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東京地方裁判所 昭和46年(行ウ)42号 判決 1974年7月01日

原告 小畑重治

被告 郵政大臣

訴訟代理人 永津勝蔵 外四名

主文

被告が昭和四〇年六月七日原告に対してなした懲戒免職処分を取消す。

訴訟費用は被告の負担する。

事  実<省略>

理由

一  原告主張一の事実〔懲戒処分の存在〕は、全部当事者間に争いがない。

二  原告は、被告の主張する本件処分事由のうちには、処分説明書との関係においてその主張の許されない事由がある旨主張するので、先ずこの点について検討する。

1  およそ、懲戒処分をなすに当つては懲戒権者において基本事由すなわち懲戒に該当する一定の具体的非違行為の存在を確定したうえ、さらに附加理由すなわち右行為に関連して、諸般の情状を考慮して相当と認める処分をするのが当然の事理と解せられるところ、国公法八九条一項がとくに処分者に対して懲戒処分に際して当該職員に対し「処分の事由」を記載した説明書(処分説明書)の交付を要求しているのは、当該職員に処分理由を熟知させ、これに不服がある場合には人事院に対する行政不服審査法による不服申立て(審査請求又は異議申立)等の機会を与えることによつて、その職員の身分を保障し、併せて懲戒処分の公正(国公法七四条一項参照)を確保するにあると解せられ、処分説明書に記載を要する「処分の理由」の範囲、程度については、右法の目的に照らして、次のように解するのが相当である。すなわち、懲戒処分の基本事由たる事実はすべて記載を要するが、その記載は事実関係の同一性を識別できる程度をもつて足り(明記を欠く事実が記載事実と同一性の範囲に属するかどうかは前記法の目的に照らし、具体的事案に応じて判定されることとなる。)、付加事由については記載を要しないものと考える。

2  この観点から本件について検討するに、<証拠省略>の「処分説明書」の処分の理由欄に記載されている事項は、原告の主張するとおりであることが認められ、これに反する証拠はない。しかして、ここで問題となるのは、原告の指摘にかかる各処分事由についてであつて、先ず仙台郵政局関係(但し、被告の主張二2(三)(1) <7>については示威行進そのもの及び事後の附随行動であるから、処分説明書に明記されているというべきである。)について検討するに被告主張の同<2>〔編注:四月一五日午前六時四二分ごろから同八時ごろまでの間の共媒による無断入室行為及び退去並びにビラ撤去方拒否行為〕、<3>〔編注:四月一五日午前八時一七分ごろの共媒による全逓旗・横断幕の取付け行為及び撤去並びに組合員退去方拒否行為〕の各行為は処分説明書に明記されておらず、それに記載ある無許可ビラ貼り行為、示威行進のいずれの概念にも包含されないから、前記意味における事実関係の同一性の範囲外であるといわざるを得ず(処分説明書には「等」と記載されているが、その意味するところは、右無許可ビラ貼り行為、示威行進に包含され、これと同一性を有すると認められる範囲内の行動を指すものと解すべきである。)、その記載を欠くものと解さざるを得ない。しかし、同<4>、<6>の各行為は、処分説明書に明記されていないが、いずれも示威行進の中心目的ともいうべき行為であつて、前記意味における事実関係の同一性の範囲内にあるものというべきであるから、右記載に包含されているものと解する。次に、仙台局関係について検討するに、処分説明書には半日ストライキの実践指導行為について明記されておつて、被告の主張する処分事由はいずれもこれの補助的手段であるかあるいは通常これに随伴する行為であるから、いずれも前記意味における事実関係の同一性の範囲内にあるものというべく、処分説明書に記載があるものと解する。

3  懲戒処分の公正を期し、不公正な懲戒処分から国家公務員の地位を保障しようとする前記法条の趣旨からみて、処分説明書に全く記載のない事実を懲戒処分の基本事由として主張し、当該処分を正当つけることは許されないところというべく、従つて、右指摘にかかる仙台郵政局関係の前記<2>、<3>の各行為につき、被告は本訴において本件処分の基本事由として主張することは許されないところというべきである。しかして、本件処分事由の存否を検討するにあたつても、右各行為を除外した事由について検討することとする。

三  被告の主張二の1の事実(本件処分をなすに至つた経緯)のうち、(一)の事実(全逓の闘争指令発出の経緯について)につき、具体的なストライキ実施郵便局の決定がなされるに至つた経緯すなわち、三月一七日のストライキ実施郵便局が酒田局および横手局の両局に、四月二三日のストライキ実施郵便局が仙台局にそれぞれ決定されるに至つた経緯を除き、全部当事者間に争いがなく、(二)の事実(闘争指令発出に対する郵政省の措置)は、全部当事者間に争いがない。

そこで、以下、右ストライキ実施郵便局の決定がなされるに至つた経緯について検討する。

<証拠省略>によれば、三月一七日実施のストライキについてみれば、全逓中央本部は、昭和四〇年三月八日指令第二〇号(ストライキ準備指令)発出と同時に中央執行委員長名の各地方本部・地区本部委員長宛の「三・一七の戦術実施について」と題する指導文書(全逓企第四五号)を発出した。該指導文書は、要するに、三月一七日のストライキにつき各地方本部(全国で一一ヶ所設置されている。)毎の実施拠点数の決定がなされたこと(東北地本にあつては二ヶ所)、その拠点となる郵便局については、地方本部とその傘下の各地区本部とが協議し、三月一二日までに全逓中央本部企画部に報告し、同本部と協議のうえ最終決定を行なうべきこと、右ストライキ拠点となる郵便局は、この実施により組織問題等の発生する可能性のない定員一〇〇名程度の普通郵便局であつて、民間の各組合、公労協加入の組合等がストライキを集中的に実施するような地域を選定し、共闘を高める配慮を行なうこと、その他ストライキ実施についての具体的方法・指示等を与え、各級機関(全逓中央本部の下部機関である各地方本部、地区本部および支部を指す。以下、同じ。)は以上の要領によりストライキ実施を指導せられたい、とするものであつた。右指令・指導を受けた原告は、三月一〇日ごろ、その傘下の各地区本部委員長会議を開催し、その協議に基づき、各地区本部毎に一局宛合計六局の普通郵便局を右ストライキ拠点の候補局として選出し、これを全逓中央本部に報告したものであつて、同本部は、これに基づいてその職場の組合員の意識とか郵政当局の右ストライキに対する対処の仕方等を検討した結果、東北地本傘下にあつては、右ストライキの拠点局として酒田局および横手局の両局と決定し、指令第二一号(ストライキ実施指令)発出と同時にその旨東北地本に連絡したものである。次に、四月二三日実施の半日ストライキについては、その実施規模からその拠点局につき、中央郵便局および統括局(県庁所在地に在る中心的郵便局を指す。)又はこれに準ずる局としたものであるが、東北地本傘下において仙台局と決定されるに至つた経過は、ほぼ三月一七日のストライキの場合と同様、原告は、各地区本部委員長会議を開催し、その協議に基づきストライキ拠点の候補局を選出し、これを全逓中央本部に報告し、同本部はこれに基づいて決定したものであることが認められる。

右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、三月一七日および四月二三日の各ストライキにつき、それらの拠点局を決定したのは、全逓中央本部であり、原告がこの決定をしたものでないことは、原告主張のとおりであるが、原告は、これらの決定に際し、東北地本の執行委員長として、全逓中央本部の指導に基づき、東北地方におけるストライキ拠点局につきその傘下の各地区本部委員長と協議し、その結果をその候補局として報告したものであつて、叙上の限度においてこれらの決定に関与したものというべく、原告がこれに何ら関与していない旨の弁疏は理由がない。

以下被告主張の個々の処分事由の存否につき検討する。

1  酒田局関係について

(一)  当事者間に争いのない事実

原告は、昭和四〇月三月一六日、闘争指令第二一号に基づく一時間ストライキの責任者として酒田局に赴き、同局局長佐藤幸助に対し、酒田支部の執行権を停止する旨通告したこと、三月一七日午前八時三〇分から同九時三〇分まで原告の指導のもとに勤務時間内一時間のストライキが実施されたこと、該ストライキには、当日同時刻に勤務すべき酒田支部の組合員たる同局職員六一名が参加したこと、右ストライキ中の被告主張の時刻ごろ酒田市浜田堀南飽海地区労働会館(酒田局から約一、五〇〇米)において職場大会が開催され、右組合員らがこれに参加したこと、原告は、右大会に参加し、これの終了後大会参加者の隊列の先頭に並んでこれを引率し、午前九時二三分ごろ同局に到着し、右大会に参加した同局職員は、同時刻ごろ就労するに至つたこと、しかして、欠務した時間は午前八時三〇分から同九時二三分までの五三分間であること、そのために、貯金窓口担当者五名のストライキや参加中午前八時三〇分から同九時二三分まで特定郵便局長三名がこれらの処理に当つたこと、貯金外務員の集金、募集のための出発が約四五分遅延したこと、保険窓口担当者一名のストライキ参加中、保険課課長代理がこれの処理に当つたこと、保険外務員の集金、募集のための出発が約四五分遅延したこと。

(二)  <証拠省略>によれば、次の事実を認めることができる。原告は、昭和四〇年三月一五日午後指令第二一号(ストライキ実施指令)発出と同時に全逓中央本部から酒田局におけるストライキに際し、同局に赴きこれを指揮すべき旨の指令を受け、翌一六日午後山形県酒田市に赴いた。なお、これより先、指令第二〇号(ストライキ準備指令)発出と同時に全逓山形地区本部は該指令を完全に実施すべく地区執行委員会を開催し、同地区本部内のいずれの局がストライキ拠点局と指定されても十分それに対処できるための態勢作りを協議し、翌日から同地区本部役員が同局においてストライキ態勢確立のため活発なオルグ活動を展開しておつて、原告が同局に到着したころにはその態勢は確立されていたものである。

そして、原告は、同日午後五時過ぎ同局において行なわれた同局勤務の組合員の集会に出席し、そこで原告の任務と右ストライキについての状況報告をしたのち、午後六時三五分ごろ、酒田局局長佐藤幸助に対し、三月一六日、一七日の両日酒田支部の執行権を停止し、原告がストライキの責任者である旨通告した(叙上のとおり、執行権を停止する旨通告したことは、当事者間に争いがない。)。

なお、同支部組合掲示板にも原告名をもつて、指令第二一号により三月一六日、一七日の二日間支部執行権は停止されたので、組合員は、原告の指揮に従うべき旨の文書が掲示された。

翌三月一七日午前八時一五分ごろから同八時三五分ごろまでにかけて、「三・一七春闘統一行動全逓酒田分会スト会場」と表示された飽海地区労働会館に、当日酒田局に勤務すべき組合員六一名他勤務時間外の組合員四名、同局職員以外の部内の組合員七名が三々五々右会場に入場し、原告は、午前八時八分ごろ、全逓山形地区本部執行委員長吉宮俊治、同地区本部執行委員五十嵐恒男とともに右会場に到着し、同会場入口付近において入場者の状況を観察していたのであるが、午前八時三二分ごろ、同会場に入場し、参集した前記組合員らに対し、本件ストライキの目的・情勢等につき演説し、同集会は、午前九時八分ごろ終了した。なお、当日午前七時五〇分ごろから部外の応援者約二五名が全逓山形地区本部書記長常世寛の指示により酒田局通用門において一応ピケツテングを実施していた(但し、単に通用門前に集つていた程度で隊列を作るとか、スクラムを組む等のことはなかつた。)が、午前九時二七分ごろ、原告は、右の者らに対し「御苦労さんでした、春闘を勝ち抜きましよう。」との挨拶をし、その後右の者らは解散した。

右ストライキによる業務への影響については、前記のとおり、ほぼ当事者間に争いのないところであるが、貯金・保険の各外勤出発が定時から四五分それぞれおくれたが、貯金外勤については持出不能集金票はなく、保険外務についても持出不能徴収原簿、取立不能徴収原簿はなく、貯金・保険の各外勤の取立率は、いずれも原告主張のとおり平常を上回る好成績となつている。なお、右の外に、郵便外務主事一各のストライキ参加中、郵便外務員に対する書留郵便物の授受は、郵便外務主任が当つた。

以上の認定を左右するに足りる証拠はない。

なお、<証拠省略>によれば、前記大会の開催中の午前八時四二分ごろ、右大会会場入口階段付近において原告および酒田支部長高橋徹宛の酒田局局長の解散要求書ならびに午前八時三〇分から勤務すべき同局庶務会計、貯金、保険各課の職員に郵便課外務主事一名を加えた六一名に対する各入宛の就労命令書を同局保険課長松本久四郎が酒田支部執行委員今野治郎に手交して伝達方を依頼し、さらに、午前八時五五分ごろ、前同所において、原告外一名に対する解散要求書を前同様の方法で、同執行委員に伝達方を依頼した事実を認めることができるけれども、同執行委員が原告に対し、右各依頼事項を伝達したことを認めるに足りる証拠はない。

2  横手局関係について

(一)  当事者間に争いのない事実

昭和四〇年三月一七日午前八時三〇分から同九時二二分まで横手局においてストライキが実施されたこと、該ストライキには、横手支部の組合員である同局職員三六名が参加したこと、右ストライキ実施中の被告主張の時刻ごろ右参加者らは、同局から約一〇〇米離れた横手市大町中丁平源旅館において集会したこと。

(二)  [被告は、原告が右ストライキを実施せしめたと主張するので、先ずこの点について検討する。

前記三で認定した事実の外に、<証拠省略>によれば、原告は、昭和四〇年春闘に対処するため、同年二月二七日および二八日の両日第一九回東北地本執行委員会を開催し、三月から四月にかけてのストライキ態勢確立の対策等を検討し、決定したこと、指令第二〇号は、各級機関に対し、三月一七日午前八時三〇分から同九時三〇分までの一時間のストライキを実施できるよう準備すべきことを命じていること、指令第二一号は、各級機関に対し、前記全逓企画第四五号の指導文書に基づき、右ストライキに突入すべきこと、このストライキに突入する支部の執行権は、三月一六日および一七日の二日間停止し、その支部の組合員は、上部機関から派遣される責任者の指導に従つて一切の行動を行なうべきことを命じたこと、全逓中央本部は、右指令第二一号発出と同時に、右ストライキ拠点局となつた酒田局には原告を、横手局には東北地本書記長八島善次郎をそれぞれ責任者として派遣することを決定し、その旨原告および右書記長に指示したこと、しかして、同書記長は、該指示に従い、後記認定のとおり、横手局に赴き、同局長に対し横手支部の執行権を停止し自己が右ストライキの責任者である旨通告し、本件ストライキを指導したことが認められる。

右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、東北地本書記長が本件ストライキの責任者として横手局に赴いたこと、同書記長が同局局長に対し横手支部の執行権を停止し自己が右ストライキの責任者である旨通告したことは、いずれも直接的には全逓中央本部の指示・指導によるものであり、また、右ストライキは、全逓中央本部の指令第二一号の発出によつて突入したものであるけれども、原告は、東北地本執行委員長として、右ストライキ指令等を受ける立場にあつて、前記指令第二〇号、第二一号を受けていること、また、ストライキ態勢確立のため東北地本執行委員会を開催しその方針を決定していること、その他前記三認定のとおりその傘下の各地区本部委員長と協議をして右ストライキ拠点局の選出に当つていること等から、原告が本件ストライキにつき、全逓中央本部および東北地本書記長らと相互意思相通じてこれを実施せしめたというべきである。

原告は、本件ストライキには全く関係しておらない旨弁疏するが、理由がない。

(三)  次に、本件ストライキの実施状況については、前記当事者間に争いのない事実の外に、<証拠省略>によれば、次の事実を認めることができる。東北地本書記長八島善次郎は、前記全逓中央本部の指令・指示に基づき、三月一六日横手局に赴き、同局局長石山和一に対し、「三月一六日、一七日の両日支部の執行権を停止し、秋田地区における責任者は私である。」と通告した。そして、前記のとおり、翌三月一七日午前八時三〇分から同九時一〇分ごろまで平源旅館において職場大会が開催されたものであるが、右大会参加者は、前述の三六名の外に、勤務時間外の同局職員一一名、同局以外の被告の職員一四名であつた。しかして、右大会ならびにその参加者に対しては、その開催後の午前八時五七分ごろ、横手局庶務会計課長添田暉夫、郵政局人事部管理課課長補佐西野富次郎、同貯金部管理課服務係長伊藤西松らが右大会会場において、八島東北地本書記長、全逓秋田地区本部委員長石綿英二郎および横手支部長煙山幸雄の各人宛の石山局長名の中止要求書ならびに午前八時三〇分から勤務すべき同局庶務会計、貯金、保険各課の職員三六名に対する各人宛の就労命令書を右西野課長補佐が交付しようとしたところ、同書記長は、自己宛の中止要求書のみを受領したが、その他の分の受領は拒絶した。

右大会終了後、これに参加した前記職員らは、前記石綿委員長を先頭に、二列縦隊となつて、午前九時一五分ごろ横手局構内に入り、同局中庭において円陣を作り集会を開き気勢をあげた後、午前九時二〇分ごろ解散し、同九時二二分に就労するに至つたものである。

以上の認定を左右するに足りる証拠はない。

(四)  右ストライキによる業務に対する影響については、<証拠省略>によれば、被告の主張する事実を認めることができる(但し、貯金外務員の募集および集金については、当日団体だけ持出すことになつており、それは予定どおり持出された。)。

右認定を左右するに足りる証拠はない。

3  仙台郵政局関係について

(一)  被告の主張一2(三)(1) <1>(四月一五日のビラ貼り行為)について

<証拠省略>によれば、全逓中央本部は、昭和四〇年春闘の要求項目である大幅な賃金引き上げ等の早期実現を目途して、同年三月各地方本部・地区本部委員長に対し、郵政局に対する交渉強化、ビラ貼り行為を実施し大衆に宣伝することを指導した。そして、同年三月一五日、各地方本部・地区本部委員長に宛てて全逓中央執行委員長名の「三月以降の闘い方及び三、一七スト戦術実施の追加指導」と題する指導文書(全逓企第五九号)を発出し、集団交渉、ビラ貼り行動等の具体的実施方法等を指導した。一方、全逓宮城地区本部は、右指導文書の趣旨に従い、四月初旬地区執行委員会を開催し、先に東北公労協(事務局長は東北地本書記長)が作成し宮城県公労協を経由して配布された「団結の力で破れ低賃金」、「家計簿は七、五〇〇円待つている」等を内容とするステツカーを青年部を主体に、公労協の統一行動日である四月一五日に仙台郵政局庁舎内に貼付することを決定し、その旨東北地本に連絡し、同地本青年部長木村実の指導および協力を要請した。しかして、四月一五日午前三時二五分ごろから同四時一五分ごろまでの間にかけて同局管理者の制止を無視して、全逓宮城地区本部執行委員長菅原保雄が同地区本部青年部組合員約二〇名を指揮して、前記東北地本青年部長および同地区本部役員らも参加して、同局庁舎一階の表面玄関ホール北側ガラス壁(内側)、表面玄関表面ガラス壁(内側)、表面玄関ホール大理石壁等に約一、四三〇枚、二階の保険部事務室の北側ガラス壁等に約五四〇枚、三階の局長室北側ガラス壁等に約三三〇枚、合計約二、三〇〇枚の前記ステツカーを貼付した。なお、このステツカー貼りの行なわれていた際、その場所には東北地本書記長も立会つており、管理者側の口頭による中止要求を無視して右組合員に対し「いいから貼れ」とか「かまわんからどんどん貼れ」等といつて、その行為を指導していた。原告は、後記認定にかかる当日予定の仙台郵政局との集団交渉に備え、他の組合役員らとともに同庁舎一階の東北地本事務室(なお、全逓宮城地区本部の事務室もそれと隣り合わせにある。)に待機していたのであるが、前記ステツカー貼付行為の終了直前の午前四時ごろ、一階ホールに立ち右行為を見ており、郵政局管理課長菊地富士松から口頭で右行為を中止するよう要求されるや「まあまあ」といいながら裏玄関の方に移動し、午前四時一五分ごろまで一階を徘徊し、右行為を見ており、その後前記組合員らに対し「では引き揚げようか。」と声をかけた。

右原告の行動に関する認定部分に反する<証拠省略>は、前掲各証拠に照らして措信し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、本件ステツカー貼付行為の実施を決定し、実行したのは、直接的には全逓宮城地区本部であるけれども、全逓中央本部から東北地本委員長宛にビラ貼り活動をなすべき旨の一般的指示がなされており、東北地本事務室と全逓宮城地区本部の事務室は隣り合わせになつていることからその役員らの折衝は常に行なわれていたものと容易に推則し得るところであり、また、本件ステツカー貼付行為については全逓宮城地区本部から東北地本青年部長に協力要請がなされ、同部長もその行為に参加しており、東北地本書記長も右行為の現場におつて組合員を激励していること、また、原告自身も本件ステツカー貼付行為の行なわれている際その場所に行き、同所を徘徊し、郵政局管理者の中止要求に対しては「まあまあ」といつたり、組合員らに対し「では引き揚げようか」と声を掛けたりしていることから、原告は、本件ステツカー貼付行為につき、東北地本の役員のみならず、全逓宮城地区本部の役員らとも相互意思相通じていたものと推認することができる。

原告は、本件ステツカー貼付行為には全く関与しておらず、原告が右現場にいたのは単に上部機関の役員として当局側とのトラブルを避けるために過ぎない旨供述する(<証拠省略>の公平委員会における供述も含む。)ところであるが、右認定したところから明らかとなつたとおり、原告が右現場にいたのはそのことだけに止まらなかつたものというべきであるから、原告の右ステツカー貼付行為に無関係である旨の供述は措信しない。

(二)  同(1) の<4>ないし<7>(集団交渉要求行為および集団示威行動)について

<証拠省略>によれば、次の事実を認めることができる。

(1)  全逓中央本部は、昭和四〇年三月、各地方本部・地区本部委員長に対し、郵政局に対する交渉強化等をなすべき旨の指導をなしたことは、前記(一)に認定したところであるが、東北地本にあつては、種々の事情から他の地方本部と比較して郵政局との交渉が遅延していたため全逓中央本部から早急に集団交渉を実施すべき旨の指示がなされた。そこで、原告は、昭和四〇年四月一〇日東北地本執行委員会を開催し、同月一五日に予定されていた公労協のストライキ宣言(公労協の統一行動日でもある。)に呼応し、全逓宮城地区本部の青年部から約一〇〇名の組合員を、その他の東北地本傘下の五地区本部からはそれぞれ約五名の組合員を動員し、その動員者を以つて、仮りに、それができない場合は各地区本部の代表者を以つて郵政局長と後記項目につき集団交渉を実施し、その際庁舎内集団示威行進をも併せて実施すること等の具体的行動方針を決定した。しかして、東北地本書記長は、右決定のなされた当日、全逓宮城地区本部に対しては約一〇〇名、その他の五地区本部に対してはそれぞれ約五名を四月一五日午前八時までに郵政局庁舎前に集合さすべき旨の動員要請を行なつた。

(2)  東北地本副委員長川辺忠雄は、四月一五日午前九時一五分ごろ、前記郵政局長との集団交渉を実現させるべく、同局人事部管理課長菊地富士松の部屋(同局三階人事部長室に接した人事部事務室内にある。)に赴き、同課長に対し、当日の午前中に局長または人事部長と組合側の出席人員三〇名との間で、賃金を七、五〇〇円引き上げること、初任給を二万円とすること、職員宿舎を設置すること、日曜配達を廃止すること、悪質管理者を処分追放することの五項目(前四項目については権限外であろうから本省に上申すること。)につき交渉したい旨要求したのであるが、同課長は、集団的な交渉に応じてはならない旨の本省からの指示を受けていたので、その旨同副委員長に伝え右要求を拒絶したのであるが、同副委員長は、尚も「とにかく会わせてほしい。」とか「会わせろ。」等と要求し続け、右課長もそれに対し強く拒絶したため同副委員長は、午前九時二八分ごろ同課長室を退室した。

(3)  他方、同日午前八時三〇分ごろから、前記経過を辿つて動員された全逓組合員約一〇〇名が郵政局庁舎玄関前において、全逓宮城地区本部書記長らの指導により白地に赤の全逓の文字入の鉢巻をつけ、労働歌を合唱して気勢を挙げていたのであるが、午前九時三一分ごろ、東北地本青年部長木村実の号令により三列縦隊となり、約三分間同庁舎玄関前を集団示威行進した後、約五〇名毎の二グループに分かれ、一方は右木村青年部長、他方は全逓宮城地区本部青年部長佐藤久吉がそれぞれ指導し、予め同局および監察局職員以外の入局規制をしていた管理者との間に少しの間揉合いをしたが、その者らを返えして入局し、右木村青年部長の指導するグループは、表階段から、右佐藤青年部長の指導するグループは、裏階段からそれぞれ昇り始め、前者のグループは、東北地本書記長の呼笛の誘導により三列縦隊で「ワツシヨイ、ワツシヨイ」と掛け声をかけながら一階から四階までの階段を示威行進し、同階において裏階段から昇つてきた後者のグループと合流した後、同階から三階に降り、郵政局長室前のホールにおいて「ワツシヨイ、ワツシヨイ」と掛け声をかけながら二、三回示威行進した後、同局長との集団交渉を求めるべく座り込み待機するに至つた。その直後の午前九時四六分ごろ、前記木村青年部長は、携帯マイクを使用し労働歌の合唱を指導した。これに対し、管財課長渡辺清一は、解散命令および座り込み禁止の立札を立てたが全く無視された。原告は、前記組合員らがグループとなつて郵政局庁舎内に入局する際、同庁舎玄関入口付近でこれを見ていたが、入局後その約二メートル後を追尾した。それに対し、前記管財課長は、原告の後から携帯マイクを使用して庁舎内集団示威行動禁止と庁舎外退去を連呼したが、全く無視された。そして、原告は午前九時四六分ごろ、前記三階ホールの郵政局長室前に座り込み中の組合員らに挨拶していた前記木村青年部長の傍に立ち事態の推移を見ていた。

(4)  他方、前記川辺副委員長は、午前九時四七分ごろ、再度前記管理課長室に赴き、同課長に対し、前同様集団交渉を要求し、同課長が前回同様の回答をしたところ、同副委員長は、「こういう状態とはどういう状態か、何故会えないのか」と詰寄り、同課長との間に押問答を繰返えしていた。一方、原告ら組合役員は、右集団交渉を当日午前中の早い時間に実施することを打ち合わせていたのに一向にそのための窓口折衝が進展しないので、その様子を窺うため、午前一〇時ごろ、同課長室に入室し、午前一〇時一七分ごろまで同副委員長ともども交渉に応ずべきことを要求した後退室した。また、同副委員長も、午前一〇時四三分ごろ、一旦退室し、前記三階ホールに座り込んでいた組合員らに窓口接衝の経過を報告した後、午前一〇時四五分ごろ、再度管理課長室に赴き、同課長に対し、前同様の要求をしたが同課長が局長、人事部長が不在である旨告げると同課長に対し、要求書を読み上げ直ぐ解散するので代表二〇名の入室を認めてもらいたい旨要求したので、同課長は、課長補佐、係長らと協議した結果周囲の状況上止むを得ないと判断し、右条件のもとに右要求を受け入れた。しかして、前記各地区本部の代表二〇名が入室し(原告も遅れて入室した。)、前記副委員長が前記交渉項目と同趣旨の要求書を読み上げた後前記申し入れ条件に反し、これの本省への上申と内容を検討して回答すべきことを求め、同課長が「このような事態のあつたことは当然報告する。」と答えると、同副委員長は、「今日は、これで要求することを打切る。」と発言し、原告ら組合役員および右組合代表者は、午前一一時二〇分ごろ同課長室から退室した。

(5)  なお、この間の午前一〇時一四分ごろから約一〇分間前記三階ホールに座り込んでいた組合員らは、前記木村青年部長の音頭で「人事部長会見に応じろ、代表団頑張れ、大幅賃上げを闘いとろう。」とのシユプレヒコールを繰り返えしていた。そして、同時刻ごろ、前記川辺副委員長と管理課長との折衝にしびれを切らした右組合員の約一〇名が前記管理課長室に入室しようとしたこともあつたが、同課長室にいた原告ら組合役員は、管理者とともに説得して制止した(この間は約五分間であつた)。その後、川辺副委員長が再度管理課長室に入室した直後の午前一〇時四七分ごろ、八島東北地本書記長は、窓口接衝が進展しないので気勢をあげるため、「管理課長にいくら交渉してもらちがあかないから、これから実力行使する。」と発言し、前記座り込んでいた組合員を立たせて隊形を整えさせたのち、二班に分かれ、約一二分間「ワツイシヨイ、ワツシヨイ」と掛け声をかけたり、「人事部長に会わせろ」等とシユプレヒコールを繰り返えし、渦巻状の示威行進をしたりし、あるいは、人事部長室に入室するかのような気勢を示したりした(但し、右組合員らに入室の意思は認められない。)そのため、その間同所付近はかなり喧噪状態となつた。原告は、午前一一時二〇分ごろ、前記経過を辿つて管理課長に要求書を読み上げ同室から川辺副委員長らと退室した直後、前記組合員らに対し、「もとの状態に戻れ。」と号令をかけて起立させ、川辺副委員長が前記交渉経過を報告した後、「仙台郵政局の労務政策はこのようなものだ。」とか「こういう姿勢だから半日ストライキを繰返えして物留め闘争をやる。」等と発言し、前記木村青年部長が午後の行動計画を説明し、労働歌を合唱した後、午前一一時三〇分ごろ、原告は右手を挙げながら大声で「団結頑張ろう。」の三唱の音頭を取り、その後右組合員らは、もときたと同様集団示威行進をしながら庁舎外に退出し、解散するに至つた。右認定に反する<証拠省略>は、前掲各証拠に照らして措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(三)  同(2) (四月二二日のビラ貼り行為)について

<証拠省略>によれば、次の事実を認めることができる。

四月一九日夕刻、同月二三日の仙台局における半日ストライキの責任者として、全逓中央本部から派遣された全逓中央執行委員増元昭夫は、前記全逓宮城地区本部事務室を訪れた際、前記四月一五日に貼付されずに残つたステツカー約一、二〇〇板が放置されているのを発見し、同執行委員は、当時教育宣伝部を担当していた関係上、同地区本部執行委員長菅原保雄に対し、右二三日の半日ストライキに向け気勢をあげる意味においても早急に貼付すべきことを指示した。これを受けた同委員長は、同月二〇日地区執行委員会を開催し、同月二二日に右ステツカー全部を仙台郵政局庁舎内に貼付することを決定した。しかして、同日午後八時一六分ごろから同八時二六分ごろまでと、午後九時一五分ごろから同九時二〇分ごろまでの二回に分け、同地区青年部組合員約二〇名を動員し、管理者の制止を無視し、あるいは密かに、一階から二階にかけてのガラス壁、入口扉、階段の手摺等に右ステツカー全部を貼付した。

原告は、当日、翌日の仙台局におけるストライキに備え、同局一階の東北地本事務室に待機していたのであるが、右ステツカー貼りが行なわれることは当日の夕方ごろから知つており、それの始まつた午後八時一六分ごろ、その現場に赴き、ステツカーを貼つている組合員の後について回りながら、貼付されたステツカーのまくれた個所を手で押える(この点は当事者間に争いがない。)等し、二階において同局管理者が原告に対し、右ステツカー貼りを中止するよう要求したのに対し、「あまりがやがやするな。」といつて一階の方に降りて行き、また、午後八時二〇分ごろ、同局管理課課長補佐が原告に対し、「ビラ貼りを止めさせてくれ、一五日のビラ貼りで済まんのか。」とか「委員長、ビラ貼りを止めさせて退去させて下さい。」等と要求したのに対し、「たいしたことはない。」、「止めさせない、ビラ貼りは労働者の労働運動で最少限のものだ。」と答え、さらに同局管理課労働係長が「ビラ貼りを止めさせなさい。」と要求したのに対し「考え中だ。」と答えるのみであつていずれも管理者の制止を無視し、暫くして前記東北地本事務室に引揚げたが、また、その後の午後九時一六分ごろ、一階階段付近において、管理課長から右ステツカー貼付行為の中止を求められたけれどもこの要求にも応じなかつたものである。

また、東北地本副委員長川辺忠雄は、原告が右東北地本事務室に引揚げた後の午後八時二〇分ごろ、同事務室から一階ホールに現われ、管理者が前記ステツカーを貼つている組合員らに対し制止をしているにもかかわらず「ゆつくり貼りなさい。」と指示したり、午後八時二五分ごろ、右玄関ホールにおいてステツカーを貼つている組合員に対し、それを中止して組合事務室に引揚げるよう指示したりした。

なお、右ステツカー貼付行為によつて、仙台郵政局にあつてはその清掃費用として清掃請負業者に二、五〇〇円の出費を余儀なくされたものである。

右認定事実を左右するに足りる証拠はない。原告は、本件ステツカー貼付行為には全く無関係である旨弁疏するのであるが、叙上認定事実によれば、たしかに右ステツカー貼付行為を指示したのは全逓執行委員増元昭夫であり、その指示に従い全逓宮城地区本部が直接実行したものであるが、原告も叙上認定の限度でその現場におり、貼付されたステツカーのまくれた個所を手で押えたり、ステツカーを貼付している組合員の後について回つたり、管理者の制止に対しては叙上認定のとおり返答していること、また、右ステツカー貼付行為は右地区本部が実行したといつても東北地本副委員長もその現場において叙上認定の行為に及んでいること等から、原告は、本件ステツカー貼付行為につき、その主張するように当局との間にトラブルの発生しないために右現場にいたということもあつたと思われるが、単にそれのみに止まらず、右地区本部と相互意思相通じていたものと推認することができるのであつて、原告のこの点に関する弁疏は採用し難い。

4  仙台局関係について

(一)  仙台局において被告主張の半日ストライキが実施されたことは、当事者間に争いのないところである。

<証拠省略>によると次の事実が認められる。

全逓中央本部は、指令第二六号発出に先立ち、四月一九日開催の中央執行委員会において、同月二三日に実施予定の半日ストライキの東北地本における拠点局に仙台局を決定するとともに、その実施責任者に全逓中央執行委員増元昭夫(同執行委員は、昭和二六年当時全逓宮城地区本部書記長を歴任したことがある。)を派遣することを決定した。同執行委員は、該決定に従い、その当日の夕刻仙台局に到着し、原告および全逓宮城地区本部役員らからストライキ態勢についての状況報告を受けた。他方、これより先の指令第二五号(準備指令)発出以前から仙台局が右ストライキ拠点局になることを予想して、それに備え、支部の指導機関である右宮城地区本部の中村執行委員が同局の職場において教育宣伝活動、情勢報告等を主体とした活発なオルグ活動を展開し、同指令発出後の四月一五日ごろ、さらに同地区本部書記長馬場治昭もオルグ活動に入り、指令第二六号(突入指令)発出後は右二名の外に同地区本部執行委員隅谷信、同地区本部青年部長佐藤久吉も右オルグ活動に入り、支部役員らとともに、右ストライキ態勢を整えていたところであつて、右全逓中央執行委員が仙台局に到着した時点においては、ストライキ態勢は整えられており、直ちに同執行委員に引継ぐ状況となつていた。同執行委員は、四月二一日午後四時と五時の二回に分け、仙台局において、職場集会が開催された席上、同局が右ストライキ拠点局となつたこと、支部の執行権を停止し、以後の一切の指揮命令権は同執行委員にあることを話した。その後、同執行委員は、東北地本事務室において、原告ら組合役員に対し、右ストライキ実施についての具体的な指示を与えたり、その分担、役割を指示したりした。そして、原告ら組合役員には、同執行委員の手足となりその指揮下に入つて行動すべき旨の指示を与えた。同執行委員は、翌四月二二日午前一一時四五分ごろ、原告、東北地本書記長八島善次郎、全逓宮城地区本部執行委員長菅原保雄、同書記長馬場治昭、同執行委員中村瑞穂とともに仙台局に赴き、同局局長木村健三郎に対し、「四月二三日仙台局で実施する半日ストライキの指揮をとるため責任者として中央本部から派遣された、四月二二、二三日の二日間当支部の執行権は一切停止し私が執行することになる。」と通告した。翌四月二三日午前八時五〇分ごろから同一一時一〇分ごろまで仙台市日乃出会館七階ホールにおいて、欠務者三九九名、勤務時間外の組合員約五〇名、仙台局員以外の被告の職員約五〇名、それ以外の者約一五名が参加して「四・二三半日スト第三次公労協春闘統一行動」と称し、集会を実施した。この間、仙台局庶務課長佐藤重男は、午前九時三五分ごろ、右集会場の受付に赴き、東北地本執行委員久滋留男に対し、全逓中央執行委員増元昭夫宛の仙台局局長名のストライキ中止要求書ならびに当日勤務を要する同局各課職員三八三名に対する各人宛の就労命令書を手交してこれが伝達方を依頼しようとしたが、同執行委員は、右ストライキ中止要求書のみを受取り、右就労命令書は受取らなかつた。その後午前一〇時五九分ごろ、右同所において、右仙台局庶務課長が前記高谷信執行委員に対し、前同様のストライキ中止要求書ならびに当日勤務を要する同局職員一六名に対する各人宛の就労命令書を手交してこれが伝達方を依頼しようとしたが、同執行委員はこれが受領を拒否したものである。右ストライキにより、その欠務時間は午前七時から同一一時四六分までの間(但し、保険課職員は、午前一一時四八分まで)最高四時間四六分、最低四六分間に亘つた。

以上の認定を左右するに足りる証拠はない。

(二)  そこで、以下右ストライキに際しての各組合役員の言動につき、被告の主張に添つて検討する。

(1) 被告主張二2(四)(1) <1>(増元全逓中央執行委員)について

<1>(ア)について

<証拠省略>によれば、被告主張事実を認めることができる。

右認定に友する証拠はない。

<2>(イ)について

先に認定したとおりである。仙台局局長名の職員各人宛の就労命令書は伝達されなかつたものである。

<3>(ウ)について

先に認定したとおりである。仙台局局長名のストライキ中止要求書ならびに仙台局職員各人宛の就労命令書は伝達されなかつたものである。

<4>(エ)について

<証拠省略>により被告主張事実を認めることができ、この認定に反する証拠はない。

(2)  同<2>(原告)について

<証拠省略>によれば、次の事実を認めることができる。

原告は、四月二三日午前五時四五分ごろから同九時ごろまでの間、仙台局通用門入口付近において、全逓の腕章、鉢巻を着用して全逓中央執行委員、東北地本書記長、同青年部長および全逓宮城地区本部書記長、同地区本部執行委員中村瑞穂(同人は、携帯マイクを肩にかけていた。)並びに支部書記長詑摩誠ら組合役員とともに、当局のストライキ切り崩し等の未然の防止と職場大会会場を同局内と思い誤つてくる組合員の指導あるいは説得のために立つていた(但し、仙台局への通行の妨害となるようなことはなかつた。)が、この間、

<1> 午前七時九分ごろ、同局一階郵便課事務室に入室し、郵便課長志賀清志の退去要求に対し、組合の最高責任者として組合員の作業を見る権利がある旨述べて退去せず、同七時一五分ごろまで椅子に腰を下ろしていた(以上の事実は、ほぼ当事者間に争いがない。)、

<2> 午前七時五七分ごろ、右通用門入口付近において、同局会計課長から全逓中央執行委員増元昭夫宛の同局局長名の「ピケ解散要求書」の文書を受けるや、「ピケではない。」といつてこれを返還した(以上の事実もほぼ当事者間に争いがない。)、

<3> 午前八時一六分ごろ、東北地本書記長、全逓宮城地区本部書記長とともに再び前記郵便課事務室に入室し、前記課長に対し宿直勤務者の小包の早期引継ぎ方を要求した(以上の事実は、当事者間に争いがない。)、

<4> 午前八時四二分ごろから約四分間前記通用門付近(但し、仙台局構外)において、スクラムを組み労働歌を合唱した(スクラムを組んでいた点を除き、当事者間に争いがない。)、

<5> 午前九時二四分ごろ、赤腕章をつけ、前記全逓中央執行委員ら組合役員とともに前記職場大会会場に入り、同中央執行委員の情勢報告に次いで行なわれた東北地本傘下の各地区本部執行委員長の激励の挨拶の最後にそれと同様の挨拶をし、右大会終了後の午前一一時三六分ごろ、他の組合役員とともに組合員の先頭に立つて、「がんばろう」の歌を歌い、手を叩きながら仙台局通用門から構内に入り、午前一一時四六分ごろ、同局裏庭で全逓宮城地区本部書記長の司会により開かれた無許可集会において、前記全逓中央執行委員の挨拶に次いで「団結頑張ろう」の三唱の音頭を取つた(以上の事実もほぼ当事者間に争いがない。)。

以上の認定を左右するに足りる証拠はない。

(3)  同<3>(東北地本書記長)について

<証拠省略>によれば、被告主張(ア)および(イ)の各事実を認めることができ、これに反する証拠はない。

被告主張(ウ)の事実については、先に認定したとおりである(但し、ピケ隊に挨拶した点については<証拠省略>によりこれを認めることができ、これに反する証拠はない。)。

(4) 同<4>(東北地本執行委員久慈留男)について

<1> (ア)について

<証拠省略>によれば、被告主張事実を認めることができる。但し、右行為につき、原告が右の者らと意思連絡のあつた事実を認めるに足りる証拠はない。

<2> (イ)について

<証拠省略>によれば、被告主張事実を認めることができ、これに反する証拠はない。

(5)  同<5>(東北地本執行委員村上辰雄)について

<証拠省略>によれば、東北地本執行委員村上辰雄、全逓宮城地区本部書記長馬場治昭外一名の者は、四月二二日午後一一時二〇分ごろ、仙台局庶務課事務室に入室し、同局庶務課長の口頭による再三の退室命令を無視し、同三五分ごろまで椅子に腰掛けていたことを認めることができるが、原告が右行為につき右の者らと意思連絡を有した事実を認めるに足りる証拠はない。

(6)  同<6>(東北地本青年部長)について

先に、(2) の冒頭で認定したとおり被告主張事実を認めることができる。

(7)  同<7>(全逓宮城地区本部執行委員長)について

<証拠省略>によれば、全逓宮城地区本部執行委員長、同地区本部執行委員中村瑞穂の両名は、四月二三日午前七時二五分ごろ、庶務課長の制止を無視し、前記(2) で認定した仙台局通用門付近に立つていた組合役員らに使用させる目的を以つて、組合員五名を指揮して仙台局の会議用椅子三七脚を無断で持ち出した事実を認めることができるが、原告が右行為につき、右の者らと意思連絡のあつたことを認めるに足りる証拠はない。

(8)  同<8>(全逓宮城地区本部書記長)について

<1> (ア)について

先に(5) で認定したとおりである。

<2> (イ)について

<証拠省略>によれば、全逓宮城地区本部書記長は、四月二二日午後一一時四〇分ごろ、仙台局一階夜間窓口において、臨局中の仙台南局貯金課長小野田勲に対し、東北地本書記長ら七名で取り囲み、「お前は帰れ。」とか「ここにいてはいかん。」等とこもごも繰返したことを認めることができるが、原告が右行為につき、右の者らと意思連絡のあつたことを認めるに足りる証拠はない。

<3> (ウ)〔四月二三日午前八時二五分ごろの無断入室行為及び退去方拒否行為〕について

<証拠省略>によれば、被告主張事実を認めることができ、この認定を左右するに足りる証拠はない。しかして該事実によれば、全逓宮城地区本部書記長は、宿明者のストライキ参加を目的として該行動に出ていたと思われるので、原告も右行為につき同書記長との間に意思を通じていたものと推認することができる。

<4> (エ)について

<証拠省略>により被告主張事実を認めることができ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

(9)  同<9>(全逓宮城地区執行委員中村瑞穂)について

<1>(ア)〔四月二三日午前四時二〇分ごろの無断入室行為〕について

<証拠省略>によれば、中村執行委員は、四月二二日の夜半から当局のストライキ破りの監視と仙台局で勤務中の組合員を激励する目的で同局内に行つていたのであるが、その間被告主張の行為に及んだことが認められ、この認定に反する証拠はない。しかして該認定事実によれば、原告が右中村執行委員の行為につき同執行委員と意思を通じていたことを推認できる。

<2>(イ)について

先に(4) <1>で認定したとおりである。

<3>(ウ)について

先に(2) で認定したとおりである。

<4>(エ)について

先に<7>で認定したとおりである。

(10) 同<10>(全逓宮城地区本部執行委員高谷信)について

<証拠省略>により被告主張事実を認めることができ、これに反する証拠はない。

(11) 同<11>(全逓宮城地区本部青年部長佐藤久吉)について

<1>(ア)について

<証拠省略>によれば、被告主張事実を認めることができるが、原告が右行為につき右の者と意思連絡のあつたことを認めるに足りる証拠はない。

<2>(イ)について

<証拠省略>によれば被告主張事実を認めることができ、これに反する証拠はない。

(12) 同<12>(支部支部長阿部喜八郎)について

<証拠省略>によれば被告主張事実を認めることができ、これに反する証拠はない。

(13) 同<13>(支部書記長詫摩誠)について

<1>(ア)について

<証拠省略>によれば、詫摩支部書記長は、四月二三日午前零時七分ごろ、東北地本書記長八島善次郎とともに仙台局一階郵便課出入口の扉のガラスに管理者の制止を無視し「労働運動の刑罰を許すな」「無罪判決を要求しまう」を内容とするビラ一〇枚を貼付した事実を認めることができるが、原告が右ビラ貼付につき右の者らと意思連絡のあつたことを認めるに足りる証拠はない。

<2>(イ)〔四月二三日午前四時三分ごろの無断入室行為〕について

<証拠省略>によれば、被告主張事実を認めることができる。しかして原告も該行為につき右の者らと意思連絡のあつたことが推認される。

<3>(ウ)について

先に(2) 冒頭で認定したとおり被告主張事実を認めることができる。

(三)次に、本件ストライキによる業務に対する影響について検討する。

<証拠省略>によれば、次の事実を認めることができる。

(1) 運送便について

仙台駅と仙台局間の人便およびその他同局と石巻間、同局と大内間などの自動車運送便一〇便の郵便物につき、仙台郵政局郵務部輸送課課長補佐高橋忠夫外五名の管理者が処理した。

(2)  通常配達便(速達便を除く)について

仙台市内九六区、市外六区の一号便の配達は、全部欠便となり、それにより持出不能郵便物数は、第一、二種郵便で約五万通、第三種以下の郵便で約四万通に達した(以上の事実は、当事者間に争いがない。)。

また、私書箱配付約一万通および大口配達約二万通は、仙台郵政局郵務部施設課長補佐塚田正樹外四名の管理者が代行した。

(3)  速達配達便について

ストライキ中は全部欠便となつた(この事実は、当事者間に争いがない。)。そのため、五時間四〇分遅延した午後二時二〇分に出発した(但し、配達はすべて完了した。)。なお、速達郵便物七、〇〇〇通の内、前記管理者らが、大口の四〇〇個所三、〇〇〇通を配達した。

(4)  貯金外務について

出発が三時間三〇分遅延し、午後一時三〇分に出発した(この点は当事者間に争いがない。)。持出不能集金票は七〇〇件(平常との対比五三%)に達した。

(5)  保険外務について

出発が四時間三〇分遅延し、午後一時三〇分に出発した(この点は当事者間に争いがない。)。持出不能徴収原簿は八三七件、取立不能徴収原簿は七四八件(以上、平常との対比五九%)に達した。

(6)  電信業務について

ストライキ実施中五通の発信申込があつたが、四通は、発信者に事情を説明して電報局から発信することの了承を得、他の一通は、午後に発信することの了解を得た。

(7)  窓口業務について

<1> 郵便について

ストライキ実施中書留引受数は一二九件、小包引受数は、書留八件、普通一五〇件、速達四〇件、料金別後納郵便引受数七、五七二通であり、この窓口業務の処理には、仙台二十人町特定郵便局長外三名の特定郵便局長が当つた。

<2> 貯金について

ストライキ実施中の取扱数は、貯金関係受入七二件一七一万五、七六八円、貯金関係払出六五件一五七万二、六九七円、非現金五件、翌日組入七九件であり、この窓口業務の処理には、小牛田局貯金保険課長首藤良則、仙台南局貯金課長小野田勲外二名の特定郵便局長が当つた。

<3> 保険について

ストライキ実施中の取扱件数は、保険料受入四件五、六二〇円、貸付利息受入五件四、二四五円、解約その他一〇件であり、この窓口業務の処理には、塩釜局保険課長中村政次郎特定郵便局長外一名が当つた。

(8)  なお、被告はストライキ実施中小包配達便が全部欠便となり持出不能数は一、八〇〇個に達した旨主張するが、たしかに<証拠省略>は右主張に副う証拠であるところ、他方、<証拠省略>によれば、本件ストライキ当時仙台市内の小包配達の大部分は訴外日本郵便逓送株式会社が請負つており、当日同労組が半日ストライキに突入していたことが認められるのであつて、右ストライキによる影響も考えられるところであつて、本件ストライキにより被告主張全部の影響が生じたものと断定することはできない。

以上の認定を覆えすに足る証拠はない。

五  法令の適用

1  酒田局、横手局および仙台局における各ストライキについて

原告の勤務すべき郵政業務は、多かれ少かれ、また直接と間接の相違はあつても、等しく国民生活全体の利益と密接な関連を有し、その業務の停廃は国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらし、社会公共にきわめて大きな影響を与えるおそれがあるものであるところ、本件各ストライキは、酒田局において五三分間、横手局においては五二分間、仙台局においては四六分ないし四時間四六分の各欠務行為を行なつたものであつて、その及ぼした影響は、前示認定のとおり軽視すべきでなく、右は争議行為の正当性の限界を超えたものであつて、公労法一七条一項の禁止規定に違反して行なわれた違法な争議行為であるというべきである。従つて、原告の右各行為は、いずれも国公法九八条一項、一〇一条一項、九九条に違反し、同法八二条各号に該当するものといわれなければならない。

2  仙台郵政局関係について

(一)  四月一五日および同月二二日のビラ(ステツカー)貼付行為について

ビラ(ステツカー)貼付行為は、団結権保障の具体的内容として法的に尊重されるべきであることは当然のことであるが、郵政当局の有する施設管理権を不当に侵害することは許されないところというべきであり、本件についてみるに、前示認定のとおり、原告は、全逓宮城地区本部役員らと共媒して本件行為をなしたものであつて、その貼付場所は、いずれも仙台郵政局庁舎内の広範にわたり、その枚数右多数であること、その態様も同局管理者らの制止行為を全く無視して行なわれたこと等の諸事情を考慮すると、同局の維持、管理上特別に支障をきたしたものというべく、原告らの右行為は、組合活動としての相当性の範囲を逸税し違法なものというべきである。従つて、原告の右行為は、国公法九九条に違反し、同法八二条一号および三号に該当するものといわなければならない。

(二)  集団交渉要求行為について

(1)  郵政当局と全逓との団体交渉に関しては、公労法八条ないし一一条に規定させているところであるが、<証拠省略>によれば、右両者の間には、従前団体交渉の方式および手続に際し、労働協約が存していたが、本件当時該協約は失効していた。しかし、仙台郵政局と東北地本とは、右協約の精神に則り問題のある都度団体交渉(地方交渉といわれる。)を行なつてきたものである。しかして、右団体交渉の手続については、先ず東北地本の交渉部長である川辺副委員長が仙台郵政局の窓口となつていた管理課長と予めその日時、場所、交渉事項等の事務折衝を行なつたうえでなされてきたものであり、その席には、交渉委員へ両者それぞれ一三名位。)が出席することになつており(但し、交渉事項によつては、その者以外に説明員と称される者も出席することがある。)、これまで行なわれてきた団体交渉は、両者それぞれ約三名(最も多いときでも約一〇名)の交渉委員が出席して行なわれるのが通例となつており、交渉事項については、局長の権限内の事項に限られていた(但し、前記協約中には、局長の権限外の事項に発展した場合「上移」という制度が存し、本省と全逓中央本部の交渉に移行することになつていた。)。以上の外に、集団交渉、すなわち、右交渉委員の外に一般組合員が参加する交渉方式は、郵政当局としては行なわない方針を固めておつて、仙台郵政局においても右申し入れについては拒絶する方針であつて従来これが行なわれたことはなかつたことが認められる。以上の認定に反する<証拠省略>(集団交渉が慣例的に行なわれていた旨の証言)は、<証拠省略>に照らし措信し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(2)  本件についてみるに、前記三3(二)に認定した事実に、前項認定事実を併せ考えれば、本件交渉要求行為は集団交渉の要求ともいうべきものであり、従前から行なわれていた交渉手続を無視したものであつて、第一回目の交渉要求行為についてみれば、全逓組合員約一〇〇名が仙台郵政局玄関前に集合し、労働歌を合唱する等している状況のもとにおいて、約一三分間にわたり、管理課長が集団交渉には応じられないとしてその申し入れを拒絶しているにもかかわらず、その要求を繰返えしたことは、いささか執拗な要求であるとの評価を免れず、その後の第二回目の交渉要求行為についてみれば、全逓組合員約一〇〇名が三階ホールに座り込み集団交渉に応ずべきシユプレヒコールを繰返えしたり、集団示威行動をしたりしている等の状況のもとにおいて、前同様の交渉要求を一時間以上にわたつて繰返えし、途中原告ら組合役員数名も一緒にその要求行為をしたことは、集団交渉の強要であるとの評価を免れず、団体交渉が法的に尊重されなければならないことは当然であるとしても、右各行為は、正当な組合活動の範囲を逸脱し違法なものというべきである。従つて、右行為は、国公法九九条に違反し、同法八二条一号および三号に該当するものといわなければならない。原告は、当局の本件交渉要求行為の拒絶は不当である旨主張するが、前示認定した事情、特に集団交渉になりかねない事情のものでは、管理課長が右要求を拒絶したからといつて、仮りに交渉の対象事項中に当局の権限内の事項が含まれていたとしても、不当な団交拒絶であるということはできない。

(三)  集団示威行動について

集団示威行動は、団結権保障の具体的内容として尊重されるべきは当然であるが、本件についてみれば、前示認定したとおり、従前から行なわれた交渉手続を無視し、集団交渉の実現をめざして、約一〇〇名の多数の組合員が当局の再々にわたる中止命令を無視して庁舎内を示威行進等し、喧噪にわたる行為に及んだものであつて、正当な組合活動の範囲を逸脱した違法なものというべきである。従つて、右行為は、国公法九九条に違反し、同法八二条一号および三号に該当するものといわなければならない。

3  仙台局関係(但し、ストライキを除く。)について

前記四4(二)(2) <1>の仙台局郵便課事務室への無断入室行為および退去要求の拒否行為、同<2>のピケ解散要求の拒否行為、同<3>の同局郵便課事務室への無断入室行為、同<5>の同局構内での無許可集会の実施行為、同<8>の共媒による東北地本書記長の同局および同局郵便課事務室への無断入室行為、同(8) の<3>の共媒による全逓宮城地区本部書記長の同局郵便課事務室への無断入室行為および退去命令拒否行為、同<4>の共媒による同書記長の同局裏庭における職員に対する大会参加のそそのかし、またはあおり行為、同(13)の<2>の共媒による全逓宮城地区本部執行委員中村瑞穂の同局郵便課事務室に無断入室した行為、同(13)の<2>の共媒による支部書記長の同局郵便課輸送係室に無断入室した行為は、いずれも違法な行為であつて、国公法九九条に違反し、同法八二条一号および三号に該当するものというべきである。

被告が本件処分事由として主張する右以外の各行為については、前示したとおり、原告に意思連絡のあることが認められないから、その責任を問うことは許されないところである。

原告は、前記(2) の<1>、<3>の各行為(仙台局郵便課事務室への無断入室行為、退去要求の拒否行為)は、正当な組合活動(点検活動)である旨主張するが、前示認定したところによれば、原告の右入室行為は、同室勤務者の違法なストライキ参加を確実にすることを目的としていたものと推認できるので、正当な組合活動の範囲を逸脱した違法なものというべきであるから、原告の右主張は採用しない。

六  原告の主張に対する判断

1  原告は、公労法一七条は憲法二八条に違反し無効である旨主張するが、公労法一七条の合憲性については最高裁判所の判例の明示するところであつて(最高裁判所昭和四一年一〇月二六日大法廷判決・刑集二〇巻八号九〇一頁等参照)〔全逓中郵事件判決〕、当裁判所も公労法一七条に違憲の点はないものと解する。

したがつて、右に反する原告の主張は採用することができない。

2  原告は、本件ストライキは団体行動権の行使としてなされたものであるから、個人の非違行為に対する懲戒を目的として規定された国公法八二条は適用されるべきではない旨主張するので検討する。

国公法上の懲戒制度の目的は、使用者としての国の有する指揮命令権の確保、職場秩序の維持にあるのに対し、争議行為は、労働者が一定の要求の貫徹を目指して団結し、使用者としての国の労務指揮権を排除するものであるから、右両者は両立し得ない関係にある。しかし、労働者の争議行為が、使用者としての国の懲戒権を排除し得るのは、その争議行為が、その目的および態様に徴し、労組法七条一号所定の正当性を具備する限りにおいてであつて、右正当性を逸脱する場合には、本来かかる違法な争議行為をなすことは許されないものであり、従つて、これを組成する個々の労働者の行為も当然個別的労働関係上の規制を受けるものといわなければならない。この見解は、公労法三条が公共企業体等の職員に関する労働関係について労組法を適用し、かつ、同法八条の適用を除外しながら、同法七条一号本文の適用を除外していないこと、公労法がその四〇条一項一号において国公法八二条の適用を除外していないことに照らし肯認し得るところである。したがつて、右に反する原告の主張は採用できない。

3  原告は、公労法一七条と国公法八二条等の懲戒規定の保護法益の差異から、ストライキの結果国民生活に重大な障害が生じ社会公共に大きな影響を生ぜしめたときにのみ国公法上の懲戒規定が適用されるのであつて、そうでない場合は公労法一八条所定の解雇に限られるべきである旨主張するので検討するに、公労法一七条の保護法益が前掲判示の如く国民生活全体の利益であることは疑いを容れないところであり、同条の違反に対する法律効果としては、同法一八条の解雇ならびに損害賠償の民事責任の追求にあることも明らかなところであるが、右各措置にのみ限定されるのは、公労法一七条違反の争議行為が前掲判示の如き正当性を具備する限りにおいてであつて、違法な争議行為の場合には前掲判示の如く懲戒処分による責任の追及もあり得るのである。従つて、右の範囲においては、公労法一七条の保護法益中には前記国民生活全体の利益の外に能率的な公務の運営又は企業運営の正常性を確保する目的のための職場ないし企業の秩序の維持その他の法益を包含しているものと解さざるを得ない。そして、公労法一七条違反の争議行為が発生した場合、同法一八条によつて解雇するか否か、又は、国公法八二条による措置をとるか否かは労働者のなした争議行為の態様、目的、程度等に応じ、使用者たる国又は公共企業体の合理的な裁量に委ねられているものと解すべきである。

したがつて右に反する原告の主張は採用できない。

4  原告は、本件処分は労組法七条に違反する不当労働行為である旨主張するので、この点について検討する。

(一)  原告は、本件処分は原告が労働組合の正当な行為をしたことの故をもつてなされたものである旨主張するが、前述したところから明らかなとおり、本件ストライキは勿論、その他のステツカー貼付行為、集団示威行動、交渉要求行為等はいずれも労働組合の正当な行為の範囲を逸脱した違法な行為であり、従つて、これと異なる事実を前提として主張する原告の右主張は採用しない。

(二)  次に、原告は、本件処分は被告が東北地本の組合活動に介入し支配することを企図してなされたものである旨主張するが、原告がその主張のとおり全逓の役員を歴任し(原告が組合専従者として昭和三九年八月以降東北地本の執行委員長の地位にあつたことは当事者間に争いがない。)、昭和二六年以降今日に至るまで東北地方における組合活動の指導者として従来から活発な活動を行なつてきたものであることは、<証拠省略>により認めることができ、これに反する証拠はない。しかし、被告において、原告の主張するように、原告を郵政事業から放遂し、それによつて東北地本の組合活動に介入し支配する意図のあつたことを認めるに足りる証拠はない。従つて、原告のこの点に関する主張は採用しない。

5  原告は、本件処分は著しく苛酷なものであり、懲戒権の濫用として無効である旨主張するので、以下この点につき検討する。国公法八二条には、被告の職員が同条各号の一に該当する場合においては、懲戒権者は、懲戒処分として、免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる旨規定されている。そして、右の四種の処分には、おのずから軽重の差異のあることはいうまでもないが、懲戒事由に当る所為をした職員に対し、懲戒権者がどの処分を選択すべきかについては、その具体的基準を定めた法律の規定はない。ところで、懲戒権者は、どの処分を選択するかを決定するに当たつては、懲戒事由に該当すると認められる所為の外部に表われた態様のほかに右所為の原因、動機、状況、結果等を考慮すべきことはもちろん、更に、当該職員のその前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の職員及び社会に与える影響等諸般の事情をも斟酌することができるものというべきであり、これら諸事情を総合考慮したうえで、被告の職場秩序の維持確保という見地から考えて相当と判断した処分を選択すべきである。しかして、どの処分を選択するのが相当であるかについての判断は、右のようにかなり広い範囲の事情を総合したうえでなされるものであり、しかも、前述のように、処分選択の具体的基準が定められていないことを考えると、右の判断は懲戒権者の合理的な裁量に任されているものと解するのが相当である。従つてその裁量は、恣意にわたることをえず、当該行為との対比において甚だしく均衝を失する等社会通念に照らして合理性を欠くものであつてはならないが、懲戒権者の処分選択が右のような限度をこえるものとして違法性を有しないかぎり、それは懲戒権者の裁量の範囲内にあるものとしてその効力を否定することはできないものといわなくてはならならい。もつとも、懲戒処分のうち免職処分は、被告の職員たる地位を失わしめるという他の処分とは異なつた重大な結果を、招来するものであるから、免職処分の選択に当つては、他の処分の選択に比較して特に慎重な配慮を要することは明らかであるが、そのことによつても、懲戒権者が免職処分の選択を相当とした判断について、裁量の余地を否定することはできず、結局、それにつき、右のような特別に慎重な配慮を要することを勘案したうえで、裁量の範囲をこえているかどうかを検討してその効力を判断すべきものであつて、右の検討の結果によつて合理性を欠くものと断定し得るときに限り、その効力を否定せざるを得ないのである。

本件につきこれを見るに、前記認定した事実に徴すると、原告のなした本件違反行為の程度は軽視することはできず、原告の責任は重大であるといわざるを得ない。しかし、他方、本件ストライキの中心目的は賃金引上げ等の経済的要求であり、右ストライキも特に暴力行為等は発生せず、酒田局および横手局における各ストライキについてみれば、現実には業務に対する大きな混乱は生じなかつたこと、横手局におけるストライキについては、東北地本書記長八島善次郎、仙台局における半日ストライキについては、全逓中央執行委員増元昭夫のそれぞれ直接指導のもとにストライキが実施されたものであり、右各ストライキにつき、原告の指導性はさ程顕著ではなかつたこと、仙台郵政局における二回にわたるステツカー貼付行為の実施を決定し実行したのは、主として全逓宮城地区本部(四月二二日のステツカー貼付については全逓中央執行委員増元昭夫が指示をしている。)であつて、原告の指導性が顕著であるとは認められず、原告は、せいぜい右地区本部役員らと意思連絡のあつた程度に止まること、その他仙台郵政局における集団交渉要求行為、集団示威行動等は、行き過ぎの点があつたけれども特に暴力行為等は発生しなかつたこと<証拠省略>によれば、今次春闘で全逓組合員のうち約三、六〇〇名が処分を受け、全逓中央執行委員についてみれば、石井平治(企画部長-組織の維持、運動・闘争全体の計画立案とその指導担当)外増元昭夫(前述のとおり仙台局におけるストライキ指導責任者)等一一名(いずれも四月二三日実施された半日ストライキにつき全国各拠点局における指導責任者)が公労法一八条による解雇処分に付されたに止まることが認められ、これに反する証拠はない。また、<証拠省略>によれば、今次春闘に際し、東北地本傘下で実施されたとほぼ同程度のストライキ、集団示威行動、ビラ貼り活動等が全国各地方本部傘下においても実施され、その指導責任を問われた各地方本部執行員長の処分(但し、処分説明書によれば、処分事由はいずれもストライキ実施についてのみであつて、原告の如くその他のビラ貼り行為、集団示威行動等につき処分事由として記載されていない。)をみるに、懲戒免職となつたのは原告のみであつて他の右各地本委員長(但し、東海地本執行委員長宇野鎗一は、昭和三五年二月六日以降起訴休職中につき処分がなかつた。)らは、いずれも最も重くて停職一年(関東地本執行委員長清水潔、近畿地本執行委員長富松一男、四国地本執行委員長大西栄市)であり、最も軽くて停職九月(北海道地本執行委員長岩間俊英)であり、その他は停職一〇月(信越地本執行委員長中村茂、北陸地本執行委員長高瀬貞雲、中国地本執行委員長出口敏明、九州地本執行委員長永翁辰雄)に止まつていること、右各地本委員長の過去の処分歴をみても原告との間にはほとんど差異がない(関東地本委員長は、停職八回、北陸地本委員長は停職七回、減給一回、九州地本委員長は停職七回、減給一回であつて、原告の停職七回に比しいずれも処分歴が多い。)ことが認められ、これに反する証拠はない。右に述べたような諸事情を総合して考えると<証拠省略>によれば第三被告主張の二、2(三)(1) <2>〔編注:二2中の編注参照〕の事実(但し「八回にわたり」とあるは「一〇四にわたり」と認める)を認めることができ、<証拠省略>によれば同<3>〔編注:二2中の編注参照〕の事実を認めることができ、右認定を覆えすに足る証拠はないけれども、原告につき例えかかる事情を考慮に入れるとしても、被告が原告に対し本件処分を選択した判断は合理性を欠くものと断ずるほかはなく、本件処分は裁量の範囲をこえた違法なものというべきである。

七  以上の説示から明らかなとおり、被告のなした原告に対する本件懲戒処分は、その裁量権を濫用した違法なものとして取消さるべく、原告の本件請求は正当としてこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 中島恒 林豊 中田昭孝)

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