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東京地方裁判所 昭和48年(モ)10754号 判決 1974年3月14日

債権者

有限会社木津屋ゴム工業

債権者

有限会社山藤ゴム工業

債権者

真田良春

債権者

岩田信秀

右四名訴訟代理人

辻村精一郎

債務者

橋本金属株式会社

主文

債権者らと債務者との間の当庁昭和四八年(ヨ)第五六七号仮処分申請事件について、当裁判所が昭和四八年三月八日になした仮処分決定を認可する。

訴訟費用は、債務者の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  債権者

主文同旨。

二  債務者

主文第一項掲記の仮処分決定を取消す。

本件仮処分申請を却下する。

訴訟費用は、債権者らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  申請の理由

(一)  被保全権利

1 債権者有限会社木津屋ゴム工業(以下、木津屋ゴム工業という)は、ゴム加工業を営むものであるが、昭和四五年七月二日、債務者から、別紙物件目録記載の建物のうち、北東部の一室、約五五、五四平方メートル(別紙添付図面部分)を、工場に利用する目的で賃借した。

債権者有限会社山藤ゴム工業(以下、山藤ゴム工業という)は、ゴム加工業を営むものであるが、昭和四三年七月初旬、債務者から、別紙物件目録記載の建物のうち、北東部の一室、約四四、六三平方メートル(別紙添付図面部分)を、工場に使用する目的で賃借した。

債権者真田良春は、板硝子加工業を営むものであるが、昭和四三年三月二一日、債務者から、別紙物件目録記載の建物のうち、北西部の一室、約一一五、七一平方メートル(別紙添付図面部分)の一部を、さらに、同四五年八月一一日右部分の残部をそれぞれ、工場に使用する目的で賃借した。

債権者岩田信秀は、機械加工業を営むものであるが、昭和四三年四月三日、債務者から、別紙物件目録記載の建物のうち、西部の一室、約五八、七八平方メートル(別紙添付図面部分)を、工場に使用する目的で賃借した。

2 債権者らは、いずれも債務者との右賃貸借契約締結に際し、これに附随して、債務者との間で「債務者は別紙物件目録記載建物附属の変電所から、債権者らの賃借部分である各工場まで現有引込配線を利用し、継続して電力を供給する。」旨の継続的電力供給契約(以下、電力供給契約という)を締結した。

3 よつて、債権者らは、いずれも債務者に対し、債務者との間の右電力供給契約に基づき電力供給債務の履行を求める権利を有する。

(二)  保全の必要性

債務者は、本件電力供給契約はいずれも終了したとして、債権者ら賃借中の各建物部分への送電を中止しようとしている。

債務者によつて、万一、電力の供給が中止されるならば、債権者らは、いずれも、工場の操業が不可能となり、甚大な損害を被るおそれがある。

(三)  本件仮処分決定

そこで、債権者らは、昭和四八年二月八日、東京地方裁判所に対し、債務者を相手方として、仮処分を申請したところ、これによる同庁昭和四八年(ヨ)第五六七号事件において、同裁判所は、債権者木津屋ゴム工業に金一五万円、同山藤ゴム工業に金一二万円、同真田良春に金二三万円、同岩田信秀に金二万円、それぞれ保証を立てさせたうえ、同年三月八日、「債務者は、債権者らに対し、別紙物件目録記載の建物部分(本判決の別紙物件目録記載の建物部分と同一)への送電を中止してはならない。」旨の仮処分決定(以下、本件仮処分決定という)を発した。

本件仮処分決定は、正当であるから認可されるべきである。

二  申請の理由に対する答弁

(一)  申請の理由(一)の1及び2の事実は、すべて認める。

同(一)の3の主張は争う。

(二)  同(二)の事実のうち、前段は認めるが、後段は否認する。

三  抗弁

1  本件電力供給契約には、電気料金の支払に関し、債権者らは、各賃借中の工場に設置された積算電力計によつて、電力及び電灯の種別に従つて計量されたそれぞれの使用電気量につき、東京電力株式会社が小口電力需給契約について定めた基本料金相当額、使用電気量に料金率(以下、小口料金率という)を乗じて算出した使用電力料金、使用電灯料金各相当額及び電気ガス税相当額を電気料金として、毎月、債務者に支払う旨の特約があり、右積算電力計の検針は毎月債務者側でこれを行い、右特約に則つて電気料金を算出のうえこれを債権者らに支払を請求し、集金することになつていた。

2  前項の特約による電力及び電灯についての各基本料金及び小口料金率(一キロワット当り料金)の月額(単位は円)は、別紙(一)ないし(一五)ノ基本料金及び料金率欄記載のとおりであつた。すなわち基本料金は、電力が木津屋ゴム工業につき、昭和四五年八月分は三九〇〇円、同年九月分以降は一万一七〇〇円、山藤ゴム工業につき、一万四四三〇円、真田良春につき、昭和四四年七月分から同四六年九月分まで、三万九〇〇〇円、同年一〇月分以降二万七三〇〇円、岩田信秀につき、七、五〇〇円であり、電灯は、木津屋ゴム工業及び山藤ゴム工業につき、三六〇円、岩田信秀につき五四〇円であつて、小口料金率は、一キロワット当り、電力が三円九二銭、電灯が一〇円一七銭であつた。なお、電気ガス税は使用電力料金及び使用電灯料金の各三パーセントである。

3  債権者木津屋ゴム工業の昭和四五年八月以降同四七年一二月までの間における各月の電力、電灯別の各使用電力量及び前示1、2に従つて算出した電気料金は、それぞれ別紙(一)ないし(三)の正の使用電力料欄及び請求金額欄に記載のとおりである。

債権者山藤ゴム工業の昭和四三年九月以降同四七年一二月までの間における各月の電力、電灯別の各使用電力量及び前示1、2に従つて算出した電気料金は、それぞれ別紙(四)ないし(七)の正の使用電力量欄及び請求金額欄に記載のとおりである。

債権者真田良春の昭和四四年六月以降同四七年一二月までの間における各月の電力、電灯別の各使用電力量及び前示1、2に従つて算出した電気料金は、それぞれ別紙(八)ないし(一一)の正の使用電力量欄及び請求金額欄に記載のとおりである。

債権者岩田信秀の昭和四三年九月以降同四七年一二月までの間における各月の電力、電灯別の各使用電力量及び前示1、2に従つて算出した電気料金は、それぞれ別紙(一二)ないし(一五)の正の使用電力量欄及び請求金額欄に記載のとおりである。

4  債務者は昭和四七年一二月ごろに至り、債務者側の計算違いにより、債権者らに対し、昭和四三年九月ないし昭和四五年八月以降毎月3で述べた電気料金のうち一部しか請求しておらず従つて該一部しか受領していないことに気付いた。別紙(一)ないし(一五)の受領金額欄記載の金額は、債務者が債権者らから受領した金額であり、別紙(一)ないし(一五)の請求金額(B)欄記載の金額と受領金額(A)欄記載の金額との差額すなわち別紙(一)ないし(一五)の差額欄記載の金額が、債務者の未だ支払を受けていない電気料金(以下、不足電気料金という)である。

そこで債務者は債権者らに対して、昭和四八年一月二二日、右不足電気料金が左記のとおりである旨を告げ、その経緯をも説明して、その全額の一括追加払を催告した。

木津屋ゴム工業

昭和四五年度分 八万二七三二円

昭和四六年度分 二六万一八九九円

(実際は 二六万一九〇〇円)

昭和四七年度分 三六万四八八二円

(実際は 三六万四八八一円)

計 七〇万九五一三円

山藤ゴム工業

昭和四三年度分 一万七三〇五円

昭和四四年度分 一四万五五三一円

昭和四五年度分 一五万九九〇七円

昭和四六年度分 一二万七一〇九円

昭和四七年度分 一三万四一二九円

(実際は 一三万八八九七円)

計 五八万三九八〇円

(実際は 五八万八七四九円)

真田良春

昭和四四年度分 一七万五一二九円

(実際は 一七万六六七二円)

昭和四五年度分 三三万三五一五円

(実際は 三四万〇四〇三円)

昭和四六年度分 三〇万〇五三五円

(実際は 三〇万八五七九円)

昭和四七年度分 三五万五〇一五円

(実際は 三五万八五五三円)

計 一一六万四一九四円

(実際は 一一八万四二〇七円)

岩田信秀

昭和四三年度分 二四五六円

昭和四四年度分 二万八一〇二円

昭和四五年度分 二万三九八二円

昭和四六年度分 二万二五九九円

昭和四七年度分 一万九五一二円

計 九万六六五一円

その後債務者は、債権者らに対し内容証明郵便をもつて、昭和四八年三月一〇日までに右の不足電気料金の追加払するよう重ねて催告するとともに、若し同日までにその支払をしないときは、本件電力供給契約を解除する旨の意思表示をし、右意思表示は、債権者山藤ゴム工業同真田良春及び同岩田信秀に対しては、同月三日に、また債権者木津屋ゴム工業に対しては、同月七日にそれぞれ到達した。なお右追加払催告にかかる不足、電気料金の中には、計算違いのため、実際のそれと若干相違したものがあるが、その相違は僅少であるから、右催告が本件電力供給契約解除の前提となり得るものであることに消長はない。

5  よつて、同年三月一〇日の経過をもつて、債務者と債権者らとの間の本件各電力供給契約は、いずれも解除され将来に向つて効力を失つた。

四  抗弁に対する答弁

(一)  抗弁1の事実は、否認する。

使用電気料金は、東京電力株式会社が大口電力需給契約について定めた料金率で算出する約束であり、電気ガス税相当額の支払約束はなかつた。

(二)  同2及び3の事実も否認する。

(三)  同4の事実のうち債務者が内容証明郵便によつて本件電力供給契約解除の意思表示をなし、それが債務者主張の日に債権者らに到達したことは認めるが、その余は否認する。

五  再抗弁

債務者に対する電気料金の支払はすべて済んでいるものと信じ、その前提に立つて企業経営をしてきた債権者らとしては、債務者から突如として五年ないし三年も遡つた多額の不足電気料金の一括追加払を催告されて困惑した。それで債権者らは、はじめて右催告を受けたところ債務者に対し、右電気料金額を相当減額するか若しくは相当長期にわたる割賦支払を認めてくれるよう求めたが、債務者はこれを拒否した。

六  再抗弁に対する答弁

再抗弁の前段は否認し、後段は認める。

第三  疎明関係<省略>

理由

一被保全権利について

(一)  債権者らが、それぞれその主張の日、又はその主張のころ、債務者から本件建物のうち、その主張の部分を工場として使用する目的で賃借したこと、その際に、債権者らはいずれも債務者との間で、その主張のような内容の継続的電力供給契約を締結したことは、当事者間に争いがない。

(二)  そこで債務者の解除の抗弁について判断する。

1  <証拠>を総合すると、抗弁1(電気料金の算定方法及び支払、集金についての特約ないし慣行)の事実が一応認められる。

2  <証拠>を総合すると、抗弁2(債権者別基本料金、小口料金率等)及び3(備権者別使用電力量及び電気料金)の各事実が疎明される。

3  前顕証拠及び<証拠>並びに弁論の全趣旨によれば、債務者は、昭和四七年一二月ころになつて昭和四三年九月分から、債務者の経理事務等担当の係員が電力計の検針結果を電気料金台帳に転記する際に、使用電力量の数字を一桁少く記載し、そのため過少に誤つた数字を基礎として算出した毎月の電気料金を債権者らに請求してきたことを発見したこと、債務者が債権者らから、昭和四三年九月分ないし昭和四五年八月分以降昭和四七年一二月分までの電気料金として受領済の金額は別紙(一)ないし(一五)の各受領金額欄記載のとおりであり、債務者が未だ支払を受けていない不足電気料金額は、別紙(一)ないし(一五)の各差額欄記載のとおりであること、昭和四八年一月二二日ころ、債務者は、当時債務者から債権者と同様に建物の一部を工場として借り受けて債務者から電力の供給を受けていた債権者らを含む九三名に対し、昭和四七年一二月分までの不足電気料金の全額を一括して追加払するよう催告したが、その際、債権者らに対しては債務者ら主張のとおりの催告をしたことが疎明せられ、その後、債務者が、債権者らに対し、内容証明郵便をもつて昭和四八年三月一〇日までに前示催告にかかる不足電気料金の追加払をするよう重ねて催告するとともに、若し同日までにその支払をしないときは本件電力供給契約を解除する旨の意思表示をし、右意思表示が債務者主張の日にそれぞれ債権者らに到達したことは当事者間に争いがない。

4  そこで債権者らの再抗弁について考えてみる。

本件電力供給契約による毎月の電気料金は、債務者側で債権者らの各賃借工場備付の積算電力計の検針をなし、これに基づいて債務者側で電気料金の額を算出のうえ、債権者らに請求し、集金していたものであることは前認定のとおりであるが、右のとおりとすると、債務者から毎月電気料金の請求を受けた都度その支払を済ましてきた債権者らとしては、或いは請求を受ける電気料金が廉いと思つたことがあるかも知れないが、少くとも、その本来の履行期の経過後一年以上も経過した電気料金については、全部支払済みであると信じ、あるいは、今後、その追加払の催告を受けることなどはよもやあるまいと信じ、その前提のもとに事業経営をしてきたであろうことは容易に推測できることであるし、債権者らが昭和四八年一月二二日に債務者から突如として四年三ケ月ないし二年四ケ月も遡つた而も相当多額の不足電気料金があることを告げられ、その一括追加払を催告されて驚き且つ困惑したであろうことも亦容易に推測できることである。他方、債務者が前叙のように相当長期間にわたり、過少の電気料金しか請求しなかつたのは債務者側の過失に因るものであることは前認定の事実関係から明らかである。以上のような事実関係のもとにおいては、信義則に照らしても、はたまた衡平の観念からしても、債権者らは、債務者に対し、前示の不足電気料金のうち、少くとも昭和四六年度分以前の分の支払については、相当の期間の猶予を求めることができるものと解するのが相当である。

債権者らが債務者から昭和四八年一月二二日ごろ不足電気料金の一括追加払を催告されたのに対し、そのころ右電気料金額を相当減額するか若しくは相当長期間にわたる割賦払を認めてくれるよう債務者に要求したことは当事者間に争いがなく、債権者らの右要求の中には右電気料金の支払猶予を求める意思表示が含まれているものと解されるから、前説示の法理により、前記不足電気料金のうち、少くとも昭和四六年度分以前の分についての支払は相当期間猶予されたものというべく、前示諸般の事情を勘案すれば、その猶予期間は、右意思表示のなされたときから少くとも二ケ月よりは短くない期間と解するのが相当である。しかして<証拠>によれば、かりに債権者らが債務者の前示催告にかかる不足電気料金のうち昭和四七年度分だけを提供したとしても、債務者はこれを受領しなかつたろうと推認される。右のとおりとすると、前記不足電気料金の全部についてなされた債務者の前示不足電気料金の催告はいずれも、本件電力供給契約を解除するための前提として有効なものということはできず、従つてその余の判断をなすまでもなく、債務者のした前示解除の意思表示は無効のものといわざるを得ない。

5  右のとおりであるから、債務者の本件電力供給契約の解除の抗弁は、失当である。

(三)  以上のとおりであるから、債権者らが、本件電力供給契約に基づいて、債務者に対し、電力供給債務の履行を求める権利については、一応疎明があることになる。

二保全の必要性について

債権者真田良春の本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、債権者らは、いずれも債務者のみから電力の供給をうけて工場を操業しているものであつて、送電を打ち切られると操業が事実上不可能となることが認められ、そのような事態になれば債権者らは、いずれも甚大な損害を被るおそれのあることが認められる。

従つて、債権者ら主張の保全の必要性についてはこれをゆうに肯認できる。

三結び

申請の理由(三)前段(本件仮処分決定)の事実は、本件記録上明らかであるが、以上のとおりであつて債権者らの本件仮処分申請は理由があるから、本件仮処分決定をそのまま認可することにし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(宮崎富哉 舟橋定之 中条秀雄)

<物件目録、別紙(一)ないし(一五)省略>

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