大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和46年(ワ)578号 判決

原告 破産者株式会社泰工社破産管財人 川坂二郎

被告 小俣福一郎

右訴訟代理人弁護士 佐藤義行

主文

被告は、原告に対し、金六三万三、九五六円および内金五四万三、六四三円に対する昭和四六年二月二日から、内金九万三一三円に対する同年一二月五日からそれぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

主文第一、二項同旨の判決および仮執行の宣言

二  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」

との判決

第二当事者の主張

(請求原因)

一  株式会社泰工社は、昭和四五年五月九日午前一〇時東京地方裁判所において破産の宣告を受け(以下右会社を「破産会社」という。)、原告は右同日その破産管財人に選任された。

二  破産会社は、昭和四五年三月二〇日、被告に対し、被告より昭和四一年一一月二八日借り受けた金一、〇〇〇万円の弁済として、同栄信用金庫渋谷支店振出にかかる額面金五四万三、六四三円の小切手一通および別紙目録記載の為替手形三通(額面合計金九万三一三円)を交付し、右小切手一通については数日後、右手形三通についてはそれぞれその満期にいずれも被告により現金化され、被告においてこれを受領した。

三  破産会社の右弁済(以下「本件弁済」という。)は、破産会社において、当時債務超過の状態にあり、破産債権者を害することを知りながらなしたものであり、破産法第七二条第一号により否認できるので、原告は、本件訴状により右小切手による金五四万三、六四三円の弁済を、昭和四六年一一月二五日受付の準備書面により右手形による金九万三一三円の弁済を、それぞれ破産財団のため否認する旨の意思表示をなし、本件訴状は同年二月一日被告に、右準備書面は同年一二月二四日被告訴訟代理人にそれぞれ送達されたので、これにより破産会社の被告に対する本件弁済は否認され、破産財団との関係において効力を失った。したがって、被告は、原告に対し破産会社より支払を受けた合計金六三万三、九五六円を返還すべきである。

四  よって、原告は、被告に対し、否認権行使に基き右金六三万三、九五六円および内金五四万三、六四三円に対する訴状送達の日の翌日である昭和四六年二月二日から、内金九万三一三円に対する前記準備書面送達の日の翌日である同年一二月五日からそれぞれ支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(請求原因に対する答弁)

一  請求原因第一、二項の事実は認める。

二  同第三項の事実のうち、破産会社が本件弁済をした当時破産会社が債務超過の状態にあったことは認めるが、その余の事実は否認する。

(抗弁)

被告は、破産会社より本件弁済を受けた当時、これにより破産債権者を害することを知らなかったものである。

すなわち、被告が破産会社より本件弁済を受けた当時、被告は破産会社に対し、金四、八〇〇万円の貸金債権および金二、〇〇〇万円の求償金債権を有していたほか、これに、右各債権の元本に対する利息、抵当権設定費用の立替金、賃料等の各債権をも合算すると、総額金七、〇二〇万円の債権を有していたところ、当時破産会社の代表取締役であった訴外岩下泰造の説明によれば、破産会社の被告以外の債務としては、訴外増田源三に対する借入金債務金一、四〇〇万円のみであり、増田に対する右債務は岩下が増田所有にかかる不動産の処分につき仲介斡旋した報酬と相殺する確実な見込があり、かつて岩下と増田とは従前から特別な関係があって、かりに右相殺ができない場合でも、増田からの借入金は実質上岩下個人の債務であるから破産会社において支払の責任はない、ということであり、したがって、被告としては、本件弁済を受けた当時、破産会社が債務超過の状態にあったことは認識していたが、自己が破産会社の唯一の債権者と考えていたものであり、本件弁済により他の債権者を害する認識など有り得べくもなかった。

(抗弁に対する答弁)

抗弁事実はすべて否認する。

第三証拠≪省略≫

理由

一  請求原因第一、二項の事実はいずれも当事者間に争いがない。

二  ところで、原告は、破産会社の被告に対する本件弁済は、破産会社において破産債権者を害することを知りながらなしたものである旨主張するので、まずこの点について判断する。

≪証拠省略≫を総合すると、次の各事実を認めることができる。

1  破産会社は昭和四〇年三月六日道路標識等の販売等を目的として資本金一〇〇万円で、設立されたものの、その販路が開拓できず、同年一二月には約金三〇〇万円の欠損が生じ、昭和四一年春ころからはビニール製手袋の卸販売を取り扱うようになり、一時は販路を拡張するなどして小康状態を保ったことはあったものの、累積赤字は増加の一途をたどり、昭和四一年末には約金一、〇〇〇万円であったものが、昭和四二年末には約金二、〇〇〇万円にも達し、その後も不良売掛、返品が増大し、昭和四四年六月にはその経営状態は著しく悪化し、約金八五〇〇万円の欠損が生ずるに至り、遂に本件弁済の直後である昭和四五年三月三一日手形の不渡を出すに至って支払を停止し右同日東京地方裁判所に自ら破産の申立をなし、同年五月九日午前一〇時同裁判所より破産の宣告があったこと

2  破産会社が被告に本件弁済をした当時、破産会社は被告に対し、金六、〇〇〇万円余の債務を負担していたほか、訴外新日本運輸株式会社、同タイガー加工商事株式会社、同全国酒友会、同小峰護謨株式会社、同杉並区保険事務所、同増田栄三、同鈴木四郎に対し約金二、〇〇〇万円の債務を負担していたものであり、これに対し資産としては約一二万円余の現金、預金等のほかは約一一万円相当の車両、什器備品があるに過ぎず、売掛代金債権も、破産会社において、販路を拡張するため、小売店に対し、他に売却できない場合は返品も自由であるとして、販売したこともあって、その回収は殆ど期待できず、結局、破産会社は本件弁済のあった当時約金八、〇〇〇万円の債務超過になっていたこと

3  破産会社の代表取締役であった訴外岩下泰造は前記支払を停止した昭和四五年三月三一日の六か月位前より、前記1認定のような破産会社の経営状態から、会社倒産の危険を察知していたものであり、本件弁済のあった同年三月二〇日当時もはや破産会社は支払不能の状態に立ち至ったことを十分認識していたこと

以上の事実を認めることができるのであ(る。)≪証拠判断省略≫

右事実によれば、破産会社は破産債権者を害することを知りながら、被告に対し、本件弁済をしたものと断ぜざるを得ない。

三  そこで、進んで被告の抗弁について判断する。

まず、被告は、本件弁済を受けた当時これにより破産債権者を害することを知らなかったとして、前記岩下より、破産会社の債務は前記増田に対する債務のみであり、これについては岩下の債権と相殺できる確実な見込があるうえ、右債務は実質上岩下の個人債務である旨説明を受けたと主張し、≪証拠省略≫中には一部これにそうかのような供述部分があるが、右部分は≪証拠省略≫と対比すると、直ちに措信することができず、他に右被告主張事実を認めるに足りる証拠はなく、そのほか、被告が破産債権者を害することを知らなかったとする点につき、これを裏付けるに足りる十分な証拠はない。

かえって、≪証拠省略≫によると、被告は昭和四二年一二月から前記のとおり破産会社の経営状態が著しく悪化するに至った昭和四四年六月ころまでの間、自ら破産会社の代表取締役となり、その間前記のとおりの破産会社の累積赤字を打開するため種々策を講じるなどその会社経営の全般に携わっていたものであることが認められ(右認定を左右するに足りる証拠はない)、右事実によれば、被告は前記認定にかかる本件弁済当時の破産会社の経営状況、債権債務の関係等も十分了知しており、したがって、被告も本件弁済を受けた当時これにより破産債権者を害することを認識していたものと推認することができる。

そうすると、結局、被告の抗弁は理由なきに帰する。

四  以上によれば、破産会社の被告に対する本件弁済は破産法第七二条第一号により破産財団のため否認することができるものというべきところ、原告において本件訴状により本件弁済のうち金五四万三、六四三円の弁済を、昭和四六年一一月二五日受付の準備書面により本件弁済のうち金九万三一三円の弁済をそれぞれ破産財団のため否認する旨の意思表示をなし、本件訴状が同年二月一日被告に、右準備書面が同年一二月二四日被告訴訟代理人にそれぞれ送達されたことは本件記録上明らかであるから、右各弁済はそれぞれ右各日付をもって否認され破産財団との関係において効力を失ったものというべきである。

そうだとすると、原告の右否認権行使に基き被告に対し本件弁済金合計金六三万三、九五六円および内金五四万三、六四三円に対する訴状送達の日の翌日である昭和四六年二月二日から、内金九万三一三円に対する前記準備書面送達の日の翌日である同年一二月五日からそれぞれ支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める本訴請求はすべて理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松村利教)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!