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東京地方裁判所 昭和46年(刑わ)680号 判決 1971年11月30日

主文

被告人を懲役一〇年に処する。

未決勾留日数中一五〇日を右の刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、東京都渋谷区神宮前六丁目二七番八号所在株式会社ヤシカに経理部長として勤務し、なお同所々在株式会社ヤシカ・インターナショナル・コーポレーション(以下、「株式会社ヤシカ・インター」という。)の経理部長をも兼ね、右各会社の現金、有価証券の収納、支払等経理事務全般を掌理していたものであるが、かねて自己の利殖をはかるため行なっていた商品取引のために預託すべき委託証拠金、自己の債務返済資金、商品取引を業とするミヅホ商事株式会社の入手および運転資金等に窮したすえ、前記各会社の資金を勝手に流用しようと企て

第一(昭和四五年一一月二〇日付起訴状記載の公訴事実)

一、昭和四三年五月三一日ころ、同区渋谷一丁目一四番一一号所在安田信託銀行株式会社渋谷支店(以下「安田信託銀行渋谷支店」という。)において、前記株式会社ヤシカの株式会社第一銀行当座預金を他の銀行に預金がえするために業務上預かり保管中の小切手一通(記番号OV、〇二〇二七、額面四〇〇万円、支払人株式会社第一銀行、振出人株式会社ヤシカ取締役社長牛山善政)を、ほしいままに前記商品取引の委託証拠金にあてるため、安田信託銀行渋谷支店係員に対し同店振出自己宛小切手の取組み方を依頼しその資金として入金して費消し

二、同年八月二七日ころ、前記安田信託銀行渋谷支店において、前記株式会社ヤシカの株式会社第一銀行当座預金を他の銀行に預金がえするために業務上預かり保管中の小切手一通(記番号PD、〇六三七六、額面五〇〇万円、支払人株式会社第一銀行、振出人前同)を、前同様の方法でほしいままに同支店振出自己宛小切手を取組むための資金として入金して費消し

三、同年九月一三日ころ、前記安田信託銀行渋谷支店において、前記株式会社ヤシカの株式会社駿河銀行渋谷支店当座預金を他の銀行に預金がえするために業務上預かり保管中の小切手一通(記番号AK、〇九六〇〇、額面八〇〇万円、支払人株式会社駿河銀行渋谷支店、振出人前同)を、前同様の方法でほしいままに株式会社安田信託銀行渋谷支店振出自己宛小切手を取組むための資金として入金して費消しもってそれぞれ横領した。

第二(昭和四五年一二月二三日付起訴状記載の公訴事実)

前記各会社に会計課長代理として勤務し、右各会社の現金、有価証券の保管、出納事務を担当していた桜田金治と共謀のうえ、

一、昭和四二年三月初旬ころ、同都千代田区神田神保町二町目二一番地所在株式会社第一相互銀行本店(以下「第一相互銀行本店」という。)において、前記株式会社ヤシカ・インターのため海外送金資金として業務上預かり保管中の小切手一通(記番号、NP、〇二五九一、額面一六、七〇〇、〇〇〇円、支払人株式会社第一銀行八重州口支店、振出人株式会社ヤシカ・インター取締役社長牛山善政)を、ほしいままに被告人が右株式会社第一相互銀行本店に開設した「桜井一夫」名義の普通預金口座へ入金し

二、同年六月一九日ころ、前記第一相互銀行本店において、前記株式会社ヤシカ・インターのため海外送金資金として業務上預かり保管中の小切手一通(記番号NU、〇八四〇三、額面二五、六八六、〇〇〇円、支払人・振出人前同)をほしいままに被告人が同銀行本店に開設した「池田正夫L名義の普通預金口座へ入金し

もってそれぞれ横領した

第三(昭和四六年二月一六日付起訴状記載の公訴事実)

一、(一)昭和四三年七月一六日ころ前記第一相互銀行本店において、前記株式会社ヤシカのために業務上預かり保管中の受取り小切手一通(記番号OI、〇三〇八三、額面二、〇〇〇万円、支払人株式会社第一銀行八重州口支店、振出人株式会社ヤシカ・インターナショナルコーポレーション取締役社長牛山善政)を、ほしいままに前記商品取引きの委託証拠金等に充てるため、自己が右第一相互銀行本店に開設した「大塚幸二」名義の普通預金口座への入金に充当し

(二) 同年七月一七日ころ、前記第一相互銀行本店において、前記株式会社ヤシカのため業務上預かり保管中の小切手一通(記番号OI、〇三〇八二、額面三、〇〇〇万円、支払人・振出人前同)を、ほしいままに前同様の意図で前記「大塚幸二」名義の普通預金口座への入金に充当し

二、株式会社ヤシカが預金振替えのため振出した小切手を使用してほしいままに銀行振出しの自己宛小切手を取組み、これを前記商品取引きの委託証拠金に充てようと企て、別紙犯罪事実一覧表(一)記載のとおり、昭和四三年九月九日から同四五年二月二〇日までの間前後六回にわたり、前記安田信託銀行株式会社渋谷支店または、同区上通三丁目一二番所在株式会社第一銀行渋谷支店において、株式会社ヤシカのため業務上預かり保管中の同会社取締役社長牛山善政振出しにかかる小切手合計七通(額面合計九、三〇〇万円)を、ほしいままに右安田信託銀行株式会社渋谷支店ほか一行の係員に対し同店振出しの自己宛小切手の取組み方を依頼してその資金に充当し

もってそれぞれ横領した

第四(昭和四六年三月三日付起訴状記載の公訴事実)

昭和四四年三月二九日ころ、同都千代田区丸の内一丁目六番三号所在丸の内ホテル一階ロビーにおいて、前記第一相互銀行本店の株式会社ヤシカの当座預金口座から払いもどしをうけて株式会社ヤシカのため業務上預かり保管中の現金五〇〇万円を、ほしいままに前記ミヅホ商事株式会社の資金に充当するため同会社取締役として同会社の営業全般を掌理していた橋場賢一に手交して横領した。

第五(昭和四六年四月二日付起訴状記載の公訴事実)

一、同会社の預金を忠実に管理すべき任務を有するのにかかわらず、昭和四三年一一月一三日ころ、前記第一相互銀行本店において、自己の利益をはかる目的をもって、その任務に背き、同銀行本店営業部長に依頼して同銀行本店に設定された株式会社ヤシカの当座預金から九〇〇万円を同銀行に対する橋場賢一名義の借入金返済の一部に充当させ、もって株式会社ヤシカに対し右金額相当の財産上の損害を加えた。

二、(一) 同年一二月二〇日ころ、前同所において、前記第一相互銀行本店に設定された株式会社ヤシカの当座預金口座から同会社のため払いもどしをうけて業務上預かり保管中の現金三、二五〇万円を、ほしいままにそのころ同都渋谷区神宮前六丁目七番一八号所在神宮前旅館において小林政吉に対する借入金の返済に充当して費消し

(二) 同四四年三月二七日ころ、前記第一相互銀行本店において。株式会社ヤシカの専務取締役伊東憲一から預かり同会社のため業務上保管中の小切手一通(記番号B〇〇四五二、額面一、〇〇〇万円、支払人株式会社第一相互銀行本店、振出人株式会社ヤシカ取締役社長牛山善政)を、ほしいままに同銀行に対する前記橋場賢一名義の借入金返済に充当して費消し

もってそれぞれ横領した

第六(昭和四六年四月一九日付起訴状記載の公訴事実)

一、自己が事実上管理していた前記第一相互銀行本店の株式会社ヤシカの当座預金を資金として同銀行振出しの自己宛小切手を取組んだうえこれを勝手に使用しようと企て、別紙犯罪事実一覧表(二)記載のとおり、昭和四三年三月三〇日ころから同四四年一二月一一日ころまでの間前後二〇回にわたり、右第一相互銀行本店において右株式会社ヤシカの当座預金を資金として同表自己宛小切手欄記載のとおり同銀行本店営業部長横塚文彦振出しにかかる右自己宛小切手合計二二通(額面合計二億二、三一〇万円)を取組み、同会社のため業務上預かり保管中、ほしいままにそのころ右自己宛小切手を同都内において商品取引きの仲介を業とする協栄物産株式会社渋谷支店ほか一社の係員に対して前記商品取引き委託証拠金として手交し

二、前記株式会社ヤシカが他社から売掛金などの回収として受取った小切手を勝手に使用して前記委託証拠金支払いのための銀行振出しの自己宛小切手を取組もうと企て、別紙犯罪事実一覧表(三)記載のとおり、昭和四三年六月一七日ころから同四四年九月一二日ころまでの前後八回にわたり、前記安田信託銀行渋谷支店または同都中央区日本橋通り三丁目二番地所在株式会社第一銀行八重洲口支店において、前記株式会社ヤシカの当座預金口座に入金すべく同会社のため業務上預かり保管中の受取り小切手八通(額面合計一億一、八〇〇万円)を、ほしいままに前記安田信託銀行渋谷支店ほか一行の係員に対し同店振出しの自己宛小切手取組み方を依頼してその資金に充当しもってそれぞれ横領した

第七(昭和四六年四月二四日付起訴状記載の公訴事実)

昭和四三年七月八日頃、株式会社ヤシカの当座預金を資金として自己宛小切手一通(記番号CO九九五二、額面六〇〇万円、振出人同銀行本店営業部長横塚文彦)を取り組み株式会社ヤシカのため業務上預かり保管中、これをほしいままに、同都千代田区丸の内一丁目六番三号所在丸の内ホテル一階ロビーにおいて前記ミヅホ商事株式会社の運転資金に充当するため橋場賢一に手交して横領した

ものである。

(証拠の標目)≪省略≫

(法令の適用)

一、判示所為 各業務上横領につき刑法二五三条(判示第三の一の(一)(二)は包括一罪別表の分は番号ごとに一罪)(共犯にかかる分についてはさらに同法六〇条)

背任につき刑法二四七条(懲役刑選択)

一、併合罪 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(最も重い判示第三の一の罪の刑に加重)

一、未決勾留日数の本刑算入 刑法二一条

そこで、主文のとおり判決する。

(裁判官 小林充)

<以下省略>

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