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東京地方裁判所 昭和46年(行ウ)170号 判決 1974年12月20日

原告 常盤不動産有限会社

被告 北沢税務署長

訴訟代理人 上田明信 月原進 ほか二名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判<省略>

第二当事者の主張

一  原告の請求原因<省略>

二  被告の認否と主張<省略>

三  被告の主張に対する原告の認否と反論

1  <省略>

2  (一)、(二)、(三)、(四)<省略>

(五) 一般的に、行政処分の通知書には処分の相手方に不服申立の便宜を与えるなどの趣旨から処分理由を具体的に記載することを要するものとされているところ、国税徴収法三二条一項によれば「第二次納税義務者から徴収しようとするときは、その者に対し、政令で定めるところにより、徴収しようとする金額、納付の期限その他必要な事項を記載した納付通知書により告知しなければならない。」と規定し、同法施行令一一条一項は納付通知書に記載すべき事項を列挙しているが(その四号には「その者につき適用すべき第二次納税義務に関する規定」)、右記載事項をもつてしては、第二次納税義務の被告知者において滞納者とのいかなる時期のいかなる取引のために当該第二次納税義務を負担させられたのか明確に把握することが困難である。したがつて、国税徴収法三九条に基づく第二次納税義務の納付通知書には前記法令の規定にかかわらず「三九条については滞納者のした処分行為」も記載することを要するものと解するのが相当であつて、本件納付通知書にはこれが記載を欠くので、本件告知処分は違法というべきであり、この点は最高裁判所昭和四九年四月二五日の青色申告承認取消処分に関する判決が参照されるべきである。

(六) 大滝一雄は、原告及び葵商事の顧問弁護士として法律関係の相談を受け、それに対し適切な勧告をし、あるいは対外的法律関係に付随する金銭的事務を引受けることがあるにすぎない。

四  被告の再反論

国税徴収法三二条一項は「税務署長は、納税者の国税を第二次納税義務者から徴収しようとするときは、その者に対し、政令で定めるところにより、徴収しようとする金額、納付の期限その他必要な事項を記載した納付通知書により告知しなければならない。」と規定し、同法施行令一一条一項は「法第三二条第一項(第二次納税義務の通則)に規定する納付通知書には、次の事項を記載しなければならない。一 納税者の氏名及び住所又は居所、二 滞納に係る国税の年度、税目、納期限及び金額、三 前号の金額のうち第二次納税義務者から徴収しようとする金額並びにその納付の期限及び場所、四 その者につき適用すべき第二次納税義務に関する規定」と規定するにとどまるのであつて、原告主張のごとく「処分行為」を記載すべきことを定めた明文の規定は存しないので、その必要はないものというべきである。このことは、更正処分や賦課決定処分の通知書に記載すべき事項は法に明記し(国税通則法二四条、二五条、二八条二項、三項)、それ以外に理由等の記載を要求される場合においては、例えば、所得税法一五五条二項、法人税法一三〇条二項等のごとく、法は明文を設けて通知書に記載すべき事項を特定していることと対比すれば容易に理解しうるところである。

なお、最高裁判所昭和四九年四月二五日判決は、昭和四〇年法律第三四号による改正前の法人税法二五条九項後段において青色申告の承認取消しの通知書に付記すべき理由の程度に関するものであつて、本件のごとく第二次納税義務の納付通知書に関するものとは事案を異にし、右両者を同一に論ずることはできない。

第三証拠<省略>

理由

一  請求原因1、2項の事実は、葵商事が昭和四〇年度において営業不振であつたこと及び原告主張日時に清算終了したことを除き、当事者間に争いがない。

二  本件告知処分の適法性

1  第二次納税義務について

国税微収法三九条所定の第二次納税義務の制度は、租税負担の公平並びに租税徴収確保の趣旨から、納税者の財産につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合において、その不足することが滞納者が第三者に対する法定納期限の一年前の日以後になした無償または著しい低額の対価による財産の処分ないしは債務の免除に基因すると認められるとき、これを否認して実質的に納税者になおその財産ないしは債権が帰属しているものと認めて、当該財産を取得しあるいは債務を免れた第三者に補充的、第二次的に滞納者の納税義務分を負担させる制度である。

2  本件における第二次納税義務の要件の存否

(一)  以下の事実は当事者間に争いがない。

原告と葵商事が被告主張のごとく(第二の二の2(二)(1))特殊関係者の間柄(国税徴収法施行令一三条一項七号)にあること、葵商事が織田ビル地階の貸借権を松風に譲渡し、昭和三九年六月一日その代金一八、〇〇〇、〇〇〇円を受領したこと、右代金のうち一六、五〇〇、〇〇〇円が同日三和銀行新橋支店伊藤一朗名義の当座預金とされ、その後、同月九日このうち七、五〇〇、〇〇〇円が伊藤一朗名義の平和相互銀行新橋支店の普通預金とされたうえ、同月二二日原告の負担する株式会社雨宮工務店に対する第二常盤ビル工事代金の支払として巣鴨信用金庫駒込支店の口座に振り込まれ、さらに、残額中八、〇〇〇、〇〇〇円につき同月八日伊藤一朗名義の平和相互銀行新橋支店の通知預金にされ、ついで、同月二四日芝信用金庫田村町支店の無記名定期とされ、そのうち四、〇〇〇、〇〇〇円が同年一二月二四日解約されてその払戻請求権と原告の右信用金庫支店に対する同額の借入金の返還債務とが相殺され、残額四、〇〇〇、〇〇〇円が原告名義の定期預金とされたこと。

(二)  ところが、原告は、前記譲渡代金中の一五、五〇〇、〇〇〇円は葵商事より借り受けたものであつて、同会社と第二常盤ビル地階三二坪の賃貸借契約を締結した際、その権利金一二、八〇〇、〇〇〇円及び一〇か月分の前家賃一、二八〇、〇〇〇円合計一四、〇八〇、〇〇〇円と前記借受金債務とを対当額で相殺し、残余は葵商事の人件費、税金等を支払つたことにより返還したので、右一五、五〇〇、〇〇〇円を原告が無償で譲渡を受けたものではないと主張する。

しかしながら、<証拠省略>を総合すると、葵商事は昭和三九年五月二七日同会社の唯一の営業所(キヤバレー経営)であつた織田ビル地階の前記賃借権を他に譲渡したのちは休業状態をつづけていたこと、一方、原告は、その建設中であつた第二常盤ビル(地上四階、地下一階)が昭和四〇年一月完成し、不動産業者「かんべ土地」に仲介を依頼して賃借人を募集した結果同年一二月頃には一階から四階までは全室が契約済となつたけれども、ただ地階のみは高橋昌之(本名勉・料理店「百姓屋」経営)がその頃これを賃借するまで空室のまま放置されておつたこと、その間葵商事が右地階を賃借した事実はなく、ただその事実があたかも存するように仮装されたにすぎないものであることがいずれも認められる。もつとも<証拠省略>には原告主張に添う趣旨の記載部分もあるが、前示認定に供した各証拠によると、例えば、同ビル二階七坪を貸借してバー「チエ」を経営する榎原三夫の場合、権利金二、四〇〇、〇〇〇円、家賃月額三一、〇〇〇円であり、前示「百姓屋」の場合は権利金が九、六〇〇、〇〇〇円であるのに比し、葵商事に関し原告の主張するところは権利金一二、八〇〇、〇〇〇円、家賃月額一二八、〇〇〇円(地階三二坪)と約二割以上も割高になつていて不合理であるのみならず、葵商事が同地階でキヤバレーなどを営業するため保健所または都税事務所に対し所定の手続をとつた事績もなく、他面、葵商事並びに原告の金銭出納嬢など帳簿類の記載はきわめて社撰で恣意的であり、会計帳簿としての信用性に乏しいものであること、例えば、原告主張の権利金についても、実際には前記認定のごとき経過によつて預金処理をしているにもかかわらず、原告の帳簿上は昭和三九年六月一五日七、二〇〇、〇〇〇円、同年一〇月五日二、五〇〇、〇〇〇円、同年一二月一六日三、一〇〇、〇〇〇円が払込まれたように処理されていること、また、嬢簿上葵商事代表者芹沢節に対し昭和四〇年二月二〇日五、〇〇〇、〇〇〇円、同月二七日四、〇〇〇、〇〇〇円計九、〇〇〇、〇〇〇円を貸し付けたものとして処理(<証拠省略>)しておきながら、被告が同会社に対する滞納処分として右債権の差押を執行するや、この根簿処理は税理士の過誤によるものであつて実際は加藤修に対し簿外の借入分として昭和四一年三月一日九、〇〇〇、〇〇〇円を弁済したものであると申し立てて審査請求理由書の訂正を求めていること<証拠省略>、原告と葵商事とは前判示のような特殊関係にあり、いずれも本店を東京都世田谷区代沢三の二〇の一〇に置き、同所に葵商事の代表者芹沢節、原告代表者松林緑及び右両会社の顧問弁護士大滝一雄が同居し、右代表者らはいずれも女性であつて経営能力なく、両会社とも実質上の経営者は大滝一雄であり、同人が銀行取引、税務関係、契約等の法律関係並びに金銭出納一切を処理しているので、原告主張のような賃貸借契約を仮装し、これに見合う帳簿処理も自由になしうる立場にあつたこと、以上の事実が認められ、これらの事実を総合考察すると、前示の原告主張に添う各証拠はにわかに採用し難く、他に前記認定に反する証拠はない。

(三)  葵商事の前記賃借権譲渡代金の一部が伊藤一朗名義の口座に預金されたことは前記認定のとおりであるが、<証拠省略>によると、伊藤一朗は大滝一雄が伊藤里子との間にもうけた子であつて、現在大滝一朗と改姓していること、本件告知処分当時鎌倉の横浜国立大学付属小学校六年生の児童にすぎず、同人名義の預金口座は単に取引の便宜上利用されていたものであることが認められ、他にこれに反する証拠はない。

(四)  以上の認定事実によると、原告と葵商事との間の第二常盤ビル地階に関する原告主張の賃貸借契約は実際には存在せず、それは関係者によつて仮装されたにすぎないものといわざるをえない。したがつて、原告が葵商事から借り入れた前記一五、五〇〇、〇〇〇円の債務と右賃貸借による権利金等債権一四、〇八〇、〇〇〇円とを対当額において相殺した旨の原告主張事実はこれを肯認するに由なく、その残額を葵商事の人件費等に支弁したことについてもこれを認めうる証拠は何もない。

なお、原告が葵商事から右賃借権を一〇、〇〇〇、〇〇〇円で買い戻した旨の原告主張は、その前提そのものを欠くことになり、これが認められないことはいうまでもない。

(五)  前記認定事実に<証拠省略>を総合すると、葵商事にとつて右賃借権の譲渡代金一八、〇〇〇、〇〇〇円はほとんど唯一の財産であつたというべきところ、原告が昭和三九年六月二二日七、五〇〇、〇〇〇円を雨宮工務店に対する工事代金として払い込み、また、同年一二月二四日四、〇〇〇、〇〇〇円を原告の芝信用金庫田村町支店に対する債務と相殺し、四、〇〇〇、〇〇〇円を原告名義の定期預金とした時点において合計一五、五〇〇、〇〇〇円の無償譲渡を受けたものと認められ、他に同認定を動かしうる証拠はない。

そして、右譲渡行為は、葵商事の本件滞納法人税の法定納期限である昭和四〇年四月三〇日(この点は当事者間に争いがない。)より一年前の日以後になされたものであること明らかであつて、被告が本件滞納者葵商事に対し滞納処分を執行した結果、昭和四四年八月二二日僅かに四、一〇〇円を徴収しえたのみで、同年一一月二五日本件告知処分がなされた時点において法人税四、一五五、〇三〇円、加算税二〇七、九五〇円及び法定の延滞税が滞納となつていたことについては当事者間に争いがない。

(六)  原告は、本件告知処分の通知書には第二次納税義務発生の基因となつた滞納者の処分行為が具体的に明示されていないので、同処分は違法であると主張するけれども、国税徴収法三九条に基づく第二次納税義務者に対する告知処分の通知書に記載すべき事項として原告主張のような事実の記載を命ずる規定はなく、現行法上右記載事項は、同法三二条一項、同法施行令一一条一項の定めるところであるが、<証拠省略>によれば、右法令の要件事実はすべて記載されていることを明認しうるから、本件告知処分にはこの点に関する違法はない。

原告の右主張は、立法論としてはともかく、現行法の解釈上はひつきよう独自の見解にすぎず、失当である(青色申告承認取消処分の通知書とはその性質と法定の要件を異にしこれを同一に論ずることはできない。)

(七)  原告は葵商事に対する執行不足を生じたのは被告が同会社に対する税務処理を遅延したことに基因する旨主張するが、葵商事が昭和四〇年度の確定申告書を提出したのが昭和四〇年五月一日であること、被告がこれに対する更正処分の決定をしたのが昭和四一年二月二八日付であることについては原告の自認するところである。そして、<証拠省略>によると、被告の葵商事に対する税務処理は書類がぼう大であるうえ、被告係官が同会社の実質上の支配者である大滝一雄に面談することが容易ではなく、同人より事実調査をすることが困難であつたことが認められ、この事実に前記確定申告より更正処分までの期間が九か月にすぎないことを併せ考慮すると、右は決して事務処理遅延というには当らないから、原告の前記主張は失当である。

三  叙上の事実に照らすと、原告は、本件滞納者葵商事と特殊関係者の間柄にあるところ、同会社が処分した前記賃借権の譲渡代金中一五、五〇〇、〇〇〇円を無償で譲り受けたものであり、これがため葵商事に対する被告の滞納処分の執行によつてもなお法人税四、一五五、〇三〇円、加算税二〇七、九五〇円及び法定の延滞税が徴収不足となつたのであるから、これにつき原告は国税徴収法三九条に基づき右譲渡を受けた一五、五〇〇、〇〇〇円の限度で第二次納税義務を負うものといわなければならない。

四  よつて、本件告知処分は適法であつて、これを違法としてその取消しを求める原告の本訴請求は理由がないこと明らかであるから失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 高津環 牧山市治 上田豊三)

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