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東京地方裁判所 昭和47年(ワ)9666号 判決 1976年1月27日

原告 福原とく 外四名

被告 福原幸子 外一名

補助参加人 福原秀夫

主文

被告両名は原告らに対し、別紙物件目録記載第一一の土地につき、千葉地方法務局清和出張所昭和四七年一〇月二八日受付第四〇九四号所有権移転請求権仮登記に基く本登記手続をせよ。

被告両名は原告らのために、別紙物件目録記載第一ないし第一〇、第一二、第一三の各土地につき、農地法第三条に基く許可申請手続をなし、右許可があつたときは原告らに対し、各持分を原告福原とくは三分の一、その余の原告四名はそれぞれ六分の一とする所有権移転登記手続をせよ。

訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

一  原告は、主文同旨の判決を求め、請求原因を次のとおりのべた。

(一)  訴外亡福原知英(以下、単に「知英」という)と同亡福原庄一郎(以下「庄一郎」という)は、別紙物件目録記載の各土地(以下、「本件土地」という)に関して、昭和二八年一一月一九日、東京高等裁判所において次のような裁判上の和解をなした(同庁昭和二七年(ネ)第三二七号土地明渡並に損害賠償請求控訴事件)。

(1)  庄一郎は、本件土地が知英の所有であることを承認する。

(2)  知英は、庄一郎及びその子供に対し右土地を無償で耕作する権利を与え、その権利を失わしめるような一切の処分をしない。

(3)  知英が死亡したときは、右土地を庄一郎及びその相続人に贈与する。

(二)  右の(3) は、知英が本件土地を庄一郎もしくはその相続人に死因贈与したものというべきところ、知英は昭和四七年四月三〇日死亡したので右贈与の効力が生じた。

(三)  被告福原幸子は妻、同福原まつは母として、知英の地位を相続承継した。

(四)  庄一郎は昭和三八年一二月一九日に死亡したが、原告福原とくは妻として三分の一、その余の原告らは子として各六分の一の割合で、同人を相続した。

(五)  原告は、本件土地のうち別紙物件目録記載第一一の土地については、東京地方裁判所昭和四七年一〇月二七日付仮登記仮処分に基き、千葉地方法務局清和出張所昭和四七年一〇月二八日受付第四〇九四号をもつて、所有権移転請求権仮登記を了した。

(六)  本件土地のうち、別紙物件目録記載第一一の土地を除くその余の土地は農地である。

よつて原告らは、知英の相続人である被告両名に対し、別紙物件目録記載第一一の土地については前記仮登記に基く本登記手続を、その余の本件土地については、農地法三条による許可申請手続をなし、右許可を条件として、原告福原とくは三分の一、その余の原告らは各六分の一を持分とする所有権移転登記手続を、それぞれ求める。

二  被告は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁を次のようにのべた。

(一)  請求原因(一)は不知。

(二)  同(二)のうち、知英の死亡日時は認めるが、その余は争う。

(三)  請求原因(三)ないし(六)はいずれも認める。

三  抗弁

仮に、請求原因(一)のような和解が存し、それが知英から庄一郎もしくはその相続人に対する死因贈与であるとしても、

(一)  死因贈与は、贈与者においてその死亡に至るまでいつでも取消(撤回)しうるものであり、贈与者が以前になした死因贈与と抵触する処分行為をなしたときは、右死因贈与はこれを取消したものとみるべきところ、知英は、昭和四七年二月二五日、本件土地を、被告補助参加人福原秀夫に譲渡したので、庄一郎もしくはその相続人に対する死因贈与は取消されたものである。

(二)  仮に右の主張が認められないとしても庄一郎は、知英が死亡すれば取得するであろう前記死因贈与に基く自己の権利を、昭和三八年一二月一五日、母である被告福原まつに贈与した。従つて原告らが本件土地に関する権利を取得するはずがない。

四  抗弁に対する認否

(一)  抗弁(一)のうち、知英が本件土地を福原秀夫に譲渡したとの点を否認し、その余の主張は争う。死因贈与については遺贈に関する規定が準用されているが、遺言の取消しに関する規定まで準用されるかは争いのあるところであり、少くとも本件のように裁判上の和解によつて死因贈与をなしたような場合には、その取消しは許されないというべきである。

(二)  抗弁(二)も否認する。

五  証拠<省略>

理由

一  請求原因(一)の事実(知英、庄一郎間の和解)は成立に争いない甲第一号証によつてそのとおり認めることができ、右によれば、知英は、本件土地を庄一郎もしくはその相続人に死因贈与したものと認めるのが相当である(相続人の場合はその相続分に応じての意味に理解される)。

二  請求原因(二)のうち、知英が昭和四七年四月三〇日に死亡したこと、及び請求原因(三)ないし(六)の各事実(被告両名が知英の相続人であること、庄一郎が昭和三八年一二月一九日に死亡し原告五名がその相続人となつたこと、本件土地のうち別紙物件目録記載第一一の土地について仮登記が存し、他は農地であること)は、いずれも当事者間に争いない。

三  よつて被告の抗弁について判断する。

(一)  被告は、死因贈与は贈与者においていつでも取消すことができるし、死因贈与と抵触する処分行為をしたときは右死因贈与は取消したものとみるべきであると主張する。死因贈与については遺贈に関する規定に従うとされているのであるから(民法五五四条)、その取消しに関する民法一〇二二条、一〇二三条二項との関係上一般には被告主張のとおりに解釈すべきである。しかし本件の死因贈与は、前記認定のとおり、裁判上の和解によるものである。裁判上の和解、殊に本件のような訴訟係属後のいわゆる訴訟上の和解(甲第一号証からそれは明らかである)は、訴訟当事者が両者間に存した紛争を解決するため、互に譲歩し、且つ裁判所が実質的に関与したうえで成立するものであるから、その和解においてなした死因贈与は、贈与を受ける側においても、譲歩というかたちで適正な負担を背負つているというべきであり、死因贈与はこの負担と密接な関連を有するものであるから、単純にこれを取消すこと(撤回)はできないと解すべきである。

従つて、抗弁(一)は、知英が被告補助参加人福原秀夫に本件土地を譲渡したかどうかについて判断するまでもなく、失当である。

(二)  抗弁(二)については、その成立の真否はともかくとして、乙第一号証の不動産贈与契約証書と題する書面が存し、それには被告が主張する昭和三八年一二月一五日付で、庄一郎が母である被告福原まつに不動産を贈与する旨が記載されている。しかしその不動産の特定については、第一項で庄一郎名義となつている不動産、第二項で東京地方裁判所(高等裁判所の誤記と思われる)昭和三〇年(ネ)第二〇二八号事件で所有権確認を求めている不動産、とうたい、更にそれぞれ別紙の目録を添付して具体的に特定しているのであるが、本件土地はそのいずれにも含まれていないことが明らかである。ただ、その第一項の末尾に括弧で囲んだ(和解により取得した私の一切の権利を含む)なる文字が存するのであるが、それが本件土地に関するものであるとしても、後日挿入された文字であることは、その記載の位置、インクの色から歴然としていて、少くともその部分が庄一郎の意思に基いて挿入されたものとみるのは甚だ疑問である。もし庄一郎の意思に基くものならば、他の不動産の表示方法と同じように、別紙目録を添付した筈である。証人福原五郎、同福原秀夫の各証言中には、被告の主張にそう部分があるが、右証言は、本件土地の外福原家先祖からの所有土地全体に関するものであつて、本件土地に関する証言として必ずしも適切でないばかりか、当時は本件土地について和解調書(甲第一号証)が存在し知英の所有とされていたのであり、その点と前記乙第一号証に関する認定事実に照らすとき、右の証言はにわかに措信することができない。そして外に被告の前記主張を認めるに足る証拠はない。

四  以上認定のとおりであつて、原告らの本訴請求は正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項を適用したうえ、主文のとおり判決する。

(裁判官 高橋金次郎)

(別紙)物件目録

第一 千葉県君津市西日笠字太郎三七〇番

田 三五三平方メートル

第二 同所三七一番

田 二五一五平方メートル

第三 同所三七三番

田 一三八平方メートル

第四 同所三七七番一

田 一三五八平方メートル

第五 同所三七九番一

田 二〇四平方メートル

第六 同所三八一番

田 二八〇平方メートル

第七 同所三八二番

田 一五八平方メートル

第八 同所三八七番

田 六二一平方メートル

第九 同市西日笠字北台二六〇番

畑 五四二平方メートル

第一〇 同市西日笠字太郎三七七番二

畑 二五四平方メートル

第一一 同所三八五番

宅地 四七九・三三平方メートル

第一二 同所三八六番一

田 五三八平方メートル

第一三 同所三七四番

畑 一二五平方メートル

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