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東京地方裁判所 昭和47年(ワ)5289号 判決 1974年12月18日

原告

前田久徳

原告

前田ぎん子

原告

宮川橋一

右法定代理人

宮川フク

原告

宮川フク

右原告ら訴訟代理人

梶谷玄

<外四名>

被告

右代表者法務大臣

稲葉修

右指定代理人

大内俊身

<外一名>

被告

東京都

右代表者知事

美濃部亮吉

右指定代理人

大川之

<外四名>

被告

前田恒次郎

被告

前田武男

被告

宮川信之助

被告

山本亀次郎

主文

一  被告国および被告東京都は、各自、原告前田久徳に対し金八〇二万八八五二円、原告前田ぎん子に対し金七九五万五七七八円、原告宮川橋一に対し金一七一五万三八六七円、原告宮川フクに対し金八四万五四三一円および右各金員に対する昭和四七年七月一二日から各支払済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

二  原告らの被告前田恒次郎、被告前田武男、被告宮川信之助および被告山本亀次郎に対る各請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告らと被告国および被告東京都との間においては、原告らに生じた費用の三分の二を右被告らの負担とし、その余を各自の負担とし、原告らとその余の被告らとの間においては、全部原告らの負担とする。

四  この判決は、原告らの勝訴部分に限り、仮に執行することができる。ただし、被告国および被告東京都が、各自、原告前田久徳および原告前田ぎん子に対し各金四〇〇万円、原告宮川橋一に対し金八〇〇万円、原告宮川フクに対し金四〇万円の各担保を供するときは、右仮執行を免れることができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告らは、各自、原告前田久徳に対し金八〇二万八八五二円、原告前田ぎん子に対し金七九五万五七七八円、原告宮川橋一に対し金一七一五万三八六七円、原告宮川フクに対し金八四万五四三一円および右各金員に対する昭和四七年七月一二日から各支払済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  被告ら

1  原告らの各請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

3  (被告国)担保を条件とする仮執行免脱の宣言。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

訴外亡前田国徳(以下、国徳という。)および原告宮川橋一(以下、原告橋一という。)は、昭和四四年六月二九日午後三時四〇分ごろ、東京都新島本村(以下、新島という。)の前浜海岸砂防堤付近において、訴外梅田順一とともに、訴外前田仁、同前田薫、同宮川敦および同山本金也の四名からその所在を教えられた焚火で暖をとつていたところ、右四名がその焚火の中に投入していた砲弾が突然に爆発し、この爆発によつて、国徳は死亡し、また、原告橋一は、右眼球破裂、左網膜剥離、両眼瞼挫傷、顔面挫傷、左鼓膜破裂、右慢性中耳炎、急性増悪症および上顎洞骨折出血という傷害を負うに至つた(以下、本件事故という。)。

2  被告らの責任

(一) 前浜海岸付近における砲弾類の存在

第二次世界大戦の終了直後、新島に駐屯していた日本国陸軍一個旅団約八〇〇〇名は、連合国軍の命令により武装を解除され、その一環として、同旅団は、連合国軍の指令に基づき、装備していた大量の砲弾類(銃弾を含む。以下同じ。)を前浜海岸沖の海中に投棄したが、大部分の砲弾類は、前浜海岸から数十メートル離れたにすぎない場所に投棄された。そして、その後本件事故までの間に、右砲弾類の一部がたびたび前浜海岸に打ち上げられていたし、また、本件事故発生後の昭和四四年七月から昭和四八年までの間に毎年、海上自衛隊によつて前浜海岸から数十メートルの範囲内の海中の掃海作業が実施されたところ、その都度多数の砲弾類が発見され、回収された。さらに、本件事故発生直後の前浜海岸一帯の捜索によつても、かなりの数の砲弾類が発見され、回収された。

以上のとおり、本件事故の発生した前浜海岸には、前記砲弾類の投棄直後からしばしばその一部が打ち上げられていたし、また、同海岸からわずか離れた海中には多数の砲弾類が放置されている状況であつた。

(二) 被告前田恒次郎(以下、被告恒次郎という。)、同前田武男(以下、被告武男という。)、同宮川信之助(以下、被告宮川という。)および同山本亀次郎(以下、被告山本という。)の責任

前記の前田仁、前田薫、宮川敦および山本金也の四名は、昭和四四年六月二九日、前浜海岸の砂防堤付近で焚火をした際、その付近で拾得した日本国陸軍の投棄にかかる砲弾二発をその火中に投入して爆発の様子を見ようとしたが、一回爆発しただけで、その後はなかなか爆発しなかつたので、そのままにして帰途についた。そして、その途中、同人らは、前浜海岸に海水浴に来ていた国徳、原告橋一および梅田順一の三名に出合い、焚火をするためにマッチを貸してくれと頼まれたので、右三名に対し前記の焚火があることを教えたが、その際、その焚火の中に砲弾二発をくべたことを知らせなかつたため、本件事故が発生するに至つたものである。

ところで、右前田仁ら四名は、本件事故発生の当時、いずれも満一五歳で、中学三年生にすぎなかつたから、いまだ不法行為上の責任を弁識する能力を有していなかつたものというべきであるのみならず、新島中学校において素行上特に問題視されていた生徒であつたのにかかわらず、同人らに対する親権者の監督は尽されていなかつた。

したがつて、前田仁の親権者である被告恒次郎、前田薫の親権者である被告武男、宮川敦の親権者である被告宮川および山本金也の親権者である被告山本は、いずれも民法第七一四条により、前田仁ら四名の前記行為の結果国徳らが被つた損害を賠償する責任があるというべきである。

(三) 被告国の責任

(1) 被告国は、現行港湾法の施行日である昭和二五年五月三一日以前には新島港の港湾管理者であつたし、また、本件事故発生当時は新島の海岸保全区域の管理者であつた。ところで、本件事故は、前記のとおり新島港の港湾内に投棄され、かつ、港湾隣接地域であり、海岸保全区域でもある本件事故現場付近に打ち上げられた砲弾の爆発によつて発生したものであるから、このような危険な砲弾が港湾区域もしくは港湾隣接地域または海岸保全区域内に放置されていたこと自体、被告国によるそれらの地域の管理に瑕疵があつたものというべきである。

また、右砲弾は、被告国がその用に供している公物であるというべきところ、本件事故はその砲弾の爆発によつて発生したものであるから、被告国の公物の管理にも瑕疵があつたものというべきである。

したがつて、被告国は、国家賠償法第二条により、右のような公の営造物ないし公物の管理の瑕疵の結果国徳らが被つた損害を賠償する責任があるといわなければならない。

(2) また、被告国の機関である海上保安庁は、漂流物および沈没品を処理すべき義務を負い、同じくその機関である海上自衛隊および陸上自衛隊は、海上および陸上における機雷、爆弾およびその他の危険物を回収すべき義務を負うものである。しかるに、これらの機関の責任者である海上保安庁長官または防衛庁長官は、本件事故現場付近の海中および前浜海岸一帯に爆発の危険のある砲弾類が多数存在している事実を知つていながら、その回収作業を行なわないでこれを放置していたのみならず、本件事故現場付近を遊泳禁止および立入禁止の場所に指定してその旨の立礼や柵を設けるなどの措置を講じなかつたために、本件事故を惹き起こすに至つたものである。

したがつて、被告国は、国家賠償法第一条により、被告国の公権力の行使に当たる公務員である海上保安庁長官または防衛庁長官が過失によつて違法にその職務を行なわなかつた結果国徳らが被つた損害を賠償する責任があるといわなければならない。

(3) さらに、被告国は、前記のとおり、連合国軍の指令により、被告国の所有にかかる砲弾類を前浜海岸沖の海中に投棄したが、右砲弾類は極めて危険な物であつたのであるから、海岸等に打ち上げられる虞れのない安全な場所にこれを投棄すべきであつたのにかかわらず、その大部分を前浜海岸から数十メートル離れたにすぎない海中に投棄して済ませてしまつた。しかも、被告国は、前記のとおり、その後、右砲弾類がしばしば前浜海岸に打ち上げられていたうえ、その付近の海中に多数の砲弾類が存在していることを知つていながら、これらを積極的に回収するなどの安全対策を全く怠つていたものであるから、本件事故は、被告国のこのような怠慢によつて惹き起こされたというべきである。

したがつて、被告国は、民法第七〇九条により、被告国の右不法行為の結果国徳らが被つた損害を賠償する責任があるといわなければならない。

(四) 被告東京都(以下、被告都という。)の責任

(1) 被告都は、本件事故発生当時、新島港の港湾管理者であり、また、新島の海岸保全区域の管理費用を負担する者であつた。ところで、本件事故は、前記の被告国の責任(1)に記載したとおり、港湾区域もしくは港湾隣接地域または海岸保全区域の管理に瑕疵があつたために発生したものというべきであるから、被告都は、国家賠償法第二条または第三条により、右瑕疵の結果国徳らが被つた損害を賠償する責任があるといわなければならない。

(2) 被告都の公権力の行使に当たる公務員である警察官は、公共の安全を維持し、危険の防止を図り、都民の生命、身体および財産等に危害が及ばないように適切な措置をとるべき法律上の義務を負うものである。しかるに、被告都の公務員である警察官は、本件事故現場付近の海中および前浜海岸一帯に爆発の危険のある砲弾類が多数存在している事実を知つていながら、右砲弾類の積極的な回収を実施したり、本件事故現場付近の前浜海岸を立入禁止の場所に指定したりするなどの警察官職務執行法第四条第一項に規定する措置を何ら講じないで放置し、本件事故の発生を招来させたものである。

したがつて、被告都は、国家賠償法第一条により、被告都の公権力の行使に当たる公務員である警察官が過失によつて違法にその職務を行なわなかつた結果国徳らが被つた損害を賠償する責任があるといわなければならない。

3  損害

(一) 原告前田久徳(以下、原告久徳という。)の損害(国徳の損害を含。)合計金九三六万六九九八円

(1) 国徳を相続することによつて承継取得した両人の逸失利益相当権の損害賠償請求権金六四四万三九二三円

国徳は、昭和三〇年九月二九日に原告久徳と原告前田ぎん子(以下、原告ぎん子という。)との間の長男として出生し、本件事故発生の当時、新島中字校の二年生に在学中の満一三歳九か月の健康な男子であつたから国徳の平均余命は56.87年であつた。また、国徳は、生前、大学への進学を強く希望し、かつ、その能力を有していたし、原告久徳よび同きん子も国徳を大学に進学させたいと考えていたものであるから、国徳が大学に進学しこれを卒業する蓋然性は極めて高かつた。したがつて、国徳の死亡による逸失利益の算定に当たつては、国徳が満六三歳まで就労することができるものとして、わが国における大学卒の勤労者の平均給与を基準とし、さらに、年令の上昇に伴う昇給をも考慮して算出した現金給与額から、その二分の一の生活費相当額を控除したうえ、新ホフマン式計算方法により中間利息を控除してその一時請求を計算するのが相当である。そこで、国徳の死亡により逸失利益相当額をこのようにして計算すると、金一二八八万七八四七円となる。そして、国徳の相続人は、原告久徳および同ぎん子の両名だけであるから、原告久徳は、右逸失利益相当額の損害賠償請求権の二分の一を相続によつて承継取得した。

(2) 葬儀費用相当額の損害 金七万円

原告久徳は、国徳の葬儀費用として少なくとも金七万円を支出し、これと同様の損害を被つた。

(3) 診察料相当額の損害 金三〇七五円

原告久徳は、国徳の診察料等として金三〇七五円を支出し、これと同額の損害を被つた。

(4) 慰藉料 金二〇〇万円

国徳は、原告久徳と同ぎん子との間の末子で、しかも、一人息子であつたから、原告久徳は、本件事故による国徳の死亡によつて多大の精神的苦痛を受けた。そして、この精神的苦痛は、少なくとも金二〇〇万円以上の慰藉料の支払をもつて慰藉されるのが相当である。

(5) 弁護士費用相当額の損害 金八五万円

原告久徳は、被告らが同原告に対し本件事故による損害金を任意に支払わないため、やむをえず原告らの訴訟代理人である梶谷玄ほか四名の弁護士に訴訟手続によつて右損害金の支払を請求することを委任し、同弁護士らに対して、本件訴訟の第一審判決の言渡直後に、弁護士費用金八五万円を支払うことを約束した。そして、この債務負担は、本件事故と相当因果関係の範囲内にある損害というべきであるから、原告久徳は、右金額と同額の損害を被つた。

(二) 原告ぎん子の損害(国徳の損害を含む。)合計金九二九万三九二三円

原告ぎん子は、原告久徳と同様の理由により、国徳の被つた逸失利益相当額の損害賠償金六四四万三九二三円を相続によつて承継取得し、また、慰藉料金二〇〇万円および弁護士費用金八五万円相当額の損害を被つた。

(三) 原告橋一の損害 合計金二〇五五万六五一七円

(1) 逸失利益相当額の損害 金一五四六万五四一七円

原告橋一は、本件事故により前記のような傷害を負い、その後昭和四六年までの間東京都立駒込病院等に入・通院して手術およびその他の治療を受けた。しかし、原告橋一は、結局、右眼を失明し、左眼もその視界が一四七度と通常人より狭くなるとともに、聴力も低下して、特に響きが聴き取りにくくなり、さらに、顔面についても、右眼瞼が完全に閉じないうえ、右眼付近の皮膚がくぼんで著しい醜状を呈するなどの後遺障害を残すに至つた。

ところで、原告橋一は、昭和三〇年一一月三〇日に訴外亡宮川松兵衛と原告宮川フク(以下、原告フクという。)との間の三男として出生し、本件事故発生の当時、新島中学校の二年生に在学中の満一三歳七か月の健康な男子であつたから、その後の平均余命は56.87年である。また、原告橋一は、昭和四九年三月現在高等学校三年生に在学中であるが、大学への進学を強く希望している。しかしながら、原告橋一は、前記の後遺障害により少なくとも六〇パーセントの労働力を喪失したものというべきであるから、同原告の将来得べかりし利益もそれだけ減少することになる。したがつて、右労働能力の喪失による逸失利益の算定に当たつては、原告橋一が満六三歳まで就労することができるものとして、わか国における大学卒の勤労者の平均給与を基準とし、さらに、年令の上昇に伴う昇給をも考慮して算出した現金給与額に労働能力喪失率の六〇パーセントを乗じたうえ、新ホフマン式計算方法により中間利息を控除してその一時請求額を計算するのが相当である。そこで、原告橋一の前記後遺障害による逸失利益相当額をこのようにして計算すると、金一五四六万五四一七円となるから、原告橋一は、本件事故によりこれと同額の損害を被つた。

(2) 義眼代相当額の損害金一九万一一〇〇円

原告橋一は、昭和四九年四月には現在使用している義眼を取り替えなければならず、その後も二年ごとにこれを取り替える必要がある。

ところで、原告橋一は、現在満一八歳であるから、その平均余命の52.07年の間には、昭和四九年四月の取替分を含めて合計二七個の義眼の取替が必要となる。そして、これに要する費用を本件事故発生当時の一時請求額に換算すると、合計金二三万五七〇〇円となるがそのうち昭和四九年度、昭和五一年度および昭和五三年度の分については、原告橋一が大学等に在学中と推定されるため、原告フクにおいてこれを負担しなければならない蓋然性が高いから、その三回分の合計四万四六〇〇円は原告フクの損害とするのが相当である。したがつて、原告橋一自身は、本件事故により、右義眼代から原告フクの負担する分を控除した金一九万一一〇〇円相当額の損害を被つた。

(3) 慰藉料 金三〇〇万円

原告橋一は、本件事故により、前記のとおりの傷害を受け、しかも、著しい後遺障害を残すに至つたため、多大の精神的苦痛を受けたが、この精神的苦痛に対する慰藉料は、少なくとも金三〇〇万円とするのが相当である。

(4) 弁護士費用相当額の損害 金一九〇万円

原告橋一は、原告久徳と同様の理由により、やむをえず原告らの訴訟代理人である梶谷玄ほか四名の弁護士に被告らに対する本件訴訟の提起および追行を委任して、同弁護士らに対し、本件訴訟の第一審判決の言渡直後に、弁護士費用金一九〇万円を支払うことを約束した。そして、この債務負担が本件事故と相当因果関係のある範囲内にあることは、原告久徳の場合と同様であるから、原告橋一は、右弁護士費用と同額の損害を被つた。

(四) 原告フクの損害 合計金八九万一一八五円

(1) 原告橋一の義眼代相当額の損害 金四万四六〇〇円

原告フクは、原告橋一の損害(2)に記載のとおり、同原告の昭和四九年度、昭和五一年度および昭和五三年度の義眼代金四万四六〇〇円を負担しなければならないことになるから、これと同額の損害を被つた。

(2) 原告橋一の治療費等相当額の損害 金一六万七五八五円

原告橋一の親権者である原告フクは、東京都立駒込病院その他の病院に対し、入院治療費等として少なくとも金一四万七五八五円を支払い、また、原告橋一が東京都立広尾病院で形成手術を受けるに当たり、担当医師らに対する謝礼として合計金二万円を支払い、これらの合計額と同額の損害を被つた。

(3) 附添看護料相当額の損害 金二七万九〇〇〇円

原告フクは、原告橋一の入院中、医師の指示に基づいて、昭和四四年六月二九日および三〇日の両日二四時間の附添看護をし、また、同年七月一日から同年九月三〇日までの九二日間は原告橋一の実姉である訴外山中よし江に命じて二四時間の附添看護をさせた。さらに、原告フクは、同年一〇月一日から同年一二月二七日までの間およびその後の手術の際少なくとも三日間、右山中よし江に命じて午前七時ごろから午後九時ころまでの間附添看護をさせた。

ところで、附添看護料は、二四時間附添の場合には一日金二〇〇〇円、通院の場合には一日金一〇〇〇円とするのが相当であるから、原告フクは、原告橋一に自ら附き添い、または、右山中に附き添わせて看護したことにより、合計金二七万九〇〇〇円の附添看護料相当額の損害を被つた。

(4) 入院雑費相当額の損害 金一〇万円

(5) 慰藉料 金二〇万円

原告フクは、原告橋一が前記のような重傷を負つた結果、同原告の実母として言語に絶する精神的苦痛を受けたものであつて、その慰藉料は、少なくとも金二〇万円とするのが相当である。

(6) 弁護士費用相当額の損害 金一〇万円

原告フクは、原告橋一と同様の経緯で、原告らの訴訟代理人である梶谷玄ほか四名の弁護士に対し、弁護士費用金一〇万円を支払うことを約束し、この金額と同額の損害を被つた。

4  結論

よつて、原告らは、被告らに対し、原告らの被つた損害(国徳の被つた損害を含む。)の合計額のいずれも内金である原告らの求めた裁判第1項に記載のとおりの金員およびこれに対する本件事故発生の後である昭和四七年七月一二日から支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を連帯して支払うことを求める。

二  請求原因に対する認否

(被告国)

1 請求原因第1項記載の事実のうち、原告橋一の受けた傷害の状況は知らないが、その余の事実は認める。

2 請求原因第2項の(一)記載の事実のうち、第二次世界大戦の終了により新島に駐屯していた日本国陸軍の武装解除がなされた際、その装備していた砲弾類が前浜海岸沖の海中に投棄されたこと、その後本件事故発生までの間に右砲弾類が幾度か前浜海岸に打ち上げられたこと、本件事故発生後毎年、海上自衛隊によつて前浜海岸付近の海中の砲弾類の回収作業が実施されたこと、以上の各事実は認めるが、その余の事実は知らない。

同(三)の(1)記載の事実のうち、被告国が本件事故発生当時新島の海岸保全区域の管理者であるあつたこと、本件事故現場が新島港の港湾隣接地域および新島の海岸保全区域の範囲内にあることは認めるが、その余の主張は争う。本件事故発生当時における新島港の港湾管理者は、被告都であつて、被告国ではなかつたから、被告国は、本件事故につき、港湾区域または港湾隣接地域の管理の瑕疵に基づく損害賠償の責任を負わないものというべきである。また、海岸保全区域は、いわゆる自然公物であるから、国家賠償法第二条の公の営造物には該当しないし、仮に該当するとしても、海岸保全区域設定の目的は、津波、高潮、波浪その他の海水または地穀の変動等によつて海岸が被害を受けないように防護し、国土を保全することにあるところ、本件事故現場付近の海岸に砲弾類の打ち上げられることがあつたとしても、それは、右のような海岸保全の目的を損うような事態ではないから、これを放置しても海岸保全区域の管理に瑕疵はなかつたものといわなければならない。さらに、本件の砲弾類が仮に国の所有に属するとしても、それは、前記のとおり海中に投棄された後は何ら公の用に供されていなかつたのであるから、公物であるとはいえない。

同(三)の(2)記載の事実のうち、被告国の機関である海上保安庁ならびに海上自衛隊および陸上自衛隊が一般的に原告らの主張するような義務を負うものであること、本件事故発生以前には、海上保安庁長官または防衛庁長官が投棄された砲弾類の積極的な回収作業を行なわず、また、本件事故現場付近を遊泳禁止および立入禁止の場所に指定してその旨の立礼や柵を設けるなどの措置を講じていなかつたこと、以上の事実は認めるが、その余の主張は争う。

同(三)の(3)記載の主張は争う。仮に本件の砲弾類が被告国の所有に属するとしても、被告国が右砲弾類の回収を実施するためには、法令によつてこれを担当する管理機関が具体的に定められていなければならないところ、本件事故発生の当時はもちろん、現在においても、右砲弾類の回収等がいずれの省庁の所管に属するか法令上明らかでないから、被告国は右砲弾類の回収を実施することができなかつたのであり、したがつて、被告国は、本件事故による不法行為の責任を負わないものというべきである。

なお、仮に前浜海岸における砲弾類の存在が被告国による営造物の管理の瑕疵に当たり、また、これらの回収等の措置を講じなかつたことが被告国の公務員の公権力の不行使または被告国自体の不法行為の原因事実に該当するとしても、本件事故は、前記前田仁ら四名の中学生がその拾得した砲弾を焚火の中に投入するという常軌を逸した行為に出たことを直接の原因として発生したものであるから、たとえ本件砲弾類について原告らの主張するような措置が講じられていたとしても、右のような非常識な行為までも予測してこれを防止することは不可能であつたというべきであり、したがつて、被告国による営造物の管理の瑕疵ないし被告国またはその公務員の前記不作為等と本件事故の発生との間には、相当因果関係がないといわなければならない。

3 請求原因第3項記載のうち、国徳および原告橋一が原告らの主張するとおりに出生して、本件事故発生の当時新島中学校の二年生に在学中であつたことは認めるが、その余の主張はすべて争う。

(被告都)

1 請求原因第1項記載の事実についての認否は、被告国の認否と同様である。

2 請求原因第2項の(一)記載の事実のうち、砲弾類の投棄場所が前浜海岸から数十メートル離れたにすぎない海中であつたことは否認し、その余の事実についての認否は被告国の認否と同様である。

同(四)の(1)記載の事実のうち、被告都が本件事故発生当時新島港の港湾管理者であり、また、新島の海岸保全区域の管理費用を負担する者であつたことは認めるが、その余の主張は争う。港湾管理者による港湾区域の管理の目的は、船舶の航行、停泊、けい留等の港湾利用上の安全を図るため、その妨げとなる遊浮物を除去し、海底を浚渫し、さらに、港湾の利用に必要な施設を設置し、これを維持・管理して、港湾の機能を保持し、もつて港湾を一般の利用に供することにある。また、港湾隣接地域の管理の目的は、提防等の施設を設けて港湾区域の保全および港湾の機能の確保を図るとともに、浸水等の災害から後背地を保護することにある。ところが、本件の砲弾類は、新島港の沖合の水深数十メートルの海底に沈んでいたものであるから、たとえそたが潮流等の作用により港湾区域の海底を転々とすることがあつたとしても、何ら船舶の航行等の支障となるものではなかつた。また、港湾隣接地域であり、海岸保全区域でもある前浜海岸に砲弾類が打ち上げられたとしても、その砲弾類は、海中に投棄されてからすでに二〇年以上も経過していたため、特に強い衝撃等を加えない限り、爆発する危険がなかつたのであるから、それらが存在することによつて海岸等が決壊するなどの虞れはなかつた。したがつて、右砲弾類が港湾区域および港湾隣接地域の範囲内に放置されていたとしても、港湾区域および港湾隣接地域の管理に瑕疵があつたということはできない。

同(四)の(2)記載の事実のうち、被告都の公務員である警察官が、前浜海岸付近の海中に存在する砲弾類の積極的な回収を実施したり、本件事故現場付近の前浜海岸を立入禁止の場所に指定したりするなどの措置を講じていなかつたことは認めるが、その余の主張は争う。警察官の公権力の不行使が違法とされるのは、警察官に公権力を行使すべき法律上の作為義務が課せられており、かつ、これを行使すべき具体的状況があつたのにかかわらず、これを行使しなかつた場合であるというべきところ、本件において、警察官の作為義務の根拠になると考えられる規定は、警察官職務執行法第四条第一項であるが、同法条は、危険物の爆発等の危害が現に発生している場合または右のような危害の発生が確実に予測される場合に限り、その危害を除去するために必要最小限の措置をとる権限を警察官に認めたにすぎないのである。しかるに、本件では、前浜海岸に打ち上げられた砲弾類は、前記のとおり、強い衝撃等を加えない限り爆発する危険がなかつたのであるから、このような砲弾類の爆発という稀有な事態に備えて前浜海岸一帯を常時立入禁止の場所に指定するなどの措置をとることは、前記法条の法意に鑑み、警察官の権限を著しく逸脱することになるものといわなければならない。したがつて、本件においては、右法条に基づいて警察官の権限を行使すべき具体的状況はいまだ発生していなかつたものというべきである。しかも、被告都の公務員である新島警察署の警察官は、本件の砲弾類について、何らの対策をも講じていなかつたのではなく、次に述べるような措置をとつていたものである。すなわち、新島警察署の警察官は、昭和四〇年ごろから、前浜海岸での焚火の禁止を村民に周知・徹底させるように努めるとともに、海水浴客にもその旨を呼びかけ、焚火をしている者を発見したときは、直ちにこれを中止させていたし、また、昭和三八年ごろから、村民に対し、機会あるごとに砲弾類の危険性を説明して、海岸等で砲弾類を発見した場合には警察に届出るように呼びかけ、その届出があつたときは、直ちにそれらの回収を行なうとともに、付近一帯を入念に捜索して、隠れている砲弾類の発見に努め、さらに、前浜海岸付近の海中に放置されている砲弾類については、被告国の機関である防衛庁に対しその回収作業を実施するように要請するなど、可能な措置を講じていたものである。

ななお、仮に前浜海岸における砲弾類の存在が被告都による営造物の管理の瑕疵に当たり、また、砲弾類の積極的な回収等の措置をとらなかつたことが被告都の公務員の公積力の不行使に該当するとしても、右管理の瑕疵ないし公権力の不行使と本件事故の発生との間には相当因果関係がないというべきであつて、その理由は、被告国の前記主張と同様である。

3 請求原因第3項記載の事実についての認否は、被告国の認否と同様である。

(被告恒次郎、同武男、同宮川および同山本)

1 請求原因第1項記載の事実は認める。

2 請求原因第2の(一)記載の事実は知らない。

同(二)記載の事実のうち、訴外前田仁、同前田薫、同宮川敦および同山本金也の四名が、原告らの主張するとおりに砲弾二発を焚火の中に投入したこと、右四名が、焚火をして帰る途中、原告ら主張のとおり、国徳らに出会い、右焚火のあることを教えたこと、右前田仁ら四名が本件事故発生の当時いずれも満一五歳の中学三年生であつたこと、被告恒次郎が前田仁の、被告武男が前田薫の、被告宮川が宮川敦の、さらに、被告山本が山本金也の各親権者であること、以上の各事実は認めるが、その余の主張は争う。

3 請求原因第3項記載の事実についての認否は、被告国の認否と同様である。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因第1項記載の事実は、原告橋一の受けた傷害の状況を除いて、全当事者間に争いがない。そして、原告橋一の受けた傷害の状況が請求原因第1項に記載のとおりであることは、原告らと被告恒次郎、同武男、同宮川および同山本との間では争いがなく、原告らと被告国および同都との間では<証拠>によつて認めることができる。

二そこで、まず、本件事故の発生に至るまでの経緯について判断するに、<証拠>を総合すると、次の事実を認めることができ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

第二次世界大戦の終結に伴い、当時新島に駐屯していた日本国陸軍一個旅団約八〇〇〇名の武装解除が連合国軍の指令に基づいて実施されることとなり、その一環として、同旅団の装備にかかる大量の砲弾類がすべて海中に投棄されることになつた。そして、右砲弾類は、昭和二〇年一〇・一一月ごろ、連合国の担当官およびその指令を受けた日本国陸軍の将校の指揮・監督の下に、一旦前浜海岸治いの道路上に数百メートルにわたつて集積された後、島民により、伝馬船等を利用して、予め指示された投棄場所である前浜海岸沖の地内島大和田鼻と新島本島の高根ないし若郷根浮岬とを結んだ線より外側の海中に投棄されることになつたが、右投棄場所の指示が徹底されず、監督も不充分であつたうえ、投棄作業の方法として、「こまわり方式」という、一定の作業を完了すればそれに要した時間にかかわりなく当日の作業を終了する一種の請負方法がとられたため、右投棄作業に従事した島民らのほとんどは、前記の指示された投棄場所まで行かずに、前浜海岸から数十メートル離れたにすぎない海中に砲弾類を投棄してしまつた。また、右砲弾類の大部分は、その際、信管を除去することなく、直ちに使用可能の状態で投棄された。

ところが、右投棄後間もなく、投棄された砲弾類のうち銃弾等の小さいものがまず前浜海岸に打ち上げられ、その後本件事故の発生した昭和四四年に至るまでの間、台風の後やしけの時などには、かなり大きい砲弾類が毎年のように前浜海岸一帯に打ち上けられるようになり、昭和四二年六月ごろには、小銃弾約二箱半(一箱約二八〇〇発)、直径七センチメートルぐらいの榴弾二十数個およびこれより大きい砲弾二―三個が一度に打ち上げられたこともあつた。さらに、その間、島民の中には、海中に潜つて砲弾類を拾い上げ、これを鉄屑として古物回収業者に売却する者も現われた。

また、<証拠>によれば、前浜海岸は、有名は海水浴場として、島民のみならず観光客によつても広く利用されていた場所であるところ、新島では早くも六月ごろから海水浴が行なわれることもあつて、前浜海岸では暖をとるための焚火が一般に行なわれていたうえ、子供達の中には、拾得した砲弾類の火薬を抜き取り、これに点火して花火のようにして遊ぶ者がいたし、また、漁師の中にも、砲弾類の火薬を焚火の火付けに使用している者があつたことを認めることができ〔る〕。<証拠判断省略>

三次に、本件事故発生後に行なわれた前浜海岸における砲弾類の回収状況から、本件事故発生当時の右海岸一帯における砲弾類の存在およびその数量について判断する。

1<証拠>によれば、本件事故発生直後の昭和四四年七月八日から同月一二日までの間、陸上自衛隊練馬駐屯部隊が、前浜海岸一帯(ただし、海中を除く。)を捜索して、砲弾三六発、小銃弾四五三〇発および薬莢一三〇個を発見し、これを回収した事実を認めることができ、この認定に反する証拠はない。

2また、<証拠>によれば、海上自衛隊横須賀水中処分隊は、昭和四五年から昭和四八年までの間に、毎年一回以上前浜海岸付近の海中に放置されていた砲弾類の回収作業を実施し、その結果、昭和四五年には四五五八発(約八三〇三キログラム)、昭和四六年には六九五五発(約二万〇六九六キログラム)、昭和四七年には三五一発(約六〇一五キログラム)、昭和四八年には二七八発(約一〇九五キログラム)に上る多数の砲弾類を回収したこと、右砲弾類の大部分は、前浜海岸から五〇メートル内外で水深二メートル前後にすぎない海底から発見され、回収されたものであることおよび前浜海岸付近の海中には、なお多数の砲弾類が残存している可能性があることを認めることができ、この認定に反する証拠はない。

3そして、右に認定した各事実を総合すると、本件事故発生の当時、前浜海岸の海浜およびその付近の海中には、右に回収された数量以上の大量の砲弾類が存在していたものと推認することができる。

四ところで<証拠>によれば、本件事故発生後に回収された前記砲弾類は、海中に投棄された後二〇年以上も経過していたため、錆び付きかつ腐触していて、砲弾としての機能は失つていたが、しかし、その大部分は、熱または衝撃等が加えられると依然爆発する可能性のあるものであつたことが認められ、この認定に反する証拠はない。そして、この認定事実と右第二・第三項において認定した諸事実および本件事故発生の事実とを合わせ考えると、前浜海岸一帯においては、前記砲弾類の海中投棄が実施された直後から本件事故の発生時に至るまでの間、本件の場合のように砲弾類が焚火の中に投入された場合はもちろん、砂中に隠れて存在する砲弾類の上で焚火がされるなど、一定の条件が具備した場合には、その砲弾類の爆発によつて人身事故等の惨事の発生する危険性が充分にあつたものといわなければならない。

五そこで、本件事故に関する被告らの責任の有無について検討する。

1被告国

本件事故発生の当時、前浜海岸一帯においては、第二次世界大戦終結の際に海中に投棄された日本国陸軍の装備にかかる前記砲弾類の存在により、人身事故等の惨事の発生する危険性があつたことは、前記説示のとおりであるところ、前記認定の事実によれば、その危険性の根本的な原因は、もと被告国の機関であつた日本国陸軍が、連合国軍の指令に基づく武装解除の一環として実施した砲弾類の海中投棄の際、潮流等の作用により容易に海岸に打ち上げられることが充分に予想される海岸に極めて近接した場所に大量かつ危険な砲弾類を投棄して、その後これを放置していたことにあるというべきであるから、このように大量かつ危険な砲弾類を右のような場所に投棄して危険性発生の原因を作り出した当事者としての被告国は、その後、海中に放置されている砲弾類が海岸に打ち上げられることのないように、また、打ち上げられたとしてもそれによる爆発事故が起らないように、これらの砲弾類を早急に回収して、事故の発生を未然に防止すべき法律上の作為義務を負つていたものというべきである。しかるに、被告国がその後本件事故の発生に至るまでの間右砲弾類を回収せず、これを放置していたことはは、被告国の自認するところであるから、このような被告国の不作為は、右作為務に違反するものであつて違法であり、しかも、前記認定の本件事故発生に至るまでの経緯に鑑みると、被告国は右砲弾類の回収を懈怠したことにつき過失があつたものといわなければならない。

ところで、被告国は、本件事故発生に至るまでの間右砲弾類の回収等を担当すべき管理機関が法令上不明であつたから、右砲弾類の回収等を実施することができなかつたのであり、したがつて、被告国は本件事故による不法行為の責任を負わない旨主張する。しかしながら、被告国は、前記のとおり右砲弾類を回収すべき法律上の作為義務を負つていたのであるから、その義務の履行を担当する管理機関が法令上不明である場合には、被告国の立法権を担当する国会ないしその行政権を担当する内閣において、早急に右作為義務の履行を担当する管理機関を定め、もつてその義務を完全に履行すべき責任があつたのであり、もし国会ないし内閣がそのような管理機関を不明にしたまま、右義務の履行を放置してしていたとすれば、それはすなわち被告国の右作為義務の懈怠にほかならないものというべきである。したがつて、被告国は、右砲弾類の回収等を担当する管理機関が法令上不明であつたことをもつて、右作為義務の懈怠による不法行為の責任を免れることができないことはいうまでもないから、被告国の右主張は失当であるといわなければならない。

また、被告国は、本件事故は前記前田仁ら四名の中学生の常軌を逸した行為を直接の原因として発生したものであるから、被告国の前記不作為と本件事故の発生との間には相当因果関係がないと主張する。しかしながら、被告国が本件砲弾類の回収等に万全の措置を講じていたとすれば本件事故は発生しなかつたものと認められるのであり、しかも、前記認定のとおり、本件事故発生の当時前浜海岸付近の海中には大量の砲弾類が放置されており、それまでにもかなりの数の砲弾類が前浜海岸一帯に打ち上げられている状況であつたのであるから、被告国は、それの砲弾類が子供達の遊びの道具として使用され、その結果、本件事故のような人身事故が発生することのありうることを充分に予見することができたものというべきである。したがつて、被告国の砲弾類の回収義務の懈怠と本件事故の発生との間には相当因果関係が存在するものといわなければならないから、被告国の右主張も採用することができない。

そうすると、被告国は、民法第七〇九条所定の不法行為に基づく損害の賠償として、本件事故の結果国徳および原告らが被つた損害を賠償する責任があるというべきである。

2被告都

およそ警察は、個人の生命、身体および財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧および捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当たることをもつてその責務とするものであり(警察法第二条第一項)、また、警察官は、上官の指揮・監督を受けて、警察の事務を執行するものである(同法第六三条)。したがつて、警察官は、個人の生命、身体等に対する危険な状況が発生した場合には、その状況に即応して、それらの保護のために必要な指置を講すべき法律上の義務を負うものといわなければならない。

ところで、本件事故発生の当時、前浜海岸一帯においては、第二次世界大戦終結の際海中に投棄された日本国陸軍の装備にかかる前記砲弾類の存在により、人身事故等の発生する危険性があつたことは、前記認定のとおりである。また、<証拠>によれば、次の事実を認めることができ、この認定を覆すに足りる証拠はない。すなわち、

訴外奥村国男は、昭和四一年三月から昭和四三年三月までの間、新島警察署の次長として勤務していた警察官であるが、同人が同署に着任した当時、同署の裏庭にはそれまでに回収された小銃弾五〇発ないし六〇発が保管されていたし、昭和四二年六月ごろには、前記のとおり、小銃弾約二箱半(一箱約二八〇〇発)、直径約七センチメートルの榴弾二十数個およびそれより大きい砲弾二―三個が一時に前浜海岸に打ち上げられ、これを回収したことがあつたので、右奥村ら新島警察署の警察官は、島民からそれまでのいきさつを聞くなどして、第二次世界大戦の終結直後に大量の砲弾類が前浜海岸沖の海中に投棄され、その一部がその後台風の際などにしばしば前浜海岸に打ち上げられている事実を知り、これを放置すれば人身事故等の発生する危険性のあることを察知するとともに、前浜海岸沖を掃海して砲弾類を回収する必要性のあることを認め、その後、島民に対して、砲弾類を発見した場合にはこれを届け出るように呼びかけるとともに、警視庁にしては、正規の報告文書である「島状報告」に砲弾が右のように打ち上げられる事情を記載して報告し、さらに、警視庁防犯部保安一課を通じて右砲弾類の処理を自衛隊に依頼するように上申した。(しかし、自衛隊に対する依頼が現実になされたか否かは不明である。)さらに、右奥村の後任として新島警察署に着任した訴外岩上房吉も、その事務引継ぎの際、右奥村から前記のように砲弾類がしばしば前浜海岸に打ち上げられるとの説明を受け、また、同署の裏庭に回収された砲弾および銃弾が保管されていることを現認し、さらにその後本件事故発生に至るまでの間に、島民からなされた前浜海岸に砲弾類が打ち上げられていることの届出を数回受理し、その砲弾類の回収に当たつた。

以上に認定した事実関係からすれば、新島警察署の警察官および警視庁の警察官は、遅くとも昭和四二年六月ごろ以降、前浜海岸付近の海中には多数の砲弾類が存在し、かつ、それらの一部がしばしば前浜海岸一帯に打ち上げられている事実を知つており、しかも、これを放置すれば人身事故等の発生する危険性のあることを察知するとともに、早急に前浜海岸付近の海中を掃海して右砲弾類を回収する必要性のあることを認識していたものというべきである。

そして、前浜海岸付近の海中に存在する砲弾類は、前記のとおり、客観的にも、一定の条件のもとでは、爆発する可能性があり、かつ、その爆発によつて人身事故等の惨事の発生する危険性があつたのであるから、前記のように、個人の生命、身体等に対する危険な状況が発生した場合には、その状況に即応して、それらの保護のだめに必要な措置を講ずべき法律上の義務を負う警察官としては、右に認定したような状況のもとにおいては、単に島民に対して砲弾類の危険性についての警告や砲弾類を発見した場合における届出の催告等の措置をとるだけでは足りず、さらに進んで、自らまたは他に依頼して右砲弾類を積極的に回収するなどの措置を講じ、もつて砲弾類の爆発による人身事故等の発生を未然に防止すべき法律上の義務があつたものと解するのが相当である。

しかるに、新島警察署の警察官および警視庁の警察官が、その後本件事故の発生に至るまでの間に、自らまたは他に依頼して右砲弾類を積極的に回収するなどに措置を現実に講じていなかったことは、被告都自身がこれを認めるところである。

ところで、新島警察署の警察官および警視庁の警察官は、いずれも国家賠償法第一条にいう公共団体である被告都の公権力の行使に当たる公務員であり(警察法第三六条、第三八条、第四七条)、また、これらの警察官が、右に認定したような状況のもとにおいて、自らまたは他に依頼して右砲弾類を積極的に回収するなどの措置を講じることは、その公務員の職務の執行に当たると解すべきであるから、以上に認定・判断したところによれば、被告都の公権力の行使に当たる公務員である新島警察署の警察官および警視庁の警察官は、その職務の執行を違法に怠つて、右砲弾類を積極的に回収するなどの措置を講じなかつたものであり、しかも、これを怠つたことについては過失があつたものといわなければならない。したがつて、被告都は、国家賠償法第一条により、新島警察署の警察官および警視庁の警察官が自らまたは他に依頼して右砲弾類を積極的に回収するなどの措置を講じなかつたために発生したと認められる本件事故の結果、国徳および原告らが被つた損害を賠償する責任があるというべきである。

なお、被告都は、本件事故は前記前田仁ら四名の中学生の常軌を逸した行為を直接の原因として発生したものであるから、被告都の公務員である警察官の公権力の不行使と本件事故の発生との間には相当因果関係がないと主張するが、この主張を採用することができないことは、被告国の同旨の主張に対する判断において前に説示したところと同様である。

3被告恒次郎、同武男、同宮川および同山本

訴外前田仁、同前田薫、同宮川敦および同山本金也の四各が本件事故発生の当時いずれも満一五歳の中学三年生であつたこと、ならびに当時被告恒次郎が前田仁の、被告武男が前田薫の、被告宮川が宮川敦の、被告山本が山本金也の各親権者であつたことは、原告らと右被告らとの間に争いがない。

ところで、原告らは、右前田仁ら四名の中学生は本件事故発生の当時責任無能力者であつたと主張するが、右四名は、未成年者であつても、いずれもすでに満一五歳に達し、中学三年生となつていたものであるから、特段の事情のない限り、その行為の責任を弁識するに足りる知能を有していたものと解するのが相当であり、そして、本件の全証拠によつても、右四名につき特段の事情があつたとは認められないから、原告らの右主張は採用することができない。

また、原告らは、右前田仁ら四名の中学生が新島中学校において素行上特に問題視されていた生徒であつたのにかかわらず、親権者である右被告らが同人らに対する監督義務を怠つたために、本件事故が発生するに至つたものであると主張している。たしかに、未成年者が責任能力を有する場合であつても、監督義務者の義務違反と当該未成年者の不法行為によつて生じた結果との間に相当因果関係の存在を認めることができるときは、民法第七〇九条所定のその他の要件を具備する限り、監督義務者についても同条所定の不法行為が成立するものと解するのが相当であり、また、右前田仁ら四名の中学生が、砲弾を焚火の中に投入していながら、これを国徳および原告橋一らに知らせず、本件事故を発生させるに至つた行為が、同人らの不法行為になることは明らかである。しかしながら、責任能力のある未成年者に対する監督義務者の監督に過失があつたというためには、当該未成年者につき、平素から重大な非行を重ねたり、思いがけない行動に出たりするなど問題性があつたのにかかわらず、監督義務者がそれに対する適切な指導・監視を怠つていたというような特別の事情のあることを要するものと解すべきところ、本件の全証拠によつても右被告らにつきそのような監督上の過失を肯定するに足りる事情を認めることはできない。

したがつて、被告恒次郎、同武男、同宮川および同山本は、本件事故について不法行為上の責任を負わないものといわなければならない。

六そこで、さらに、本件事故の結果国徳および原告らが被つた損害について検討する。

1国徳の損害

国徳が昭和三〇年九月二九日に原告久徳と原告ぎん子との間の長男として出生し、本件事故発生の当時新島中学校の二年生に在学中の満一三歳九か月の男子であつたことは、原告久徳および同ぎん子と被告国および同都との間で争いがなく、また、<証拠>によれば、国徳は、生前、大きな病気をしたことはなく健康であり、かつ、大学への進学を強く希望していたこと、そして、国徳は、学力面からしてもその能力を有していたし、原告久徳および同ぎん子も、国徳を大学に進学させたいと考えていたことが認められ、この認定に反する証拠はない。したがつてまた、国徳が生存しておれば、大学に進学し、これを卒業する蓋然性は極めて高かつたものというべきである。

ところで、満一三歳九か月の健康な男子の平均余命が56.87年であること、健康な男子は少なくとも満六三歳まで就労が可能であることおよび年令の上昇に伴つて勤労者の受ける給与額が上昇することは、公知の事実であるから、国徳の死亡による逸失利益を算定するに当たつては、わが国における、年令の上昇に伴う昇給を考慮した大学卒の勤労者の平均給与額を基準として、国徳が大学を卒業する二二歳から前記の六三歳に達するまでの間に得る現金給与額の総計を算定し、これからその二分の一の生活費相当額を控除したうえ、新ホフマン式計算方法により中間利息を控除して、その一時請求額を算出するのが相当である。そして、わが国における、年令の上昇に伴う昇給を考慮した大学卒の勤労者の平均給与額は、<証拠>によれば、別表一の月収欄記載のとおりであることが認められるから、国徳の死亡による逸失利益の一時請求額は、別表一の逸失利益現価欄記載のとおり、金一二八八万七五七四円となる。

なお、原告久徳および同ぎん子が国徳の父母であることは、前記のとおり関係当事者間に争いがなく、また、<証拠>によれば、右原告両名以外には国徳の相続人は存在しないことが認められるから、右原告ら両名は、相続により、国徳の被告国および同都に対する右逸失利益相当額の損害賠償請求権の二分の一に当たる金六四四万三七八七円宛を承継取得したものというべきである。

2原告久徳の損害

(一)  葬儀費用相当額の損害

<証拠>によれば、原告久徳は、国徳の死後その葬儀費用として金七万円以上を支出していることが認められるが、原告久徳の右支出は、国徳の本件事故死と相当因果関係のある損害と解すべきである。

(二)  診察料相当額の損害

<証拠>によれば、原告久徳は、国徳の本件事故後にその診察料等として金三〇七五円を支出し、これと同額の損害を被つたことが認められる。

(三)  慰藉料

国徳が原告久徳と同ぎん子との間の子であることは、前記のとおり関係当事者間に争いがなく、しかも、<証拠>によれば、国徳は、末子で一人息子であつたことが認められるから、原告久徳が国徳の本件事故死により多大の精神的苦痛を受けたことは明らかであり、この精神的苦痛を慰藉するには、少なくとも金二〇〇万円以上の慰藉料の支払をもつてするのが相当である。

(四)  弁護士費用相当額の損害

<証拠>によれば、原告久徳は、被告国および同都が同原告に対し本件事故による損害金を任意に支払わないため、やむをえず原告らの訴訟代理人である梶谷玄ほか四名の弁護士に訴訟手続によつて右損害金の支払を請求することを委任し、同弁護士らに対し、本件訴訟の第一審判決の言渡直後に、弁護士費用金八五万円を支払うことを約束していることが認められる。そして、弁論の全趣旨によつて認められる、本件訴訟の内容、証拠収集の困難性、その他本件の諸般の事情と本訴請求の認容額からすれば、原告久徳の右弁護士費用の債務負担は、国徳の本件事故死と相当因果関係のある損害と解すべきである。

3原告ぎん子の損害

原告久徳の慰藉料および弁護士費用相当額の損害について認定・判断したところと同様の証拠および理由により、原告ぎん子が国徳の本件事故死によつて受けた精神的苦痛を慰藉するには、少なくとも金二〇〇万円以上の慰藉料の支払をもつてするのが相当であり、また、原告ぎん子は、国徳の本件事故死と相当因果関係のある損害として、金八五万円の弁護士費用相当額の損害を被つたものというべきである。

4原告橋一の損害

(一)  逸失利益相当額の損害

原告橋一が昭和三〇年一一月三〇日に訴外亡宮川松兵衛と原告フクとの間の三男として出生し、本件事故発生の当時新島中学校の二年生に在学中の満一三歳七か月の男子であつたことは、原告橋一および同フクと被告国および同都との間で争いがなく、また、<証拠>によれば、原告橋一は、本件事故により、請求原因第1項および第3項(三)の(1)に記載のとおりの傷害を負い、その後、東京都立駒込病院等に入・通院して手術およびその他の治療を受けたが、なお、右第3項(三)の(1)に記載のとおりの後遺障害を残すに至つたこと、および原告橋一は、本件事故発生の当時、健康であり、また、昭和四九年三月現在、高等学校三年生に在学中で、大学への進学を強く希望していることが認められ、この認定に反する証拠はない。したがつて、原告橋一は、今後大学に進学し、これを卒業する蓋然性は極めて高いが、しかし、右後遺障害により少なくとも六〇パーセントの労働能力を喪失したものと解するのが相当である。

ところで、満一三歳七か月の健康な男子の平均余命が56.87年であること、健康な男子は少なくとも満六三歳まで就労が可能であることおよび年令の上昇に伴つて勤労者の受ける給与額が上昇することは、公知の事実であるから、原告橋一の右労働能力の喪失による逸失利益を算定するに当たつては、わが国における、年令の上昇に伴う昇給を考慮した大学卒の勤労者の平均給与額を基準として、原告が大学を卒業する二二歳から前記の六三歳に達するまでの間に得る現金給与額の総計を算定し、これに原告橋一の労働能力喪失率の六〇パーセントを乗じたうえ、新ホフマン式計算方法により中間利息を控除して、その一時請求額を算出するのが相当である。そして、わが国における、年令の上昇に伴う昇給を考慮した大学卒の勤労者の平均給与額は、<証拠>によれば、別表一の月収欄記載のとおりであることが認められるから、原告橋一の右労働能力の喪失による逸失利益の一時請求額は、金一五四六万五〇八八円となる。

(二)  義眼代相当額の損害

<証拠>によれば、原告橋一は、前記傷害のため右眼に義眼を使用することを余儀なくされているが、昭和四九年四月には現在使用している義眼を取り替えなければならず、その後も二年ごとにこれを取り替える必要があり、そして、その義眼代は、一回につき金二万円以上であることが認められる。

ところで、原告橋一は、現在一八歳であるから、その平均余命である52.07年の間には、昭和四九年四月取替の分をも含めて合計二七個の義眼の取替が必要となり、これに要する費用を本件事故発生当時の一時請求額に換算すると、別表二記載のとおり金二三万五六八二円となる。しかし、そのうち昭和四九年度、昭和五一年度および昭和五三年度の分については、原告橋一および同フクの主張のとおり、原告橋一が大学等に在学中であると推定されるため、原告フクにおいてこれを負担する蓋然性が高いから、その三回分の合計金四万四六〇八円は原告フクの損害とするのが相当であり、したがつて、原告橋一自身は、本件事故により、右義眼代から原告フクの負担する分を控除した残額である金一九万一〇七四円相当額の損害を被つたものというべきである。

(三)  慰藉料

原告橋一は、本件事故により、前記のとおりの傷害を受け、しかも、前記のとおりの著しい後遺障害を残すに至つたものであるから、そのため多大の精神的苦痛を受けたことは明らかであり、この精神的苦痛を慰藉するには、少なくとも金三〇〇万円の慰藉料の支払をもつてするのが相当である。

(四)  弁護士費用相当額の損害

<証拠>によれば、原告橋一は、原告久徳について認定したところと同様の理由により、梶谷玄ほか四名の弁護士に対し、本件訴訟の第一審判決の言渡直後に、弁護士費用金一九〇万円を支払うことを約束していることが認められ、そして、原告橋一の右弁護士費用の債務負担は、原告久徳について判示したところと同様の理由により、原告橋一の本件事故と相当因果関係のある損害と解すべきである。

5  原告フクの損害

(一)  原告橋一の義眼代相当額の損害

原告フクは、原告橋一の損害(二)に認定のとおり、同原告の昭和四九年度、昭和五一年度および昭和五三年度の義眼代合計金四万四六〇八円を負担しなければならない蓋然性が高いから、本件事故により、これと同額の損害を被つたものというべきである。

(二)  原告橋一の治療費等相当額の損害

<証拠>によれば、原告フクは、原告橋一の親権者としての立場から、同原告が入・通院した東京都立駒込病院その他の病院に対し、入院治療費等として少なくとも金一四万七五八五円を支払い、また、原告橋一が東京都立広尾病院で形成手術を受けるに当たり、担当医師らに対する謝礼として合計金二万円を支払つたことが認められる。そして、前記認定の原告橋一の傷害の状況等に照らせば、原告フクの右治療費および謝礼等の支出は、原告橋一の本件事故と相当因果関係のある損害と解すべきである。

(三)  原告橋一の附添看護料相当額の損害

<証拠>によれば、原告フクは、原告橋一が入院中、医師の指示に基づいて、昭和四四年六月二九日および三〇日の両日は自らが、また、同年七月一日から同年九月三〇日までの九二日間は原告橋一の実姉である訴外山中よし江に命じて、いずれも一日二四時間の附添看護をし、さらに、同年一〇月一日から同年一二月二七日までの間およびその後の手術の際少なくとも三日間は、右山中に命じて、いずれも午前七時ごろから午後九時ごろまでの間附添看護をしたことが認められる。

ところで、附添看護料は、二四時間附添の場合には少なくとも一日金二〇〇〇円、午前七時ごろから午後九時ごろまで附添の場合には少なくとも一日金一〇〇〇円と解するのが相当であるから、原告フクは、原告橋一の本件事故のため、自らまたは山中よし江に命じて右のとおりの附添看護をしたことにより、合計金二七万九〇〇〇円の附添看護料相当額の損害を被つたものというべきである。

(四)  入院雑費相当額の損害

<証拠>によれば、原告フクは、原告橋一が前記のとおり入・通院した期間中、交通費・副食代等の雑費として少なくとも金一〇万円以上の支出をしたことが認められるが、これも原告橋一の本件事故による損害と解すべきである。

(五)  慰藉料

原告フクは、前記認定のとおり原告橋一の母であるから、同原告が本件事故により前記のような重傷を負うに至つた結果、多大の精神的苦痛を受けたことは明らかであつて、この精神的苦痛を慰藉するには、少なくとも金三〇万円以上の慰藉料の支払をもつてするのが相当である。

(六)  弁護士費用相当額の損害

原告フクは、原告橋一の弁護士費用相当額の損害について認定・判断したところと同様の証拠および理由により、梶谷玄ほか四名の弁護士に対し、弁護士費用金一〇万円を支払うことを約束していることが認められるが、原告フクの右債務負担も、原告橋一の本件事故と相当因果関係のある損害と解すべきである。

七以上に認定・判断したところからすれば、被告恒次郎、同武男、同宮川および同山本は、原告らに対して本件事故による損害を賠償する義務を負わないが、被告国および同都は、本件事故による損害の賠償として、少なくとも、原告久徳に対し金九三六万六八六二円、原告ぎん子に対し金九二九万三七八六円、原告橋一に対し金二〇五五万六一六二円、原告フクに対し金九九万一一九三円および右各金員に対する前記各損害の発生した後である昭和四七年七月一二日から各支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金をいずれも連帯して支払う義務を負うものというべきである。

よつて、原告らの被告国および同都に対する本訴各請求はすべて理由があるから、これを認容し、原告らのその余の被告らに対する本訴各請求は理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、原告らの勝訴部分に関する仮執行およびその免脱の宣言につき同法第一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(奥村長生 平手勇治 及川憲夫)

別紙一、二<省略>

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