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東京地方裁判所 昭和48年(ワ)3500号 判決

一 原告が本件特許権の共有者であること、本件特許発明の特許請求の範囲の項の記載が請求原因二の項のとおりであること及び被告が昭和四一年一二月七日から昭和四七年一二月三一日までの間に被告製品を業として製造販売したことは当事者間に争いがない。

二 右争いがない本件特許発明の特許請求の範囲の項の記載によれば、本件特許発明は、次の構成要件に区分することができる。

(一) 接眼レンズ系構体のガラス平板内に、この平板上に結像として与えられた被写体像のうちの任意の小部分を反射せしめるための反射又は乱反射面を斜設すると共に、

(二) 前記ガラス平板の側端面には露出計測用の光導電体素子を付設し、

(三) 前記反射又は乱反射面から前記光導電体素子への光伝送に前記ガラス平板自体の内部における全反射作用を利用することを特徴とする、

(四) 一眼レフカメラ。

三 右構成要件(一)ないし(三)でいうガラス平板とは、右特許請求の範囲の項の記載及び成立について争いがない甲第二号証(本件公報)中の「ハーフ・ミラー加工部21で反射した入射光の一部はガラス平板8中で全反射を繰り反し露出計用の光導電体素子13の底光面14に入射する。」(一頁右欄下から一行目ないし二頁左欄二行目)、「なお、ガラス平板8における結像はフアインダ系内に周知の一眼レフ・カメラと同様に配設した焦点板から与えられるが、もしガラス平板8自体にピント合わせ用のフレネルレンズ加工または集合プリズム加工を施すとガラス平板8内における全反射が妨げられ、所期の目的を満足に達成できなくなる。」(二頁左欄一二行目ないし一四行目の訂正)との記載に徴すれば、焦点板としての機能をもたず、フレネルレンズ加工したり集合プリズム加工したりしてない単純なガラス平板をいうものであることは明らかである。

被告は、本件特許発明におけるガラス平板とは焦点板としての機能をも有するものをいうと主張し、その理由として特許請求の範囲の項に「(ガラス)平板上に結像として与えられた被与体像」との記載があること、一眼レフカメラのフアインダ機構上、焦点板は欠くことのできない部分であるのに、訂正前明細書及び図面には焦点板の記載がないこと、訂正前明細書の詳細な説明の項に「被与体の像は………ガラス平板8の下面に結像する。」とあつたこと、などを挙げ、もし本件特許発明の出願公告後の補正がガラス平板と焦点板とは別個のものであることを明らかにしたものであるとすれば、その補正は要旨を変更するものでありその補正がされなかつたものとみなされなければならないと主張する。しかしながら本件特許発明は、本件公報中の前引用個所から明らかなように、ハーフ・ミラー加工部で反射した入射光の一部をガラス平板で全反射を繰り返させ、露出計用の光導電体素子の感光面に入射させる狭視野角の露出計を構成することを目的としたものであつて(本件公報一頁右欄下から一行目ないし二頁左欄二行目及び一頁左欄発明の詳細な説明の項の一行目ないし四行目参照)、もし被告主張のようにガラス平板が焦点板としての機能をも有するものであるとすると、そのこと自体で、ハーフ・ミラー加工部で反射した入射光の一部がガラス平板で全反射を繰り返さないことになり、本件特許発明の目的とするところが達成されなくなるものと考えられる。従つて本件特許発明の出願公告後の補正は明瞭でない記載の釈明を目的とするものであつて、その要旨を変更するものではないと認められる。訂正前の明細書及び図面に焦点板の記載がないとの点については、原告の反論(第四の三の(二))をそのまま肯認することができる。被告の前記主張は理由がない。被告は、ガラス平板にフレネル加工又は集合プリズム加工を施すとガラス平板内における全反射の繰返しができなくなるから、本件特許発明におけるガラス平板はそのような加工をしたものでないものでなければならないとしながらも、焦点板の点については、ガラス平板が焦点板を兼ねるものでなければならないというのは、それ自体矛盾である。けだしガラス平板に焦点板としての加工を施せば、ガラス平板内で全反射の繰返しが行われなくなることは前説明のとおりである。被告は、この点に関し、ガラス平板の小部分に加工を施し、その部分にのみ焦点板の機能をもたせれば、ガラス平板自体の内部における光の全反射作用が妨げられず、所期の目的が達成され、そのようなガラス平板が存在することは光学上周知のことであると主張する。なるほど成立について争いのない甲第六号証の二によれば、被告主張のようなガラス平板もあり得ることが認められるが、同号証によればそのようなガラス平板は極めて特殊なカメラにのみ使われるものであることをも認めることができ、本件特許発明における通常の一眼レフカメラ(本件公報一頁左欄発明の詳細な説明の一行目参照)に使用されうるものと認めることはできない。被告の右主張は理由がない。

四 本件特許発明の前記構成要件(三)における「ガラス平板自体の内部における全反射作用を利用する」とは、全反射作用の繰返しを利用する意味であることは前説明のところから明らかである。原告は、この点について特許請求の範囲に記載のとおり「全反射作用を利用する」ものであれば足り、それを繰り返し利用するものであることを必要としないと主張するが、何故そうなのかについて何らの説明もしていない。もちろん、入射光の中には全反射を繰り返さないものもあるであろうが、その繰返しが予定されるもの、すなわち、ガラス平板は全反射の繰返しを妨げるような何らの加工もされていないものでなければならないことは、本件明細書を見れば自ら明らかである。

五(一) そこで、本件特許発明と被告製品とを対比すると、先ず本件特許発明の前記構成要件(一)は、前説明のとおり、全反射の繰返しを妨げるような加工をしていないガラス平板内に反射又は乱反射面を斜設するものであるのに対し、被告製品では、本件特許発明の反射又は乱反射面に相当すると認められるハーフ・ミラー(21)が斜設されている部材は、全反射の繰返しを妨げるものと認められる集光レンズ(8)であつて、ガラス平板ではない。

原告は、被告製品では、集光レンズ(8)は、下面か平面、上面がゆるやかな曲面をなしており、レンズの作用をも有するが、本件特許発明と全く同じくその内部における全反射作用を利用して、斜設されたハーフ・ミラー(21)からの光を光導電体素子(13)に伝送するために設けられており、本件特許発明のガラス平板と全く同じ目的及び作用効果をも有するものであるから、本件特許発明のガラス平板に該当すると主張する。しかしながら右主張が理由のないものであることは、前説明のところから自ら明らかである。

更に、原告は、特許請求の範囲の項には、「接眼レンズ系構体のガラス平板」とあるだけで、従来の接眼レンズ系構体に全く新しいガラス平板を設けるか、あるいはまた既存の部材をガラス平板として利用するかについては何らの限定も付していないところ、被告製品の集光レンズ(8)は板厚を特に大きくしてガラス平板として利用しているのであつて、本件特許発明のガラス平板の一実施態様であると主張する。しかしながら、本件明細書及び図面には、「ガラス平板」か既存の部材、例えば接眼レンズ系構体中の凸レンズをガラス平板として利用する場合に、それがガラス平板に該当すること、すなわち被告製品の集光レンズ(8)のような部材がガラス平板に該当することを示唆するような記載は全くない。本件特許発明におけるガラス平板は全反射を繰り返させるようなものでなければならないことは前説明のとおりである。原告の主張は理由がない。

原告は、更に凸レンズもその一面の曲率がゆるやかなものはその内面における全反射は上下面の平行なガラス平板におけるとほとんど相違がなく、被告製品の集光レンズ(8)は、このような曲率のゆるやかな凸レンズであり、全反射作用を利用するものであるから、本件特許発明のガラス平板に該当すると主張する。しかしながら、その主張も理由がないことは、前説明に徴して明らかである。

(二) 本件特許発明の構成要件(三)における「ガラス平板自体の内部における全反射作用を利用する」とは、全反射作用の繰返しを利用する意味であることは前説明のとおりである。ところが、被告製品における集光レンズ(8)は、本件特許発明におけるガラス平板のように全反射の繰返しを利用させるものではないと認められる。よつて、被告製品は本件特許発明の構成要件(三)も充足しない。

六 右説明のとおり、結局被告製品には本件特許発明でいう「ガラス平板」がないから、被告製品は前記本件特許発明の構成要件(一)ないし(三)のいずれをも充足せず、従つて本件特許発明の技術的範囲に属さないものというべきである。

七 よつて、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないので、これを棄却する。

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