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東京地方裁判所 昭和46年(合わ)108号 判決 1972年3月24日

主文

被告人両名をそれぞれ懲役九年に処する。

被告人らに対し、未決勾留日数中各三〇〇日をそれぞれその刑に算入する。

理由

(被告人両名の経歴および本件犯行に至る経過)

被告人中島は、昭和四〇年四月東京水産大学増殖学科に入学したが、同大学在学中、学園紛争やいわゆる日韓闘争などを契機として次第に学生運動に関心を抱いたすえ、翌四一年一一月ころ現在の社会を改革するためには、学問を打ちきり労働運動の実践に向うべきであるとの考えから、同大学に休学届を提出し、それ以来、京浜工業地帯で工場労働者として働き、遂には同大学を退学したもの、被告人尾崎は、昭和四一年四月横浜国立大学経済学部経済学科に入学したが、同四四年一月の学園紛争や同年四月のいわゆる沖繩闘争を契機として政治運動に関心を抱くようになり、その後学業を一時中断し、工員として働いていたものであって、被告人両名は、昭和四四年七月ころ、学生および京浜地帯の労働者が、「反米愛国・武装革命」を標榜して京浜安保阻止共闘会議(通称「京浜安保共闘」)を結成するやいずれもその所属員となったものである。ところで、京浜安保共闘に所属する被告人らおよびほか数名の者は、前記の標榜しているところを実現するためには人民の武装化が急務であるとの理由から、武器としての猟銃等の奪取を企図し、昭和四六年初頭ごろから被告人中島らにおいて関東各県の銃砲店の様子を調査するなどして計画を進め、さらに翌四六年二月一〇日ごろからは、被告人両名および瀬木政児、寺岡某、吉野某、雪野某らが、茨城県下館市大字直井三七〇番地の一所在の第四酒寄荘二号室で寝食を共にしながらその計画を練った。そして、同年二月一三、四日ごろ、前記第四酒寄荘二号室において、右の者らが前記調査の結果を検討したすえ、栃木県真岡市田町一八二六番地所在薬局兼銃砲火薬販売業塚田銃砲店こと塚田元成(当三三年)方を銃砲・弾丸等を強取するため襲う目標とし、決行の日時は同月一七日午前一時頃とすることを決めるとともに、右強取の具体的方法として、奪った銃砲等の運搬用に予め二名の者が他から自動車を窃取すること、銃砲等の強取には被告人両名を含む前記六名がその実行にあたり、内一名は電報配達員の制服制帽を着用し、他の五名は黒色ストッキングで覆面をし変装をすること、出刃包丁および玩具用脇差などを用いて家人を脅迫し、麻ロープで家人を緊縛したり目と口をガムテープで塞ぐ等の方法で家人の反抗を抑圧すること等を打ち合わせたうえ、犯行の準備として、さらに前記塚田銃砲店の様子やその付近の地理などについて下見分をするとともに刃渡り一四センチメートルの出刃包丁、玩具用脇差、ガムテープ、麻ロープ、覆面用ストッキング、変装用服装等を調達し、また盗取した自動車を偽装するため偽のナンバープレートを作るなどした。かくして、被告人両名と前記四名は、同月一六日午後二時ごろから前記第四酒寄荘二号室において、計画を六名全員で最終的に確認し謀議を遂げた後、同日午後八時頃、前記出刃包丁、玩具用脇差、麻ロープ、ガムテープ、ストッキング等を携え、自動車一台に同乗し、前記第四酒寄荘を出発したうえ、以下述べる犯行を行なった。

(罪となる事実)

被告人両名は、前記のとおり瀬木政児、寺岡某、吉野某、雪野某と共謀のうえ、

第一  被告人中島および瀬木政児において、昭和四六年二月一六日午後九時ころから同一〇時ころまでの間、茨城県笠間市石井一、〇六三番地川野輪実方空地において、蛯沢幸男所有の普通貨物自動車(ニッサンスカイライン茨四四せ四八八一号)一台(時価約五〇万円相当)を窃取し、

第二  前記自動車および窃取した右自動車に分乗し、前記塚田方から約一、五〇〇メートルはなれた真岡市東郷九三七番地大前神社境内に赴き、同所においてヤッケ等を着用し、ついで窃取にかかる右自動車に六名同乗の上、塚田方裏手の同市田町一、〇三三番地円林寺境内に右自動車を乗り入れ、ストッキングをかぶる等の変装をなしたうえ、被告人尾崎において玩具用脇差を電報配達夫の変装をした者において出刃包丁を携え、翌一七日午前一時三〇分ころ、前記塚田方東側勝手口に赴き、電報配達夫の変装をした共犯者において「電報、電報」と叫んで家人を呼び起し、右勝手口開き戸を外側に二〇センチメートルくらい開けて応待に出た前記塚田元成に対し、所携の出刃包丁を突きつけ、右塚田が、身体をのけぞらしながら右開き戸を必死に閉めようとすると、なおも右包丁を握った肩のあたりまで、開き戸内にこじ入れたうえ、さらに右包丁を右塚田の腹部手前約三〇センチメートルまで突き出し、遂に右開き戸を外側にこじあけて六名全員が同人方に入り込んだ。そして、右電報配達夫の変装をした者および被告人尾崎において、前記塚田元成を同人方四畳半の居室で取り押え、他の二名において同人の妻光子を、被告人中島において右塚田の長男健一(当六年)および長女洋子(当五年)を八畳の寝室で取り押えたうえ、それぞれ同人らの両手を後ろに回させ、両足ともども所携の麻ロープで緊縛し、目および口に所携のガムテープを貼りつけ、さらに被告人尾崎外一名において前記塚田元成の身体を布団でくるんで繩飛用ロープで縛り、前記八畳間の寝室に他の家族の者らとともに横たえ、その上から同人らの身体の部分に布団をかぶせ、同人らの反抗を抑圧したうえ、右塚田方店舗内および四畳間の居室から別紙記載のとおり右塚田元成ほか六名所有の散弾銃一〇丁、空気銃一丁、散弾銃用実包約二、二〇〇発、ライフル銃用実包六〇発、曳光弾約二〇発、雷管一〇〇個、散弾二袋、スキー用リュックサック一個(時価合計約一一三七、〇五五円)を強取したが、前記出刃包丁を突き出すなどの暴行により、塚田元成が開き戸の取手から手をはなし、屋内に逃げ込もうとして右に旋回した際、同人に対し、全治約一週間を要する左環指切創・腱切断創の傷害を負わせたものである。

(証拠の標目)≪省略≫

(法令の適用)

被告人両名の判示所為中、第一の窃盗の点は、いずれも刑法六〇条、二三五条に、判示第二の強盗致傷の点はいずれも同法六〇条、二四〇条前段にそれぞれ該当するところ、被告人両名の判示第二の罪につき所定刑中いずれも有期懲役刑を選択するが、以上は同法四五条前段の併合罪なので、同法四七条本文、一〇条により重い判示第二の罪の刑に同法一四条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人両名をそれぞれ懲役九年に処し、同法二一条を適用して被告人両名に対し未決勾留日数中三〇〇日を右の各刑に算入することとし、訴訟費用は刑事訴訟法一八一条一項但書により被告人両名に負担させないこととする。

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、まず、被害者塚田元成が傷害を受けた際、被告人らは脅迫を開始していたとは言えるけれども、それはいまだ右塚田の反抗を抑圧するに足る程度のものと言うことができないからいまだ強盗の着手がなく、従って、被告人らは、強盗致傷の責任を負わないというべきであり、かりに右当時、被告人らが強盗罪に着手していたとしても被告人らは暴行の意思を有しておらず暴行の事実もなかったのであるから過失傷害罪が成立するにすぎない。従っていずれの意味においても強盗致傷罪は成立しないと主張する。

よって検討するに、被告人らが判示のような態様で至近距離にある右塚田の身辺に向って出刃包丁を突き出す所為は、それ自体人の身体に対する不法な有形力の行使として暴行と評価でき、かつ判示のような、出刃包丁を突き出した態様に、本件犯行の時刻、場所および出刃包丁を突き出して開き戸をこじ開けようとした際に共犯者が加えた力の程度等の諸点をも合わせ考慮すれば、被告人らは、右塚田に対し傷害を負わせた当時いずれも屋内に侵入していなかったものとはいえ、その反抗を抑圧するに足る暴行を加えたものであって、すでにこの時点において、強盗の着手があったというべきである。ところで、強盗致傷罪における致傷の結果は、強盗の機会において生じたものであれば足りると解すべきところ、本件においては、右にみたとおり、被告人らにおいて強盗に着手し、その機会に右塚田に傷害を負わせたのであるから、右傷害は強盗致傷罪における傷害というべく、弁護人主張のように、被告人両名の行為が過失傷害罪によって問擬されるべきものではない。よって、この点に関する弁護人の主張は採用しない。

(量刑の事情)

本件各犯行は、武装革命を志向する被告人らの組織的、計画的な実力行動の一環として行なわれたものであって、その動機・目的は、破れんち的なものではなく、被告人らなりの危機感と焦燥感に馳られたすえ一つの政治的選択を決断したものと理解する余地はあるにせよ、現行法秩序のもとにおいては到底許されるものではない。

また、犯行の態様も、幼児二名を含めた家族全員を全く身動きできないように緊縛し、かつ目および口をふさいだうえでなされたもので残酷ともいえるほどである。さらに、奪取の対象とされたのは猟銃およびその弾丸等でありそれが使用された場合の危険性は多くを言うまでもなく、また、それ故に、本件犯行は世人に大きな驚がくと不安の念を与えたものと認められる。これらに加えて、被害額の程度、被害者家族が受けた衝撃と恐怖などをもあわせ考慮すると、被告人両名の刑事責任はきわめて重大であるといわなければならない。なお被告人尾崎については、本件各犯行が執行猶予中になされた点もこれを軽視するわけにはいかない。

もっとも、被告人らとしては塚田銃砲店の家族に対しても目的達成に必要でない行為に及ぶことのないよう一応は配慮していること、被害者塚田元成に傷害を負わせた点については、被告人らの本意とするところではなかったことが窺われるほか、幸いにしてその傷害の程度も比較的軽微であったこと、さらに、被告人両名はいずれも将来性に富む青年で、被告人らなりにその生き方を探索していたものであって、被告人中島についてはこれまで前科がないことなどは、被告人らに有利な情状として斟酌されるべきではあるけれども、これらの諸点を考慮しても、なお被告人両名に対しては、主文程度の刑を科するのはやむを得ないものと考えられる。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林充 裁判官 田口祐三 田中康郎)

<以下省略>

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