東京地方裁判所 昭和46年(借チ)1061号 決定
〔主文〕1 別紙目録(二)の2記載の増改築につき、豊島区長による建築停止命令が取り消されることを条件として、右増改築を許可する。
2 前項の命令が取り消された場合、申立人は相手方に対し金四五万円を支払え。
3 本件賃貸借の賃料を右命令の取消の日の属する月の翌月分から一か月金三、六三〇円(3.3平方米当り金一一〇円)に変更する。
〔理由〕一 本件申立の要旨
(一) 申立人は、昭和二三年四月一五日相手方から別紙目録(一)の1記載の土地を非堅固建物所有の目的で賃借し、右契約は、昭和四三年四月一日合意のうえ更新され、現在の借地条件は、同目録(一)記載のとおりである。
(二) 申立人は、本件土地上に同目録(二)の1記載の建物を所有しているが、これを同目録(二)の2記載のとおり改築すべく計画中であるが、相手方から札金を要求され協議が調わないので、右承諾に代わる許可の裁判を求める。
二 当裁判所の判断
(一) 本件で取調べた資料によれば前記一の(一)の事実が認められる。
相手方は、本件賃貸借は、申立人の無断増改築により解除されたと主張するので判断する。前記資料によれば、本件賃貸借の更新契約の際、既存建物は相当老朽化しており、更新後の期間中には増改築を要することは必至であつたので、期間の更新とともに建物の改築の話合いもなされ、結局「増改築をしようとするときは、賃貸人に申出ること。その際は慣習による応分の謝礼を出すよう努めること」旨の合意がなされ、申立人は更新料として相手方に対し金一二万円を支払つたこと、その後申立人は、建築主事の建築確認を得、昭和四五年九月一三日ごろ既存建物を取り毀し改築に着手したが、相手方より異議が出され、承諾料につき合意に達しないまま申立人は工事を続け、改築予定建物の建前をおわり、屋根を完成し、その後豊島区長より右工事が路状地の幅員の関係で問題があるとし、工事停止命令が出されたため、工事を停止し、右処分につき、行政不服審査法による審査請求をし、本件申立に至つたことが認められ、右事実によれば、右増改築に関する合意は、増改築じたいを相手方の諾否にかからしめるのでなく、更新された期間中には、増改築はなしうることを前提とし、その際相手方に承諾料を支払うべきことを合意したもので、申立人が、その承諾料の額に合意に達しないまま工事に着手したことはやや軽率であつたと言いうるが、これをもつて、賃貸借の信頼関係を破壊する背信的行為とはいえず、したがつて、相手方のなした契約解除の通知は無効であつて、申立人は本件土地の適法な賃借人である。そして、本件において増改築制限の特約の存否、趣旨をめぐつつて争いがあり本件増改築を続行することに紛争を生じているので、申立人に賃貸人の承諾に代わる許可の裁判を求める利益がある。また、本件においては、すでに、改築予定建物の骨組み、屋根ができているが、増改築許可の申立は、改築着工後であつても、前示のとおり、右工事が契約解除の事由に至らず、原状回復も不可能でない場合には、適法であると解される。けだし、このような申立てを適法と認めても、すでになされた契約解除の有効、無効じたいにつき既判力を与えるわけではないのでこの点の賃貸人の権利を害するものでなく、ただ今後の計画の進行については承諾がないとして争いえないのにすぎず、むしろこれを不適法とすれば、申立人は、工事を強行するか、中止したまま放置せざるをえず、当事者の紛争はなんら解決しないまま不安定な関係をのこすのみであり、紛争の予防をはかつた法の趣旨に反するものと考えられるからである。
しかして、申立人の改築計画は、土地の利用上相当である。相手方は、申立人の計画は、建築基準法上不適法であると主張し、増改築許可の裁判は、当事者の合意による場合と異なり、法令上適法であることを要するが、建築関係法令上の適否は、一次的には行政庁の判断に任されているのであるから、賃貸人の承諾に代わる許可の裁判に際しては、法令上明らかに不適法でないかぎりこれを許可するのが相当であり、本件において、前記資料によれば、本件の敷地は、約8.71米の路地状部分により道路に接し、その幅員が約一〇ないし一八糎東京都建築安全条例三条本文所定の基準に至らないが、建築物の配置、用途、附近の土地利用からみて、本件改築計画は、同条但書により許可される可能性も強く、明らかに違法な計画とは認めがたい。他に、本件計画を違法、不当とすべき事由はない。そこで、本件改築は、主文掲記の条件の下に許可するのが相当である。
(二) 附随処分について判断する。
鑑定委員会の意見の要旨は、申立人に財産上の給付金として金四五万円の支払を命じ、地代を月額金三、六三〇円(3.3平方米当り金一〇〇円)に増額するのを相当としている。
当裁判所も右意見を相当と認める(右意見の給付金の算定として差額地代の半分を賃貸人に配分すべき合理的理由はないが、慣行的な承諾料に支払われた更新料を考慮すると、右給付金は相当たるを失わない。) (筧康生)
目録(一)
(借地条件)
1 目的土地 東京都豊島区駒込七丁目七四一番地
宅地 1,535.43平方米のうち、109.09平方米(33坪)
2 目的 木造建物所有
3 期間 昭和四三年四月一日から二〇か年
4 現賃料 一か月金二、四〇〇円
目録(二)
1 既存建物(取毀済)
東京都豊島区駒込七丁目七四一番地
家屋番号 七四一番一五
木造瓦葺平家建居宅
36.36平方米(11坪)
2 改築計画
既存建物を取り毀し、
木造瓦葺二階建居宅
一階 53.46平方米
二階 46.17平方米
を建築する。