東京地方裁判所 昭和47年(ワ)5799号 判決 1975年1月31日
理由
《証拠》によれば、破産会社は昭和四六年七月一〇日支払手形を不渡にし、銀行取引停止処分をうけ、同年八月一〇日訴外ギヨーダニット株式会社外一名から破産の申立をうけ、同年一一年九日東京地方裁判所昭和四六年(フ)第一八一号をもつて破産宣告をうけ、同日原告がその破産管財人に選任されたことが認められ、右認定に反する証拠はない。
前記第二、二の原告の主位的請求原因について按ずるに、原告は被告は破産会社より昭和四六年七月一〇日又は一二日頃同社の支払停止の事実を知りながら、本件手形、株券の交付をうけた旨主張するけれども、これを認めるに足る証拠はなく、却つて《証拠》によれば、破産会社と被告とは昭和四五年頃から互に融通手形を交換し合つていたが、昭和四六年七月当時両社間では、被告発行の支払期日同月五日額面合計金二四五万円の手形五通、支払期日同月一五日額面合計金二五五万円の手形七通、支払期日同年八月三一日額面合計金二五五万九〇六円の手形二通が、一方破産会社発行の支払期日同年七月一〇日額面合計金二四五万円の手形五通、支払期日同月二〇日額面合計金二五五万円の手形六通、支払期日同年八月三一日額面合計金二五五万九〇六円の手形四通が融通手形として互に発行交換されていたこと、右各手形の外に同年三月中旬頃破産会社代表取締役三上洋一は知人に衣料の小売店をやらせる資金等として個人的な金借方を友人関係にある被告の代表取締役志田盛之に申込んだが、同人も仕事を始めて未だ二年前後で資金がないため、同人が代表取締役をしている被告が手形を振出して資金を捻出することとし、被告はその頃破産会社に対し支払期日何れも同年七月二五日とする額面金四八万円、同五七万円、同八二万円、同一一三万円合計金三〇〇万円の四通の手形を振出交付し、破産会社は右各手形をその二、三日後取引銀行において割引き、現金三〇〇万円を作出して、被告に渡し、被告は右金員を志田盛之に仮払いとして貸与し、同人は更にこれを個人的に三上洋一に貸渡し、同人においてこれを費消したことを認めることができ、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。而して、《証拠》によれば、破産会社はその商品の大部分を仕入れていた訴外河越商事から同会社に破産会社が提出していた報告に粉飾があるということで、商品の仕入れを差止められ、昭和四六年六月二〇日ないし二五日頃には倒産が予想され、前記認定のとおり同年七月一〇日には銀行取引停止処分をうけたこと、被告会社代表取締役志田盛之は同年六月末頃から同年七月一〇日までの間破産会社の代表取締役である三上洋一の動向を調査し、同年七月一〇日には破産会社が不渡手形を出すことに感ずいていたこと、それで志田盛之は破産会社に対し、前記三上洋一に貸与した金三〇〇万円については、特殊事情があるので便宜を図つてもらいたい旨要請し、三上洋一も志田盛之に対する友情と、同人に迷惑をかけたくないとの気持から、同年七月九日本件手形を、同月一〇日本件株券をそれぞれ破産会社より三上洋一個人が仮払の形で譲渡をうけ、その頃これらを右の事情を知つた志田盛之に対し、同人に対する前記金三〇〇万円の債務の弁済として交付し(本件手形、株券が三上洋一から志田盛之に交付されたこと自体は当事者間に争いがない)、同人は更にこれらを同人が代表取締役をしている被告に対し、被告からの前記借受金債務の清算として交付したことを認めることができ、<省略>、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。然らば、前記原告の主位的請求原因として主張するところは、すでにこの点において理由がないものといわねばならぬ。
次に前記第二、五の原告の予備的請求原因について按ずるに、本手形、株券が被告の手中に入つた経緯については、前記認定のとおりである。然らば、被告の本件手形、株券の右転得行為は破産法第八三条第一項第一号に該当し、一応本件は否認権の対象となるものといわねばならぬ。
よつて、前記第四被告の抗弁につき按ずるに、原告と三上洋一との間に同一の如き債務弁済契約が締結され、右契約に基づき原告が三上洋一から金四八〇万円を受領したことは当事者間に争いがない。然らば、原告の三上洋一に対する債権は本件手形、株券分金二八〇万三、三〇五円を含めて右弁済ないし免除により消滅したものといわねばならぬ。而して破産管財人が破産財団のために否認できる行為は転得者又は再転得者が否認権行使の相手方となつている場合でも、破産者の行為に限られるものであるところ、右弁済ないし免除による原告の三上洋一に対する右債権の消滅は、右契約(三)の右弁済及び免除があつた場合原告は爾後三上洋一に対し何らの請求又は責任の追求をなさない旨の条項と総合考察するときは、本件否認権行使の問題としては、右弁済及び免除を条件として、原告は破産者の三上洋一に対する前記行為につき、否認権の放棄又は否認権不行使の合意をなしたものと解するのが相当である。従つて、前記認定のとおり三上洋一が原告に対し前記契約に基づき金四八〇万円の弁済をなした以上原告の本件否認権行使は爾後その効力を生ずるに由なく、従つて又被告に対し本件手形、株券分として金二八〇万三、三〇五円の返還請求をなす原告の本訴請求もその余の判断をまつまでもなく理由がないことに帰するものといわねばならぬ。
次に、前記第二、三の事実については、当事者間に争いがない。然らば、被告は原告に対し右金一四二万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和四七年七月二〇日より完済に至るまで法定の範囲内である年五分の割合による利息の支払義務あるものというべきである。
よつて、原告の被告に対する本訴請求は右の限度で理由があるので認容し、その余は失当として棄却
(裁判官 中島恒)