東京地方裁判所 昭和46年(ワ)9630号 判決 1975年3月31日
(アメリカ合衆国)
原告
パイルス・インダストリイズ・インコーポレーテツド
右代表者
カール・ビー・ペン
右訴訟代理人弁護士
竹内澄夫
外二名
被告
東邦機材株式会社
右代表者
清水尚
右訴訟代理人弁護士
伊賀満
右輔佐人弁理士
市川理吉
外一名
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
第一 当事者双方の申立
一、原告
(一) 被告は、原告に対し、金六五二万一、二〇〇円及びこれに対する昭和四六年一一月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え
(二) 訴訟費用は、被告の負担とするとの判決並びに仮執行の宜言を求める。
二、被告
主文同旨の判決を求める。
第二 原告の請求の原因
一、原告の特許権
原告は、次の特許権の特許権者である。
発明の名称 計量ポンプ構造体
出願 昭和三六年九月二九日(特許出願番号昭和三六年第三五一九四号)
公告 昭和三九年九月二一日(特許出願公告番号昭和三九年第二〇五七七号)
登録 昭和四〇年二月一〇日
登録番号 第四三九五六九号
<以下省略>
理由
一原告が本件特許発明の特許権者であること、本件特許発明の特許請求の範囲の記載が原告主張のとおりであること、及び、被告の販売した二液定比率ポンプ(被告製品)が別紙物件目録記載のとおりのものであることは、いずれも当事者間に争いがない。
二右当事者間に争いのない特許請求の範囲の記載によれば、本件特許発明の構成要件は、次のとおりに分解することができる。
(一) おのおのが材料の一つを保持した複数個の容器から所定の相対的割合で直接に個々の流動材料を汲み揚げるための装置において、
(二) 容器の上端の間にかつこれを横断して延びかつこの上に取り外し可能状に静置する装置を設け、
(三) 各容器の上端と整合せしめてかかる装置上に各容器用の確動変位ポンプを装着し、該ポンプを各容器内へ下方に延長せしめて容器の底に隣接して配置された入口を具備せしめ、各ポンプにはピストンと、ポンプから上方に延びるピストン棒とを具備せしめ、
(四) 一端をおのおの上記ピストン棒の一つに結合され、他端は固定垂直に取り付けられた一対のレバー腕を設け、
(五) これらのレバー腕をその上を移動し得る枢結装置によつて枢結し、
(六) 上記ピストン棒を往復運動させるために上記ピストン棒の一方にモーターを結合した
ことを特徴とする装置
三右構成要件の(一)、(二)の解釈について、原・被告間に争いがあるので、この点について検討する。
(一) 本件特許発明の明細書の「発明の詳細な説明」の欄には、冒頭に、本件発明は、使用時においては混合物として供与されるべき別々の容器に入れられた複数の成分からなる、例えば、基礎成分と、時には促進剤と称される触媒とからなる接着剤のような、流動可能材料を取り扱う際用いる装置に関するものであること、このような複数成分材料を使用する消費者は、個々の成分材料ごとに別々の容器に入れられた各成分材料を入手するのであつて、この各成分材料は、まず、汲み揚げられて、その用途、加工条件に適合するよう所定の割合にそれぞれ計量され、ついで、混合され、そして出来上がつた混合物が使用のため給与されるものであること、この個々の成分材料を入れた各容器は、大小様々であつて、大容器になるとその重量が非常に大であること、が述べられており、次に、このような複数成分材料を取り扱う従前の方法として、次の三つの方法があることを指摘している。
(イ) 「留め」という構造を有する装置を用いる方法。この場合には、先ず容器の内容物を計量し、混合し、かくして生じた合成物を給与するために全部装置に空けることが必要であるならば、成分が入れられて消費者に渡されるところの容器から留めを満たすための労力が必要であるとともにこのような留めを有する装置が必要であることとなる。
本件特許公報一頁右欄一二行目ないし一六行目には、「先ず容器の内容物を全部装置に空けてかくして生じた合成物を計量し混合し給与することが必要であるならば、成分が入れられて消費者に渡されるところの容器から留めを満すための労力が必要であるとともにこのような留めを有する装置が必要である。」と記載されているが、右記載部分は、本件特許公報のその他の記載、特に同一頁右欄三一行目ないし四一行目の記載部分に照らせば前記のように解すべきものである。
(ロ) 容器内の成分材料を汲み揚げて計量装置へホースで送るポンプを用いる方法。
この場合、「これらのポンプは容器の寸法に関して非常に大きくする必要があり比較的に高価である。ポンプからホースにより材料は計量または調和装置へ導かれ、ここで各成分は調和的相対的に計量され、かかる装置から計量された成分が混合機へ放出されこの混合機から加工部域に給与される。」(本件特許公報一頁右欄二一行目―二六行目)こととなる。
(ハ) 容器内の成分材料の表面に圧力をかけ、この圧力により材料を容器から適当なホースを通じて計量装置に送る方法(同一頁右欄二七行目―三〇行目参照)。
ついで、本件発明の目的について、次のように述べる。
「本発明の主目的は、材料成分の各容器のための一個の計量ポンプを有し、各容器の開放頂部を通じて容器内の材料成分にポンプを挿入し、該ポンプを連動しかつ排出を正確になしかくしてこれらのポンプが容器から成分を正確な相対的割合に直接に混合機へ汲み入れ、かくすることによりそこから成分が計量装置へポンプで汲み揚げられるところの留めへ容器から成分を空ける必要を、あるいは上述の比較的かさ高のポンプを採用する必要を、あるいは成分の表面を液圧に曝しこれらの成分を容器から計量装置への強制的に送る必要を除去した計量ポンプ構造体を提供するにある。」(本件特許公報一頁右欄三一行目―四一行目)
「本発明の他の目的は成分材料の容器の上に全体的に載置せられるべくなされかつ容器へ延入する各容器のための計量ポンプを有し、各容器から成分を同時に汲み揚げることを確実ならしめるようにポンプを連結し、かつそれぞれの容器から汲み上げられる成分の相対的割合を変化せしめるためにポンプの放出を相互に関し変化できるようにポンプを連結した計量ポンプ構造体を提供するにある。」(同一頁右欄四二行目―二頁左欄五行目)
「本発明のなお他の目的は混合されるべき材料成分の容器の上に直接支持されるべくなした計量ポンプ構造体を有し、該構造体には複数個の計量ポンプを一定の関係に設けて各容器へ延入せしめ、さらに該構造体は各ポンプが延入するところの容器の上端を閉塞すべくなした蓋装置を有するようになした、材料が排出される容器から材料を汲み揚げて直接に計量するための装置を提供するにある。」(同二頁左欄六行目―一三行目)
(二) 以上の「発明の詳細な説明」欄の記載によれば、本件特許発明の目的が次のような計量ポンプ構造体を提供することにあることが明らかである。
1 この計量ポンプ構造体は、上述した複数の成分材料を取り扱う際の汲み揚げ、計量、混合、給与という過程のうち、最初の汲み揚げ、計量を取り扱う装置であること。
2 各成分材料の汲み揚げは、各容器から直接にされるものであること。この容器は、消費者が入手したところの成分材料が入れられている容器であつて、大小様々のものがあるが、本件特許発明の目的とする計量ポンプ構造体は、いずれの大きさの容器からも成分材料を直接に汲み揚げるものである。
3 各成分材料の汲み揚げと計量が同時にされるものであること。すなわち、この計量ポンプ構造体は、複数のポンプを備え、各ポンプは、それぞれ各容器の中へ延入されて、各容器から直接に各成分材料を所定の相対的割合で同時に汲み揚げることによつて計量する。そして、この相対的割合を任意に変更することができるから、給与されるべき混合物の用途、加工条件に適合した種々の割合に各成分材料を計量することができる。
4 以上のような目的を達成する計量ポンプ構造体であるので、従前の(イ)の方法のように、成分材料を容器から留めへ移し入れ、留めから計量装置に汲み揚げるという二段階の過程を省略することができ、従つて、留めを有する装置を使用する必要が除去される。また、(ロ)の方法のように、成分材料を汲み揚げて計量装置へ送るためだけに必要な、容器の大きさに応じた大きさの比較的高価なポンプを採用する必要がなく、(ハ)の方法のように、成分材料に圧力をかけて計量装置に送るという手段をとる必要も除去される。
(三) この目的に照らして、本件特許発明の前記の構成要件をみると、まず、構成要件(一)は、本件特許発明の目的を達成するに必要な構成を簡潔に示した記載であることが認められる。
すなわち、構成要件(一)の「おのおのが材料の一つを保持した複数個の容器」とは、右に検討したところから、消費者が入手したところの成分材料が入れられている容器を意味し、そして、この「容器から……直接に個々の流動材料を汲み揚げるための装置」とは、各容器から直接に成分材料を汲み揚げることによつて、装置自体に、容器から成分材料が移し入れられてこれを貯溜する留めを有しない構造の装置であることを示し、「複数個の容器から所定の相対的割合で……個々の流動材料を汲み揚げるための装置」とは、成分材料の汲み揚げと計量を同時に行うことができる装置であることを明らかにしていると認定できる。
次に、構成要件(二)の「容器の上端の間にかつこれを横断して延びかつこの上に取り外し可能状に静置する装置を設け、」について、構成要件(三)と合わせて読めば、この装置は、確動変位ポンプが装着される装置であることが明らかである。そして、このポンプは各容器から直接に成分材料を汲み揚げるものであるから、ポンプが装着されたこの装置が、各容器の上に安定して支持載置されるべきものであることも明白である。「容器の上端の間にかつこれを横断して延びかつこの上に……静置する装置」とは、これを可能にする構造を有する装置、一例としては、本件特許公報の「発明の詳細な説明」中の実施例及び図面に示されている、横断面がU字形をし(第五、第六図)、各ドラム用の蓋58と60(第一図、第二図)とを有するポンプ支持用のプラットホーム56のような装置を意味していることが理解される。
そして前述したように、本件特許発明の計量ポンプ構造体は、各容器から直接成分材料を汲み揚げるものであつて、装置自体に成分材料を貯溜する留めを有する構成をとつていないから、容器が空になれば、ポンプ構造体を容器から取り外し、他の成分材料が入つている容器の上にこれを載置することが必要となることは当然予想されるところであり、ポンプ構造体と容器が固定的に結合されているものであつては、本件特許発明の目的を達成することができないといわなければならない。従つて、本件特許発明にかかる計量ポンプ構造体は、必要に応じ容易に各容器から取り外せるものであることをその本質的な構成とされているのであつて、構成要件(二)中の「容器の……上に取り外し可能状に静置する装置を設け」るとは、このような構成を示す記載であると認められる。
このことは、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の構成及び効果を記載したものと認められる本件特許発明の明細書に示された実施例の記載及び図面を参照すれば、なお明瞭となる。
前掲甲第一号証によれば、「発明の詳細な説明」に記載された二つの実施例に共通する構造の説明として、「全体の構造体はドラム24と26との上に取り外し可能に静置かつ支持されている。」(公報二頁右欄一九、二〇行目)と、まず記載されている。そして、プラットホーム56に固着された二本のポンプのシリンダー78は、上方シリンダー部分82と下方シリンダー部分84とから成り、両者はねじで接続される構造を有し(同二頁右欄二九行目―三三行目参照)、「ポンプ作用は下方シリンダー部分84の長さに依存せず」(同四頁左欄四、五行目)作動するので、「下方シリンダー部分84の長さを種々に変えてポンプが使用されるところの容器の深さに適合せしめるようにしてもよい。」(同三頁左欄五行目―七行目)のであつて、「故に、ポンプは適当な長さの下方シリンダー部分84と適当な直径の蓋とを取り付けることによりいかなる寸法の材料容器にも利用できる。」(同三頁左欄八行目―一一行目)のように考慮されているのである。また、「下方シリンダー部分84にはその下端に材料入口が設けてある。かかる入口の構造は、一度ポンプに材料が満たされるとポンプは空になつた容器から取り外されて、空気が入口からポンプ内に入れる危険を伴わずに新しい容器に載置できるようになつている。」(同三頁左欄一二行目―一六行目)として、この目的に適した入口の構造が説明され、「空気ポンプの入口端から放逐されることはこの構造物の主要な特色であつて、即ち、これにより構造物は構造物、ホース、および空気のガン22を除く必要なくしてほとんど空になつた容器から取り外して一杯の容器に載置できるのである。」(同三頁左欄三一ないし三五行目)と述べられている。そして、以上のような構造を有する実施例の「ポンプ構造体は自身が乗座する容器から容易に取り外されうることは明白である。」(同五頁左欄二四、二五行目)と説明されているのである。
本件特許発明の構成を具体化した装置として示された明細書の実施例の右説明によれば、本件特許発明の特許請求の範囲に、発明の構成に欠くことのできない事項として記載された、「容器の……上に取り外し可能状に静置する装置を設け、」という要件は、前述のとおりに理解すべきことが明白といわなければならない。
構成要件の(三)ないし(六)が、各容器から所定の相対的割合で直接に各成分材料を汲み揚げることによつて計量すること、この相対的割合を任意に変更できるようにすることという本件特許発明の目的を達成するに必要な構成を示すものであることは、その記載から明らかであるし、この点について、当事者間に争いはない。
四そこで、本件特許発明と被告製品を対比する。
(一) 被告製品を表示したものであること当事者間に争いのない別紙物件目録の説明書と図面によれば、被告製品は、清浄水を貯溜する室7と不凍液を貯溜する室8とから成るタンク部4の各室から所定の相対的割合で清浄水と不凍液とを汲み揚げ、混合し、吐出する装置であること、タンク部4は、隔壁6で区分された室7、8とを有し、工場床面に固定設置されるもので、貯溜室7は給水パイプ1により上水道等に連通され、貯溜室8は給液パイプ2により不凍液槽に連通されていることが認められる。
原告は、本件特許発明にいう「容器」は「流動材料を保持するうつわ」の意に解すべきで、被告製品にいう「貯溜室」はこの容器に該当すると主張する。
しかしながら、すでに述べたように、本件特許発明にいう「容器」は、消費者が入手したところの成分材料が入れられている容器であつて、空になればポンプ構造体から取り外される容器を意味し、装置内に設けられた成分材料を貯溜する留めとは異なるものである。被告製品における各貯溜室7、8は、工場床面に固定されるタンク部4を隔壁6で区分したもので、装置と一体をなし、空になつたつど取り替えられるものではないことが明らかであり、これをもつて、本件特許発明にいう「容器」に該当するとは、到底いうことができない。
従つて被告製品は、本件特許発明にいう「おのおのが材料の一つを保持した複数個の容器から……直接に個々の流動材料を汲み揚げるための装置」に該当しないといわざるを得ない。
(二) 次に、別紙物件目録の説明書と図面によれば、被告製品には、ポンプ機構部3の固着されている基台部Dがあり、この基台部Dはタンク部4の上部にボルト5で螺着されていることが認められる。
原告は、この基台部Dが、本件特許発明にいう「静置する装置」に該当し、基台部Dとタンク部4はボルトで螺着されているから、取り外しが可能であると主張する。
しかしながら、本件特許発明の構成要件(二)に示された「容器の……上に取り外し可能状に静置する装置」とは、容器が代替的であることを前提にし、容器が空になつた場合、あるいは、他の成分材料を取り扱う必要が生じた場合等には、容易に各容器から計量ポンプ構造体自体を取り外すことを本来的に可能にするような構造の装置をいうことは、すでに詳述したとおりである。
被告製品が、自動車の組立ラインにおいて工場内に固定的に設置されて使用されるものであることは、別紙物件目録の説明書から明らであり、この事実からして、基台部Dがタンク部4から取り外されることがあるのは修理等の例外的な場合で、正常に作動する限りタンク部4と機構的に一体の装置として使用されるものと認められるから、ボルトで螺着されていることをもつて、本件特許発明にいう取り外し可能状に静置されているものと同視することはできない。
従つて、被告製品の基台部Dが本件特許発明の静置する装置に該当するとの原告主張は、これを採用することができない。
(三) 以上に述べたところから明らかなように、被告製品は、本件特許発明の構成要件の(一)及び(二)を具備するものではないから、本件特許発明の技術的範囲に属しないといわなければならない。
五よつて、被告製品が本件特許発明の技術的範囲に属することを前提とする原告の本訴請求は、その余の主張を判断するまでもなく失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(高林克己 牧野利秋 清水利亮)
物件目録、第一、二図<省略>