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東京地方裁判所 昭和46年(ワ)8162号 判決 1974年12月24日

原告 山坂啓子

右訴訟代理人弁護士 坂田治吉

被告 安富清

被告 安富武男

右両名訴訟代理人弁護士 堀野紀

主文

壱 被告安富清は原告に対し、四千八拾六万九千五百七拾参円およびこれに対する昭和四拾六年拾月八日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

弐 被告安富清・被告安富武男間になされた昭和四拾五年弐月拾四日付別紙目録(一)記載の土地の売買契約はこれを取消す。

参 被告安富武男は被告安富清に対し、別紙目録(一)記載の土地について所有権移転登記手続をせよ。

四 原告その余の請求を棄却する。

五 訴訟費用中、原告と被告安富清との間においては、原告に生じた費用の参分の弐を同被告の負担とし、その余を各自の負担とし、原告と被告安富武男との間においては全部同被告の負担とする。

六 この判決は主文第壱項に限り仮に執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

第一被告清に対する損害賠償請求

一  事故の発生

原告が山坂勝太郎運転の乙車に同乗し、昭和四四年五月一〇日午前一時三〇分頃、原告主張の場所において停車中、猪又健一運転の甲車が後方から走行して来て乙車の後部に追突したことは、当事者間に争いがない。

二  受傷の部位程度および治療経過ならびに後遺障害

≪証拠省略≫を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  原告は、本件事故により、頭部外傷、頭蓋内出血、脳幹損傷、外傷性頸部症候群の傷害を受け、昭和四四年五月一〇日から同年七月三日までの五五日間木村医院に入院し、同日に日赤、同月五日に星外科医院にそれぞれ一回通院し、同月八日から同年一二月一七日までの一六三日間東京医大に入院し、同月二七日同病院に、同年一月五日から同年二月一六日までの間に七回宮古病院に、同月一八日から同月二四日までの間に二回川崎市の生田マッサージ治療院に、同月二七日から同年三月七日までの間四回東京医大に、同年一月七日から昭和四六年四月三〇日までの間右上京中を除き三一五回宮古市の工藤治療院に、同年三月五日から昭和四八年一月二九日までの間に当初は隔日で、その後は週一回、時には月一回の割合で同市の三陸精神病院にそれぞれ通院し治療を受けた。

(二)  原告は、右傷害により、眩暈、悪心、嘔吐、眼振、頭痛等の症状強く、起立・歩行・坐位保持が困難で、左頸腕症候群および前庭小脳路系の障害の後遺障害をとどめて昭和四六年四月七日症状固定したが、現在なお、脳圧が高いため、湿度や天候状態に左右されて頭痛、頭重、耳鳴り、頭鳴り、めまい、嘔吐、後頭部から前頭部にかけての知覚の過敏性、しびれ感、情動失禁等の障害があり、前頭部と前頂部の外面が浮腫状態になっているため脳波の低電位が著明で、自力での歩行は難渋し、判断力はとぼしく、言語障害が著しく、今後てんかん性の発作の可能性もないではないが、現在のところ、脳波検査の結果からはてんかん特有の脳波はみられない。

原告は、現在、洗顔、食事、衣類の着脱、用便などの日常生活にはほぼ支障はないものの、今後とも温泉療法などの理学的療法を必要とし、右障害等のため軽作業であっても就業は困難であるが、徐々に軽快に向いつつあるものとみられている。

以上の事実が認められ(る。)≪証拠判断省略≫

三  責任原因

(一)  猪又が前記事故発生直前、前方注視ならびに適正車間距離保持の義務あるのにこれを怠り、そのため本件事故を発生せしめたことは当事者間に争いがないから、同人はこれによって生じた損害を賠償しなければならない。

(二)  猪又が、甲車の所有者である富士化成工業の被用者で、業務の執行につき本件事故を惹起させたことは当事者間に争いがない。

(三)1  ≪証拠省略≫を総合すると次の事実が認められる。

(1) 富士化成工業は、ビニールパイプの製造販売を業とし、その取締役は三名、監査役は一名であり、被告清が代表取締役であってその経営を専ら掌握していた。従って他の取締役である吉岡広之助、同吉岡潤子は営業には関与せず、単に名目的な取締役であって、一定の報酬を受けることもなかった。

(2) 富士化成工業は、東京都杉並区神明町に本店事務所を置き、そこに従業員四、五名を配置し、製造工場を埼玉県浦和市に設置して工場長豊田某を含め従業員一二名位を配置し、トラック二台、乗用車二台を保有していた。

(3) 被告清は、平常概ね本店で取締役の業務を遂行しつゝ、全従業員に対し指揮監督をとげ、とくに前記保有車両につき特定の安全運転管理者を置かず、猪又健一を含む右車両運転手に対し、車両の運行につき直接指揮監督していた。工場長豊田は、右指揮命令の伝達役にすぎなかった。

以上の事実が認められ(る。)≪証拠判断省略≫

2  右認定事実によれば、被告清の財産と富士化成工業の資産とが一体の状態にあって、被告清が甲車を所有しているとまでは断定できない。しかし、被告清は猪又健一の使用者たる富士化成工業に代って従業員および車両の運行を監督する者というべきである。

(四)  してみると、被告清は、民法七一五条二項にもとづき本件事故により原告の蒙った損害を賠償する義務を負う。

四  損害

(一)  治療費(原告主張第二の四(一)) 九〇六、六七八円

原告が本件傷害による治療費(原告主張第二の四(一))として合計九〇六、六七八円の支出を余儀なくされたことは当事者間に争いがない。

≪証拠省略≫によれば、原告は、本件傷害により、東京医大における治療に際し、担当医師において必要と認めたところの保険給付対象外とされる治療を受け、その料金の支出も余儀なくされたことが認められるが、右治療は医師において必要と判断して施された以上、本件受傷と相当因果関係にあるものというべきである。治療が保険給付の対象外であるとの一事により相当因果関係なしということはできない。

原告が木村医院において要した治療費中二〇一、七六二円が社会保険から填補されたか否かにつきみるに、≪証拠省略≫中には木村医院の院長木村史夫が社会保険に右金員を請求した旨の記載もあるが、しかしまたその中に原告に右金員を請求する旨の記載もあるから、これだけでは、社会保険から右金額の填補を得たとは認められず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

(二)  医薬品代および栄養剤費(原告主張第二の四(二)) 八〇、三九〇円

≪証拠省略≫によれば、原告は、本件傷害治療のため医師の勧めにより医薬品、栄養剤、衛生品の服用および使用を要し、八〇、三九〇円の支出を余儀なくされたことが認められる。

(三)  入、通院治療諸雑費(栄養食品費、通信費、診断書証明書等費をも含む。原告主張第二の四(三)(四)(十)ないし(十二)) 四三二、三八〇円

1 ≪証拠省略≫によれば、原告は、本件受傷により、

(1) 牛乳、野菜、魚肉、清涼飲料、菓子、すし等の栄養食品費(原告主張第二の四(三)) 六〇万余円

(2) 治療用氷代(同第二の四(四)1、東京医大の分については争いがない。) 一〇八、七八〇円

(3) 病臥中の肌着等の洗濯代(同第二の四(四)3) 九万余円

(4) 頸部に負担をかけないように美容師に洗髪を依頼したことによる洗髪代(同第二の四(四)4) 六万余円

(5) 入院中のガーゼ・ちり紙・ねまき・肌着・タオル・歩行練習靴、退院用ニットスーツ等の代金等(同第二の四(四)2) 約三九万円

(6) 事故発生地、木村医院、東京医大、東京都内の山坂勝太郎方、川崎市の土合敏子方から、宮古市の原告自宅等への連絡電話料(同第二の四(十)) 一一万余円

(7) 診断書・証明書等の発行および謄写費用(同第二の四(十一)) 五千余円

(8) 事故関係書類作成のための文房具代、連絡のため郵送料等入院雑費以外の前各項目にはいらない雑費(同第二の四(十二)) 三万余円

(9) 温泉入湯料(同第二の四(十二)) 一〇〇、〇〇〇円を支出するのやむなきに至ったことが認められる。

2 ≪証拠省略≫中には宮古市からの電話料、公衆電話からの電話料の支出明細が記載されているが、その裏付はない。しかもその合計二一万余円ありとしても本件事故との相当因果関係は疑わしい。

≪証拠省略≫中、二本松在住中の栄養食品費五〇、〇〇〇円は、前記第一の四(三)1(1)と重複している疑いがある。光熱費一〇〇、〇〇〇円、日当三〇、〇〇〇円、事故関係者への謝礼金二〇、〇〇〇円、同御食事代五〇、〇〇〇円、同宿泊代六〇、〇〇〇円はこれを裏付ける証拠を欠くのみならず、それ自体事故との相当因果関係自体も疑わしい。

よってこれらの費目は計上しない。

3 右第一の四(三)1(2)治療用氷代一〇八、七八〇円、同(9)温泉入湯料一〇〇、〇〇〇円はすべて本件事故と相当因果関係ありといえる。しかし、その他の項目の全額がかゝる関係ありとは断言できない。例えば同(1)の栄養食品費の中には見舞客に届けた果物等が含まれているところからみれば、必ずしも原告がその全部を消費したとはみられない。また(4)の洗髪代をみると、原告は昭和四四年一二月に一回三〇〇円の割合でシヤンプー代一万一千余円を費しているが、これが全部必要なものであるとは考えられない。さらに同(5)の入院中のガーゼ等の費用をみると、原告一人では消費しきれないような多数のタオル・肌着・靴下等が含まれている。

これらの事情と、前記認定の、原告の傷害の部位程度、入通院状況に照らし、原告が本件事故と相当因果関係ある損害として被告清に対して請求し得る額は、

前記氷代および温泉入湯料合計二〇八、七八〇円

その他の費目中で 合計二二三、六〇〇円

(事故発生の日である昭和四四年五月一〇日から東京医大を退院した同年一二月一七日までの間通院期間四日間を除く二一八日間は遠隔地入院であることも考慮して、一日当り七〇〇円計一五二、六〇〇円右通院期間と同月一八日から昭和四八年一月二九日までの少くとも三五五日に及ぶ通院につき一回当り二〇〇円計七一、〇〇〇円の合計額)

総計 四三二、三八〇円である。

(四)  医師および看護婦に対する謝礼費(原告主張第二の四(五)) 一四、五二〇円

≪証拠省略≫によれば、原告は、本件受傷により、医師および看護婦に対する謝礼(現金および物品)として、一四、五二〇円の支出を余儀なくされたことが認められる。前記認定の原告の傷害の部位程度およびこれに対し医師等の払った努力ならびに入・通院状況に照らし、右支出は本件事故と相当因果関係にある損害といえる。

(五)  見舞客に対する接待費および相談謝礼費(原告主張第二の四(六)) 〇円

≪証拠省略≫によれば、原告は、本件受傷により、見舞客に対する接待費、返礼費および原告経営の美容室の美容材料保存相談、本件事故事実調査協力、土合敏子の本件に関する外出中の同人宅留守番謝礼費として四万余円を支出したことが認められるが、右支出は、原告の受傷と相当因果関係ありとはいえず、被告清に対して賠償を求め得ない費用というべきである。

(六)  付添看護費留守番報酬(原告主張第二の四(七)(八)) 一、二三二、三〇〇円

≪証拠省略≫によれば、原告は、本件傷害治療のため、昭和四四年五月一〇日から同年六月二日までの間は昼夜二交替の付添看護を必要とし、爾後昭和四六年四月三〇日まで付添看護を必要としたので、看護婦にこれらを依頼し、付添料一、二〇三、五〇〇円、付添人交通費二八、八〇〇円の支出を余儀なくされたことが認められる。右支出は、本件事故と相当因果関係にあるものと認めるのが相当である。

≪証拠省略≫によれば、原告は、原告の付添看護人に対し食費として六万余円、原告の姉土合敏子が昭和四四年五月から昭和四五年四月まで原告を付添看護するため、および同四六年四、五月今後の治療方針等打合わせのため、その川崎市所在の自宅から宮古市の原告の入院先等に赴き、留守にした際、足立ナツエに留守宅の家事および土合敏子の子供らの保育を依頼し、その報酬として合計六一万余円をそれぞれ支出したことが認められるが、すでに前記のとおり付添看護費を被告清に負担せしめる以上、食費はその中に含まれるとみるべきであり、また、原告の付添および宮古迄の旅行は必要ありとみられないので、付添中の保育報酬も含め右各支出は、本件事故と相当因果関係になく、被告清に対して賠償を求め得ない費用というべきである。

(七)  入退転院および通院の各交通費(原告主張第二の四(九)) 三二二、一八〇円

≪証拠省略≫によると、原告はその治療等のため、本件事故と相当因果関係にある左記(但9、

12、15、28、30を除く。)の交通費等を支出したことが認められる(なお便宜上このうちかゝる関係ありと認められないものについての判断、およびその場合の被告清の負担すべき金額を当該項目において示す。)。

1 原告は未婚でありその母も老令であるため、これと最も親身な間柄にあった姉土合敏子が昭和四四年五月一〇日事故発生原告危篤の報を受け、川崎市の自宅から原告の入院先たる福島県二本松市所在木村医院に赴き、所轄警察署等を廻り、帰宅した際の旅費雑費、および同日原告の母が宮古市の自宅から同様二本松市に赴いた際のタクシー代、ならびに同地での事故処理のための交通費(六二ないし七二、七四、七五、九七) 三三、五八〇円

(なお七三中被害者付添費は前に認定した付添看護料で足り、同書証中のその他の見舞客接待費等とともに相当因果関係ありとはいえないから除外した。)

2 土合敏子が同年五月三一日から六月二日まで、木村医院の医師の要請により、川崎市の自宅から二本松市の同医院まで赴き、自らの用も弁じ得ない原告のため入院費の支払、今後の措置につき協議した際の往復旅費等(七六ないし七八、八〇ないし八二) 一四、一二〇円

3 土合敏子が同年六月二一日原告に代り、佐藤弁護士と本件事故に伴う法律上の問題点につき相談した際の交通費等七九) 一、四六〇円

4 土合敏子が同年六月二三日から二四日にかけて、川崎市の自宅から右木村医院に赴き、原告を東京都渋谷区の日赤に転院させるべく木村医院の医師と打合わせ、転院必要書類を受領し、かつ所轄警察署に事故関係書類交付方を依頼した際の往復旅費(八三ないし九〇) 九、〇六〇円

5 土合敏子が川崎市の自宅から同年六月三〇日前記日赤に赴き原告の転院につき打合わせた際の交通費(九一) 二五〇円

6 原告が同年七月二日治療の必要上、二本松市の右木村医院から東京都渋谷区の日赤に転院しようとしたが、空室がないため、診断の結果即日川崎市の土合宅に落ちつく際の旅費および土合敏子が右旅行の付添のため川崎市の自宅から二本松市まで往復した際の旅費、宿泊料、報酬、雑費ならびに川崎市の自宅から右病院までの出迎人旅費(一ないし八) 二〇、七四〇円

7 原告が同月五日川崎市の土合宅から同市の星外科医院に通院する際の交通費(九) 二四〇円

8 原告が同月八日川崎市の土合宅から東京都新宿区の東京医大に入院する際の交通費(一〇) 一、五六〇円

9 土合敏子が同年七月八日から一二月一七日まで右自宅から右病院に入院中の原告の看護のため通った際の交通費(一六一) 九一、二〇〇円

(この間前記のとおり看護婦を付添わせており、さらに土合の付添を必要とするとは認められないから、これは相当因果関係を欠く。)

10 土合が原告の宮古市で営む美容業の経営に関与していた関係上、同年八月一〇日以降後記物的損害の実情調査の為川崎市の自宅から宮古市、二本松市に赴き帰宅した際の交通費(九九ないし一〇一) 七、一八〇円

11 土合が同年八月一七日から二九日にかけて川崎市の自宅から宮古市に赴き、右美容院の経営者たる原告の長期入院に伴う善後策を協議した際の往復交通費(九二ないし九五、一〇二ないし一〇九) 三二、七四〇円

(この中には同伴した土合の子供三人の交通費と車中雑費((所要六、一二〇円の三分の二たる四、〇八〇円とみる。))との合計額二〇、一四〇円も含むため、これは因果関係なしとして除外する。帰途上野、川崎間の旅費は、タクシーのみで一、七九〇円でなく、電車タクシーで計二〇〇円とする。よって被告の負担すべき金額は一一、〇一〇円である。)

12 某が同年八月二一日、二二日東京都内から二本松市まで診断書料支払い等のため往復した際の交通費日当等(九六、九八) 一〇、二四〇円

(これは、旅行者の氏名も不明であり、この用件のため旅行を要するとの必要性が明らかでないから、因果関係ありといえない。)

13 原告が同年一一月三〇日医師のすすめにより物理療法を試みた際の治療費雑費(一一〇、一一一) 一一、五五〇円

14 原告が同年一二月一七日東京医大から宮古市の病院に転医すべく、一まず右病院を退院して川崎市の土合方におちついた際の交通費および同月一八日川崎市の土合方から宮古市の自宅までの必要付添人を宮古市から呼んだ際の付添人交通費(一一ないし一五) 一一、六九〇円

(このうち上野、川崎間の交通費は一、八五〇円でなく前記のとおり二〇〇円と計算するから被告清に負担せしめる額は一〇、〇四〇円となる。)

15 原告の身内二名が同年一二月一九日から二一日にかけて宮古市から川崎市の土合方に赴き今後の方針を打ち合わせた際の往復旅費(一一二ないし一一七) 二四、二四〇円

(この打合せのため二名上京する必要ありとはいえないからこの支出は因果関係ありとはいえない。)

16 原告が同年一二月二七日川崎市の土合方から東京都新宿区の東京医大に通院した際の交通費(一六、三四) 二、八八〇円

17 原告が同年一二月二九日宮古市の自宅附近の病院で治療を受けるべく川崎市の土合方から同地に赴いた際の原告および付添人一名(なお盛岡までの出迎付添人一名)の旅費報酬雑費(一七ないし二〇、三六) 一九、九三〇円

18 土合敏子が同年一二月二九日東京医大から紹介状を得、原告のレントゲン写真を借り受け、これを原告の転医先たる宮古市の宮古病院に持参し、かつその病院の医師に従前の経過を報告し今後の治療方針を相談して、昭和四五年一月七日帰京し、右写真を返還する際の往復旅費雑費(一一八ないし一三〇、一三二) 四七、一二〇円

(この中には同伴した土合敏子の子供三人と山坂勝太郎との交通費と車中雑費((所要七、九三〇円中五、九三〇円とみる))と見送人帰途交通費入場券合計二六、七九〇円も含むが、これは相当因果関係ありといえないので、この分を除外し、上野川崎市間の交通費はタクシーで往復計四、三二〇円でなく前記のとおり往復四〇〇円として計算すると被告清に負担させる額は一六、四一〇円である。)

19 原告が同年一月五日から同年二月六日まで宮古病院に通院した際の往復交通費(四〇、なお後記27参照) 一、六八〇円

20 原告が同年一月中宮古市の工藤マッサージ治療院に通院してマッサージ治療を受けた際の往復交通費(四三) 三、一二〇円

21 原告が同年一月から昭和四六年三月にかけて宮古市附近所在テング湯等の温泉で入浴治療した際の往復交通費(五七ないし六一) 二六、四八〇円

22 原告が昭和四五年二月七日病状悪化による東京医大通院治療のため宮古市から上京、川崎市の土合方に落ちついた際の、原告および付添人一名の上京旅費、雑費、日当、川崎市の土合方から上野駅までの出迎人旅費、右病院との打合せのための川崎市の土合方から右病院までの往復交通費、右付添人の同月一〇日宮古市への帰宅旅費(二一ないし二四、一三一、一三三ないし一三六) 二六、三七〇円

(このうち留守依頼家事手伝人支払費用一、五〇〇円は因果関係ありといえず、付添人帰宅旅費中川崎市の土合方と上野駅間は二、四二〇円全額でなく二〇〇円に限り相当因果関係ありといえるから、結局被告清に負担させる額は二二、六五〇円である。)

23 原告が同年二月川崎市の土合方から附近の生田マッサージ治療院に二回通院しマッサージ治療を受けた際の往復交通費(二九、三〇) 九二〇円

24 原告が同年二月二七日から三月七日にかけて四回東京医大に通院した際の往復交通費(三一ないし三五) 一一、五〇〇円

25 原告が同年三月一四日再び宮古病院に転医すべく、まず宮古市から付添人一名を呼び寄せた際の旅費、雑費、日当、連絡通信費、付添人出迎費、および原告と付添人一名の川崎市土合方から宮古市の自宅までの交通費(二五ないし二八、三六、一三七ないし一四〇) 二七、七三〇円

26 原告が同年三月一八日から昭和四六年三月まで宮古市の工藤マッサージ治療院にマッサージ治療のため、および三陸精神病院に治療のため通院した際の往復交通費(四四ないし五六) 五四、八六〇円

27 原告が昭和四五年三月二三日から八月まで宮古市の宮古病院に治療のため通院した際の往復交通費(四〇ないし四二、なお前出19参照) 一〇、一〇〇円

28 土合敏子が同年三月二四日から同年四月五日にかけて川崎市の自宅から宮古市に赴き原告の今後の方針等につき協議した際の往復交通費(一四一ないし一四七) 三三、八九〇円

(土合はすでに昭和四四年八月および一二月に宮古市に赴き原告の今後の方針等につき協議をとげており、当時の原告の前記病状にかんがみても、同伴した子供三人の旅費も含むこの旅行打合わせ費用が、被告清に負担せしむべき相当因果関係ある損害とは認められない。)

29 原告が昭和四五年四月六日東京医大で受診した際の往復交通費(三七、三八) 三、一三〇円

30 土合敏子が同年四月二九日から五月七日にかけて東京都内から盛岡市宮古市に赴いた際の往復旅費(一四八ないし一五九) 四〇、〇〇〇円

(この旅行は目的も必要性も明らかでないから、相当因果関係ありとはいえない。)

31 以上を合計すれば本件事故と相当因果関係ある本項の損害は三二二、一八〇円となる。これに反する≪証拠省略≫は採用しない。

(八)  物的損害(原告主張第二の四(十三)) 一、八八一、一二五円

≪証拠省略≫によれば、原告は、本件事故当時、乙車に積載していた原告所有の美容機器電気器具等が本件事故により破損滅失したため少なくともその時価相当額として一、五八六、〇二五円、原告所有の携帯身廻品が散逸滅失したため、少くともその時価相当額として二九五、一〇〇円を下らない各損害を蒙ったことが認められる。右各損害は本件事故と相当因果関係にあるものというべきである。

(九)  休業損害および逸失利益(原告主張第二の四(十四)) 二九、〇〇〇、〇〇〇円

1 ≪証拠省略≫を総合すると次の事実が認められる。

(1) 原告は、昭和一四年六月一四日出生し、岩手県立宮古高等学校卒業後、上京して東京都新宿区所在の山野美容学校に入学し、昭和三六年九月七日美容師の資格を得て東京都内の美容院で約五年間働き、昭和四一年八月郷里の宮古市で「シャイン美容室」を開業し、美容業のほか、和洋装の小物および装飾品ならびに花嫁衣裳等の着付貸付も兼業していた。

(2) 原告は、事故当時二九才で右営業のため、佐々木隆所有の木造二階建建物の一階約六坪の部分等を使用し、常時従業員五名を雇用し、花嫁衣裳をそろえ、洋裁学校のフアッションショーの際にはこれを展示したりして盛んに営業していた。

(3) 原告は、本件事故後稼働できず、昭和四五年三月一六日から宮古市より生活扶助と医療扶助との支給を受ける状態にある。

シャイン美容室は、原告の受傷により昭和四五年五月頃まで閉店し、その後再開して営業するようになったものの、雇人である美容師が長く居付かず、閉店を余儀なくされ、その間の収益はなかった。

以上の事実が認められる。

2 右事実によると、原告は、本件事故にあわなければ、シャイン美容室の営業を少なくとも事故以前と同様に爾後六三才に至るまで継続でき、その後六七才まではその約六〇パーセントの労働能力を保持したはずである。

3(1) 原告の収入につき、後記統計を除きこれを肯認するに足りる適確な証拠はない。

(2) ≪証拠省略≫には花嫁衣裳及び付属品買付代金額が計一〇、〇〇〇、〇〇〇円に及ぶとの記載をみるのであり、証人土合敏子もこれに照応する証言をする。もし原告主張のように、これがすべて真実であり、かつ原告の開業以来の右営業収益をもって右衣裳と美容器具との代金および本件事故による治療費等がまかなわれたとすれば、原告の年収益は平均約五、〇〇〇、〇〇〇円を超えることになる。

しかし、≪証拠省略≫によると全日本美容業環境衛生同業組合連合会調査の美容業経営従業員規模別年間収入・支出の状況(昭和四四年一月~一二月)によれば、原告が営業していた宮古市のように人口十万人未満の都市における従業員規模四名の美容業の年間平均総売上高が二、五〇九、六六二円、副収入が一八三、九三七円収入合計二、六九三、五九九円で、材料費三三二、〇二一円、人件費八五九、九二四円、その他の経費六二七、六〇七円支出合計一、八一九、五五二円となり、営業利益の年額平均八七四、〇四七円であることが認められる。

原告の主張によると、その収益額は衣裳着付貸付業を含むとはいえ、従業員数において右調査と大差ないにもかかわらず、この調査による平均収益額の六倍にも達し、当時の所得税法上の課税最低額をはるかに超過する。ところが、証人土合敏子の証言によれば、原告はこの間所得税の申告もせず、税務当局から課税処分も受けていないことが明らかである。このような多額の脱税がもし現実に存在したとすれば、宮古市のような地域において税務当局がこれを今日まで見逃す可能性も少いのである。このような理由により、原告の右主張収益は、前記書証およびこれに照応する証人土合敏子の証言ありとはいえ、到底これをもって証明されたとはいい難い。

(3) ≪証拠省略≫には、右美容室が、昭和四三年五月から昭和四四年四月までの間に、ガス代・店舗賃借料・水道料金・電気料金・営業用雑誌等の経費として少なくとも二三九、二三九円を要し、人件費として七七七、五〇〇円を要したとの記載をみる。美容業の如く労働力を要し、労賃が必要経費のかなりの部分を占める業種において、人件費は収益推定の有力要素である。もしこの人件費が真実とすれば、その額は前記調査の人件費をやや下廻るのであるから、原告の美容業による営業収益は前記調査における収益と著しい差をみないといえる。

(4) 前記調査は美容業のみに関しその調査にいう副収入も衣裳着付貸付業を含まない。そして≪証拠省略≫中には、原告は昭和四三年五月から昭和四四年四月までの間に花嫁衣裳着付貸付の依頼を受け、その代金として三、五八六、六〇〇円の収入を得たとの部分がある。原告はこの半額の一、七九三、三〇〇円が収益であると主張するが、前記五名程度の従業員をもって、美容業で前記調査による八七四、〇四七円に近い収益を、衣裳の着付貸付業によりその二倍に近い一、七九三、三〇〇円の収益を挙げることは到底考えられない。

しかし、原告が花嫁衣裳をそろえてその着付貸付業を営んでいたことは明らかであるし、前記各証拠によれば、原告がこれによりともかくも収益を挙げていたことは認められる。

(5) よって原告の昭和四四年中における美容業による収益を右調査の示す収益と同額の八七四、〇四七円と推認すべく、これと衣裳着付貸付業による収益とを併せその同年中の得べき収益を一、二〇〇、〇〇〇円と推認するのを相当とする。

(6) ところで昭和四四年以降における一般の所得金額の増額は著しいものがある。逸失利益の算定にあたり、少くとも口頭弁論終結までの間に発生の事実により確実に認定できるような増額は、これを考慮し、その後はこれを考慮しないことが、損害賠償制度を支配する衡平の理念に適する。

労働省調査賃金構造基本統計調査報告によると、産業計、企業規模計、新高卒三〇才ないし三四才の女子労働者の平均給与額の前年度のそれに対する増加率は、

昭和四五年 一三パーセント

昭和四六年 一七パーセント

昭和四七年 一二パーセント

昭和四八年 二一パーセント

であることは明らかである。

右は賃金労働者の賃金増加率であり、原告は自営業者であるけれども、この増加率はほぼ同一と考える。従って原告の得べき収益を右増加率を参考として

事故発生の昭和四四年五月一〇日から同年一〇月八日まで 五〇〇、〇〇〇円

昭和四四年一〇月九日から一年間 一、三五〇、〇〇〇円

昭和四五年一〇月九日から一年間 一、五七〇、〇〇〇円

昭和四六年一〇月九日から一年間 一、七五〇、〇〇〇円

昭和四七年一〇月九日から三〇年間(六三才まで) 年額二、一〇〇、〇〇〇円

昭和七七年一〇月九日から四年間(六七才まで) 年額一、二五〇、〇〇〇円と推認するのを相当とする。

4 原告の休業損害および逸失利益は、右収益額を基礎とし、前記認定の原告の傷害の部位程度、治療経過および後遺障害に鑑みると、事故発生の日である昭和四四年五月一〇日から原告の後遺障害の固定した後である昭和五四年一〇月八日までの一〇年間はその一〇〇パーセント、その後五年間はその八〇パーセント、更に二二年間はその五〇パーセントの部分に限って本件事故と相当因果関係にあるものと認めるのが相当であるが、これを超えるものは本件事故と相当因果関係にあると認めることはできない。

5 以上の相当因果関係にある原告の休業損害および逸失利益の昭和四六年一〇月八日当時の現価を修正ライプニッツ式により、年五分の割合の中間利息を控除して算定し、これが将来の得べき利益を基礎とする等不確定な算定要素を含むものであり、所詮これは労働能力喪失の金銭的評価にすぎないことを考慮し、控え目に端数を調整すれば、その額は二九、〇〇〇、〇〇〇円となる。

(十)  慰藉料(原告主張第二の四(十五)) 四、〇〇〇、〇〇〇円

本件事故の態様、前記認定の原告の年令、傷害の部位程度、入・通院期間、後遺障害の部位程度、将来の見通し等諸般の事情を考慮すると、原告が本件事故により蒙った精神的損害は、四、〇〇〇、〇〇〇円をもって慰藉されるべきが相当である。

(十一)  弁護士費用(原告主張第二の四(十六)) 三、〇〇〇、〇〇〇円

≪証拠省略≫によれば、原告は、被告清が右損害額合計三七、八六九、五七三円の任意弁済に応じないので、弁護士である原告訴訟代理人に本件訴訟の提起追行を委任し、手数料および成功報酬として請求額の一割相当額の支払いを約したことが認められるが、本件事案の内容、審理の経過、認容額に照らし、原告が被告清に対し、事故による損害として賠償を求めうる相当因果関係にある弁護士費用の額は三、〇〇〇、〇〇〇円が相当である。

五  結論

四〇、八六九、五七三円

以上によって明らかなように、原告が被告清に対し、四〇、八六九、五七三円およびこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四六年一〇月八日から支払い済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において本訴は理由があるのでこれを認容し、その余の請求を棄却する。

第二債権者代位権および詐害行為取消権

一  債権者代位権(原告主張第三の一)

(一)  原告が被告清に対し損害賠償債権四〇、八六九、五七三円を有することは前述したとおりである。

(二)  被告清が、昭和四五年五月頃、同被告の実兄である被告武男に対し被告清所有の本件土地を売渡し、昭和四六年五月二七日本件所有権移転登記手続をしたことは、当事者間に争いがない。

右売買契約にもとづく所有権移転が両被告の真意ではなく、かつ真意でないことについて両被告間に通謀があったと認めるに足りる証拠はないから、被告清は被告武男に対し本件所有権移転登記の抹消登記手続を求めることはできない。

(三)  従って、右抹消登記請求権の代位行使を求める原告の請求は理由がない。

二  詐害行為取消権(原告主張第三の二)

(一)  被告清は原告に対し前記のとおり損害賠償債務を負担している。

(二)  ≪証拠省略≫によれば次の事実が認められる。

1 被告清は本件事故後である昭和四五年二月一四日東亜土地建物株式会社(以下「東亜」という。)から本件土地建物(但し、本件建物は当時未完成)を代金一〇、〇〇〇、〇〇〇円で買い受け、当時被告武男から右買受資金の一部にあてるべく二、〇〇〇、〇〇〇円を弁済期の定めなく借り受け、同年春原告から本件損害賠償債務につき本件建物の仮差押をうけ、ついで被告武男に対する右債務担保のため同年五月頃同被告に対し本件土地を売り渡し、本件建物完成後右代金を完済して、昭和四六年五月二七日本件土地につき前記東亜から中間省略して被告武男あて本件所有権移転登記を経、本件建物につき被告清所有名義とした(仮差押、本件土地売却、本件所有権移転登記はいずれも争いがない。)。

2 被告清は被告武男に対し本件土地を譲渡担保に供する前、資産として時価各約五、〇〇〇、〇〇〇円の本件土地と本件建物とを所有するのみであり、肺結核のため労働収入に乏しく、負債として原告に対する本件損害賠償債務四〇、八六九、五七三円および東亜に対する本件土地建物買受代金残若干ならびに被告武男に対する右債務二、〇〇〇、〇〇〇円を負担していた。

3 被告清は現在資産として時価五、〇〇〇、〇〇〇円以下の本件建物を所有するのみであり、病身で、富士化成工業倒産のため労働収入なく、負債として前記本件損害賠償債務と被告武男に対する右債務全額とを負担している。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(三)  右認定事実によれば、被告清は、原告に対する本件損害賠償債務が発生した後、原告の右債権を害する意思をもって、被告武男に対する前記債務担保のため同被告に本件土地を売却したものであり、右売却は一般財産の減少を招き、他の債権者を害するといえる。

(四)  してみると、被告清と被告武男間の右売買行為を詐害行為であるとして取消し、被告武男に対し、本件土地について被告清あての所有権移転登記手続を求める原告の請求は理由がある。

第三むすび

以上のほか訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 沖野威 裁判官 玉城征駟郎 裁判官田中康久は転官のため署名押印できない。 裁判長裁判官 沖野威)

<以下省略>

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