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東京地方裁判所 昭和48年(手ワ)46号 判決 1973年10月24日

原告 日本建設株式会社

被告 武蔵交易株式会社

主文

原告の訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一申立

(原告)

被告は原告に対し金一八二万一四五円およびこれに対する昭和四八年一月一七日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言。

(被告)

主文同旨の判決。

第二主張

一  請求原因

1  原告は、被告振出にかかる別紙手形目録記載の約束手形三通(以下本件各手形という)を所持している。

2  原告は、本件各手形をそれぞれ支払期日に支払場所で呈示した。

3  よつて、原告は被告に対し本件各手形金の合計金一八二万一四五円およびこれに対する満期以後の日である昭和四八年一月一七日から完済に至るまで手形法所定の年六分の割合による利息金の支払を求める。

二  本案前の抗弁

1  被告と原告は、昭和四四年一一月二九日に武蔵ビル増設工事施行につき被告を注文者、原告を請負人とする左記内容の工事請負契約(以下本件請負契約という)を締結した。

(一) 工事場所 東京都品川区西品川二-一六-四

(二) 工期 本件契約の日から一〇日以内に着手し右着手の日から二〇〇日以内に完成させる。

(三) 請負代金 金四二五〇万円(但し電気他設備工事代金一四六〇万円は訴外武蔵精機工業株式会社の負担とする)。

(四) その他 <省略>

2  ところで、本件請負契約には、次の約定(以下本件仲裁契約という)が付されていた。

(一) 本件請負契約について紛争を生じたときは、当事者の双方または一方から相手方の承認する第三者を選んで、これに紛争の解決を依頼するか、または建設業法による建設工事紛争審査会のあつせんまたは調停に付する。

(二) 前項によつて紛争解決の見込がないときは、建設業法による建設工事紛争審査会の仲裁に付する。

3  しかして、本件各手形は被告が、原告に対して本件請負工事代金の支払のために振出したものである。

4  ところが原告のなした本件請負工事には、

(一) 地下室冷暖房配管の水漏れ

(二) 冷暖房配管の防露装置の不完全

(三) エレベーターピツトの水処理の不完全

(四) 駐車場の床の亀裂

(五) ボイラーの燃焼装置の不完全

等の瑕疵が認められたほか、被告は、右瑕疵により多額の損害を蒙つた。

5  そこで、被告は、原告に対し前項の工事の瑕疵につきその修補および損害賠償を求めるとともに、右修補および損害賠償がなされるまで本件手形金の支払を拒絶する。

6  したがつて、原告の被告に対する本件各手形金の請求の可否については、本件仲裁契約に従い、前記工事の瑕疵および被告の前項の請求とともに併わせて解決されるべきものであり、本訴は、右契約に反し不適法である。

三  本案前の抗弁に対する原告の認否と主張

1  本案前の抗弁1乃至3の事実は認め、同4の事実は否認する。

2  被告の本件各手形の振出行為は、原告に対して一定金額を支払うことを約する旨の単純な意思表示をなしたものに過ぎず、本件請負契約とは分離独立した法律行為であり、右振出行為に本件仲裁契約に基く制約ないし条件を付加することは許されず、また、右振出行為の性格に鑑みるならば、本件各手形の授受に際して、原、被告間には本件手形金の請求については右仲裁契約の適用を除外する旨の暗黙の了解がなされていたものと解すべきである。

理由

一  まず、本案前の被告の申立につき検討する。

1  原、被告間で被告主張の如く本件請負契約がなされたこと、本件各手形が右契約に基く工事代金支払のために被告から原告に対して提出されたものであること、本件契約には被告主張の如き仲裁契約が付されていたことはいずれも当事者間に争いがない。

しかして、建設業法二五条以下の規定によれば、建設工事の請負契約に関する紛争の解決を図るため、あつせん、調停および仲裁を行う権限を有する建設工事紛争審査会が建設省(中央建設工事紛争審査会)と都道府県(都道府県建設工事紛争審査会)に設置されていることが明らかである。

2  ところで、弁論の全趣旨によると被告が原告のなした本件請負工事につき瑕疵の存することを理由に原告に対して本件手形金の支払を拒んでいることが認められる。

3  以上の事実によれば、原告に対する被告の本件手形金の支払拒絶理由は、手形授受当事者間のいわゆる原因関係についての抗弁であることが明らかであり、原告の被告に対する右手形金請求の可否は、右抗弁事実、即ち本件工事の瑕疵の有無、程度の確定を俟たなければ判断し得ないものであるといわざるを得ない。原告は、本件手形の振出行為が本件請負契約と独立した法律行為である旨主張し、また手形金債権にいわゆる無因性の認められることもいうまでもないが、原告の右手形金請求に対して被告が右の如き事実関係においてその支払を拒絶している以上、原告の右請求と被告の右支払拒絶とは一体として本件仲裁契約に定められた「本契約について生じた紛争」に該るものというべく、それぞれの可否についての判断は、右仲裁契約で定められた前記方法に従い併わせてなされるべきものである。

なお、手形金の支払約束の効力を手形外の事実にかからしめる如き手形文言の記載が許されないことは勿論であるが、その理をもつて直ちに本件各手形の授受に際して原告主張の如く原、被告間に右仲裁契約の適用を除外する旨の合意が成立した事実を認めることは到底できないし、また、右事実を認むべき証拠もない。

二  したがつて、原告の本件手形金請求は、本件仲裁契約の定める方法に従つてなされるべきであり、これに反してなされた原告の本訴請求は、結局訴の利益を欠く不適法なものというべきである。

三  よつて、原告の訴を却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 岩垂正起)

別紙 手形目録<省略>

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