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東京地方裁判所 昭和46年(ワ)6182号 判決 1973年10月19日

原告 国鉄労働組合

右代表者中央執行委員長 村上義光

原告 篠原正雄

原告 浅野孝

右原告ら訴訟代理人弁護士 大野正男

同 大橋堅固

同 山川洋一郎

被告 日本国有鉄道

右代表者総裁 藤井松太郎

右指定代理人 山口貢

<ほか二名>

被告 丸山広弥

被告 甘粕祐三

右被告ら訴訟代理人弁護士 真鍋薫

主文

一  被告日本国有鉄道は、原告篠原正雄に対し、金一六万五、〇〇〇円およびこれに対する昭和四六年七月二四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告甘粕祐三、同日本国有鉄道は、原告篠原正雄に対し、各自金二二万円およびこれに対する昭和四六年七月二四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告甘粕祐三、同日本国有鉄道は、原告国鉄労働組合に対し、各自金一一万四、四三〇円およびこれに対する昭和四六年七月二四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告篠原正雄のその余の請求および原告浅野孝の本訴請求を棄却する。

五  訴訟費用中、原告篠原正雄と被告日本国有鉄道株式会社との間に生じたものはこれを三分し、その一を原告篠原正雄の負担とし、その余を被告日本国有鉄道の負担とし、原告篠原正雄と被告甘粕祐三、同日本国有鉄道との間に生じたものはこれを二分し、その一を原告篠原正雄の負担とし、その余を被告甘粕祐三、同日本国有鉄道の連帯負担とし、原告浅野孝と被告丸山広弥、同甘粕祐三、同日本国有鉄道との間に生じたものは原告浅野孝の負担とし、原告国鉄労働組合と被告甘粕祐三、同日本国有鉄道との間に生じたものは被告甘粕祐三、同日本国有鉄道の連帯負担とする。

六  この判決は、第一項ないし第三項に限り、かりに執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(請求の趣旨)

一  被告日本国有鉄道は、原告篠原正雄に対し、金三三万円およびこれに対する昭和四六年七月二四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告甘粕祐三、同日本国有鉄道は、原告篠原正雄に対し、各自金五五万円およびこれに対する昭和四六年七月二四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告丸山広弥、同甘粕祐三、同日本国有鉄道は、原告浅野孝に対し、各自金一一万円およびこれに対する昭和四六年七月二四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告甘粕祐三、同日本国有鉄道は原告国鉄労働組合に対し、各自金一一万四、四三〇円およびこれに対する昭和四六年七月二四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

五  仮執行の宣言

(請求の趣旨に対する答弁)

一 原告らの請求を棄却する。

二 訴訟費用は、原告の負担とする。

≪以下事実省略≫

理由

一  当事者

被告国鉄は、日本国有鉄道法により設立され、鉄道事業等を経営する公法人である。被告丸山は、被告国鉄の職員で東京南鉄道管理局内田町電車区長、被告甘粕は、同じく被告国鉄の職員で東京南鉄道管理局内田町電車区助役(運転科長)の職にある。

原告国労は、被告国鉄の職員を中心として組織された労働組合である。原告篠原は、国労東京地方本部新橋支部業務部長、原告浅野は、被告国鉄の職員で右田町電車区において車両検修係として勤務し、国労東京地方本部新橋支部田町電車区分会副分会長の地位にある。

以上の事実は、当事者間に争いがない。

二  鉄道公安官の原告篠原に対する暴行

1  昭和四五年九月二五日、国労が同年春闘による賃上げの配分の適正要求および合理化による人員削減反対を掲げ、早朝、ストライキを行なったこと、原告篠原、同浅野を含む国労組合員約五〇名が同月二四日午後五時ごろから田町電車区交番検査長室第一詰所に入室していたこと、同日午後一〇時三〇分ごろ、被告丸山が右詰所へ行き、詰所内の国労組合員らに対し、詰所から退去することを命じ、退去しない組合員らを実力をもって排除しようとしたことは、当事者間に争いがない。

≪証拠省略≫によれば、次の事実を認めることができ、この認定をくつがえすに足りる証拠はない。

右日時・場所において、組合員らは、二五日の早朝のストライキに関する指令・伝達やスト参加などに備え、右詰所に待機し、被告丸山、同甘粕ら田町電車区管理者や、被告国鉄の現地対策本部(東京南鉄道管理局営業部長甲斐邦朗を本部長とするもの)の指示を受けた東京鉄道公安室長梶原定美の、携帯マイク、プラカード等による再三の退去要求に応じなかった。そこで、梶原東京鉄道公安室長は、被告丸山の要請に基づき、同公安室に所属する二箇小隊の鉄道公安官約二〇名に対し、実力による組合員らの排除を命じた。そのとき、組合員らの一部は、三、四名ずつ横に並んでスクラムを組み、前後二、三列位になって前列の者の腰を後列の者がかかえるなどして詰所入口を占拠していたが、鉄道公安官らは、左右の側に一名ずつ並んで、腕を組んだり、あるいは前列の者の腰をかかえている組合員らの手をはずしてスクラムを解き、組合員らを順送りに移動させて外の通路に排除し、残っている者を排除するため詰所内に立ち入った。組合員らの中には、排除行為中の鉄道公安官らに対し、初めは抵抗する者もあったが、詰所入口を占拠していた者が右のように排除されてしまうと、その後は抵抗もなく任意に室外に出るようになり、また、一部の者は、詰所二階の物干台から下へ飛び降りて退去した。

原告篠原は、詰所入口の前に立っていたので、組合員らに対する排除行為が初まると、まっ先に鉄道公安官から外の通路に排除され、すぐその足で連絡のため詰所から約四〇メートル離れた組合分会事務室へ行き、直ちに詰所へ引き返したところ、鉄道公安官三、四名が詰所一階踊り場付近で組合員荒木田俊美、同池田秋義の首をつかまえて引っぱり出そうとしているのを目撃し、「手をかけるのはやめろ。」などと制止した。すると、氏名不詳の鉄道公安官は、突如、後方から原告篠原の顔面(眼および鼻部)を一回殴打し、そのまま階段を駆け上ろうとした。そのため、原告篠原は、メガネおよびかぶっていた作業帽を飛ばされたが、これにひるまず後方から右鉄道公安官の腰付近にタックルしたものの、他の鉄道公安官に制止されて逃げられてしまった。

本件鉄道公安官の警備業務は、鉄道公安職員基本規程(昭和三九年四月一日総裁達第一六〇号)第四条に基づくものである。

2  ≪証拠省略≫によれば、次の事実を認めることができ、この認定をくつがえすに足りる証拠はない。

原告篠原は、右のように鉄道公安官から顔面を殴打されて出血したので、その晩、直ちに財団法人河野臨床医学研究所付属北品川総合病院で右頬部挫創の治療を受けた。原告篠原は、このときから視力障害、視力の減退があり、九月三〇日、同病院の医師に視力の減退を訴えたが、後記認定のように、当時は原告の第六頸椎棘突起骨折の処置が当面必要とされていたので、眼については格別診察を受けることなく時日を経過し、一〇月一三日、右骨折の手術後の経過が良好で抜糸もすんだので、同病院眼科で医大からの派遣医の診療を受けた結果、右黄斑部出血と診断され、黄斑部裂孔の疑いもあって経過観察の必要ありと認められ、同月二七日、医師から東京慈恵会医科大学付属病院眼科で精密検査を受けるよう指示された。そこで、原告篠原は、前記北品川総合病院で棘突起骨折の手術を受けて同月二〇日に退院していたのであるが、しばらく自宅で静養をした後、一一月一九日、前記医大付属病院で眼科医の診察を受けたところ、中心暗点、視力の減退等の症状があり、右眼球打撲症、右黄斑出血と診断され、以来昭和四六年二月上旬ごろまで、仕事につかず休養しながら同病院に月二回位(計七、八回)通院して治療を受けた。医師からは、長く治療をすれば視力が徐徐に回復してくると言われている。

右事実によれば、原告篠原の右傷害は鉄道公安官の暴行によって生じたものであると認めるべきであり、本件の全証拠によっても、これ以外に同原告について傷害の原因となり得べきものは見出し難い。

三  被告甘粕の原告篠原に対する暴行

1  ストライキ終了後の昭和四五年九月二五日午前八時五〇分ごろ、田町電車区検修点呼場で点呼が終わったことは、当事者間に争いがない。

≪証拠省略≫によれば、次の事実を認めることができる。

右日時・場所において、被告丸山は、約一五〇名の職員を前にして訓示を行ない、前日二四日の夕方、組合員が勤務中の職員に対し暴行を加えるという事件があったが、このような暴力事件が起こった場合には、管理者に対し申し出ることおよび勤務時間中の組合活動など職場の規律を乱すようなことを認めない旨を述べ、これに対し、点呼(臨時総点呼)に出席していた組合員らの中から点呼が一時中断する程激しいやじが飛んだ。次に、片岡検修科長は、通常の業務連絡をして点呼終了の宣言をした。すると、原告篠原は、組合員らに対しスト妥結報告をしようとして点呼台(縦三〇センチ・横五三センチ・高さ三一センチの木製の台)に上り、マイクで「みなさん」などと言い始めた。被告丸山は、すぐ原告篠原の前へ行き、「ここは、今も注意したとおり組合の話をするところではない。なにをするんだ。」と言ってマイクを取り上げようとし、同原告は、「いつもやっていることじゃないか。」と応酬してやりとりをするうち、点呼台の上のマイクが倒れてしまった。そこで、原告篠原は、やむなくマイクなしで報告をしようとしたところ、被告甘粕は、点呼台に立っている同原告の右斜め後方二、三メートルの溶接場付近から小走りにきて、突如、両手で同原告の後頸部および腰付近を突き飛ばした。原告篠原は、被告甘粕の右暴行により、点呼台の上で、からだを弓なりにして後方へ首をのけぞらせ、ついで、前のめりになってたたらを踏み、点呼台前方二、三メートル先へ転落して手をついた。

被告甘粕の暴行を目撃した職員(組合員)六、七名は、激怒して同被告のもとに詰め寄り、「なにをするんだ。」などと激しく抗議しながら、同被告を後方の溶接場ハッカー掛の壁に押しつけた。その際、原告篠原は、手挙で被告甘粕の下唇付近を突き上げ、加療約三日間を要する口唇部打撲傷を与えた。

以上のように認めることができ(る。)≪証拠判断省略≫

2  ≪証拠省略≫によれば、次の事実を認めることができ、この認定をくつがえすに足りる証拠はない。

原告篠原は、右のように被告甘粕から後頸部および腰付近を突き飛ばされてからしばらくして後頸部が痛みだし、血がにじんでみみずばれができたので、九月二五日午前一〇時すぎごろ、前記北品川総合病院でリバノール湿布をしてもらい、後頸部打撲兼擦過傷と診断された。その際、原告篠原は、同病院の医師(おそらく赤津博美医師)から翌二六日にレントゲン写真を撮る旨言われたが、休養や仕事のため同病院へ行かないでいたところ、吐き気がして食欲がなく、また、首を回すと痛みを感じたり、異常音がするので、同月三〇日、同病院へ行ってレントゲン写真を撮った結果、第六頸椎棘突起骨折が発見された。そこで、原告篠原は、医師のすすめに従い、棘突起の骨片を除去する手術を受けることとなり、一〇月一日から同月二〇日までの間、同病院に入院して棘突起骨折の手術を受け、その後経過観察を経て治ゆした。

第六頸椎棘突起骨折は、外力が加わって後頸部を打撲・擦過することにより、二次的に頸部が過伸展・過屈曲して起こることがまれにあるとされている。本件棘突起骨片遊離の原因は、骨片表面の形状からみて外傷によるものであって、病的過程によるものではないと考えられる旨の鑑定がある。

右事実および1に認定した被告甘粕の暴行の態様、原告篠原の転落の際の状況を考え合わせると、同原告の右傷害は同被告の暴行によって生じたものであると認めるべきであり、本件の全証拠によっても、これ以外に同原告について傷害の原因となり得べきものは見出し難い。

四  被告丸山、同甘粕の原告浅野に対する暴行について

同年九月二六日午前八時四〇分ごろ、田町電車区検修点呼場で、点呼の際、被告丸山が訓示を行ない、「昨日の点呼の際に管理者をやじり、また、暴力をふるう職員があったが、これは許せない。」などと述べたこと、これに対し、原告浅野が発言したこと(それが、やじったのであるかどうかは別として)は、当事者間に争いがない。

≪証拠省略≫によれば、右点呼(臨時点呼)には約一三〇名の職員が出席していたこと、被告丸山の訓示に対し、原告浅野が、安蒜勝己ら他の職員とともに、前日二五日の点呼終了後、前記認定のように被告甘粕が原告篠原に対し暴行を加えた事実があったことから強く反発し、「嘘つけ。」、「暴力をふるったのは管理者じゃないか。」などと激しくやじを飛ばしたこと、被告丸山やそばにいた友常総務科長は原告浅野に対しやじをやめるように注意したが、同原告はこれを無視してやじを続けたこと、被告丸山は田町電車区助役らに対し同原告を点呼場から排除するように指示したことが認められる。

原告浅野孝は、被告丸山が原告浅野の排除を指示した後の状況として、被告甘粕が同原告を後方から突き倒し、さらに、その右手を逆手にねじ上げ、「痛いから離せ。」などと抗議する同原告を点呼場から十数メートル離れた修繕庫のリフティング・ジャッキ付近まで無理矢理引っぱって行き、ねじ上げた手を引っぱり上げて地面に倒すなどの暴行を加えた旨および同原告がすきを見て点呼場の方へもどろうとしたところ、台車付近で被告甘粕に後方から両手をかかえ込むようにしてつかまえられ、その直後、被告丸山が手挙で同原告のみぞおち付近を殴打した旨供述し、≪証拠省略≫も、これに一部符合する内容の供述をしている。

しかし、右各供述は、≪証拠省略≫および次に述べる事情に照らし、たやすく信用することができない。

1  原告浅野孝らが供述するところによれば、被告甘粕の原告浅野に対する暴行はかなり執ようであり、被告丸山が同原告のみぞおち付近を殴打したという際のやり方も、同原告が被告甘粕に後方から両手をかかえ込むようにしてつかまえられているときに殴打したというのであって、まるで暴力団まがいの悪らつな方法であるから、もし、このような暴行が点呼に出席している多数職員の前で真実行なわれたとすれば、当然、職員の中から激しい非難等が起こり、あるいは被告甘粕の暴行を制止しようとする者が現われて然るべきであると思われる。現に、前日二五日の点呼終了後、被告甘粕が原告篠原に対し暴行を加えた際には、激怒した六、七名の職員(組合員)が同被告のもとに詰め寄って激しく抗議し、同被告に傷害すら負わすという場面があったことは、前記認定のとおりである。それなのに、この日は、前日右のような事件があり、しかも、原告浅野に対する本件排除は被告丸山の暴力追放の訓示に端を発したにもかかわらず、被告丸山に対しても、また、被告甘粕に対しても、職員が前日のように非難・抗議等をしたという事実は認められず、≪証拠省略≫によれば、被告丸山が原告浅野の排除を指示した後においても、同被告は、引き続き数分間にわたり訓示を行ない、この日の点呼を無事終了・解散したことが認められる。

この事実は、被告丸山、同甘粕が原告浅野に対し暴行を加えたという事実の存在を強く疑わせるのである。

2  証人伝野喜男は、当日点呼の際、原告浅野の後方にいて、同原告が被告甘粕らに点呼場から列外に出されて修繕庫のリフティング・ジャッキ付近まで連れて行かれ、再び点呼場の方へもどってくるまでを見ていた旨および同原告が点呼場にもどってきたとき、その腕に爪のあとがついているのを見た旨供述する。

これによれば、証人伝野喜男は、事の成行きを一部始終見ていたものと考えられるが、被告丸山が原告浅野に対し暴行を加えたという事実については供述がなく、かえって、同被告は同原告に対し手をかけていなかったと思う旨供述している。

3  証人安蒜勝己の証言により安蒜勝己が当日倒れている原告浅野を撮影した写真であると認める甲第一〇号証(同証言によれば、組合員である安蒜が当局側の原告浅野に対する暴行を裏付ける目的で撮影したものである。)を見ると、原告浅野は仰向けに倒れているが、そのまわりには、被告甘粕や友常総務科長ら田町電車区助役が立っている(≪証拠省略≫によって認める。)だけで、同被告らが同原告に対し暴行を加えていたり、あるいは暴行を加えた直後であると見受けられるような状況は全く認められない。

この写真は、証人片岡松司や被告甘粕祐三が供述するように、まさに原告浅野がみずから故意に寝転んだのではないかとさえ疑わせるものである。

4  原告浅野孝は、被告丸山、同甘粕から暴行を受けた後、当日は痛さのために仕事ができなかったと供述しながら、医師の診察を受けたのは翌翌日であると供述する。原告浅野孝本人尋問の結果により成立を認める甲第八号証(診断書)には、原告浅野について頸部捻挫により二日間の休業加療を要する旨記載されているが、それ自体軽微な傷害であり、また、その受傷の部位に照らし、右被告らから受けたという暴行と同原告の右傷害との間に因果関係があり得るかどうかについても若干疑問がある。

甲第八号証は、被告丸山、同甘粕が原告浅野に対し暴行を加えたという事実の存在を裏付ける証拠としては、証拠価値が乏しい。

以上のとおりで、原告浅野孝、証人伝野喜男、同上野良夫、同安蒜勝己の被告丸山、同甘粕の暴行に関する各供述はたやすく信用することができず、他にも右被告らの暴行の事実を認めさせるに足りる証拠はない。

したがって、原告浅野の本訴請求は、その余の点について判断をするまでもなく失当である。

五  被告国鉄、同甘粕の責任

第二項に認定した事実によれば、鉄道公安官の原告篠原に対する暴行は、鉄道公安官が鉄道公安職員基本規程(昭和三九年四月一日総裁達第一六〇号)第四条に基づく警備業務を行なうについてなした故意による違法な加害行為であって、鉄道公安官の警備業務行為は国家賠償法第一条第一項の「公権力の行使」に当たるものと解されるから、これによって生じた原告篠原の後記損害について、被告国鉄は、同法の右規定により賠償責任を負わなければならない(なお、原告篠原は、被告国鉄に対する損害賠償の請求について、一次的に民法第七一五条による使用者責任を、予備的に国家賠償法第一条による賠償責任を主張しているが、国家賠償法は民法の特別法であるから、加害行為が国家賠償法の要件に当たる場合には、当然、優先的に同法が適用されることになる。したがって、原告篠原の損害については、同原告の主張の順序にかかわらず、国家賠償法が適用される。)。

次に、第三項に認定した事実によれば、被告甘粕の原告篠原に対する暴行は、同被告が被告国鉄の職務を行なうについてなした故意による違法な加害行為であるから、これによって生じた原告篠原、同国労の後記損害について、被告甘粕は民法第七〇九条による不法行為責任を、被告国鉄は同法第七一五条第一項による使用者責任をそれぞれ負わなければならない。

六  原告篠原、同国労の損害

1  原告篠原 金三八万五、〇〇〇円

内訳

(一)  鉄道公安官、被告甘粕による各暴行の原因・態様、受傷の部位・程度および治療の経過等これまでに認定した諸般の事情を考慮すると、原告篠原は、鉄道公安官の暴行(第二項)については金一五万円、被告甘粕の暴行(第三項)については金二〇万円をもって慰謝される程度の精神的苦痛を受けたものと認められる。

(二)  原告篠原は、弁護士大野正男、同大橋堅固、同山川洋一郎の三名を訴訟代理人として本訴を提起・追行しているところ、弁論の全趣旨によれば、本訴を委任するに際し、同原告は、右三弁護士に対し、報酬として慰謝料の請求額たる金三〇万円、金五〇万円のそれぞれ一割に当たる金三万円、金五万円、合計金八万円を支払うことを約したこと、事案の内容からみて、同原告が弁護士を訴訟代理人として本訴を提起・追行することは余儀ないことが認められる。

鉄道公安官、被告甘粕の各不法行為と相当因果関係に立つ弁護士費用は、原告篠原の請求認容額および報酬契約の内容などを考慮して、それぞれ金一万五、〇〇〇円、金二万円、合計金三万五、〇〇〇円と認める。

2  原告国労 金一一万四、四三〇円

内訳

(一)  ≪証拠省略≫によれば、原告篠原は、第三項記載のとおり傷害を受け、昭和四五年一〇月一四日および同月二〇日の二回にわけて前記北品川総合病院に対し入院料として金八万一、七〇〇円、同月一一日、付添人居坂タミエに対し入院期間中の付添費用として金二万二、七三〇円(付添人の食事代一、〇〇〇円を含む。)を支払ったこと、国労の犠牲者救済規則第二条第一項第二号は、「組合員が組合機関の決定にもとづいて組合活動遂行中、救済しなければならない事態の発生した場合は、次の種類により救済する。(2)負傷または疾病」と、同規則第一三条は、「療養費の実費金額は医師の発行する領収書、薬品の領収書等によって支払い、この場合共済組合から受ける給付額を差引いた残りを本人に支給する。」とそれぞれ規定していること、原告国労は、右各規定によって原告篠原の入院料および付添費用を負担する義務を負い、同月二一日、右入院料等相当額を原告篠原に支払ったことが認められる。

右事実によれば、原告国労は国労の犠牲者救済規則に基づいて合計金一〇万四、四三〇円を支払ったのであるが、それは、被告甘粕の原告篠原に対する暴行によって支払を余儀なくされたもので、被告甘粕の不法行為と相当因果関係に立つ原告国労の損害というべきである。

(二)  原告国労は、前記三弁護士を訴訟代理人として本訴を提起・追行しているところ、弁論の全趣旨によれば、本訴を委任するに際し、同原告は、右三弁護士に対し、報酬として金一万円を支払うことを約したこと、事案の内容からみて、同原告が弁護士を訴訟代理人として本訴を提起・追行することは余儀ないことが認められる。

被告甘粕の不法行為と相当因果関係に立つ弁護士費用は、原告国労の請求認容額および報酬契約の内容などを考慮して、金一万円と認める。

七  結び

以上のとおりで、(一)原告篠原は、被告国鉄に対し金一六万五、〇〇〇円(内訳、慰謝料一五万円・弁護士費用一万五、〇〇〇円)、被告甘粕、同国鉄に対し連帯して金二二万円(内訳、慰謝料二〇万円・弁護士費用二万円)、(二)原告国労は、被告甘粕、同国鉄に対し連帯して金一一万四、四三〇円(内訳、入院料等相当額一〇万四、四三〇円・弁護士費用一万円)の各金員およびこれらに対する本件損害発生の日以降である昭和四六年七月二四日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金をそれぞれ支払うことを請求し得る。

よって、原告篠原の本訴請求は右の限度において理由があり、原告国労の本訴請求はすべて理由があるのでそれぞれ認容し(原告篠原の本訴請求については右の限度において)、原告篠原のその余の請求および原告浅野の本訴請求は失当なので棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条第一項ただし書を、仮執行の宣言について同法第一九六条第一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宮崎啓一 裁判官 安達敬 飯塚勝)

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