東京地方裁判所 昭和48年(むのイ)729号 決定 1973年6月07日
被告人 氏名不詳者 (戸塚警察署留置一四号)
主文
本件準抗告を棄却する。
理由
一 本件準抗告の申立の趣旨および理由の要旨は「被疑者からその氏名として『戸塚署一四号』と記載された書面をもつてなされた勾留理由開示請求は適法であるのに、右請求が刑訴規則六〇条に違反することを理由としてこれを却下した原裁判は違法であるから、原裁判の取消しを求める」というのである。
二 ところで、本件準抗告の申立書には、やはり、申立人氏名として「戸塚署一四号」と記載されているので、かかる書面による準抗告の申立が適法かどうかをまず判断しなければならない。
刑訴法四三一条、刑訴規則六〇条によれば、被疑者が勾留理由開示請求却下の裁判に対し、準抗告を申し立てるには、少くとも申立人として署名即ち氏名を自書した請求書を提出することを要するものと解すべきところ、右の様式が必要とされる所以は、準抗告手続を厳格丁重にして過誤のないようにするためであり、また、被疑者といえども訴訟法上の権利は誠実にこれを行使すべきことは刑訴規則一条二項に明定されているのであるから、氏名を自書することができない合理的理由がないのに、右要式に違反する書面によつてなされた準抗告の申立は不適法なものといわなければならない(最決昭和四〇年七月二〇日刑集一九巻五号五九一頁、最決昭和四三年五月一日民集二二巻五号一〇六一頁参照)。
これを本件についてみると、本件準抗告申立人の氏名としては、前記のとおり「戸塚署一四号」と記載されており、かかる記載がおよそ人の氏名に該らないことは明らかであるが、本件準抗告の申立書中には、申立人の氏名を自書することができない合理的理由はなんら記載されておらず、また本件被疑事件に関する勾留記録を精査しても右合理的理由は全く認められないから、本件準抗告の申立は、不適法なものといわざるを得ない。
三 よつて、本件準抗告の申立の理由につき判断するまでもなく、刑訴法四三二条、四二六条一項前段により、主文のとおり決定する。