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東京地方裁判所 昭和48年(ワ)8339号 判決

一 原告らの差止め及び廃棄請求について

(一) 原告久住が本件実用新案権の実用新案権者であること、原告会社が原告久住から、昭和四八年八月九日、本件実用新案権について本件専用実施権の設定を受け、同年一一月一九日その旨の登録を経由した専用実施権者であること及び本件考案の実用新案登録請求の範囲の項の記載が請求原因一、(二)の項のとおりであることは当事者間に争いがない。

(二) 原告らは、被告が被告第一製品を現に製造販売し、販売のために展示している旨主張し、被告は、これを争い、被告は現在これを製造販売していない旨主張するので、この点について検討するのに、被告が被告第一製品を現に製造販売していること及び将来製造販売するおそれがあることを認めるに足りる証拠がない。

そうすると、原告らの被告第一製品についての差止め及び廃棄請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないものといわなければならない。

(三) ところで、被告が被告第二ないし第五製品を現に業として製造販売し、販売のために展示していることは当事者間に争いがない(但し、被告第四製品の構造については一部争いがある。)。そこで、被告第二ないし第五製品が、本件考案の技術的範囲に属するか否かについて検討する。

1 前記争いがない本件考案の実用新案登録請求の範囲の項の記載によれば、本件考案は、次の構成要件から成る球根等の保存、育成容器であると認められる。

(A) 容器内に培養素子、肥料素子及び種子、球根等を適宜収容すること。

(B) 該容器に蓋板を施して容器全体を罐詰状に密封したこと。

2 そこで、先行技術との関係を考慮しつつ、本件考案と被告製品とを対比する。

(1) 成立に争いがない甲第二号証(本件公報)によれば、本件考案は、その構成によつて格別の技術や知識を必要とすることなく簡単に植物栽培の楽しみを味わうことができる保存、育成容器の提供を目的としたものであることが認められるところ、成立に争いがない乙第一号証の一ないし三、第三号証、第一六号証の一ないし四、証人河辺忠夫の証言により真正に成立したと認められる甲第二六、第二七号証、乙第二三号証によれば、本件考案と同様の目的の下に、容器内に培養素子、肥料素子及び種子球根等(キヤンフラワーの培養基、肥料及び球根種子)を適宜収容すると共に、容器に蓋板(キヤンフラワーでは、はめ込み式上蓋兼鉢受皿。昭和三八年一〇月二六日公告の実用新案出願公告昭三八―二二四三一号公報では、着脱自在に装着された蓋片。)を施し、容器底部の排水孔にプラスチツク製栓(キヤンフラワーでは、下蓋)をした球根等の保存、育成容器の技術的思想が、本件考案の登録出願前の先行技術として既に存在したことが認められる。

そうすると、本件考案は、右認定の先行技術と同一の目的を、右先行技術にない新規な構成により達成するために、一定の具体的な技術的手段を提供したところに、その考案性が認められたものと解すべきである。

そこで、本件明細書の記載と前認定の本件考案の構成要件とに基づいて考察する。

まず、前掲甲第二号証によれば、本件明細書の考案の詳細な説明の項には、「本考案は、植物栽培の楽しみを罐詰にしたもの換言すれば各種観賞用植物或いは野菜、果実、茸等の食用植物の種子、球根または菌類を培養素子および肥料素子と共に容器内に収容し密封した球根等の保存、育成容器に関するもの」(本件公報一頁1欄16行目ないし20行目)と記載されており、また、実施例に即して、その構成について、「5は容器3の底部に穿設した排水孔、6は該排水孔5を閉鎖するよう容器3の底部に貼着した被覆片、7は容器3の蓋板である。……蓋板7を捲締加工により容器3に固定すると共に容器3の底板に被覆片6を貼着して容器3を完全密封するのである。」(同一頁1欄35行目ないし2欄7行目)と記載されており、そしてこの容器の使用方法については、「使用に際しては、罐切りを用いて蓋板7を切開すると共に底板の排水孔5を密閉している被覆片6を剥取り、」(同一頁2欄11行目ないし13行目)、「容器3を開口するに際しては罐切りを使用することなく、容器を公知のプルトツプ構造とすることにより簡単に開口することが可能である」(同一頁2欄16行目ないし19行目)と記載されており、更に本件考案の作用効果として、「容器3内に収容する培養素子1、肥料素子4および種子類2は充分に乾燥させておき、しかも一且容器3内に収容したならば容器3は密封されるので、種子ならば4~5年、球根は休眠中に収容すれば翌年二月頃まで保存することができ従つて販売期間が長くなるのである。本考案は叙上のように、容器3内に培養素子1肥料素子4および種子、球根等2を適宜収容密封したので、種子、球根等の保存が確実でしかも梱包、輸送に便利である」(同一頁2欄19行目ないし28行目)と記載されていることが認められる。右事実を斟酌して本件考案の構成要件を考察すれば、本件考案は、(一)容器内に培養素子、肥料素子及び種子、球根等を適宜収容し、(二)容器に蓋板を施して容器全体を罐詰状に密封する、すなわち充分に乾燥された培養素子、肥料素子及び種子球根等がその状態を持続して保存が確実である程度―蓋板が捲締加工により容器に固定され、排水孔が穿設された底部には被覆片が貼着されている程度―に密封した球根等の保存、育成容器の構成を採用したことによつて、その目的を達成したところに、その特徴が存するものと認められる。

次に、成立に争いがない乙第九ないし第一一号証によれば、本件考案の考案者であり、出願人でもある原告久住は、審査官が実用新案出願公告昭三八―二二四三一号公報を引用して本件考案は実用新案法第三条第一項第一号に該当するとした拒絶理由通知に対して意見書を提出し、右公報記載の考案は、鉢3の頂部には蓋片4を着脱自在に装置した花鉢で、球根等の保存を目的としたものではなく、蓋を着脱自在に装着しただけであつて、容器を密封した構造ではないのに対し、本件考案は容器を密封した構造であつて、保存が確実であるという効果を奏するものである旨主張したことが認められる。また、成立に争いがない甲第一一号証の一、第一三号証、乙第一一号証、原告久住本人尋問の結果を総合すると、原告久住は、本件考案について、容器の中に湿気があると球根や種子が容器内で発芽してしまい不都合であるので、充分乾燥した培養素子、肥料素子及び種子球根等を容器に密封するものであると認識していたことが認められる。

(2) 以上の事実に基づき、本件考案と被告第二製品とを対比するのに、被告第二製品は、すでに判示したとおり、容器(3)の頭部に鉄製蓋板(6)を施し、底部に排水孔(7)を設け、底部全体に合成樹脂製底蓋(8)を冠着した構造であるところ、被告第二製品であることについて争いがない検甲第二号証によれば、被告第二製品では、鉄製蓋板(6)が捲締加工により容器(3)に固定されているが、容器底部に冠着された合成樹脂製底蓋(8)はわずかの力で着脱が容易な着脱自在の合成樹脂製の蓋板であることが認められる。右事実によれば、被告第二製品では、本件考案の実施例と同じ方法で容器(3)の頭部に合成樹脂製蓋板(6)が施されているが、排水孔(7)が設けられている底部に右のとおりの合成樹脂製底蓋(8)が冠着されているに過ぎず、容器(3)全体が本件考案にいう罐詰状に密封された構造のものとは認められない。

原告らは、被告第二製品の合成樹脂製底蓋(8)は容器保存中底部に密着して冠着されているものであり、実用新案出願公告昭三八―二二四三一号公報記載のものとは全く異なり、容器を密封する作用を有するものである旨主張する。しかしながら、被告第二製品の合成樹脂製底蓋(8)は、前認定のとおり、わずかの外力で容易に着脱できる着脱自在のものであるから、被告第二製品は、本件考案にいう容器を罐詰状に密封する構造とは認められず、従つてまた本件考案の種子、球根等の保存が確実で、しかも梱包、輸送に便利であるという効果も奏しないものと認められる。

そうすると、被告第二製品は、その余の点について検討するまでもなく、本件考案の技術的範囲に属しないものというべきである。

(3) 被告第三、第四製品は、すでに判示したとおり、鉄製容器(3)内の底にポリウレタンホーム(5)を敷き、底部に排水孔(7)を設けた構造であるところ、右ポリウレタンホーム(5)が容器(3)内部を外部から遮断し、前説明の本件考案にいう容器全体が罐詰状に密封された構造に該当するものであることについては、これを認めるに足りる証拠はなく、かえつて成立に争いがない乙第一三号証、弁論の全趣旨により真正に成立したことが認められる乙第二一号証、被告第三製品の底部に敷かれているポリウレタンホームであることについて争いがない検乙第一号証、被告第四製品の底部に敷かれているポリウレタンホームであることについて争いがない検乙第三号証によれば、被告第三、第四製品の底部に敷かれたポリウレタンホーム(5)は、連続気泡の発泡体で、漉加工された肉厚約四ミリメートルのものであつて、通気性を有するものであることが認められる。右事実によれば、被告第三、第四製品は、そのほかの構造について検討を加えるまでもなく、前説明の本件\考案にいう容器全体が罐詰状に密封された構造に該当するものとはいえないから、本件考案の構成要件(B)を充足しないものというべきである。

原告らは、ポリウレタンホームは多孔性物質であつて、保温材等に用いられているが、その理由は無数にある孔の部分に空気が内蔵され、外気を遮断することにあり、特に外部から空気を圧入する場合は別として、通常の大気中の保管では、その通気性において、排水孔に被覆片を貼着して防いだ場合と特に大きな差があるわけではない旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はなく、かえつて、被告第三、第四製品の底部に用いられているポリウレタンホームは前認定のとおりのものであつて、通気性を有するものであるから、原告らの右主張は理由がない。

そうすると、被告第三、第四製品はいずれも、その余の点について検討を加えるまでもなく、本件考案とは構成及び作用効果を異にすることが明らかであつて、本件考案と均等であるともいえないから、その技術的範囲に属しないものというべきである。

(4) 被告第五製品は、鉄製容器(3)内の底に折重ねた紙(7)を敷き、容器(3)底部に排水孔(8)が設けられた構造であるところ、右紙(7)が容器(3)内部を外部から遮断し、本件考案にいう密封の作用を営むものであることについては、これを認めるに足りる証拠はなく、かえつて被告第五製品であることについて争いがない検甲第五号証によれば、被告第五製品の鉄製容器(3)の底に敷かれた紙(7)は、薄い、いわゆるテイツシユペーパーを折重ねたものであることが認められ、右紙(7)が通気性を有することは明らかである。

原告らは、被告第五製品の紙(7)は本件考案の実施品の被覆片に紙を使用した場合の紙と同程度の密封性を有するものである旨主張する。しかしながら、原告らが本件考案の実施品の被覆片に紙を使用した場合という紙がどのような紙を意味するのか明らかではないし、仮に原告ら主張の紙が原告会社がカンフラワーの商品名で販売している種子球根等の保存容器の底に貼布された紙を意味するとしても、同容器であることについて争いがない検甲第一号証によれば、同容器の底に貼布された紙は明らかに通気性の乏しい紙であることが認められ、右紙が被告第五製品の紙(7)と異なることは明らかであるから、原告らの右主張は理由がない。

そうすると、被告第五製品は、その余の点について検討を加えるまでもなく、本件考案の技術的範囲に属しないものというべきである。

二 原告会社の損害賠償請求について

原告会社の損害賠償請求は、被告第三製品が本件考案の技術的範囲に属することを前提とするものであるところ、右前提が理由のないことは前説明のとおりである。

そうすると、原告会社の損害賠償請求は、その余の争点について判断をするまでもなく、理由がない。

三 原告らの謝罪広告請求について

原告らの謝罪広告請求は、被告の被告製品の製造販売行為が、原告久住の本件実用新案権及び原告会社の本件実施権を侵害するものであることを前提とするものであるところ、被告第二ないし第五製品が本件考案の技術的範囲に属しないことは前説明のとおりであるから、被告の被告第二ないし第五製品の製造販売行為が本件実用新案権及び本件実施権を侵害するものであることを前提とする原告らの謝罪広告請求は、その余の点について検討を加えるまでもなく、その前提を欠き理由がない。

そこで、被告が被告第一製品の製造販売行為により本件実用新案権及び本件実施権を侵害し、原告らの業務上の信用又は名誉を害したか否かについて検討するに、被告が過去に被告第一製品を製造販売したことは当事者間に争いがないところ、仮に被告第一製品が本件考案の技術的範囲に属するとしても、被告の被告第一製品の製造販売行為により原告らの業務上の信用又は名誉を侵害したことを認めるに足りる証拠はない。もつとも、成立に争いがない甲第二三号証によれば、昭和四七年一〇月一八日付朝日新聞に原告ら主張のような記事が掲載されたことが認められるけれども、同号証によつても、右記事に記載されている欠陥商品が被告第一製品であるかどうかは明らかではないし、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

そうすると、原告らの謝罪広告請求もまた、理由がないものというべきである。

四 よつて、原告らの本訴請求は、いずれも棄却する。

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