東京地方裁判所 昭和47年(ワ)10656号 判決 1974年7月22日
原告 株式会社アピラ
右代表者代表取締役 吉田春雄
右訴訟代理人弁護士 中野公夫
同 星野タカ
同 青木至
同 大川育子
被告 白石俊一
被告 田島アキ子
主文
被告らは、各自原告に対し、金五二〇万五二〇〇円およびこれに対する昭和四八年一月一日から完済に至るまで日歩五銭の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告らの負担とする。
この判決はかりに執行することができる。
事実
第一当事者の申立
一 原告
主文同旨
二 被告ら
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求の原因
1 原告は高麗人蔘茶の輸入および卸売を業とする会社であり、被告白石は原告と代理店契約を結び、九州地方において原告の商品を独占販売するものである。
2 原告は、昭和四七年五月一九日、被告白石との間で、取引限度額を八〇〇万円、代金は持参払い、期限後の損害賠償の予定を日歩五銭とする約定のもとに高麗人蔘茶の継続的売買契約(以下「取引基本契約」という。)を締結した。
3 被告田島は、2の契約締結の際、相被告松田尊志とともに、原告に対し右取引上の代金債務について連帯保証をした。
4 原告は、約旨に従い、被告白石の注文に基づいて同被告に対し商品を納入した。そのうち昭和四七年八月二四日および同年一〇月一四日納入分は別紙売掛金目録(一)記載のとおりであり、その合計代金額は六五〇万円である。もっとも、原告は、右八月二四日納品の分については同年一一月二四日にその一部、代金にして一二九万四八〇〇円相当分の返品を受けたので、これを控除した代金は五二〇万五二〇〇円となった。
しかるに同被告は、同目録(一)記載の支払期限到来後もその支払をしない。
5 よって、原告は、被告らに対し、買主またはその連帯保証人として残代金五二〇万五〇〇〇円およびこれに対する弁済期到来後である昭和四八年一月一日以降完済まで約定の日歩五銭の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 被告らの答弁
1 原告主張の請求原因事実は、支払方法が被告白石の持参払いの約であったとの点を除きすべて認める。持参払いの約定であったことは否認する。
三 被告らの抗弁
1 被告らは、原告に対し、原告主張の契約締結の際被告田島所有名義の別紙物件目録一ないし三の土地につき原告の代金債権を担保するため根抵当権を設定する旨を約したが、昭和四七年八月一七日、これを合意により変更して、あらためて、同目録一、二の土地について買戻条件付売渡担保契約を結び、これにつき登記をすることとし、同年八月二二日受付をもって、原告に対し代金を八〇〇万円、買戻期間を昭和四七年一二月三一日とし、買戻特約付の売買を原因とする所有権移転登記をした。
2 しかして、原告の被告白石に対する売掛代金債権は、右担保提供にかかる物件を換価した代金によって支払われる旨の合意が成立したところ、原告は、約定の買戻期限の到来前である昭和四七年一〇月三〇日右土地二筆を訴外森下幸子に売渡した。
3 ところで、右各土地の売買代金は、八〇〇万円と約定されていたから、原告の訴外森下に対する売却代金額のいかんにかかわらず、右各土地は八〇〇万円で原告に移転したものとして算定すべきである。しかるときは、原告の右売却処分により原告に対する所有権の移転は確定的なものとなり、原告の本件残代金債権五二〇万五二〇〇円についても弁済に代る効力を生じ、本訴債権は消滅したと解すべきである。
四 被告らの抗弁に対する原告の答弁
1 抗弁事実中1は認める。ただし、担保の性質は争う。2は否認する。3のうち本件取引上の債権が被告ら主張の担保物件である土地二筆の処分代金により弁済充当される約定であったことは認めるが、その余の事実は否認する。
2 被告ら主張の担保物件である土地二筆は、本訴請求にかかる残代金に先立って昭和四七年八月一七日以前に取引をした被告白石に対する残代金債権一五〇万円の弁済に充てたものであり、本訴請求分は、右物件によって満足を得られなかった部分につき請求するものであって、その事情はつぎのとおりである。
3 被告らは、当初その主張のとおり、別紙物件目録記載の三筆の土地につき根抵当権を設定することを約したので、原告はその価額を約五〇〇万円と評価し、かつ、二名の連帯保証人が付せられるところから、取引限度額を八〇〇万円と定めた。
4 しかるに、被告らが取引開始後も根抵当権設定登記手続の履行を怠っていたところから、昭和四七年八月一七日にいたって、これを所有権移転形式の譲渡担保に切りかえることとし、原、被告ら合意のうえ、同目録一、二の土地について原告に対する所有権移転登記手続を経由した。そして、その際、原告と被告らとの間では、被告らが債務を履行しないときは、原告において右土地を任意に他に売却し、その代金を債務の弁済に充当するとともに、剰余金があるときはこれを被告らに返還し、債務額に不足するときは不足分を請求することができる旨を約した。なお、登記をするにあたり、買戻特約付売買の登記をし、売買代金を八〇〇万円と定めたのは、取引限度額を登記簿上明らかにしたにすぎない。
5 ところで、前記のように、原告は、右土地二筆の評価額を約五〇〇万円と考えて担保提供を受けたが、昭和四七年一〇月頃原告においてその時価を調査したところ、その価額はせいぜい一五〇万円程度のものであることが判明した。なお、原告は、その頃、訴外森下幸子に対する取引上の債務三〇〇万円の履行を担保するため、同人のため右各土地に抵当権を設定したが、その後原告から同人に対し、その残債権二二〇万円の弁済に代えて右各土地の所有権を移転する旨の申出をしたところ、これを拒絶されたため原告の商品によって代物弁済をしたうえ右抵当権設定登記を抹消したのであり、このことによっても、右土地の時価が低いものであることが明らかである。
6 以上の事情があったところ、原告は、昭和四七年五月一九日締結の取引基本契約に基づき、被告白石に対し、別紙売掛金目録(二)記載のとおり、同年五月および六月中に合計代金三四八万三四〇〇円相当の商品を納入したが、これに対しては同被告から同年六月二四日から同年一〇月一五日までの間に一九八万三四〇〇円の内入弁済を受けたのみで、なお同被告に対し一五〇万円の残代金債権を有していた。
7 そこで、原告は、被告らが譲渡担保として提供した土地二筆を時価一五〇万円と評価して右一五〇万円の債権との間でいわゆる評価清算をなし、その不足分である本訴債権の支払を求めているのである。
第三証拠関係≪省略≫
理由
一 原告主張の請求原因事実は、代金債務の履行の場所に関する点を除いてはすべて当事者間に争いがなく、右履行の場所につき特約があった事実はこれを認めるに足りる証拠はないから、商行為である本件取引上の債務の履行はいわゆる持参債務としてなされるべきものと解すべきである。
二 被告らは、抗弁として、原告が被告らにおいて売渡担保として提供した別紙物件目録記載一、二の土地を他に売却処分したことにより本件債務はすべて消滅したと主張するので判断する。
1 原告と被告らとの間で、本件取引基本契約を締結するにあたって、被告白石の代金債務の履行を担保するため、被告田島所有名義の別紙物件目録記載の土地三筆につき根抵当権設定の合意がなされたところ、その後昭和四七年八月一七日にいたって、同目録一、二の土地を買戻条件付売渡担保の名目で原告に担保に供することに担保の形式が変更され、原告に対し、買戻期間を昭和四七年一二月三一日、売買代金額を八〇〇万円とする買戻特約付の所有権移転登記が経由されたことは当事者間に争いがない。≪証拠省略≫によれば、被告白石は被告ら主張の売渡担保契約締結後も新たに納品を受けた商品代金の支払のため約束手形を振り出していることが認められるのであって、かかる事実に、≪証拠省略≫ならびに担保の性格についての被告らの主張の趣旨を総合するときは、右土地二筆をもってする担保契約の性格は、その登記に表示されたような買戻特約付売買でないだけでなく、右土地二筆を八〇〇万円と評価し、その限度における代金債務については双方において清算を要しない趣旨の売渡担保契約を締結したものでもなく、登記簿上売買代金額を八〇〇万円として買戻特約の登記をしたのは、取引限度額ないし被担保債権極度額を買戻の登記を借りて明確にした趣旨にとどまるものであって、その性格は、被告白石において代金債務を履行しないとき、原告において右担保物件を時価で評価し、またはこれを相当価格で処分してその代金をもって債務の弁済に充当しうる趣旨の譲渡担保契約であると認めるのが相当である。他にこの認定に牴触する特段の証拠はない。
2 つぎに、≪証拠省略≫によれば、原告は、その趣旨のとおり本訴請求債権とは別に、前記取引基本契約に基づき昭和四七年五月二〇日から同年六月二〇日までに被告白石に売渡した商品の残代金として一五〇万円の債権を有していたこと、また≪証拠省略≫を総合すれば、被告らの担保提供にかかる前記土地二筆の時価は、本訴提起の少し前である昭和四七年一〇月頃、一五〇万円前後でしかなかったこと、原告は、右土地二筆の担保提供を受けた後、これを訴外森下幸子に対して負担する取引上の代金債務三〇〇万円のため抵当権設定をしまた代物弁済予約をして担保に供したが、のちにその残代金債務二二〇万円につき代物弁済予約の完結を求めたが、これを拒絶されたため、原告は他の方法によって弁済をして抵当権設定登記および停止条件付所有権移転の仮登記の抹消登記をした事情のあること、他方原告は被告らに対して前記一五〇万円の債権については本訴においてこれを訴求していないこと、以上の事実を認めることができ、この認定に反する証拠はない。
三 以上認定の事実関係によれば、原告が本訴において請求する売掛代金残債権が被告らのした別紙物件目録一、二の土地の担保提供によって消滅したと認めるべき事情は存在しないから、被告らの抗弁は理由がなく、したがって、原告の被告らに対する請求は全部理由があることは明らかである。
四 よって、原告の被告らに対する本訴請求を全部認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 吉井直昭)
<以下省略>