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東京地方裁判所 昭和46年(ワ)5805号 判決 1973年6月22日

原告 第一勧業銀行

理由

一(省略)

二 原告(葛飾支店扱い。)に対し、昭和四四年二月二七日預入れ、同四五年二月二七日満期の合計金九〇〇万円(被告、訴外渡辺克巳、同渡辺勇各名義で金二〇〇万円宛、訴外金沢清名義で金三〇〇万円、以上四口)の定期預金があつたことは、当事者間に争いがないので、これら四口の預金者がいずれも被告であり、訴外の三名は単に名義人にすぎないかどうかについて、検討する。

《証拠》を綜合すれば、つぎの事実が認定でき……他にこれを左右すべき証拠はない。

被告またはその夫であつた訴外渡辺克巳は、東京都民銀行立石支店に金九〇〇万円を超える預金を有していたので、被告は右預金を引き出して土地、建物を購入しようとしたところ、克巳を介して原告葛飾支店行員福崎義弘から、預金をそのまま買入れ資金に充てず、原告銀行に預金したうえ、これを担保に借り受けた金員をもつて購入する方が税金面で得策である旨すすめられた。そこで、昭和四四年二月二七日立石支店から金九〇〇万円を引き出して、葛飾支店に被告名義で一旦普通預金として預けたうえ、払い戻しを受けて定期預金を組み、これを担保に差し入れて同額の金九〇〇万円を借り受けることとなつた。ところが、借受名義も被告であるため、いわゆる即時両建との関係上、定期預金は、前述したように、被告のほか、夫克巳、夫の弟である渡辺勇、被告の実父金沢清各名義の四口に分けられた。かようにして被告は借り受けた金九〇〇万円で直ちに土地、建物を購入し、同年三月一日付で自分名義の所有権取得登記を経由した。被告は、以上の銀行との取引、不動産購入の一切を克巳に一任し、同人がこれを担当したところ、本件借入当時ころ葛飾支店から被告に対し、被告が不動産を購入することを確かめる電話照会が直接なされ、また本件各定期預金の利息は前述した被告名義の普通預金口座に入金された。

ところで、預金者とは、当該預金を自分の預金とする意思をもつて金員の預入れをしたものであるから、以上の認定によれば、仮に東京都民銀行に対する預金が夫克巳の出捐にかかるものが相当の割合を占めていたとしても、(被告の出捐にかかるものが少なくないことは、被告本人尋問の結果(第一回)から明らかである。)本件定期預金は本来被告名義とすべきところ、即時両建との関係上、便宜訴外三名の名義を借用したにすぎず、前記四口の預金者はいずれも被告であると解するのが相当である。

三 原告は、本件定期預金中克巳名義の金二〇〇万円口は原告の訴外会社に対する債権金一、七九六万二、〇二六円と昭和四六年四月二四日相殺された旨主張するが、右克巳名義の預金の預金者が被告である以上、その同意、承諾の認められない本件では、右相殺が効果を生ずるには由ないというべきである。

四 被告が原告に対し、昭和四六年五月一五日到達の内容証明郵便により、すでに弁済に供された被告名義分を除くその余の定期預金残債権金七〇〇万円をもつて被告の借入残債務金七〇〇万円と対当額で相殺する旨の意思表示をしたことは当事者間に争いがないから、右相殺により、被告の借入債務はすべて消滅したというべきである。

五 よつて、原告が被告に対して金七〇〇万円の貸金残債権を有していることを前提とする本訴請求は、失当として棄却

(裁判官 宮崎啓一)

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