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東京地方裁判所 昭和47年(ワ)70254号 判決 1974年3月27日

原告 共栄工業株式会社

右代表者代表取締役 五十嵐慎一

右訴訟代理人弁護士 高西金次郎

被告 松実英夫

右訴訟代理人弁護士 岩本公夫

主文

一  原被告間の当庁昭和四七年(手ワ)第五八四号約束手形金請求事件の手形判決を認可する。

二  異議申立後の訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金二八六万円およびこれに対する昭和四六年一一月三〇日より支払ずみまで年六分の金員の支払をせよ。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は次の記載のある約束手形二通(以下本件各手形という)を所持している。

(1) 金額 一、一〇〇、〇〇〇円

満期    昭和四六年一一月三〇日

支払地   東京都豊島区

振出地   東京都豊島区

支払場所  株式会社住友銀行池袋支店

振出日   昭和四六年一一月四日

振出人   株式会社一設計監理事務所 松実英夫

受取人   五十嵐建設株式会社

第一裏書人 右同

被裏書人  白地

(2) 金額 一、七六〇、〇〇〇円

その余の記載は(1)に同じ

2  被告は本件各手形の表面に記名押印した。

これは、振出人株式会社一設計監理事務所(以下一設計監理事務所という)のため保証したものであり、かりにそうでないとしても、本件各手形を、右振出人と共同で振出したものである。

3  本件各手形は満期に支払場所で呈示された。

4  よって、被告に対し、本件各手形金合計金二八六万円およびこれに対する満期以後の昭和四六年一一月三〇日より支払ずみまで手形法所定の年六分の利息の支払を求める。

二  請求の原因に対する答弁

1および3は知らない。

2のうち、被告が本件各手形の表面に記名押印したことは認める。ただし、これは保証ではなく共同振出である。

三  抗弁

本件各手形は、一設計監理事務所が訴外五十嵐建設株式会社(以下五十嵐建設という)に資金を融通するためにいわゆる融通手形として振出し交付したもので、被告は一設計監理事務所に信用を与えるため共同振出人となったものであるところ、原告は五十嵐建設と実質上同一の会社であるから、被告は原告に本件各手形金を支払う義務はない。

四  抗弁に対する認否

一設計監理事務所が五十嵐建設あてに本件各手形を振出したことは認めるが、その余は否認する。

本件各手形は、一設計監理事務所が五十嵐建設に対する借受金債務を支払うために振出交付したものである。

第三証拠≪省略≫

理由

一  請求原因について

本件各手形であること明らかで真正に成立したことについて争いのない甲第一、第二号証および原告代表者の本人尋問の結果によれば、原告が本件各手形を現に所持していることおよび本件各手形を支払場所に支払のため呈示したことを認めることができる。本件各手形の裏書は連続しているので原告は適法な所持人であると推定される。

次に被告が本件各手形の表面に記名押印したことについては争いはないが、これを共同振出と解すべきか保証と解すべきかについて検討する。

一般に約束手形の表面に二つの署名が並記された場合に、これらを共同振出と解するか或いは一つを振出、他を保証と解するかは、当該手形面の記載のみによって解釈されるべき問題であって、当該手形外の具体的法律関係や個有の具体的事情を解釈の資料とすることは、いわゆる手形客観解釈の原則上許されないところである。本件についてこれをみるに、前記甲第一、第二号証によると、本件各手形は昭和四〇年一二月一日実施のいわゆる統一手形用紙の型式によるものであること、その表面下部左端に「振出人」と印刷された題目があること、その題目に続いて最初に株式会社一設計監理事務所の記名押印があり、二番目に被告の記名押印があること、その両方の記名押印は文字の太さ大きさ、配列形態が略々同じであることが認められる。これらの記載よりすれば、最初の株式会社一設計監理事務所の記名押印が振出であることは外観上明らかである(振出人という題目が資格を表示している)が二番目の被告の記名押印が振出であるか保証であるかは外観自体からは明らかでない。

しかし、このような場合、一般の手形取引社会においては、最初の記名押印が振出の意思で行われていることはいうまでもないが、二番目の記名押印は保証の趣旨で行なわれており、当事者もその趣旨を了解して取引しているのが通常であること、また二番目の記名押印者は手形の支払場所に格別の注意を払っていないのが通常であることの各事情を勘案すれば、被告の手形行為は保証と解するのが相当である。

なおこのように一般の手形取引社会の慣行や事情を解釈の資料とすることは前示手形客観解釈の原則に反するものではない。

二  抗弁について

被告は、被保証人である振出人が受取人である原告に対していわゆる融通手形の抗弁を有すると主張し、これをもって原告に対抗しようとするものであるが、手形保証をした被告の責任は被保証人である振出人の責任とは別個独立のものであって、被保証人である振出人が原告に対する関係で有する人的抗弁を援用することは許されないと解するのが相当であるから、抗弁は主張自体原告の請求を妨げる理由とはならない。

三  結論

前記判示の請求原因事実によれば原告の請求は理由があるのでこれを認容することとし、民事訴訟法四五七条、四五八条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 光広龍夫)

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