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東京地方裁判所 昭和47年(ワ)2732号 判決 1973年1月17日

原告

株式会社藤井製作所

右代表者

藤井芳子

右訴訟代理人

山崎保一

中野博保

被告

株式会社阪急百貨店

右代表者

野田孝

右訴訟代理人

小松正次郎

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実《省略》

理由

一請求原因一、二の項の事実は、当事者間に争いがない。

二被告が、被告店舗内において別紙目録記載(1)から(5)までの各表示を使用したことは、当事者間に争いがない。

そこで、被告の右各表示の使用が、商標の使用にあたるかどうかについて検討する。

昭和四六年一〇月一五日に被告の店内を撮影した写真、証人Sの証言、原告会社代表者本人尋問の結果および本件口頭弁論の全趣旨を総合すると、被告会社は、昭和四四年九月ころ、それまで六階にあつた玩具売場を八階に移し(この時期以後は、八階には玩具売場のほかに外商部があるだけであつた。)てから、玩具専門の売場を表示するために、別紙目録記載(1)から(5)までの表示を、次に認定する態様で使用したこと、その使用の態様は、(一)昭和四四年九月ころから昭和四六年二月ころまでの間、おとぎの国を想起させるような建物の模型を七階から八階に通じる階段の左側に設けて、その内部に玩具の箱を陳列し、その裾板前面に別紙目録記載(1)の表示をし、昭和四四年九月から昭和四六年一〇月までの間店舗内数箇所に、「店内ご案内」と表示した案内板を設け、各階の断面表示中八階部分の右寄りに「玩具・人形」と横書きし、その文字の下に別紙目録記載(1)の表示を「玩具・人形」の文字よりも小さく表示し、(二)昭和四六年五月ころから昭和四六年一〇月ころまでの間、七階から八階に至るエスカレーターの上、八階部分にアーチ形をした赤・青・黄・緑等の彩色板を並べてアーチ形トンネルを形成し、その屋根部分から別紙目録記載(2)の表示をしたほぼ楕円形状の板を吊り下げ、(三)昭和四五年六月ころから昭和四六年一〇月ころまでの間、八階の玩具売場内に等身大の楕円形の板を立てて、これに別紙目録記載(3)の表示をし、(四)昭和四四年九月ころから昭和四六年一〇月ころまでの間、八階玩具売場内の天井から吊り下げた横に長い彩色板に別紙目録記載(4)の表示をし、(五)同じ期間、「8階 店内ご案内」と横書きした案内板の左上部に、別紙目録記載(4)の表示をし、この案内板には、客の現在位置を指示してあるほか、前記表示部の下部にその文字よりもやや大きい文字で「玩具・人形」と横書きで記載し、これとほぼ同じ大きさの「外商部」の文字をこれらの右側に縦に記載し、これら三者の文字でコ字状を形成するように表示し、(六)前記同期間、店舗内数箇所に、ほぼ正方形の隅とりの枠をあらわした中に、上部に、別紙目録記載(5)の文字を表示し、その下に「玩具・人形」「プラモデル」「模型」「ゲーム用品」「お子様のりもの」「タラカラズカコーナー」と上から下に順次横書きに記載し、右枠外右下に「外商部」と表示しその最下部左寄りに「8階西館」と横書にし、その右側にそれらの位置を指示する右向きの赤い矢印をあらわした案内板およびこの案内板のうち「外商部」の表示を欠き、しかも、前記枠外の下部に表示された「8階西館」の文字を、枠内の最下部右寄りに記載し、その左側にの赤い矢印を併記した案内板をそれぞれ設けたものであることが認められる。

ところで、「おもちやの国」「TOYLAND」は、いずれも幻想のおもちやばかりの国を想起させる観念をもつものであることに加え、前記認定のエスカレーターで昇つて来る客に対し、彩色されたアーチ形トンネルを通つておとぎのおもちやの国に入るような感じ印象を抱かせようとしたものであること、また、エスカレーターを通らず階段を利用する客に対しても、前記各案内板と七階から八階に至る階段の左側に設けられたおとぎの国を想起させる建物の模型と前記表示とによつて、前記同様のイメージを抱き、玩具売場内に設けられた前記(三)、(四)認定の表示板と売場に陳列された玩具等によつて、おもちやの国に着いたような印象を抱かせようとしたものであることが推認される。もつとも、前認定(一)の模型建物の中には玩具の箱が陳列されており、また、前認定(五)、(六)の案内板には別紙目録記載(5)の表示のほかに玩具・人形または玩具・人形その他の表示があり、一般的にはひろく商品玩具との国連において右表示等が用いられているものということはできるであろうが、被告の別紙目録記載(1)から(5)までの表示は、その前認定の使用の態様判断からすれば、いずれも一種または複数種の特定の商品について、それが定まつた何人かの業務、本件においては被告の業務にかかるものであることを表示するものとは断じえないところであり、単に玩具の売場自体を指示するためにのみ用いられているものと認められるから、商標の使用にはあたらないものというほかはない。

三よつて、原告の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(荒木秀一 野澤明 清永利亮)

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