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東京地方裁判所 昭和47年(ワ)9515号 判決 1979年4月23日

昭47(ワ)9515号(甲事件)

昭49(ワ)1639号(乙事件)

昭49(ワ)1851号(丙事件)

甲事件原告 閔玉圭

乙事件原告(甲事件被告) 上信電鉄株式会社

丙事件原告(甲事件被告) 日進レンタカー株式会社

甲事件被告 東名レンタカー株式会社

甲事件被告ら補助参加人 長谷部産業株式会社

乙、丙事件被告 ニユー目黒フラワーマンシヨン管理組合

主文

原告の被告らに対する訴をいずれも却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二 乙事件

別紙物件目録(二)、(四)及び(八)記載の各建物につき原告が所有権を有することを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

三 丙事件

被告は原告に対し別紙物件目録(三)記載の建物のうち別紙図面(二)の青斜線部分及び別紙物件目録(四)記載の建物のうち別紙図面(三)の赤斜線部分を明渡せ。

被告は原告に対して金一九万四〇〇〇円及び昭和四七年九月から本判決言渡の日まで一か月金六万円の割合による金員並びに右各金員に対する本判決言渡の日の翌日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  甲事件

(原告閔玉圭)

1 被告上信電鉄株式会社(以下「被告上信電鉄」という。)は原告に対し、別紙物件目録(一)記載の建物のうち別紙物件目録(二)及び(三)記載の各建物につき東京法務局渋谷出張所昭和四六年一〇月一四日受付第四二一九五号所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

2 被告東名レンタカー株式会社(以下「被告東名レンタカー」という。)は原告に対し、別紙物件目録(二)記載の建物につき東京法務局渋谷出張所昭和四六年一月二一日受付第二二三八号所有権保存登記及び別紙物件目録(三)記載の建物につき同出張所昭和四六年一月二一日受付第二二三九号所有権保存登記の各抹消登記手続をせよ。

3 被告上信電鉄及び被告日進レンタカー株式会社(以下「被告日進レンタカー」という。)は原告に対し、別紙物件目録(二)記載の建物を明渡し、かつ、昭和四五年一一月二〇日以降明渡ずみに至るまで一か月金三五万二〇〇〇円の割合による金員を連帯して支払え。

4 被告上信電鉄及び同日進レンタカーは原告に対し、別紙物件目録(三)記載の建物のうち別紙図面(二)の赤斜線部分を明渡し、かつ、昭和四七年六月二七日以降右明渡ずみに至るまで一か月金二万二〇〇〇円の割合による金員を連帯して支払え。

5 被告上信電鉄及び日進レンタカーは原告に対し、別紙物件目録(四)記載の建物のうち別紙図面(三)の青斜線部分を明渡し、かつ、昭和四七年六月二七日以降明渡ずみに至るまで一か月金五万五〇〇〇円の割合による金員を連帯して支払え。

6 被告上信電鉄及び同日進レンタカーは原告に対し、別紙物件目録(五)記載の物件を撤去して別紙物件目録(六)記載の建物を明渡し、かつ、昭和四七年六月二七日以降右明渡ずみに至るまで一か月金一五万円の割合による金員を連帯して支払え。

7 被告日進レンタカーは原告に対し、金三〇二万八〇〇〇円及びこれに対する昭和四七年六月二七日以降完済に至るまで年五分の割合による金員並びに昭和四七年九月一日以降本件訴訟の第一審判決言渡の日まで一か月金三万七〇〇〇円の割合による金員を支払え。

8 訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言。

(被告上信電鉄、同東名レンタカー、同日進レンタカー)

1 本案前の申立

主文同旨の判決。

2 本案の請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

二  乙事件

(原告上信電鉄)

主文同旨の判決。

(被告管理組合)

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

三  丙事件

(原告日進レンタカー)

1 主文一項同旨

2 被告は原告に対し、金二六万円及びこれに対する昭和四七年一〇月一日から完済に至るまで年五分の割合による金員並びに同年九月一日から右1の建物明渡ずみに至るまで毎月末日限り金八万五〇〇〇円及び右各金員に対する別表遅延損害金起算日欄記載の日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3 訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言。

(被告管理組合)

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二甲事件についての当事者の主張

一  請求の原因

1  別紙物件目録(一)記載の建物(以下「本件建物」という。)は、通称「目黒ニユーフラワーマンシヨン」というビルデイングで、その中に区分所有権の対象となる七一戸を包含するものである。

原告は、右七一戸の区分所有者七〇名中六九名の合意に基づき設立された権利能力なき社団である「ニユー目黒フラワーマンシヨン管理組合」(乙、丙事件被告)の会長で、建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)一七条に定める本件建物の管理者であり、後記二の理由により本件訴訟について当事者適格を有する。

2  被告上信電鉄は、本件建物の敷地である別紙物件目録(七)記載の土地(以下「本件土地」という。)の所有者であつて、被告日進レンタカーは、本件土地を被告上信電鉄から賃借し、同被告の承諾を得て、本件建物の全区分所有者に対し、本件土地を転貸しているものである。

3  別紙物件目録(二)記載の建物部分(以下「本件一階駐車場」という。)、同目録(三)記載の建物部分(以下「二〇一号室」という。)、同目録(四)記載の建物部分(以下「本件二階駐車場」という。)及び同目録(六)記載の建物部分(以下「本件屋上」という。)は、いずれも本件建物の一部であつて区分所有法三条一項の区分所有権の目的とならない、いわゆる法定共用部分である。すなわち、区分所有法上一棟の建物の部分が専有部分とされるためには、その部分が「構造上区分された」もので(構造上の独立性)、かつ、「独立して建物としての用途に供することができるもの」であること(利用上の独立性)を要するとともに、「構造上区分所有者の全員又はその一部の共用に供されるべき」もの(法定共用部分)でないことを要するのであるが(同法一条、二条、三条一項)、

(一) 本件一階駐車場は、その北側がマンシヨン本体部分と接し、南側及び西側の各一部(全長の五分の一ないし六分の一)がコンクリート壁、便所、事務室によつて外部と遮断されているほかは、直接道路に面する東側にシヤツターの設備があるだけで、物理的に他の部分と完全に遮断されておらず、物権的物的支配の明確性の要請から要件とされるところの「構造上の独立性」を充足していない。右のように、本件一階駐車場は現状でも「構造上の独立性」を有しないが、法定共用部分か否かの判断は、本件建物全体について表示登記のなされた昭和四五年一二月三日か遅くとも区分所有権が複数成立した時点を基準としてなされるべきところ、右の東側シヤツター及び西側コンクリート壁はその後に設置されたものであるから、それらは「構造上の独立性」の有無を判断するにあたつての遮閉物としては考慮されるべきでなく、したがつて、右基準時において遮閉されていたのは上下及び北側と南側の五分の一のみであり、東側と西側については全く遮閉物がなかつたのであるから、本件一階駐車場が「構造上の独立性」を有しないことは明白である。

のみならず、本件一階駐車場には本件建物全体を支える支柱一四本が存するほか、本件建物内の全住宅の汚水等を処理するための汚水処理施設、電話地下ケーブルピツト、電気地中ケーブルダクトがそれぞれ埋め込まれており、これらの設備はいずれも区分所有者全員の汚水処理、電話装置、電気配給に欠くことのできない重要な設備であることはいうまでもなく、しかも、これらの設備については点検、修理を恒常的に行う必要があり、そのためには本件一階駐車場に自由に立ち入る必要があるから、右駐車場全体が区分所有者全員の共用に供されるべき建物部分つまり法定共用部分に該当し、「利用上の独立性」も認められないというべきである。

(二) 二〇一号室は、隔壁、扉、天井、床によつて他の部分と物理的に完全に遮断されているから、「構造上の独立性」を充足することは問題ないが、別紙図面(二)黒斜線部分の壁面には本件建物全体の火災報知機、エレベーターの緊急連絡装置が固定的に設置されており、これらの装置は、区分所有者たる本件マンシヨン住民の生命・身体・財産の危険防止のため必要不可欠の装置であつて、区分所有者全員のために使用されるべきものであり、その操作・点検のためこれと不可分の一体をなしている二〇一号室全体を使用する必要があるのである。したがつて、二〇一号室は、構造上区分されてはいるものの、独立して住居等として使用することはできず、区分所有法三条にいう「区分所有者全員の共用に供されるべき建物部分」に該当し、法定共用部分であることが明らかである。

(三) 本件二階駐車場は、人工台地上に設けられたもので、天井及びこれに接着した隔壁は全くなく、東側は全長九メートルのうち五・五メートルの部分に若干のコンクリート台とその上に鉄柵が設けられているが、その余の部分は出入口としての扉もなく、スロープによつて直接前面道路に通じ、北側は若干のコンクリート台、ガラス塀があるが、本件建物の本体である住宅部分のバルコニーに接し、その余の南側、西側はコンクリート台及び鉄柵が設けられているのみで、しかも右建物部分は本件建物の分譲に際しては被分譲者の専用駐車場であると明示され、その後も各区分所有者の専用駐車場として使用されていたものであるから、「構造上の独立性」を欠き、かつ、独立した経済的効用をも有しないことは明らかである。

(四) 本件屋上は、外壁とともに本件建物の基本的構成部分であるから、「構造上の独立性」を欠くばかりでなく、塔屋内には区分所有者全員の共用に供されるべきエレベーター機械室、ルーフペンダー、給水装置機械室が設置されており、これらについても恒常的に点検、修理、整備を行う必要があり、そのためには当然屋上の使用を必要とする。したがつて、本件屋上は全体として、区分所有者全員の共用に供されるべき建物部分として、「利用上の独立性」がなく、区分所有法三条にいう「法定共用部分」にあたるというべきである。

4  ところが、本件一階駐車場、二階駐車場及び二〇一号室については、本件建物を建築してその所有者となつた補助参加人から被告東名レンタカー(同被告の当初の商号は「日進交通株式会社」であつたが、その後前商号「とんぼタクシー株式会社」を経て現商号となつた。以下、右商号変更の経過を省略して、すべて「被告東名レンタカー」という。)へ、同被告から被告上信電鉄へ順次所有権を譲渡する契約がなされ、本件一階駐車場については、東京法務局渋谷出張所昭和四六年一月二一日受付第二二三八号をもつて被告東名レンタカーのための所有権保存登記が、次いで同出張所同年一〇月一四日受付第四二一九五号をもつて被告上信電鉄のための所有権転登記が、また、二〇一号室については、同出張所同年一月二一日受付第二二三九号をもつて被告東名レンタカーのための所有権保存登記が、次いで同出張所同年一〇月一四日受付第四二一九五号をもつて被告上信電鉄のための所有権移転登記がそれぞれなされている。

5(一)  そして、被告日進レンタカーは、本件一階駐車場を本件建物が完成した昭和四五年一一月二〇日から自己所有の自動車等を駐車させるなどして占有している。

(二)(1)  また、同被告は、昭和四五年ころ本件建物の七一戸の区分所有者と順次「ニユー目黒フラワーマンシヨン管理契約」を締結し、区分所有法所定の管理者が選任されるまで本件建物の維持管理にあたることになり、右区分所有者からその管理の対価の一部として本件屋上及び本件二階駐車場の使用権を与えられてこれを占有し、また、右管理のために二〇一号室を占有していた。

(2) しかしその後、後記のとおり、原告が昭和四七年五月二五日の区分所有者集会の決議により本件建物の管理者に選任されたので、それと同時に、約旨に基づき被告日進レンタカーは右区分所有者の受任者としての管理人たる地位を失つた。

(3) また同被告は、約旨に反して本件建物の維持管理をなんら行わず、かつ管理費用を着服横領するなど、右管理契約上の債務を履行しなかつたので、右七一戸の区分所有者は、昭和四七年六月一九日付をもつて、同被告に対し債務不履行を理由に右管理契約を解除する旨の意思表示をなしたが、同被告は、同月二六日異議なくこれを承認し、ここに右管理人たる地位を失つた。

(4) しかるに、同被告は、右管理人の地位を失つた昭和四七年六月二六日以降も、本件二階駐車場を自己所有のマイクロバス三台及び普通乗用車一台を駐車させ、更に本件建物の区分所有者の普通乗用自動車八台を、駐車料金を徴収して駐車させて、これを占有使用し、また、本件屋上に「日進レンタカー」と表示したスポツト付看板を設置して、本件屋上を占有し、更に二〇一号室についてもその占有を継続している。

(5) なお、債権者原告、債務者被告日進レンタカー間の当庁昭和四七年(ヨ)第五〇三五号不動産仮処分申請事件において、昭和四七年九月二一日、(イ)二〇一号室については、同年一〇月六日以降別紙図面(二)の青斜線部分を原告が、同赤斜線部分を被告日進レンタカーが、その余の部分を両者が、それぞれ占有使用すること、(ロ)本件二階駐車場については、同被告はマイクロバス三台及び普通乗用自動車一台を別紙図面(三)の青斜線部分に駐車させて占有すること、(ハ)区分所有者から徴収する駐車料金月額合計金九万七〇〇〇円のうち、金三万七〇〇〇円を原告が受領すること、(ニ)本和解は暫定的なもので、第一審の本案判決言渡と同時に効力を失い、本件二階駐車場が法定共用部分であるとして同被告の占有権原が否定されたときは、同被告は、それまでに受領した駐車料金を原告に返還する旨の和解が成立した。

(三)  被告上信電鉄は、本件一階駐車場、二階駐車場及び二〇一号室を被告日進レンタカーに賃貸してこれを間接占有し、本件屋上についても、補助参加人が被告東名レンタカーのために設定した無償使用権を同被告から譲り受けたとして、本件屋上を被告日進レンタカーに賃貸し、これを間接占有している。

6(一)  しかしながら、前記のとおり、本件一階駐車場、二階駐車場及び二〇一号室は、本来いずれも本件建物の法定共用部分であつて、独立して所有権(区分所有権)の客体となり得ないものであるから、補助参加人が本件建物全体の所有権を有していた当時においても、同人が右の各建物部分につき独立の所有権を有していたわけではなく、したがつて、補助参加人と被告東名レンタカー間及び同被告と被告上信電鉄間においてなされた前記4の所有権譲渡契約によつても、被告東名レンタカー及びその後者である被告上信電鉄が右各部分の所有権を取得するに由ないものというべきであり、ひいては被告日進レンタカーが賃借権を取得することも不能であるといわざるを得ない。

また右契約は、補助参加人と被告東名レンタカーにおいて、本件建物がいわゆる分譲マンシヨンとして建設されたもので、本件建物を各区分所有者に分譲したときには、二〇一号室、一階駐車場、二階駐車場が法律上当然に共用部分として各区分所有者の共有となることを知りながら、区分所有法三条一項を潜脱する目的をもつて、締結したものであるから、動機において不法であり、右契約は無効というべきである。

(二)  また、前記のとおり、本件屋上は本件建物の法定共用部分であるところ、補助参加人が被告東名レンタカーに無償使用権を与えた当時、補助参加人は本件建物全体の各専有部分について区分所有権を有しており、したがつて法定共用部分についてもすべての持分を有していたから、右使用権設定は有効であるというほかはない。しかし、その後補助参加人は前記のとおり各専有部分を各区分所有者に分譲し、所有権移転登記を了したから、被告東名レンタカー及び同被告から右使用権を譲り受けた被告上信電鉄は、右使用権をもつて各区分所有者に対抗することができず、したがつて、同被告から賃借権の設定を受けた被告日進レンタカーも本件屋上について占有権者を有しないというべきである。

7  被告日進レンタカー及び同上信電鉄は、前記5のとおり、本件一階駐車場及び二〇一号室を区分所有者と同じ態様において占有使用しており、それに伴い本件建物内の廊下、階段、エレベーター等の共用部分を使用し、電気、ガス、下水処理施設等を利用することにより法律上の原因なくして利得を得ており、他方各区分所有者らは被告らの利用によつて出費を余儀なくされ、損失を被つている。

したがつて、被告日進レンタカー及び同上信電鉄は、連帯して、各区分所有者に対し不当利得返還義務を負つており、右返還義務の範囲は、管理による利益・共用施設利用による利益の対価として各区分所有者が支払う管理費相当額とするのが相当であるところ、その額は、本件一階駐車場部分が一か月金五万二〇〇〇円、二〇一号室部分が一か月金二〇〇〇円である。

8  被告日進レンタカーは、本件建物の各区分所有者が本件建物に入居するに際して、右各区分所有者との間に同被告を本件建物の管理人と定める旨の管理契約を締結させ、遅くとも昭和四五年一二月一日から昭和四七年六月三〇日まで一か月金二九万二〇〇〇円の割合による管理費を徴収しており、その総額は金五五四万八〇〇〇円になる。

しかしながら同被告が本件建物の共用部分の管理のために支出した金額は金二五二万円にすぎないから、右管理費のうち金三〇二万八〇〇〇円が残存している。

同被告は、前記のとおり昭和四七年六月二六日をもつて本件建物の管理行為をやめ、かつ、各区分所有者との右管理契約も解除されて委任事務が終了したのであるから、同被告は右残金三〇二万八〇〇〇円を各区分所有者に返還すべき義務があるところ、右金員は本件建物の共用部分の管理のための費用であるから新らたに管理者に選任された原告が返還請求できるものである。

よつて原告は

(一) 被告上信電鉄に対し、本件建物のうち本件一階駐車場及び二〇一号室につきなされた東京法務局渋谷出張所昭和四六年一〇月一四日受付第四二一九五号所有権移転登記の抹消登記手続を、

(二) 被告東名レンタカーに対し、本件建物のうち本件一階駐車場につきなされた同出張所昭和四六年一月二一日受付第二二三八号所有権保存登記及び二〇一号室につきなされた同出張所同日受付第二二三九号所有権保存登記の各抹消登記手続を、

(三) 被告上信電鉄及び同日進レンタカーに対し、

(1)  本件一階駐車場の明渡と昭和四五年一一月二〇日以降右明渡ずみに至るまで一か月金三〇万円の割合による賃料相当損害金及び不当利得金として一か月金五万二〇〇〇円の割合による金員の連帯支払、

(2)  二〇一号室のうち別紙図面(二)の赤斜線部分の明渡と昭和四七年六月二七日以降右明渡ずみに至るまで一か月金二万円の割合による賃料相当損害金及び不当利得金として一か月金二〇〇〇円の割合による金員の連帯支払、

(3)  本件二階駐車場の明渡と昭和四七年六月二七日以降右明渡ずみに至るまで一か月金五万五〇〇〇円の割合による賃料相当損害金の連帯支払、

(4)  別紙物件目録(五)記載の物件を撤去して本件屋上部分を明渡すことと昭和四七年六月二七日以降右明渡ずみに至るまで一か月金一五万円の割合による賃料相当損害金の連帯支払を、

(四) 被告日進レンタカーに対し、委任事務終了に伴う受取物引渡義務の履行として、金三〇二万八〇〇〇円及びこれに対する昭和四七年六月二七日以降完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払並びに前記仮処分事件における原告と被告日進レンタカー間に成立した暫定的和解の失効に基づき、被告日進レンタカーが昭和四七年九月一日以降本判決言渡の日まで一カ月金三万七〇〇〇円の割合によつて取得した不当利得金の返還としての金員支払を

それぞれ求める。

二  当事者適格について

原告は、以下の理由により、本件訴訟について原告適格を有する。

1  法定訴訟担当(法定訴訟信託)

(一) 本件建物の区分所有権の対象となる七一戸の所有者である別紙区分所有者目録記載の合計七〇名(一戸を共有しているものは全員で一戸とする。以下同じ。)中その四分の三以上にあたる六九名は、昭和四七年五月二五日その合意に基づき、本件建物の維持管理を目的として、権利能力なき社団である前記「ニユー目黒フラワーマンシヨン管理組合」を設立し、原告は、同日、右区分所有者中六一名の出席した区分所有者集会において、その決議により、同管理組合の会長に選任され、同時に、同集会の決議により承認可決された管理組合規約五条の規定により、区分所有法一七条に定める「管理者」となつた。

なお、前記二〇一号室及び本件一階駐車場が区分所有権の対象となる専有部分ではなく、区分所有権者全員の共有に属すべき法定共用部分であることは前述したとおりであるから、右各建物部分の区分所有権を取得したと主張する被告上信電鉄は本件建物の区分所有者ではなく、したがつて同被告に対し右集会の招集通知がなされないのは当然であり、右選任決議が同被告を除外してなされたものであつても、同決議に何らの無効ないし取消事由はない。

その後、同管理組合の管理者は、毎年五月一日から翌年四月三〇日までの一年を任期として、昭和四八年度は河田義宏、昭和四九年度は安部智恵子、昭和五〇年度は山本絢子がそれぞれ選任されたが、昭和五一年度以降は再び原告が管理者に選任され、現在もその地位にある。

(二) ところで、区分所有法一八条一項には「管理者は、共用部分を保存し、第一二条一項若しくは第一三条一項の規定による共用者の合意若しくは決定又は集会の決議を実行し、及び規約で定めた行為をする権利を有し、義務を負う。」と、同条二項には「管理者は、その職務に関し、区分所有者を代理する。」とそれぞれ規定されており、右一八条二項の代理権の内容としては、裁判外の行為はもちろん、裁判上の行為をも含むものと解するのが相当である。けだし、区分所有法一八条二項は、商法三八条、同法七八条、同法八一一条等のように「裁判上の行為」と「裁判外の行為」とを明確に区別する立法形式をとらず、単に「その職務に関し、区分所有者を代理する」というのみで、特に「裁判上の行為」についていうところがないけれども、民法一〇一五条の遺言執行者の場合単に「代理する」と規定され、あるいは同法四二三条の債権者代位の場合「権利を行使する」と規定されているが、それらの場合にも、自己の名をもつて裁判上の行為をなすことが認められているのであつて、区分所有法一八条二項についてもこれらの場合と特に区別する理由はなく、したがつて形式的に見る限り、むしろ区分所有法の管理者にはその名をもつて裁判上の行為をなす権限があるものと解すべきである。また、実質的に考えても、管理者に裁判上の行為をなす権限がないとしたら、管理者の職務に関し訴訟の必要が生じた場合には、必ず区分所有者全員の共同訴訟をなす必要があることになり(もつとも、選定当事者の方法によることはできるが)、管理者がその職務を行ううえで不便このうえもないというほかなく、さきの遺言執行者や債権者代位の場合と同様区分所有法の管理者に裁判上の行為をなす権限を認めて然るべきである。

(三) 右のとおり、区分所有法一七条の「管理者」は、その職務上、区分所有権者全員のため、自己の名をもつて裁判外の行為のみならず裁判上の行為をもなす権限を有するものであり、原告は、本件建物の管理者として本件訴訟を提起したものであるから、原告適格を有することは明らかである。

2  任意的訴訟担当(任意的訴訟信託)

仮に、右1の主張が認められないとしても、原告は、いわゆる任意的訴訟担当として、本件訴訟につき原告適格を有する。

(一) 法が明らかに許容する任意的訴訟担当

(1)  任意的訴訟担当とは、本来の利益帰属主体が、その意思に基づき、その権利についての訴訟追行権を第三者に授与することをいうが、これには民事訴訟法その他の法律によつて法が明らかに許容する場合と、それ以外の場合があり、前者の例としては、民事訴訟法四七条の選定当事者の制度のほか、手形法一八条の取立委任裏書の場合がある。そして、区分所有法の管理者も、取立委任裏書の場合と同様に、法が明らかに許容する任意的訴訟担当と考えられる。すなわち、手形法上の取立委任裏書の被裏書人は、「手形より生ずる一切の権利を行使することを得」るものとされており(手形法一八条)、裁判外で手形上の権利を行使することは勿論、裁判上も自己の名をもつて手形上の権利を行使することができるものと解されている。この関係は、裏書という権利者の行為により訴訟追行権が被裏書人に授権され、これが手形法一八条一項によつて許容される関係とみることができるが、右と同様のことが管理者について区分所有法によつて認められている。すなわち区分所有者集会においてある特定の民事訴訟を提起することを決議した場合には、管理者は、区分所有法一八条一、二項により、その職務として当該民事訴訟を提起する権利を有し、義務を負担することになるのである。

(2)  しかして、昭和四七年九月二五日の本件建物の区分所有者集会において、本件民事訴訟を提起することが議決されたので、原告は訴訟提起の権利と義務を負うことになつたものである。

(3)  なお、区分所有法の管理者の場合、取立委任裏書の被裏書人の場合と異なり、権利者が多数であることが特色であり、本件の場合必ずしも区分所有者全員が訴訟の提起に賛成しているわけではないが、前記管理組合規約二九条一、二項によれば、会長(すなわち管理者)は、総会及び役員会の議決により、自己の名をもつて組合の業務を行うこととなつており、ここにいう「業務」には訴訟上の業務をも含むものと解されるから、各区分所有者は、管理組合規約に同意した時に、将来組合財産に関して訴訟をすることを含めて何らかの決議がなされた場合には、決議の実行について管理者に委任する旨あらかじめ授権したものとみるべきであり、また、管理者は、区分所有法一八条二項に基づき、その職務として決議の実行につき全ての区分所有者を代理する権限を有しており、各区分所有者は、決議に賛成したと否とを問わず、決議の実行については管理者に委任したものとして法律上取扱われるものというべきであるから、いずれにしても、区分所有者集会において訴訟提起の決議が有効に成立した以上、管理者は、法律上当然に任意的訴訟担当者となるものというべきである。

(二) 法が明らかに許容する以外の任意的訴訟担当

仮に、右(一)の主張が認められないとしても、本件については、法が明らかに許容する以外の任意的訴訟担当として、原告の訴訟担当が許容されるべきである。

すなわち、任意的訴訟担当は、民事訴訟法が訴訟代理人を原則として弁護士に限り、また、信託法一一条が訴訟行為をなさしめることを主たる目的とする信託を禁止している趣旨に照らして、一般に無制限にこれを許容することはできないが、当該訴訟信託がこのような制限を回避、潜脱するおそれがなく、これを認めるべき合理的必要性があれば、これを許容すべきであるところ、区分所有法の管理者は実体上の管理権、対外的業務執行権を与えられているのであるから、これに訴訟追行権を与えたとしても、右の弁護士代理の原則を回避し、又は信託法一一条の制限を潜脱するものとはいえず、かつ、特段の事情がない限り合理的必要を欠くものともいえないから、これを許容して妨げがないというべきである。

(被告上信電鉄・同東名レンタカー)

一  本案前の申立の理由

本件訴訟における原告は、権利能力なき社団「ニユー目黒フラワーマンシヨン管理組合」ではなく、閔玉圭個人であり、また同人は他の区分所有者らの選定当事者でもないことは明らかであるから、同人は本件訴訟につき当事者適格を有せず、したがつて本件訴は不適法として却下されるべきである。

1  原告は、第一に法定訴訟担当(法定訴訟信託)として、第二に法が明らかに許容する任意訴訟担当(任意的訴訟信託)として、第三に通常の任意的訴訟担当として、当事者適格を有する旨主張するが、右主張はいずれも誤りである。

(一) 法定訴訟担当の主張について

民事訴訟法が弁護士以外の者の訴訟代理の禁止を原則とし、信託法一一条が訴訟を目的とする信託を禁止していること、また、訴訟信託の一種である選定当事者の場合にも一定の厳格な要件を必要としていることを考えれば、法定訴訟担当が認められるのは、法律が明文で認めている場合と、特にその職務上訴訟上の行為をなすことを認める必要性のある場合に限られると解すべきである。

原告が法定訴訟担当の例としてあげる民法一〇一五条の遺言執行者の場合は、たしかに明文上は相続人の代理人とされているが、実質的当事者ともいうべき遺言者が死亡し、また相続人の処分権が喪失する(同法一〇一三条)ため、遺言執行者に訴訟上及び訴訟外の行為をなすことを認める必要があるところから、相続財産に関する訴訟につき当事者適格が認められるのである。しかも、遺言執行者は、遺言者の指定又は家庭裁判所の選任によるものとされ、その選任方法が厳格に定められている。また、債権者代位の場合も、民法四二三条一項、二項を通じてみれば、当然に訴訟上の行為をも含むことが明白である。これに対し区分所有法上の管理者は、集会で区分所有者の過半数の決議によつて選任され(区分所有法一七条一項、三一条一項)、区分所有者自身、管理者を選任した後も何ら訴訟上の権利の行使を制限されることはない。

これらのことから考えると、区分所有法に基づく管理者には、遺言執行者や債権者代位権を行使する債権者と同様に訴訟追行権を認める必要性はなく、またこれを認めることはむしろ不当というべきであり、区分所有法一八条二項の代理権の範囲には訴訟上の代理権を含まないと解すべきであるから、原告の主張するような法定訴訟担当は成立しないというべきである。

(二) 任意的訴訟担当の主張について

被告も選定当事者の方法による以外には任意的訴訟担当が一切許されないと考えるものではないが、本件のように、「ニユー目黒フラワーマンシヨン管理組合」がいわゆる権利能力なき社団としての実質を有し、代表者もしくは管理者の定めがある場合には、民事訴訟法四六条によつて管理組合自体が当事者能力を有するばかりでなく、選定当事者の方法や組合員の共同訴訟によることもでき、また、居住者たる共有者各自が区分所有法一三条一項但書の保存行為としてそれぞれ訴を提起できるのであるから、あえて任意的訴訟担当を許容する合理的必要性に乏しく、このような場合には信託法一一条の趣旨からみても任意的訴訟担当は許されないというべきである。

原告は、区分所有法上の管理者は、手形法上の取立委任裏書の被裏書人と同様に訴訟担当が許されると主張する。しかし、そもそも法形式上からみても、取立委任裏書の場合には「手形より生ずる一切の権利を行使することを得」と規定されていて(手形法一八条一項)、裁判上の権利行使が許されることが明らかであるばかりでなく、実質的にみても、取立委任の趣旨は手形面上に明確に記載され、その委任者は区分所有者と異なり一人であり、また、委任の趣旨も一義的に明確であるうえ、商取引における手形の特殊性に鑑みて、法が任意的訴訟信託を許容しているものと考えられる。これに対し、区分所有法の管理者については、その権限に裁判上の権利行使を含むか否かが法の規定上何ら明確ではないし、実質的にみても、区分所有者集会における訴提起の決議は区分所有者の過半数によつて成立するのであるから、半数に近い者が反対しても決議は成立し、その場合右の決議にあたり反対した者も管理者に訴訟信託したことになるという不合理な結果になり、このような主張が誤まりであることは明白である。

また、原告は、管理組合規約に組合員が同意したときに、同規約二九条一、二項により訴訟信託があつたものとみるべきであると主張するが、右にいう組合規約とは、区分所有者の過半数以上の同意があれば設定されるものであつて、「区分所有者全員の書面による合意」(区分所有法二四条一項)によつて設定される区分所有法上の規約でないことは明らかである。したがつて、原告の主張を前提とすると、過半数の区分所有者が規約の設定に同意すれば、他に半数近くの区分所有者がその規約設定に反対した場合でも、反対した半数近くの区分所有者も会長(管理者)に訴訟信託したという不合理な結果になる。また、仮に組合規約が区分所有者全員の承認によつて成立しているとしても、のちに述べるように、組合規約二九条は管理者に訴訟上の行為を委任する旨を定めておらず、しかも、右組合規約成立時にはまだ本件訴訟提起は話題にすらなつていなかつたのであるから、結論は異ならない。のみならず、組合規約二九条二項によれば、会長(管理者)は、総会及び役員会の議決により、自己の名をもつて組合の業務を行うことになつているが、総会の決議は議決権の過半数、役員会の決議は出席役員の三分の二で足りるのであり、右のような議決方法等からすれば、同条項は、管理者が組合の通常の管理業務を自己の名で執行しうることを定めた規定であつて、訴訟の提起の如く各区分所有者に重大な影響を及ぼす特異な事例を予想した規定ではないと解すべきである。

してみると、いずれにしても、各区分所有者が組合規約に同意したときに、組合規約の定めるところにより、管理者に訴訟追行権を委ねたとする原告の主張は失当である。

2  仮に、原告の法定訴訟担当又は任意的訴訟担当の主張が認められ、区分所有法上の管理者個人の名で訴訟を提起することが認められるとしても、本件原告閔玉圭が管理者に選任された手続には違法があり、同人は区分所有法上の適法な管理者として資格を有しない。

すなわち、原告は、昭和四七年五月二五日に開かれた区分所有者集会において、原告が管理組合の会長に選任され、同集会で承認可決された管理組合規約五条の規定により、区分所有法一七条の管理者に選任されたと主張するのであるが、本件建物の区分所有者の一人である被告上信電鉄に対しては、右集会の招集通知が一切なされておらず、したがつて、右集会での管理組合規約の承認決議及び会長選任決議は区分所有法二八条、二九条及び二四条一項に違反し無効である。

したがつて、原告は適法な管理者としての資格を有しないというほかはなく、原告が右資格を有することを前提として提起した本件訴は、原告適格を有しない者が提起した不適法なものとして却下されるべきである。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因事実1のうち、本件建物における区分所有権の対象となる戸数が七一戸であることは否認、原告が主張の管理組合の会長であることは不知、原告が区分所有法一七条に定める管理者で、本訴につき当事者適格を有することは争う。その余の事実は認める。

2  同2の事実は認める。

3(一)  同3冒頭の事実のうち、本件一階駐車場、二〇一号室、本件二階駐車場及び本件屋上がいずれも本件建物の一部であることは認めるが、その余の主張は争う。

(二)  同3(一)の事実のうち、本件一階駐車場の一部に本件建物を支える支柱の一部が存すること及び汚水処理施設が埋められていることは認めるが、その余の事実は否認する。

(三)  同3(二)の事実のうち、原告主張の個所に火災報知機及びエレベーターの緊急電話装置があることは認めるが、その余の事実は否認し、二〇一号室が独立して住居等として使用することができないとの主張は争う。

(四)  同3(三)のうち、本件二階駐車場が出入口に扉がなく、スロープによつて道路に直結し、屋根がないことは認めるが、その余の事実は否認する。

(五)  同3(四)のうち、主張の個所に主張の設備のあることは認めるが、その余の主張は争う。

4  同4の事実は認める。

5  同5(一)及び(二)(1) ないし(5) の事実は不知、同(三)の事実は認める。

6  同6(一)、(二)は争う。

7  同7の主張は争う。

8  同8の事実は不知。

三  被告上信電鉄の主張

本件一階駐車場及び二〇一号室は、本件建物建築の経緯・目的及び右各部分の構造等からして、独立した専有部分として区分所有法一条の区分所有の目的となる建物であつて、被告上信電鉄が区分所有権を有しており、また、本件二階駐車場は、本件一階駐車場の一部であつて、同被告の所有である。

右主張の詳細は、乙事件における原告上信電鉄の主張のとおりである。

(被告日進レンタカー)

一  本案前の申立の理由

被告上信電鉄、同東名レンタカーの主張を援用する。

二  請求の原因に対する認否及び主張

1  請求の原因事実1のうち本件建物における区分所有権の対象となる建物の戸数が七一戸であることは否認し、その余の事実は争う。

2  同2の事実は認める。

3  同3の主張は争う。

本件一、二階駐車場及び二〇一号室は、被告上信電鉄の専有部分であり、本件屋上の使用権も被告上信電鉄が有しているものであつて、被告日進レンタカーは、これらを一括して賃借使用しているものである。以上に関しては、被告上信電鉄の主張のとおりであるから、これを援用する。

4  同4の事実は認める。

5(一)  同5(一)の事実は認める。

(二)  同5(一)(1) のうち、被告日進レンタカーが昭和四五年ころ本件建物の区分所有者と管理契約を締結したこと、本件二階駐車場、二〇一号室及び本件屋上をそれぞれ占有していることは認めるが、その余の事実は否認する。

被告日進レンタカーは、昭和四五年一一月五日被告東名レンタカー(当時の商号「とんぼタクシー株式会社」)よりその所有する本件土地、本件一、二階駐車場、二〇一号室及び同会社が無償使用権を有する本件屋上を一括して賃借し、その後同会社が、昭和四六年九月二七日本件土地、本件一、二階駐車場及び二〇一号室の所有権ならびに本件屋上の無償使用権を被告上信電鉄に売り渡したので、同年一〇月一日同被告会社からあらためて右各物件を一括賃借したものである。

なお、原告らマンシヨン居住者と被告日進レンタカーとの間の管理契約において、同被告を本件二階駐車場及び本件屋上の使用権を有することを原告らマンシヨン居住者において認める旨の条項が存在するが、右は原告らが右建物部分につき何らの権利を有しないことを念のため管理契約において明らかにしたにすぎず、右各物件の使用権が本件建物の管理の対価として原告ら区分所有者から被告日進レンタカーに与えられたとする原告の主張は全く理由がない。

(三)  同5(二)(2) の事実は否認する。

(四)  同5(二)(3) のうち、被告日進レンタカーに対し、昭和四七年六月一九日付で原告主張のような通知がなされたこと、同被告が、同月二六日付をもつて本件建物の管理業務を辞任したことは認めるが、その余の事実は否認する。

被告日進レンタカーは、原告ら本件建物居住者との間で個別的に締結した管理契約に基づいて、管理業務を遂行してきたが、昭和四七年五月ころ、原告ら居住者が、同被告事務所に毎日のように来て、管理契約で定めた月額四、〇〇〇円の管理費用の使途について種々不当な主張を繰り返すので、管理業務のみならず他の業務にも支障を来たすこと及び採算上引き合わないことを理由に、同年六月二六日付をもつて、同月三〇日限り管理業務を辞任することにしたものであつて、原告主張のように、原告らの債務不履行を理由とする契約解除を異議なく承認したものではない。

(五)  同5(二)(4) 、(5) の事実は認める。

右仮処分事件における和解は、占有の本権及び占有権の有無を確定したものではなく、原告主張のとおり、本訴第一審判決があるまでの暫定措置を定めたものであるから、法的には被告日進レンタカーが二〇一号室全部を占有しているものである。

(六)  同5(三)の事実は認める。

6  同6(一)、(二)は争う。

7  同7の事実は否認する。

本件建物は、建築の当初からいわゆる下駄ばき住宅として建築されたものであり、仮に原告主張の管理組合の設立が有効であるとしても、右組合は住宅部分の所有者のみを会員としているものであるから、本件建物のうち住宅部分につき管理権を有するにすぎず、本件建物のうち非住宅部分である本件一、二階駐車場、二〇一号室及び本件屋上については管理権を有しない。また、現実にも右各建物部分については被告日進レンタカーが独自に管理しているものであつて、原告が管理している事実はない。

8  同8のうち、被告日進レンタカーが本件建物の各区分所有者との間で管理契約を締結し、原告主張の期間中管理費を徴収したこと、被告日進レンタカーが、昭和四七年六月、本件建物の管理業務を辞任したことは認めるが、その余の事実は否認する。

右期間中に徴収した管理費は月額金二八万八〇〇〇円、総額金四八九万六〇〇〇円である。

被告日進レンタカーが原告らマンシヨン居住者から徴収した管理費は、全部管理のために使用してきたものであり、残金はない。

仮に被告日進レンタカーが徴収した右管理費のうち一部管理のために使用されなかつた部分があるとしても、それは被告日進レンタカーと原告らマンシヨン居住者との間で締結された管理契約による有償準委任の報酬であるから、これを原告に返還する義務はない。

第三乙事件についての当事者の主張

一  請求の原因

1  被告は、本件建物の居住部分の区分所有者中六九名の合意に基づき、本件建物のうち居住用共用部分の維持管理を目的として設立された権利能力なき社団である。

2  本件建物の敷地である本件土地は、もと甲事件被告東名レンタカー(当時の商号は「日進交通株式会社」)が所有し、同会社がその営業の本拠としてタクシーの駐車場等に使用していたが、同会社は、右土地の有効利用を図るべく、駐車場として使用できる面積が約三〇〇坪確保できることを条件に、右土地を分譲マンシヨン建築用地として提供することを計画し、甲事件補助参加人長谷部産業と交渉の結果、一階部分と二階の人工台地に希望の面積の駐車場が確保されることが確認されたので、昭和四四年九月一八日、東名レンタカーと長谷部産業との間で、(1) 東名レンタカーは本件土地を長谷部産業に賃貸し、長谷部産業は、本件土地上に一、二階を駐車場とし、それ以外の部分を居住用マンシヨンとする建物を建築して分譲する、(2) 長谷部産業は、東名レンタカーに対し、借地権設定の対価として、(イ)現金一億円、(ロ)一階駐車場(七九六・二五平方メートル)、(ハ)二階駐車場(二三三・九九平方メートル)、(ニ)完成後のマンシヨンの管理業務を行う権利、(ホ)管理人室及び(ヘ)屋上の無償使用権を提供することを主な合意内容とする「土地借地権譲渡契約」が締結された。

3  右契約に基づき、長谷部産業は本件建物の建設に着工し、昭和四五年一〇月末ころ本件建物が完成したので、東名レンタカーに対し、本件一階駐車場及び本件二階駐車場の所有権を譲渡し、本件屋上の無償使用権を設定した。

また、東名レンタカーは、昭和四五年一〇月末ころ、本件建物のうち別紙物件目録(八)記載の居室二〇一号室(なお、これは甲事件において二〇一号室と称するものと同一の居室であるが、ここでは、右物件目録記載のとおり、バルコニー部分をも含んでおり、以下、これを「二〇一号室」という。)を長谷部産業から金三〇〇万円で買い受け、その所有権を取得した。(なお、これは、長谷部産業の設計ミスにより、当初一階部分に建築する予定であつた管理人室が建築できなくなり、一階駐車場も当初約束した面積を確保することができなくなつたところから、その代償の意味も含めて、第三者に六五〇万円で分譲する予定にしていた二〇一号室を三〇〇万円で東名レンタカーが買い取ることにしたものである。)

そして東名レンタカーは、昭和四六年一月二一日、本件一階駐車場及び二〇一号室についてそれぞれ所有権保存登記を了した。

4  その後原告は、同年九月二七日、東名レンタカーから本件土地、本件一、二階駐車場及び二〇一号室の各所有権並びに本件屋上の無償使用権を買い受け、同年一〇月一四日、本件土地、本件一階駐車場及び二〇一号室についてそれぞれ所有権移転登記を経由した。

5  右にのべたような経緯からして、本件一、二階駐車場及び二〇一号室は、いずれも区分所有法一条の区分所有の目的となる建物であり、原告が区分所有権を有していることが明らかであるが、次に述べるような右各部分の構造等からしても、これらが区分所有権の目的となり得る建物部分であることは明らかである。

(一) 一階駐車場について

本件一階駐車場は、その周囲の三方がコンクリート壁と塀で仕切られており、入口にもシヤツターが取付けられていて、本件建物の他の部分と完全に遮断されている。もつとも、西側及び南側部分の一部がコンクリート壁などによつて遮断されていないけれども、西側及び南側は、基本的には本件建物全体を支える支柱及び人工台地を支える支柱の存在によつて、他の建物部分及び外界との区分点が明確になつているうえ、そもそも本件一階駐車場は、その名のとおり駐車場としてつくられたものであり、その利用目的との関係でいえば、居住用建物のように周囲が完全に遮断されていることを必要としないのであるから、右のような支柱及び部分的なコンクリート壁の存在によつて、他の部分及び外界と明確に区分されている以上、物権的支配の明確性の要請をも十分満たしているものというべきである。そして、マンシヨン居住者がその所有する部屋に出入りするに際して一階駐車場部分を通過する必要は全くないし、通過もできないような構造となつている。このような構造の一階駐車場が区分所有法一条にいう「構造上区分された部分」にあたることは明らかである。

このことは、一階駐車場の一部に建物全体を支える支柱や汚水処理施設が埋めこまれていても何ら変わるものではない。けだし、土地に接した一階部分に建物全体の支柱があること、地下に汚水処理施設が埋めこまれていることは、高層建築の場合当然のことであり、こうした施設の点検、修理あるいはその利用のために、その設置場所にマンシヨン居住者や工事人らがしばしば出入りするのであればともかく、本件の場合、右施設の修理、点検等のために本件一階駐車場に出入りするのは、せいぜい年間十数回とわずかであるから、これによつて本件一階駐車場の利用上の独立性が害されるとは到底いえないからである。

さらに、被告の構成員である本件建物の居住者の多くが、一階駐車場は東名レンタカー(その後は原告)の専有部分であるとの認識を前提に本件マンシヨンを購入しているばかりでなく、本訴提起前の甲事件被告、丙事件原告日進レンタカーに対する仮処分申請においても一階駐車場を何ら問題としなかつたし、原告に対しても一階駐車場の区分所有者としての管理費の請求をしているのであつて、これらの事実は、本件一階駐車場が原告の専有部分であることを端的に裏付けるものといわなければならない。

(二) 二階駐車場について

本件二階駐車場は、もともと本件一階駐車場では東名レンタカーの必要とした三〇〇坪の駐車場が確保できないため設けたものであつて、三方を高さ数十センチメートルのコンクリート台とその上に設置された鉄柵(一部はガラス塀)で仕切られており、仕切られていないのは自動車の出入口だけであるが、この出入口は、コンクリートで造られたスロープによつて本件建物東側の道路に通じている。このように、本件二階駐車場は、本件マンシヨンの居住部分とは全く関係なく造られていて、マンシヨン居住者が二階駐車場に入るには、一旦マンシヨンを出てから、右スロープを利用するほかなく、二階駐車場から直接居住部分に出入りすることはできないようになつているばかりでなく、この駐車場は、一階駐車場部分の屋根に当たる部分にのみ存在するのである。

以上の点からすれば、本件二階駐車場は、原告が本件一階駐車場について有する区分所有権に当然含まれる原告の専有部分というべきものであつて、本件建物の法定共用部分にはあたらないというべきである。

(三) 二〇一号室について

二〇一号室は、東名レンタカーが長谷部産業からこれを買い取るに至つた前述のような経緯から明らかなように、もともと一般にいわれる「管理人室」として造られたものではなく、第三者に分譲するために居住用として造られたもので、入口には受付用のカウンターがなく、通常の扉があるだけで、内部構造としても浴室、便所、台所、和室、事務室などがあつて、他の居住部分と異なるものではなく、他の居住部分と異なる点は、玄関入口北側の壁に火災報知機とエレベーター緊急連絡装置が設けられていることだけであるが、これも、前述のように二〇一号室の所有権を取得した東名レンタカーが本件マンシヨンの管理業務を行う権利を長谷部産業から譲り受け、日進レンタカーが東名レンタカーの依頼により本件建物の管理を引き受けたため、たまたま二〇一号室の玄関部分に設置されたにすぎない。しかも、右の各設備は玄関右側の壁面のわずかの部分を占めているにすぎず、これらを使用するために事務室部分や管理人居住部分をことさら通過したり使用する必要はなく、玄関の床面を使用すれば足りるばかりでなく、容易にこれらを取りはずして他の場所に移設することが可能である。

したがつて、二〇一号室に右の施設が存することから、これを法定共用部分とすることはできず、同室が独立して区分所有の目的となり得る建物であることは明らかである。

6  しかるに被告は、本件一、二階駐車場及び二〇一号室を区分所有法三条一項のいわゆる法定共用部分であると主張して、原告の所有権を争うので、本件一、二階駐車場及び二〇一号室につき原告が所有権を有することの確認を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1の事実のうち、被告が権利能力なき社団であることは認めるが、被告が本件建物の居住部分の区分所有者六九名の合意に基づき設立されたこと、その目的が本件建物のうち居住用共用部分のみの維持管理であることは否認する。被告は、本件建物の区分所有者七〇名全員の合意に基づき、本件建物全体の維持管理を目的として設立されたものである。

2  同2の事実は不知。

3  同3及び4の事実のうち、本件一階駐車場、二〇一号室のそれぞれにつき、昭和四六年一月二一日東名レンタカーが所有権保存登記を、本件土地、右一階駐車場及び二〇一号室のそれぞれにつき、同年一〇月一四日原告が各所有権移転登記を経由したことは認めるが、その余の事実は不知。

4(一)  同5冒頭の主張は争う。

(二)  同5(一)の事実のうち、本件一階駐車場が、コンクリート壁と塀で本件建物の他の部分と仕切られていることは否認する。コンクリートの塀は、道路と本件建物を仕切つているものであつて、本件一階駐車場を本件建物の他の部分と仕切つているものではない。日進レンタカーに対する仮処分申請において本件一階駐車場を問題としなかつたことは認めるが、これは、本件二階駐車場及び二〇一号室について緊急の必要があり、早期解決を望んだため、本件一階駐車場を含めなかつたに過ぎず、本件一階駐車場について原告の区分所有権を認めたものではない。また被告は、本件一階駐車場についての管理費を請求しているのではなく、原告が右駐車場をあたかも区分所有権を有すると同じ態様において日進レンタカーに使用させているため、管理費相当の損害金を請求しているものである。

その余の主張は争う。

(三)  同5(二)の事実のうち、本件二階駐車場が若干のコンクリート台と鉄柵等で仕切られていること、スロープによつて道路に通じていることは認めるが、その余の事実は否認し、主張は争う。

(四)  同5(三)の事実のうち、二〇一号室の玄関入口北側の壁に火災報知機及びエレベーター緊急連絡装置が設けられていることは認めるが、その余の事実は否認し、主張は争う。

(五)  本件一階駐車場及び二階駐車場は、区分所有法一条の「構造上区分された部分」に該当せず、二〇一号室は、右の「構造上区分された部分」には該当するが、同条の「独立して建物としての用途に供することができるもの」には該当しないから、これらはいずれも区分所有の対象とならないものであつて、本件建物の法定共用部分として各区分所有者の共有に属するものである。右主張の詳細については、甲事件における原告閔玉圭の主張をすべて援用する。

5  同6の被告が原告の所有を争つていることは認める。

第四丙事件についての当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、昭和四五年一一月五日、東名レンタカー(当時の商号「とんぼタクシー株式会社」)から、同社所有の本件土地、本件一、二階駐車場及び別紙物件目録(三)記載の建物二〇一号室(ただし、丙事件においては、甲事件同様、右物件目録記載のとおり、バルコニー部分を含まない。)を賃借し、昭和四五年ころ、本件建物の各居住者と土地賃貸借契約並びに管理契約を締結し、昭和四七年六月末日まで本件建物の共用部分の維持管理業務を遂行してきた。

この間、東名レンタカーは、昭和四六年九月二七日、本件土地、本件一、二階駐車場及び二〇一号室を上信電鉄に売り渡したため、原告は、同年一〇月一日上信電鉄からあらためて右各物件を賃借した。

2  原告は、右のとおり本件建物の各居住者との間に締結した管理契約に基づき、管理業務を遂行してきたが、昭和四七年五月ごろ、閔玉圭ら各居住者が、原告会社へ毎日のように訪れ、管理契約で定めた管理費の使途につき種々不当な主張を繰り返すので、原告は、管理業務のみでなく他のレンタカー業務にも支障を来すこと及び採算上引き合わないことを理由に、同年六月三〇日限りで管理を辞任した。

3  閔玉圭ら本件建物の居住部分の区分所有者は、同年五月二五日、本件一、二階駐車場及び二〇一号室の区分所有者である上信電鉄をことさらに除外して区分所有者集会を開き、本件建物の居住部分の区分所有者七〇名中六一名の出席した右集会において、本件建物の共用部分の維持管理を目的として、権利能力なき社団である被告組合を設立し、現在閔玉圭がその代表者会長の地位にある。

4  そして閔玉圭は、同年八月、本件二階駐車場及び二〇一号室は、いずれも区分所有法三条一項にいう区分所有権の目的とならない建物の部分に該当し、本件建物のいわゆる法定共用部分であるとして、原告を相手方として、当庁に対し、本件二階駐車場及び二〇一号室の執行官保管、閔玉圭の使用許諾等を求める仮処分申請をなした。これに対し原告も、同年八月当庁に対し、閔玉圭を相手方として、本件二階駐車場及び二〇一号室に対する原告の使用の妨害禁止及び閔玉圭が右二階駐車場を利用している本件建物居住者らから徴収した同年七、八月分の駐車料金合計金一九万四〇〇〇円の返還を求める仮処分申請をした。

その結果、同年九月二一日、原告と閔玉圭の間に要旨次のような裁判上の和解が成立した。

(1)  昭和四七年一〇月六日以降、本件二階駐車場のうち別紙図面(三)赤斜線部分を閔玉圭が使用し、同図面青斜線部分を原告が使用すること

(2)  本件二階駐車場のマンシヨン居住者使用部分の駐車料金月額合計金九万七〇〇〇円は閔玉圭において集金し、同年九月分以降の集金額のうちから毎月金三万七〇〇〇円を毎月末日限り原告に支払うこと

(3)  二〇一号室のうち、別紙図面(二)の青斜線部分を閔玉圭が使用し、同図面赤斜線部分を原告が使用すること。

(4)  本和解は、第一審の本案判決があるまでの暫定措置を定めるものであつて、同本案判決言渡と同時にその効力を失うものであること。

5  ところで閔玉圭は、昭和四七年一一月、本件二階駐車場及び二〇一号室が本件建物の法定共用部分に属すると主張して、原告らを相手方として種々の請求をする訴訟(甲事件)を提起したが、閔玉圭個人は右のような請求を訴訟上なしうる当事者適格を有せず、本件二階駐車場及び二〇一号室が法定共用部分であるか否かを本案判決で確定することが必要であり、かつ有意義なのは、被告である。そして、さらに、閔玉圭の前記仮処分申請もその実質は被告が申請人であり、右和解に基づいて事実上の権利を行使しているのも、閔玉圭個人ではなく、被告であると解される。

6(一)  被告は、前記和解により、本件二階駐車場のうち別紙図面(三)の赤斜線部分及び二〇一号室のうち別紙図面(二)の青斜線部分を占有使用し、かつ、原告が本件建物の居住者と個別的に賃貸借契約を結んで使用させ、毎月末日その翌月分の支払を受け得ることになつている駐車料金月額合計金九万七〇〇〇円(その内訳は、三〇六号室青木忠博分、四〇七号室増田和男分、五〇三号室鈴木良太郎分、六〇六号室金博分、八〇一号室松本久美乃分、一三〇四号室白土勉分及び一三〇五号室足立淳分月額各金一万円、一三〇三号室赤田靖治分月額金一万二〇〇〇円、五〇五号室篠原忠良分月額金一万五〇〇〇円。)を昭和四七年七月分以降被告において集金し、右集金にかかる金員のうち同年九月分以降についてはそのうち毎月金三万七〇〇〇円を原告に支払つているが、そのほかは、すべて被告において領得している。

(二)  また、原告は、二〇一号室のうち別紙図面(二)の青斜線部分を、原告の従業員訴外米山久の社宅として使用していたが、右和解の結果、昭和四七年九月末日から同訴外人のために別の借間を社宅として借りざるを得ず、そのため同年九月末日不動産業者に対し仲介手数料金二万五〇〇〇円、家主に対し権利金二万五〇〇〇円を支払つたほか、右借間の賃料として、同年一〇月分から昭和四九年八月分までは月額金二万五〇〇〇円、同年九月分から昭和五一年八月分までは毎月金三万円、同年九月分以降は毎月金三万五〇〇〇円を、毎月末日限り翌月分払いの約に基づいて支払い、同額の損害を受けている。

よつて、原告は被告に対し、本件二階駐車場及び二〇一号室の賃借権に基づき、本件二階駐車場のうち別紙図面(三)の赤斜線部分の明渡と二〇一号室のうち別紙図面(二)の青斜線部分の明渡を求めるとともに、昭和四七年七、八月分の前記駐車料金合計金一九万四〇〇〇円と、前記不動産仲介手数料金二万五〇〇〇円及び前記権利金二万五〇〇〇円、以上合計金二六万円及びこれに対する昭和四七年一〇月一日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払、さらに、別表記載のとおり、同年九月一日から前記各部分の明渡ずみに至るまで、毎月末日かぎり被告が毎月領得し、また領得する駐車料金を原告が支払い、また支払う前記賃料相当の損害金の合計金額(同表合計欄記載の金額)及び右各金員に対する同表の対応する遅延損害金起算日欄記載の日(いずれも右領得等のなされた月の翌月一日)から完済に至るまでそれぞれ民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否及び主張

1  請求の原因1の事実のうち、原告が、昭和四五年ころ本件建物の各居住者と土地賃貸借契約並びに管理契約を締結したこと及び本件土地が上信電鉄の所有であることは認めるが、原告が本件土地並びに本件一、二階駐車場及び二〇一号室を賃借するに至つた経緯は不知、本件一、二階駐車場及び二〇一号室が上信電鉄の所有であることは否認する。

2  同2の事実のうち、原告が、昭和四七年六月、本件建物の管理をやめたことは認めるが、その余の事実は否認する。原告が管理をやめたのは、原告の管理がきわめてずさんであり、かつ、会計も不明朗であつたため、同年六月一九日、各区分所有者が原告に対して各管理契約の解除の通知をなし、原告が、同月二六日、これを異議なく承認したからである。

3  同3の事実のうち、本件建物の区分所有者が、原告主張の日に区分所有者集会を開き、本件建物の共用部分の維持管理を目的とした権利能力なき社団である被告組合を設立し、現在閔玉圭が代表者会長の地位にあることは認めるが、その余の事実は否認する。

4  同4の事実は認める。

5  同5の事実のうち、閔玉圭が原告主張の訴訟を提起したことは認めるが、その余の主張は争う。

6  同6(一)の事実のうち、被告が、本件二階駐車場及び二〇一号室のうち原告主張の部分を占有使用し、原告主張のとおり駐車料金を徴収取得していることは認めるが、その余の主張及び同(二)の主張は争う。

7  本件建物のうち、本件二階駐車場は、区分所有法一条の「構造上区分された部分」に該当せず、また、二〇一号室は「構造上区分された部分」には該当するが、同条の「独立して建物としての用途に供することができるもの」には該当しないから、これらはいずれも区分所有の対象とはならないものであり、法定共用部分として、本件建物の区分所有者全員の共有に属するものである。したがつて、上信電鉄は、本件二階駐車場、二〇一号室について所有権を有せず、賃貸権限も有しないから、原告が同会社から右各建物部分を賃借したとしても、同賃借権に基づいてなんら請求をなし得ないものというべきである。

本件二階駐車場及び二〇一号室が、法定共用部分として本件建物の各区分所有者の共有に属することについては、被告の乙事件における主張及び甲事件における原告閔玉圭の主張を援用する。

三  被告の主張に対する原告の反論

本件二階駐車場及び二〇一号室が、法定共用部分として各区分所有者の共有に属するとの主張は争う。右各物件が区分所有法一条に定める区分所有の目的となる建物であることについては、乙事件における原告上信電鉄の主張を援用する。

第五証拠<省略>

理由

第一甲事件について

一  原告の当事者適格について

本件請求の趣旨及び原因によれば、本訴請求は、本件一、二階駐車場、二〇一号室及び本件屋上が本件建物の法定共用部分(区分所有法三条一項)であるとして、(イ)本件一階駐車場及び二〇一号室についてなされた各所有権保存登記及び各所有権移転登記の各抹消登記手続、(ロ)本件一、二階駐車場、二〇一号室及び本件屋上の明渡及び賃料相当損害金の支払、(ハ)本件一階駐車場及び二〇一号室について、管理費相当額の不当利得金の返還及び(ニ)本件二階駐車場の駐車料金について不当利得金の返還を求め、さらに、(ホ)各区分所有者が被告日進レンタカーとの間で締結した管理契約に基づいて支払つた管理費の残金について、委任事務終了に伴う受取物引渡義務の履行を求めるものであるところ、区分所有建物の法定共用部分は、規約による別段の定めがなされないかぎり原則として区分所有者全員の共有に属するものであるから(区分所有法四条一、二項)、右(イ)ないし(ニ)の各請求については本件建物の各区分所有者が、また、(ホ)の請求についても、管理契約の締結当事者たる各区分所有者が、それぞれの権利の帰属主体として、原告適格を有するのが本則である。

しかるに、原告は、区分所有法一七条一項の管理者として、法定訴訟担当又は任意的訴訟担当により、原告が当事者適格を有する旨主張するので、その当否について検討する。

1  成立に争いのない乙第二五号証、証人原宏の証言及び原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第一号証の一ないし七一、同第二号証の一ないし四、証人原宏、同磯辺誠哉の各証言、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、本件建物には、本件係争物件以外に合計七一戸の区分所有の対象となる居住用建物(以下、個々のこれらの建物を「住宅」という。)があり、別紙区分所有者目録記載の七〇名が分譲を受けるなどして所有していたが、右住宅の区分所有者らは、二〇一号室及び当時登記簿上の所有者が死亡して相続人が不明であつた四〇六号室を除く七〇戸の区分所有者らに招集の通知をしたうえ、昭和四七年五月二五日、区分所有者のうち六一名(委任状提出者二一名を含む。)が出席して、区分所有者集会を開き、本件建物の共有物の維持、管理を目的として権利能力なき社団である「ニュー目黒フラワーマンシヨン管理組合」(乙、丙事件被告)の設立及び案として準備されていた管理規約の承認決議をするとともに、右管理組合の代表者会長に本件原告を選任したほか、副会長二名、幹事三名、監事二名等の役員を選任したこと、そして、右集会終了後右管理規約設定についての各区分所有者の書面による承諾を徴したが、前記四〇六号室の区分所有者の承諾書は本訴提起後の昭和四八年八月一六日になつて提出され、被告上信電鉄に対しても右書面による承諾が求められたけれども、同被告はこれに応じなかつたこと、右管理規約によれば、同規約は区分所有法二三条に定める「規約」とするものとされ(第六条)、同組合の会長は同法一七条に定める「管理者」となるものとされている(第五条)こと、そして、昭和四七年九月二五日区分所有者たる組合員六一名(委任状提出者三二名を含む。)出席のもとに開かれた同組合臨時総会で本件訴訟の提起が討議され、投票の結果、六〇名(委任状提出者三二名を含む。)の賛成があつて本件訴訟の提起が議決され、右決議に基づいて、同年一一月七日、当時右管理組合の会長であり区分所有法上の管理者であつた閔玉圭が原告となつて本件訴訟を提起したこと、その後、河田義宏、安部智恵子、山本絢子が順次同組合の会長に就任したが、現在は再び閔玉圭が会長の地位にあること、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

2  ところで原告は、区分所有法上の管理者は、同法一八条二項に基づき、その職務上、裁判外の行為のみならず裁判上の行為についても各区分所有者を代理する権限を有しており、自己の名で訴訟を追行することができるものと解すべきであるから、右管理者の地位にある原告が本件訴訟について原告適格を有すると主張する。

しかしながら、いわゆる法定訴訟信託は、権利又は法律関係の帰属主体でない第三者にその訴訟物たる権利又は法律関係について自己の名で訴訟を追行しうる権能を付与し、その反面、右帰属主体に対しては、その権利又は法律関係について有する管理処分権限の一部である訴訟追行権能を失わせ、あるいはこれを制限する一方、その訴訟の判決の効力を右帰属主体に及ぼさせるものであるから、法律に明文の規定がある場合もしくはその類推適用を認めるべき場合に限つてこれを認めるのを相当とするところ、区分所有法上、管理者は「共用部分を保存し、第一二条第一項若しくは第一三条第一項の規定による共有者の合意若しくは決定又は集会の決議を実行し、及び規約で定めた行為をする権利を有し、義務を負う」ものとされてはいるが(同法一八条一項)、他方同法一八条二項によれば、「管理者は、その職務に関し、区分所有者を代理する」ものとされており、その地位は、あくまでも区分所有者の代理人と定められているのであつて、右代理権に支配人等の場合と同様訴訟代理権をも含むものと解すべきか否かはともかくとして、少なくとも区分所有法は管理者に区分所有者の代理人としての地位以上のものを認めていないものと解すべきである。けだし右規定は、共有部分の保存、変更、管理等に必要な行為をその都度すべての区分所有者が共同して行う煩を避けるとともに、管理等を円滑に行い、区分所有者全員の共同の利益をはかるため、規約又は集会の決議によりあらかじめ管理を行うべき者を定めて、その者に管理に当たらせることを認めるとともに、管理を行ううえで通常予想される第三者との取引等については、その者につきあらかじめ代理権限を与えておくことで必要かつ十分であるとの趣旨に出たものであり、したがつて、右の代理権は、破産財団に関する破産管財人や債権質の債権者又は債権者代位権を行使する債権者等のように、第三者が、自己の利益又は自己が代表する者の利益のために、訴訟物たる権利義務について管理処分機能が認められ、それに基づいて訴訟担当が許される場合とは根本的に異るものであるというべきである。原告は、法文上相続人の代理人とみなすものとされている(民法一〇一五条)遺言執行者が、遺言の執行に関する訴訟について自らの名をもつて当事者となることが認められていることと対比して、同様の条文構成をとる管理者についても法定訴訟担当を認めるべきである旨主張するが、遺言につき遺言執行者がある場合には、遺言に関係ある相続財産については、相続人は処分権を失い(同法一〇一三条)、独り遺言執行者のみが管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権限を有するのであつて(同法一〇一二条一項)、遺言執行者は、法律によつて与えられた右の管理処分権に基づき、遺言の執行に関する訴訟について自らの名による訴訟追行権を有するもので、右訴訟追行権は相続人の代理権に基づくものではなく、民法が遺言執行者を相続人の代理人とみなすものとしているのは、遺言執行者の行為の法的効果が相続人に帰属するものであることを明らかにする趣旨に出たものと解するのが相当であるから、右のような遺言執行者と区分所有法上の管理者とを同列に扱うべき根拠はないものというべきである。

また、共用部分の保存等に関して訴訟を提起追行する必要が生じた場合、それが保存行為に属するものであれば、各区分所有者が単独で訴訟を提起追行することが可能であるし(区分所有法一三条一項但書)、また、各区分所有者が共同で訴訟を提起するか、もしそれが煩瑣であるならば選定当事者の方法をとるか、もしくは管理組合が設立され、同組合が権利能力なき社団としての実質を具備しているのであれば(被告組合が権利能力なき社団であることは乙、丙事件において当事者間に争いがない。)、組合が各区分所有者から訴訟信託を受け、自身が当事者となつて訴訟を提起すれば足り、管理者に自己の名をもつて訴訟を提起追行できる権限を認めなければ権利の実現が著しく困難になるものでもない。

以上のとおり、区分所有法上の管理者が区分所有者に帰属する権利または法律関係について、その帰属主体たる区分所有者に代り、自己の名をもつて訴訟を追行する権限を有するとする法文上の根拠はなく、また、法定訴訟信託に関する他の規定の類推適用を認めるべき合理的必要性もない。

したがつて、原告が本件訴訟につき区分所有法一八条二項に基づき原告適格を有するとの主張は採用できない。

3  次に原告は、いわゆる任意的訴訟担当として、本件訴訟について当事者適格を有すると主張する。

まず原告は、区分所有者集会において特定の民事訴訟を提起することが決議された場合、管理者は、区分所有法一八条一項、二項により、その職務として当該訴訟を提起する権利を有し、義務を負うもので、右の関係は、手形法上の取立委任裏書の被裏書人が自己の名をもつて裏書人の有する手形上の権利を裁判上行使する関係と同様であり、法の許容する任意的訴訟担当の場合に該当する旨主張する。しかしながら、なるほど管理者が区分所有者集会の決議を実行する権利を有し、義務を負うことは原告の主張するとおりである(区分所有法一八条一項)けれども、さきにみたとおり、管理者は、区分所有者の代理人としてその職務を行うものとされているのであつて、自己の名をもつて区分所有者に属する権利を行使することを法律上認められているものではないから、その地位を取立委任裏書の被裏書人と同視することは到底できないのみならず、原告は、昭和四七年九月二五日の区分所有者集会において本件訴訟の提起が議決された旨主張するが、さきに認定したように、右同日開催されたのは管理組合の臨時総会であつて、管理組合の意思決定機関である総会において本件訴訟の提起が議決されたとしても、それが直ちに各区分所有者による原告への訴訟追行権の付与を意味しないことは多言を要しないところである。さらに原告は、管理組合規約中、「会長は、組合を代表し、総会及び役員会の決議に基づいて組合の業務を執行する。」旨を定める二九条一項及び「会長は、総会及び役員会の議決を得たときは、自己の名に於いて組合の業務を執行することができる。」旨を定める同条二項の各規定をあげて、各区分所有者は、右各規定を含む組合規約に同意した時に、将来管理組合において訴訟を提起することを含めて何らかの決議がなされた場合には、その決議の実行について会長すなわち管理者に委任する旨あらかじめ授権したものと解すべき旨主張する。しかし、前掲甲第一号証の一によると、右管理組合規約中に原告主張のような各規定のあることは認められるが、右組合規約の各規定は組合業務の執行権限に関する規定であることが明らかであるから、右規約によつて各区分所有者から会長(管理者)に対する訴訟追行権の付与があらかじめあつたものとみることはできないものというべきである。

以上検討したところによれば、原告が、個人として、各区分所有者から本件について有効に訴訟信託を受けたものと認めるには、なおその根拠が薄弱であるというほかなく、原告個人については本件について任意的訴訟担当者としての当事者適格を認めることはできないものというべきである。

以上の次第で、原告は、本件訴訟について当事者適格を有しないものというほかはない。

二  そうとすれば、本件訴はいずれも不適法なものであるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担については、民事訴訟法八九条を適用して、全部原告の負担とする。

第二乙事件について

一  被告が、その構成員数、維持管理の対象とする建物の範囲の点はさて措き、本件建物の区分所有者の合意に基づき建物の維持管理を目的として設立された権利能力なき社団であることは当事者間に争いがない。

二  原本の存在と成立に争いのない甲第一一号証、乙第三号証、成立に争いのない乙第一号証、第五号証、第六号証の一、二、甲事件被告、丙事件原告日進レンタカー代表者尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第八号証、第一五ないし第一七号証、証人田中常三郎の証言により真正に成立したものと認められる乙第七号証、同第九号証、証人駒木根進の証言により真正に成立したものと認められる乙第一〇号証の一、二、右富田純明、駒木根進及び田中常三郎の各供述によれば、次のような事実が認められ、他に右認定を左右する証拠はない。

1  本件建物の敷地である本件土地は、もと東名レンタカー(同会社の社号は、もと「日進交通株式会社」であつたが、昭和四五年一二月二三日「とんぼタクシー株式会社」に、ついで昭和四六年一二月一五日「東名レンタカー株式会社」に、それぞれ商号変更された。以下、便宜上右商号変更の経過を省略して、「東名レンタカー」という。)の所有であり、本件建物が建築される以前は、同土地と道路を隔てて反対側の同会社所有の東京都目黒区下目黒二丁目三七三番三の土地七八六・三八平方メートルとともに、同会社が当時行つていたタクシー営業の本拠地として、タクシーの駐車場に使用されていた。

2  ところで、同会社は、本件土地の有効利用を図るべく、タクシー駐車場として約三〇〇坪の面積が確保できることを条件として、本件土地をマンシヨン建築用地として提供することとし、マンシヨン建設業者である長谷部産業(甲事件補助参加人)と交渉の結果、建築後のマンシヨンの一階全部と人工台地上(二階)に右駐車場が確保できる見とおしがついたところから、昭和四四年九月一八日、東名レンタカーと長谷部産業との間で、(イ)長谷部産業は、東名レンタカーから右土地につき借地権の設定を受けて、同土地上に分譲マンシヨンを建築する。(ロ)長谷部産業は、右借地権設定の対価として、東名レンタカーに対して、現金一億円を支払うほか、現物給付として、建築後のマンシヨンのうち一階駐車場(七九六・二五平方メートル)及び二階駐車場(二三三・九九平方メートル)の所有権を譲渡し、更に、建築後のマンシヨンの管理業務を東名レンタカーに委託し、右管理業務の必要上管理人室(二二・八八平方メートル)を同会社に提供する。(ハ)長谷部産業は東名レンタカーに対し、同会社が完成後のマンシヨンの屋上を無償で使用することを承諾する等を内容とする「土地借地権譲渡契約」が締結された。

3  長谷部産業は、右契約に基づき本件建物の建築に着工したが、着工時の計画では本社建物の一階部分に管理人室を作る予定であつたところ、それでは一階駐車場に右契約どおり駐車スペースを確保できなくなることが判明したため、一階部分に管理人室を設けることをやめて、その代りに二階の二〇一号室を管理人室として東名レンタカーに提供することとしたが、二〇一号室は六五〇万円で第三者に分譲することを予定していたものであつたうえ、面積も四五・七〇平方メートルと当初の管理人室の予定面積(二二・八八平方メートル)の倍程度あるところから、長谷部産業は東名レンタカーに対し差額金として金三〇〇万円の支払を要求し、東名レンタカーはこれを支払つた。

4  本件建物は昭和四五年一二月ころ完成したので、東名レンタカーは、長谷部産業から本件建物のうち本件一、二階駐車場及びバルコニー部分を含む二〇一号室全部の引渡を受けるとともに、昭和四六年一月二一日、本件一階駐車場及び二〇一号室についてそれぞれ所有権保存登記を経由した。(右所有権保存登記経由の事実は、当事者間に争いがない。)

5  東名レンタカーは、右2の契約締結に先立ち、建築後のマンシヨンの管理業務をさせるため別会社として日進レンタカーを設立し、本件建物が完成して右一、二階駐車場及び二〇一号室の引渡を受けると、昭和四五年一一月五日右各部分及び本件土地を同会社に賃貸するとともに右管理業務を担当させた。

6  その後東名レンタカーは、昭和四六年九月二七日原告に対し、本件土地、本件一、二階駐車場及び二〇一号室の所有権並びに本件屋上の無償使用権を代金七〇〇〇万円で売り渡し、原告は、同年一〇月一四日、本件土地、本件一階駐車場及び二〇一号室についてそれぞれ所有権移転登記を経由した(右所有権移転登記経由の事実は、当事者間に争いがない。)ので、日進レンタカーは、右の各物件につきあらためて同年一〇月一日原告との間に賃貸借契約を締結した。

三  ところで、本件建物の全体の構造であるが、前記乙第九号証、成立に争いのない甲第三号証の一、二、官署作成部分の成立に争いがなく、その余の部分も弁論の全趣旨によつて成立の認められる乙第二一号証、本件建物の写真であることに争いのない甲第一〇号証の一ないし一三、本件一階駐車場の写真であることに争いのない甲第一二号証の一ないし一五及び乙第二三号証の一ないし四、右駐車場のシヤツターの写真であることに争いのない甲第一三号証の一、二、証人駒木根進、同大浦茂幸、同伊東昭宏の各証言、甲事件被告、丙適件原告日進レンタカー代表者尋問の結果及び検証の結果(第一、二回)を総合すると、本件建物は、鉄骨コンクリート造陸屋根一三階建の建物で、二階以上が本件係争にかかる二〇一号室を含む住宅部分となつており、一階部分のみは南側に張り出した形になつていて(別紙図面(五)中、概ねC線以北の部分が右住宅部分である建物本体にあたる。)、同階には本件一階駐車場のほかその北側部分に右住宅部分への玄関、階段室、エレベーター室及び電気室などの共用施設があり、右張り出し部分の屋上が人工台地として本件二階駐車場となつていること、そして、右住宅部分へは、本件建物東側の道路から北側通路を通つて右玄関に至り、そこからエレベーター又は階段を利用するのが唯一の経路となつていること、そのほか、本件建物の敷地(本件土地)は、東側道路に面する部分を除き、他の三方がブロック塀によつて囲繞されていることが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。

四  そこで、右一、二階駐車場及び二〇一号室が、それぞれ区分所有権の対象となるのか、それとも法定共用部分として共有に属するものか否かの点について判断する。

およそ、一棟の建物の一部分が区分所有権の対象となり得るためには、その部分が他の建物部分から「構造上区分され」ていること(いわゆる「構造上の独立性」)と「独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるもの」であること(いわゆる「利用上の独立性」)が必要であることは、区分所有法一条の規定からして明らかなところである。

そこで、右の見地から、前記各建物部分がそれぞれ右二要件を具備するか否かについて順次検討を加えることとする。

1  一階駐車場

前記三掲記の各証拠(ただし乙第一〇号証の二、甲第一〇号証の二、三、九ないし一三を除く。)によれば、本件一階駐車場の構造は次のとおりであることが認められ、他に右認定を覆えす証拠はない。

(一) 本件一階駐車場は、別紙図面(五)のとおり、その北側はコンクリート壁及びドアによつて外部及び前記共用施設部分と完全に遮断され、東側は公道に面して出入口となつており、同所には隔壁こそないものの全面にわたつて本件建物の完成当時から上下に開閉できるシヤツターが設置されていて外部との遮断が可能となつており、また西側及び南側は、西側の一部にコンクリート壁が設けられ、南側の一部が本件二階駐車場へのスロープの基部の外壁によつて外部と遮断されているほかは、本件建物全体を支える支柱及び前記人工台地を支える支柱があるのみで、その間をつなぐ障壁もシヤツター等の設備もないが、外側に前記ブロツク塀があるため外部からは容易に出入りできない。

(二) そして、内部は、東側出入口の南脇に事務室があるほか、一部に水道設備及び消火設備の附設された右建物全体の支柱一四本と人工台地の支柱七本が概ね南北四列に並んで立つているのみで、隔壁等は一切設けられておらず、床面には前記図面(五)表示の位置に洗車用水の排水溝が設けられている。

(三) そのほか、天井、北側のコンクリート壁及び右支柱の一部に沿つて本件建物全体のための給排水用配管が、また北西隅には電気及び電話地下ケーブルを点検するためのダクトとピツトがそれぞれ設けられており、床下には本件建物全体の汚水処理施設が埋設され、そのための蓋つきのマンホールが床面の各所に設けられているほか、前記二階駐車場へのスロープの下が物置となつていて、その内部に汚水処理施設用の電動設備が設けられている。

ところで、右認定事実によると、本件一階駐車場は、その北側のコンクリート壁及びドアによつて、本件建物の本体である住宅部分とは完全に遮断されて明確に区分されており、建物の外部との関係でも、東側はシヤツターで遮断可能な構造となつており、南側及び西側も一部を除いては外壁こそないものの一部の外壁及び支柱によつて外部との区画は十分明確であるというべきであり(現在は、本件建物敷地がコンクリート塀によつて囲繞されていて容易に外部から敷地内に立入ることができないためもあつて、前記のような構造となつているが、必要があれば、支柱と支柱との間及び既存の外壁と支柱との間にシヤツター設備を設けるなどして、外部との遮断をはかることは十分できるものと認められる。)、右の程度に外部との区画、したがつて建物所有権の及ぶ範囲が明確であるような構造を有するものであれば、周囲すべてが隔壁によつて他と遮断されていなくても、区分所有法上の「構造上の独立性」に欠けるところにはないものというべきである。

また、前記認定にかかる本件建物建築の経緯からも明らかなように、右一階駐車場部分は、当初から人工台地部分とともに東名レンタカーのタクシー営業のための駐車場として建築されたもので、同所には駐車場として必要な諸設備が設けられており、現実に建物完成以来引き続き駐車場として利用されてきたことは前掲各証拠によつて明らかであるうえ、前記認定事実によると、右駐車場は東側出入口から直接公道に出入りでき、他の住宅部分の居住者も、本件一階駐車場を通ることなく、それぞれの住宅に出入りできるようになつている。もつとも本件一階駐車場には、前記認定のとおり、本件建物全体及び人工台地を支える支柱があるほか、建物全体のための給排水用配管が壁と支柱に沿つて取り付けられ、床下には汚水処理施設が埋設されていて、床面の各所に蓋つきマンホールがあり、右汚水処理施設のための電動設備や、さらには電気地中ケーブルダクト及び電話地下ケーブルピツトが埋設されており、これらを点検、補修するためには、本件一階駐車場に立入る必要があることは当然に考えられるところであるが、証人伊東昭宏の証言及び甲事件被告、丙事件原告日進レンタカー代表者尋問の結果によると、右汚水処理施設に薬品を投入するのは一か月に一回程度で、それを含めても右点検、補修のための一階駐車場への立入りは年間で十数回にすぎず、これによつて駐車場の利用に格別支障を及ぼさないことが認められる(他に右認定を左右なる証拠はない。)。

そうだとするならば、本件一階駐車場は、その利用目的及び利用形態、本件建物全体に対して占める機能上の位置、その構造、設備等からみて、利用上の独立性を有するものと認めるのが相当である。

以上の検討から明らかなように、本件一階駐車場は、独立して区分所有の目的となり得る建物部分すなわち専有部分であるというべきであり、したがつて、原告がその区分所有権を有するものというべきである。

2  二階駐車場

本件二階駐車場は、前記認定のように本件建物の南側に張り出した人工台地上にあり、しかも前掲甲第三号証の一、乙第一〇号証の二、甲第一〇号証の五ないし七、証人駒木根進の証言、甲事件被告、丙事件原告日進レンタカー代表者尋問の結果及び検証の結果(第一、二回)によると、右駐車場は別紙図面(六)のとおり、本件建物の東側の道路からスロープによつて出入りするようになつており、北側の本件建物の二階住宅部分との間はコンクリート台及びその上に設けられたガラス塀で仕切られ、その余の周囲は、コンクリート台とその上にめぐらされた高さ約一・五メートルの鉄柵により囲まれ(右駐車場が右のような構造であることは当事者間に争いがない。)、右住宅部分から直接出入りすることはできず、右住宅居住者がこれを利用するには、いつたん一階玄関から建物外に出て、右スロープを通つて出入りするほかない構造になつているが、一方右は露天駐車場で天井及びそれに接着する壁等はなく(右の事実は当事者間に争いがない。)、右人工台地全体が本件一階駐車場の南側張り出し部分の屋根となつていることが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。

しかして、前記二において認定したとおり、右二階駐車場は、当初から一階駐車場とともに東名レンタカーのタクシー駐車場として利用する目的のもとに造られたもので、その後現実に一部は日進レンタカーにおいて本件建物住宅部分居住者に有料駐車場として使用させ、一部は一階駐車場とともに賃借した日進レンタカーにおいて所有車両の駐車場として使用してきたことが甲事件被告、丙事件原告日進レンタカー代表者尋問の結果によつて認められる。被告は右二階駐車場は分譲の際被分譲者の専用駐車場であると明示され、その後もそのとおり使用されてきたものであると主張し、証人松本久美乃、同桑原仁三、同原宏の各証言および甲事件原告閔玉圭本人尋問の結果中に右の趣旨に沿う部分がないでもないが、同各供述部分は成立に争いのない甲第三号証の二、証人駒木根進、同田中常三郎の各証言及び甲事件被告、丙事件原告日進レンタカー代表者尋問の結果と対比して措信できない。

そうだとするならば、本件二階駐車場は、区分所有法上の「構造上の独立性」を有するとは認めがたいが、さりとて本件建物の法定共用部分とはいえず、一階駐車場の構造部分(屋根)として、その所有権に含まれるとみるべきで、結局原告の所有に属するものといわざるを得ない。

3  二〇一号室

本件二〇一号室が「構造上の独立性」を有することは被告の争わないところである。そこで、右室が「利用上の独立性」を有するか否かの点について判断するに、前記二掲記の各証拠のほか三掲記の甲第三号証の一、第一〇号証の二、三、証人伊東昭宏の証言及び検証の結果(第一、二回)によると、前記認定のように、当初、東名レンタカーと長谷部産業との間の「土地借地権譲渡契約」において、一階部分に管理人室を設けたうえ、これを管理業務の委託に伴い東名レンタカーに提供するものとされていたところ、その後駐車場の面積の関係から管理人室を一階に設けることができなくなつたため、本来第三者に分譲することを予定して設計、建築されていた二〇一号室をその代替として差額金を徴したうえ東名レンタカーに譲渡したものであるうえ、その内部構造、設備等をみても、受付あるいはカウンター等の通常管理業務に必要とされる設備もなく、玄関の北側壁面に本件建物全体の火災報知器及びエレベーター緊急連絡装置が設置されている(右各装置が設置されていることは当事者間に争いがない。)点を除けば、B´タイプとして分譲された他の住宅と同一の構造、設備であり、しかも、右各装置はいずれもさして多額の費用を要せずして他へ移設することが可能であることが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。

右認定事実からするならば、本件二〇一号室は通常の分譲マンシヨンにおける管理人室とは異なるもので、右のような火災報知機等が設置されているからといつて「利用上の独立性」に欠けるところはないものというべきである。

したがつて、本件二〇一号室は、独立して区分所有の目的となり得る部分すなわち専有部分とみるべきであり、したがつて、右室は長谷部産業から東名レンタカーを経てこれを取得した原告の所有であると認めざるを得ない。

五  以上の次第で、本件一、二階駐車場及び二〇一号室は原告の所有であるところ、被告がこれを争つていることは同被告もこれを認めるところであるから、その所有権確認を求める原告の本訴請求は理由がある。

よつて、これを認容することとし、訴訟費用の負担については、民事訴訟法八九条を適用して、全部被告の負担とする。

第三丙事件について

一  本件建物の一部である二〇一号室が区分所有権の対象たり得る専有部分であつて、甲事件被告、乙事件原告上信電鉄の所有であること及び本件二階駐車場が、右上信電鉄が区分所有権を有する専有部分たる本件一階駐車場の構造部分(屋根)として、右区分所有権がこれに及ぶものであることは、乙事件四の2、3において判示したとおりである。

そして、原告が、昭和四五年一一月五日、二〇一号室及び本件二階駐車場を、当時の所有者東名レンタカーから本件土地及び本件一階駐車場と共に賃借し、その後右各物件の所有権が東名レンタカーから上信電鉄に移転したのに伴い、昭和四六年一〇月一日、あらためて同会社から右各物件を賃借したことは、これまた乙事件二において判示したとおりである。

二  次に

1  本件建物の区分所有者が昭和四七年五月二五日、本件建物の共有部分の維持管理を目的とした権利能力なき社団である被告組合を設立し、当時被告組合の会長であり、かつ区分所有法上の管理者であつた甲事件原告閔玉圭(以下「閔玉圭」という。)が、昭和四七年八月、本件二階駐車場及び二〇一号室が本件建物の法定共用部分であるとして、当庁に対し、原告を相手方として、右各物件の執行官保管、閔玉圭の使用許諾等を求める仮処分申請をし、これに対して原告も、同年八月当庁に対し、閔玉圭を相手方として、右各物件に対する原告の使用妨害禁止及び閔玉圭が右二階駐車場を利用している本件建物居住者らから徴収した同年七、八月分駐車料金合計金一九万四〇〇〇円の返還を求める仮処分申請をした。

その結果、同年九月二一日、原告と閔玉圭との間に要旨次のような裁判上の和解が成立した。

(一) 昭和四七年一〇月六日以降、本件二階駐車場のうち別紙図面(三)赤斜線部分を閔玉圭が使用し、同図面青斜線部分を原告が使用する。

(二) 右駐車場の住宅居住者使用の駐車料金月額合計金九万七〇〇〇円は閔玉圭において集金し、同年九月分以降の集金額のうちから毎月金三万七〇〇〇〇円を毎月末日限り原告に支払う。

(三) 二〇一号室のうち別紙図面(二)の青斜線部分を閔玉圭が使用し、同図面の赤斜線部分を原告が使用する。

(四) 本和解は、第一審の本案判決があるまでの暫定措置を定めるものであつて、同本案判決言渡と同時に効力を失う。

2  被告は、右和解に基づき、同年一〇月六日以降本件二階駐車場のうち別紙図面(三)の赤斜線部分及び二〇一号室のうち別紙図面(二)の青斜線部分(以下、一括して「本件各部分」という。)を占有使用し、かつ、原告が本件建物の居住者と個別的に賃貸借契約を結んで支払を受けてきた右二階駐車場の駐車料金合計月額金九万七〇〇〇円を被告において集金し、右集金額のうち同年九月分以降毎月金三万七〇〇〇円を原告に支払つているが、その余は被告において取得している。

以上の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

三  ところで、右仮処分申請事件においてなされた裁判上の和解は、形式的には右事件の当事者である閔玉圭と原告日進レンタカーとの間に成立したものであるが、さきの甲事件において明らかなように、被告としては被告組合の代表者会長(管理者)である閔玉圭に自己の名をもつて裁判上の行為をなす権限があると考え、右仮処分申請も右の見解に立つて形式的には閔玉圭個人としてではあるが、実質的には被告組合の代表者としてなし、さらに右の立場で裁判上の和解を成立させたものと解されるうえ、本件における弁論の全趣旨からして被告も右裁判上の和解における合意の効力が被告組合に及ぶことは争つていないものとみられることなどから、少くとも右裁判上の和解の私法的合意の側面においては、被告組合との間においてその効力を生じているものとみるのが相当である。

そこで、以上を前提として原告の被告に対する各請求について判断する。

四  本件各部分の明渡請求について

被告が、本件各部分を占有していることは前記のとおり当事者間に争いのないところであり、しかして被告は右各部分につき、これが本件建物の法定共用部分であると主張するだけで(右主張が理由のないものであることは、さきに乙事件において判示したとおりである。)、他に占有権原を主張立証しない(前記和解は、暫定的なもので、本件各部分について被告に事実上の使用権を認めたものにすぎず、占有に関する本権までも認めたものでないことは弁論の全趣旨からして明らかである。)。

したがつて、本件各部分の賃借権に基づき、被告に対しその明渡を求める原告の請求は理由がある。

五  駐車料金返還請求について

被告は、原告日進レンタカーと本件建物居住者との間の賃貸借契約に基づく本件二階駐車場の料金に関し、前記裁判上の和解に基づき、昭和四七年七、八月分合計金一九万四〇〇〇円、同年九月以降毎月金六万円宛領得していることは前記のとおり当事者間に争いがないところであり、右二階駐車場が法定共用部分ではなく、一階駐車場の構造部分として乙事件原告上信電鉄の所有に属し、同会社が原告に貸賃中のものであることはさきに乙事件において判示したとおりである。しかして、右裁判上の和解による取決めは暫定的なもので、後日第一審の本案判決によつて本権の所在が明らかとなつたときは、その結果に基づいて清算する趣旨であつたことが、弁論の全趣旨からして明らかであるから、被告は原告に対し、昭和四七年七、八月分の金一九万四〇〇〇円及び同年九月以降本判決言渡の日まで一か月金六万円の割合による金員の返還義務があるものというべきである。

原告日進レンタカーは、右一か月金六万円の割合による金員につき、被告が本件二階駐車場のうちその占有部分を明渡す日までの不当利得返還を求めているが、前記裁判上の和解によると、被告側において右駐車料金を徴収するとの取決めは本判決言渡と同時に失効することが明らかであるから、被告が本判決言渡後も引続き徴収するか否かは将来の不確定な事実にかかるものであり、被告は未だこれを徴収していない以上、その支払を求めることはできないものといわざるを得ず、したがつて本訴においては本判決言渡の日後の分の請求は認めることができない。

また、原告は、右一九万四〇〇〇円については昭和四七年一〇月一日から、また、同年九月以降の徴収分についてはそれぞれ徴収月の翌月一日から遅延損害金の支払を求めているが、前記裁判上の和解の趣旨に徴し、右徴収した駐車料金の返還債務の履行期は本判決の言渡によつて到来するものであると解されるうえ、右徴収は裁判上の和解に基づくものであるから、被告組合は悪意の受益者とはいえず、また、右裁判上の和解において、返還金に利息もしくは遅延損害金を附して支払うことまでも約したものとは解し得ない。したがつて、原告の右請求のうち、本案判決言渡の日までの間の遅延損害金の支払を求める部分は理由がないというべきであり、右徴収した駐車料金の返還債務の履行期が到来する本案判決言渡の日の翌日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による金員の支払いを求める限度において理由がある。

六  不動産仲介手数料、権利金及び賃料相当損害金請求について

原告日進レンタカーは、裁判上の和解により本件二〇一号室の一部を明渡したことによつて、仲介手数料等の損害を被つた旨主張するが、その主張自体から明らかなように、右明渡は裁判上の和解に基づくものであるから、被告組合の不法行為によるものとはいえず、仮に被告組合の仮処分申請が不法行為にあたるとしても、右明渡が裁判上の和解に基づくものである以上、その間に法的因果関係はないものというべく、また右和解において明渡による損害賠償債権を留保したともみられない。

したがつて、右請求は、現実に主張の金員を支出したか否かの点を判断するまでもなく、理由がないものというべきである。

七  結論

したがつて、原告の本訴請求中、被告に対し、本件二階駐車場のうち別紙図面(三)の赤斜線部分及び二〇一号室のうち別紙図面(二)の青斜線部分の明渡並びに被告が不当利得した昭和四七年七、八月分の駐車料金一九万四〇〇〇円と同年九月から本判決言渡の日まで一か月金六万円の割合による金員及びこれらに対する本判決言渡の日の翌日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるが、その余の部分は理由がないから、右の限度でこれを正当として認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条但書、八九条を適用して全部被告の負担とし、仮執行宣言は附するのが相当でないので附さないこととする。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 小川昭二郎 魚住庸夫 市村陽典)

別紙物件目録(一)ないし(八)<省略>

別紙図面(一)ないし(六)<省略>

別表<省略>

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