大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和46年(借チ)1072号 決定

〔主文〕1 申立人が別紙目録(二)記載の建物のうちA棟を同目録記載(三)の建物に改築することを許可する。

2 申立人は、相手方に対し、金四四万円の支払をせよ。

3 別紙目録(一)記載の土地に関する申立人・相手方間の賃貸借契約の賃料を本裁判確定の日の属する月の翌月分から一ケ月四万九、六〇〇円に改める。

〔理由〕(申立の要旨)

1 申立人は、相手方から別紙目録(一)記載の土地(以下本件土地という)を期間昭和六四年一〇月一四日までの約で非堅固建物所有の目的で賃借中にして、同地上に同目録(二)記載のAないしEの五棟の建物を所有している。賃料は、昭和四五年四月一日から一ケ月二万七、九〇〇円に改められ、現在にいたつている。

2 申立人は、A棟を主文第一項記載のように改築すべく計画し、借地契約上建物の増改築をなすには賃貸人の承諾を要する旨定められているので、右改築につき相手方の承諾を求めたが、承諾を得られない。

(決定理由)

1 本件の資料によると、申立の要旨として掲げた前記1、2の事実のほか本件改築は右土地の通常の利用上相当であると認められるので、本件申立は、これを許可すべきである。

2 附随処分

増改築許可の裁判は、土地の合理的利用の妨げをなしている増改築制限に関する特約を当該増改築にかぎり排除し、借地人に対し、右増改築をなしうる権利を賃貸人に代つて附与することであるので、右権利にして経済的価値がある以上、当事者間の利益の衡平を図る上から、借地人をして、賃貸人にその価格相当分を支払わしめるのが相当である。増改築をなしうる権利は、借地権に包摂されるものであるので、右権利の経済的価値は、借地権価格に反映する。従つて、当該増改築をなしうることにより借地権価格が増加する場合は、右増加分が附随処分としての財産上の給付というべきである。鑑定委員会も、財産上の給付を本件改築に因る借地権価格の増加分に求め、改築すべき建物の敷地部分が本件土地のうち一〇〇坪であるとし、本件改築により、右一〇〇坪の借地権価格が更地価格の五%増加すると判定し、右のように判定した理由を、「近隣の状況、本件建物の構造、用途、市場性及び本件借地に関する従前の経緯、賃料更改の経緯等」の考慮に基づくとしているが、何が故に右考慮事項が借地権価格の増加に作用するのかの理由、及び借地権価格の増加分が更地価格の五%であることの理由を具体的に明らかにしていないので、右判定をそのまま採用することは躊躇せざるを得ない。不動産鑑定評価基準によれば、不動産の価格は、(一)不動産に対してわれわれが認める効用(二)不動産の相対的稀少性(三)有効需要の存在の三者の相関結合によつて左右されるとしているのであるが、右三者の要因のうち増改築により変化するのは効用のみであるので、増改築に伴う借地権価格の変化は、専ら、効用の変化に着目すべきである。本件改築は、既存の公衆浴場用の建物を同じく公衆浴場用の建物に改築するのであり、一階の床面積は、既存の建物よりやや大きいが、入浴料金は、公共料金であるので、建物の新旧により差異はなく、また、床面積が多少大きくとも、入浴者がそれ相応に増加するとも考えられず、従つて、本件改築による入浴料金の増加は、それほど期待できないものと見るべく、居住用に充てる二階部分も、床面積が極めて小さいので、本件改築による効用増は、通常の改築に比較し、かなり劣るといわなければならない。不動産鑑定評価の現状では、増改築に伴う借地権価格の変化を評価することは困難のように見受けられるので、土地を有効に利用するために借地上の建物全部を全面的に改築する場合、従来、裁判の公平の観点から、その財産上の給付につき、一応更地価格の三%という基準を設けているので、右基準からすると、本件改築による効用増は、通常の場合に比較してかなり劣ることを考慮し、およその見当ではあるが、財産上の給付を通常の場合の三分の一、すなわち、更地価格の一%程度としてはどうかと考える。本件改築は、借地上の建物全部の改築でなく、五棟のうちの一棟の改築であるので、いわば、建物の一部改築と同視すべきものであり、他の四棟もいずれは増改築されるべく、その際財産上の給付が必要になるので、右による財産上の給付を改築されるべき建物と残存建物の床面積で、按分するのが相当であり、結局、本件財産上の給付を鑑定委員会の評価する本件土地の更地価格(3.3平方米当り三六万円)の一%に、改築すべき建物の床面積を乗じ、それを改築後存在する全建物の床面積で除した四四万円と定める。

なお、鑑定委員会の意見のとおり賃料を3.3平方米当り一ケ月一六〇円(借地全部で四万九、六〇〇円)に改める。

(小山俊彦)

目録

(一) 東京都大田区上池台三丁目七三二番

宅地 1024.79平方米(310坪)

(二) 右地上所在

A棟

家屋番号七三二番の二

木造瓦亜鉛メッキ鋼板交葺二階建公衆浴場兼居宅

床面績 一階 217.35平方米

二階 50.41平方米

(二階は現在除却されている。)

B棟家屋番号七三二番の三

木造瓦葺二階建店舗兼居宅

床面績 一階 67.47平方米

(現況69.42平方米)

二階 67.47平方米

(現況69.42平方米)

C棟

(未登記)

木造亜鉛メッキ鋼板葺二階建居宅

床面績 一階 88.26平方米

二階 78.34平方米

D棟

(未登記)

木造瓦葺二階建店舗兼居宅

床面績 一階 41.32平方米

二階 43.50平方米

E棟

(未登記)

木造亜鉛メッキ鋼板瓦交葺二階建倉庫兼居宅

床面績 一階 54.45平方米

二階 9.91平方米

(三) 木造瓦亜鉛メッキ交葺二階建公衆浴場兼居宅

床面績 一階 278.64平方米

二階 20.52平方米

平面図(略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!