東京地方裁判所 昭和47年(借チ)1027号 決定
〔主文〕申立人が相手方に対し金二四万円を支払うとことを条件として、別紙目録(三)記載の増改築をなすことを許可する。
申立人は前項の増改築をなすについて、増改築部分の軒先が私道にかからないようにしなければならない。
本裁判確定の月の翌月から本件借地契約の賃料を一ケ月金四、〇〇〇円と定める。
〔理由〕(当裁判所の判断)
一 本件の資料によれば、……本件増改築が土地の利用上相当であることが認められるので、後記財産上の給付をなすことを条件に本件申立を認容すべきである。もつとも、相手方は、本件増改築を許可する場合、増築部分の軒先が私道にかからないよう配慮されたい旨主張するので、申立人に対し、この点の配慮を命ずる。
二 附随処分
申立人は本件増改築許可の裁判により借地を従前より効率よく利用することができることとなり、それに応じて利用利益が増加する。利用利益すなわち土地利用による収益の増加は改築建物が賃貸家屋である場合には賃料収入の増加として顕著に現われるが、自巳使用の住宅の場合でも居住の快適性等から潜在的な収益増を考えることができる。そして、土地利用の対価は一般に利用収益のなかから支払われ、収益性の高い土地の利用対価は高く、収益性の低い土地の利用対価は安いのが通常であり、借地の利用効率の増大により収益の増加がある場合には賃借人は賃貸人にその一部を支払うのが衡平に合するというべきである。
鑑定定委員会は、増改築によつて生ずる建物の耐用年数の延長による借地期間の延長に着目し、慣行化しつつあるとする更地料率(借地権価格の一〇%)を乗じて、財産上の給付を算出すべき旨の意見書を提出した。
しかしながら、借地契約の際更新料を支払うという慣行がどの程度成熟しているのか、その額は何を基準に算定するのか必ずしも明らかでないうえ、法律上、更新料の支払は契約更新の条件ではない。本件の資料によれば、申立人と相手方は更新料支払について交渉をもつたが合意に達していないことが認められ、この事実からしても、双方が納得できる更新料額の算定方法は未だ確立していないものと思われ、いずれにしても、更新料を支払うか否か、その額をいくらにするかは当事者間の合意に委ねるべく、借地非訟手続における財産上の給付額算定の根拠にはなしえない。また、建物の耐用年数の延長は現存建物が通常の補修をなしてもなお朽廃時期が差しせまつているような場合は格別、本件のように残存耐用年数が相当長い場合には双方の利害にさして関係するものとは考えられない。右の点は前記有効利用増の算定の際にその一要素として考慮すべきものである。
ところで、土地の有効利用度の増分の算定は必ずしも容易ではない。そこで、当裁判所は、従前の裁判例、鑑定委員会の意見書、借地条件変更の裁判の場合の給付額(借地の目的が非堅固建物の所有から堅固建物の所有に変更されると、土地の有効利用度は質的に上昇し、その増分は借地権価格の上昇分として明確に現われ、その上昇率は更地価格の一〇%前後といわれる)等を参酌し、増改築の規模建物耐用年数の延長度等に応じて更地価格に三%を限度としてそれ以下の率を乗じて算定することを一応の基準としている。
本件における財産上の給付額は増改築の規模等諸般の事情を考慮し、鑑定委員会の意見による本件土地の更地価格金九、四二二、〇〇〇円の約2.5%に当る金二四万円と定めるのが相当である。
賃料は鑑定委員会の意見に従い、本裁判確定の月の翌月から一ケ月金四、〇〇〇円と改定する。相手方代理人は右賃料額は地代家賃統制令による統制額より低額であり不当であると主張する。しかしながら、同令の統制額は賃料の最高限度を定めたもので、この最高限度額が適正賃料というわけではない。近時、大都市およびその週辺部の土地価格は人口の集中による土地需要の急増、交通機関その他の設備の開発等様々な要因により急騰を続けていることは公知の事実である。しかして、このような様々な要因がからまつて地価が上昇する状態にある大都市部において、土地価格を資本元本とみなしてそれに一定の利潤率を乗じて賃料を算出する方法は、妥当を欠くと思われる。けだし、右のような土地価格のうちには土地利用の対価を決定するための元本とみなすことが不当である部分が相当程度含まれていると考えられるからである。 (河村直樹)
目録<略>