東京地方裁判所 昭和47年(ワ)441号 判決
一 原告が本件特許権の特許権者であつたこと、本件特許発明の願書に添附した明細書に特許請求の範囲として記載されたところは別添特許公報該当欄記載のとおり(ただし、五行目に「手型」とあるのは、「平型」の誤記と認める。)であることは当事者間に争いがない。
二 成立に争いのない甲第八号証(本件特許公報)と前項に確定した本件特許発明の特許請求の範囲の記載によれば、本件特許発明は次の構成要件からなる、両端に鍔を持つた軸受メタルの製造法であると認められる。
A 円筒形管を素材とすること。
B 素材を円筒形型にその上面に一方の曲げ代を突出させて嵌合させること。
C その曲げ代部に截頭円錐形の押開型を圧入して漏斗状に押し開くこと。
D 次いで平型によりその押開部を直角に折り曲げて一方の鍔を形成すること。
E 右素材を取出しこれをテーパーによりホルダーに支持される円筒形割型に嵌合し他方の曲げ代を割型の上面に突出させること。
F 右C及びDと同一工程により直角に折り曲げて他方の鍔を形成すること。
G 割型を分離して製品を取出すこと。
三 原告は、訴外ダイヤメタルが訴外白光工業と共同してイ号方法を使用したとしこれを前提に、訴外ダイヤメタルの損害賠償債務を原告主張の理由により被告日本ダイアクレバイトが負担するに至つたとして同被告に対し、並びに右訴外白光工業の損害賠償債務を原告主張の理由により被告東京メタル工業が負担するに至つたこと、同被告は訴外ダイヤメタル、被告日本ダイアクレバイトとそれぞれ共同してイ号又はロ号方法を使用したとし及び被告曽根は被告林と共謀しその余の被告ら、訴外白光工業、訴外ダイヤメタルをしてイ号又はロ号方法を使用させたとし、これらを前提に、被告らに対し、各本件損害賠償を求める。
(一) ところで、訴外ダイヤメタルが原告が主張する昭和三〇年一二月七日以降少なくとも昭和三五年一二月末日までイ号方法(ただし、その構造の一部が原告主張のとおりであることを除く。)を使用して、自動車用軸受メタルを製造販売したことは、当事者間に争いがない。
しかしながら、右第一、二項に確定した事実と、その形状について当事者間に争いがないところのイ号方法における円筒形割型(ただし、その外面の形状は除く。)の構造とによれば、最初の鍔出し工程においては、本件特許発明では、素材を円筒形型に嵌合させるのに対し、イ号方法では、素材を縦に分割された円筒形割型に嵌合させるものであつて、この円筒形割型は縦に分割されていることを認めることができ、これに反する証拠はないから、本件特許発明とイ号方法とでは、すでに右の点、すなわち、最初の鍔出しをするための素材すなわち円筒形管を嵌合させる型が右のとおり相違する点においてその構成を異にするから、イ号方法は本件特許発明の構成要件Bを充足しないことが明らかである。
原告は、イ号方法の右割型は円筒形をしているから本件特許発明の構成要件Bの円筒形型に該当し、右の差異すなわち、イ号方法において縦に分割されているという点は本件特許権を侵害することを回避する目的でされた設計上の微差にすぎない旨主張する。
さきに確定した本件特許発明の構成と前掲甲第八号証(本件特許公報)の記載及び成立に争いがない乙第一〇号証の記載並びに本件口頭弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができる。すなわち、
本件特許発明は、本件特許発明の第一工程の最初の鍔出しに当たり、截頭円錐形の押開型を用いて、素材である円筒形管の上端の曲げ代をまず漏斗状に押し開き、次いで平型を用いて右押開された曲げ代を直角に折り曲げることにより最初の鍔出しを完成し、この円筒形管は下部を叩くことにより容易に型より取り出すことが可能であることによつて円筒形管を嵌合するために割型を使用する必要をなくし、次いで本件特許発明の第二工程では押開型を右円筒形管の長さ一ぱいに嵌入する必要をなくすることにより二番目の鍔出しにも同一の押開型及び平型を使用することを可能とし、二番目の鍔出し完了後はすでに最初の鍔出しによつて曲げ代が直角に折り曲げられて形成されている円筒形管を取り出すための当然のこととして割型を使用することとし、もつて、割型を使用せずに円筒形型と押開型及び平型を用いる最初の鍔出しの工程と、割型を使用し同一の押開型及び平型を用いる二番目の鍔出しの工程とを組み合わせるという技術思想をもつものであること、しかして、右の構成により本件特許発明は取扱いが簡便であり、右円筒形型は割型に比し型の開閉、緊締という工程数を不必要とする特段の作用効果を奏するものであることを認めることができる。
成立に争いのない甲第四、第七号証も右認定を左右するものではなく、他にこの認定を覆えすに足る証拠はない。
右認定の事実からすれば、本件特許発明において、最初の鍔出しを形成する工程に用いられる形は円筒形型であつて、縦に分割されているいわゆる割型はその構成要件Bの円筒形型には含まれないと解するのが相当で、イ号方法の構成B´をもつて設計上の微差と認めることはできないので、原告のこの点に関する前記主張は採用することができない。
更に原告は、右のように設計上の微差でないとしてもいわゆる均等である旨前記のような主張をするが、この主張の採用し難いことは以上説明してきたところから、明らかである。
したがつて、イ号方法が本件特許発明の技術的範囲に属することを前提とする原告の請求は、いずれも右の点においてすでに理由がないから、その余の点につき判断するまでもなく失当である。
(二) 次に、被告らが自動車用軸受メタルを製造販売するに当たり、ロ号方法を使用しもしくは使用させたとの原告の主張について判断するに、ロ号方法において本件特許発明の構成要件Bに対応する構成B´´の型は、イ号方法の構成B´と同様、縦に分割された割型であることは当事者間に争いがない別紙第二目録の記載に照らして明らかであるから、イ号方法について説示したと同様の理由により、ロ号方法における最初の鍔の形成用割型は縦に分割されているものであつて本件特許発明の構成要件Bの円筒形型に含まれないから、ロ号方法はこの点においてすでに本件特許発明の構成要件Bを充足せず、また、設計上の微差及びいわゆる均等の主張も採用することができないので、ロ号方法は本件特許発明の技術的範囲に属するものということはできない。
したがつて、ロ号方法が本件特許発明の技術的範囲に属することを前提とする原告の請求は、自動車用軸受メタルを製造するに当たり被告ら及び訴外白光工業、訴外ダイヤメタルが行つていた方法がロ号方法であるかどうか及び原告主張の期間同人らによつてロ号方法が使用されていたかどうかの確定を含むその余の点の判断をするまでもなく、失当である。
四 よつて、原告の被告らに対する請求をいずれも棄却する。
〔編註〕 本件におけるイ号方法及びロ号方法の各構成は左のとおりである。
(一) イ号方法は、次の構成(A´ないしD´の構成を全体として「イ号第一工程」、E´ないしG´の構成を全体として「イ号第二工程」という。)からなる軸受メタルの製造方法である。
A´ 円筒形管材を素材とし、
B´ 右素材を上端截形成用円筒形割型にその上面に一方の曲げ代を突出させて嵌入し、
C´ その曲げ代部に截頭円錐状をなす押開型を圧入して漏斗状にほぼ四五度押し開き、
D´ 次いで平型によりその押開部を直角に折り曲げて一方の鍔を形成し、
E´ 右素材を取出しこれをテーパーによりホルダーに支持される下端鍔形成用割型に嵌入し他方の曲げ代を割型の上面に突出させ、
F´ C´及びD´と同一工程により直角に折り曲げて他方の鍔を形成し、
G´ 割型を分離して製品を取出す。
(二) ロ号方法は、次の構成(A´´ないしD´´の構成を全体として「ロ号第一工程」、E´´ないしG´´の構成を全体として「ロ号第二工程」という。)からなる軸受メタルの製造方法である。A´´円筒形管材を素材とし、
B´´ 右素材を上端鍔形成用円筒形割型にその上面に一方の曲げ代を突出させて嵌入し、
C´´ その曲げ代部に截頭円錐状をなす押開型を圧入して漏斗状にほぼ四五度押し開き、
D´´ 次いで平型によりその押開部を直角に折り曲げて一方の鍔を形成し、
E´´ 右素材を取出し、これをストレート状をなしてホルダーに支持される下端鍔形成用円筒形割型に嵌入し他方の曲げ代を割型の上面に突出させ、
F´´ C´´及びD´´と同一の工程により直角に折り曲げて他方の鍔を形成し、
G´´ 割型を分離して製品を取出す。