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東京地方裁判所 昭和47年(ワ)8871号 判決 1975年2月27日

原告(反訴被告)

石川初子

ほか三名

被告

京浜産業資材株式会社

同(反訴原告)

花山静子

ほか三名

主文

一  被告京浜産業資材株式会社および被告(反訴原告)花山寛は各自

(一)  原告(反訴被告)石川初子に対し金七四六万六、六六六円および内金六八六万六、六六六円に対する昭和四七年一一月七日から、内金六〇万円に対する本判決確定の日の翌日から、いずれも支払ずみまで年五分の割合による金員を

(二)  原告(反訴被告)石川光子、同石川勇治および同石川正晴各自に対し金四二七万七、七七七円および内金三九七万七、七七七円に対する昭和四七年一一月七日から、内金三〇万円に対する本判決確定の日の翌日から、いずれも支払ずみまで年五分の割合による金員を

それぞれ支払え。

二  被告(反訴原告)花山静子は、訴外亡花山克から相続した財産の限度において、

(一)  原告(反訴被告)石川初子に対し金二四八万八、八八八円および内金二二八万八、八八八円に対する昭和四七年一一月七日から、内金二〇万円に対する本判決確定の日の翌日から、いずれも支払ずみまで年五分の割合による金員を

(二)  原告(反訴被告)石川光子、同石川勇治および同石川正晴各自に対し金一四二万五、九二五円および内金一三二万五、九二五円に対する昭和四七年一一月七日から、内金一〇万円に対する本判決確定の日の翌日から、いずれも支払ずみまで年五分の割合による金員を

それぞれ支払え。

三  被告(反訴原告)花山愛子は、訴外亡花山克から相続した財産の限度において、

(一)  原告(反訴被告)石川初子に対し金一六五万九、二五九円および内金一五二万五、九二六円に対する昭和四七年一一月六日から、内金一三万三、三三三円に対する本判決確定の日の翌日から、いずれも支払ずみまで年五分の割合による金員を

(二)  原告(反訴被告)石川光子、同石川勇治および同石川正晴各自に対し金九五万〇、六一七円および内金八八万三、九五一円に対する昭和四七年一一月六日から、内金六万六、六六六円に対する本判決確定の日の翌日から、いずれも支払ずみまで年五分の割合による金員を

それぞれ支払え。

四  被告(反訴原告)花山京子は、訴外亡花山克から相続した財産の限度において、

(一)  原告(反訴被告)石川初子に対し金一六五万九、二五九円および内金一五二万五、九二六円に対する昭和四七年一一月七日から、内金一三万三、三三三円に対する本判決確定の日の翌日から、いずれも支払ずみまで年五分の割合による金員を

(二)  原告(反訴被告)石川光子、同石川勇治および同石川正晴各自に対し金九五万〇、六一七円および内金八八万三、九五一円に対する昭和四七年一一月七日から、内金六万六、六六六円に対する本判決確定の日の翌日から、いずれも支払ずみまで年五分の割合による金員を

それぞれ支払え。

五  原告(反訴被告)らのその余の本訴請求および反訴原告(本訴被告)らの反訴請求をいずれも棄却する。

六  訴訟費用は、本訴について生じた部分は被告京浜産業資材株式会社およびその余の被告(反訴原告)らの連帯負担とし、反訴について生じた部分は反訴原告(本訴被告)らの連帯負担とする。

七  この判決の第一ないし第四項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の申立

一  本訴について

(一)  原告らの申立

1 被告花山寛(以下「被告寛」または「反訴原告寛」という。「被告会社」を除く他の被告についても同様とする。)および同京浜産業株式会社(以下「被告会社」という。)は各自、原告石川初子(以下「原告初子」または「反訴被告初子」という。他の原告についても同様とする。)に対し金八四一万八、九三〇円、同光子、同勇治および同正晴各自に対し金四三七万七、七七七円および右各金員に対する訴状送達の日の翌日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2 被告静子は、原告初子に対し金二八〇万六、三〇九円、同光子、同勇治および同正晴各自に対し金一四五万九、二五八円および右各金員に対する訴状送達の日の翌日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3 被告愛子および同京子は各自、原告初子に対し金一八七万〇、八七一円、同光子、同勇治および同正晴各自に対し金九七万二、八三八円および右各金員に対する訴状送達の日の翌日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

4 訴訟費用は被告らの負担とする。

5 仮執行の宣言を求める。

(二)  被告らの申立

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

二  反訴について

(一)  反訴原告らの申立

1 反訴被告初子は、反訴原告静子に対し金三〇〇万円、同愛子、同寛および同京子各自に対し金一五〇万円および右各金員に対する昭和四七年五月一五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2 反訴被告光子、同勇治および同正晴は各自、反訴原告静子に対し金二〇〇万円、同愛子、同寛および同京子各自に対し金一〇〇万円および右各金員に対する昭和四七年五月一五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3 訴訟費用は反訴被告らの負担とする。

4 仮執行の宣言を求める。

(二)  反訴被告らの申立

1 反訴原告らの反訴請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は反訴原告らの負担とする。

第二本訴事件についての当事者の主張

一  請求原因

(一)  事故の発生

1 日時 昭和四七年五月一五日午後八時四〇分頃

2 場所 埼玉県北葛飾郡栗橋町大字小右エ門二〇三番地先路上

3 加害車 普通乗用車(品川五五な七八〇号)

運転者 訴外亡花山克

同乗者 訴外亡石川光蔵

4 態様 加害者が時速八〇粁位で国道四号線を東京方面から茨城県古河市方面に向つて進行中、本件現場で対向車線に飛び出し、折柄対向して来た大型貨物自動車(足立一一か二九一〇号)に激突した。

5 結果 右事故のため、亡石川光蔵は頭蓋底骨折脳挫傷等のため同日午後九時一〇分頃死亡し、亡花山克も同様の傷害のためその頃死亡した。

(二)  被告らの責任

1 被告寛および被告会社の自賠法三条による責任

(1) 被告寛は加害車を所有し自己のため運行の用に供していたものである(なお、後記被告らの自白の撤回には異議がある。)。

(2) 被告会社は、加害車を使用し、自己のため運行の用に供していたものである。

2 被告会社の民法四四条による責任

仮りに被告会社が運行供用者に当たらないとしても、本件事故は、同社の代表取締役である亡花山克が、法定速度をはるかに超えて加害車を運転中、運転操作を誤り中央線を越えて対向車線にとび出した過失により発生したものである。

3 被告静子、同愛子、同寛および同京子の相続による責任

前記のとおり、本件事故は亡花山克の過失により発生したものであるが、被告静子は亡花山克の妻、同愛子、同寛および同京子は同人の子として、同人の死亡に伴い、同人の債務を法定相続分に従い相続した。

(三)  原告らの相続

原告初子は亡石川光蔵の妻、同光子、同勇治および同正晴は同人の子であり、同人の死亡に伴い、同人の後記逸失利益を法定相続分に従つて相続した。

(四)  損害

1 葬儀関係費用 金一一五万二、二六四円

原告初子が亡石川光蔵の葬儀を執行し、その費用を負担した。

2 慰藉料

(1) 原告初子分 金二〇〇万円

(2) その余の原告分 各金一〇〇万円

3 亡石川光蔵の逸失利益

亡石川光蔵は大正一二年一一月二八日生れで本件当時四八才であつたが、一五才頃から特殊工業用ミシン類の販売、組立、調整整備、修理などの業務に従事し、昭和二四年に合資会社石川ミシン商会を設立してその代表社員になり、右業務を継続し、昭和四六年一月から昭和四七年五月までの間に、同社から給与および賞与として一ケ月平均一三万七、〇〇〇円を得ていた。これを基礎として、若年の子供が多いことからその二五パーセントを生活費として控除し、六五才まで就労可能であつたとみて、ライプニツツ方式により中間利息を控除して算出すると、同人の逸失利益は金一、三九〇万円となる。

これを原告らの相続分に従い按分すると次のとおりである。

(1) 原告初子分 金四六三万三、三三三円

(2) その余の原告分 各金三〇八万八、八八八円

4 弁護士費用

原告らは、本訴追行を弁護士に委任し、その費用として次のとおり合計金二〇〇万円を支払う旨約した。

(1) 原告初子分 金八〇万円

(2) その余の原告分 各金四〇万円

(五)  損害の填補

原告らは自賠責保険から仮渡金として金五〇万円の支払を受け、これを相続分に応じて次のとおり按分した。

1 原告初子 金一六万六、六六七円

2 その余の原告ら 各金一一万一、一一一円

(六)  結論

以上述べたところによれば、未だ填補されていない損害は、原告初子の分が金八四一万八、九三〇円、その余の原告らの分が各金四三七万七、七七七円となる。

一方、前記被告らの責任原因事実に徴して明らかな如く、被告会社および同寛は各自、右原告ら各自の損害をすべて賠償する責任があり、その余の被告らは各自、その相続分に従つて右原告ら各自の損害を賠償する責任がある。

よつて、原告らは各自、被告ら各自に対し、前記本訴についての「原告らの申立」記載の各金員およびこれに対する訴状送達の日の翌日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告らの答弁

(一)  請求原因(一)のうち、加害車の運転者が亡花山克であり、同乗者が亡石川光蔵であることを否認し、その余の事実を認める。加害車の運転者は亡石川光蔵であり、同乗者が亡花山克である。

(二)  同(二)のうち、

1の(2)の事実を認める。(1)の事実のうち加害車が被告寛の所有であることを当初認めたが、それは真実に反する陳述で錯誤に基づいてしたものであるから、その自白を撤回し、(1)の事実を全部否認する。加害車は、被告会社がその業務用に購入し、使用していたものであるが、被告寛が身体障害者であり、同被告名義で購入すると税金面で優遇されることから、同被告名義で購入したもので、その購入代金、ガソリン代、保険料等はすべて被告会社が負担し、被告寛の個人的用途に供されたこともない。

2のうち、亡花山克が被告会社の代表取締役であつたことを認め、その余の事実を否認する。

3のうち相続関係の事実を認める。

(三)  同(三)のうち相続関係の事実を認める。

(四)  同(四)および(五)の事実は不知。

三  被告らの主張

被告静子、同愛子、同寛および同京子は、被相続人亡花山克の相続に関し東京家庭裁判所に対し限定承認の申述をなし、右申述は昭和四七年九月四日同裁判所により受理された。よつて、仮に本件事故が亡花山克の過失により生じたものとしても、右被告らは、同人の相続財産の限度において責任を負うにすぎない。

四  被告らの主張に対する原告らの答弁

被告ら主張の事実は不知。

第三反訴事件についての当事者の主張

一  請求原因

(一)  事故の発生

1 日時 昭和四七年五月一五日午後八時四〇分頃

2 場所 埼玉県北葛飾郡栗橋町大字小右エ門二〇三番地先路上

3 加害車 普通乗用車(品川五五な七八〇号)

運転者 亡石川光蔵

同乗者 亡花山克

4 態様 加害車が時速八〇粁位で国道四号線を東京方面から茨城県古河市方面に向つて進行中、本件現場で対向車線に飛び出し、折柄対向して来た大型貨物自動車(足立一一か二九一〇号)に激突した。

5 結果 右事故のため、亡花山克は脳挫傷、頭蓋底骨折等のため同日午後九時一〇分頃死亡し、亡石川光蔵も同様の傷害のためその頃死亡した。

(二)  反訴被告らの責任

本件事故は、亡石川光蔵が先行車を追い抜こうとして運転を誤り、加害車を対向車線に飛び出させた過失により発生させたものであるところ、前記のとおり、同人が死亡したので、同人の妻である反訴被告初子、子である同光子、同勇治および同正晴がそれぞれ法定相続分に従い亡石川光蔵の損害賠償義務を相続した。

(三)  反訴原告らの損害

1 亡花山克の逸失利益

亡花山克は、本件事故当時四七才の男子で、本訴被告会社の代表取締役として稼働し、昭和四六年には金三二一万六、〇三七円の年収があつた。本件事故で死亡しなければ、同人は、六七才まであと二〇年間稼働し、その間少くとも右と同額の年収を得ることができ、その間の同人の生活費は年収の三五パーセントを超えない。従つて、ホフマン方式により中間利息を控除して事故時の現価を算出すると、同人の逸失利益は金二、八四六万三、三五五円となる。

2 反訴原告らの相続

反訴原告静子は亡花山克の妻、その余の反訴原告らは同人の子であり、他に同人の相続人はないので、同人の死亡に伴い、同人の逸失利益を法定相続分に従い、反訴原告静子が金九四八万七、七八五円、その余の反訴原告らは各金六三二万五、一九〇円を相続した。

3 慰藉料

反訴原告らは、本件事故により一家の支柱を失い、多大の精神的苦痛を蒙つた。従つて慰藉料としては、反訴原告らにつき各金二〇〇万円が相当である。

4 葬儀費用

反訴原告静子は、亡花山克の葬儀を執行し、そのための費用として金五〇万円を要した。

5 まとめ

以上のとおり、反訴原告らの損害は、同静子が金一、一九八万七、七八五円、その余の反訴原告らが各金八三二万五、一九〇円となる。

(四)  結論

本件反訴において、右各損害金のうち、反訴原告静子が金九〇〇万円、その余の反訴原告らが各金四五〇万円を請求するものであるところ、これを反訴被告らの相続分に従つて按分し、結局、反訴原告静子は、反訴被告初子に対し金三〇〇万円、その余の反訴被告ら各自に対し金二〇〇万円、その余の反訴原告らは各自、反訴被告初子に対し金一五〇万円、その余の反訴被告ら各自に対し金一〇〇万円、および右各金員に対する本件事故発生の日である昭和四七年五月一五日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する反訴被告らの答弁

(一)  反訴請求原因(一)のうち、加害車の運転者および同乗者の点を除き、その余の事実を認める。運転者が亡花山克であり、同乗者が亡石川光蔵である。

(二)  同(二)のうち相続関係の事実を認め、その余の事実を否認する。

(三)  同(三)のうち、亡花山克が本件当時四七才の男子で本訴被告会社の代表取締役として稼働していたことおよび反訴原告らの相続関係の事実を認め、その余の事実を否認する。

第四証拠関係〔略〕

理由

一  事故の発生

昭和四七年五月一五日午後八時四〇分頃埼玉県北葛飾郡栗橋町大字小右ヱ門二〇三番地先国道四号線上において、亡花山克および亡石川光蔵が乗車した加害車(普通乗用車―品川五五な七八〇号)が、時速八〇粁位で東京方面から茨城県古河市方面に向つて進行中、対向車線に飛び出し、折柄対向して来た大型貨物自動車(足立一一か二九一〇号)に激突し、このため右両名とも頭蓋底骨折、脳挫傷等により、同日午後九時一〇分頃死亡したことは、本訴、反訴を通じて、当事者間に争いがない。

二  加害車の運転者について

本件事故について、加害車を運転していた者が、亡花山克および亡石川光蔵のうちのいずれであるかという点が重大な争点となつているので、まずこの点について判断する。

〔証拠略〕によれば、対向車線に進入した加害車の左側面に大型車の前面が衝突し、このため助手席側のドアが大破して内側にくの字型に押し曲げられたこと、運転席に乗つていた者の腰は運転席の上にあつたが、上半身は後方に倒れた運転席のリクライニングシートの上に仰向けに横たわり、口から血を流していて、その血が右シート上部の枕近くの助手席寄りの部分に落ちていたこと、助手席は運転席の方向にねじまげられ、助手席に乗つていた者の腰は助手席の上にあつたが、頭部は運転席に居た者の腹部ないし腰付近に乗つていたこと、以上の事実が認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

また、〔証拠略〕によれば、本件事故後助手席に居た者が黒の半袖シヤツを着ており、右シヤツは亡石川光蔵が本件事故前に着用して同人宅を出発したこと、本件事故後鑑定した結果によれば、亡花山克の毛ブラシに付着していた毛髪および同人の背広上下に付着していた毛の血液型がいずれもO型であり、また、加害車の運転席のマクラから採取した血液、運転席のシートが後方に倒れて接した後部座席中央から採取した血液、運転席のシートに付着していた血液、後部座席のシートに付着していた血液がいずれもO型であること、一方、亡石川光蔵のズボンに付着していた血液、同人の丸首シヤツに付着していた血液、加害車の右側ドア内側から採取した血液、運転席扉内側のシートのビニールに付着していた血液、運転席椅子のハンドルカバーに付着していた血液がいずれもA型であること、が認められ、右認定に反する証拠はない。

右事実によれば、亡花山克の血液型がO型で、亡石川光蔵の血液型がA型であると推定され、各血液型を示す血液の加害車内からの採取場所および前記事故後の加害車内における運転席に居た者と助手席に居た者との位置関係から判断して、(仮りに助手席に居た者が亡石川光蔵の黒の半袖シヤツを着ていたとの事実を除外して考えても)本件事故当時加害車を運転していた者は亡花山克であると推定される。

〔証拠略〕には、運転席に居た者が亡石川光蔵であり、助手席に居た者が亡花山克であるとの部分があるが、これはあくまでも当時救急車の運転をしていた訴外関儀一の記憶によるものであつて、前認定の客観的状況に照らして、たやすく措信しがたく、他に右推定を覆えすに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、反訴原告らの反訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、すべて理由がないことになるので、以下本訴原告らの本訴請求について判断する。

三  被告らの責任

(一)  被告会社が加害車を使用し自己のため運行の用に供していたことは当事者間に争いがない。

(二)  原告らは、被告寛が加害車を所有し自己のため運行の用に供していた旨主張し、被告らは、当初所有の事実を認めていたが、後にこれを撤回し、原告らは右撤回に異議を述べるので、まず右撤回の有効性について考えるに、自動車損害賠償保障法三条の「自己のために自動車を運行の用に供する者」との要件は、それ自体が主要事実であり、加害車の所有、使用関係などは、右事実を推認するための間接事実であるにすぎないものと解すべきであるから、右被告らの自白の撤回もまた許されるものというべきである。

そこで、被告寛が加害車を自己のため運行の用に供していたか否かについて検討するに、〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。

亡花山克は、昭和二八年七月二二日京浜繊維工業株式会社の設立登記をして営業していたが、倒産し、次いで昭和三八年頃訴外株式会社京浜産業を設立して営業を続けたが、これも昭和四三年頃倒産したため、その後個人で営業を継続していたところ、昭和四六年一二月二日前記京浜繊維工業株式会社の商号を被告京浜産業資材株式会社とし、シート、天幕、作業衣、工業用防災防具類の製作、建築金物および天幕金物類の製作販売等を営業目的として変更登記し、営業を続けて来た。ところが、本件事故により、亡花山克が死亡したため、被告会社は、経営の見込が立たず、本件後間もなく倒産するに至つた。被告会社には、本件当時代表者である亡花山克、同人の長男(他に男性の子はいない。)で高校を卒業して昭和四五年四月頃から同人の仕事を手伝つていた被告寛のほか、二名の従業員がいたが、被告寛と亡花山克とが配達の仕事に従事していた。ところで、被告会社では、本件事故当時二台の自動車を利用していたが、内一台は昭和四六年四月に購入したノークラツチの本件加害車であり、内一台はそれ以前の昭和四五年か四六年に購入したノークラツチのライトバンである。そして、本件事故当時、右ライトバンは主として亡花山克が配達業務に使用し、加害車は主として被告寛(昭和四五年一一月運転免許取得)が配達業務に使用したり、月に一、二回位ドライブに使用したりしていた。

ところで、加害車の購入経過についてみると、被告寛が身体障害者であり、一、五〇〇cc以下の自動車を購入する場合には税法上の特典があるところ、一、五〇〇cc以下のライトバンにはノークラツチの車種がないので、普通乗用車である加害車を購入することとした。購入に際しては、使用者名義を被告寛として登録し、代金の支払は銀行ローンとして、銀行に同被告名義の口座を設け、当初は亡花山克が、被告会社が営業を始めてからは同会社がそれぞれ右口座に月賦代金を振込んで支払い、ガソリン代、保険料その他の維持費も、右同様当初は亡花山克がその後は被告会社が出捐した。このため、被告会社が、倒産後に開催された債権者集会に提出した什器備品明細書には加害車を被告会社の什器備品として掲載していない。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。この事実に基づいて考えるに、加害車購入当時被告会社が名のみの存在で、営業活動を始めたのが、加害車購入後であること、本件当時被告会社が総員四名によつて活動しており、内二名を亡花山克と被告寛とが占めており、実体は亡花山克の個人企業とみうること、被告寛が亡花山克の長男で、亡花山克の後継者たる地位にあつたとみうること、商品の配達は乗用車でもできるとしても、ライトバンの方が便利であること、この便利さに比すれば税法上の特典があるために得る利益は極めて小さいものであると推測されること、被告寛が加害車をドライブなどに利用していたこと、などの事情に鑑みれば、加害車の所有者が誰であるかはともかくとして、購入代金および維持費を亡花山克ないし被告会社が支払い、主として亡花山克のうちには被告会社の業務用に供されていた事実があつても、なおそれと併存的に被告寛のために購入され、かつ、利用されていた面があることを否定できず、この意味において同被告が加害車を自己のため運行の用に供していたものということができる。

(三)  被告静子、同愛子および同京子の責任

前記当事者間に争いのない本件事故態様に鑑みれば、亡花山克が法定の最高速度を上まわる高速度で加害車を運転中、運転操作を誤り中央線を越えて対向車線に飛び出した過失により、本件事故を惹起したものであるものと認められる。

ところで、被告静子が亡花山克の妻であり、同愛子、同寛および同京子が同人の子であることは当事者間に争いがないので、同人の死亡に伴い同人の原告らに対する債務を、法定相続分に従い、被告静子が三分の一、同愛子および同京子が各九分の二宛相続したものというべきである。

しかるところ、〔証拠略〕によれば、右被告らが東京家庭裁判所に対し相続の限定承認の申立をなし、昭和四七年九月四日右申立を受理する旨の審判がなされたことが認められるので、被告静子、同愛子および同京子は、亡花山克から相続した財産の限度において原告らに対して責任を負うにすぎない。

四  原告らの損害

(一)  葬儀関係費用 金四〇万円

〔証拠略〕によれば、亡石川光蔵の葬儀を同原告が執行し、その費用および墓碑代、四九日法要の費用等で、合計金一〇一万六、〇一五円を要したことが認められ、右認定に反する証拠はない。しかし、本件事故と相当因果関係あるものとして被告らに請求しうべき分としては、右のうち金四〇万円が相当であると認める。

(二)  慰謝料

〔証拠略〕によれば、亡石川光蔵が合資会社石川ミシン商会の無限責任社員として特殊工業用ミシンの販売・加工・修理などの業務に従事していたものであるところ、かねて取引のあつた被告会社に対し、本件事故当日工業用ミシン類を売却し、これを被告会社の依頼により同会社の工場に取りつけ、稼働可能な状態にする作業を行うため、右ミシン類を別途搬送するトラツクが出発した直後に、亡花山克が亡石川光蔵宅まで運転して来た加害車に同乗し、被告会社の工場に向う途中本件事故に遭遇したものであると認められること、後記原告らと亡石川光蔵との身分関係、同人が一家の支柱であつたこと等、諸般の事情に鑑み、原告らに対する慰謝料としては、原告初子に対する分として金二〇〇万円、その余の原告らに対する分として各金一〇〇万円が相当であると認める。

(三)  逸失利益

〔証拠略〕によれば、亡石川光蔵が、大正一二年一一月二八日生れの男子で、一四、五才頃から父親の始めた特殊工業用ミシンの修理、販売の仕事に従事し、昭和二四年には合資会社石川ミシン商会を設立し、無限責任社員として右業務に従事し、昭和四六年一月から一二月までの間右会社から給与名義で一ケ月当り金一二万円、賞与名義で一年間に一ケ月の給与相当額合計金一五六万円を得、昭和四七年一月からは一ケ月当りの給与額が金一三万円となつたこと、同会社の最近の方針としては年々一ケ月当りの給与額を金一万円宛合計一年間に金一三万円増額していく予定であつたこと、原告初子も同会社の有限責任社員となつてその仕事に従事し、給与を得ていたこと、同会社は亡石川光蔵の死亡に伴い解散したこと、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

右事実によれば、亡石川光蔵は、本件事故に遭遇しなければなお一九年間は稼働可能であると推定され、同人の年収を昭和四七年が金一六九万円、昭和四八年が金一八二万円であるとし、昭和四九年の上昇分を考慮せず、かつ、生活費として三五パーセントを控除し、ライプニツツ方式により中間利息を控除して、後記訴状送達の日の現価を算出しても、同人の逸失利益は、原告らの主張する金一、三九〇万円を下らない。

ところで、原告初子が亡石川光蔵の妻であり、同光子、同勇治および同正晴が同人の子であることは当事者間に争いがないので、右原告らは、亡石川光蔵の死亡に伴い、同人の逸失利益を法定相続分に従つて相続したと認められる。これにより算出すれば、原告初子の分は金四六三万三、三三三円、その余の原告らの分はそれぞれ金三〇八万八、八八八円となる。

(四)  まとめ

以上により、原告らの損害は、原告初子が金七〇三万三、三三三円、その余の原告らが各金四〇八万八、八八八円となる。

五  損害の填補

原告らが自賠責保険から仮渡金として金五〇万円の支払を受け、これを原告らの法定相続分に従つて按分し、原告初子が金一六万六、六六七円、その余の原告らが各金一一万一、一一一円を受領したことは、原告らの自認するところである。

六  弁護士費用

原告らが本訴追行を弁護士に委任したことは当裁判所に顕著な事実であり、〔証拠略〕によれば、その報酬等として弁護士に対し原告初子が金八〇万円、その余の原告らが各金四〇万円(ただし判決の認容額が請求額より低いときはその一割)を支払う旨約したことが認められるが、本件訴訟の経過、認容額等に鑑み、本件事故と因果関係を有するものとして被告らに請求しうべき分としては、原告初子の分が金六〇万円、その余の原告らの分が各金三〇万円が相当であると認める。

七  結論

以上述べたところによれば、原告らが未だ填補を受けていない分は、原告初子が金七四六万六、六六六円、その余の原告らが各金四二七万七、七七七円となる。従つて、

(一)  被告会社および同寛は各自、原告初子に対し金七四六万六、六六六円およびこれから弁護士費用分金六〇万円を控除した残金六八六万六、六六六円に対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四七年一一月七日から、右弁護士費用分金六〇万円に対する本判決確定の日の翌日から、いずれも支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を、その余の原告ら各自に対し、金四二七万七、七七七円およびこれから弁護士費用分金三〇万円を控除した残金三九七万七、七七七円に対する右昭和四七年一一月七日から、右弁護士費用分金三〇万円に対する本判決確定の日の翌日から、いずれも支払ずみまで右年五分の割合による遅延損害金を、

(二)  被告静子は、亡花山克から相続した財産の限度において、原告初子に対し未だ填補を受けていない分の三分の一に当る金二四八万八、八八八円およびこれから弁護士費用分の三分の一に当る金二〇万円を控除した残金二二八万八、八八八円に対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四七年一一月七日から、右弁護士費用分の三分の一に当る金二〇万円に対する本判決確定の日の翌日から、いずれも支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を、その余の原告ら各自に対し未だ填補を受けていない分の三分の一に当る金一四二万五、九二五円およびこれから弁護士費用分の三分の一に当る金一〇万円を控除した残金一三二万五、九二五円に対する右昭和四七年一一月七日から、右弁護士費用分の三分の一に当る金一〇万円に対する本判決確定の日の翌日から、いずれも支払ずみまで右年五分の割合による遅延損害金を、

(三)  被告愛子は、亡花山克から相続した財産の限度において、原告初子に対し未だ填補を受けていない分の九分の二に当る金一六五万九、二五九円およびこれから弁護士費用分の九分の二に当る金一三万三、三三三円を控除した残金一五二万五、九二六円に対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四七年一一月六日から、右弁護士費用の九分の二に当る金一三万三、三三三円に対する本判決確定の日の翌日から、いずれも支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を、その余の原告ら各自に対し未だ填補を受けていない分の九分の二に当る金九五万〇、六一七円およびこれから弁護士費用分の九分の二に当る金六万六、六六六円を控除した残金八八万三、九五一円に対する右昭和四七年一一月六日から、右弁護士費用の九分の二に当る金六万六、六六六円に対する本判決確定の日の翌日から、いずれも支払ずみまで右年五分の割合による遅延損害金を、

(四)  被告京子は、亡花山克から相続した財産の限度において、原告初子に対し未だ填補を受けていない分の九分の二に当る金一六五万九、二五九円およびこれから弁護士費用分の九分の二に当る金一三万三、三三三円を控除した残金一五二万五、九二六円に対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四七年一一月七日から、右弁護士費用分の九分の二に当る金一三万三、三三三円に対する本判決確定の日の翌日から、いずれも支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を、その余の原告ら各自に対し未だ填補を受けていない分の九分の二に当る金九五万〇、六一七円およびこれから弁護士費用分の九分の二に当る金六万六、六六六円を控除した残金八八万三、九五一円に対する右昭和四七年一一月七日から、右弁護士費用分の九分の二に当る金六万六、六六六円に対する本判決確定の日の翌日から、いずれも支払ずみまで右年五分の割合による遅延損害金を、

それぞれ支払う義務を有するので、原告らの本訴請求は、被告らに対し右金員の各支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、原告らのその余の本訴請求および反訴原告らの反訴請求はいずれも理由がないから失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 瀬戸正義)

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