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東京地方裁判所 昭和47年(ワ)5139号 判決 1973年9月17日

原告 小林つき子

被告 国

訴訟代理人 大内俊身 外二名

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(一)  被告は原告に対し、金六〇〇万円と、これに対する昭和四七年六月二五日から支払済まで、年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

(三)  第(一)項につき仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨の判決およびかりに敗訴の場合仮執行免脱宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

(一)  原告は、昭和四六年一二月二四日、高坂友弥から別紙図面(一)(以下図(一)という)の公図写しを示されたうえ、東京都町田市金井町字七号八三九番一、雑種地九七四平方メートル(以下本件土地という)を代金六〇〇万円で買い受け、同日内金一〇〇万円、翌二五日残代金五〇〇万円を各支払つた。

(二)  ところが、東京法務局町田出張所備付の本件土地附近に関する公図(以下本件公図という)は、真実は別紙図面(二)(以下図(二)という)のとおりであるにかかわらず、原告が本件土地を買い受けるに先だち、何者かによつて図(一)のとおり改ざんされており、原告が本件土地に該当すると思つていた図(一)の赤斜線部分の土地は、実は八三九番三〇の土地であり、真正な公図によれば、本件土地(八三九番一)は全部私道部分であつた。

(三)  公図を管理する登記官は、その改ざん防止に細心の注意をはらうべき義務があるにかかわらず、本件公図を管理する東京法務局町田出張所の登記官は右注意義務を怠つて本件公図の改ざんを見過ごし、かつ改ざん後の公図を同登記所に備え付けていた過失がある。

(四)  原告は、財産的価値のない私道部分である本件土地を代金六〇〇万円で買い受け、これを全額支払つたことにより、右代金額相当の損害を被つた。

(五)  原告が本件土地を買い受けたのは、右のとおり改ざんされた公図の写しを高田から示され、本件土地が図(一)の赤斜線部分の土地であると誤信したことによるものであるから、前記登記官の過失による本件公図の改ざんと原告の本件土地買い受けによる右損害との間には、相当因果関係がある。

(六)  よつて、原告は被告に対し、国家賠償法一条により、右損害六〇〇万円および右損害発生後である昭和四七年六月二五日から支払済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(一)  請求原因(一)の事実は不知。

(二)  同(二)の事業のうち、原告が本件土地を買い受けたと主張する日以前に本件公図が改ざんされていたことおよび本件土地が全部私道部分であることはいずれも認めるが、真正な公図が図(二)のとおりであることおよび改ざん後の公図が図(一)のとおりであることはいずれも否認し、その余の事実は不知。本件公図は、真実は別紙図面(三)のとおりであり改ざん後は同(四)のとおりである。

(三)  同(三)の事実は否認する。

(四)  同(四)の事実は不知。

(五)  同(五)の事実は否認する。原告が本件土地買い受けの際示されたと主張する図(一)は、改ざん後の本件公図を正確に写したものではなく、また原告が本件土地と誤認したと主張する八三九番三〇の土地は、本件土地とは所有者も異なり、地積もわずか一四二平方メートルと大幅に異なるのであるから現地において調査すれば、公図の改ざんを容易に発見できるのであり、いずれにしても本件公図の改ざんと原告の本件土地買い受けによる損害とは相当因果関係はない。

第三証拠<省略>

理由

一  <証拠省略>によると、原告は、昭和四六年一二月二四日、高坂友弥から本件土地を代金六〇〇万円で買い受け、同日右代金のうち一〇〇万円を、翌二五日残代金五〇〇万円を各支払つたことが認められる。

二  つぎに、原告が本件土地を買い受けるに先だち、東京法務局町田出張所備付の本件公図が何者かによって改ざんされていたこと、本件土地は実は全部私道部分であることは当事者間に争いがなく、<証拠省略>によると、真正な本件公図は図(三)のとおりであり、改ざん後は図(四)のとおりであることが認められる。

三  原告は、本件土地買い受けに際して高坂から改ざん後の本件公図の写しを示され、これを真正な公図を写した図面と誤信したため、すべて私道部分である本件土地を買い受けるに至つたと主張するのでこの点を判断する。

<証拠省略>によると、原告は本件土地を買い受けるに先だち、高坂に案内されて本件土地の附近に赴き、同人から公図の写しと称する図面を示されて、同人が同図面上の八三九番の一の土地にあたるという現地の範囲等について説明を受けたが、右図面上の八三九番の一の部分がはたして同人の指示する現地と一致しているか否かの点については、隣接地の居住者等から同所附近の地番を確かめるなどの手段もとらず、また高坂の示した公図写と称する図面と現地の方位、地形を隣接地について対照することすらしないで、単に高坂の指示する現地の形状が右図面中の八三九番一の部分の形状と似ていると漠然と感じたことや同人の言う本件土地の地積と同人の指示した現地の面積とが大略一致していると思つたことによつて、高坂の指示する土地が本件土地であると速断して、本件土地を買い受けるに至つたことが認められる。

右に認定したところによると、原告が高坂から示された公図の写しと称する図面が改ざん後の本件公図を正確に写したものであつたとしても(原告が改ざん後の公図として主張する図(一)は、前判示の改ざん後の本件公図である図(四)とは改ざんの態様等が若干異なるが、この点は暫く措くとしても)、原告は高坂の示した図面と同人の指示した現地との対応関係すら確認していないのであるから、原告は高坂の言を信用して同人の指示する土地を本件土地であると思つたというにすぎず(しかも、<証拠省略>によると、原告が高坂から指示された土地は、前記本件公図の改ざんによつて本件土地と誤信する可能性のある八三九番三〇の土地とも異なる土地である疑いが強い)、改ざんされた公図を信用したために八三九番一の土地の現地の認識を誤つたものとはとうていいえない。よつて原告が本件土地の現地との対応関係を誤認して売買代金を支払つたことによつて損害を受けたとしても、右損害と本件公図の改ざんとの間に相当困果関係を認めることはできない。

四  よつて、原告の本訴請求は、その余の点を判断するまでもなく失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 沖野威 上谷清 寺尾洋)

図面(一)~(四)<省略>

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