大判例

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東京地方裁判所 昭和48年(ヨ)2543号 判決

一 疎明資料によれば、債権者が本件特許権の特許権者であり、且つ本件実用新案権の実用新案権者であることが疎明される。

二 まず、本件特許発明と本件チエン装置とを対比する。

(一) 前認定によれば、本件特許発明の特許請求の範囲は、本件特許公報の該当項記載のとおりである。

(二) 本件特許公報によれば、本件特許発明は、次のとおりの構成要件に区分することができる。

(A) チエンを構成する駒の連結軸の両端を長短延長して上下方向に向け、

(B) 上方の延長軸部にボールを挾んで支持軸を挿嵌すると共に、

(C) 延長軸部にロールを取付けて固定壁又は底板上に当接し、

(D) 且つ駒の上下板の非軸方向の一側又は両側を延長して固定ガイドに噛ませる、

(E) バフ研磨機における走行チエンの支持装置。

(三) 本件チエン装置を示す別紙目録(二)の記載によれば、本件チエン装置は、本件特許発明の構成要件(D)を充足しないものと認められる。すなわち、本件特許公報によれば、本件特許発明の特許請求の範囲の項には、前認定の構成要件(C)、(D)の構成が明記されており、また発明の詳細な説明の項にも、実施例に即して、右構成を記載したうえ、右構成を採用したことによる作用効果として、「本発明走行チエンは、壁面から突出する固定ガイド8に駒1の上下板延長部6、6を噛ませて浮かし、且つ駒1の連結軸2の上下延長軸部に嵌挿するロール10、10´が両側の固定壁11に当接するを以つてホイル間の間隔が長くともチエンは弛緩することなくまた台7に触れることなくして直進する。」(本件特許公報一頁1欄二九行目ないし2欄一行目)と記載され、更に「実施例は固定ガイド8とこれを噛む上下板延長部6、6を一側にのみ設けたが仮線にて示すように他側も延長13、13´にて固定ガイド8´を噛むようにすることもチエンを安定する上でよい。」(同一頁2欄一五行目ないし一八行目)と記載されているところであつて、本件特許発明が駒の上下板の非軸方向の一側又は両側を延長して固定ガイドに噛ませる構成を必須の構成要件とするものであることは明らかである。これに対し、別紙目録(二)の記載によれば、本件チエン装置が右構成(構成要件(D))を欠き、ひいて本件特許発明の作用効果と同一の作用効果を奏しないことも明らかである。

債権者は、本件チエン装置のロール(10)、(10)´は駒(1)の横倒れを防止して支持軸(4)を直立形に保持するものであるから、駒(1)の一部とみなし得、本件特許発明の駒の上下板の延長部と同義であり、本件チエン装置は本件特許発明の構成要件(D)を充足する旨主張する。しかしながら、作用効果自体に特許が付与されているのでないことはいうまでもなく、仮に本件チエン装置のロール(10)、(10)´が本件特許発明の構成要件(D)がもたらす作用効果と同一の作用効果を奏するとしても、そのことから直ちに本件チエン装置が同構成要件を充足するものとはいえないところ、前説明のとおり、本件チエン装置は、本件特許発明の構成要件(D)を欠き、従つて本件特許発明の作用効果との同一の作用効果を奏しないことも明らかであるから、いずれにせよ債権者の右主張は理由がない。

そうすると、その余の点について判断するまでもなく、本件チエン装置は本件特許発明の技術的範囲に属しないものというべきである。

三 次に、本件考案と本件バフ研磨機とを対比する。

(一) 前認定によれば、本件考案の実用新案登録請求の範囲は、本件実用新案公報の該当項記載のとおりである。

(二) 本件実用新案公報によれば、本件考案は、次のとおりの構成要件に区分することができる。

(a) 駆動チエンに支持されて回転自在に直立する多数の軸棒の直線走行部分の両側に、軸棒の中間点上を一端にして上下異なる方向に傾斜するバフ(2、2´)(番号は本件実用新案公報記載のものを示す。本件考案につき以下同じ。)を近設し、

(b) 且つ両バフに軸棒の中間から端部に向う回転を付与した、

(c) バフ研磨機。

(三) 本件バフ研磨機を示す別紙目録(一)の記載によれば、本件バフ研磨機は、本件考案の構成要件(a)、(b)のいずれをも充足しないものと認められる。すなわち、本件考案は、前認定のとおり、バフ2、2´を軸棒の中間点上を一端にして上下異なる方向に傾斜して設け、且つ両バフに軸棒の中間から端部に回転を付与した構成であるのに対し、本件バフ研磨機では、別紙目録(一)の記載によれば、バフ(2)、(2)´は軸棒(1)の直線走行部分の両側に、×字状に傾斜させて設けられ、且つ両バフに反時計方向の回転を付与した構造であつて、両者はその構成を異にする。従つてまた、本件実用新案公報によれば、本件考案は、右構成を採用したことにより、「バフ2、2´間を通過する過程にて被研磨体は周面全面をきれいに研磨されるが、バフ2、2´はそれぞれ、被研磨体の中間より上下端部に向けて接触回転するので、被研磨体の上下端部、特に上端角は従来のように垂れることがなくなり、かどの立つたきれいな研磨が行われることとなる。また、バフ2´は中間から上端に向けて接触回転するために、被研磨体を軸棒より浮き上がらせる作用を働らくも、他方のバフ2が上から下に向けて被研磨体を押しつけるために、被研磨体は浮き上がることなく、従つて研磨中に軸棒1より抜出するが如きことも防止される効果がある。」(本件実用新案公報一頁2欄七行目ないし一九行目)という作用効果を奏するというのであるが、本件バフ研磨機では、バフ(2)、(2)´を通過する過程で被研磨体全体がバフ(2)、(2)´の両方によつて研磨され、またバフの回転により、別紙目録(一)記載の図面その一の第2図の(イ)、(ロ)の場合にはバフ(2)、(2)´が中間から端部に向う回転をしているといえるが、(ハ)の場合には逆に端部から中間に向う回転を付与しており、その場合垂れを生ぜしめないために頭押え棒(3)が設けられていることが認められるのであつて、両者はその構成の相異から作用効果も異にするものであることが明らかである。

債権者は、本件バフ研磨機の×字状のバフ(2)、(2)´を近設する点は、交叉点で見ると軸棒(1)の中間点上を一端にして上下異なる方向にバフ(2)、(2)´を傾斜近設した配置になるから、本件考案の構成要件(a)を充足する旨主張する。しかしながら、右主張は軸棒の走行中のある時点をとらえて主張するものであるところ、本件考案の構成要件(a)のバフ(2、2´)の近設というのは、同構成要件(b)及び前認定の本件考案の「バフ2、2´はそれぞれ、被研磨体の中間より上下端部に向けて回転するので、」という作用に照せば、軸棒の走行中のある時点をとらえた場合のバフの配置をいうのではなく、本件考案の右作用を奏するような配置、すなわち本件実用新案公報の第二図記載のような配置を意味すると解するほかはない。また、本件実用新案公報には、債権者主張のようになるバフの配置をも本件考案のバフの配置に含まれることを窺わしめるに足りる記載は何ら存しない。債権者の右主張は理由がない。

また、債権者は、本件バフ研磨機のバフ(2)、(2)´は両端にあるハンドルで本件実用新案公報第二図と同じ配置にすることが極めて容易である旨主張する。しかしながら、本件バフ研磨機のバフ(2)、(2)´が右主張のとおり配置されて使用されているとの疎明はない(別紙目録(一)も、そのように配置されているものを含む記載にはなつていない。)。債権者の右主張は理由がない。

更に、債権者は、(b)´の×字状の配置は、本件実用新案公報第二図のものの置換均等である旨主張する。しかしながら、前説明のとおり、本件考案と本件バフ研磨機とは、その構成を異にし、且つ作用効果も異にするものであるから、技術的思想を異にし、既にその点において、債権者の右主張は理由がない。

なお更に、債権者は、バフの回転方向に関し、本件バフ研磨機のバフ(2)、(2)´の回転方向は電動機の操作により正逆いずれにも可能である旨主張する。しかし、本件バフ研磨機が右主張のとおりのものであり、且つ本件考案の構成要件(b)にいう回転を付与するものとして債務者が使用しており、あるいは使用するおそれがあるとの点についての立証がない(別紙目録(一)も、債権者が右主張するようなものとしては特定されていない。)。債権者の右主張も理由がない。

本件バフ研磨機は、本件考案の技術的範囲に属しないというべきである。

四 以上のとおりであるから、本件仮処分申請は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

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