東京地方裁判所 昭和46年(ワ)5454号 判決
原告
赤井則夫
被告
有限会社四谷石油店
第二 主文
一 被告は原告に対し金一九一万三五九九円及びこれにつき昭和四六年七月六日以降右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 その余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は原告と被告との各自の負担とする。
四 右第一項に限り仮に執行することができる。
第三 事実
一 請求の趣旨
被告は原告に対し金四六九万九五〇〇円及びこれにつき訴状送達の翌日以降右完済に至るまで年五分の割合による金員を附加して支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
仮執行の宣言を求める。
二 請求の趣旨に対する被告の答弁
本訴請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
三 請求の原因
(一) (事故の発生)
原告は次の交通事故で負傷した。
1 発生時 昭和四五年四月一六日午後三時四〇分頃
2 発生地 新宿区三光町五二先の靖国通り路上
3 被告車 自家用小型貨物自動車(練馬四る一七四一)
運転者 訴外末永安則(当時二十三才)
4 伏見車 普通乗用車(品川五ろ一一七)
運転者 訴外伏見重夫(当時三七才)
5 被害者 原告(伏見車に同乗中)
6 態様 直進中の伏見車に、脇から後退して出て来た被告車が衝突。
7 傷害の部位程度
(病名)
頸椎挫傷、頭部外傷。
(治療)
別表のとおり。
8 後遺症
「外傷性癩癇」としての脳波異常、痙攣発作が認められるとして、東京大学附属病院脳神経外科において、昭和四七年三月一〇日これは自賠法施行令別表等級第九級第一四号に該当する旨診断された。
(二) (責任原因)
被告は被告車を保有し、自己のために運行の用に供していた者であるから自賠法三条により本件事故によつて蒙つた原告の損害を賠償する責任がある。
(三) (損害)
1 治療費 金三四万三六五〇円
(内訳)
マツサージ代 金二万六〇〇〇円
石崎病院分 金一六万一七〇〇円
小原病院 金五四〇〇円
斉藤外科胃腸科 金一〇万〇五七〇円
淡路病院 金四三〇〇円
東大附属病院 金一万一八六〇円
中野総合病院 金三万三八二〇円
2 通院交通費 金一三万五五二〇円
3 入院雑費 金一万八七五〇円
4 休業損害 金一五〇万八〇〇〇円
原告は本件事故による前記治療のため次のとおりの得べかりし利益を喪失した。
(勤務先) 訴外有限会社三立管工設備
(休業期間) 約二三カ月(45 4 16~47 3 10)
(平均月収) 金六万五五七九円
即ち事故前年の昭和四四年度の収入が金七八万六九五五円であつた(甲一四)。
5 逸失利益 金一一四万一〇〇〇円
前記後遺症により将来の得べかりし利益の喪失を次のとおり算出される。
(年令) 昭和一五年四月二八日生
(収入) 年間金七八万六九五五円
(労働能力喪失率) 三五%
(労働能力低下存続期間) 六年間
(年五分の中間利息の控除) ライプニツツ方式
6 将来の治療費 金三三万六〇〇〇円
即ち、二年間の投薬治療の必要があり(甲一二)、一カ月金一万四〇〇〇円を必要と見込まれている。
7 慰藉料 金二〇一万円
長期にわたる断続的入通院分として金七〇万円、後遺症分として金一三一万円を請求する。
8 損害の填補 計金七九万三三七〇円
以上の損害の填補として次のとおりの支払を受けたので、控除する。
(内訳)
治療費 金三二万〇〇九〇円
通院交通費 金一一万三二八〇円
休業補償・慰藉料 金三六万円
(四) (結論)
よつて被告に対し差引残金四六九万九五〇〇円及びこれにつき訴状送達の翌日以降右完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
四 被告の答弁
(一) 請求原因第(一)項中、7は不知、8は否認、その余は認める。即ち癩癇の病状ないし後遺症を主張するけれども東大附属病院のみが診断しているにすぎない。他の病院は否定的である。仮に癩癇であるにしても、本件事故と相当因果関係はない。
(二) 同第(二)項は認める。但し現在もなお賠償責任があるとの点は争う。
(三) 同第(三)項は不知。但し、8(損害の填補)は認める。
(四) 同第(四)項は争う。
五 被告の抗弁
(一) (過失相殺)
訴外末永は被告車を運転して道路脇の花園神社前広場から、本件道路に出るため、ゆつくり(せいぜい時速一〇粁程度)で後退して出て来たところ、その停止する寸前において、折柄本件道路を直進して来た伏見車左前部に衝突して本件事故が発生した。
ところで原告は伏見車の助手席に同乗していたが、不注意にも窓から頭の半分を外に出した不安定な姿勢をなし、かつ、外に気をとられていたため、被告車との衝突に気附かず、ために、衝突の程度に比し、相当の負傷を蒙るに至つたものであつて、もしも通常どおり、座席に腰掛け前方に注意していたならば、全く負傷がなかつた筈である。
従つて、本件損害は、原告の不安定な乗車姿勢によること大であるから、損害額算定にあたり、過失相殺されるべきである。
(二) (弁済) 金一七三万九六二二円
被告は既に次のとおり弁済した。
1 治療費 金六四万六二五二円
即ち昭和四五年四月一六日以降同年九月三〇日までの分。
(1) 中野総合病院(45 4 16~45 5 6) 金二万九九四〇円
(2) 国立埼玉病院(45 5 27~45 6 2) 金二万四〇五二円
(3) 木村病院(45 6 3~45 9 30) 金五九万二二六〇円
2 治療費等 金六六万〇九八〇円
即ち被告が原告に対し昭和四五年四月二二日以降同年一一月六日までの間に直接交付した治療費、交通費、補償費、貸金名下の支払合計金である。
3 治療費 金一〇万〇五七〇円
即ち昭和四六年一月一八日以降同年一一月五日までの治療費として昭和四七年二月二三日支払つた分である。
4 再診料等 金三万一八二〇円
即ち昭和四七年三月八日支払つた再診療その他の費用である。
5 内入弁済 金三〇万円
即ち損害の内金として昭和四七年四月二〇日支払つた分である。
なお右2、3、4の合計は、原告が損害の填補額と主張する金七九万三三七〇円に該当する。
六 抗弁に対する原告の答弁
(一) 過失相殺は否認。
(二) 弁済の抗弁はすべて認める。但し右、金六四万六二五二円は本訴請求で問題にしていない治療費である。
第四 理由
一 (事故の発生)
請求原因第(一)項中、7(傷害の部位程度)、8(後遺症)を除き、その余の事実は当事者間に争いがない。
右7(傷害の部位程度)は、頭部外傷、頸椎挫傷により別表「原告の治療経過表」のとおりであることが、同表の「証拠・摘要」欄記載の各証拠(いずれも成立に争いのない)によつて認め得る。
右8(後遺症)は、〔証拠略〕によつて、原告主張のとおりであることが認められる。
次に本件事故と癲癇との間の因果関係につき検討する。〔証拠略〕を総合すれば、次の事実を認め得る。即ち、原告は昭和四二年二月網走刑務所を六年間の服役を終えて出所し、暫くは平穏であつた。昭和四四年五月頃、いわゆるやくざ同志の喧嘩に加わり、真実は負傷していなかつたけれども、相手側と話をつける便宜上、旭川市内の病院に一週間位入院した。そして右喧嘩の話をつけるべく相手側へ自動車で赴いた際、昭和四四年六月頃、旭川市内で追突事故により、むち打症の傷害を受け、旭川市内の病院に約三カ月程入院治療した。その後上京して昭和四五年四月一六日本件事故に遭遇した。当初の頃は、いわゆるむち打症状を呈し、重症ではなく、一進一退であつた。事故後半年位経過したあたりから痙攣発作を起しては附近の病院に運び込まれて、その都度、一応快復して来ていた。ともあれ別表「原告の治療経過表」の治療をした。その間、昭和四七年三月一〇日付で、東京大学医学部附属病院脳神経外科の間中信也医師により「外傷性癇癲」ないしは、より正確には「外傷後癲癇」でありこれは自賠法施行令別表等級の第九級に相当する後遺症である旨診断された。更に同医師は「本件事故が右癲癇の直接原因とするのは医学的に無理であり、誘因となつたものと考えられるが、偶然に本件事故と重なつた可能性も否定できない。その、いずれであるかを決定することは不可能であり、外傷と癲癇との因果関係は二〇%ないし三〇%程度と判断するのが妥当ではないか。一〇〇%の因果関係を認めるのは無理である。」という趣旨の回答を裁判所にして来ている。
右認定事実によれば、本件事故と傷害の部位程度及び後遺症とは因果関係があるものというべく、しかし全面的に肯定し難く、癲癇との因果関係が二〇%ないし三〇%であるにしろ、それが何時の頃からの損害に斟酌すべきか判然と画し難い。従つて後に判示するとおりであるが、当初被告側で既弁済の治療費(弁済の抗弁1金六四万六二五二円)を除いた、その余の損害の七割相当額につき因果関係ありと認めるのを相当とする。
二 (責任原因、過失相殺)
(一) 被告が被告車の運行供用者として責任があることは、当事者間に争いがない。
(二) 被告主張の過失相殺は、これを認めるに足りる十分な証拠はない。
(三) 従つて被告は自賠法三条により、前説示の因果関係からみて、後記認定の損害総額の七割相当額につき賠償責任があると認めるのを相当とする。
三 (損害)
(一) 治療費 金三四万三一五〇円
請求原因第(三)項1(治療費。但し東大附属病院分の内金五〇〇円については立証ない)のとおりであることが〔証拠略〕によつて認め得る。
(二) 通院交通費 金一三万五五二〇円
〔証拠略〕によれば、請求原因第(三)項2のとおりの通院交通費を認め得る。
(三) 入院雑費 金一万七〇〇〇円
前認定のとおり前後実日数八五日の入院をしており、その病状から入院中の諸雑費として一日当り金二〇〇円宛の計金一万七〇〇〇円を認めるのを相当とする。
(四) 休業損害 金一一五万円
〔証拠略〕によれば、原告は、事故当時、親しい友人の主宰する訴外有限会社三立管工設備に人夫頭として勤め、年収金七八万六九五五円(現物給与を含む)であつたことが認められる。他方、〔証拠略〕によれば、右訴外会社が商業登記簿に登記されていないことが認められる。
右認定事実によれば、原告の収入に不確定要素があるけれども、一カ月金五万円宛の収入があつたものと推認し、かつ、前認定の後遺症認定時たる昭和四七年三月一〇日までの約二十三カ月分として金一一五万円の休業損害を認めるのを相当とする。
(五) 逸失利益 金九〇万円
前認定の後遺症に伴い、現在も十分な稼動ができないでいることは、〔証拠略〕によつて認め得るのでこれを前提に、以上の認定事実により、次のとおり算出し、万未満を切捨てた金九〇万円の逸失利益を認めるのを相当とする。
(年収) 金六〇万円
(労働能力低下・その期間) 三五%五年間
(年五分の中間利息の控除) ライプニツツ方式
60万×35/100×4.3294=909174円
(六) 将来の治療費を訴求し、その必要であることも〔証拠略〕によつて認め得るけれども、その数額を推認せしめるに足りる証拠はない。しかも過去の実績から推定することも、その過去が必ずしも、本件事故による治療によるものか否か(例えば乙第四一号証)、疑わしい点もあるので、無理がある。従つて将来の治療費の請求は失当といわざるを得ない。
(七) 慰藉料 金一七五万円
前認定の諸事実によれば入通院中の分として金七〇万円、後遺症分として金一〇五万円の精神的損害として認めるのを相当とする。
(八) 損害の填補 金一〇九万三三七〇円
弁済の抗弁は、そのとおり、当事者間に争いがない。しかし右抗弁の内1(治療費)金六四万六二五二円は本訴請求外であることは、当事者間で明らかに争いのない点であるし、かつ、前説示のとおり、七〇%の因果関係で斟酌する対象でないから、総弁済額金一七三万九六二二円から右金六四万六二五二円を控除した残金一〇九万三三七〇円が本訴において充当されるべき填補額というべきである。
(九) 差引計算 残金一九一万三五九九円
以上(一)から(五)まで及び(七)の損害総額は金四二九万五六七〇円となるところ、因果関係の範囲の七割相当額は三〇〇万六九六九円となり、右填補金一〇九万三三七〇円を控除すると残金一九一万三五九九円となる。
四 (結論)
よつて被告に対し金一九一万三五九九円及びこれにつき訴状送達の翌日たる昭和四七年七月六日(この点は当裁判所に顕著である)以降右完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余を失当として棄却し、民事訴訟法九二条、一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 龍前三郎)
別表 原告の治療経過表
<省略>