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東京地方裁判所 昭和48年(ワ)1935号 判決 1977年12月21日

原告(反訴被告) 増田浩二

被告(反訴原告) 古河電気工業株式会社

被告 原子燃料工業株式会社

主文

一  原告(反訴被告)の本訴請求をいずれも棄却する。

二  原告(反訴被告)は被告(反訴原告)古河電気工業株式会社に対し、別紙物件目録記載の部屋を明渡せ。

三  訴訟費用は本訴反訴を通じ原告(反訴被告)の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  本訴

(一)  原告(反訴被告、以下単に原告という。)

1 原告が被告両名に対しそれぞれ雇用契約上の権利を有することを確認する。

2 原告が、被告(反訴原告)古河電気工業株式会社(以下単に被告古河電工という。)中央研究所において勤務する義務が存在しないことを確認する。

3 被告らは原告に対し、連帯して九万九、六九六円及び昭和四八年三月以降毎月二五日限り一か月四万九、八四八円の割合による金員を支払え。

4 本訴費用は被告らの負担とする。

5 第三項につき仮執行宣言。

(二)  被告両名

1 主文第一項と同旨。

2 本訴費用は原告の負担とする。

二  反訴

(一)  被告古河電工

1 主文第二項と同旨。

2 反訴費用は原告の負担とする。

3 仮執行宣言。

(二)  原告

1 反訴請求を棄却する。

2 反訴費用は被告古河電工の負担とする。

第二当事者の主張

一  本訴

(一)  原告の請求原因

1 被告古河電工は金属の精錬、合金及び加工並びに化学工業等を目的とする株式会社で、被告原子燃料工業株式会社(以下単に被告原燃工業という。)は被告古河電工及び訴外住友電気工業株式会社(以下単に住友電工という。)両社が、各原子燃料製造部門をそれぞれ切り離し、合併させて設立させた各種核燃料の製造及び販売等を目的とする株式会社である。

2 原告は昭和四五年九月一六日に被告古河電工に雇用され、同社中央研究所に勤務していたが、被告原燃工業設立に伴い、昭和四七年九月一日被告古河電工原子燃料製造部門従業員一五〇余名と共に被告原燃工業に出向(以下単に本件出向という。)し、これにより原告は被告原燃工業との間でも雇用関係を有するに至り、以後被告原燃工業に勤務してきた。なお被告原燃工業との間に雇用契約関係が成立した根拠は後記(四)2に述べるとおりである。

3 原告に支給される賃金月額は四万九、八四八円で、前月一六日から当月一五日までの分を当月二五日に支払われることになつていた。右のとおり原告は被告両社との間で雇用契約関係にあつたところ、労働者を雇用することは被告両社にとつて附属的商行為であるから賃金支払義務が内部的にどちらの負担となつているかにかかわらず、原告に対する関係では、商法五一一条により被告両社が連帯してこれを負担すべきものである。

4 被告古河電工は、原告に対し、昭和四七年一二月一六日付で被告原燃工業から被告古河電工中央研究所に復帰するように命じたところ、原告がこれに服さなかつたので、昭和四八年一月一一日付で懲戒解雇する旨の意思表示をし、被告原燃工業は昭和四七年一二月一六日以降、被告古河電工も昭和四八年一月一二日以降、原告との雇用関係の存在を争い、いずれも昭和四七年一二月一六日以降の賃金を支払わない。

5 しかしながら、本件復帰命令及びその拒否を理由とする本件懲戒解雇はいずれも後述の理由により無効であるから、原告はなお被告両社に対し雇用契約上の権利を有し、かつ賃金を請求する権利を有しており、しかも雇用契約上被告原燃工業に勤務すべき義務を負うも、被告古河電工中央研究所に勤務する義務はない。

よつて原告は被告らに対し、雇用契約上の地位の確認と、連帯して昭和四七年一二月一六日以降昭和四八年二月一五日までの未払い賃金合計九万九、六九六円及び同年三月以降毎月二五日限り一か月四万九、八四八円の割合による賃金の支払いを求め、更に被告古河電工に対しては原告が被告古河電工中央研究所に勤務する義務のないことの確認を求める。

(二)  被告らの答弁

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2の事実中、原告が被告原燃工業との間で雇用契約関係を有するに至つたとの点は否認し、その余の事実は認める。

3 同3の事実中、原告の賃金月額、計算期間、支給時期に関する主張事実は認める。

4 同4の事実は認める。なお、被告古河電工だけでなく被告原燃工業も原告に対し同旨の復帰を命じた。

(三)  被告らの抗弁

1 本件出向の経緯

被告古河電工はかねてより、エネルギー資源開発の一つとして核燃料の開発、事業化に取組んでいたが、その需要に応ずるためには核燃料専業メーカーの出現が必要と考えられたため、同種の研究に取組んできた住友電工と交渉を重ねた結果、両社折半の出資による核燃料事業会社を新たに設立し、両社の有していた核燃料事業部門の設備の大部分を新会社に譲り渡し、以後新会社が核燃料事業に専念することとする合意が成立し、これに基づき昭和四七年七月八日被告原燃工業が設立された。この際原燃工業における従業員については、原則として被告古河電工及び訴外住友電工の核燃料事業部門に従事する従業員を両社従業員の身分を保有したまま被告原燃工業に出向させ、被告原燃工業は以後経営の合理化に努め、将来適正従業員数の目途が立つた場合には必要最小限度の従業員をもつて事業を遂行し、その余の従業員については被告古河電工及び訴外住友電工に復帰させることとし、この間において被告原燃工業の従業員(作業員及び女子を除く。)は両社ほぼ同数となるよう配慮することとされた。そこで被告古河電工としても原告を含む原子力部門の従業員全員を被告原燃工業の従業員として出向させるべく、昭和四七年七月三一日、同八月一八日、同月二八日の三回にわたり、被告古河電工の従業員で構成する訴外古河労働組合(以下単に組合という。)との間で中央労働協議会を開き、組合に対して「原子燃料工業株式会社設立に関する件」と題する書面に基づき、その設立理由及び被告原燃工業への従業員の出向(派遣)についてその時期及び出向に際しての労働条件等を詳細に説明した。組合は組合員の意向を充分聴取したうえ代議員会においてこれを検討した結果、出向条件等を了承した。そこで被告古河電工は被告原燃工業との間で出向者の人数、職種、期間、労働条件等についての出向協定を結んだうえ、同年九月一日付で原告を含む原子力部門の従業員一五一名を被告原燃工業に出向させた。右出向に関し被告古河電工が組合に対し明らかにした出向条件等は(イ)被告原燃工業への出向についての取扱いは労働協約第一八条第一項第四号に基づき休職派遣とし、休職期間を定めずまた休職給は原則として支給しない、(ロ)被告原燃工業における給与が被告古河電工の給与を下廻る場合はその差額を被告古河電工において保障する、(ハ)健康保険、厚生年金は被告古河電工で加入し、失業保険、労災保険は被告原燃工業で加入する、(ニ)寮、社宅、クラブ、食堂等は被告古河電工の施設を利用しうる、等の内容を含むものであつた。原告は、組合を通じて、右労働条件等を熟知し、これに何ら異議をとどめず、右出向命令に応じ、以後被告原燃工業の業務に従事した。

出向にあたり被告古河電工が出向者に対して退職金を支給するということはなく、出向後の出向者の賃金、賞与の支払いについても被告原燃工業において作成した労働時間集計表等の基礎資料の送付を受けてこれに基づき被告古河電工が給与等の計算をし、被告古河電工名で支給しており、出向後の退職手続についても出向者の退職届は被告古河電工宛に提出すべく、被告古河電工が定める退職金規定により計算した額を同被告が本人に支給するものとして取扱われた。また出向者の組合員資格についても組合の規約に基づき同組合の組合員資格は存続するものとされ、ただ出向中は役員選挙権、被選挙権、議決権、会費納入義務が停止されるにすぎない。

2 本件復帰命令

(1) 原告は出向前被告古河電工勤務中においても、欠勤・遅刻・早退が多く、昭和四六年一一月には無断欠勤六日、欠勤一二日にも及んだので、同年一一月一五日付で同人に、従来の態度を反省し被告古河電工に迷惑をかけない旨の誓約書を提出させたことがあつたが、被告原燃工業に出向後も、昭和四七年一一月七日までに無断欠勤一日、遅刻早退三回に及び、そのうえ同月九日以降被告原燃工業に何ら届出をなさずに欠勤し、同月一四日にはじめて代理人を通じて、横浜市で行なわれた米軍M四八戦車輸送阻止闘争に参加した結果逮捕・勾留されたので釈放されるまでの間休暇を認めてほしい旨の休暇届を送付し、以後同月三〇日までの間欠勤した。以上のとおり原告の勤務状況は甚だ不安定なものといわざるを得なかつたところ、被告古河電工は、前記のとおり被告原燃工業が訴外住友電工との間で特に競争関係を越えて設立された合弁会社であるという経緯から訴外住友電工との関係について特に留意してきたところであり、被告古河電工の出向者から原告のように長期欠勤して業務の円滑に支障を生ぜしめたことは、その理由の如何を問わず訴外住友電工及び被告原燃工業に対し信義上の責任を負うべきものと判断するに至つた。

(2) 一方、被告古河電工中央研究所加工室では、訴外三品和男が昭和四七年三月三一日限り退職し、そのため加工室の業務の一部である同研究所内他研究室からの依頼加工業務の遂行に大巾な支障をきたしていた。被告古河電工はその人員補充を検討したが、同社では間接部門の人員圧縮計画を推進中で、補充は原則として社内での配転及び関係会社からの復帰により行なうとの方針であつたから、とりあえず社内での配転につき検討したが、同研究所内での配転については困難な状況にあつた。そこで当面の処置として同加工室で行なう依頼加工業務の一部を社外に依頼すると共に、簡単な切削加工等の業務については依頼元である他研究室の従業員を技術指導し、これに担当させる手段を講じたが、この結果は外注による不必要経費の増加及び依頼元研究室従業員の技術並びに安全確保のための指導による加工室研究員の時間的、精神的負担等を惹起せしめるに至つた。

(3) そこで被告古河電工は被告原燃工業とも協議した結果、原告が出向後従事してきたウラン製錬室における転換加工業務は、大口の動燃事業団向け「常陽ブランケット用二酸化ウラン粉末」の製造が昭和四七年一一月末で終了し、以後当分の間その仕事量が半減し、原告が居なくてもその業務を充分こなせるとの見通しであつたところから、被告原燃工業においても特に人員減少による業務上の支障もないとのことであつた。また原告が被告古河電工入社以来従事してきた業務内容と中央研究所加工室における業務内容は特段に異なるところがなく、原告の既成の知識、経験等をそのまま活用できるものであつたし、復帰前の職場と右加工室とは同一場所にあつた。

(4) 以上のとおり被告古河電工は訴外住友電工、被告原燃工業に対する信義上の立場に加えて被告原燃工業の業務の支障の有無、被告古河電工における業務上の必要等を考慮したうえ、被告原燃工業の了解を得て、原告を被告古河電工に復帰させて右加工室に勤務させることとし、同年一二月一三日労働協約一七条の趣旨に則り組合に通知のうえ、同月一四日原告に対し、被告原燃工業から被告古河電工に復帰して右加工室に勤務すべき旨の復帰命令の内示をした。同時に被告原燃工業からも同旨の内示をした。

これに対し原告は、(イ)他に復帰したい人がいるのに戻りたくない原告を復帰させることは納得できない、(ロ)二年間にわたつて蓄積した技術が新職場では生かされない、(ハ)不当労働行為である、(ニ)従来同じ職場で働いてきた人達との人間関係を大切にしたい、との理由を挙げて拒否したが、いずれも右復帰命令をとりやめる理由とは認めえなかつた。

そこで被告古河電工及び同原燃工業は、同月一八日原告に対し、同月一六日付をもつて被告古河電工に復帰して右加工室に勤務すべき旨、業務命令を発した。

(5) 右に述べたとおり、本件出向は、従業員としての地位は被告古河電工との間で継続しながら、出向期間中は休職として同被告における勤務を免除されているのにすぎない。出向により勤務場所が被告原燃工業に移り、かつ同社の指揮命令の下に業務に従事することになるが、これはあくまで被告古河電工との雇用契約の履行としてなされるもので、その勤務形態が変更したのにすぎず、ただ出向は通常当初の労働契約の内容として予定された範囲外であるために、出向については労働者の同意を要すべきこととされているにすぎないのであつて、出向により原告と被告原燃工業との間に別個の雇用契約が成立するものと解すべきではない。かかる在籍出向の場合には、出向会社たる被告古河電工で労務給付することは当初の雇用契約の履行そのものとして残存し、将来の一時期において出向者は出向元会社に復帰することが当然予定されているというべき性質のものであり、あるいは、かかる出向に同意することは、出向元及び出向先会社の経営上の理由により出向元会社に復帰することの包括的な合意を含むものと解さなければならない。従つて、出向後の復帰は、いわゆる社内配転とその性質を同じくするものと解すべく、出向元ないし出向先会社の経営上の必要があり、復帰後の職場や職種が労働者にとつて著しく不利であるなど特段の事情のない限り、当該労働者の同意を要しないものである。しかるところ本件において、原告に命じた復帰は、職場、職種の面において何ら原告に不利益を与えるものでないことは、既に述べたとおりである。

仮に出向に伴い原告と被告原燃工業との間にも雇用契約関係が成立するものと解しても、この場合の被告原燃工業との雇用契約は、被告古河電工との雇用契約関係及び被告古河電工と被告原燃工業との間の出向協定と無関係に成立するのではなく、同協定と同内容の出向条件等が原告ら出向者に提示され、その同意のうえで出向が命じられているのであるから、出向協定中の復帰等を命じることができる旨の規定は、原告と被告原燃工業との間の雇用契約の内容となつたと解すべきである。従つてその内容となつているところに基づく復帰命令(解約告知)は原告の同意なくしてなしうるのであり、被告原燃工業が本件復帰命令を原告に告知したことは、原告との間の雇用契約を解約したものとみることができる。なお、右解約がなされても、原告と被告古河電工との雇用契約は当然に残存し、同被告に勤務し同被告に賃金を請求すべき権利義務関係が復活ないし残存するから、労働基準法一九条、二〇条等の予定する「解雇」に該当しないことは明らかであり、その適用はない。

本件出向が、右のように復帰を予定した性質のものであることは、前記出向に際しての出向条件等、出向後の賃金支払形態、出向後の退職の取扱い等の諸事情ならびに出向に際しての労使協議の経過等に照らしても肯定しうるところである。

3 懲戒解雇

右のとおり被告両社は原告に対し有効に復帰命令を発したのであるが、原告はこれを拒否し、以後も従来の職場である被告原燃工業に出社し、新職場である被告古河電工中央研究所加工室に就労しなかつた。そこで被告両社は、右発令後年を越えて昭和四八年一月初めまでの間十数回にもわたり発令の理由を説明してこれに応ずるよう説得し、指示したが、原告は従前の拒否理由のほかに被告原燃工業から復帰の辞令が文書で出されていないとの理由を付加して、拒否する旨繰り返すばかりで、命令に従わなかつた。

被告古河電工の労働協約二五条四号及び就業規則六二条四号によれば、「職務上の指示命令に従わず、職場の秩序を紊そうとしたとき」は、懲戒解雇に処する旨定められているところ、原告の右行為は、職務上の指示命令に従わずかつ同被告の職場秩序を紊したことに該当するから、同被告は原告を懲戒解雇することとし、労働協約二二条に則り、昭和四八年一月一〇日組合に通知のうえ、同月一一日原告に対し懲戒解雇する旨の意思表示をし、かつ解雇予告手当を提供したが、原告が右手当の受領を拒絶したので、後日これを供託した。

4 以上のとおりであるから、原告と被告古河電工との雇用契約関係は昭和四八年一月一一日限り懲戒解雇により終了した。また原告と被告原燃工業との雇用契約関係はもともと成立していないが、仮に成立したとすれば昭和四七年一二月一八日の復帰命令(解約告知)により同日限り終了した。

(四)  抗弁に対する原告の答弁と反論

1 答弁

(1) 抗弁1の事実中、被告原燃工業が被告古河電工と訴外住友電工との共同出資により昭和四七年七月八日設立されたこと、両社が各核燃料事業部門に従事する従業員を被告原燃工業に出向させたこと、被告古河電工が組合に対し(イ)ないし(ニ)の内容を含む労働条件等を示し、組合がその出向条件を了承する旨の決議をしたこと、出向にあたつて被告古河電工が出向者に退職金を支給しなかつたこと、出向者の組合員資格が存続するものとされていることは認め、組合が組合員の意向を充分聴取したとの点は否認し、出向後の出向者の賃金を被告古河電工が支払つていたことは争い、その余の事実は不知。

(2) 抗弁2(1)の事実中、原告が被告古河電工在勤中欠勤、遅刻、早退が多かつたとの点、原告の勤務状況が不安定なものであり、被告原燃工業の業務の円滑に支障を生ぜしめ、被告古河電工が訴外住友電工及び被告原燃工業に対して信義上の責任を負うに至つたとの点は否認し、その余の事実は認める。なお原告が昭和四六年一一月に被告ら主張のとおり欠勤したのは、原告が同年一〇月二一日の国際反戦デーに参加したところ不当にも機動隊により誤認逮捕されたことによりやむをえなかつたものであり、昭和四七年一一月九日以降の欠勤も、原告がM四八戦車輸送阻止闘争に参加した際、不当にも警察により誤認逮捕されたためであつて、これら欠勤につき原告が責を負うべきいわれはない。また原告が昭和四六年一一月一五日付誓約書を提出した内容は、原告が比較的病弱で病休が多かつたことにより迷惑をかけたことを反省したもので、右不当逮捕による欠勤を謝罪したものではない。

同(2)の事実中、訴外三品和男が昭和四七年三月三一日に被告古河電工中央研究所加工室を退職したことは認め、その余の事実は否認する。

同(3)の事実は争う。

同(4)の事実中、被告古河電工が昭和四七年一二月一四日原告に対し復帰命令の内示をしたこと、これに対し原告が、被告ら主張の四点を理由として拒否したこと、被告両社が原告に対し同月一八日、同月一六日付をもつて被告古河電工に復帰すべく命じたことは認め、その余は争う。原告の主張した右拒否理由はいずれも正当なものであつた。

同(5)の主張は争う。これに対する原告の主張は後記2のとおりである。

(3) 抗弁3の事実中、本件復帰命令が有効であること、被告両社が原告に対し被告ら主張のような復帰命令理由を説明したこと、原告の行為が労働協約及び就業規則の解雇事由に該当することは争い、被告古河電工が原告に対する懲戒解雇に関し組合に通知したことは不知。その余は認める。

2 本件復帰命令における原告の同意の必要性と復帰命令の無効

被告原燃工業は、被告古河電工と訴外住友電工から各原子力部門の機械、設備等のほか、右二社で従来雇用、使用されていた労働者に対する使用者としての地位も含めて譲渡を受けて設立されたもので、被告古河電工においては原子力部所属核燃料製造第一製造係、開発課及び業務課全員に対して出向が命じられ、将来復帰させるのは被告原燃工業の人員配置上の理由による場合に限定されていた。このように企業の一部門を切り離し、合弁会社を設立する場合は、出向者の復帰を予定しないのが通常で、原告ら出向者も新会社である被告原燃工業が倒産しない限り定年まで同社に定着するという前提で出向したのである。

従つて本件出向の実質は営業の譲渡に伴い雇用契約関係の使用者という地位を被告古河電工から被告原燃工業へ譲渡し、これにより被告原燃工業との間に雇用契約が成立したものであつて、それにもかかわらず、なお被告古河電工との雇用契約関係が残存するものとされたのは、原告と被告古河電工間の雇用契約の継続による身分保障という有利な条件と引換えに原告ら出向者の承諾を容易に得るための方策にすぎない。即ち、被告古河電工との雇用契約関係は、原告ら出向者の身分保障としての意義を有するのにすぎず、その限度を超えて同被告が原告らに対し人事管理権を有するものではないのである。

出向者の承諾により出向した場合には旧来の雇用契約の要素を変更する新たな雇用契約が成立したのであるから、出向者を復帰させることもまた再度の契約の要素の変更である。従つてこの変更は、出向者の同意があるか、あるいは出向に際して予め復帰についての合意があるかのいずれかでなければ有効になしえない。本件の出向に際して予定された復帰は、「両者対等の考え方から人員に均衡を欠く場合には調整することがありうる」との点においてだけである。しかるに本件復帰命令がこの理由によるものでないことは、被告らの主張自体から明らかである。

よつて本件復帰命令は、雇用契約の要素の変更の申込みにすぎず、これに対し原告の承諾がないから、その効力を生じない。

3 本件懲戒解雇の無効

右のとおり本件復帰命令が無効である以上、原告はこれに服する義務はなく、原告が雇用契約上の義務として勤務すべき場所は被告原燃工業であり、復帰命令後原告が被告古河電工中央研究所加工室に勤務しないことは正当であるから、被告ら主張の懲戒解雇事由に該当せず、従つて本件懲戒解雇も無効である。

(五)  原告の再抗弁

1 不当労働行為による本件復帰命令及び本件懲戒解雇の無効

(1) 昭和四六年八月被告古河電工原子力部の職員の一部の者からフイルムバッヂの異常に高い線量記録が発見されたが、その原因がウラン貯蔵場所選択における取扱管理の杜撰にあつたことから、原告を中心として安全管理闘争が展開され、原告らは被告古河電工の責任を追求した。その結果被告古河電工は種々の安全衛生設備の設置等を行う一方、この闘争に驚き、労務管理を強化し、同闘争の中心になつた主要メンバーを安全対策会議に吸収し、個別的管理者教育を始めるなどして原告らの闘争の矛先をかわそうとした。

(2) 昭和四七年春闘において原告は積極的に活動したが、その中で原告の職場におけるストも辞さないとする下部組合員の意向は、管理者と同じ態度で対応する組合本部中執によつて抑圧され、かくして原告の活動により、原告の職場は反執行部的戦闘的組織と変化し、反執行部の拠点となつていつたのであるが、このような情勢の中で、被告古河電工は同年六月には被告原燃工業設立による原子力部の全員出向という事態に備え、戦闘的活動家たる原告を排除しておくために、原告に対し同年八月中は被告古河電工武山研究所へ出張するように命じ、同年七月には反中執の立場をとる原告ら四名が組合役員選挙に立候補したところ、同被告は組合本部と一体となつて違反文書を配布して原告らの当選を妨害した。

(3) 被告原燃工業設立後同被告従業員により従業員会が結成されようとしたところ、被告らは右従業員会の御用組合化へと働きかけ始めたが、組合結成に向けた準備委員大井分室代表に選出されていた原告は、御用組合化に反対し、従業員会ボイコットの活動を展開したので、被告原燃工業より嫌悪されるに至つた。

(4) 昭和四七年一〇月頃、原告所属の被告原燃工業武山研究所大井分室の廃止と武山への統合のため、同分室所属の従業員が横須賀市武山にある被告原燃工業武山研究所に移転するについて、武山の独身寮の改善闘争が原告によつて提起され、原告らの要求が大幅に実現したが、右移転に伴い原告ら大井分室の戦闘的な従業員が武山研究所の従業員と合流して健全な組合結成の運動を進展させることをおそれた被告らは、大井分室代表準備委員であつた原告を武山研究所に移させないことにより右運動を妨害しようと意図した。

(5) 以上のとおり被告らは、これまで原告の戦闘的な組合活動を嫌悪しこれを妨害してきたのであるところ、原告が復帰命令を拒否するであろうことを知悉してこれを口実に懲戒解雇するために、本件復帰命令を出したのであり、本件復帰命令及び本件懲戒解雇は、原告を被告原燃工業における強固な新組合結成運動及び戦闘的組合活動から排除することを決定的動機としてなされたものであるからいずれも不当労働行為に該当し、無効である。

2 人事権の濫用

前記(四)1(2)に述べたとおり、被告らが本件復帰命令の理由の一としている長期欠勤は、昭和四六年一〇月国際反戦デー闘争に参加した際、及び昭和四七年一一月に米軍M四八戦車輸送阻止闘争に参加した際に、不当に逮捕勾留されたためにやむをえなかつたもので、原告に責任はない。また右昭和四六年一〇月の欠勤については、当時誓約書を提出することによつて不問に付されたのであり、かつ被告原燃工業の業務上の支障とは無縁である。その余の欠勤については、被告らから原告に対し特段の注意がなされたことはないから、原告の出勤状況は業務上の支障となる程度に至つていなかつた。

一方、復帰後の勤務場所とされている中央研究所加工室では訴外三品和男が昭和四七年三月三一日に退職し、以後原告が出向するまでの間補充のための配転等の人員調整は行なわれていないし、原告出向後本件復帰命令までの人員補充が問題にされたことはなかつた。むしろ被告古河電工は組合(昭和四七年八月に単組化し、同組合が成立。それ以前は中央研究所従業員組合と称した。以下単組化の前後を問わず、単に組合という場合がある。)に対し、人員調整は年内においては行わないと言明していたことからみても、人員補充の必要性はなかつたのである。

以上のとおり本件復帰命令は業務上の支障も人員補充の必要性もなく、その他の合理的理由もないのに、これに同意しない原告をあえて被告原燃工業から排除すべくなされたものであるから、人事権の濫用として無効というべきであり、従つてその有効であることを前提とする本件懲戒解雇もまた無効である。

(六)  再抗弁に対する被告らの答弁

1 再抗弁1の事実に対する被告古河電工の答弁

同項(1)の事実中、被告古河電工原子力部の職員の一部からフイルムバッヂに通常より高い線量記録が発見されたこと、被告古河電工において種々の安全衛生設備の改善を行つたことは認め、その余の事実は否認する。被告古河電工は昭和四六年五月分のフイルムバッヂについて通常よりやや多い放射線量が測定されたのでその原因を究明し、これを機会にウランを取扱う業務関係部門の放射線安全管理体制の見直しを行うこととし、各職場の意見を積極的に聴取して安全管理体制及び設備等の改善を実施したのであり、原告を中心とする追求、交渉があつたとか、その結果として改善が行なわれたとの事実は全くない。

同(2)の事実中、昭和四七年六月に原告に対し武山研究所へ出発するよう命じたことは認めるが、その余の事実は不知ないし争う。原告の出張は、武山研究所におかれている原子力部核燃料製造課第二製造係の担当業務が多忙となり、同係より原告所属の第一製造係に出張依頼があつたことによるもので、被告古河電工は第一製造係従業員全員からアンケートをとり、その結果に基いて各人の個人的事情も考慮、検討して第二製造係への助勤者として原告らを決定し、出張させたのである。原告は出張命令に対して異議苦情を述べなかつたし、原告の出張期間も昭和四七年七月三日から同月二一日までの短期間のものであつた。

同(3)の事実は不知。

同(4)の事実中、同年一〇月頃被告原燃工業武山研究所大井分室の廃止と武山への統合のため、同分室所属の従業員の一部が被告原燃工業の武山研究所へ移転したことは認め、その余の事実は否認する。被告原燃工業大井分室の移転は同年九月から一〇月の間に第一陣が実施されたが、原告はその中に入つていなかつたので移転説明会に参加しなかつたし、移転は改善闘争というが如き行為もなく平穏裡に完了した。なお原告ら所属の機械設備運転にかかる者の移転は第二陣として実施されたが、それは本件懲戒解雇後のことである。

同(5)の事実は争う。

2 再抗弁1の事実に対する被告原燃工業の答弁

同項(1)(2)の各事実は不知。

同(3)の事実中、従業員会が結成されようとしたこと、原告が組合結成に向けて準備委員大井分室代表に選出されたことは不知。その余の事実は否認する。

同(4)の事実中、昭和四七年一〇月頃被告原燃工業武山研究所大井分室の廃止と武山への統合のため、同分室所属の従業員の一部が被告原燃工業の武山研究所に移転したことは認め、その余は否認する。

同(5)の事実は争う。

3 再抗弁2の事実中、原告が昭和四六年一〇月国際反戦デー闘争に参加した際、及び昭和四七年一一月に米軍M戦車輸送阻止闘争に参加した際に逮捕勾留され長期欠勤したこと、原告が欠勤について誓約書を提出したこと、中央研究所加工室では訴外三品和男が同年三月三一日に退職し、以後原告が出向するまでの間人員の補充が行なわれなかつたことは認め、その余は争う。

二  反訴

(一)  被告古河電工の請求原因

1 被告古河電工は原告の入社後、昭和四五年一二月一七日訴外浅沼久雄から賃借した別紙物件目録記載の建物の部屋を、原告に対し、原告が被告古河電工の従業員である間無償で使用させるとの約束で貸与した。

2 前記本訴主張のとおり原告は本件懲戒解雇により昭和四八年一月一一日限り被告古河電工の従業員たる地位を失うに至り、これにより右使用貸借契約は終了した。

3 よつて被告古河電工は原告に対し本件部屋の明渡しを請求する。

(二)  原告の答弁と抗弁

請求原因1の事実は認める。

同2は争う。

本件懲戒解雇は本訴関係で主張するとおり無効であるから、原告はいぜんとして被告古河電工の従業員たる身分を有し、従つて使用貸借契約は終了していない。

第三証拠<省略>

理由

第一本訴について

一  被告古河電工は金属の精錬、合金及び加工並びに化学工業等を目的とする株式会社で、被告原燃工業は被告古河電工及び訴外住友電工両社が各原子燃料製造部門をそれぞれ切り離し合併させた各種核燃料の製造及び販売等を目的とする株式会社であること、原告は昭和四五年九月一六日被告古河電工に雇用され、同社中央研究所に勤務していたが、被告原燃工業設立に伴い昭和四七年九月一日被告古河電工原子燃料製造部門従業員一五〇余名と共に被告原燃工業に出向し、以後同社に勤務してきたこと、原告に支給される賃金月額は四万九、八四八円で、前月一六日から当月一五日までの分を当月二五日に支払われることになつていたこと、被告古河電工が、原告に対し昭和四七年一二月一六日付で被告原燃工業から被告古河電工中央研究所に復帰するように命じたのに原告の応ずるところとならなかつたので、昭和四八年一月一一日付で懲戒解雇する旨の意思表示をし、被告原燃工業は昭和四七年一二月一六日以降、被告古河電工は昭和四八年一月一二日以降、原告との雇用契約関係を争い、いずれも昭和四七年一二月一六日以降の賃金を支払わないこと、

以上の事実はいずれも当事者間に争いがない。

二  本件出向の経緯

当事者間に争いのない事実に、成立に争いのない甲第三、第四号証、乙第一ないし第五号証、第一九号証の一ないし三、第二〇号証の一ないし八、第二一ないし第二五号証の各一、二、第三一、第三二号証、第三四号証、第四三、第四四号証、原告本人尋問の結果により成立の認められる甲第八、第九、第二二号証(第二二号証は被告原燃工業との間では成立に争いがない。)、証人小島浅吉の証言により成立の認められる乙第二六、第四二号証、証人田中徳郎の証言により成立の認められる乙第二八、第二九号証、証人野原達也の証言により成立の認められる乙第三〇号証の一、二、第三三号証、証人田中徳郎、島村武久、野原達也、小島浅吉の各証言及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を綜合すると、次の事実が認められ、この認定を左右するに足る証拠はない。

1  被告古河電工はかねてより核燃料の開発、製造に取組んでおり、同社原子力部においてその業務を遂行してきたが、原子力開発の発展に伴い、国内外の同業他社に対抗しうる企業力が必要と考えられたことと純粋の国内資本による核燃料専業企業を求める需要側の要請とから、同種の事業に取組んできた訴外住友電工との間に、昭和四七年一月ころから合併会社設立の話合いが具体化し、同年五月には、両者折半出資により核燃料専業の合弁会社を設立し、両者の核燃料部門を当面そのまま引継いで同年九月一日をめどとして営業を開始するとの基本構想の合意に達し、同年六月にはこれに関する基本契約を締結し、同年七月八日をもつて右合弁会社としての被告原燃工業(以下単に新会社ともいう。)が設立された。新会社の将来の構想としては、古河、住友両社から拠出された物的、人的施設を有機的に統合し、重複部分を合理化して、独立の企業としての実体を具備すべきものとされ、当面は従来の両社の核燃料製造部門の物的、人的施設の全部を移管しなければ、とりあえずの操業に差支えるため、右のような措置がとられたが、将来右合理化等に伴い、またその中で被告原燃工業の従業員数は両社からの出向者がほぼ同数になるよう人員調整をするとの配慮から、一旦新会社に出向させた従業員の一部を両社に復帰させることも予定された。被告古河電工における原子力部は、本部と業務課とが本社所在地に、開発課と核燃料課第一製造係が同社中央研究所(東京都品川区二葉所在)に、同課第二製造係が中央研究所武山分室(横須賀市長坂所在)に置かれており、原告は入社以来右第一製造係に勤務していたが、新会社設立に伴い、その物的施設は一部新会社にとつて不要なものを除きそのまま新会社に譲渡され(ただし土地、建物についてはなお被告古河電工が保有し、新会社に賃貸することとなつた。)従業員も原則として原子力部所属者全員が休職派遣(出向)の形で新会社に移転することが予定された。

そこで被告古河電工(以下単に会社ともいう。)は、右基本構想の合意に達した後の同年五月二〇日組合本部(当時古河電工労働組合連合会)と本社の組合(当時本社の従業員労働組合)に対し、同月二三日中央研究所の組合(当時中央研究所従業員組合)及び中央研究所内に勤務する原子力部従業員に対し、新会社設立の基本構想を説明した。これを受けて組合は、組合員、特に出向対象者の意向を把握し、討議を経て、同年六月下旬会社に対し、イ 転勤、配転の決定は個人の事情を考慮すること、ロ 新会社における賃金等の労働条件は会社におけるそれを下廻らないこと等を中心とする要望書を提出すると同時に、出向の定義、新会社の将来の見通し等について質問書を提出した。右質問書に対し会社は同年七月五日文書をもつて組合に対し、出向の意義について、会社に在籍のまま新会社に勤務することであり、「休職、新会社勤務」という発令によつてなされること、その期間は定めないこと、新会社の将来について、我国唯一の純国内資本の独立系核燃料専業メーカーとして、外国の同業有力企業に拮抗しうるものになることを期待していること等を回答した。またそのころ、組合は、本件出向に関する交渉は、個々の従業員と直接にするのではなく、組合を窓口としてほしい旨要望し、会社は大筋においてこれを了解した。

次いで同月三一日、同年八月一八日、同月二八日の三回にわたつて、本件出向に関し同被告と組合との間の中央労働協議会が開催された。同協議会には組合側から、組合本部(同年八月当初に組合は単一化し、それ以前は古河電工労働組合連合会、それ以後は古河労働組合本部)のほか、出向対象者を傘下に持つ本社組合(単一化前は本社従業員労働組合、単一化後は古河労組本社支部)及び中央研究所の組合(単一化前は中央研究所従業員組合、単一化後は古河労組中央研究所支部)の各役員が出席した。第一回協議会において、会社は、新会社として新しい労働条件を設定するにはその検討にも期間を要することになるので、この事情も踏まえての新会社への出向者の取扱いとして、「(イ) 出向の形態は休職派遣とする。(ロ) 古河、住友両社で現在原子力関係業務に従事している者は全員新会社勤務とする。但し両社対等の原則からみて人員が均衡を欠く場合には調整を行うこともある。(ハ) 発令日は新会社が両社から営業譲渡を受ける日と同日の九月一日とする予定である。(ニ) 新会社としては中央研究所と同居する大井分室を早晩武山に統合する予定である。(ホ) 給与につき新会社が軌道に乗るまでは過渡的に暫定措置をとる。(ヘ) 新会社の給与が親会社の給与を下廻る場合はその差額は親会社が保障し、昇給、賞与についても不利益な取扱いはしない。(ト) 健康保険、厚生年金保険は親会社で加入し、失業保険、労災保険は新会社で加入する。(チ) 厚生施設は各親会社の施設を利用しうるものとする。」などの趣旨の骨子を説明し了解を求め、席上組合からの質問に答えて、右(ニ)の大井分室の武山統合に際し転勤不可能者を会社に復帰させるかは個々に判断する旨説明した。これを受けて組合は第二回協議会に先立ち書面をもつて、「(イ) 人員調整(転勤、配置転換)については本人の意思を最大限配慮し、本人が希望しない限り親会社へ戻さないこと。(ロ) 人員調整により親会社へ戻つた場合はいかなる不利益もこうむらないようにすること。(ハ) 親会社における賃金体系及び水準は早急に一本化し(当時古河電工、住友電工間において賃金格差があり、住友電工の方が高賃金であつた。)両親会社の現状を下廻らぬこと。」等を要求し、「(ニ) 人員調整の前提となる「人員に均衡を欠く」とはどういう意味か、(ホ) 右武山統合に際し転勤不可能者に対しどう考えているのか。」等を質問した。第二回協議会において会社は右要求及び質問に対し、「(イ)について、一般的に人事異動に当つては本人の事情は充分勘案するが、本人の意思を尊重できない場合もある。公平を期し、本人に充分納得してもらうよう努力する。(ロ)について、配転者なるが故に不利益な取扱はしない。(ハ)について、現時点では賃金体系、水準とも当面現行のままで移行し、新会社として労働条件全般につき整備する中で実施する。新会社発足直後の予想される経営実態からは住友、古河両社を下廻らぬ統一的な水準をすぐ設定することはできない。しかし出向者には最低現行給与は保障されるし、今後水準調整もされるので了解されたい。(ニ)ついて、九月一日以前の人員調整はない。人員調整は新会社として態勢を整え操業遂行していく中で必要があればすることになろう。(ホ)について、各々の事情を全て配慮することはできないが、個別に調整可能な者についてはできる限り配慮する。」との趣旨を回答した。第三回協議会において、会社は組合の質問に対し、「人員調整に関し、新会社として操業上必要な配置人員計画につきこれから具体的につめていくことになるが、これとの関係で生ずる人員調整によつて親会社に復帰させることは年内にはまずないと考える。大井を武山に統合する時期は早ければ年内に、遅くとも昭和四八年三月中には実施することを目標として計画中である。給与調整は武山統合予定の時期を目途としたい。」等を回答した。その他出向後の諸々の労働条件等に関する質疑応答を経て、組合は九月一日付の新会社への全員出向を執行部としては大綱的に了承し、なお本社及び中央研究所各支部の代議員会の承認を得てから最終的回答をすることになつた。

右の間、組合は組合ニュース等によつて右協議会の経過を従業員に周知させたし、中央研究所支部においては代議員会ないしその下部機構である対策委員会において、中央労働協議会に出席した支部役員の報告を受けて再三にわたり討論を重ねてきた。そして最終的に同年八月三〇日の代議員会において九月一日からの全員新会社出向を了解する旨の決議がなされた。原告は同年八月一日以降中央研究所支部の正代議員に選出され、右代議員会に出席した。本社支部代議員会においてもそのころ同様の決議がなされ、八月三〇日その旨が組合から会社に伝達され、ここに本件出向に関し労使の合意に達した。

2  被告古河電工と原燃工業との間では、同年九月一日、前記基本構想に則り被告古河電工の原子力部門の物的施設の譲渡ないし賃貸がなされるとともに、従業員の出向に関する出向協定書が取り交わされた。その骨子は、「(イ) 出向者とは被告古河電工から同原燃工業に出向を命ぜられ出向期間中被告原燃工業の役員又は社員として被告原燃工業の業務に専任するものをいう。(ロ) 出向者の出向期間は個々に協議のうえ決めるものとする。出向解除の必要が生じたときは事前に双方協議してこれを行う。(ハ) 給与は別段の定めがある場合を除き被告原燃工業の定めるところにより同被告が負担するものとし、支払方法は別に定める。(ニ) 出向者に対する退職金は被告原燃工業への出向期間も通算して被告古河電工がその基準により支給することとし、被告原燃工業の負担すべき分は同被告から被告古河電工に償還する。(ホ) 社会保険のうち、健康保険、厚生年金保険、失業保険は被告古河電工が取扱い、労災保険は被告原燃工業が取扱う。」などとなつていた。しかし右給与の支払いについては、発足当初は被告原燃工業の支払い能力が充分でないことを考慮し、右同日付をもつて、「出向者に対する給与及び賞与の支給はすべて被告古河電工が行い、被告原燃工業は同社の基準により計算した負担分を被告古河電工に支払う。」との内容を含む出向協定書に関する覚書を取り交わし、かくして当面給与及び賞与は被告古河電工が支払うこととなつた。

ただし右出向協定書や覚書の内容自体は、組合や出向者には事前に明らかにされていない。

3  出向者と組合との関係は、出向者は引続き古河労組の組合員資格を保有し、役員選挙権、被選挙権、議決権、組合費納入義務は停止されるが、出向先において不当労働行為があつた場合は古河労組組合員同様に取扱うこととされた。

4  被告古河電工と組合との間の労働協約一八条一項には「会社は組合員たる従業員が次の各号の一に該当するときは休職を命ずることができる。」と定め、その四号に「関連会社に派遣されたとき」を挙げ、同条二項には「休職を命じられたものについて休職事由が消滅したときは復職を命ずる」旨定めており、また同被告の従業員就業規則六五条の「従業員の休職については別に定める休職規程による。」との定めを受けた休職規程一条四号及び四条に、右労働協約の定めと同旨の定めがある。

5  かくして、同年九月一日被告古河電工から原告を含む出向対象者一五一名に対し「原子燃料工業株式会社勤務とする」旨の発令がなされ、同時に被告原燃工業から原告ら核燃料製造部門従業員に対しては、「製造部武山研究所勤務とする」旨の発令がなされ、出向者全員異議なくこれを受けて、以後被告原燃工業の業務に従事した。なお住友電工からの出向者数は一〇五名であつた。

被告原燃工業は同日よりそれまでの被告古河電工及び訴外住友電工の核燃料事業をそのまま引継いで業務を開始し、被告古河電工の旧核燃料製造課は被告原燃工業の製造部に、同課第二製造係は同部武山研究所に、同課第一製造係は同部武山研究所大井分室に改組されたが、右大井分室に勤務することとなつた原告を含めその所属従業員の勤務場所及び業務内容には全く変動がなかつた。ただ、前示のとおり、右大井分室は、やがて武山に移転統合されることが予定されていた。

出向者に対する給与及び賞与は、前記出向協定書に関する覚書に従い、被告古河電工から、出向前と同様の方法により支払われた。また被告原燃工業は同年一〇月五日付をもつて出向者に対し給与額を通知した際、給与支給は出向前と同様親会社の基準で親会社から行われる旨も併せて通知した。右覚書により被告原燃工業は給与等のうち同社の基準により計算した負担分を被告古河電工に償還することとなつているが、昭和五〇年六月の時点において現実にはそのとおりの償還はなされておらず、そして右当時まで給与減として被告古河電工が支給した額と右償還額との差は約五五〇〇万円にのぼつている。

出向後昭和五〇年五月末までの間に、被告古河電工に勤務するための二〇名、退職のため四〇名の出向者が同社に復帰し、一方住友電工への同社勤務のため三名、退職のため一二名が復帰し、その結果右当時の被告原燃工業への出向者は、本件出向後の出向者若干名を含め、被告古河電工九三名、住友電工一〇〇名となつている。

三  本件復帰命令及び懲戒解雇

当事者間に争いがない事実に、いずれも成立に争いのない乙第七号証の一ないし三、第八号証、第九号証の一ないし三、第一三号証の一ないし三、第一四号証(甲第一六号証)、第一七号証の一ないし三、証人野原達也の証言により成立の認められる乙第六号証の一ないし四、第一五、第一六号証、証人小島浅吉の証言により認められる乙第一一号証、証人野原達也、小島浅吉、田中徳郎、清沢暢人の各証言及び原告本人尋問の結果を綜合すると、次の事実を認めることができ、この認定を左右するに足る証拠はない。

1  原告は、入社以来被告古河電工に勤務中も、元来病弱のため病気による欠勤が多かつたほか、その他の理由による欠勤や遅参も多く、無届欠勤も少なくなかつたところ、昭和四六年一〇月には、国際反戦デーに参加した際逮捕勾留されたため継続して無届欠勤六日、欠勤一二日に及んだため、右欠勤後出勤した同年一一月一五日原告は被告の求めに応じ、これまでの欠勤等については精神的なゆるみも一因と認め深く反省する旨の誓約書を提出した。しかしその後も出勤率は必ずしもよくなく、昭和四七年五月一日から同年八月末までをとつてみると無届欠勤四回、欠勤三回、遅参四回に及んだ。そして本件出向後も同年一一月七日までに無届欠勤一回、遅参三回があつたが、同月八日横浜市で行なわれた米軍M四八戦車輸送阻止闘争に参加した際逮捕され、引続き勾留されたため、同月九日から同月三〇日まで欠勤した。その間同月一四日原告から代理人を通じて、右の理由により釈放されるまでの間休ませてほしい旨の休暇届が提出されて初めて被告原燃工業は欠勤の理由を知つた。右休暇届を受取つた原告の上司である被告原燃工業武山研究所大井分室長清沢暢人は、直ちにそのことを被告古河電工中央研究所管理室長野原達也に連絡して相談すると共に、被告原燃工業総務部長小島浅吉に連絡し、同人から原告が出社したら注意を与えるよう指示を受けた。そこで同年一二月一日出勤した原告に対し清沢は、原告の右欠勤につき、「こういうことがあると仕事上支障を生ずるし、原燃工業は古河電工と住友電工との合弁会社であり住友電工に対する信義上の問題もあるから今後こういうことのないように」との注意を与え、また翌二日には野原の応援を得て二人で同旨の注意を与えたが、原告は、これを聞き入れようとせず「それは退職勧告ですか」「欠勤の理由は手紙でわかつているはずだ」「都合で休むこともある」「自分と住友電工とは別段関係がない」などと答えることに終始した。

2  一方、被告古河電工中央研究所第五グループ加工室(以下単に加工室という。)では、昭和四七年三月三一日をもつて所属従業員四名中の一人である訴外三品和男が退職して以来欠員を生じており、加工室の仕事は、中央研究所の各研究室からの依頼を受けて材料に加工することであつたが、右欠員のため加工業務の外注を増やし、あるいは依頼元の各研究室員が直接加工業務に従事して糊塗していたものの、研究室員は機械操作に習熟していないため加工業務に長時間を費やさざるを得ず、そのため各研究室の研究業務に支障を来たし、また外注費の増加を招いた。しかし、当時は経済事情及び経営事情から大卒者以外の新規採用を中断していた時期であつたため、中央研究所における人事面の担当者である右野原は、中央研究所内部さらには品川、千葉、平塚等の事業所、工場に対しても配転による右欠員の補充を要請したが、いずれにもその余力がなく奏効しなかつた。その一環として同年七月ころ当時被告古河電工原子力部核燃料製造課第一製造係長であつた右清沢に対しても同様の要請をしたが、同人からは、「現在常陽ブランケットの仕事があつてとても無理だが、一一月か一二月かにその仕事が終れば、何とかなるかも知れない」との返答を得ていた。

3  このようにして加工室の補充は新会社設立後もいぜんなされないまま経過していたところ、野原は、前記のとおり一一月中頃清沢からの原告の長期欠勤を聞き及び、このように勤務不安定な原告を出向社員として被告原燃工業に派遣したままにしておくのは同社の共同出資者たる住友電工ないし同社からの被告原燃工業への出向者に対する信義上妥当でないから、原告を被告古河電工に復帰させて加工室の補充に充てるのが適当ではないかと考え、その旨を清沢に打診した。当時被告原燃工業では、被告古河電工から引継いだ前記常陽ブランケットの仕事が同月中には終了する予定であり、一二月以降は原告を復帰させても業務上の支障がなかつたので、清沢はその旨返答した。そして野原と清沢は、同年一二月一、二日の注意の際に示した原告の態度に照らし、原告については将来ともかかる長期欠勤のおそれが払拭できないと判断して、原告の復帰が適当であるとの判断を固め、それでそれぞれ被告両社上層部にその旨を上申した結果、被告両社は協議のうえ、同月六日原告を被告古河電工に同月一六日付をもつて復帰させ、同社の右加工室に勤務させる旨の意思決定をし、労働協約一七条の趣旨に則り組合に通知のうえ、同月一四日原告に対し、野原及び清沢においてその旨を内示した。

4  原告は入社以来、昭和四五年九月から昭和四六年九月までは金属ウラン板の加工作業、同年一〇月から昭和四七年三月までは酸化ウラン板の加工、主として研磨作業、それ以降は転換加工、主として溶媒処理作業に従事してきたところ、前記三品の補充として加工室で従事すべき作業は、一部異種の作業を含むけれども、大半はこれまで従事してきた作業と同種の機械を操作して行うなど同種の作業であつたから、原告の経験、知識をもつてすれば加工室の業務に従事するのに使用者の側からもまた原告にとつても特段の不都合はなかつた。また、加工室は、原告がそれまで従事してきた被告原燃工業の製造部武山研究所大井分室と同一建物内にあつた。

5  右のとおり同年一二月一四日原告に対し右復帰の内示をし、前記のような復帰の理由を説明したところ、原告は、(イ) 欠勤問題は自分に責任のないことだから、住友電工に対する信義の問題を平社員たる自分の責任問題とするのはおかしい、(ロ) 他に復帰したい人がいるのに戻りたくない自分を復帰させることは納得できない、(ハ) 二年間にわたつて蓄積した技術が新職場では生かされない、(ニ) 不当労働行為である、(ホ) 従来同じ職場で働いてきた人達との人間関係を大切にしたい、等の理由を挙げて復帰を拒否する態度を示したが、被告両社は、いずれも復帰命令を拒否するに足る理由とはなりえないと判断し、同月一八日(一六、一七両日は休日のため)原告に対し、同月一六日付をもつて被告古河電工に復帰し、同社中央研究所加工室に勤務すべき旨の命令を通告した(被告古河電工からは「開発本部中央研究所勤務とする」旨の辞令書が提示された。)。

しかし原告は、右拒否理由に加えて、被告原燃工業からの辞令書がないのはおかしい、被告古河電工が命ずるのはおかしい、との理由を付加してこれを拒否し、以後も被告原燃工業に出社し、命ぜられた被告古河電工中央研究所加工室に就労しなかつた。被告古河電工は、野原及び管理室長補佐大関において右発令日から昭和四八年一月初めまでの間多数回にわたり加工室への就労を命じあるいは説得したが、原告は全く態度を変えなかつた。

被告古河電工の労働協約二五条四号及び就業規則六二条四号によれば、「職務上の指示命令に従わず、職場の秩序を紊し又は紊そうとしたとき」は懲戒解雇に処する旨定められているところ、同被告は、原告の右行為が職務上の指示命令に従わずかつ同被告の職場秩序を紊したことに該当し、かつ原告を懲戒解雇に処するのが相当と判断して、労働協約二二条に則り組合に通知のうえ、同月一一日原告に対し懲戒解雇する旨の意思表示をし、かつ解雇予告手当を提供したが、原告が右手当の受領を拒絶したので、後日これを供託した。

四  本件復帰命令についての原告の同意の要否

右二項に認定したところによれば、本件における被告古河電工から被告原燃工業への出向は、原告が被告古河電工との雇用関係を継続しながら、関連企業たる第三者被告原燃工業に派遣され、その日常的な指揮監督の下にその業務に従事するものであり、一般に在籍出向と呼ばれる範疇に属するものであることが明らかである。

ところで、雇用契約は一般に労働者が当該使用者の指揮命令下に当該使用者のために労務を給付することを約するものであるから、使用者が労働者を第三者の指揮命令下においてその者のために労務を給付させること、即ち出向を命じることは、労働者が予めそのことを包括的に承諾しているか、労働者の個別的同意があるか、若しくはその他これを正当づける特段の根拠なくしてはなしえない(当該労働者に対し拘束力を生じない)ものと解されるのであるが、一旦出向した労働者を、再び出向元の使用者の下に復帰させる場合については、必ずしも右と同様に考えることはできない。けだし、出向先から出向元に復帰することは、労働者に対する直接の日常的な指揮監督の主体の変動を伴う点において出向と同じであるが、出向元の指揮命令下にその業務に従事することは、当初の労働者と出向元との雇用契約に基づく労務給付自体なのであり、出向の場合に第三者の指揮監督下での第三者のための労務給付が当事者間において当初予定されていないのが一般であるのと事情を異にするからである。即ち、使用者が労働者に対し出向後出向先又は出向元の業務上の都合により再び出向元において労務供給することがありうることを予定しながら出向を命じ労働者がこれに同意するという形態は多くの出向にみられることであり、この場合は、復帰を相当とする事由の存する限り、出向復帰を命ずることは、使用者の労務指揮権の範囲内のことがらとして、随時になしうるものと解すべきであり、これに反し使用者が労働者に対し出向後は恒久的に出向先において労務給付することを予定して出向を命じ労働者がこれに同意した場合には、出向元へ復帰することは再び雇用契約の要素の変更に当るものとして、出向の場合と同様原則として当該労働者の個別的同意を要することになろう。

従つて、復帰について当該労働者の個別的同意を要するか否かは、出向に当つての使用者と労働者の合意の内容により定まるものというべきであり、第一次的には明示の合意によるが、それがない場合には、当該出向の目的、形態、出向の合意に至る交渉の経緯等諸般の事情を綜合して、合理的な意思解釈によりこれを確定すべきものと解すべきである。

そこで前記二項に認定したところによりこの点を考えると、本件出向は、被告古河電工と訴外住友電工とが、その各核燃料製造部門をほぼ在来のまま新会社に引継がせることにより、将来国内資本による核燃料専業企業として発展することを期して、合弁会社としての新会社を設立し、これに伴つてこれまで核燃料製造部門に従事していた従業員を原則として全員新会社に出向させたものであり、従つて出向元会社にはこれら従業員がこれまで従事してきた部門は残存しないことになるのであるから、この面からみれば、出向者は原則的に将来新会社が維持され発展していく限り、新会社において勤務することができる。

しかしながら、新会社が古河、住友両者の在来の業務を引継ぎ、従業員も全員出向という形態をとつたのは、いわば新会社発足に当つての暫定的措置であり、特に人事については被告古河電工からの出向予定者が住友電工からのそれよりも多かつたため、両社からの出向者がほぼ同数となるよう調整をするとの配慮から出向者の一部を復帰させることが予定されていたのであつて、この趣旨は組合に対し示され、また組合を通じて原告ら出向者にも周知されていたのである。そしてこのような合弁会社たる新会社としての性質上、その発足後間もない時期においては、新会社としての事業の統一化、合理化を遂行しその基盤を確立するために、右のような数の上での人員調整だけでなく、適材適所等の観点から適切な人員配置をする必要がありそのために一部出向者を復帰させる事態の生じうることも当初より当然に予想しうるところである。前記中央労働協議会において、組合側が会社に対し、人員調整(転勤、配置転換)については本人の意思を最大限配慮し本人が希望しない限り親会社へ戻さないことを要望したのも、右のような理由による復帰命令を予定したうえで、本人の意思の尊重を要望したものと解され、これに対し会社はこれを一般的人事異動の問題として、本人の事情は充分勘案するが、本人の意思を尊重できない場合もある旨回答し、組合は結局のところこの回答をもつて出向を了解したのである。もつともこの点に関連して、会社は、人員調整は年内にはまずない、旨回答しているが、これは人員調整の時期についての会社としての見通しを述べたにすぎないものと解するのが相当であつて、組合に対し出向者を年内に復帰させることはしない旨、あるいは人員調整以外に出向者を復帰させることはしない旨を確約したものとみることはとうていできない。さらには、組合側から、新会社発足後早晩予定される大井分室の武山統合に際し、武山に、転勤できない者の復帰を要望さえしているのである。

かかる事情のほか出向者の給与、社会保険料の負担等による被告古河電工の経営援助その他前記二項に認定した被告両社の関係を綜合して考えると、少くとも被告原燃工業が企業としての統一性、独立性を備え、独立の企業としての基盤を持つに至るまでの間は、出向者が被告原燃工業の従業員として定着するかあるいは同社内における人員調整、適切な人員配置等の人事上の都合により被告古河電工に復帰するかは、極めて流動的な状態にあつて、これらの都合により同被告に復帰することのあるべきことを予定して本件出向及びこれに対する出向者の同意がなされたものと解するのが相当である。かかる見地に立てば、復帰命令はそれが人員調整を理由とするものであると否とを問わず新会社の企業基盤確立の観点から合理性を肯認し得る限り復帰予定者の個別的同意がなくても有効と解すべきである。

ところで、本件において、出向者に対する復帰命令は被告両社いずれにより発せられるべきかを検討しなければならない。元来企業基盤確立の人員調整等は当該企業の独自の判断に基づいて行なわれるべきは当然であるが、既に認定したような新会社設立の趣旨、経緯及びその運用の実態にかんがみ被告古河電工の意向が右人員調整等に反映されて然るべき関係にあるものということができ、それなればこそ被告両社の出向協定において「出向解除の必要が生じたときは事前に双方協議してこれを行なう」旨が合意されたのである。かかる事情と、出向命令を発したのも出向者を再び受け入れるのもともに被告古河電工であることにかんがみ、また出向者の地位を不安定ならしめないために、これらの人員調整等は同被告からの出向者に関する限り、被告両社の一致した意見に基づく被告古河電工の復帰命令という形式により行なわれるべきものと解するのが相当である。しかして、この関係は、出向者が被告古河電工の従業員としての身分を保有したまま被告原燃工業との間でも雇用関係を結ぶに至つたかあるいは単に同被告の日常の労務指揮権に服するにとどまるかにより差異を生ずるものではなく、出向者は被告古河電工の復帰命令により再び同被告に対する労務提供義務を負うと共に、被告原燃工業に対するそれを免れ、かつ賃金請求権を失うに至るのである。

しかして、本件復帰命令が被告両社の一致した意見に基づき被告古河電工により発せられたことは前認定のとおりである。

そこで、本件復帰命令の合理性について考えると、これが発せられた昭和四七年一二月一八日の時点において、被告原燃工業が未だ右の意味において独立の企業としての基盤を有するに至つていないことは、前二項に認定したところにより明らかである。そして、その理由とするところは右三項に認定したとおり、原告の長期欠勤等勤務不安定とこのことについての訴外住友電工ないし同社からの出向者への信義上の配慮にあるところ、本件復帰命令の直接の契機となつた米軍M四八戦車輸送阻止闘争に参加した際逮捕勾留されたことによる長期欠勤の責が原告にあるかどうかにかかわりなく、かかる不慮の欠勤が客観的に被告原燃工業の業務遂行に支障を来たすものであることは明らかであり、前認定のように原告はそれまでにも同種の事由により長期欠勤したことがあるほか欠勤が多く、かつ右長期欠勤の後上司が与えた注意に対し原告が耳を貸そうとしない態度を示す以上被告原燃工業及び古河電工において、将来にわたつて原告の勤務不安定が改められず業務に支障を来たすべきことを懸念するのは、至極当然のことといわなければならず、発足間もなく未だ企業基盤も定まつていない被告原燃工業にとつて従業員のかかる勤務不安定性はとりわけ重大である。そして住友電工との共同出資により合弁会社たる被告原燃工業を設立した被告古河電工としては、その企業基盤の確立に寄与すべき信義上の義務を、住友電工に対してもまた被告原燃工業に対しても負つているのであるし、また被告原燃工業内部においても、被告古河電工からの出向者は住友からの出向者に対して同種の信義上の義務を負つているものといえるから、かかる考慮から被告両社が一致してこのように勤務不安定な原告を引続き被告原燃工業において勤務を継続させるより被告古河電工に復帰させることを妥当と判断することは、合理性あるものとして首肯しうるところである。

そのうえ前認定のとおり、当時被告古河電工には加工室において補充を要する欠員があり、一方被告原燃工業においては、常陽ブランケットに関する業務が終了し、原告を復帰させても業務上支障のない状態にあつたのであり、かかる事情をも付加的に考慮のうえ原告の復帰を決定したのであるから、結局本件復帰命令は、客観的に合理性のある理由に基づき発せられたものと認めることができる。本件復帰命令は原告に対する不利益処分としてなされたものではないから、その直接の契機となつた前記逮捕勾留が原告の責に帰すべきものであるか否かが、その当否の判断に直接の関係のないことは、いうまでもない。

なお、本件復帰は、単に出向元の職場に復帰するのではなく(前述のとおり元の職場はもはや存在しない。)、原告がこれまで従事してきた核燃料製造部門(原子力部)から中央研究所加工室への職種の変更を件うものであるから、この面での原告の同意の要否も考慮する必要があるが、右三項4に認定したとおり原告がそれまで核燃料製造部門において従事してきた作業と加工室において予定された作業との間には類似性があつて、原告の従来の経験が生かせるのであり、また職場も同一建物内の移動にとどまり、その他復帰に伴う異動により労働条件に変動が生ずると認むべき証拠はない。しかるところ、前掲乙第三号証によれば被告古河電工の就業規則第六四条には、「業務上必要あるときは従業員に対し転勤、転職又は職場変更させることがある。」旨定めており、一方原告本人尋問の結果によれば、原告は同被告の中央研究所において採用され、その直後に原子力部に配属されたものであることが認められるところ、他に原告の職種を原子力製造部門に限定して採用したと窺うに足る証拠は存在しない。右によれば同じ事業所内での類似性のある職種への本件の程度の異動は、当初の雇用契約において予定された範囲内のものと推認するのが相当であるから、本件復帰命令はこの面でも原告の同意を要しないものというべきである。

以上のとおりであるから、本件復帰命令は原告の同意を要せずして有効になしうるものというべく、従つて右命令により原告は被告古河電工に対しその加工室に勤務すべき雇用契約上の義務を負うに至つたものといわなければならない。

五  被告原燃工業との間の雇用関係の存否

在籍出向は先に述べたように、出向元との雇用関係を維持しながら出向先の指揮監督を受けてその業務に従事するものであるが、出向により出向者と出向元との間においても雇用関係が成立するのか、単に日常の労務指揮の服従関係が存するのかは一義的に決定することができない。当該出向がそのいずれに属するかは、第一次的には当事者間の明示の合意によるが、本件出向においてかかる明示の合意は存しないから、この点も出向の目的、形態、出向に至る交渉経過及び出向後の賃金支払い関係、労務指揮関係の実態等を綜合して判断しなければならない。

そこで本件についてみると、前記のとおり、本件出向が、被告古河電工と住友電工との核燃料部門を物的、人的施設ともにほぼ在来のまま新会社に引継がせ、核燃料専業企業として発展することを期して新会社を設立し、これにともなつてなされたものであることに照らせば、少くとも将来新会社が独立の企業基盤を備える時点においては出向者と新会社たる被告原燃工業との間に独立の雇用関係を成立させるべく予定したものとみなければならない。しかしながら被告原燃工業が右のように独立の企業基盤を未だ持つに至らず、それまでの過渡的措置として、前認定のように出向者に対する給与等支給関係、社会保険取扱いの関係、人員調整等の理由による復帰を被告古河電工においてなしうる関係等、賃金請求権、労務指揮権両面の関係において出向者と被告古河電工との間に極めて緊密な関係が維持されていることに照らせば、出向者と被告原燃工業との間に、別個に独自の雇用関係が成立したものとは未だ認めえないものとみるべきであろう。

なお被告原燃工業との間にも二重に雇用関係が成立したものと解するとしても、その契約関係は、原告と被告原燃工業との間に別個の特段の合意がなされるのでない限り、出向に関する原告と被告古河電工間及び被告古河電工と被告原燃工業間の各合意と無関係に成立するものではなく、右各合意の目的とするところの範囲内において成立するのにすぎないと解される。即ち、右各関係において有効に原告の出向関係が解消されれば原告及び被告原燃工業のいずれからもその雇用関係を当然に解約しうるものと解すべきである。従つて前記のように復帰につき被告古河電工と被告原燃工業との間に合意が成立し、これに基づき被告古河電工が原告に対し復帰を命じた以上、被告原燃工業は他に何らの制約なく原告に対し解約をなしうるものというべきであり、前認定のとおり本件復帰に当り被告原燃工業もまた原告に対しその命令を発しているのであるから、右の見地に立つときは、これは右解約の意思表示に当る。そしてこの場合、解約に予告期間を置くというようなことは、各当事者が出向に際し予め予定したところに反するばかりでなく、労働者の保護のためにも必要のないことであるから、解雇に関する民法上、労働基準法上の制約は受けず、その意思表示のときから直ちに効力を生ずるものと解すべきである。

よつて、いずれの観点からしても、少くとも本件復帰命令後においては原告と被告原燃工業との間の雇用関係は存在しない。

六  本件懲戒解雇の効力

以上のとおりであるから、本件復帰命令により原告は以後被告古河電工に対しその加工室に勤務すべき雇用契約上の義務があるところ、前認定のとおり原告は同命令及びその後同被告からの再三の就労命令、説得にかかわらず右加工室に就労しなかつたのであるから、その行為が労働協約二五条四号、就業規則六二条四号に懲戒解雇事由として定める「職務上の指示命令に従わず、職場の秩序を紊したとき」に該当することは明らかである。よつて後述の再抗弁事由が肯認されない以上、同被告のなした本件懲戒解雇の意思表示は有効である。

七  不当労働行為の成否

1  前掲乙第四三号証、成立に争いのない乙第四八号証の一ないし四、第五三、第五四号証、証人山崎国広、同東達典、同山本達郎(但し後記採用しない部分を除く)の各証言及び原告本人尋問の結果によれば次の事実が認められる。

被告古河電工原子力部においては従来から放射線安全管理班を設けて核燃料取扱区域及びそこで働く従業員の放射線被爆線量の測定、監視をし、その一環として各従業員が胸にフイルムバッヂをつけ各月毎に放射線測定をして安全管理の一手段としていたところ、同部開発課においては昭和四六年五、六月分フイルムバッヂについて従業員五名につき通常の被爆量を上廻る九〇ないし二七〇ミリレントゲンの放射能が測定された(開発課員中から通常より高い線量記録が発見されたことは原告被告古河電工間において争いがない。)。右量は被爆量の安全基準とされている三か月三、〇〇〇ミリレントゲン、年間五、〇〇〇ミリレントゲンを下廻るものであつたが、従来の被爆量が一〇ないし三〇ミリレントゲン以下であつたのに比較すると相当高いものであつた。被告古河電工では安全管理班を中心に原因を究明したところ同年八月三日開発課のロッカー配置場所に隣接してベニヤ板で仕切られた貯蔵庫にレッカウランを置いたことが原因であることが判明した。このことを契機として開発課の階下にあたる原告所属の核燃料製造課第一製造係においても、原告らが中心となつて安全管理体制についての説明を要求し、四回にわたつて開かれた説明会等を通して休憩時間、清掃の徹底等を要望した。被告古河電工は貯蔵庫ウランを撤去し、右問題を契機として安全管理体制を強化し(この点は原告と被告古河電工間において争いがない。)、安全管理班員を増員して開発課研究員であつた訴外佐藤健治を同班員とし、特殊健康診断を実施するなどして対処した。

以上の事実が認められ、前掲山本達郎の証言中右認定に反する部分は採用しない。

右のとおり被告古河電工が原告らの安全管理体制強化の要望を拒み得なかつたことは認められるが、被告古河電工において右安全管理問題を契機として労務管理を強化したことを認めるに足る証拠はなく、また訴外佐藤健治を安全管理班員としたことをもつて原告らの運動への懐柔策であるとまで認めるに足る証拠もない。

前掲乙第七号証の一ないし三と証人清沢暢人の証言によれば、被告古河電工が原告に対し昭和四七年六月に武山の第二製造係への出張勤務を命じ、これにより原告が同年七月三日から同月二一日まで出張したことが認められるけれども、右証拠によれば、右出張は、右第二係から七、八月中の助勤者を応援に出してくれるよう要請を受けた同第一係係長清沢暢人が、同係内部の連絡会議であるグループ長会議(同会議には原告自身が支援して中央研究所の組合の執行委員長に当選したと述べる小峰佑策もグループ長として出席している。)にはかり、右第一係所属従業員全員に対し、七、八月中における支障等につきアンケートをとつたうえ、妻帯者や業務上及び業務外の都合により出張できないものを除外し、グループ長の意見を参酌するという方法により、出張期間を三期に分け、その第一期出張者として原告ほか二名(その中に右小峰を含む)を人選した結果命じたものであり、また第二期出張者としてほか二名の者にも出張を命じたことが認められ、証人東達典の証言及び原告本人尋問の結果中右認定に反する部分(特に、清沢は原告に対し当初二ケ月間の出張を命じ、これに対し原告が異議を述べて後にアンケートをとり、その結果出張者として原告ほか二名を決定してその旨原告らに通知したが、これに対し原告から期間が長すぎるとの抗議を受けたため期間を短縮したものである、とする部分)は、証人清沢の証言に比べその内容にあいまいのところがあり、にわかに採用しえないところである。

他に、右清沢ないし被告古河電工が、被告原燃工業設立に伴う原子力部の全員出向という事態に備えてことさら原告を職場から排除し、あるいは同年七月に行なわれた後記役員選挙における原告の選挙運動を妨害する目的で、右出張を命じたものと認めるに足る証拠はない。

また、証人山崎国広の証言と原告本人尋問の結果及びこれらにより成立を認めうる甲第一〇ないし第一二号証によれば、原告が在来の組合の活動方針が専ら組合中央の執行部により決せられ、一般組合員や職場の意向が十分に反映されていないとの批判を抱くに至り、このような意向から昭和四七年春闘等に際し、原告の所属する核燃料製造課の職場において、同職場従業員の組合意識を向上させ結集してその意見を組合中央の方針に反映させようとする努力をしてきたこと、及び原告が、同年七月に行なわれた組合中央研究所支部の執行委員選挙に志を語らつた者らと共に立候補し落選したが、その選挙に関し違反文書配布等の不明朗た事態が生起したことを認めることができる。しかしながら、被告古河電工ないしその職制が、このような原告の組合活動や思想に関心を持ち、これを嫌悪し、あるいは右選挙に際し組合中央執行部と一体となつて違反文書を配布するなどして原告らの当選を妨害したなどの事実を認めるに足る証拠はない。

3  弁論の全趣旨によつて成立が認められる乙第四七号証及び原告本人尋問の結果とこれによつて成立が認められる甲第二、第一三、第一四号証を綜合すると、原告らが被告原燃工業へ出向した後被告古河電工からの出向者をもつて組織する労働者組織結成に向つて準備委員会が設けられ、同年九月三〇日原告らはその準備委員に選出されていたところ、古河労組執行部としては将来住友電工からの出向者と合体して独自の労働組合が結成されるまでの経過措置として、古河労組の下部連絡機構に近い形での従業員会の結成を考え、右準備委員中にも同様の考えを持つものがいたが、原告はこれと意見を異にし、正規の労働組合を結成すべきであるとの立場をとつていたことを認めることができる。しかし、被告両社が原告の右意見に関心を持ち、これを嫌悪し、右新組織結成問題に介入し、あるいは御用組合としての新組織結成を働きかけたことを認めるに足る証拠はない。

4  昭和四七年一〇月頃原告所属の被告原燃工業武山研究所大井分室の廃止と武山への統合のため、同分室所属の従業員の一部が武山研究所に移転したことは当事者間に争いがないところ、証人渡辺太門、山崎国広の各証言及び原告本人尋問の結果とこれにより成立を認めるべき甲第一五号証によれば、同年一〇月一日を期して独身者従業員九名が移転するにつき、被告原燃工業はその独身寮として元旅館の建物を賃借して用意し、同年九月二一日、同月二七日の二回にわたつて入寮予定者に対し説明会を行ない、その中で入寮予定者から出された要望の一部を容れて入寮条件が決定されたこと、その過程において原告は入寮予定者から当初同社より示された入寮条件について相談を受けて、これについて従業員側の要求をとりまとめた独身寮に関する声明文を起案しこれを入寮予定者に手渡したことが認められる。しかしながら、証人山崎国広の証言及び原告本人尋問の結果によつても、右の問題に関する原告の関与は右の程度にとどまり原告が直接同被告の職制に対し交渉に当つたわけでもないというのであり、他に同被告の職制が右の問題に対する原告の関与を知り、そのことに関心を抱いたことを認めるに足る証拠はない。

5  以上のとおり、原告が職場の問題について、また組合活動として、会社に対する対決的意見を持ち、その意見に基づいてある程度活発な活動をしてきたことは肯認できるけれども、それらは未だ原告の所属する職場内における比較的狭い範囲での活動にすぎず、従つて未だ被告両社ないしその職制において原告の活動に強い関心を持ち、これを嫌悪するに至つていたものとは認めえないのであり、以上に示したほか、本件復帰命令が、原告が被告原燃工業の従業員の中において活発な組合活動をしあるいは闘う労働組合の結成に向けて活動するのを妨害する意図をもつてなされ、さらには、原告が右命令を拒否するとの予測のもとにこれを理由とする解雇を意図してなされたものと認めるべき証拠はさらにない。

よつて不当労働行為の主張は理由がない。

八  人事権濫用の成否

本件復帰命令が合理性を有する業務上の理由に基づきなされたものであること、原告が被告古河電工に復帰してその加工室において勤務することにつき、少くとも客観的な労働条件の面において原告に特段の不利益を与えるものと認むべき事由の存しないことは、既に四項において判断したとおりである。これに対し原告は右命令を拒否する理由として、前記三項5に述べた五点を主張したのであるが、その(ロ)、(ハ)の二点が右拒否の正当な理由になりえないことは既に述べたところから明らかであるし、(イ)の点についても、既に述べたように本件復帰命令は原告に対し欠勤の責を追及してなされた不利益処分ではないのであるから同じく拒否理由になりえない。また(ニ)の点については、前項に判断したとおり理由がなく、(ホ)の点は専ら原告の主観の問題であつて、被告側の復帰命令の理由と対比して復帰命令を不当ならしめる理由とはなりえない。

他に本件復帰命令が人事権の濫用に当ると認めるに足る証拠はないから、原告のこの点の主張も採用できない。

九  以上の次第であるから、被告古河電工が原告に対してした本件復帰命令及び本件懲戒解雇の意思表示はいずれも有効であり、よつて原告と同被告との間の雇用契約関係は右懲戒解雇により終了したものというべく、また原告と被告原燃工業との間の雇用契約関係は成立していないか、仮りに成立したとしても被告古河電工及び原燃工業が原告に対してした本件復帰命令により終了したものというべきである。

よつて本訴請求中、被告両名に対し雇用契約上の地位の確認及び本件懲戒解雇後の賃金の支払いを求め、被告古河電工に対し同社中央研究所において勤務する義務の不存在の確認を求める部分は理由がない。また原告は、本件復帰命令後勤務すべき同被告の中央研究所での勤務を拒否しているのであるから、復帰命令後懲戒解雇までの賃金の支払いを求める部分もまた失当である。

第二反訴について

反訴請求原因1の事実は当事者間に争いがなく、被告古河電工が原告に対し昭和四八年一月一一日有効に懲戒解雇の意思表示をし、これにより同日限り原告と同被告との雇用契約関係が終了したことは、本訴について判断したとおりである。

そうすると右当事者間の別紙物件目録記載の部屋に関する使用貸借契約は右同日限り契約に定めた目的に従う使用を終わつたことにより終了したものというべきであるから、同被告が原告に対し右部屋の明渡しを求める反訴請求は理由がある。

第三結論

以上のとおり、原告の本訴請求は全て理由がないから棄却し、被告古河電工の反訴請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。なお、反訴請求についての仮執行の宣言は相当でないと認めこれを付さない。

(裁判官 松野嘉貞 濱崎恭生 牧弘二)

(別紙省略)

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