東京地方裁判所 昭和48年(特わ)287号 判決 1973年9月27日
被告人
本籍
東京都中央区日本橋室町四丁目五番地
住居
東京都江戸川区北小岩二丁目七番六号
職業
無職(元病院経営)
市川和代こと
市川静江
大正一〇年七月二日生
被告事件
所得税法違反
出席検察官
河野博
主文
1. 被告人を懲役八月および罰金一、〇〇〇万円に処する。
2. 右罰金を完納することができないときは、五万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。
3. この裁判確定の日から二年間、右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となる事実)
被告人は、東京都江戸川区北小岩二丁目七番六号に居住し、同所において、成光堂病院を経営していたものであるが、自己の所得税を免れようとくわだて、収入金の一部を除外して簿外預金を設定する等の方法により所得を秘匿したうえ、
第一、昭和四四年分の実際総所得金額および譲渡所得金額の合計額が五七、九一九、九六三円あつたのにかかわらず、昭和四五年三月一四日、東京都江戸川区逆井一丁目一五七番三号(昭和四七年一一月一日、住居表示変更により、同区平井一丁目一六番一一号となる)所在の所轄江戸川税務署において、同税務署長に対し、昭和四四年分の総所得金額および譲渡所得金額の合計額が二一、三八四、四三四円で、これに対する所得税額が一、六一八、九〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により同年分の正規の所得税額二二、〇七四、九〇〇円と右申告税額との差額二〇、四五六、〇〇〇円を免れ(別紙一、三)
第二、昭和四五年分の実際総所得金額および譲渡所得金額の合計額が四〇、二八〇、一二八円あつたのにかかわらず、昭和四六年三月一三日、前記江戸川税務署において、同税務署長に対し、昭和四五年分の総所得金額および譲渡所得金額の合計額が二三三、〇五九円で、これに対する所得税額は源泉徴収税額を控除すると五九七、五七〇の還付を受けることとなる旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により同年分の正規の所得税額二〇、三六一、四〇〇円と右申告税額との差額二〇、九五八、九七〇円を免れ(別紙二、三)たものである。
(証拠の標目)(甲、乙は検察官の証拠請求の符号、押は当庁昭和四八年押一、〇二一号のうちの符号、下段のかつこ内は立証事項で数字は別紙一、二の勘定科目の番号)
一、被告人の当公判廷における供述および検察官に対する各供述調書(乙17ないし20)(全般)
一、被告人に対する大蔵事務官の各質問てん末書(乙9ないし16)(全般)
一、被告人作成の次の上申書
1. 公表帳簿外の現金在高について(乙1)(一、二の1)
2. 薬品以外のたな卸商品について(乙2)(一、二の6)
3. 固定資産の取得価額および償却計算について(乙5)(一、二の13141517、二の16)
4. 譲渡所得の取得費及び譲渡経費について(乙6)(一、二の182336)
5. 安田生命保険相互会社小岩月掛営業所より導入預金の謝礼として受領したことについて(乙8)(一、二の34)
一、市川芳郎、大図皓三の検察官に対する各供述調書(甲一5960)(全般)
一、大蔵事務官作成の次の書面
1. 預金調査書(甲一1)(一、二の234529)
2. 売掛金調査書(甲一11)(一、二の7)
3. 国民健康保険料調査書(甲一24)(二の8)
4. 現金有価証券現在高検査てん末書(甲一27)(二の12)
5. 店主勘定調査書(甲一29)(一、二の1929)
6. 財産蓄積可能額調査書(甲一33)(一、二の29)
7. 買掛金、未払費用、未落小切手調査書(甲一43)(一、二の202224)
8. 未払金(車輛運搬具)の確定調査書(甲一46)(一の23)
9. 源泉所得税預り金調査書(甲一48)(一、二の25)
10. 前受金調査書(甲一50)(一、二の26)
11. 借入金等調査書(甲一52)(一、二の27)
一、次の者作成の証明書
1. 大陽銀行小岩支店長時田平司(甲一2)(二の34)
2. 第百生命保険相互会社東京勤倹支社長江崎秋夫(甲一38)(一、二の29)
3. 東京医師信用組合業務課長坂本勝弥(甲一55)(一、二の59)
一、次の者作成の上申書
1. 殖産住宅相互株式会社池袋支店長大屋重蔵(甲一10)(一、二の5)
2. 有限会社松本工務店代表者松本七五郎(甲一26)(二の9)
3. 板橋医師協同組合理事長森川卓三(甲一45)(一、二の21)
4. 北村盛重(甲一47)(一の23)
一、安田生命保険相互会社作成の納付状況についてと題する書面(甲一37)(一、二の29)
一、江戸川税務署長作成の源泉所得税の納付状況についてと題する書面(甲一42)(二の29)
一、朝日生命保険相互会社作成の生命保険料の収納および解約返戻金等の支払についてと題する書面(甲一53)(一、二の29)
一、柳沢光孝に対する大蔵事務官の質問てん末書(甲一57)(一、二の10)
一、押収してある次の証拠物
1. 総勘定元帳一綴(押1)(全般)
2. 出納帳三冊(押3)(一、二の1)
3. 領収証等一一枚(押4)(一の21)
4. 右 同一一枚(押6)(二の21)
5. 不動産契約証書等一袋(押9)(二の1836)
6. 電信電話債券代金払込通知書等一袋(押12)(二の12)
7. 決算関係書類一綴(押13)(二の16)
8. 確定申告書等一袋(押14)(全般)
9. 青色申告者書類綴一綴(押15)(全般)
10. 請求書控三袋(押16)(全般)
11. 外来人数調帳一冊(押17)(全般)
12. アウス帳一冊(押18)(全般)
13. 金銭出納帳二冊(押1920)(全般)
(被告人の主張に対する判断)
被告人は、当公判廷において、本件各所得税の申告にあたり、各年分とも脱税の意思はなかつた旨供述し、さらに入院料請求書(押16)の改ざんや収入の一部を除外した金銭出納帳(押1920)の作成等は女子事務員が被告人に無断で行つたもので、被告人は関知していない旨供述している。しかしながら、単に事務員にすぎない者が経営者である被告人に無断で請求書の改ざん等をすることは通常考えられないこと、被告人は検察官に対し、本件脱税の手段、方法を詳細に述べるとともに、右請求書の改ざん、虚偽帳簿の作成等は被告人が女子事務員に指示して行わせたものである旨述べていること(乙1718)、また被告人は当公判廷において、一方において脱税の犯意を否認しながら、他方において本件各所得税の申告の基礎となつた帳薄(押1920)は収入の一部が除外されているものであることを知つていた旨供述していること等を総合して考えると、前記請求書の改ざん、虚偽帳簿の作成等はいずれも被告人が女子事務員に指示して行わせたもので、被告人は、本件各所得税の申告に際し、申告税額が過少であることを知つていたものと認めるのが相当である。被告人の犯意がなかつた旨の前記供述は採用できない。
(法令の適用)
所得税法二三八条(懲役刑と罰金刑を併科)、刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(第二の罪の刑に加重)、四八条二項。同法一八条(主文2)。同法二五条一項(主文3)。
よつて、主文のとおり判決する。
(裁判官 松本昭徳)
別紙一 修正貸借対照表
市川静江
昭和44年12月31日
<省略>
別紙二 修正貸借対照表
市川静江
昭和45年12月31日
<省略>
別紙三
税額計算書
市川静江
<省略>