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東京地方裁判所 昭和46年(ワ)9349号 判決 1974年9月09日

原告 日本大学文理学部後援会

右代表者会長 篠原浩

右訴訟代理人弁護士 高木国雄

被告 近藤吉治

被告 菊池栄一

右両名訴訟代理人弁護士 揚野一夫

同 遠藤義一

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は篠原浩の負担とする。

事実

第一申立

(原告)

被告らは原告に対し各自金一〇〇万円およびこれに対する昭和四六年一〇月三一日より支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

仮執行宣言

(被告ら)

(本案前の申立)

主文同旨

(本案についての答弁)

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二主張

(原告)

請求原因

1  原告は、学校法人日本大学の文理学部並に同附属桜丘高校に在学する学生・生徒の父兄(正会員)ならびに卒業生の父兄で原告理事会より推薦された者(特別会員)を会員(構成員)とし、右大学及び高校における教育の援助と会員相互の親睦を図ることを目的として昭和二一年に設立された所謂権利能力なき社団である。

2  原告は、その会則により役員(会長一名、副会長一名、学校代表として文理学部長、同学部事務局長二名を含む一〇名以内の理事)を置き、右役員をもって理事会を組織している。会長および副会長は理事の互選により毎年選出され、会長は内部的には会務を総理し、外部的には原告の代表機関として行為する権限を有している。

原告代表者篠原浩は昭和三六年以来引続いて会長の地位に在り、被告両名は現在いずれも原告の理事(被告近藤は副会長、被告菊池は文理学部長)である。

3  被告両名および訴外佐藤常蔵(日本大学本部事務局長)らは、原告の有する莫大な後援会費を恣に使用し学校を運営したいと考え、その方法の一つとして原告を解散し、その資金を大学等に吸収しようと企図し、昭和四五年一〇月二六日午後六時より文理学部内学部長室に理事を招集したうえ原告理事会と称するものを開催し、原告を解散する旨の決議を強行することにより、あたかも原告自身が自ら解散決議をなし、消滅したかの如き外観を作為してこれを公表した。

しかしながら、右解散決議は左の理由により無効である。

(一) 原告は、その会としての性質上もともと解散を全く予定していない団体である。

(二) 仮に解散が許されるとしても、原告の解散は理事会決議ではなし得ず、総会の特別決議を要すると解すべきである。

(三) 仮に理事会決議による解散が可能であるとしても、理事会招集の権限は原告会長のみが有しているところ、被告ら主張の理事会は会長以外の無権限者が招集して開催されたものであるから、その理事会は有効に成立していない。

4  その後、被告らは原告が解散・消滅したことを前提として、被告菊池が委員長に就任した「文理学部後援会費運営委員会」なる会を組織し、原告が所有する次項記載の預金(本件預金)の管理・運営・執行を開始することにより(通帳・印鑑等は一切被告らがその支配下において所持している)、原告の本件預金に対する管理支配を全く排除してしまった(従来、本件預金は原告代表者が管理運営し、預金名義も会長名でなされていた)。

5  被告らの右不法行為により、原告は左の損害を被った。

すなわち、原告が昭和四五年一〇月現在会員の援助資金として株式会社住友銀行下高井戸支店に有していた本件預金の内訳は、普通預金四、三六六万一、〇三七円、定期預金二億円、合計二億四、三六六万一、〇三七円であったが、前記のとおり原告は本件預金に対する管理支配を失った結果、右同額の損害を被ったものである。

6  よって、原告は被告両名に対し、各自、右損害中の金一〇〇万円およびこれに対する本件訴状が被告らに送達された日の翌日である昭和四六年一〇月三一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(被告ら)

一  本案前の主張

原告は当事者能力ないしその適格を有しないものであるから、本訴は不適法として却下さるべきである。即ち、

1 原告・日本大学文理学部後援会は、根本規則は有したものの、最も重要な総会運営規定を欠いているばかりでなく、多数決原理も行われていなかった。また、同後援会の活動は、会則上学校法人日本大学の文理学部(以下「文理学部」という)の意向に反しない制約を受け、現実の活動状況も常に文理学部および同大学附属桜丘高等学校側がイニシアチブをとっていたのであるから、独立の団体としての色彩は極めて薄弱であり、権利能力なき社団とはいえず、当事者能力を有しないものである。

2 仮に、社団性が認められるとしても、原告は昭和四五年一〇月二六日午後六時文理学部長室で開催された理事会において解散決議がなされ、かつ同時に清算が終了しており現在存在しないのであるから、本件訴は不適法である。

3 原告は、請求原因5項記載の預金の所有者ではなく、本訴につき当事者適格を有しない。

二  本案についての認否

1 請求原因1項の事実は、かつて、日本大学文理学部後援会と称する会が存在したことは認めるが、同会が権利能力なき社団であるとの点は争う。同会は本案前の抗弁2項記載の如く現在存在しない。

2 同2項の事実のうち、原告の存在を前提とする原告の主張はすべて否認するが、かつて同後援会が原告主張の如き組織規程を有し、篠原浩および被告両名がその主張のとおり同会の役員の地位に就いていたことは認める。

3 同3項の事実のうち、原告主張の日時に、同会理事会が開催され解散決議がなされたことは認めるが、右解散決議が無効であるとの点は争う。同会会則には理事会招集に関する定めはないから、各役員はいずれも理事会の招集権限を有しているものと解すべきである。

4 同4項の事実のうち、本件預金が原告所有である点は否認する。本件預金の実体をなす後援会費は、実質的には日本大学に対する寄付金であり、同大学の文理学部長が管理運営してきたものである。

5 同5項の事実は争う。

(原告)

被告らの本案前の抗弁事実はすべて争う。

第三証拠≪省略≫

理由

一  まず、被告らの本案前の主張のうち原告が権利能力なき社団として当事者能力を有するかどうかにつき判断する。

一般に、民訴法第四六条にいう「法人に非ざる社団」として当事者能力を認められるためには、当該団体が、団体としての組織を備え、そこには多数決の原則が行なわれ、構成員の変更にかかわらず団体そのものが存続し、その組織によって代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定していることを要するものと解される(最高裁判所昭和三九年一〇月一五日判決参照)。

そこで、これを本件についてみるに、≪証拠省略≫によればつぎの事実が認められる。

1  原告は、昭和二一年頃発足した会であるが、そのころ作成された会則(甲第一号証の一の会則。但し、右会則は昭和三八年に改正されたものであるが、右改正は改正前の規約の字句の訂正にすぎないものである。)によれば、会の名称は日本大学文理学部後援会であり、その事務所は文理学部内に置かれること(一条)、会員は日本大学文理学部並びに同附属桜丘高等学校(以下併せて単に学校と呼ぶ)に在学する学生生徒の父兄(正会員)と右卒業生の父兄のうち理事会が推薦した者(特別会員)であること(二条)、その目的は学校における教育の援助と会員相互の親睦を図ることとされ、その事業として(一)学校における教育、学術並びに施設に関する援助と(二)会報の発行を行うものとされていること(三条)、同会の役員は正会員および特別会員の中から大学が推薦するものとされ(四条)、会長、副会長各一名と理事一〇名以内(うち二名は学校代表として、文理学部長、文理学部事務局長をもってあてる)が置かれ、会長、副会長は学校代表理事を除く他の理事の互選によること(五条)、理事会は会長、副会長、理事をもって構成され前記事業の審議決定、会計の審査を行なうものとされていること(六条)、会務の執行は文理学部長、同事務局長がこれにあたり(七条)、会の資金は会費と篤志寄付金を以ってするが、右会費は正会員から年額一万円を毎年四月に納入すること(八条)などが定められている。

2  しかし、右会則においても何ら会員総会に関する事項を定めた規定はなく、実際にも会員総会が開催されたことはない。また理事の選任は現実には学校側によって行なわれ、その任免に会員が直接にも間接にも何らかの形で関与しうる手続はない。更に、理事会についてもその決議に関し、定足数の定めや決議方法としての多数決原理は存在しなかった。

3  会の事務は、現実には会費の出納等一切を文理学部事務局が行なっており、特に会費の納入は入学金・授業料等と共に入学の条件とされ、徴収は学校が行なっていた。納入された会費は原告代表者名義で預金されていたが、右代表者印は、文理学部事務局に預けられており、右の大部分は学校への補助金として使用されていた。

4  事務所は文理学部内に置かれることになっているが、同所に会長室等の定まった場所はなかった。

5  理事会は定例として年一回五月頃開催され、予算、決算の審議を行なったが、予算案、決算案はいずれも学校側から作成提出され、これに対し理事会において案の内容にわたっての実質的な審議がなされたことはなく、二、三の質問のみでこれを承認していた。右予算の執行は文理学部が行なっており、予算外の出費は文理学部長が会長と連絡をとった上出費し、右につき理事会の事後承認を得ていた。さらに理事会側から、学校とは独自に事業の提案がなされこれが行なわれたということはなかった。

6  会員に対する連絡は年一回の会報によってなされただけであり、会員から会の事業の提案をなす手続等はなかった。

以上の事実が認められ(る。)≪証拠判断省略≫

しかして、右認定の事実によれば、原告の日本大学文理学部後援会なる名称の会が存在し、その会則が定められていることが認められるものの、右会では会員総会が開催されることもなく、会員の意思とは無関係に役員が任免され、役員会(理事会)においては定足数に関する規定や決議方法として多数決原理も存在していないなど団体として主要な点が確定していないというべきであり、その実態は、学校が父兄から寄附金(納入金)を徴収する便宜のために、形式上父兄側を代表するものに対し学校が諮問する機関として存在していたものと解するほかはない。

そうだとすると原告は、とうていこれを「法人に非ざる社団」に該当するということは出来ず、原告は当事者能力を有しないものというほかはない。

二  よって、本訴請求は不適法として却下することとし、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条、第九九条を適用(第九九条は類推適用)して主文のとおり判決した。

(裁判長裁判官 藤井俊彦 裁判官 佐藤歳二 裁判官清水篤は職務代行が終了したので署名押印することができない。裁判長裁判官 藤井俊彦)

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