東京地方裁判所 昭和47年(ワ)70280号 判決 1975年8月08日
原告 有限会社丸定
右代表者代表取締役 佐藤良平
右訴訟代理人弁護士 河崎光成
同 富田政義
被告 アテネ化成株式会社
右代表者代表取締役 佐藤光男
被告 株式会社アテネ
右代表者代表取締役 太田謙二
右被告両名訴訟代理人弁護士 高木正也
主文
一、被告らは、各自、原告に対して、金六、八一三、四二七円及びこれに対する昭和四七年六月二一日から支払いずみまで年六分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は、被告らの負担とする。
三 この判決の第一項は、仮に執行することができる。
事実
第一申立
一 原告の請求の趣旨
主文第一、二項同旨の判決及び第一項につき仮執行の宣言を求める。
二 請求の趣旨に対する被告らの答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
との判決を求める。
第二主張
一 原告の請求原因
(被告アテネ化成株式会社の手形債務)
(一)1 原告は、別紙目録(一)ないし(七)のとおりの記載のある約束手形各一通(以下「本件手形」という。)を所持している。
2 被告アテネ化成株式会社は、本件手形を振出した。
3 原告は、本件手形のうち別紙目録(一)ないし(六)の各手形を各満期に支払場所に呈示したが、支払を拒絶された。
4 原告は、本件手形のうち別紙目録(七)の手形を本件訴状の送達により呈示した。
(被告株式会社アテネと被告アテネ化成株式会社との人格の同一)
(二) 次の事実により、被告株式会社アテネは、被告アテネ化成株式会社と同一人格であり、被告アテネ化成株式会社の原告に対する本件手形債務を支払う義務があると解すべきである。すなわち、
(1)(イ) 被告アテネ化成株式会社は、昭和四七年二月二五日を満期とする約束手形の不渡を出して取引停止処分を受け、それ以後満期が到来した他の手形も支払っていない。ところが、被告アテネ化成株式会社は、右不渡を出した前日である昭和四七年二月二四日付で、山形県米沢市万世町梓山東下原四四二番地所在の支店の廃止登記を経由し、同月二九日支店登記簿を閉鎖した。
(ロ) 他方、被告株式会社アテネは、右アテネ化成株式会社の支店所在地と同一場所に本店を置くものとして、昭和四七年四月二〇日に設立登記が経由された。
(2) 被告アテネ化成株式会社と被告株式会社アテネは、事業目的が、共に、合成樹脂製品の製造販売である。
(3) 被告アテネ化成株式会社の四名の取締役のうち、二名が被告株式会社アテネの取締役、一名が同社の監査役となっている。
(4) 被告株式会社アテネの本店所在地は、被告アテネ化成株式会社の支店所在地と同一であることは前述のとおりであるが、そればかりでなく、被告アテネ化成株式会社の本店所在地である東京都荒川区西日暮里二丁目三一番六号とほぼ同一の住居表示の場所を被告株式会社アテネの東京営業所とし、被告アテネ化成株式会社の埼玉県越谷支店と同一場所を被告株式会社アテネの埼玉配送センターとして営業活動を行なっている。
(5) 被告アテネ化成株式会社は、営業活動を停止し、何等の清算手続もしないばかりか、米沢市の支店を被告株式会社アテネに使用させており、被告株式会社アテネは、被告アテネ化成株式会社の営業財産をそのまま流用して、被告アテネ化成株式会社が不渡を出した日以降引続いて営業を続けている。
(6) 被告株式会社アテネは、被告アテネ化成株式会社の従業員をそのまま引継いで雇用している。
(7) 被告株式会社アテネは、第三者に対しては、被告アテネ化成株式会社時代からの取引を継続し、被告アテネ化成株式会社時代からの債権を含めて、被告株式会社アテネ設立登記以前の債権を現に請求している。
(8) 被告株式会社アテネは、被告アテネ化成株式会社の債務の支払を回避する目的で設立された。
(商号続用営業譲受人)
(三) 仮に、右主張が理由がないとしても、
被告株式会社アテネは、被告アテネ化成株式会社と類似の商号を続用し、被告アテネ化成株式会社の営業一切を譲受けた。
(併存的債務引受)
(四) 仮に、右主張が理由がないとしても、
被告株式会社アテネは、被告アテネ化成株式会社の債務を併存的に引受けた。
(結び)
(五) よって、原告は、被告らに対し、別紙目録(一)の手形金の残額金三七〇、一〇〇円及び別紙目録(二)ないし(七)の手形金合計金六、四四三、三二七円(以上合計金六、八一三、四二七円)並びにこれに対する本件訴状の送達が被告両名に対し共に完了した日の翌日である昭和四七年六月二一日から支払いずみまで年六分の割合による遅延損害金を各自支払うことを求める。
二 請求原因に対する被告らの認否
(一)1ないし3の事実は認める。
(二)の事実のうち、(1)(イ)の事実並びに被告アテネ化成株式会社の目的及び原告主張の如き被告アテネ化成株式会社が営業している事実は認め、その余の事実は争う。
(三)の事実は否認する。
(四)の事実は否認する。
第三証拠≪省略≫
理由
(請求原因(一))
一 請求原因(一)のうち、1ないし3の事実は、当事者間に争いがなく、4の事実は、本件記録上明らかである。
(請求原因(二))
二 請求原因(二)の事実について、以下判断するに、
(1)(イ)の事実は、当事者間に争いがない。ただし、≪証拠省略≫により、被告アテネ化成株式会社が米沢市の支店を廃止した時は、昭和四七年二月二一日であったと認める。(1)(ロ)の事実は、≪証拠省略≫により認められる。
(2)の事実は、≪証拠省略≫により認められる(ただし、アテネ化成株式会社の目的には、ポリエステル化粧板並びにブリキ化粧合板の製造及び販売と合成樹脂製品の加工が加わっていたと認める。)。
(3)の事実は、≪証拠省略≫により認められる。
(4)の事実は、≪証拠省略≫により認められる(ただし、被告アテネ化成株式会社の本社と被告株式会社アテネの東京営業所とでは、ビルが異なる事実が認められる。)。さらに、右各証拠によれば、被告アテネ化成株式会社の本社と被告株式会社アテネの東京営業所、被告アテネ化成株式会社の米沢工場と被告株式会社アテネの米沢工場とでは、電話番号が同一である事実が認められる。
(5)、(6)、(7)の事実は、≪証拠省略≫により認められる。
以上の認定事実を総合すると、被告株式会社アテネの設立目的には、法人格を濫用して、被告アテネ化成株式会社の債務の支払を回避する目的が含まれていたと推認される。
そして、以上の認定に反する証拠は全くない。
したがって、信義則に基づき、被告株式会社アテネは、原告に対する関係では、被告アテネ化成株式会社と人格が同一であるものとして、被告アテネ化成株式会社の債務を負担すべきであると解するのが相当である。
(結論)
三 よって、原告の本訴請求は、すべて理由があるのでこれを認容することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九三条を適用し、仮執行の宜言について同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 山口久夫)
<以下省略>