東京地方裁判所 昭和46年(行ウ)210号 判決 1972年3月07日
原告 大渡順二
<ほか二名>
被告 厚生大臣 斉藤昇
右指定代理人 仙波英躬
<ほか二名>
主文
本件訴えを却下する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
一 申立て
(原告ら)
「被告は医道審議会が昭和四六年一〇月二七日処分を答申した医師および歯科医師の氏名、住所、その罪状および処分理由を公表せよ。右公表にあたっては、時効に触れないかぎり、過去の処分事例についてもすべて公表せよ。被告は医道審議会の委員の氏名を公表し、同審議会の決定した事項を官報に公示する等同審議会について一切の秘密主義を払拭するように措置せよ。」との判決を求める。
(被告)
本案前の答弁として、主文同旨の判決を求め、本案につき、「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求める。
二 原告らの請求原因
被告の諮問機関である医道審議会は、昭和四六年一〇月二七日の総会において、医師、歯科医師ら六名につき医師免許取消しなどの処分を相当とする旨被告に答申したが、その際右被処分者の氏名、罪状等は従来の慣例により一切公表しないことという条件を付したため、被告は、これを理由として、右処分につき一切を公表しないとの態度をとっている。
このような被告の態度はきわめて不明朗であり、悪徳医師の氏名等まで秘密にされたのでは、医師の診療を求める市民として医師に対する信頼をおくことができない。
そこで、原告らは、医師と患者との絶対的な信頼関係を回復し、これを将来にわたって保証するため、憲法一三条、一五条、二五条、医師法および歯科医師法各一条、国家公務員法九六条、民法一条三項、行政事件訴訟法五条に基づき、被告に対し、前記申立欄記載のとおりの行為をなすべきことを求める。
三 被告の主張
(本案前の主張)
現行の医師法その他の法律には本件訴えのような形式の訴訟を提起しうることを認めた規定がなく、また、裁判所が行政庁に対し一定の行政行為をなすべきことを命ずることは許されないというべきであるから、本件訴えは不適法である。
(本案の答弁)
請求原因事実のうち、医道審議会が被告に医師および歯科医師の免許取消しなどの処分相当の答申をしたことは認めるが、その余は争う。
理由
原告らは、行政事件訴訟法五条に基づいて本訴を提起しているが、同条の定める民衆訴訟は、法律に定める場合において法律に定める者にかぎり提起することができるものであって(同法四二条)、現行の医師法その他の法律には、本件訴えのような訴訟を民衆訴訟として提起することができる旨を定めた規定は存在しないから、右訴えは不適法というべきである。
なお、本訴を抗告訴訟とみるとしても、前記原告らの主張事実からすれば、本件において原告らが被告の不作為により個別的・具体的にその法律上の利益を侵害されているものとはとうてい認められず、要するに行政が適法に行なわれることについて国民として有する一般的利益の保護を求めているにすぎないと解されるので、個別的・具体的な権利利益の保護を目的とする抗告訴訟を遂行するに足りる適格を欠くというほかはない。
よって、本件訴えを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 高津環 裁判官 内藤正久 佐藤繁)