大判例

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東京地方裁判所 昭和46年(借チ)1021号 決定

〔主文〕申立人らが相手方に対し金三〇万円を支払つたときは、別紙目録(二)記載の改築建物について建築基準法所定の建築確認が得られることを条件に、同目録(一)記載の建物部分を取り毀し、同目録(二)記載の建物を建築することを許可する。

〔理由〕本件の資料によれば、本件土地付近は二階建の家屋が密集しており、本件改築は建築基準法等の法令に違反しない限り土地の利用上相当と認められる。右資料によれば、本件改築がなされると、本件土地の北側に隣接する相手方家屋の一部物干台の日照に若干影響があることが窺われるが、右の程度は相手方において受忍すべき限度内のものであると認めるのが相当である。

相手方は、本件土地は、本件建物部分を含む別紙目録(一)記載の建物全体の建築の際右建物の敷地として建築確認を受けており、さらに本件改築をなせば建ぺい率違反となると主張するところ、本件の資料のみでは右事実を認むべくもなく、また右建物のうち本件土地を除く部分の用途地域も不明であつて、当裁判所としてはこの点について判断することは不可能である。申立人らは現に本件改築につき関係官署に建築確認の申請をなしているというのであるから、本件申立は右確認が得られることを条件として認容すべきである。

二 附随処分

鑑定委員会は、本件改築が認められた場合(1)借地期間の延長につながること(2)買取請求権が行使された場合地主に不利であること(3)改築により土地の利用度が高くなることを理由に当事者の利害とし、その額を更新料を中心として求め本件土地の更地価格(一平方米当り一二二、八〇〇円、総計一〇、〇〇二、〇〇〇円)の約七、三%に当る七三万円をもつて相当とする、としている。

鑑定委員会の右意見を検討しつつ、当裁判所の見解を述べる。

増改築許可の裁判に伴う財産上の給付を考える場合増改築を制限する旨の特約(以下増改築禁止の特約という)がどのような意味をもつものかを明確にする必要がある。一般に、賃貸借契約は借主が賃借物を契約の目的、用法に従つて自由に最有効に使用、収益をなし、貸主はそれに応じた対価を取得するというのが本来の姿であり(民法六〇一条、六一六条五九四条一項)、借地契約においてもその期間中に借地の有効利用度が低下した場合に、借地人がさらにこれを有効に和用すべく地上建物の増改築をなすのは本来自由なはずである。したがつて、増改築禁止の特約は特段の事由(例えば、隣地の日照を確保するため二階建以上の建物の建築を禁止し、反面対価を一般の契約より安価にするというような場合)があつて合意された場合は格別、通常その合理性は疑わしい。増改築を認めると建物の朽廃時期が延び、借地期間の延長につながり賃貸人に不利であるといわれるが、契約の一方当事者が契約の消滅を期待し、他の当事者に対し契約本来の目的と矛盾する行動を押しつけるのは信義則上妥当を欠き、また借地権の安定を企図する借地法の趣旨にも適合しないと思われる。それ故に借地法八条の二、二項は増改築禁止の特約が存する場合であつても土地の通常の利用上相当な増改築はこれを許可すべきことを定めたものと解すべきである。以上のように、増改築許可の裁判は通常さして合理性があるとは考えられない禁止の特約を排除する機能を有するものであるから、これに伴う財産上の給付は最少限にとどめるべきものと考える。けだし、財産上の給付が高額なものとなれば増改築は事実上制限され、前記法律の趣旨に合致しない結果となるからである。

当裁判所は財産上の給付の算出根拠を土地の利用度の増大による収益の増加に求めるべきであると考える。すなわち、土地利用の対価(通常は地代として定期に支払われるが、一時金として支払われることも多い)は当該土地を利用することによつて得られる収益のなかから支払われるものであり、したがつて収益性の高い土地の利用対価は高く、収益性の低い土地の利用対価は安いのが通常であるところ、増改築は一般的に言えば土地をより有効に利用し収益を増大させるものであり(この点、増改築建物が貸家の場合に顕著に現われるが、自己使用の住宅の場合でも居住の快適性、便利性等から潜在的な収益増を考えることができる)、収益が増加すればその一部を賃貸人に支払うのが前示土地利用の対価のあり方からして衡平に合すると考える。

鑑定委員会は、買取請求権行使の際の地主の不利益を考慮すべきであるという。しかしながら、建物買取請求権を規定した借地法の趣旨は一つには借地上に建物が存する場合に借地権の存続を図るべく間接的にこれを支援する機能を期待することにより、一つには借地権消滅の場合に借地人の投下資本を回収せしめることにより借地権の強化を図つたものであつて、土地の利用上相当として許可を受け借地に資本を投下しようとする借地人が資本回収を求めるべき相手方に事前に、その損害を填補すべく金銭を支払わなければならないとすれば、前記法律の趣旨は全く無意味なものとなり、借地権を強化するための規定がかえつてその弱化の機能を果たす結果となり本末転倒の解釈といわねばならない。まして、買取請求権が行使されるのは借地期限到来の際賃貸人が更新を拒絶しかつその拒絶に正当事由が存する場合および第三者が借地上の建物を取得し、賃貸人が借地権の譲渡、転貸を承諾しない場合(この場合も借地法九条の二、九条の三により賃貸人に承諾しない自由があるわけではない)であつて、将来このような事態が起るか否かは増改築許可の裁判の際に通常予測が不可能であることを考えると、なおさら抽象的に買取請求権行使の可能性があるというだけでこれを根拠に財産上の給付額を決するのは適当でない。

さらに、鑑定委員会は財産上の給付額算定について更新料を中心として求めると述べるが、借地契約の更新の際更新料を支払うという慣行がどの程度成熟しているのか、あるいはその額の算定は何を基準にしてどの程度の額なのかは必ずしも明らかでないうえ、法律上その合理性について疑問なしとしない。いずれにしても、いわゆる更新料の支払は当事者の合意に委ねるべく、借地非訟手続における財産上の給付額算定の根拠とする合理的理由は見出しがたい。

以上のとおり、当裁判所は増改築許可の裁判に伴う財産上の給付額は土地利用の有効度の増加分を基準として算定すべきものと考えるのであるが、右増加分の把握は必ずしも容易ではない。そこで、当裁判所は従前の裁判例、鑑定委員会の意見書、借地条件変更の裁判の場合の給付額(借地の目的が非堅固建物の所有から堅固建物の所有に変更されると、土地の有効利用度は質的に上昇し、その増分は借地権価格の上昇分として明確に現われ、その上昇率は更地価格の一〇%前後といわれる)等を参酌し、更地価格に三%を限度としてそれ以下の率を乗じて算定(場合によつては零ということもありうる)することを一応の基準としている。(他の借地条件、例えば借地期間を変更する場合は別途考慮する)

本件は全面改築(新築)であるから、右基準による最高限度によるべきであり、財産上の給付額は鑑定委員会の意見による本件土地の更地価格一〇、〇〇二、〇〇〇円の約三%に当る金三〇万円と定めるのが相当である。

地代については鑑定委員会の意見に従い、その増額の必要はないものと認め、また他の借地条件を変更する必要性も認めない。 (河村直樹)

目録<略>

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