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東京地方裁判所 昭和48年(ワ)1043号 判決 1974年11月26日

原告

佐久間重次

ほか一名

被告

野辺公一

ほか二名

主文

壱 被告野辺公一、同野辺一男は各自原告らそれぞれに対し八百六拾弐万五千円および右各金員のうち七百八拾四万五千円に対する昭和四拾七年九月壱日から各支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

弐 被告住友海上火災保険株式会社は原告らそれぞれに対し各五百万円およびこれに対する昭和四拾八年弐月弐拾弐日から各支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

参 原告らの被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

四 訴訟費用は被告らの負担とする。

五 この判決は、主文第壱、第弐項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の申立

一  原告ら

被告野辺公一、同野辺一男は各自原告らそれぞれに対し八、六五〇、〇〇〇円および右のうち各七、八七〇、〇〇〇円に対する昭和四七年九月一日から各支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

被告住友海上火災保険株式会社は原告らそれぞれに対し各五、〇〇〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和四七年九月一日から各支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

との判決ならびに仮執行の宣言を求める。

二  被告ら

原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決を求める。

第二当事者の主張

一  原告ら(請求原因)

(一)  事故の発生

佐久間英次(以下被害者という。)はつぎの交通事故(以下本件事故という。)によつて事故発生の約四七分後に死亡した。

1 発生日時 昭和四七年八月二日午後一一時四五分頃

2 発生地 埼玉県大宮市日進町三丁目四二二番地先道路上

3 加害車 普通乗用自動車(練馬五五ふ八五四八号、以下被告車という。)、運転者 被告野辺公一(以下被告公一という。)、同乗者 被害者

4 事故の態様 被告公一が被告車を道路中央の、路面より低くなつた分離帯に乗り入れるとともに、被告車が横転し始め、その勢いで被害者が車外へ投げ出され、脳挫傷の致命傷を負つた。

(二)  責任原因

1 被告野辺一男

同被告(以下被告一男という。)は、被告車を所有し、被告公一にその使用を許していたから、被告車を自己のため運行の用に供していた者として、自賠法三条により、本件事故によつて原告らに生じた損害を賠償する義務がある。

2 被告公一

同被告は、被告車を運転するに際し、前方不注視の過失によつて本件事故を発生させたから、民法七〇九条により、本件事故によつて原告らに生じた損害を賠償する義務がある。

(三)  損害

原告らは本件事故によつてつぎのとおり損害を蒙つた。

1 被害者自身の損害

(1) 得べかりし利益の喪失による損害 一五、三四〇、〇〇〇円

被害者は昭和二五年八月二四日生れの男子で、事故当時二一才であつた。同人は昭和四四年三月に高校を卒業後父の経営する個人商店(砥石、工具等の販売業)の従業員として稼働していたもので、本件事故に遭わなければ、事故のあつた月の翌月である昭和四七年九月一日から昭和八八年八月三一日までの四一年間稼働し、別表年間収入欄記載の金額を下らない収入を得る筈であつた。右の稼働期間中税金を含めた生活費を要するが、その額は別表年間生活費欄の金額を上廻わることはないから、これを当該年度毎に控除し、各年度の収入額は年度の末日に発生するものとし、事故日の翌日以降の日である昭和四七年九月一日から民法所定年五分の割合による中間利息をホフマン式で控除して昭和四七年八月三一日の現価を算出すると前記金額を下らない。

(2) 慰藉料 二、〇〇〇、〇〇〇円

被害者が死亡によつて蒙つた精神的損害に対する慰藉料としては前記金額が相当である。

2 原告らが相続取得した債権額 各八、六七〇、〇〇〇円

原告佐久間重次は被害者の父、同佐久間けいはその母であり、被害者の法定相続人であるから、被害者の右1(1)、(2)の損害についての賠償債権一七、三四〇、〇〇〇円を法定相続分(各二分の一)に応じて前記金額ずつ相続により取得した。

3 原告ら固有の損害

(1) 慰謝料 各一、五〇〇、〇〇〇円

原告らは生涯被害者と生活を共にすることができなくなり、寂しい毎日を過している。原告らの精神的損害に対する慰謝料は各一、五〇〇、〇〇〇円が相当である。

なお、前記被害者の死亡慰謝料の相続取得が認められないときは、原告らの慰謝料として各二、五〇〇、〇〇〇円を請求する。

(2) 葬儀費 各二〇〇、〇〇〇円

原告らは被害者の葬儀のため昭和四七年八月三一日現価にしてそれぞれ前記金額を支出した。

4 損害の填補 各二、五〇〇、〇〇〇円

原告らは本件損害の填補として各二、五〇〇、〇〇〇円の弁済を受けた。

5 弁護士費用 各七八〇、〇〇〇円

原告らは被告公一、同一男各自に対し各七、八七〇、〇〇〇円の損害賠償債権を有するところ、同被告らは任意の支払をしないので、原告らは右債権の取立のため本訴請求手続の遂行を弁護士である原告ら訴訟代理人坂根徳博に委任し、その費用および報酬として一審判決言渡の日にその認容額の一割を下らない額を支払う旨約した。したがつて原告らの弁護士費用額は前記各金額を下らない。

(四)  被告住友海上火災保険株式会社(以下被告保険会社という。)に対する請求

1 債権者代位権の行使

原告らは既述のとおり被告公一、同一男各自に対し各七、八七〇、〇〇〇円の損害賠償債権を有するところ、これを保全するため、被告公一および同一男が被告保険会社に対して有する後記保険金請求権を、これを行使しない同被告らに代位して行使する。民法四二三条一項にいう「債権を保全するため」とは、本件に即していえば、被告公一あるいは同一男が原告らに対する右金銭債務を弁済するのに十分な資力を有しないことを要する趣旨ではなく、原告らが右被告らの保険金請求権を代位行使することが、その損害賠償債権を実現するのに役立ちプラスになる関係があれば足りると解すべきで、本件では右の関係が認められる。

なお、債権者代位権の行使の要件として、債務者が当該債権を弁済するのに十分な資力を有しないことを要するとしても、本件において、被告公一、同一男は原告らの本件損害賠償債権を弁済するに足りる資力を有していない。

2 保険契約の締結

被告保険会社は、被告一男との間において、被告車について被告一男を記名被保険者、本件事故発生日を保険期間内、保険金額を一〇、〇〇〇、〇〇〇円とする自動車保険(対人賠償)契約を締結した。被告公一は、記名被保険者である被告一男の承諾を得て被告車を運転していたから、右保険契約に適用される自動車保険普通保険約款(昭和四〇年一〇月改訂後のもの)の定めにもとづいて、本件保険契約の被保険者となる。

3 保険金支払義務の発生とその履行期の定め

右保険契約において、被告保険会社の保険金支払義務は被保険者である被告公一、同一男が損害賠償義務を負担すると同時に発生し、かつ、その日を履行期とする(不確定期限付)旨定められた。

4 履行遅滞

右のとおり、被告保険会社は、原告らに対し、被告公一、同一男の損害賠償義務の発生日を履行期とする保険金支払義務があるところ、責任保険制度は保険金によつて被保険者の損害賠償義務を履行することを目的としているから、一般的に被保険者に最終的な負担を残さないことが望まれ、その趣旨からすると、民法四一二条二項の規定にかかわらず、被告保険会社は保険金支払義務の履行期の到来(被告公一、同一男の損害賠償義務の発生)を知らなくても、そのときから履行遅滞に陥ると解すべきである。なお、保険金支払義務の履行遅滞による遅延損害金の支払義務については、保険契約における保険金額の制限を受けない。

(五)  結論

よつて、原告らは被告公一、同一男の各自に対し各八、六五〇、〇〇〇円および右のうち弁護士費用額を除いた各七、八七〇、〇〇〇円に対する事故発生日の翌日以降の日である昭和四七年九月一日から各支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金、被告保険会社に対し各五、〇〇〇、〇〇〇円とこれに対する右の昭和四七年九月一日から各支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告ら(請求原因に対する認否および主張)

請求原因(一)の事実は4を除いて認める。同4の事実中、被告車が横転して走行したことは認めその余は争う。

同(二)1の事実中、被告一男が被告車を所有し、被告公一に使用を許していたことは認め、同2の事実は争う。

同(三)の事実は4を除いていずれも不知。同4の事実は認める。被害者は、被告公一とは学生時代からの友人で、被告公一の他の友人三名と共に野沢温泉に遊びに行く途中本件事故に遭つたものである。よつて、被害者はいわゆる好意同乗者であるから被告らの賠償額は相当減額されるべきである。

同(四)1の事実は争う。債権者代位権の行使については(イ)債権者の債権を保全するために必要なこと、すなわち金銭債権の場合は債務者が無資力であること、(ロ)債務者が自らその権利を行使しないこと等の要件が具備することを要するところ、本件においては、被保険者らは無資力ではないし、また、右の債務者が自らその権利を行使しないというのは債務者がその権利を行使することができるにかかわらず行使しないときの意と解されるが、被保険者らの被告保険会社に対する保険金請求権は後記のとおり被保険者らの本件事故についての損害賠償額が確定して始めて行使することができるもので、賠償額が確定されていない現段階においては原告らの債権者代位権の行使はその要件を欠くものである。

同(四)2の事実は認める。

同(四)3の事実は争う。賠償責任保険契約にもとづく保険金請求権は、被保険者の被害者(損害賠償債権者)に対する損害賠償額が確定して始めて行使することができるものであり、被保険者および保険会社を共同被告とする併合訴訟によるとしても、保険会社に対し現在の給付を求める請求である限り、右要件を充たさないから、保険会社に対する請求は不適法である。本件において、前述のとおり、被告公一、同一男の原告らに対する損害賠償額は確定されていないから、原告らの被告保険会社に対する請求は不適法である。

三  原告ら(反論)

(一)  好意同乗

被告公一と被害者とが学生時代からの友人で、本件事故は他の友人らと共に野沢温泉へ遊びに行く途中に発生したことは認め、被害者が好意同乗者であるからとて損害賠償額を減額すべきであるとの主張は争う。

(二)  保険金請求権と賠償責任額の確定

賠償責任保険契約にもとづく保険金請求権は、被保険者の被害者に対する賠償責任額が確定して始めて行使することができることは争う。既述のとおり、保険金請求権は、被保険者が賠償義務を負担すると同時に発生し、かつ、その履行期が到来するものである。なるほど一般的にいえば、保険会社の保険金支払義務の存否は被保険者の被害者(賠償債権者)に対する損害賠償義務の存否にかかつているが、右賠償責任額は保険会社と保険金請求権者(加害者)との間で保険金請求手続内で確定すれば足り、加害者と被害者との間で判決、和解等によつて賠償責任額を決定することは要しない。

第三証拠〔略〕

理由

一  事故の発生

被害者が、昭和四七年八月二日午後一一時四五分頃埼玉県大宮市日進町三丁目四二二番地先路上において被告車に同乗中被告車が横転したことによつて受傷し、その約四七分後に死亡したことは当事者間に争いがない。

二  責任原因

(一)  被告一男

同被告は被告車を所有し、被告公一にその使用を許していたことは当事者間に争いがない。そうすると、被告一男は被告車を自己のため運行の用に供していた者として、自賠法三条により、本件事故によつて原告らに生じた損害を賠償する義務がある。

(二)  被告公一

1  事故の外形的事実

〔証拠略〕によればつぎのとおりの事実を認めることができる。

(1) 本件事故現場は国道一七号新大宮バイパス線上にある。右道路は現場付近では直線・平坦なアスフアルト舗装道路で、その状況の詳細はほぼ別紙図面のとおりである。右道路の中央分離帯は路面より一〇センチメートル以上低くなつた砂地で、極めて丈の低い雑草が生えている部分がある。現場付近では前後の見とおしは良く、夜間は道路脇の水銀灯による照明があるが、別紙図面<3>の地点付近は直近の水銀灯から約一二〇メートル離れていて暗い。なお、右道路の現場付近の最高速度は毎時六〇キロメートルである。

(2) 被告公一は、本件事故当日午後一〇時三〇分頃までに被告車に被害者(被告車の助手席に同乗)ほか三名を同乗させ、東京都内から野沢温泉方面に向い、本件事故発生の直前頃毎時八〇ないし一〇〇キロメートルの速度で本件事故現場手前の国道一七号線の車道幅員七メートルの部分(片側二車線)中、中央分離帯(幅員八・五メートルのアスフアルト舗装部分より若干低い砂地であることは前記のとおりである。)寄りの車線を被告車で走行していたところ、別紙図面<1>の地点から被告車が前記速度のまま突然右の方向へ曲進して右分離帯へ進入し、これとあい前後して被告車は左へ方向を転じ、右分離帯へ進入して約二〇メートル右分離帯内を進行した後車両前部を西側、後部を東側にして横転し、その後横転したまま数回にわたつて回転し、横転し始めた地点から約五〇メートル北側の分離帯内の砂地上に停止した(被告公一が、被告車の分離帯進入後停止までの間に、ハンドル操作あるいはブレーキを踏むなどの運転操作を行なつたと認めるに足りる証拠はない。)。被害者は被告車が右のとおり回転中に車外へ投げ出され、被告車の停止地点<3>から約一二メートル南側の右砂地上<2>に転倒し、その際致命傷である脳挫傷の傷害を負つたものである。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

2  被告車の故障等の有無

〔証拠略〕によれば、本件事故当日本件事故発生直前まで被告車にはエンジンの一時的不調を除いて(エンジンの不調によつてハンドル操作に困難を来し、それが本件事故の原因となつたとは認め難い。)、運転走行に支障を生ずるような故障はなく、東京都内から大宮市までの間順調に運行したことが認められる。

〔証拠略〕によれば、被告車の後部両車輪のタイヤは本件事故後においてはいずれもパンクしていたことが認められるが、〔証拠略〕によれば、被告車の車輪のタイヤのパンクは本件事故時(横転・回転時)の衝撃が原因である可能性が強いこと、被告車の車輪のタイヤはいわゆるチユーブレスと称する特殊タイヤで、パンク時のハンドル操作への影響が少ないものであることがそれぞれ認められる。これらによると、被告車の車輪のタイヤのパンクが本件事故の原因であるとは認め難い。

〔証拠略〕によれば、事故後においては、被告車の右前輪と右後輪とを車軸に締め付け固定させるクリツプボルトのネジがすべて緩んでいたこと、一般的に自動車の車輪のクリツプボルトのネジの緩みがあれば、それが原因でハンドルが一方向にとられることがありうることがそれぞれ認められるけれども、さらに〔証拠略〕によると、自動車の車輪の右ネジが運転走行中に震動等によつて緩むことはまずなく、本件事故後の被告車の場合と同程度のクリツプボルトのネジの緩みが、被告車の本件運行前からあつたとすると(〔証拠略〕によれば、被告車の前輪のクリツプボルトのネジの緩み具合は、ネジ山にして三つ位であつた。)、東京都内から大宮市まで概ね異常なく運行することはほとんど不可能であることが認められる。右各事実および〔証拠略〕を総合すると、本件事故後の被告車の車輪の右ネジの緩みは、事故による被告車の車体の変形によつて事故後に生じたものと認めるのが相当であるから、それは本件事故の原因たりえないことは明らかというべきである。

その他本件事故直前後において被告車に本件事故の原因となりうるような故障あるいは障害があつたと認めるに足りる証拠はない。

3  被告公一の過失

そこで、道路状況および事故態様に関する前記1(1)(2)の各事実および前掲各証拠ならびに被告車に本件事故原因となりうる故障あるいは障害があつたとは認めがたいこと等を総合すると、被告公一は、本件におけるようなアスフアルト舗装道路を高速度で自動車を運転走行するときは、充分に前方を注視したうえ道路状況に応じて適切にハンドル操作等を行なつて事故を未然に防止すべき注意義務があつたのに、最高速度を毎時二〇キロメートル以上を超える高速度で被告車を運行中前方注視を怠つたうえ、ハンドル操作を誤つた過失により、被告車を中央分離帯に進入させて本件事故を発生させたと認められ、右認定に反する被告公一の供述部分は、〔証拠略〕に照らし採用せず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

4  結論

そうすると、被告公一は、民法七〇九条により、本件事故によつて原告らに生じた損害を賠償する義務がある。

三  損害

そこで、被害者および原告らが本件事故によつて蒙つた損害額を算定する。

(一)  被害者の得べかりし利益の喪失による損害 一五、三四〇、〇〇〇円

〔証拠略〕によれば、被害者は原告らの長男であつて、本件事故当時二一才(昭和二五年八月二四日生れ)、健康であり、昭和四四年三月に東京大学教育学部附属高等学校を卒業した後父原告佐久間重次の営む砥石・工具の販売業に母原告佐久間けいと共に事故時まで約三年半の間従事し、とくに原告佐久間重次とともに仕入、販売、配達の業務を遂行してきたこと、原告佐久間重次が昭和四六年一月から一二月までの間右営業により得た売上高約一七、八九〇、〇〇〇円から売上原価約一六、三二〇、〇〇〇円、経費約一、六二〇、〇〇〇円を控除した残額は約一、九四〇、〇〇〇円であり、これより原告佐久間けいと被害者との専従者給与各六四〇、〇〇〇円とその他貸倒引当金等を控除した所得金額は約六四〇、〇〇〇円となること、原告佐久間重次は被害者に対しこのほかに出張費として約一二〇、〇〇〇円を支給したこと、さらに昭和四七年一月から一二月までの間の売上高約一八、六〇〇、〇〇〇円から売上原価約一四、五〇〇、〇〇〇円、経費約一、四七〇、〇〇〇円を控除した残額は約二、六七〇、〇〇〇円であり、これから原告佐久間けいの専従者給与七〇〇、〇〇〇円と被害者(但し死亡までの約七か月分)の専従者給与約四九〇、〇〇〇円(年額約八六〇、〇〇〇円)、その他貸倒引当金等とを控除した所得金額は約一、四七〇、〇〇〇円であること、原告佐久間重次は被害者に対し出張費として約一〇〇、〇〇〇円を支給したことが認められる。

さて、被害者に支払われた給与額は、その家業手伝いに対する報酬であるが、被害者が長男で高卒後直ちに家業に従事していることからみて、被害者は将来家業を継ぐことを予定されているというべく、かつ被害者は独身で父母たる原告らと同一世帯中に生活していたうえ、右給与額も税務申告に伴う制約の下にあるわけであるから、その額すなわち給与額と出張費合計額昭和四六年中七六〇、〇〇〇円昭和四七年中の七月まで約五九〇、〇〇〇円が、被害者の労働能力を正当に評価したものか否かは問題であり、過少評価の疑いがある。さりとて被害者の労働能力を正当に評価すべき証拠は見当らない。〔証拠略〕が採用できないことは前記の判示から自ら明らかである。

そこで〔証拠略〕によれば、労働省調査賃金構造基本統計調査第二表産業計、企業規模計、男子高卒者二一才の平均給与額は昭和四六年において約七九〇、〇〇〇円、昭和四七年において約九二〇、〇〇〇円であることが認められる。この統計値は平均的労働者の労働能力の評価を示すものであつて、前記のように被害者の労働能力を正当に評価する証拠のないとき、とくに平均以下とはいえない被害者につき労働能力を低くみた税務申告上の所得を上廻るかかる統計によるのが相当と認められる。しかし、右金額は二一才の者の評価にすぎず、将来年功等による労働能力の向上をも見込まなければならないから、右統計に示された全年令平均給与額を稼働期間中毎年得るものとして計算評価すべきである。この際原告主張の年令階層別の平均給与額を用いて各階層別に計算することは繁雑に流れるのみならず、結論において全年令平均給与額を用いる方式と大差ないから、階層別計算方式はとらない。

〔証拠略〕によれば、被害者死亡時の昭和四七年の産業計、企業規模計、男子高卒者全年令平均給与額は約一、三〇〇、〇〇〇円であることが認められる。そして昭和四八年における右給与額が前年に比し約二〇パーセント増の約一、五四〇、〇〇〇円であること、昭和四九年におけるそれが、その前年に比し約三〇パーセント増の約二、〇〇〇、〇〇〇円であることは顕著といえる。よつて被害者の死亡後一年間における所得を一、三〇〇、〇〇〇円、その後さらに一年間のそれを一、五四〇、〇〇〇円、その後から六七才に達するまでの四三年間のそれを毎年二、〇〇〇、〇〇〇円とみるべく、被害者はその間生活費等として収入額の五割相当額を下らない費用を要するから、これを右収入額から控除し、ライプニツツ計算式によつて年五分の割合による中間利息を控除し、被害者の死亡による得べかりし利益の喪失による損害の現価を算出すると原告主張の前記金額を下らない。

原告らの主張にかんがみ特に付言する。中間利息控除は、労働能力評価のための重要資料算定の一方法にすぎないから、要は評価額が社会常識からみて妥当であれば足りる。この点につきライプニツツ方式と前記全年令平均給与額とをあわせるとき、被害者の労働能力の適正な評価に達しうるのであり、またこの方式はわが国経済社会の有力な金利慣行とも合致し合理性ありといえる。したがつて原告ら主張のホフマン方式を必ずしもとらなければならないものではない。

(二)  原告らが相続取得した債権額 各七、六七〇、〇〇〇円

〔証拠略〕によれば、原告佐久間重次は被害者の父、同佐久間けいは母で、原告らは被害者の法定相続人のすべてであることが認められるから、これによると、原告らは被害者の法定相続人として、被害者の(一)の損害賠償債権一五、三四〇、〇〇〇円を法定相続分(各二分の一)に応じて各七、六七〇、〇〇〇円を相続により取得したと認められる。

(三)  被害者の慰藉料

原告らは、被害者が本件事故によつて取得した慰藉料債権を相続により取得したと主張するが、交通事故による生命侵害の場合、死亡者本人に死亡による慰藉料債権が発生しかつ帰属することを認めうるとしても、慰藉料債権は精神的苦痛というその発生・程度等において極めて個人差のある損害に対する賠償債権で、それ自体高度に個人的・主観的色彩の強い権利であるから、その性質上被害者の一身に専属すべきものと考えられ、加害者が被害者の死亡前にその請求に応じて支払を約すなど、個人的・主観的色彩が減退し、通常の金銭債権に転化したと認められる特別な事情がある場合のほかは、被害者の死亡によつて消滅し、相続の対象とならないと解するのが相当である。

これを本件についてみると、被害者は事故の約四七分後には死亡したことは当事者間に争いがなく、前記特別の事情があつたと認めるに足りる証拠はないから、被害者の死亡による慰藉料債権は死亡と同時に消滅したと認められる。したがつて、原告らの前記主張は理由がなく、採用することができない。

(四)  原告らの損害

1  慰藉料 各二、五〇〇、〇〇〇円

原告らが、その長男として父母と共に家業である砥石・工具の販売業に従事していた被害者を本件事故で喪つたことによつて多大の精神的損害を蒙つたことは容易に推認することができ、被害者の年令、原告らの家族構成、本件事故態様、後記の被告公一と被害者との友人関係等本件記録に現われた諸事情を斟酌すると、原告らの右精神的損害に対する慰藉料は各二、五〇〇、〇〇〇円を下廻ることはないと認められる。

被告らは、被害者は被告車に好意同乗者として同乗していた間に本件事故に遭つたのであるから、原告らの損害額を減額すべきであると主張する。

被告公一と被害者とは学校時代からの友人で、本件事故は被害者らが、被告公一の他の友人三名と共に野沢温泉に遊びに行く途中に発生したものであることは当事者間に争いがない。ところで、〔証拠略〕によれば、本件事故当時被告車に乗つていたのは被告公一、被害者、右両名の学校時代からの友人である佐藤世紀、被告公一および右佐藤の友達二名であつたこと、当初被害者を除いた右の四名の者が野沢温泉へ自動車旅行する計画を樹てたが、右の四名の者のなかで運転免許を有する者は被告公一だけであつたことなどから、その後被害者を仲間に加え、同人に被告公一と交替で被告車の運転を行なわせる予定であつたこと、被害者は、被告公一らの右友達とは事故当日が初対面であつたこと、被告公一は事故当日被告車を運転し被害者ら四名の者を順次東京都内の自宅またはその付近で待ち合わせて同乗させ、そのまま本件現場まで運転走行してきたこと、この自動車旅行に要するガソリン代等は参加者全員の負担としたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

右の事実によると、被害者は被告公一らの誘いに応じて被告車の運転を行なう予定で被告公一らの旅行グループの一員に加えられたものというべきで、事故当時の被告車の運行が専ら被害者のためになされたとか、被害者が被告車について相当程度運行供用者性を有するなどの事情があつたと認めるに足らない。また現時においては勿論のこと、本件事故当時において、被害者、原告らと被告一男、同公一との間で慰藉料の算定に当りとくにこれを減額しなければならないような親密な友誼関係ありとも認められない。したがつて被害者は被告車の好意同乗者と認めることはできないから、被告らの右主張は採用することはできない。

2  葬儀関係費 各一七五、〇〇〇円

〔証拠略〕によれば、原告らは、被害者の葬儀を営み、昭和四七年八月九日までにその費用として四五〇、〇〇〇円以上を支出したと認められるが、被害者の年令、社会的地位、家族構成等の諸事情に鑑みると、右のうち三五〇、〇〇〇円(原告ら各一七五、〇〇〇円)が本件事故と相当因果関係に立つ損害と認められる。

(五)  損害の填補 各、二、五〇〇、〇〇〇円

原告らは本件損害の填補として各二、五〇〇、〇〇〇円の弁済を受けたことは原告らの自認するところである。

(六)  弁護士費用 各七八〇、〇〇〇円

以上のとおり、原告らは被告公一、同一男の各自に対し各七、八四五、〇〇〇円の損害賠償債権を有するが、〔証拠略〕によれば、原告らは右被告らから任意の支払を受けられないので、右債権取立のための本訴請求手続の遂行を弁護士である原告ら訴訟代理人坂根徳博に委任し、その費用および報酬として一審判決言渡の日にその勝訴額の一割相当額以上を支払う旨約したことが認められるが、本件審理経過、事件の難易、原告らの前記損害額に鑑みると、右のうち本件事故と相当因果関係に立つ損害額は原告ら各七八〇、〇〇〇円であると認められる。

(七)  合計額 各八、六二五、〇〇〇円

以上を合計すると原告らの有する損害賠償債権は各八、六二五、〇〇〇円となる。

四  原告らの被告保険会社に対する保険金請求

(一)  債権者代位

原告らは、被告公一、同一男の各自に対する本件損害賠償債権を保全するため、右被告ら各自に代位して被告保険会社に保険金の支払を請求する。これについては次のように判断する。

1  債権者代位権の要件としての無資力

(1) 債権者代位の制度は、債権者が債務者に属する権利を行使するのを許すことによつて、債権者の債権が満足を得るべき最後の保障である債務者の一般財産の散逸を防止し、もつて債権者の債権の保全を図ることを目的とするものであるから、債権者代位権の行使の一要件として債務者の一般財産が、債権者において代位行使しようとする権利の金額を除いては、債権者の債権を満足させるに足らない額であること、換言すれば債務者が無資力であること要すると解するのが相当である。

ところで、いわゆる特定債権、たとえば、不動産賃借人がその賃貸人に対して有する賃借権にもとづく不動産引渡債権等の保全のために、その債務者である不動産賃貸人が資力を有する場合においても、右債務者に属する権利たとえばその不動産所有権にもとづく明渡請求権を代位行使することが判例上容認されている。思うに、賃貸人が自己に属する権利を適切に行使せず、その権利不行使がひいてはその債権者である賃借人に対する関係で不動産引渡債務の不履行を生ぜしめるとき、賃借人は本来の債権の履行に代えて損害賠償債権(金銭債権、民法四一七条)を取得するが、不動産賃借権の性質に鑑み、右権利者に金銭債権である損害賠償債権を取得させるのみでは必ずしも適切な法的救済とはならない場合があることなどから、右のような解釈が特にかかる特定債権に限り例外的に認められているにすぎず、これを一般化できない。金銭債権は、その性質上特定物の給付を求めるものでなく、債務者の一般財産による満足(最終的には、債務者財産の換価・配当による。)を求めるものであるから、金銭債権を保全するためとは、かかる満足を得られないことのないため、すなわち債務者の無資力状態の改善のためということに帰し、原告ら主張のようにこれを債権の実現に役立ちプラスになるというような広い意味に解することはできず、したがつて特定債権とも同視できない。

無資力を要件とするとき、債権者は自己の債権の給付訴訟と債務者の権利の実現のための訴訟とを各別に追行するとの不利益をうけるとの主張につき考えるに、債務者無資力のとき、債権者は代位権を行使できるから、この批判は失当であり、債務者有資力のとき、債権者は債務者の一般財産につき、債務名義にもとづき差押により、債権の満足を得られ、あえて債務者に属する権利を代位行使する要をみないし、また債務名義取得前債務者に財産隠匿等のおそれがあれば仮差押によりこれを防止できるのであるから、必ずしも二つの訴訟を各別に追行しなければならないものとはいえず、この批判はあたらない。

(2) 本件におけるように、不法行為の加害者(損害賠償責任保険契約における被保険者かつ損害賠償義務者)、被害者(損害賠償債権者)、保険会社との関係に限つて任意保険金請求権の代位行使の当否を論ずることとする。

損害賠償責任保険(以下任意保険という。)の目的は、被保険者が将来第三者に対し損害賠償義務を負担する場合、これによつて生じた損害を保険金によつて填補するにある。この場合、賠償義務を負担した被保険者は、任意保険金債権を除いた自己の財産をもつて右義務を履行し、その後に任意保険金債権を行使し、右損害を填補することも、受領した任意保険金そのものをもつて賠償義務を履行することも可能であり、被保険者は必ず任意保険金そのものを賠償義務の履行に充てるべき法的義務を負わないし、また任意保険金をもつてまず満足すべき旨を賠償債権者に請求する法的権利も有しない、すなわち、賠償債権者の立場からみると、賠償義務者である被保険者の有する任意保険金債権から、他の債権者に優先して、賠償金の支払を受けうるものではなく、賠償義務者の任意保険金債権は結局のところその一般財産に組み入れられ、一般債権者の債権の満足にも充てられるべきものである。したがつて、賠償義務者について破産の宣告があつた場合には、賠償債権者は、任意保険金債権についても他の一般債権者と同順位において配当を受けうる地位にあるにすぎないのである。

他面不法行為(殊に交通事故)被害者保護の理念からみる限り、被害者等賠償債権者が加害者である被保険者の有する任意保険金債権につき、直接保険会社に請求する途を開けば、賠償債権者、賠償義務者、保険会社の三者の法律関係の決済を簡明ならしめ、被害者をして、賠償義務者の他の債権者とは全く別に事実上優先して迅速確実に、その権利を実現させうるのである。しかし、かような直接請求権を与えるには、それが右三者や他の債権者の利害に関する以上自賠務一六条、一八条、商法第六六七条のような規定を要するのであつて、かかる規定のない任意保険につき、直接請求権を認めることは立法論としてはともかく、解釈論としてはとりえない。

したがつて、賠償債権者が被保険者に属する任意保険金債権を代位行使する場合に限り特定債権とみて無資力を要件としないことは、結局解釈により民法四二三条の本来の作用を超えて、特定債権でないものを特定債権としたうえ、法律の認めない直接請求権を創設したのと同じ結果に帰し失当である。

保険会社は、保険約款にもとづき、被保険者が法律上の損害賠償義務を負担することによつて蒙むる損害を填補する責に任ずる(昭和四〇年一〇月改訂自動車保険普通保険約款一条本文)から、おそくとも被保険者の賠償債権者に対する損害賠償額が判決において確定されたときは保険金を支払うべき義務を負うものである。それにもかかわらず、原告らの主張のように、右保険金請求権の存否を争うことがあるとの事実は否定し難いが、それが保険約款上のいわゆる保険免責の主張にもとづくものである場合等は保険会社の正当な権利行使と評すべきであつて、被害者が二度の訴訟追行を強いられることも已むをえないところである。これを根拠に代位行使の要件から無資力を除外することはできない。

(3) 以上のとおり、金銭債権一般についても、不法行為被害者、加害者(被保険者)、保険会社間に限つて論じても、金銭債権者である被害者が債務者である加害者に代位して保険会社に対して任意保険金債権を行使するためには加害者が無資力であることを要すると解すべきである。

(4) 〔証拠略〕によれば、被告一男は、会社員であつて昭和四八年に給与等の年収四、九〇〇、〇〇〇円を得、東京都杉並区成田東二丁目三九番一〇号(被告らの住所地)に四九坪の土地およびその土地上の建物(土地の一坪当りの価格は少なく見積つても三〇〇、〇〇〇円は下らない。)を所有するほか、銀行預金、株式(双方を合せると二、〇〇〇、〇〇〇円以上に値する。)を有していること、被告公一は大学夜間部の学生で、昼間はアルバイトをして月収二〇、〇〇〇円ないし三〇、〇〇〇円の収入があるが、不動産等の資産を有しないことがそれぞれ認められる。原告らの被告公一、同一男に対する本件損害賠償債権額および右認定事実を総合すると、被告公一は、原告らの損害賠償債権を弁済するのに十分な資力を有しないと認められるが、被告一男は、前記の給与等の資産を有するから、原告らの本件損害賠償債権を弁済する資力がないとはいえない。そうすると、原告らの被告一男を代位しての被告保険会社に対する保険金請求は債権者代位権の行使の要件を欠くから不適法で、その余の判断をするまでもなく、棄却を免れない。

2  債務者の権利不行使

〔証拠略〕によると、本件事故についての示談の交渉過程で、被告公一はその母を通じて被告保険会社の保険代理店の担当者から、被害者の好意同乗を理由として保険金額が二ないし三割減額されると聞かされ、そのため原告らと被告公一らは示談交渉を打ち切つて、以来被告公一においても本件保険金請求権を行使していないことが認められ、右によれば、原告らは被告公一を代位して本件保険金の支払を訴求しうる地位にあるということができる。

被告らは、債権者代位権の行使の要件としての「債務者が権利を行使しない」とは、債務者が権利行使しうるのにこれを行使しないことを意味するのであるところ、本件において、賠償責任保険契約にもとづく保険金請求は、加害者(被保険者)の被害者(賠償債権者)に対する賠償責任額が確定されて始めてなしうるから、賠償責任額が確定されていない現段階では保険金請求することはできず、したがつて債権者代位権の行使の要件を欠くと主張する。

しかし本件賠償責任保険契約において被保険者(被告公一)と賠償債権者(原告ら)が当事者として、両者間で賠償責任額を確定しない限り、被告保険会社に対して保険金請求をなしえないと解すべき根拠はない。なぜなら、本件のように昭和四〇年一〇月改訂の自動車保険普通保険約款の適用を受けることが争いのない保険契約においては、右約款を通観すれば右保険金請求権は、被保険者である被告公一がその被害者に対する加害事故により損害賠償義務を負担すると同時に発生し、被告公一は右賠償額に応じて被告保険会社に対し保険金請求をすることができ、保険金請求のための右賠償額の決定は保険金請求手続内で被告保険会社と被告公一(保険金請求権者)との間でなせば足りると考えるべきであつて、右約款上右保険金請求のための賠償額決定にあたり被告公一(被保険者)と原告ら(賠償債権者)間の判決、和解等による確定を要すると解すべき根拠は見当らないからである。したがつて、被告らの右主張は採用することはできない。

(二)  保険金請求

被告保険会社は被告一男との間で被告車について被告一男を記名被保険者、本件事故発生日を保険期間内、保険金額を一〇、〇〇〇、〇〇〇円とする自動車保険(対人賠償)契約を締結したこと、被告公一は被告一男の承諾を得て被告車を運転していた者として、右保険契約の被保険者であることはいずれも当事者間に争いがない。

原告らは被告公一に対し本件事故による損害賠償として、各二、五〇〇、〇〇〇円の弁済受領分のほか、各八、六二五、〇〇〇円の債権を有することは既述のとおりであるから、右によれば、被告保険会社は原告らそれぞれに対し保険金各五、〇〇〇、〇〇〇円を支払う義務があると認められる。

右保険金支払義務の履行期については、契約当事者間でその定めがない。たゞ前記普通保険約款第三章第一五条第一項は「当会社は前条の書類または証拠を受領した日から三〇日以内に保険金を支払う。」旨規定するがこれは履行期の定めではなく、保険会社の事務処理手続の順序期間を示したにすぎないと解せられる。したがつて保険金請求権者が請求したときから被告保険会社は履行遅滞に陥ると解するのを相当とする。損害賠償債務が不法行為時から履行遅滞に陥るからとて、これと性質の異なる保険金請求権について同様に解することはできない。本件において原告らまたは右被保険者たる被告公一が本訴請求までの間に被告保険会社に対し本件保険金請求を行なつたと認めるに足りる証拠はないから、被告保険会社は、本件訴状送達日の翌日(昭和四八年二月二二日であることは記録上明らかである。)から履行遅滞に陥つたと認められる。なお、被告保険会社の右保険金支払の履行遅滞に伴う遅延損害金の支払義務は、本件保険契約における保険金額による制限を受けず、その支払済に至るまで少なくとも年五分の割合で発生するものと解される。

四  結論

よつて、被告公一、同一男は各自原告らそれぞれに対し本件事故による損害賠償として八、六二五、〇〇〇円および右金員のうち各弁護士費用額を除いた七、八四五、〇〇〇円に対する本件事故発生日以降の日である昭和四七年九月一日から各支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金、被告保険会社は原告らそれぞれに対し各五、〇〇〇、〇〇〇円および右各金員に対する本訴状送達日の翌日であることが記録上明らかな昭和四八年二月二二日から各支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の各支払義務があるから、原告らの被告らに対する本訴請求は右の限度で理由があり認容し、原告らの被告らに対するその余の請求は失当として棄却し、訴訟費用の負担については、民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言については同法一九六条一項を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 沖野威 大出晃之 大津千明)

別表 佐久間英次の収入損

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本件現場付近図面

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