大判例

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東京地方裁判所 昭和46年(ワ)7364号 判決 1974年3月25日

原告

菅原いなみ

ほか七名

被告

有限会社後藤建材

ほか一名

主文

一  被告有限会社後藤建材は、原告三浦賢一に対し一五七万二九六三円及びうち一四二万二九六三円に対する、原告菅原いなみ、同菅原力男、同三浦一四、同三浦八男、同千葉まつみ、同三浦富男、同半田はつみに対し、各六七万九八五八円及びうち六一万九八五八円に対する、昭和四六年九月一日から、それぞれ支払ずみに至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

二  被告日本防火ライトは、原告三浦賢一に対し一五〇万一二五五円及びうち一三五万一二五五円に対する、原告菅原いなみ、同菅原力男、同三浦一四、同三浦八男、同千葉まつみ、同三浦富男、同半田はつみに対し、各六〇万八一五〇円及びうち五四万八一五〇円に対する、昭和四六年九月一日から、それぞれ支払ずみに至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

三  原告らのその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用はこれを四分し、その一を被告らのその余を原告らの各負担とする。

五  この判決は第一、二項につき仮に執行することができる。

事実

第一請求の趣旨

一  被告らは連帯して原告ら各自に対し、各三五七万六〇〇〇円及び内各三三二万六〇〇〇円に対する昭和四六年九月一日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

第二請求の趣旨に対する答弁

一  原告らの請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決を求める。

第三請求の原因

一  (事故の発生)

三浦信夫(以下信夫という)は、次の交通事故によつて死亡した。

なお、この際、信夫はその所有に属する後記原告車を損壊された。

(一)  発生時 昭和四六年四月一三日午前七時二五分頃

(二)  発生地 東京都葛飾区金町三丁目三二番四号

(三)  被告車 普通貨物自動車(青一ゆ四四八二号)

運転者 斎藤利秋(以下斎藤という)

(四)  原告車 普通貨物自動車

運転者 信夫

被害者 信夫

(五)  態様 交差点における出合頭の衝突

(六)  被害者信夫は即死した。

二  (責任原因)

(一)  被告有限会社後藤建材は、次の理由により、本件事故により生じた原告らの損害を賠償する責任がある。

(1) 被告車を業務用に使用し自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法第三条による責任。

(2) 斎藤を使用し、同人が同被告の業務を執行中、後記のような過失によつて本件事故を発生させたのであるから、民法第七一五条第一項による責任。

(二)  被告日本防火ライト工業株式会社(以下被告日本防火ライトという)は次の理由により本件事故により生じた原告らの損害を賠償する責任がある。

(イ) 被告後藤建材は、昭和四三年六月五日資本金三〇万円で建築用骨材料の販売等を目的とし、被告日本防火ライトが仙台工場を新設すると同時に設立された。

(ロ) 被告日本防火ライトは昭和三三年七月三〇日資本金四五〇〇万円で防火壁材並びに防火建築資材の製造及び販売、耐熱及び防湿一般家庭用器具の製造及び販売等を目的として設置された。支店を福岡県と宮城県岩沼町押分字須加原九二番(以下仙台支店という)に設置している。被告後藤建材は、本社が登記簿上青森県八戸市大字河原木字浜名谷地七四番になつているが、営業所を被告日本防火ライト仙台支店内に置き実質上の本社所在地及び営業区域は、被告日本防火ライト仙台支店内である。

(ハ) 被告後藤建材は従業員一二名で使用自動車は大型貨物車四台、小型貨物車六台の規模の会社で設立当初から本件事故時及びその後においても被告日本防火ライトから、その敷地及び建物を本店ないし営業所として借用し、その上被告後藤建材の代表取締役である後藤一郎は、昭和四四年五月以降、被告日本防火ライト所有の社宅を借り家族と共に生活して現在に至つている。その業務も被告日本防火ライトの建築用資材(防火ライトとも云う)等の運送に専従(被告日本防火ライトの運送関係全部の約七割程度を担当し、三割は他の業者が入つている)していたものである。

(ニ) 被告後藤建材の前記使用自動車は総て陸運局の認可を得ていない自家用自動車であり、この認可のない貨物自動車で運送業務に従事していることを被告日本防火ライトは容認していた。

(ホ) 被告後藤建材は、被告日本防火ライトの注文によつて運送業務に忠実にしたがい同被告の製品の専属的な運送業者として現在に至つている。同被告の注文に対して被告後藤建材が断わることはない。同被告の保有車両台数その規模等からして、被告日本防火ライト以外に運送業務に従事することは不可能である。

(ヘ) 斎藤は、事故の前日被告日本防火ライト仙台工場より防火ライト製品約八トンを積載し、神奈川県鶴見にある小原木材に向つたところ、本件事故を惹起したものである。

(ト) 以上の事実よりして被告後藤建材は設立当初より本件事故時ないしそれ以後においても、その実体は被告日本防火ライトの庇護と支配を受け、いわばその一事業部(運送部)とも云うべき存在に過ぎず、したがつて本件事故の一般的運行についても被告日本防火ライトは被告後藤建材と同一の立場でこれを支配し、かつその利益を享受していたものと云うべきである。

(チ) そうとすれば、被告日本防火ライトは、被告車を自己のため運行の用に供していたというべく、本件事故による人損につき自賠法第三条の、仮りにそうでないとしても運転者斎藤に後記の過失があるから民法第七一五条によつて責任があり、又物損についても同条の責任がある。

(三)  斎藤には事故発生につき、次のような過失があつたものである。

すなわち斎藤は自動車の運転者として、交差点に差しかかつた場合には、前方の信号を確認し、停止信号である場合にはすみやかに停止し、運転車両のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、他人に危害を及ばさないような速度と方法で進行しなければならない注意義務があるのにかかわらず、これを怠り、停止信号を無視し、速度七〇キロメートル以上で進行したため信夫運転の原告車両前部側面に被告車を衝突せしめた。

三  (損害)

(一)  財産的損害

1(1) 葬儀費用 三〇万円

(2) 車両修理費 七一万七〇七五円

本件事故によつて生じた原告車両損壊の修理費は七一万七〇七五円である。

(3) 逸失利益 二五八一万二四三二円

信夫が死亡によつて喪失した得べかりし利益は、次のとおり算定される。

(死亡時) 二八才の健康な男子

(稼働可能年数) 三五年

(収益) 東京都内の金本土建に運送請負業として従事し、一月一八万円を下らない収入を得ていた。

(控除すべき生活費) 収入の四割

(年五分の中間利息控除) ホフマン式計算による。

(算式) 一八万×〇・六×一二×一九・九一七=二五八一万二四三二

2 原告らは右信夫の相続人の全部である。よつて原告らは、いずれも兄姉としてそれぞれ相続分に応じ各八分の一ずつ信夫の賠償請求権を相続した。

(二)  慰藉料 各六〇万円

信夫の死亡による相続ないしは固有の慰藉料として原告らにつき各六〇万円が相当である。

(三)  損害の填補 五〇〇万円

原告らは自賠責保険から五〇〇万円の支払を受け、これを債権額に応じて前記損害金の一部に充当した。

(四)  弁護士費用 各二五万円

被告らは原告らの損害を任意に支払わないので原告らは弁護士たる本件原告訴訟代理人にその取立を委任し、弁護士費用として、各二五万円を支払うことを約した。

四  (結び)

よつて、原告らは被告ら各自に対し、各三五七万六〇〇〇円及びうち弁護士費用を除く各三三二万六〇〇〇円に対する訴状送達の日の翌日である昭和四六年九月一日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第四被告らの事実主張

(被告後藤建材の事実主張)

一  (請求原因に対する認否)

第一項中原告車が信夫所有であつたことは不知、その余の事実は認める。

第二項中(一)(1)は認める。(一)(2)のうち斎藤に過失があつたことを否認し、その余の事実を認める。

(二)のうち被告日本防火ライトの資本金、営業内容、支店の所在地が原告ら主張通りであること、被告後藤建材の本社の登記が青森にあること、営業所が被告日本防火ライト仙台支店内にあること、被告後藤建材が被告日本防火ライトから敷地を借用していること、認可のない自家用貨物自動車を使用している点、その営業内容、代表取締役の居住関係(但し敷地は月額一〇〇〇円で賃借し建物は後藤一郎の所有)、本件事故が被告日本防火ライトの製品運送中に発生したことを認めその余の事実は否認する。

(三)は否認する。

第三項のうち、原告らが自賠責保険金五〇〇万円を受領したこと及び、原告らが信夫の相続人であつて、相続割合が八分の一宛であることは認め、充当の点は不知、その余の事実は否認する。特に信夫の逸失利益の算定に当つては、収入から、車の原価償却費、ガソリン代、修理費等を控除すべきである。

なお、その他損害について、後記被告日本防火ライトの主張を援用する。

二  (事故態様に関する主張)

本件事故は信号機の設置方法の瑕疵によつて発生したものであつて、斎藤の運転方法についての過失によるものではなく、同人にとり全く不可抗力的出来事であつた。

(1) 本件事故発生の場所一帯は複雑な交差点を併せた所謂ダブル信号の場所であり、就中、事故の発生した交差点における国道の東京方面への進行方向に対する信号機の信号が横断歩道橋に視界を妨げられ、右国道を通行する車両に対しては極めて接近する迄見えないのである。

(2) そのため同所においては、同種事故が頻発し、警察当局としても、公安委員会に対し、見易い場所に信号機を設置するよう要請中である。

(3) これを通常の事例に照してみても横断歩道橋のある交差点においては横断歩道橋に信号機を設置し手前から見易くしているのを通例とし、本件の如き横断歩道橋の際になつて見えない信号機のみでこと了れりとしている事例は見当らない。

(4) 従つて自動車運転者としての斎藤が、特に右道路に不慣れの者として、信号を看過したとしても、やむを得ないところである。

三  (抗弁)

(1) (免責)

右のとおりであつて、斎藤には運転上の過失はなく、本件事故の発生は、後記のような被害者信夫の過失と、前記のような公安委員会の信号機設置方法に重大な瑕疵があつたことによるものである。また、被告後藤建材には運行供用者としての過失はなかつたし、被告車には構造上の欠陥も機能の障害もなかつたのであるから、同被告は自賠法第三条但書により免責される。

(2) (過失相殺)

仮りに斎藤に過失があるとしても、被害者信夫にも過失があり、過失相殺せられるべきである。即ち、

道路交通法第三六条第四項は交差点通過についての特別の注意の必要性に立脚し、交差点における車両の一般的注意義務について規定し、交差点に入ろうとし、及び交差点内を運行しようとするときは当該交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等に注意し、かつできる限り安全な速度と方法で進行しなければならない義務があることを明定しているが、特に右被害者は、事故現場の交差点に精通している自動車運転者として、交差道路が交通量の多い所謂優先道路であり、これに割つて入るのであるから、右交差道路の通行車の有無及び動向に特段の注意を払い、且つ減速して進行する等何時でも避譲し得る態勢で万全の措置をとり、以て衝突の危険を防止すべきに拘らず、これを怠つたために本件事故が発生したことを看過してはならない。

右の外、事故態様、免責、過失相殺、賠償額の減額についての被告日本防火ライトの主張を援用する。

(被告日本防火ライトの事実主張)

一  (請求原因に対する認否)

第一項中原告車が信夫の所有であつたことは不知、その余の事実は認める。

第二項中(一)(1)は認める。(一)(2)のうち斎藤に過失があつたことは否認し、その余の事実は認める。

(二)のうち被告日本防火ライトの資本金、営業内容、支店所在地、被告後藤建材の本社登記が青森にあること、同被告の仙台における営業所が、被告日本防火ライト仙台工場の敷地を利用し、自家用貨物自動車を使用していること、後藤一郎の居住に関する事実(但し、昭和四六年初め頃まで)、及び本件事故が被告日本防火ライトの製品運搬中に発生した事実はいずれも認め、その余の事実を否認する。

第二項(三)は否認。

第三項のうち原告らが自賠責保険金五〇〇万円を受領したこと及び、原告らが信夫の相続人であつて相続割合が八分の一宛であることは認め、充当の事実は不知、その余の事実は否認。

二  (運行供用者責任に関する被告日本防火ライトの主張)

(一)1 従来運行供用者責任における元請・下請の問題として論じられている運送請負関係のうちには

(1) 運送業者の如く、運送すること自体を中心的な業務内容とする者、もしくは土建業者の如く運送することが不可欠の業務内容となつている者が、さらに他の者に運送を請負わせる場合と

(2) 運送することを自からの業務内容とするか否かの選択をなしうるような業種のもの(例えば製造業者は、原料の仕入れ、製品の販売は必ずしなければならないが、原料、製品を売主(原料)または買主(製品)の運送によるか、あるいは、自から運送するか、さらには運送するとしても総てを契約によつて運送業者にまかすかの選択をすることができる。)が他の者に運送を請負わせる場合とが、あまり区別されなかつたようであり判例においても区別していないものが見受けられるようである。

しかし、元請、下請という場合には本来ある業務を請負つた者が、その請負つた業務の全部または一部を同業の他の者にさらに請負わせる場合を指すのであつて、右(1)のような場合はまさにそれに該当するが、右(2)の場合はそれには該当しない。

2 右の相違は単に言葉の上のものに留まらず、運行供用者責任を負う者の範囲を考える上でも明確に区別すべきである。

右(1)の場合――即ち本来の元請・下請の場合――には下請に請負わす業務自体が自己の業務内容であり、元請の経済的利益の一部を下請に譲渡する実体をもつものであるから経済的に上下の関係があり、また実際にも元請の方が大きい業者であることが多く、従つて業務(運行)についての支配介入の度も強いと考えられる。これに反し右(2)の場合は、業務内容自体が異なり、対等の契約関係であつて損益は各業者がおのおの独立して負担し、経済的な全部一部の関係はなく、従つて支配・介入の度も弱いのである。

さらに右(1)の場合には、本来、元請人の業務であり、元請人自身が行うはずであつたが、たまたま他人に行わせた車両の運行についての支配の責任を問うものであるに反し、右(2)の場合には、もともとは、自己の業務外であり、業務内容の選択のしかたによつては全く行わない可能性もあつた車両の運行について、契約関係及び両者間の諸々の事情を拠り所として支配の責任を問うものであり、両者は質的に異なるものである。従つて右(2)の場合に、運行供用者責任を負わせるのは右(1)の場合におけるよりも強い運行支配が認められるときに限るべきである。

3 これを本件につきみると被告日本防火ライトの営業内容は

防火壁材並びに防火建築資材の製造及び販売、耐熱及び防湿一般家庭用器具の製造及び販売等

でありまさに右(2)の場合に該当する。

(二) 被告日本防火ライトには運行供用者責任はない。

以下に述べる如く被告日本防火ライトは被告後藤建材の車両に対する運行支配を有さず、運行利益の帰属もない。

1 (専属性について)

(1) 専属と専従

原告代理人は被告後藤建材は被告日本防火ライトの専属的運送業者であると主張し或いは被告日本防火ライトの運送に専従していると主張しているが、「専属」「専従」の語を如何なる意味に用いているのかは必ずしも明確でない。

以下被告日本防火ライトの側からその運送の総てを一業者にのみ任せるのを「専属」、被告後藤建材の側から專ら被告日本防火ライトの仕事のみを行うことを「専従」と用いるものとすれば、被告後藤建材は専属、専従のいずれでもなく、またそれに準ずる関係にもなく結局原告の主張は根拠を欠くものといわざるを得ない。

(2) 運送の割合

原告は被告日本防火ライトの運送の七割程度(運賃比)を被告後藤建材が担当していることを強調する。

(イ) しかし両者間の関係をそれぞれの側から見ると被告日本防火ライトの業務は製造、販売であり、運送は総て契約によつているのであるが、その運送の中でも荷物によつて原料及び製品に二大別した場合原料の仕入れには被告後藤建材は全く関与せず日通が中心となり高橋建材をも起用しており、製品の運搬には、被告後藤建材の外に、佐藤建材、越後商会、第一貨物などが入つているのである。しかも、運送荷物の重量比は、原料の方が多いことを考えると、運賃の割合のみを以て、専属的ということはできない。

(ロ) 他方、被告後藤建材は、本社が八戸市にあり、仙台の方は営業所であつて、建築用骨材料の販売を営業目的に掲げ、骨材、砂、砂利の販売もしている。

原告は仙台営業所の方が実質的本社であり登記簿上の本社となつている八戸の方は形式面のみであると主張するが、

(ⅰ) 八戸、仙台のそれぞれに主任を置いて後藤一郎が社長として両方の総責任者として半々ぐらいの割合で往復していること、

(ⅱ) 八戸の方には三人の従業員を置いて前述の販売の外に、日本高周波鋼業株式会社、橋本組、東北砂鉄、三井金属の運搬などをしていること

(ⅲ) 仙台の方では被告日本防火ライトの外に正和運輸、高橋商事、日本ベニヤなどの仕事もしていること、

(ⅳ) 被告後藤建材には車両が五台あるが、その根拠地は八戸になつており、四台は青森県ナンバーであり、宮城県ナンバーは一台に過ぎず

本件の被告車もまた本拠地は八戸であり青森県ナンバーであつたこと、

(ⅴ) 八戸と仙台は給料計算などは総て総合して八戸本社の方に集中していること

などの点から云つてもわかるとおり被告後藤建材は八戸に本社を置いてそこでも現実に営業活動を行い、両方を後藤一郎が指揮、監督をして、人事的にも経済的にも本、支店一体となつており被告日本防火ライトの運送請負以外にも種々の業務をしているのであつて被告日本防火ライトに専従しているわけではない。

(3) 元来専属的であるか否かは前記第(2)類型の場合には運行供用者責任の認定において大きな比重を占めるべきものではない。

被告日本防火ライトの場合も、前記の如く、原料部門では、日通が主となつているが日通の車両が事故を起しても被告日本防火ライトの運行供用者責任などは恐らく顧慮されないであろう。このように両者間の契約量が増加すること自体は、両者間が契約関係に留まることについて質的な変化をもたらすものではないのである。

社会が多岐にわたり分業している結果、お互いにそれぞれ自己に有利な契約相手を見つけ、両当事者にとつて経済的合理性があれば、契約量が増加するのは当然であつて(本件でも製品の扱い、被告日本防火ライトの顧客との関係などなるべく一定の業者に注文した方が好ましいのである)それをとらえて、運行上の責任を負わせるのは、誤まつているのである。

(二) 事務所、社宅および車両の保管場所について

原告は、被告日本防火ライトが被告後藤建材にその敷地、建物を利用させ、後藤一郎及びその家族に社宅を貸与していたと主張する。

(1) しかし被告日本防火ライトの敷地は以下の如く工場内の敷地と工場外の敷地とに明確に区別されていることに留意すべきである。

即ち、同被告の敷地は二つに分けられていて

(イ) その境目には有刺鉄線が張つてあり

(ロ) 門柱によつてその中が被告日本防火ライトの工場であることが示され

(ハ) そこにあるタイムレコーダーによつて従業員の出社退社時間の記録がなされ

(ニ) そこの工場事務所が人の出入りを点検し夜は当直がそこにいる。

(ホ) これに反しこの有刺鉄線の外側には誰でも自由に入れ、一般住民にも解放され、現実に利用されているのである。

(2) 後藤一郎は賃貸借契約を結んで右の工場敷地外に事務所用及び食堂用の建物を自分で建てた。

従つて敷地は利用しているが賃貸借契約によるものであり、現実に賃料も支払つており建物は自分のものであつて被告日本防火ライトのを利用しているわけではない。

建物はいずれもいつでも撤去できるように木造トタン葺の土台も基礎もない簡易なものであり、食堂用のものは道路予定地にかかつていたため、後に撤去している。

(3) 後藤一郎の妻は昭和四五年一〇月に食堂をやめたので、後藤は昭和四六年初め、それまで借りていた社宅からその食堂のあと(即ち自分の家)に移つた。従つて事故当時には社宅に住んでいなかつた。

(4) 被告後藤建材その他の運送店の車両は右に述べた工場敷地外を積み込み前の待機場としては使つているが、ここを駐車場ないし保管場所として常駐することはない。

(5) 便宜の供与

以上のような点を原告は被告後藤建材が被告日本防火ライトから便宜を受け、庇護されていたというもののようである。

確かに、被告日本防火ライトの他の運送業者は右のような扱い(但し右(4)は除く)を受けていないのであるが、それらはいずれも被告日本防火ライト仙台工場から近い仙台、岩沼などの業者であり八戸から出て来る被告後藤建材とは事情を異にし仮住いを建てさせたり、社宅に住まわせたりする必要はもともとないのであつて、右の点を被告後藤建材に対する特別の便宜の供与と考えるのは正確ではない。

また社宅の貸与にしても、後藤一郎個人のみに対してであつて、被告後藤建材の従業員を被告日本防火ライトの従業員と同じように扱つて貸与したものではない。

(三) 原告は後藤建材は被告日本防火ライトのオーダーによつて運送業務に「忠実に」従いその支配を受けていたと主張する。

しかし、債務の履行を「忠実に」行うのは、全く当然のことである。

(1) 被告日本防火ライトは得意先から仙台の営業係に注文を受けると、営業係は、その注文を出荷係の方に廻し、出荷係から各運送店に伝票が廻つて運送の注文をするという手続をとる。

(2) 運送店の方は具体的にどの車に製品を積みどこに行かせるかということを決定し、これには被告日本防火ライトは全く関与しない。

(3) 荷物を積む際には、被告日本防火ライトの係の者が立会うが、それは積む品の数量その他の確認のためである。

(4) 右のように、運行についての指示には被告日本防火ライトは全く関与せず、運転者は専ら被告後藤建材の者の指示、監督に従つていた。

積み込みの際に立会つて数量その他の点検を行うのは注文者としては当然のことであつて、運行とは異なる面の問題であり、これによつて運行に対する支配が強まるものではない。

(5) より一般的に、新車購入について被告日本防火ライトが指示をするとか、下請の使用について指示をすることもなく、それらは被告後藤建材自身の判断によつて決定され被告日本防火ライトは関与していない。

(四)

(1) 被告後藤建材は被告日本防火ライトからは全く出資金を受けておらず、資本的に無関係であり、自動車の購入にあたつても資金の融通を受けたり保証を依頼したりしたこともないし、

車の修理代、ガソリン代などの立替を受けたりしたこともないのである。

また被告日本防火ライトから被告後藤建材に役員が派遣されていることもなく、両者には人事的交流はない。

(2) 両者間の契約では運送賃が安いということもなく運送の遅れの責任その破損の責任はいずれも運送店が持つことになつている。

この点はこのような両者の関係を考える上で重要な要素である。自己が運送することによつて右のような危険負担を引き受けることを避け、契約によつて、他の業者の負担とするところにこそ社会的分業の、そして運送契約の経済的意味があるのである。

もし被告後藤建材が原告の主張するように、被告日本防火ライトの庇護を受け、その一運送部の実体を持つものであれば、右のような責任は被告日本防火ライトの負担となるはずである。

(3) 本件の車両は無論のこと被告後藤建材使用の車両のすべては同被告の名義で取得されており、被告日本防火ライトが名義を貸すようなことはなく使用者の名義も保険の名義も被告後藤建材である。

(五)(1) 原告は被告後藤建材が、被告日本防火ライトの仙台工場の新設と同時にその製品を運送するために設立され、設立当初から庇護と支配を受けていたと主張するが、これは明らかに事実に反する。

被告後藤建材の設立年月日は、昭和四三年六月五日であり、同被告が被告日本防火ライトの仕事を始めたのは、同年一〇月頃からである。

(2) 被告後藤建材が被告日本防火ライトの製品運送をし始めるに至つた経緯は次のようである。

後藤一郎の妻と当時の被告日本防火ライトの社長の夫人とは知り合いであり、その社長夫人から後藤一郎の妻に対し当時被告日本防火ライトの仙台工場が建設中であり、ご飯炊きに困つているからしてくれないかという話があり、その話から後藤と被告日本防火ライト社長が会い、その際、後藤一郎の方から運送の仕事をさせてもらいたいという申込みをしたのである。

従つて当初は、後藤の妻はご飯炊きをし、後藤一郎は八戸の方に住んで日本高周波鋼業などの仕事をしており、やがて、昭和四三年一〇月頃から被告日本防火ライトの仕事を始めたのである。

(3) このように被告後藤建材が被告日本防火ライトの仕事をし始めた契機は両者の営業を離れたところにあり、原告主張のように被告日本防火ライトの運送部新設の代りに設立させたわけでは全くない。

(六) 以上を要するに

(1) 両者の営業内容、実態から判断して専属とも専従とも言えないこと。

(2) 両者の間には役員派遣その他の人事的交流もなく純然たる契約関係に過ぎず、被告日本防火ライトは一般的にもまた具体的運行についても、何ら被告後藤建材を指揮監督(支配)しうる立場に立つていないこと。

(3) さらにより根本的には、事業の一部門と称しうるためには損益が共通であることが絶対的に必要であるにも拘らず、両者は経済的に全く別個独立であり、その間の運送契約の内容もむしろ利害対立する当事者間のものであると考えられること、(この場合被告日本防火ライトが製品を運送してもらうという利益を受けることをもつて両者ともに運行によつて利益を受けるとするのは全く意味をなさない。それは契約上の利益であり有償双務契約である限り当然のことである。)

(4) また便宜の供与の点も後藤個人またはその妻に対してのものが主であり企業としての被告後藤建材に対するものは始んどないこと

などから考えても原告が被告後藤建材を被告日本防火ライトの一運送部門と同視しようとするのは明かに無理だと言わねばならない。

(七) 被告日本防火ライトには使用者責任もない。

(1) 前に述べたところにより、被告日本防火ライトは使用者責任も負わないことは明らかであると考えるが、さらに付言すれば、運行供用者責任は、車そのものの運行に対する支配を問題とするに対し、使用者責任は、使用者と従業員との人的な支配関係に基づいて責任を認めるものであるから、指揮監督関係が存在することが、運行供用者責任においてよりもさらに重要な意味を持つものであると思われる。

本件では、被告日本防火ライトと被告後藤建材の関係は元請、下請の関係ではなく、被告後藤建材は、被告日本防火ライトの被用者とは見られないことはもちろん、被告後藤建材の被用者に対し、被告日本防火ライトの直接、間接の指揮監督関係が及んでいるということもできない。

従つて被告日本防火ライトには、使用者責任はなく、修理費用についても責任を負わない。

三  (事故態様に関する主張)

前記被告後藤建材の二 事故態様に関する主張を援用する外更に次のとおり主張する。

(1) 本件事故の発生した交差点には、同一方向に向けて、至近距離に複数の信号機が設置され、しかもそれらが各々進行、停止の時間差をもつ異なつた信号を表示する仕組となつている。これは、ダブル信号と云われ、第一の信号に従つたことに安心して、第二の信号を見落し易い、極めて危険な仕組みである。しかも、本交差点の場合、被告車両の進行方向からは第二の信号機が歩道橋の陰に隠れて発見し難く、しかも、バイパス六号線自体が左に大きくカーブしているため、至近距離に至らなければ第二の信号を見ることが不可能な状況となつている。

乙第二五号証表記の図面(別紙第一)は、付近の交番に備付けの図面を写したもので、実況見分調書よりも、道路の全体的な屈曲状況を正確に表わしているものであるが、同号証の各写真からも明らかなように、事故現場から約一〇〇メートルの距離にある<2>地点からは第一の信号(右側、左側)しか見ることはできない(その奥の歩道橋の直前に見える信号は、後述するように、本件事故後に設置されたもので)ある。更に約三〇メートル程進んだ停止線のある<3>地点でも、第二の信号()は歩道橋の陰に隠れて発見することはできない。更に進んで事故現場から約四〇メートルの近さにある<4>地点でも第二の信号のうち右側のは、歩道橋と他の車両の陰になつて見えず、左側のは、歩道橋の太い支柱の陰になつて見ることはできない(支柱がいかに太いかは、同号証の八の写真で、人間の身体との比較から明らかである)。第二の信号()を明らかに発見できるのは、事故現場の僅か一〇数メートル手前の<5>地点であり、この地点で信号を発見しても、事故を回避することはできない。なお、あずま通りによつて交差点が存在すること自体も歩道橋の下まで進行しなければ判らない。従つて、交差点の存在から、信号機の存在を予測することができないことを強調する。歩道橋がある付近に交差点があるという経験的事実もないから、第二の信号は予知できないことは明白である。

斎藤は<3>地点の停止線で、第一の信号()が青信号に変るのを待つて発進したのであるが、本件交差点を通過するのが初めてであつた同人には、第一の信号とは異なつた時間差をもつ第二の信号があること自体予測することが不可能であり、第二の信号を発見しうるのは既に事故を回避することの不可能な第<5>地点に至つてからである。同人が刑事事件の裁判で終始第二の信号に気付かなかつたと述べているのも、右の事情によるものである。

このような状況の下に事故が多発したため東京都(警視庁)も本件事故から二ケ月後の昭和四六年六月上旬に、歩道橋の直前に信号機を新設するに至つた。これによつて、第一の信号を運動する新設信号機と第二の信号機との間隔が極めて接近することになり、新設信号を青で通過してから第二の信号で停止しなければならない可能性が著しく減少した。

それに加えて、類似の事故の多発から、警視庁交通課は、その後信号の時間間隔を調整して第一よりも第二の信号の青の時間を長くしたため、新設信号を含む第一の信号を青で通過しながら、第二の信号で停止しなければならない場合を事実上全くなくしてしまつた。

従つて、このような措置のとられる以前の本件事故当時に斎藤が第二の信号を見落したことは不可抗力によるものと云うべく、同人は自動車の運行に関して、何ら注意を怠らなかつたものである。

(2) 車両の運転者が交差点内を通行しようとするときは、交差点の状況に応じ、交差道路を通行する他の車両等に充分注意し、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない義務があることは道路交通法第三六条第四項に照らして明らかであるが、被告車の進行してきたバイパス六号線は、原告車の進行してきたあずま通りの約四倍の幅員を有し交通量も非常に多い優先道路であるから、このような道路に進入しようとする者は、他の車両の通行の有無、動向につき特段の注意を払つて、減速、いつでも避譲しうる態勢で進行し、以つて衝突の危険を防止すべきに拘らず、このような注意を怠つた被害者信夫の過失により、本件事故が発生したものである。

特に信夫は、本件交差点を何度も通行し、複雑な信号につき熟知していたことは留意さるべきである。

(3) 本交差点の信号機の設置並びに点灯状況がいかに不備なものであつたかは(1)に詳述したとおりであるが、このような状況を放置し、昭和四六年六月に信号機を新設し更に点灯を調整するまで、何らの対策を採らなかつたことが本件事故発生の最大の原因であるから、信号機の設置管理の責任を負う東京都には本件事故発生に関し、重大な過失がある。

(4) 被告車は仙台から東京に至る長距離を何ら支障なく走行してきたものであるから、構造上の欠陥も機能の障害もなかつたものである。

四  (抗弁)

(1) (免責)

右のとおりであつて斎藤には運転上の過失はなく、本件事故発生は、前記のように東京都と被害者信夫の過失によるものである。また被告車には構造上の欠陥も機能の障害もなかつたのであるから、仮に被告日本防火ライトが運行供用者にあたるとしても自賠法第三条但書により免責される。

(2) (過失相殺)

仮に斎藤に過失があつたとしても本件事故発生には前記のような信失の過失も寄与しているから損害賠償額の算定にあたり、これを斟酌すべきである。

(3) 仮りに斎藤に過失ありとしても次のような理田から損害賠償額は減額されるべきである。

(イ) 名古屋地裁昭和四八年三月三〇日判決は被告の過失と不可抗力による土石流の発生とが関連競合して原告に損害が発生した事案について

「賠償の範囲は事故発生の諸原因のうち不可抗力と目すべき原因が寄与している部分を除いたものに制限されると解するのが相当である」

と判示している。

(ロ) 元来自己に責任のある部分に対応する範囲のみの賠償責任を負うものと解するのが当然であり、いかに小さな過失であつても生じた損害の全額を賠償せねばならぬのでは、合理的な経済予測をすることなどは期待できないのである。因果関係論において相当因果関係説がとられる理由もここにあるものと考える。

(ハ) 右の判決は右の理を不可抗力との競合の場合に認めたのであるが、本件は東京都の重大な過失との競合の場合である。加害者側にとつてみれば競合するものが、自然力による不可抗力であろうと第三者の過失であろうと何ら差異はない。

右判決の場合には不可抗力部分を減額するとその部分の負担者がおらず、最終的には被害者の負担となる結果になるが、本件では右のように解しても他に第三者がいるのであるから、右のような結果は生じず、原告が適正に被告を選択すれば全額の賠償を得られるのである。

従つて右判決よりもより強い理由で賠償額の縮少が認められるものと考える。

第五(一)  被告日本防火ライトの運行供用者責任ないし使用者責任に関する主張に対する原告の反論

(1)  被告日本防火ライトは、運送請負関係には二類型があり、その二類型の間には、運行供用者責任について差異が生じるが如く主張する。

すなわち、(一)は、運送業者の如く運送すること自体を中心的な業務内容とする者の(二)は運送することを自からの業務内容とするか否かの選択をなしうるような業種のものとがあるとし、右(一)(二)との間では運行供用者責任について差異が生じると主張する。

しかし、右のごとき主張は、抽象的、理論的な概念で、具体的、現実的には右(一)、(二)との間には差異はない。被告日本防火ライトの主張は、理論的には元請、下請及び注文者、下請人とがあるというだけであつて、これは、元請、下請に至つた経過に差異が生じるだけのことである。したがつて、現実的に元請、下請等に至れば、右のごとき差異は生ぜず運行供用者責任には何等影響を及ぼすものではない。また、被告日本防火ライトは、(一)の場合には、(二)の場合よりも元請の支配、介入の度も強いと主張する。しかし、これは、一方的な主張であつて、現実的には個々の場合において支配、介人の度合を判断すべきで、反対に(二)の場合が(一)の場合よりも支配、介入の度合が強い場合もあり得ることである。

原告としては、被告日本防火ライトの主張と正反対に(二)の場合が運行供用者責任が(一)の場合より強いものであると主張する。

なぜなら、(二)の場合は、運送することを自からの業務内容としない者が、自からの選択と責任において長期間運送を請負つているからである。

しかし、右のごとき被告日本防火ライトの主張は相対的な概念である。生産者は生産を中心として考えればよいし、運送業者は運送業が中心である。生産者と雖も運送業務と一切無関係であるはずはないし、特に被告日本防火ライトの如き生産者の場合でも完成品を顧客の住所まで送付、引渡す必要があり、この間の空間を埋める必要がある場合は運送を前提として考えねばならぬものである。したがつて、この場合は、運送業務は不可欠の関係になる。このために被告日本防火ライトの如くその完成品を運搬するための運送業者が必要となつてくるわけで被告後藤建材がその役目を果すことになる。

(2)  被告日本防火ライトは同被告には運行供用者責任はないと主張するにあたつて「専属」と「専従」という言葉を持ち出し、被告後藤建材は専属、専従のいずれでもないと主張する。

しかし、右の「専属」、「専従」の言葉は理論的に区別され得るとしても、この区別の如何によつて被告日本防火ライトの運行供用者責任の存否が決せられるということも考えられない。

又、「専属」という言葉は、運送の総てを一業者のみに任せることのみを意味するが如く主張するが、これは正確ではない。勿論、一業者のみに任せる場合に専属という言葉を用いることは異存はない。しかし、この場合のみではなく、その仕事に従事するに至つた経過、その期間及び運送形態すなわち元請の敷地ないし建物を利用して運送業務に従事しているかどうか並びに営業ナンバーを有しない貨物車両を利用しているかどうか等を基準として相対的に決すべきものである。そうでなければ総ての場合は専属でも専従でもないことになるからである。

(3)  又は、被告日本防火ライトと被告後藤建材とは元請、下請の関係にはないと主張する。

しかし、原告が前述した如く、右両者は元請、下請の関係にあると云うべきである。

なぜなら、被告日本防火ライトは、その製品を顧客からの注文によつてその住所迄持参して引渡す義務を前提にその義務を被告後藤建材を介して履行しているのであるからである。但し、原告は、元請、下請の言葉そのものは、被告日本防火ライトの責任を考える上で重要ではないと考える。

問題は、被告日本防火ライトの製品を被告後藤建材に引渡しただけで、その顧客に対する義務が完全に履行されたものと云えるかどうかである。

しかし被告日本防火ライトはその製品を顧客先の住所まで運搬の上履行しなければならないことは明らかであり、被告後藤建材は、被告日本防火ライトの右の如き義務を代りに履行しているものであるから、顧客が注文者、被告日本防火ライトが元請人及び被告後藤建材は下請人と評しても決して間違いでないと考える。

(二)  被告らの過失責任に関する抗弁事実に対する原告らの認否

(1)  被告車に構造上の欠陥ないしは機能の障害がなかつたことは不知、その余は争う。

(2)  斎藤の過失について

本件事故は、斎藤の自動車運転者として当然要求される前方左右の安全の確認、信号機の設置されている場合には、それに従つて進行ないし停止すべきであるという基本的な注意義務を怠つてこれを看過した結果惹起されたものであることは自明である。

(3)  信失の過失の有無について

本件事故は斎藤の一方的な過失によつて惹起されたものと云うべきである。

(4)  被告らは、本件事故は東京都の重過失も原因であるから、その賠償額は減額されるべきであると主張する。しかし、そもそも右のごとき東京都に重過失があつたかどうか検討されるべき問題である。原告は、東京都には被告ら主張の重大な過失は一切ないものと考える。仮りに東京都に重大な過失があつたとしても、その関係は東京都と被告らとの関係であつて、原告が被告らに対して全額の損害賠償を請求することに何等さしつかえのないことである。被告らは名古屋地裁昭和四八年三月三〇日判決を援用しているがこれは、本事案とは内容を異にするものである。

したがつて、被告らの損害額等を右判決と同様減額することは理由がない。

第六証拠関係〔略〕

理由

第一

一  (事故の発生)

請求の原因第一項(一)ないし(六)及び原告車が損壊したことは当事者間に争いがない。

二  (責任原因)

(被告後藤建材の責任)

(一)1 請求の原因第二項(一)の(1)は当事者間に争いがない。

同(二)(2)のうち被告後藤建材が斎藤を使用し、同人が同被告の業務を執行中本件事故を起したことは当事者間に争いがない。そこで次に斎藤の過失の存否につき判断する。

(二) 〔証拠略〕によれば、次の事実が認められ、現場附近の写真であることに〔証拠略〕によつては未だ右認定を左右するに足らず他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

(1) 本件事故現場は、千葉県松戸市方面から東京都葛飾区方面に走る六号国道(以下甲道路という)と金町浄水場方面から常盤線方面に至る通称あづま通りとが交わる交差点(通称金町広小路交差点)である。六号国道は全幅員二五メートル、歩車道の区別のある道路で、車道幅員一六・六メートル、その両側の歩道の幅員は各四・二メートルである。右道路に南北から交差するあづま通り(以下乙道路という)は幅員約六・五メートルの道路である。路面はいずれもアスフアルトで舗装されている。

本件交差点の交通量は多く、一時間当り約五千台に達し、本件事故当時も甲道路の交通量は相当多く、車が渋滞していた。

(2) 本件交差点東方に近接して、甲道路と金町バイパス(以下丙道路という)が交わつて形成される交差点以下第一交差点という)がある。本件交差点、第一交差点附近の道路状況、信号機の設置状況はほゞ別紙第二見取図のとおりである。

(3) 信号機と信号機の青色から黄色、黄色から赤色に現示するのは、同時現示である。

信号機からは信号機は確認できず、信号機から約一九・二七メートル西方に進んだ地点で初めて信号機を約七四メートル前号に確認することができる。信号機と信号機の間隔は約九四・四メートルである。

国道から歩道沿いに走つて来た車にとつて信号機が歩道橋の柱と重なつたりして見づらい。本件交差点において昭和四六年度に本件と同形態の事故が五件発生したが、本件交差点の信号機が見づらいため、歩道橋の東側に一個を取付けるよう公安委員会に上申がなされ又、東京都も本件事故から二か月後の昭和四六年六月に歩道橋の直前に信号機を新設した。

(4) 信夫は原告車を運転して乙道路を北進し、とおりなれた本件交差点に差しかゝつたところ対面信号が赤色を表示していたので、交差点手前で一時停止した。やがて信夫は信号が青に変つたので徐行しながら発進し、本件交差点に進入した。原告車進行方向から右方の見通しは、甲道路右方に赤信号停止中の車があり悪かつた。

(5) 斎藤は、被告車を運転し丙道路から第一交差点を通り、甲道路上を時速約四〇キロメートルで進行した。同人は以前助手としてトラツクに同乗して東京方面に来たのは五回位あつたが、自分が運転して来たのは今回が初めてであつた。の信号を確認した後甲道路に進入したが、その後自車右側を走行する乗用車に気をとられたこともあつての信号機の存在に気付かず進行を続け、本件交差点に進入したところ、左前方に進行して来る原告車を認め、急ブレーキをかけたが及ばず、点で被告車前部と原告車右側ドア附近が衝突した。

(三) 右認定事実によれば、斎藤は本件交差点に直進、進入するにあたり、前方をよく注視し、信号機の表示するところに気付き、その表示に従つて進行すべき注意義務があるに拘らず、自車と併進する他の車両に気を奪われたことと、本件交差点の信号機が運転者にとつて甚だ見づらい欠陥があつたこととがあいまつてこれを怠り、本件交差点の信号が赤色を表示しているのを見すごし、漫然時速約四〇キロメートルで右交差点内に進入した過失がある(信号機が見づらかつたといえ、一時間当り五千台の交通量のある本件交差点で昭和四六年度の同種事故発生件数が五件であること。斎藤が併進車に気をとられていたことを併せ考えると同人に過失がなかつたとはいえない)。斎藤に過失がある以上その余の点につき判断するまでもなく被告後藤建材は免責される余地はない。従つて運行供用者の地位にあること、斎藤を使用し、同人が同被告の業務中に本件事故が発生したことを争わない同被告は本件事故により発生した原告らの損害を賠償する責任がある。

(四) しかし他方前記認定事実によれば、信夫としても、狭い乙道路から広い国道(甲道路)に出るにあたり、複雑な信号機のある交差点であることも通りなれて知つており、かつ右方の見通しのきかないところで信号の変り目に発進するのであるから、右方の安全を十分に確認して発進、交差点に進入すべきところ、やゝその点注意にかけるところがあつたものというべくその過失の割合は原告車二、被告車八と認めるのが相当である。

なお被告後藤建材は東京都の信号設置方法の瑕疵があるので、同被告は免責されるか仮に免責されないとしても賠償額を減額すべきと主張するが、たとい信号機の設置方法の瑕疵があるとしても、前認定のとおり斎藤に過失がある以上東京都との間に共同不法行為の成立することがあるのはともかくとして、被告後藤建材につき免責ないしは賠償額の減額を認めるべきであるとの同被告の主張は採用できない。

(被告日本防火ライトの責任)

(一) (運行供用者責任)

(1) 被告日本防火ライトの資本金、営業内容、支店所在地、被告後藤建材の本社登記が青森にあること、同被告の仙台における営業所が、被告日本防火ライト仙台工場の敷地を利用し、自家用貨物自動車を使用していること、後藤一郎の居住に関する主張(但し昭和四六年初め頃までにつき)、本件事故が被告日本防火ライトの製造運搬中に発生し、運転者斎藤が被告後藤建材の従業員であつたことはいずれも当事者間に争いがない。

(2) 右争いない事実と〔証拠略〕によれば次の事実が認められ、右認定に反する〔証拠略〕の一部は採用せず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(イ) (被告後藤建材の組織、規模等)

被告後藤建材は昭和四三年六月五日、資本金三〇万円で建築用骨材料の販売等を目的として設立され、他に骨材、砂、砂利の販売もしている有限会社であつて、本社を青森県八戸市におき営業所を被告日本防火ライト仙台工場敷地内においているものである。

登記面上の本社である八戸市の社屋は被告後藤建材の代表者である後藤の自宅であり、そこには同人の娘夫婦が居住していて営業の一部を担当しているに過ぎない。

八戸市には従業員三名が、仙台営業所には八名前後の従業員がいるが、後藤は被告日本防火ライト仙台工場敷地内の事務所に主として勤め、同所の方が実質上の本社となつている。

八戸市の方では日本高周波鋼業株式会社、橋本組、東北砂鉄、三井金属の運搬などの、仙台営業所の方では、被告日本防火ライトの外、正和運輸、高橋商事、日本ベニヤなどの仕事をしている。その使用自動車は本件事故当時大型貨物自動車三台、普通貨物自動車四台、ライトバン一台であり、右自動車はいずれも陸運局の認可をえていない自家用自動車であつたが、この事実は被告日本防火ライトも知悉していた。

(ロ) (被告日本防火ライトの組織、規模等)

被告日本防火ライトは、昭和三三年七月三〇日資本金四五〇〇万円で防火壁材、防火建築、資材の製造及び販売、耐熱及び防湿一般家庭用器具の製造及び販売等を目的として設立され、支店を福岡県と宮城県岩沼町押分字須加原九二番(以下仙台支店ないし仙台工場という)に設置している株式会社である。

(ハ) (被告後藤建材が被告日本防火ライトの製品を運送しはじめるに至つた経緯)

被告後藤建材代表者後藤の妻は、以前から当時の被告日本防火ライトの社長夫人と知り合いであつたが、昭和四三年中同夫人から後藤の妻に対し、その頃同被告仙台工場が建設中であり、御飯炊きに困つているからしてくれないかと依頼され、それをきつかけとして、後藤が被告日本防火ライト社長に運送の仕事をさせてほしい旨の申入れをしたことから被告後藤建材が被告日本防火ライトの製品運送をするようになつた。

当初は後藤の妻は被告日本防火ライト仙台工場で御飯炊きをし、後藤は、八戸市方に住んで日本高周波鋼業などの仕事をしており、やがて同年一〇月頃から被告日本防火ライトの仕事を始めるに至つたものである。

(ニ) (被告日本防火ライトの仕入れ、販売と運送事務)

被告防火ライト自身は運送用車両を有せずこれを他にゆだねているわけであるが、そのうち原料の仕入れに際しては、日通が中心となり、その外に高橋建材が起用されているが、被告後藤建材は関与していない。一方製品の運搬は、被告後藤建材、佐藤建材、越後商会、第一貨物などに委ねられ、被告防火ライトの運賃の割合からみると、同被告の運送の七割程度を被告後藤建材が占めていることになる。

被告後藤建材が被告日本防火ライトから得る収入は、月二五〇万ないし三〇〇万円に達し、被告後藤建材の収入の大きな割合を占めている。

被告後藤建材の運送範囲は東北、東京、新潟などに及び、前認定の保有車両台数、規模等から云つて相当忙しく事業がなされていたが、被告日本防火ライトの仕事を断わるようなことは未だかつてなかつた。

(ホ) (事務所、社宅、車両の保管場所)

(ⅰ) 被告日本防火ライト仙台工場の敷地は二つに分けられ、その境目に有刺鉄線が張られ、門柱によつてその中が同被告工場であることが示されている。そこに事務所がありタイムレコーダーによつて従業員の出社、退社時間の記録がなされ、或いは人の出入りの点検がなされる。

一方有刺鉄線の外側(以下本件敷地という)には、被告日本防火ライト仙台営業所やその従業員の社宅もあるが、一般人の出入りも自由にされている。

(ⅱ) 後藤は被告日本防火ライトから昭和四四年五月頃に本件敷地の一部五〇坪を月額一〇〇〇円で賃借し、事務所及び食堂用の建物を自分で建てた。食堂用の建物では一時後藤の妻が食堂を経営したが、利用者としては被告日本防火ライトの従業員の外一般住民も対象としていた。これらの建物はいずれも、直ちに撤去できるような木造トタン葺の、土台も基礎もない簡易なものであり、食堂用のものは道路予定地にかゝつていたため後に撤去された。

後藤の妻は昭和四五年一〇月頃食堂をやめ、後藤及びその家族は昭和四四年五月以来借りていた被告日本防火ライトの社宅からその食堂あと(自宅)に移り、昭和四七年三月頃には、更に他へ移転した。

(ⅲ) 後藤建材その他の運送店は本件敷地を貨物積み込み前の待機場所として使つているが、駐車場ないし保管場所として常駐することはない。

(ヘ) 本件事故は、被告後藤建材の運転手斎藤が、被告日本防火ライト仙台工場からその製品を積載し、神奈川県鶴見に運搬途中発生した。

(3) 以上の事実を綜合すると被告防火ライトは本件事故の際における被告車の運行につき、被告後藤建材と共に運行支配をもち、運行利益を収めていたと認めるのが相当であつて前掲(2)の各証拠により認められる(イ) 被告日本防火ライトは被告後藤建材の自動車購入について指示したり、資金援助したりすることもないこと、(ロ) 一般に被告防火ライトが被告後藤建材に資金の融通をしたり、経済援助をしたこともないこと、(ハ) 両者に人事交流がなされたり役員派遣がなされることもないこと、(ニ) 出荷に際し被告日本防火ライトは係員が数量検査のため立会う程度である等の事実は前記認定の妨げとはならず、〔証拠略〕中前認定に反する部分は採用できない。

以上により被告日本防火ライトは本件事故により生じた原告らの損害につき運行供用者としての損害賠償責任を負わなければならない。

(二) (使用者責任)

そこで次に被告日本防火ライトに民法七一五条の使用者責任が認められるかについて考えるに、

前認定の事実からみて斎藤運転手の運転行為については、被告日本防火ライトの指揮監督関係が直接にも間接にも及んでいると認められず、他にこれを認めるに足る証拠もない。従つて使用者責任は認められない。

(三) (過失)

被告日本防火ライトに運行供用者責任があること右のとおりであるから、免責の抗弁につき判断するに、斎藤に過失があること、前記被告後藤建材の責任の項で説示したとおりであるから、その余の点につき判断するまでもなく、被告日本防火ライトも免責される余地はない。信号機設置瑕疵による免責ないし、賠償額の減額も被告後藤建材の項で説示したと同一の理由により認められない。他方信夫に過失があつたことは前認定のとおりであるから被告後藤建材と同様に賠償額算定の際に斟酌する。

第二(損害)

一(一)  (財産的損害)

(1) 葬儀費用 二五万円

〔証拠略〕によれば信夫の葬儀費として三〇万円以上の支出がなされていることが認められるが、信夫の身分関係等からみてそのうち二五万円をもつて本件事故と相当因果関係ある損害と認める。

(2) 原告車修理費 七一万七〇七五円

〔証拠略〕によれば、原告車は本件事故により七一万七〇七五円の修理費を要する程度の損傷を受けたことが認められ、信夫は同額の損害を蒙つたことが認められる。

(3) 逸失利益 一〇六一万〇四一六円

〔証拠略〕を併せ考えると、信夫は死亡当時二八才の健康な男子で本件事故当時東京都内所在の金本土建に貨物車持込みで運送請負業として従事し、一か月一八万円の収入を得ていたことが認められこれに反する証拠はない。そして〔証拠略〕を併せ考えると車の減価償却費、修理費、ガソリン代等の必要経費として右収入のうち四割程度を控除するのが相当と認められる。

そこで右認定事実を基礎に生活費を収入の五割、稼動可能年数を三五年として、ライプニツツ方式により現在価値を算出すると次のとおり一〇六一万〇四一六円となる。

(算式)

一八万×〇・六×〇・五×一二×一六・三七四一=一〇六一万〇四一六

(二)  過失相殺

以上により被害者信夫に生じた損害は合計一一五七万七四九一円(うち原告車修理費を除く分一〇八六万〇四一六円以下同じ。)となるが前記原告の過失を斟酌し右のうちほぼ八割にあたる九二六万一九九二円(八六八万八三三二円)が賠償を求めうべき損害となる。

(三)  (相続)

原告らの相続割合については当事者間に争いがないので、原告らは信夫の右損害を八分の一宛相続したことになる。その額は各一一五万七七四九円(一〇八万六〇四一円)である。

二  慰藉料

〔証拠略〕を併せ考えると、信夫は幼くして両親に死別し、その後長男の原告三浦寶一(以下原告寶一という)が親代りとして信夫を養育し、信夫の死亡によつて大きな精神的苦痛を蒙つたことが認められる。従つて信夫の前記過失を斟酌し、原告寶一に固有の慰藉料一五〇万円を認めることとする。

その余の原告らについて信夫死亡による慰藉料は認められない。

三  損害の填補

以上により原告寶一は、二六五万七七四九円(二五八万六〇四一円)、その余の原告らは各一一五万七七四九円(一〇八万六〇四一円)の支払を求めうるところ、原告らは自賠責保険から五〇〇万円の支払を受けたので(この点は当事者間に争いがない)原告らの自陳するところに従いこれを債権額に応じて充当すると、原告寶一は一四二万二九六三円(一三五万一二五五円)その余の原告らは各六一万九八五八円(五四万八一五〇円)となる。

四  弁護士費用

〔証拠略〕によれば、被告らは原告らの損害を任意に弁済しないので、原告らはやむなく、本件原告訴訟代理人に取立を委任し、弁護士費用として二〇〇万円を支払うことを約していることが認められる。しかし本件事案の内容、審理の経過、認容額に照し、被告らに負担を求めうる弁護士費用相当分としては原告寶一分一五万円、その余の原告ら分各六万円が相当である。

第三(結び)

よつて原告らの本訴請求中、(1)被告後藤建材に対し、原告寶一において一五七万二九六三円及びうち弁護士費用を除く一四二万二九六三円に対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四六年九月一日から、その余の原告らにおいて各六七万九八五八円及びうち弁護士費用を除く各六一万九八五八円に対する前記日時から、それぞれ支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、(2)被告日本防火ライトに対し原告寶一において一五〇万一二五五円及びうち弁護士費用を除く一三五万一二五五円に対する前記日時から、その余の原告らにおいて各六〇万八一五〇円及びうち弁護士費用を除く五四万八一五〇円に対する前記日時からそれぞれ支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条、仮執行宣言について同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 佐藤壽一)

別紙第一

<省略>

別紙第二

<省略>

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