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東京地方裁判所 昭和47年(ワ)10051号 判決 1974年9月30日

原告 神保朋正

右訴訟代理人弁護士 柱実

被告 千速竹一

被告 青木義久

右両名訴訟代理人弁護士 篠岡博

主文

原告と被告千速竹一との間において、原告が同被告に賃貸している別紙物件目録記載(一)の土地の賃料月額は、昭和四六年六月一日から昭和四七年五月三一日までは金九三五二円、同年六月一日から昭和四八年五月三一日までは金一万一七七三円、同年六月一日以降は金一万七一〇〇円であることを確認する。

原告と被告青木義久との間において、原告が同被告に賃貸している別紙物件目録記載(二)の土地の賃料月額は、昭和四六年六月一日から昭和四七年五月三一日までは金一万一八九九円、同年六月一日から昭和四八年五月三一日までは金一万四九七八円、同年六月一日以降は金二万一七五五円であることを確認する。

原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告と被告千速竹一(以下被告千速という。)との間において、原告が同被告に賃貸している別紙物件目録記載(一)の土地(以下甲地という。)の賃料月額は、昭和四六年六月一日から昭和四七年五月三一日までは金九三五二円、同年六月一日から昭和四八年五月三一日までは金一万五五四九円、同年六月一日以降は金二万一八六二円であることを確認する。

2  原告と被告青木義久(以下被告青木という。)との間において、原告が同被告に賃貸している別紙物件目録記載(二)の土地(以下乙地という。)の賃料月額は、昭和四六年六月一日から昭和四七年五月三一日までは金一万一八九九円、同年六月一日から昭和四八年五月三一日までは金一万九七八二円、同年六月一日以降は金二万七八一四円であることを確認する。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  甲地および乙地を含む別紙物件目録記載の土地全部の旧所有者であった原告の先代訴外神保仙蔵は、昭和六年四月一日、被告千速に対し甲地を、また、昭和二五年六月ごろ、被告青木に対し乙地を、それぞれ建物所有の目的で賃貸した。そして、原告は、昭和二八年一〇月一八日、右土地全部の所有権を相続により取得したのに伴い、甲地および乙地の賃貸人としての地位を承継取得した。

2  甲地および乙地の賃料は、当事者間の合意により順次増額され、昭和四四年六月一日以降は、甲地については一か月金六四三〇円、乙地については一か月金八一八〇円(いずれも三・三平方メートル当り一か月約金五五円の割合)となった。

3  ところで、昭和四四年以降、甲地および乙地を含む土地の価格をはじめ、諸物価の高騰は著しく、それに伴い、公租公課も毎年増額され、近隣の地代額等も相当に高額となった。すなわち、昭和四四年当時約金五万五〇〇〇円であった甲地および乙地付近の三・三平方メートル当りの底地価格は、昭和四六年には金八万円、昭和四七年には金一〇万円、昭和四八年には金一八万円となり、また、昭和四四年度には金一三・二七円であった甲地および乙地を含む別紙物件目録記載の土地の三・三平方メートル当りの固定資産税および都市計画税の月額は、昭和四六年度には金二八・五〇円、昭和四七年度には金三八・三七円、昭和四八年度には金六二・三三円となり、さらに、近隣の地代額等も、昭和四七年度以降においては大部分三・三平方メートル当り一か月金二〇〇円台となっている。そのため、甲地および乙地の従前の賃料額は、不相当なものとなるに至ったので、増額される必要がある。

4  そこで、原告は、被告らに対し、昭和四六年五月一九日ごろに到達の書面によって、同年六月一日以降の賃料を、甲地については一か月金九三五二円、乙地については一か月金一万一八九九円(いずれも三・三平方メートル当り一か月約金八〇円の割合)に、また、昭和四七年五月二〇日ごろに到達の書面によって、同年六月一日以降の賃料を、甲地については一か月金一万五五四九円、乙地については一か月金一万九七八二円(いずれも三・三平方メートル当り一か月約金一三三円の割合)に、さらに、昭和四八年五月二三日ごろ到達の書面によって、同年六月一日以降の賃料を、甲地については一か月金二万一八六二円、乙地については一か月金二万七八一四円(いずれも三・三平方メートル当り一か月約金一八七円の割合)にそれぞれ増額する旨の意思表示をした。

5  しかるに、被告らは、いずれも右各増額請求の効果を争うので、原告は、請求の趣旨記載のとおりの裁判を求める次第である。

二  請求原因に対する被告の認否および主張

1  請求原因第1項、第2項および第4項記載の各事実は認める。しかし、請求原因第3項記載の事実および主張は争う。

2  被告千速は、昭和四六年一二月二六日に金二〇万円を、被告青木は、昭和四二年一一月一五日に金三〇万円を、いずれも原告に対し、それぞれ甲地または乙地の賃貸借契約の更新料として支払ったが、これらの更新料は、いずれも賃料の先払としての性格を有するものであるから、原告の各増額請求に基づく相当賃料額を定めるに当っては、このことを考慮すべきである。

三  被告の主張に対する原告の認否

被告の右主張は争う。

第三証拠関係≪省略≫

理由

一  請求原因第1項、第2項および第4項記載の各事実は、当事者間に争いがない。

そして、≪証拠省略≫によれば、昭和四四年以降、甲地および乙地を含む土地の価格の高騰は著しく、それに伴い、右土地の公租公課も毎年増額されていることが認められるし、また、≪証拠省略≫によれば、甲地および乙地の近隣の地代額等は、少なくとも昭和四七、八年当時においては、相当に高額となっていることが認められる。したがって、昭和四四年以降における右のような経済的事情の変動の結果、請求原因第2項記載の甲地および乙地の賃料額は、いずれも不相当となるに至ったものと認められる。

二  そこで、原告のなした各増額請求に基づく相当賃料額をいかに定めるべきかについて検討する。

ところで、相当賃料額の算定については、いろいろの方法が考えられるが、本件においては、右算定につきいかなる方法を採るかの前提として、まず、次の点を注目しなければならない。

(一)  甲地および乙地の賃貸借は、いずれも相当長期間継続している賃貸借であること。

すなわち、被告千速による甲地の賃貸借が昭和六年四月一日以降継続しているものであること、また、被告青木による乙地の賃貸借が昭和二五年六月ごろ以降継続しているものであることは、いずれも当事者間に争いがない。

(二)  甲地および乙地の昭和四四年以前の賃料額は、いずれも当事者間の合意により円満に決定されてきたものであること。

すなわち、甲地および乙地の昭和四四年以前の賃料が当事者間の合意により順次増額されてきたものであることは、当事者間に争いがなく、そして、≪証拠省略≫によれば、昭和四四年以前においては、原告と被告千速および被告青木との間には何らの紛争もなく、昭和四五年に、原告が被告らに対し同年六月一日以降の賃料を三・三平方メートル当り一か月約金七七円に増額したいと申し込んだことから、はじめて紛争が生じ、当事者間の合意で賃料額を決定することが困難になり、結局、原告による本訴の提起に至ったものであることが認められ、この認定に反する証拠はない。

そして、右の(一)および(二)の事情からすれば、昭和四四年六月一日以降、甲地の賃料を一か月金六四三〇円に、また、乙地の賃料を一か月金八一八〇円にする旨の当事者間の合意は、それ以前における原告と被告千速および被告青木との間の特殊個別的な事情をほぼ正確に反映しているものと推認することができるのであって、右合意による賃料額は、その合意の当時においては、いずれも主観的に適正なものであったと解するのが相当である。

したがって、このような事情の認められる本件においては、原告の各増額請求に基づく相当賃料額は、基本的には、右合意による賃料額を基礎とし、これに地価の上昇率を乗じる、いわゆるスライド方式によって算定するのが相当である。もっとも、その際、右合意による賃料額のうち賃料収益の必要経費に相当する公租公課相当額は、地価の上昇率に正比例するものではないから、地価の上昇率を乗じる対象額からはこれを控除して計算すべきであり、さらに、そのようにして算出された金額については、昨今の地価の上昇にはかなりの投機的高騰部分が含まれていることを考慮するとともに、消費者物価指数、地代家賃統計指数の変動、近隣の地代等の金額、その他諸般の事情を参酌して、相当な修正を施すべきである。そして、これを公式で表示すれば、別紙第一表記載のとおりである。

三  なお、相当賃料額の算定に関し、被告らは、いずれも原告に対し賃貸借契約の更新料を支払っているところ、これらの更新料は賃料の先払としての性格を有するものであるから、このことを考慮すべきであると主張しており、そして、≪証拠省略≫によれば、被告らは、それぞれ、その主張の日時にその主張のとおりの金額を、甲地または乙地の賃貸借契約の更新料として支払っている事実を認めることができる。しかしながら、右各証拠および鑑定人飯島実の鑑定の結果によるも、これらの更新料が賃料の先払の趣旨で支払われたものであるとは認めることができないし、また、その金額からしても、これらの更新料を賃料の先払と解して将来の相当賃料額の算定に当り特別の考慮を払わなければならないほどのものであるとはいえないから、被告らの右主張は採用することができない。

四  そこで、さらに、右二において述べた方式に従い、原告のなした各増額請求に基づく相当賃料の具体的な金額について検討する。

まず、昭和四四年六月一日当時の賃料額が、甲地については一か月金六四三〇円、乙地については一か月金八一八〇円であることは、前記のとおり当事者間に争いがない。

また、≪証拠省略≫によれば、甲地および乙地を含む別紙物件目録記載の土地全部の昭和四四年度、四六年度、四七年度および四八年度の公租公課額すなわち固定資産税および都市計画税の合計額は、金二九万二六六五円、金六二万八二八八円、金八四万五七九五円および約金一三七万円であることが認められるから、その間における甲地および乙地のそれぞれ一か月当りの公租公課額は、別紙第二表記載のとおりとなる。

さらに、≪証拠省略≫によれば、日本の六大都市市街地における住宅地の昭和四四年、四六年、四七年および四八年の各六月現在の地価推移指数(昭和三〇年三月当時の地価を一〇〇とする。)は、一六〇〇、二二五七、二六五七および三五八八であると認められるから、昭和四四年六月を基準にした甲地および乙地を含む土地の昭和四六年、四七年および四八年の各六月現在の地価上昇率は、一・四一、一・六六、二・二四であると推定される。

最後に修正率について考察するに、昨今の地価の上昇にはかなりの投機的高騰部分が含まれていることは、公知の事実であるし、また、≪証拠省略≫によれば、消費者物価指数および地代家賃統計指数の上昇率は、六大都市市街地における住宅地の地価指数の上昇率に比較してかなり緩やかである。しかし、反面、≪証拠省略≫によれば、甲地および乙地の近隣の昭和四七、八年当時の地代額等は、三・三平方メートル当り一か月金二〇〇円前後になっているものもかなりあることが認められる。これらの諸事情を考慮し、参酌すれば、修正率は〇・九とするのが相当である。

以上を総合して、原告の各増額請求に基づく甲地および乙地の相当賃料額を算定すると、別紙第三表記載のとおりとなる。

なお、これと結論を異にする≪証拠省略≫は、相当賃料額の算定方式およびその算定の基礎資料に問題があり(とくに当事者間に賃料額についての最終の合意が成立した時点を、当事者間に争いのない昭和四四年六月一日とすべきところを、昭和四五年六月一日としている。)、採用することができない。

五  そうすると、原告の被告らに対する本訴請求のうち、昭和四六年六月一日から昭和四七年五月三一日までの甲地および乙地の賃料額の各確認請求は全部理由があるが、その後における甲地および乙地の賃料額の各確認請求は、右四に認定の賃料額の限度では理由があり、その余は理由がない。

よって、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥村長生 裁判官 塩崎勤 裁判官岡光民雄は、職務代行を解かれたため、署名、捺印することができない。裁判長裁判官 奥村長生)

<以下省略>

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