭和四六年五月二十二日以降支払い済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。
二 原告らの被告らに対するその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は原告らと、被告らとの、各自の負担とする。
四 この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、かりに執行することができる。
第三 事実
一 請求の趣旨
被告らは各自原告らに対し各金三八三万五七九八円宛およびこれに対する昭和四六年五月二十二日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。
訴訟費用は被告らの負担とする。
仮執行の宣言を求める。
二 請求の趣旨に対する答弁
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
三 請求の原因
(一) (事故の発生)
訴外山本洋子(昭和二五年五月二四日生、原告らの二女)は、次の交通事故によつて死亡した。
1 発生時 昭和四五年一二月五日午前六時四五分頃
2 発生地 東京都大田区大森東四丁目一九番地先路上
3 被告車 大型貨物自動車(いすゞ六・五トン。品川一一か一〇七号)
運転者 被告 石岡
4 原告自転車 足踏式二輪自転車
運転者 右訴外人
被害者 右訴外人
5 態様 被告車と原告自転車とが左側を同一方向に進行中、右訴外人が被告車に轢過された。
6 結果 骨盤内臓器損傷を受けて同日午前一〇時頃、京浜病院にて死亡。
(二) (責任原因)
被告らは、それぞれ次の理由により、本件事故により生じた損害を賠償する責任がある。
(1) 被告会社は、被告車を業務用に使用し自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条による責任。
(2) 被告石岡は、事故発生につき、次のような過失があつたから、不法行為者として民法七〇九条の責任。
即ち、被告石岡は被告車を運転して大森東五丁目方面から産業道路方面に向けて走行させていた。その道路左側前方を訴外洋子は同方向に原告自転車を操従進行中であつた。従つて被告石岡としては前方を十分注視し、安全を確認してから追越しをなすべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠り、漫然と原告自転車を追越そうとした過失により、被告車の左前側面を走行中の原告自転車ないしは訴外洋子に接触させ、原告自転車の安定を失わせて訴外洋子を路上に転倒させ、被告車の左前輪で同女の下腹部を轢過して本件事故を発生せしめた。
(三) (損害)
1 葬儀費等 金二六万九五二九円
原告らは、訴外洋子の事故死に伴い、右のとおりの出捐を余儀なくされ折半負担した。
2 訴外洋子に生じた損害
イ 逸失利益 金八四〇万二〇六六円
訴外洋子が死亡によつて喪失した得べかりし利益は、次のとおり算定される。
(死亡時) 二〇歳
(推定余命) 五四年(平均余命表による)
(稼働可能年数) 四三年
(収益) 月収金四万六六六六円
(控除すべき生活費) 月額金一万五七〇〇円
(毎年の純利益) 金三七万一五九二円
(年五分の中間利息控除) ホフマン複式(年別)計算による。
ロ 慰藉料 金一〇〇万円
右訴外人の死亡による精神的損害を慰藉すべき額は、次のような諸事情に鑑み金一〇〇万円が相当である。
ハ 相続
原告らは右訴外人の相続人の全部である。よつて、原告らは、いずれも親として、それぞれ相続分に応じ右訴外人の賠償請求権二分の一宛(金四七〇万一〇三三円宛)を相続した。
3 原告らの慰藉料 計金三〇〇万円
原告らの本件事故による精神的損害を慰藉すべき額は、前記の諸事情に鑑み各金一五〇万円宛が相当である。
4 損害の填補 計金五〇〇万円
原告らは訴外自賠責保険から既に金五〇〇万円の支払いを受け、これを二分の一宛前記損害に充当した。
(四) (結論)
よつて、被告らに対し、原告らは各金三八三万五七九八円宛およびこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四六年五月二二日以降支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
なお被告ら主張の弁済は認め、(但し現金三万円は香典である)、免責・過失相殺の抗弁は否認する。
四 被告らの答弁
(一) 請求原因第(一)項は認める。
(二) 同第(二)項中、被告会社が被告車の運行供用者であつたことは認めるけれども、その余は否認。
(三) 同第(三)項は不知。但し4(損害の填補)は認める。
(四) 同第(四)項は争う。
(五) (免責の抗弁)
本件事故発生地は車道の幅員が約八米、センターラインがひかれており、接触地点は信号機の設置されている十字型交差点の横断歩道の手前側端より約一〇米の処であつた。ところで、被告車も原告自転車も共に産業道路に向けて走行中であり、原告自転車は左側端を、被告車(車幅は約二・五米)はセンターライン寄りを各々走行していた。そうすると被告車の左側端と歩道縁石との間は約一・三五米あり、この間を原告自転車が走行していた。接触地点の約二〇米手前で被告車は原告自転車を追抜き、交差点の対面信号機が赤信号であつたため、減速して時速五ないし一〇粁にしていたところ、原告自転車が追いつき、歩道縁石と被告車との間に進入走行して来て、ふらつき、左ペタルを歩道縁石にぶつつけ、操縦の自由を失い自転車もろとも転倒し、左後輪の前で、被告車の下に入つて訴外洋子が轢過された。従つて飛び込み事故であつて、被告車側としては回避不可能であつたから、訴外洋子の過失により本件事故が発生したものであつて、被告車側には過失がないばかりではなく、運行に注意を怠つておらず、被告車には構造上の欠陥又は機能上の障害はなかつたから、自賠法三条但書により免責されるべきである。
(六) (過失相殺)
仮に被告車側に過失があつたとしても訴外洋子の過失が大きく寄与しているので、その過失割合は、原告自転車側が八割、被告車側が二割であつた。従つて後記弁済額により過払になるから本訴は棄却されるべきである。
(七) (弁済) 合計金五一四万一〇八〇円
1 治療費 金一一万一〇八〇円
自賠責保険により填補されている。
2 死亡による分 金五〇〇万円
自賠責保険より填補されている。
3 現金払い分 金三万円
第四 理由
一 (事故の発生)
請求原因第(一)項の事実は当事者間に争いがない。
二 (責任原因、免責、過失相殺)
(一) 被告会社が被告車の運行供用者であることは当事者間に争いがない。
(二) 被告石岡の過失につき検討する。
〔証拠略〕を総合すれば、次の事実を認めることができる。
即ち、本件事故発生地は、いわゆる「東四丁目バス通り」で、車道幅員約八米、センターラインがひいてあり、両側にほぼ一・五米幅の歩道のある舗装された道路であつた。なお車道の左側端より歩道の縁石は約一四糎高くなつていた。事故発生時は朝方であつたため、交通量は極く閑散であつた。訴外洋子は自動車の運転免許を得るために蒲田にある自動車教習所に通つており、当日も右教習所へ行くために原告自転車に乗つて自宅から出かけ、事故発生地たる東四丁目バス通りを産業道路(羽田街道)と交わる「東四丁目交差点」に向け、左側端を直進走行していた。被告石岡は、訴外三上を助手席に同乗せしめ、被告車(即ち、いすゞの六トン半、キヤブオーバー、平ボデー、後輪のみ二本タイヤ、約六トンを積載中、車幅約二・五米、車長約八米弱(但し、両側面に防護柵((道路運送車両の保安基準一八条二項))なし)を運転して、原告自転車と同じ方向に東四丁目バス通りを時速約四〇粁でセンクーライン寄りを走行して、一旦、原告自転車を追抜き減速した。これがため、原告自転車は被告車の左側を追抜き進行した。しかし再び加速した被告車は原告自転車に追いついたけれども、対面の東四丁目交差点の信号が赤なのでエンヂンブレーキにして右折の合図を出しながら減速走行した。
このように被告車が原告自転車の右側を走行したことにより、訴外洋子は原告自転車の安定を失い、ハンドル操作不確実となり、ふらつき、路上がいわゆる「カマボコ型」になつていたことも手伝つて、原告自転車もろとも転倒し(但し、歩道の縁石と原告自転車のペタルとの接触が先なのか否かは、さだかでない。)、大きな悲鳴をあげた。これを聞き、かつ、バツクミラーで訴外洋子が倒れてくる様子を見た被告石岡は、直ちに急ブレーキをかけたが間にあわず、被告車の左後輪で訴外洋子を着衣と共にタイヤと路面との間に咥え込んで引きずつて本件事故となつた。この経過の骨子は別紙見取図のとおりである。
右認定事実によれば、被告石岡としては、自転車の側を走行するに際しては、自転車の不安定性を十分考慮に入れて追抜き等を行うと共に、対向車が全然なかつたのであるから、被告車の両側面に防護柵もなかつた事情もある以上、もつと原告自転車との距離をとつて安全運転すべき注意義務があつたにもかかわらず、これを怠つた過失があつたものというべきである。他面、訴外洋子としても、被告車が右側を走行したのであるから、カマボコ型の路面を考慮に入れ、確実なハンドル操作を行なうべきであつたにもかかわらず、これを怠り、漫然と原告自転車を運転走行せしめた過失があると推認できる。従つて、本件事故は、原告自転車側と被告車側との双方の過失の競合によつて発生したものというべく、賠償額算出にあたり過失相殺として斟酌する割合としては、原告自転車側が二五%、被告車側が七五%と解するのを相当とする。
なお警察における搜査上においては、「右両者の過失割合は、原告自転車側が八〇%、被告車側が二〇%である」と判断していることが、〔証拠略〕によつて認められるけれども、これを裏付けるに足りる十分な証拠はない(即ち、捜査によつて得られた証拠のうち、不起訴処分になつている関係から、甲第一一号証の(一)(二)((実況見分調書))のみしか取寄に応じてもらえない制約上、致しかたのないところであり、右実況見分調書によつても、八対二の責任割合を認める証拠としては不十分である)。
従つて被告側主張の免責の抗弁は理由がなく、過失相殺は以上の意味において理由があるので、被告側は後記認定のとおり七五%の損害を賠償する責任があるというべきである。
三 (損害)
(一) 葬儀費等 金二五万円
〔証拠略〕によれば、訴外洋子の本件事故死に伴い、葬式およびこれに伴う諸行事の費用として原告らは金二五万円以上の出損を余儀なくされたことが認められる。しかし、その社会的地位その他諸般の事情を参酌して、被告側に負担せしめる葬儀費等としては金二五万円をもつて相当と認める。
(二) 逸失利益 金四六五万円
〔証拠略〕によれば、訴外洋子は、原告両名の嫡出子として生れ、新制高校を卒業し、父たる原告吉兵衛の主宰する山本舗道株式会社の計理事務に従事していたこと、卒業当初は一カ月金一万円ないしは金一万五〇〇〇円程度の給与であつたけれど、嫁入り仕度もあるという配慮から値上げし、事故当時は一カ月金四万六六六六円の平均給与であつたこと、訴外洋子は健康な女子であつたことなどが認められる。
右認定事実によれば、右の月収は嫁入り仕度のためという特殊の配慮が加味されており、そのまま逸失利益算定の基礎とは認め難い。しかし、新制高校卒業の健康な女子として勤務していたことも事実であるから、賃金センサスによる昭和四五年度における新制高校卒業の女子の平均収入(即ち、月収金三万六九〇〇円、年間賞与金一〇万〇一〇〇円)を逸失利益の算定の基礎にするのを相当と解する。そうすると訴外洋子の逸失利益は次のとおり算定され、不確定要素もあるので金四六五万円と認めるのを相当とする。
(死亡時) 二〇歳
(稼働可能年数) 四〇年
(収益) 年収金五四万二九〇〇円
(控除すべき生活費) 右収入の半額。
(年五分の中間利息控除) ライプニツツ方式による。
542,900円×1/2×17,159=465万7810円
〔証拠略〕によれば、原告両名(父母)のみが訴外洋子の相続人の全部であることが認められる。従つて右逸失利益を二分の一宛を相続により取得したものというべきである。
(三) 慰藉料 計金三〇〇万円
原告らの本件事故による訴外洋子の死亡に伴う精神的損害を慰藉すべき額は、前認定の諸事実によれば、各金一五〇万円宛を相当と認める。
なお、訴外洋子の慰藉料金一〇〇万円を請求しているけれども、両親たる原告らに右計金三〇〇万円を認容すれば、足りるものと解するのを相当とするので、右金一〇〇万円の慰藉料は認めないこととする。
(四) 損害の填補 計金五〇〇万円
原告らが自賠責保険から金五〇〇万円の支払を受けたことは当事者間に争いがない。そして二分の一宛原告らが前記損害に充当したものであることが弁論の全趣旨によつて認められる。
(五) 差引計算
以上の損害は合計金七九〇万円となるところ、その過失相殺した残りの七五%相当額は金五九二万五〇〇〇円となり、填補金五〇〇万円を控除すると残金は金九二万五〇〇〇円となるため、原告ら二人につき各金四六万二五〇〇円宛となる。
なお、被告側で死亡までの治療費と現金三万円とを支弁していることは当事者間に争いがない。この治療費は金一一万一〇〇〇円であり、既に自賠責保険から被告側で回収ずみであることが〔証拠略〕によつて認められるので、諸般の事情を斟酎のうえ、過失相殺の対象とすべきでないと解するのを相当とする。次に現金三万円は〔証拠略〕によれば、水引の封筒に入れられた香典であつたことが認められる。従つて、額もそれ程大きいものでもないので、過失相殺の対象とすべきでないと解するのを相当とする。
四 (結論)
よつて被告らは連帯して原告らに対し各金四六万二五〇〇円宛およびこれに対する訴状送達の翌日たる昭和四六年五月二二日(この点は当裁判所に顕著である)以降右支払済みに至るまで年五分の割合による民法所定の遅延損害金の支払をなすべき義務がある。この履行を求める限度で認容し、その余を失当として棄却し、民事訴訟法九二条、九三条、一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 龍前三郎)
見取図
<省略>