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東京地方裁判所 昭和48年(行ウ)102号 判決 1985年12月19日

原告 冨永重芳

<ほか二名>

右原告ら訴訟代理人弁護士 磯部靖

右訴訟復代理人弁護士 水戸守巌

右原告ら訴訟代理人弁護士 益本安造

同 桑野毅

同 山本公定

被告 住宅・都市整備公団

右代表者総裁 丸山良仁

右訴訟代理人弁護士 鵜澤晉

右訴訟復代理人弁護士 関沢正彦

右訴訟代理人弁護士 上野隆司

主文

1  原告らの主位的請求に係る訴えを却下する。

2  原告らの予備的請求を棄却する。

3  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告らの請求の趣旨

(主位的請求の趣旨)

1 被告は、原告冨永重芳に対し一二億〇八三九万〇七五五円、同冨永壽に対し九八〇万九七〇八円、同株式会社トミナガに対し二二三七万二六四二円及びこれらに対する昭和四八年四月二八日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は、被告の負担とする。

(予備的請求の趣旨)

1 被告が起業者として施行する多摩、八王子、町田都市計画多摩、八王子、町田新住宅市街地開発事業のための土地収用事件について、東京都収用委員会が別紙物件目録(一)及び(二)記載の土地につき昭和四八年三月二九日にした権利取得裁決(昭和四七年第一七号)中、原告冨永重芳に対する損失補償金二八億六四九六万一四九八円、但し関係人株式会社トミナガ、同株式会社和田商店及び同東京スズキ販売株式会社に使用貸借による権利がないものと確定した場合二八億八一八六万六一七五円との部分を、四〇億九〇二四万六二五五円と、原告冨永壽に対する損失補償金九四三一万三六九八円との部分を、一億〇四一二万三四〇六円と、原告株式会社トミナガに対する損失補償金一七四九万二四四九円との部分を、三九八六万五〇九一円とそれぞれ変更する。

2 被告は、原告冨永重芳に対し一二億〇八三九万〇七五五円、原告冨永壽に対し九八〇万九七〇八円、原告株式会社トミナガに対し二二三七万二六四二円及びこれらに対する昭和四八年四月二八日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

3 訴訟費用は、被告の負担とする。

二  被告の請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの主位的請求及び予備的請求は、いずれもこれを棄却する。

2  訴訟費用は、原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告冨永重芳(以下「原告重芳」という。)は、別紙物件目録(一)記載の土地(以下「本件土地(一)」という。なお面積は実測面積である。以下同じ。)を、原告冨永壽(以下「原告壽」という。)は、同目録(二)記載の土地(以下「本件土地(二)」という。)をそれぞれ所有し、原告株式会社トミナガ(以下「原告会社」という。)は、本件土地(一)のうちの3の一部一六五〇平方メートルを賃料月額六万円で賃借し、右3のその余の一万〇六五六・六九平方メートルと、本件土地(一)のうちの4ないし9の合計三万三〇八三・五四平方メートルとを使用貸借契約に基づき使用して産業廃棄物処理業等を営んでいるものである。

2  本件土地(一)及び本件土地(二)(以下これらを「本件各土地」という。)は、昭和四六年七月三〇日告示された多摩、八王子、町田都市計画多摩、八王子、町田新住宅市街地再開発事業の計画変更の承認により、同事業の区域に編入されたところ、東京都収用委員会(以下「都収用委」という。)は、被告の申請に基づき昭和四八年三月二九日本件各土地について権利取得裁決(以下「本件裁決」という。)をし、右裁決書の正本は、同年四月一七日原告らに送達された。

3  本件裁決は、本件各土地を昭和四八年四月二八日を権利取得時期として収用すること並びに損失の補償として、原告重芳に対し二八億六四九六万一四九八円、但し原告会社、株式会社和田商店(以下「和田商店」という。)及び東京スズキ販売株式会社(以下「スズキ販売」という。)に使用貸借による権利がないものと確定した場合、二八億八一八六万六一七五円、原告壽に対し九四三一万三六九八円並びに原告会社に対し一七四九万二四四九円を支払うべきこと等を定めている。

4  右裁決のうち原告重芳に対する損失補償金の内訳けは、土地につき二八億六四八七万〇三二七円、但し原告会社、和田商店及びスズキ販売に使用貸借による権利がないものと確定した場合二八億八一七七万五〇〇四円、残地補償として稲城市大字坂浜字四三号三三三三番一の一部一二・九平方メートルにつき九万一一七一円であって、右のうち土地に関する損失補償は、本件土地(一)を、別表一記載のとおり1から23までの二三区画に区分し、その各区画について別表二記載の額を前記都市計画事業変更の承認の告示の時(以下「本件価格時点」という。)における価格と認め、更に本件土地(一)の一部について借地権(宅地についての賃借権をいう。以下同じ。)、賃借権(宅地以外の土地についての賃借権をいう。以下同じ。)又は使用借権を有するものを別表三記載のとおり認定し、底地価格とこれら権利の価格との割合については、借地権につき底地価格割合三五パーセント、借地権価格割合六五パーセント、賃借権につき、底地価格割合七六パーセント、賃借権価格割合二四パーセント、使用借権につき、原告会社の関係では、底地価格割合を九二パーセント、使用借権価格割合を八パーセント、和田商店の関係では、底地価格割合を九九・三パーセント、使用借権割合を〇・七パーセントとそれぞれ認定し、これらの認定に従って別表一記載のとおり各区画について一平方メートル当たり単価又は底地価格を算出したうえ、これに面積を乗じて、本件価格時点の相当な価格を算出し、更に、本件裁決の時までの時点修正率一・〇七九二を乗じてその額を算出している。

5  しかしながら、後記のとおり、同一所有者に属する一団の土地を右のように二三区画に主観的に細分化して評価するのは正常な取引価格形成上の諸要素を無視した不合理かつ不当な評価というべきであって、このような方法による評価額は適正なものとはいえない。

本件土地(一)は、自然の地勢としては次のとおり大小四つの画地を形成している。

(一) A画地(稲城市大字坂浜字三七号二六九六番三、同番ロ、三九号の六筆、四〇号中三一〇七番及び三一〇八番を除くその余の二五筆、四一号の九筆、四二号の一五筆、四三号の六筆、四四号の二筆、同市大字百村字八号の八筆の合計七三筆、三一万八四四五・七一平方メートル)

A画地は、稲城長沼駅の南西方約二キロメートルに位置し、東西約一〇〇〇メートル、南北約五〇〇メートル、面積約三一万八五〇〇平方メートルの画地である。標高七五メートルないし一三〇メートル程度で、北側の主尾根から南東方向に三つの支尾根が張り出している。本画地の北側及び西側は、幅員約三・五メートルないし三メートルの未舗装公道に接し約六〇〇メートルでバス路線のある鶴川街道に至る。北側公道に沿って一部平担な部分があるが、支尾根の斜面はやや急でかなり起伏のある土地である。造成にあたっては画地内での土量のバランスをとることができ、難易度は普通である。また、南側は鶴川街道及び既存集落に近い。

(二) B画地(同市大字坂浜字三六号の一一筆、三七号二六八二番、二六八三番一、同番三の合計一四筆、一一万八八三四・〇三平方メートル)

B画地は、稲城長沼駅の南西方約二・六キロメートル、A画地の西方に位置し、東西約四〇〇メートル、南北約四〇〇メートル、面積約一一万九〇〇〇平方メートルの画地である。標高は約八〇メートルないし一三五メートル程度で、北側の主尾根から南方に二つの支尾根が張り出し、その間には深い谷があるが比較的整形をなす画地である。北側道路沿い及び北西部は平坦であるが、南東部の斜面は急で起伏のある土地である。南西部の谷(約九〇〇〇平方メートル)はゴミ捨場となっていて、ゴミが堆積している。道路は、北側が幅員約四メートルの未舗装公道に接し、ほかにも林道が介在している。造成にあたっては画地内での土量のバランスをとることができ難易度は普通である。

(三) C画地(同市大字坂浜字四〇号三一〇七番、三一〇八番の合計二筆、一一五七・八〇平方メートル)

C画地はA画地とB画地の間に存する面積約一一六〇平方メートルの小さな画地である。東西に長い長方形のほぼ平坦な土地で、北側が幅員約三メートルの未舗装公道に接しており、宅地に造成することが極めて容易である。

(四) D画地(同市大字坂浜字三一号の二筆合計五七九・一五平方メートル)

D画地は、本件土地(二)と一体をなし、稲城長沼駅西方約三キロメートルに位置し、東西約二〇〇メートル、南北約一五〇メートル、面積約一万三二六〇平方メートルの不整形な画地の一部である。標高約七五ないし一一五メートル程度で台地上の平坦地、東向き斜面及び下方の平坦地から成っている。鶴川街道及び既存集落に比較的近い。

本件土地(一)は以上四つの区画を形成し、その存する地域は東京より約二五キロ圏内に位置し、都市計画法上も市街化区域・住居専用地域(一部住居地域)に指定されているなど立地条件、近隣地域の開発状況等からみて、東京都内に残された数少いベッドタウン候補地であり、宅地として開発使用することが最も有効な使用方法であることには疑問がない。このような地域内に存在し、かつ、右A及びBの両区画のように単独での大規模宅地開発が十分に可能なだけの広大な面積をもつ土地について行われる取引は、大規模な宅地開発を予定して行われるのが通例であり、このような取引における価格の形成には現に宅地として使用されている部分は別としても、取引対象地を全体的、総合的に考察したうえでの造成の難易度等おのずから小規模な土地の取引とは異った要素が重要な意味を持つものである。したがって、本件土地(一)の価格を算出するに当たっては、右自然の区画に従ってAないしDの区画ごとに(あるいは面積も小さくA区画の飛地と認められるC区画をA区画に加えて、A、B及びD区画の三区画について)評価すべきものである。そこで、原告重芳は、他の原告とともに、本件価格時点における本件土地(一)の相当な価格を立証するため信用ある不動産鑑定士数名に対し右鑑定評価を依頼した。右鑑定士らは、数回に及ぶ現地調査のほか、各自一般取引事例の調査収集に努力し、収集した取引事例についての情報を交換するとともに、転換後・造成後の更地価格から造成費等を控除した価格の算定に当たっては、宅地造成計画策定に実績があり、業界で権威と目されている冨永設計事務所に対し、前記A、B両区画についての宅地造成計画案の策定を共同で依頼した。

同設計事務所は、現地調査のほか、原告らが独自に地元の測量事務所に依頼して作成させた地形実測図等を参考に宅地計画案を作成した。右不動産鑑定士らは、右計画案を基礎に、共同作業の成果を取り入れながら、各自独自かつ自由な立場で自らの判断により鑑定評価を実施し、その結果三鑑定書が提出された。これらはいずれも密度の高い調査結果に基づいた公正かつ合理的な鑑定評価であって、本件価格時点における本件土地(一)の正常価格を表示したものであるが、そのなかでは、鶴田辰男不動産鑑定士の鑑定結果(以下「鶴田鑑定」という。)が被収用者に正当な補償を保障した憲法及び土地収用法の趣旨に最もよく合致しており、その評価額を採用すべきである。そうすると、本件価格時点における本件土地(一)の正常価格は、次のとおり合計三八億三四八三万四三〇六円となる。

(一) A区画 単価八九八〇円、正常価格二八億五九六四万二四七五円

(算式 8,980×318,445.71≒2,859,642,475)

(二) B区画 単価八〇八〇円、正常価格九億六〇一七万八九六二円

(算式 8,080×118,834.03≒960,178,962)

(三) C区画 単価八九八〇円、正常価格一〇三九万七〇四四円

(算式 8,980×1,157.80≒10,397,044)

(四) D区画 単価七九七〇円、正常価格四六一万五八二五円

(算式 7,970×579.15≒4,615,825)

6  次に本件裁決における関係人の借地権等の認定においては、次のような誤りがある。

(一) 阿川清治については、借地面積五二三・二八平方メートルは誤りであって、一九八・〇〇平方メートルであり、賃借権はない。

(二) 榎本幾太郎については、借地面積三四五・二二平方メートルは誤りであって、一六五・〇〇平方メートルである。

(三) 立川幸については、借地面積二二七・六六平方メートルは誤りであって、三三・〇〇平方メートルであり、賃借権はない。

(四) 小泉和一については、賃借面積三九一・八七平方メートルは誤りであって、一九八・〇〇平方メートルである。

(五) 原告会社については、同市大字坂浜字三六号二六七二番一のうち一六五〇平方メートルは、普通建物所有を目的とする借地権であって、その底地価格割合を三五パーセント、借地権割合を六五パーセントとすべきであり、その余の四万三七四〇・二三平方メートルについてのみが使用借権である。

(六) 和田商店については、何ら使用借権はない。

7  以上の借地権、賃借権又は使用借権の価格と、底地価格との割合については争わないので、右5の正常価格から控除すべき借地権等の価額は、次のとおりとなる。

(一) A区画 七八九万六八九八円

(1) 阿川清治関係 一一五万五七二六円

(算式 (単価)8,980×(借地面積)198.00×(借地権割合)0.65=1,155,726)

(2) 榎本幾太郎関係 九六万三一〇五円

(算式 (単価)8,980×(借地面積)165.00×(借地権割合)0.65=963,105)

(3) 立川幸関係 一九万二六二一円

(算式 (単価)8,980×(借地面積)33.00×(借地権割合)0.65=192,621)

(4) 小泉和一関係 四二万六七二九円

(算式 (単価)8,980×(賃借面積)198.00×(賃借権割合)0.24≒426,729)

(5) 市村健三郎関係 一五万三九六七円

(算式 (単価)8,980×(賃借面積)71.44×(賃借権割合)0.24≒153,967)

(6) 立川太吉関係 一八二万〇八四二円

(算式 (単価)8,980×(賃借面積)844.86×(賃借権割合)0.24≒1,820,842)

(7) 佐野洋一関係 四万〇八五九円

(算式 (単価)8,980×(借地面積)7.00×(借地権割合)0.65=40,859)

(8) 櫻井満関係 二三二万四四一〇円

(算式 (単価)8,980×(借地面積)398.22×(借地権割合)0.65≒2,324,410)

(9) 粟野友之関係 八一万八六三九円

(算式 (単価)8,980×(借地面積)140.25×(借地権割合)0.65≒818,639)

以上(1)ないし(9)の合計 七八九万六八九八円

(二) B区画

原告会社関係 三六九三万九四八四円

(1) 借地権 八六六万五八〇〇円

(算式 (単価)8,080×(借地面積)1,650×(借地権割合)0.65=8,665,800)

(2) 使用借権 二八二七万二六八四円

(算式 (単価)8,080×(使用借地面積)43,740.23×(使用借権割合)0.08≒28,273,684)

以上(1)及び(2)の合計 三六九三万九四八四円

8  そうすると、右5の正常価格から右7の借地権等の価額を控除した三七億八九九九万七九二四円、本件価格時点における本件土地(一)の相当な価格となるので、これに権利取得裁決の時までの修正率一・〇七九二を乗じた四〇億九〇一六万五七五九円に、本件裁決の認定した残地補償金九万一一七一円のうち八万〇四九六円を加えた四〇億九〇二四万六二五五円が、原告重芳に対する損失補償金額であるから、これと本件裁決による損失補償金額との差は一二億〇八三九万〇七五五円である。

9  本件裁決のうち原告壽に対する損失補償は、本件土地(二)を七三四六・三九平方メートルの部分及び四七五九・二六平方メートルの部分の二区画に区分し、前者につき一平方メートル当たり六五八〇円、後者につき同じく九六六〇円を本件価格時点における相当な価格とし、これらにそれぞれの面積を乗じたものの合計額に、権利取得裁決の時までの修正率一・〇七九二を乗じて、その額を算出している。

しかしながら、本件土地(二)のように同一所有者に属する一団の土地を二区画に人為的に分画した上で評価することの不当なことは右5に記載のとおりであって、本件土地(二)はこれと一体をなす前記本件土地(一)のD画地とともにこれを一体として評価すべきである。しかるところ、原告壽は、他の原告らと共に、本件価格時点における本件土地(二)の相当な価格を立証するため右5に記載のとおり鑑定評価を依頼した結果、密度の高い調査結果に基づく公正かつ合理的な鑑定評価のされた三鑑定書が提出されたのであるが、このうち鶴田鑑定を採用することとする。そうすると、本件価格時点における本件土地(二)の正常価格は、次のとおり九六四八万二〇三〇円となる。

(算式 単価7,970×面積12,105.65≒96,482,030)

右価額に本件裁決の時までの修正率一・〇七九二を乗じた一億〇四一二万三四〇六円が原告壽に対する損失補償金額であるから、これと本件裁決による損失補償金額との差は九八〇万九七〇八円である。

10  本件裁決のうち原告会社に対する損失補償は、別表三10のとおり合計四万五三九〇・二三平方メートルについて使用借権を認定し、前記のとおり使用借権価格の割合を八パーセントとして算出したものであるが、前記のとおりその前提とする本件土地(一)の評価には誤りがあり、鶴田鑑定による評価額を採用すべきであるし、右認定にかかる土地の一部一六五〇平方メートルは借地権の対象となっていることは右6(五)記載のとおりであって、これらによれば、原告会社に対する損失補償金額は、右7(二)の計算のとおりの三六九三万九四八四円に権利取得裁決の時までの修正率一・〇七九二を乗じた三九八六万五〇九一円となるから、これと本件裁決による損失補償金額との差は二二三七万二六四二円である。

11  よって、被告は、原告重芳に対し一二億〇八三九万〇七五五円、同壽に対し九八〇万九七〇八円、同会社に対し二二三七万二六四二円及びこれらに対する被告の権利取得の時期である昭和四八年四月二八日以降完済に至るまで民法所定年五分の割合による金員を支払う義務があるので、原告らは土地収用法(以下「法」という。)一三三条に基づきその支払いを求めて本訴に及んだものである。

12  仮に右請求に係る訴えが不適法とされるときは、予備的に本件裁決中被告重芳に対する損失補償金二八億六四九六万一四九八円、但し関係人原告会社、和田商店及びスズキ販売に使用貸借による権利がないものと確定した場合二八億八一八万六一七五円との部分を、四〇億九〇二四万六二五五円と、原告壽に対する損失補償金九四三一万三六九八円との部分を、一億〇四一二万三四〇六円と、原告会社に対する損失補償金一七四九万二四四九円との部分を、三九八六万五〇九一円とそれぞれ変更すること及び被告は、各原告らに対し前項と同旨の各金員の支払いをすべきことを、法一三三条に基づき求め、本訴に及んだものである。

二  請求原因事実に対する認否

1  請求原因1の事実のうち、原告重芳が本件土地(一)を、同壽が本件土地(二)を所有し、原告会社が、本件土地(一)の一部を使用して産業廃棄物処理業を営んでいることは認めるが、その余の事実は不知。

2  同2ないし4の事実は認める。

3  同5の事実中本件土地(一)の存する地域が東京から三〇キロ圏内にあり、宅地見込地であること(但し阿川清治ほか五名の関係人の借地は、現況宅地である。)後記の点を除くAないしD画地の状況に関する主張(但し、標高差は、A画地につき五五メートルないし一二五メートル、B画地につき七七メートルないし一三七メートル、C画地につき一〇九メートルないし一三一メートル、D画地につき七三メートルないし一一一メートルである。)は認め、右AないしD画地の状況に関する主張中造成にあたって画地内での土量のバランスをとることができ難易度が普通であるとの点は否認し、原告らが鑑定を依頼したとの点、これに基づいて鑑定書が提出されたとの点は不知。その余の主張は争う。

4  同6(一)ないし(四)の事実は否認し、(五)及び(六)の事実は不知。

5  同7ないし10はすべて争う(もっとも本件価格時点から権利取得裁決時までの修正率は認める。)。

三  被告の主張

1  本件各土地への取引事例比較法の適用について

(一) 本件各土地の地勢は、いわゆる多摩丘陵地帯に属し、標高約六〇ないし一三〇メートル、標高差約七〇メートルの起伏の激しい土地である。

本件各土地北側境界に沿って標高約一二〇メートルの尾根道が走り、これより南方に標高六〇ないし八〇メートルの低地部へ向って支尾根が延びているが、尾根はやせており、急峻な地勢となっている。本件各土地のうち約九〇パーセントはこの起伏のある傾斜地であって、平坦地は一〇パーセント程度にしか過ぎない。

本件各土地の地質は、表土は関東ローム層、その下はかなりの層厚をもつ稲城砂層と呼ばれる砂層で、水に極めてもろく宅地造成には良好と言えない。

道路条件は、主要道路として、本件各土地の南側を幅員八メートルの主要地方道町田調布線(通称鶴川街道)が走っており、これから分岐して幅員二ないし四メートルの市道が本件各土地の南と北とを走っているが、この市道は農林道的性格が強く自動車の通行に適しない。

交通条件は、鉄道として南武線があるが、本件各土地からの最寄駅は、二ないし四キロメートルの距離にある稲城長沼駅である。その他の交通機関としては、本件各土地の南側鶴川街道沿いに調布・柿生間及び調布・鶴川間のバスが運行されているに過ぎない。

公共施設及び経済施設としては、稲城町役場(当時)が本件各土地から一・三ないし三・三キロメートルの距離に、小学校が〇・六ないし一・五キロメートルの距離に、中学校が一・四ないし三・四キロメートルの距離にあり、商店等主な購買、経済施設は、前記稲城長沿駅周辺にあるに過ぎない。

利用状況としては、本件各土地はそのほとんどが雑木林を主体とする山林及び原野であり、一部はゴミ捨場として利用され、既成宅地として利用されている土地は阿川清治ら本件関係人の借地以外にはない。

本件各土地の北側は、多摩カントリークラブ敷地及び多摩弾薬庫使用地に隣接しており、西側は山林である。東側及び南側の一部には百村及び坂浜部落があるが、宅地化の状況としては、鶴川街道沿いに新興の小住宅街がまばらに見られる程度である。

以上のとおり、本件各土地は、全体としていわゆる宅地熟成度が比較的低い宅地見込地であって、鶴川街道及び前記市道沿いの各一部を除き大規模開発によらなければ宅地化が困難とみられるうえに、価格形成要因を異にする多数の土地の混在する広大な土地であって、その中には、現況が宅地、農地、山林、ゴミ捨場、宅地中の建付地、借地権の設定されている土地等有形的利用及び権利関係において多様なものがあり、また、地勢が平坦地、丘陵地、崖地等自然的条件において種々異なり、交通機関、道路等公共施設への接近条件、宅地造成の難易度等においても多様性のある土地より成っているのであって、その具体的な状況は、別表四の本件土地(一)及び(二)の各区画の個別的状況に記載のとおりである。このような土地については、その価額の評価のため取引事例比較法を適用するについては、価格形成要因の異なる多数の土地を含む土地を一括し、これをそのまま比較できるような類似土地取引事例はおよそこれを求めることができないから、本件各土地を、価格形成要因の同一性を基準として現況に従って各区画に分割し、その各区画ごとに比準すべき取引事例を求め取引事例比較法を適用して比準価格を求めるのが適切というべきである。しかるところ、鶴田鑑定は、本件各土地をその地形の状況に従いA画地(原告ら主張のA画地にその主張のC画地を合わせたもの、以下単に「A画地」という。)、B画地(原告ら主張のB画地と同一。)及びC画地(原告ら主張のD画地と本件土地(二)及び富永正太郎所有地とをあわせたもの、以下単に「D画地」という。)の三画地のみに区画したうえ、これに比準すべき土地の大規模取引事例としてAないしCの三事例を採用し、その各事例における取引価格について種々の補正をして比準価格を決定している。しかしながら、右AないしCの三事例は、いずれも本件各土地のように価格形成要因を異にする土地多数を含む複雑なものではないからこれらを比準事例として採用することは相当でない。

これを各事例ごとにみると、A事例については、北傾斜の比較的平坦な原野等であるというのであって、本件各土地のように谷や山がある複雑な土地とそのまま一括比較することはできないし、B事例についても北傾斜地であるというのであって同じことがいえるうえに、同事例地(坂浜字一八の一三三六ほか)は、地目山林ほか、地積一万六五二八平方メートル、取引年月は昭和四七年一月、取引価格は一平方メートル当たり一万二二〇〇円とされているが、右の一三三六番の土地は、六〇一平方メートルに過ぎず、取引されたのは昭和四七年四月二六日で平方メートル当たり一万〇五八八円である。B事例地に相当する地区は現実には、所有者が五人くらいに分かれていてその買収年月日も昭和四六年一二月四日から昭和四八年一一月二日ごろまで何回にもわたり土地を細く分けて買収されているのであって、価額もまちまちとなっているのである。鶴田鑑定が、その取引価額としたのはその平均価額であるというのであるが、このように一括取引されたものではない事例をもって大規模取引事例であるとして比準事例とすることは相当でないことが明らかである。D事例地についても右と同様の問題があるほか、右事例は全体として二三万平方メートルに及ぶ地区のうちの八三二二平方メートルについてのみに関するものであり、かつ、公簿面積による取引なのであって、これを何ら補正することなく実測面積による本件各土地の取引価額に比準させることができないのは当然である。また、本件価額時点においては多摩ニュータウン計画区域のうち、稲城市においては二八八ヘクタール中約八〇パーセントに当たる二三〇ヘクタールに及ぶ地域を被告が任意買収していたのである。確かに被告の買収については、原告ら主張のような税法上の恩典があり、かつ被告には強制収用権があって、多摩ニュータウン区域内の土地の一般取引は規制されているが、右取引価格は既に同地区の適正価格を形成していると認められるのであって、鶴田鑑定はそれにもかかわらずこのような取引事例をことさら無視しているのであって、不当である。

(二) また、鶴田鑑定が、右各取引事例地の取引価額について施した補正に関して、A事例地については、その取引時点である昭和四五年三月においていまだ都市計画法上の線引きが行われていなかったのに同土地が市街化調整区域内にあるとして一〇パーセント劣るとの補正をした誤りがある。また、補正の方法も例えば二〇パーセントある要因において劣ると判断してその分を補正するのであれば比較対象値に一〇〇分の八〇を乗ずべきであるのに、一二〇分の一〇〇を乗じており、これによっては一七パーセント程度しか補正ができないこととなるのであって、このような補正は誤りである。

2  本件各土地の造成後・転換後の更地価格から造成費用等を控除した価格の算出について

(一) 鶴田鑑定は更にA画地及びB画地の転換後・造成後の更地価格から造成費等を控除して求めた価格(宅地見込地価格又は素地価格。以下においては「素地価格」という。)を算出している。しかしながら、右算出の前提とする本件各土地造成計画においては、①A画地及びB画地を一括して造成し、②右両画地の一部を造成計画から除外し、かつ③右両画地外の原告の所有地及び造成着手の時点で他から買収する協力地を含めて造成することとしている。

すなわち、本件各土地のうち造成上都合の悪い土地を除外し、造成上都合のよい土地は他人の土地をも協力地として取り入れて買収することとしているのである。このようにして造成すれば、除外し又は加えることをせずそのまま造成する場合に比較して単位面積当たりの造成費は低廉となり、したがって、素地価格は高額になってくることとなるのである。

しかるに、鶴田鑑定は、このように不都合な土地を除外し、好都合の土地を加えた造成対象区域とA画地及びB画地との間には特に格差は認められないとして、右区域における単位面積当たりの素地価格を直ちに右両画地の素地価格としているのであって、明らかに不当であるる。また、鶴田鑑定のように造成のため都合の良い協力地を他から買収するとなれば、その所有者の協力を求めなければならないので、所有者の売手としての立場は強く買手としての立場は弱い。ことにその協力地が公道又は農道に接し単独の開発が可能な土地でもあれば、この立場の相違は一層著しい。

しかるに、鶴田鑑定は協力地のうち一三パーセント弱の取付道路用地を除くその余の分につき、開発の容易でないA画地の比準価格と同じ価格で、しかも造成着手の時点において買収できるものとしているのであるが、その可能性の裏付けは何ら存在しないのであって、この点を考慮に入れない鑑定は不当である。

(二) 鶴田鑑定が素地価格算出の前提とする宅地造成計画においては、造成上必要な排水施設として設けることとされている調整池を、三沢川改修後(価格時点の一〇年後と想定されている。)にこれを宅地化するという想定のもとに、その価格増加分を加えて評定しているが、現実には既に排水路が造成され、三沢川一〇年後改修の想定は到底実現される見込みがないのである。

更に、右造成計画案においては、造成後の有効宅地面積も過大に想定しているのであって、その想定は実情にそわず、このような想定を前提とする鑑定評価は採用し難いというべきである。

なお、鶴田鑑定は、取引事例比較法による比準価格を求めるに当たって、A画地及びB画地を対象としたのか、又は素地価格を求めた場合と同様に造成に都合の悪い土地を除外し、都合の良い土地を加えた区域を対象としたのかを明らかにしていない。もし前者であるとすれば、同鑑定は、この異る対象について求めた比準価格と素地価格とを関連づけて両価格の平均価格をもってA画地等の評価額としており、不当である。

また、もし後者であるとすれば、同鑑定は、造成対象区域とA画地及びB画地との間に特に格差は認められないとして、いずれも不都合地を除外し、都合の良い土地を加えた地域を対象とする比準価格と素地価格との平均価格をもって、このような加除を行わないA画地及びB画地の評価額としているのであって、これまた不当である。

3  原告側鑑定の鑑定態度について

原告側鑑定は、本件各土地が一平方メートル当たり一万円以上であるとの前提で、本訴提起後本訴の証拠資料として提出するための依頼により作成されたものであり、鑑定人は、依頼者本人の希望する額を意識して鑑定したことは明らかであって信頼性に欠けるものというべきである。

4  原告らの本件各土地の借地権等に関する主張について

原告らは、本件各土地の借地人等の権利関係について独自の主張をしているが、原告らは、本件裁決の認定した権利関係を記載した土地調書について何ら異議を述べなかったから、法三八条の規定により、右調書の記載が真実に反していることを立証しない限り、右記載事項の真否について異議を述べることはできないところ原告らの主張する権利関係には何ら証拠の裏付けがなく、その失当であることは明らかである。

5  原告らの後記主張に対する反論

大規模の土地を比準評価する場合において、評価の対象地及び取引の事例地がともに平坦な土地又は然らざるも情況類似の土地の場合は別として、本件土地における如く大規模でしかも地勢が複雑かつ櫛の歯状を含む土地を比準評価する場合に、原告の主張する如く本件土地の如き規模の広大な面積の土地についての一般取引事例を強いて採用するとすれば、対象地及び取引事例地両地の造成後の更地価格、造成費、造成期間等を詳細検討のうえ比較すべきであり、かかる検討を経ずして両地を正当に一括して比較することはできない(しかも原告の主張によれば、かかる検討は想定事項が多くその見方によって価格が相当上下するということになる。)。かかる場合は、むしろ自然の区画のうちにおける個別的状況に応じて情況類似地区に区分した区画毎に類地の取引事例を比較する方法が優っているのであって、これを不当とする原告の主張は理由がない。なお、原告は、小面積の取引事例と比較したのでは、本件土地が広大な面積を有することの有利性は捨象され不当の結果となると主張するが、同一所有者に属する広大な土地は一括では市場性に乏しく、また、取引において大規模土地の単価は小面積の土地の単価より低廉であるのが通常であるのみならず、広大な面積を有する地主の協力が得られないときは事業全体の遂行も阻止されるという不利益の反面のあることを考慮すれば、右の如き場合において小面積の取引事例と比較することが不当の結果となる旨の原告の主張もその理由がない。

次に、原告らは、本件各土地はすべて宅地見込地で同一種別の土地であるから、種別の同一性を基準としてこれを区分することはできないと主張するが、右主張はその限り正当であって、被告も種別をもって本件各土地を区分しているものではない。また、原告らは、本件各土地の類型につき、その中には建付地も借地権等の付着している土地もあるが、本件各土地は収用に当たって地上建物等が撤去されるから更地として評価すべく、結局類型も区別の基準とならないと主張する。

しかしながら、土地収用法等による公共事業用地の取得の場合は、土地とともにその土地の上にある建物等を取得する場合のほかは土地のみを買収し建物その他の物件は移転料を補償して移転させるのが原則であり、かつ、土地収用の場合の損失の補償は、土地所有者及び関係人に各人別にしなければならないのであって、そのため本件裁決においても建付地及び借地権の設定されている土地を更地として評価しているのである。しかし、本件各土地の如き広大な土地の比準価格を求める場合の手法としては建付地であること又は借地権の設定されている土地であることを他の価格形成要因とともに考慮に入れて区画を分けるかどうかは、その対象地の具体的な状況に応じて判断すべき事柄であって、収用実務上土地が更地として評価されることとは関係がないというべきである。原告らはまた、自然的条件は地域的要因としては本件各土地を区分する基準となりえない旨、また、個別的要因は区分のしかたいかんによって変動するものであるから評価対象の土地が確定して始めてその分析が可能となるものである旨を主張する。

しかしながら、被告らが価格形成要因の一つとして挙げている自然的条件とは、広大な土地のなかでの各部分の地勢、地質、地盤、高低等であって、これらの同一性により各区画を分けたうえで各部分の価格形成要因を分析して評価することはもとより可能であって(原告らも本件各土地を三ないし四に区分して比準価格を出しているのであって、被告との差は、精度にあるに過ぎない。)、原告らの右主張は理由がない。原告らは、更に、本件各土地の熟成度には差がないからこれを区分の基準とすることはできないと主張するが、被告は熟成度のいかんをもって区分理由としているものではなく、前記自然的条件により大規模開発が必要か小規模開発も可能かという点を区画を分ける基準としているのであるから、右主張も失当である。

四  被告主張に対する原告らの認否及び反論

1  被告主張1について

本件各土地は前記のとおりAないしDの大小四つの区画を形成しているところ被告は同一所有者に属する右のような一団の土地を主観的に任意に細分化してその各々の価格を評価しているのであって、このような手法によっては到底本件各土地を全体として把握して評価することはできず、誠に不当であって本件各土地の価額の評価はその自然の区画に従ってその区画ごとに一体としてこれを評価すべきである。

すなわち、本件各土地のように大規模かつ広大な土地においては、一人の所有者からのみの買収によって開発地内にショッピングセンター等の公益用地を備えた自足的な大規模開発による宅地造成が可能であるという有利性があり、かつ、普通一般の例のように多数の地主を相手に買収する場合の交渉の繁雑さや一部の地主が買収に応じないことなどによる買収途中での挫折や延引などの危険性がない等のいわゆる集積の利益があり、また、右のような大規模の宅地開発においては前記A・B区画のごとく尾根、谷、平坦地が混在していることはその開発につき同じ開発地内で土量のバランスをとることが可能となり、したがって、土砂の搬出入が不要となるなどの利点が多いのである。

本件各土地の最有効使用は大規模な宅地造成を前提とする宅地見込地であることは争いのないところであり、そうであるならば本件各土地は、これを全体として一括開発するものとして、自然の区画に従った評価をすべきものであって、これを分割して評価するのは最有効使用の原則にも反するものである。

被告は、価格形成要因の共通性を具体的基準として本件各土地を分割したという。たしかに不動産の種別や類型は不動産の経済的価値を本質的に決定づけるものであり、これが異なれば当該土地の価格形成要因も自ら異なってくるものであるから、一つのまとまった土地でも、例えば宅地地域と農地地域等種別の異なった地域からなっている場合には、これを区分し各区域ごとに価格形成要因を分析して評価するのは当然である。しかしながら、本件各土地はすべて宅地見込地区域内の土地すなわち宅地見込地であり種別は同一である。また、類型についても本件各土地のうち建付地は収用に当たり建物が撤去されるから更地として分類すべきであり、借地権や賃借権が付着している土地についても収用に当たって地上建物等が撤去されるし、借地権等の価格は別途評価してこれを当該土地の更地としての評価額から控除すれば足りるのであるから同様に更地として分類すべきである。そうすると、類型の同一性という基準によっても、本件土地を細分化して評価する妥当性はないことが明らかである。その他の区分の基準として自然的条件の同一性があげられるが、地域要因としての自然的条件(例えば気象条件等)は、本件各土地の存する地域の全体的な自然的特性を指し、本件各土地を区分する場合の基準となり得ないことは言うまでもない。また、個々の土地の価格を個別的に形成する要因のなかにも自然的な要因はあるが、これは、地積、間口、奥行、形状等は区分のしかたいかんによって異なってくるのであるから、評価対象たる土地が確定しなければ分析することのできないものであって、本件各土地を細分化するための基準となるものではない。このことは、交通機関等との接近性や接道状況の要因についてもいえることである。被告は本件各土地を任意に細分化し、自ら公道等に接しない土地を作出したうえでそのことをマイナス要因として右土地価格を減じているのであって、不合理な操作といわなければならない。そもそも本件各土地のように大規模開発を当然の前提とする宅地見込地においては、造成によって道路を新設するのであるから評価に当たり既設道路との接道状況をいうのは無意味というべきである。

本件各土地を二十数区画に分割する基準として更に、宅地見込地の熟成度があげられている。宅地見込地の熟成度とは、当該宅地見込地の存する地域が社会的、経済的及び行政的要因の影響により宅地化する期間及び蓋然性を指すものであり、宅地造成を想定し造成後の更地価格から造成費等を控除して算出した素地価格をこの熟成度に応じて修正するのである。しかるに、本件各土地についてはいずれの鑑定書も熟成度による修正を全く行っていないのであって、このことは本件各土地の熟成度が全体について同一であることを示すものにほかならない。したがって、本件各土地は熟成度を基準としても細分化する必要性のないことが明らかである。以上によれば、被告は何ら必要性がなくかつ区別の基準も存在しないのに二十数個所にも本件各土地を細分化して評価したものであって極めて不当であり原告側鑑定を採るべきである。

次に、被告側鑑定は取引事例比較法の適用においては本件各土地を二十数区画に分割しながら、宅地造成を想定して求める素地価格の算定に当たっては前記A、B及びDの自然の画地ごとに行っており矛盾した方法を採用しているのである。被告は、右の各手法の間に矛盾はないと主張するが、そもそも宅地見込地について比準価格と宅地造成を想定して求めた素地価格とを関連させて価格を決定するのは宅地見込地の取引においては、買手側は宅地造成を想定し造成費、造成に要する期間、その他の諸経費、企業利潤等を概括的にではあっても見積ったうえで売手側との交渉に当たるのであり、そこで決定される売買価格は造成費等を投入して宅地化したうえで販売した場合に少くとも最少限の利潤は確保できるであろう線で決定されるのが経済法則上通例であるところから、これらの過程を経て形成される取引事例との比準によって得た価格には、自ら宅地造成を想定した価格が反映されることになり、このような比準価格と対象地について不動産鑑定士が宅地造成を想定して造成費等を控除して算出した素地価格とは、比準あるいは想定事項の設定が適正にされている限り近接し、ここに両者を関連づけて対象地の価格を決定し、又は比準価格を素地価格で検証することが可能となるのである。

したがって、比準価格を求めるために採用すべき取引事例は出来るだけ対象地に近い規模の土地の取引事例でなければならないはずであって、被告側鑑定のように本件各土地を細分化し細分化された土地と面積等の類似する取引事例とを比準して得た価格の合計を本件各土地を自然の区画ごとに造成することを想定して算出した価格で検証したところで、前者はいわばミニ開発の寄せ集めに過ぎず両者は造成工事の内容、造成後の土地の環境等を異にするからこのように前提を異にした二つの価格を関連させ又は一方で他方を検証しても無意味というべきである。

被告が本件各土地を細分化しているのは、そのうち単独で造成することが可能な土地がごく小部分(A区画で約一二・二パーセント、B区画で四・一パーセント)であることからこれのみを除外して比較的高い値段をつけ、一方において大部分を占める単独造成が困難又は大規模開発が必要な土地については、右小部分の分割によって接道状況や地形等を更に悪化させて価格を下げたうえで、低評価をし、全体としての本件各土地の価格を低くおさえようとしたものにほかならない。

次に、被告は被告の任意買収に係る取引価額を鶴田鑑定が採用しないのは不当であると主張する。しかしながら、多摩ニュータウン計画区域内の土地は一般の売買が規制され、被告以外には買手の存在しない限定された市場であり、また、買収価格の決定についても被告の買収申請後六ヶ月以内に成約した場合には譲渡所得税について一二〇〇万円の控除を受けることのできる税制上の恩典があり、このため比較的小さな面積の土地を有する被買収者にとっては、価格交渉を続けるよりは右期間内に被告の提示額を受けいれて成約した方がはるかに有利な結果となるものである。更に、所有者が被告の買収に任意応じない場合でも土地収用法によって強制的に収用されるものであって、所有者には価格に不満があっても買収に応じない自由はないのである。

このように買収者が一方的に強い地位にある被買収事例を本来両当事者の自由な意思に基づいて決定され、不動産の市場価値を形成する一般の取引事例と同一視することは許されないのである。本件各土地の近隣地域内に右のような一般の取引事例がないのは、右地域内の一般の取引が法律によって規制されていることの当然の帰結であって、本件各土地の比準価格の算出にあたり採用すべき取引事例は近隣地域に限らず、近傍類地の事例として同一需給圏内における一般取引事例を収集すべきである。

2  被告主張2について

被告は、鶴田鑑定の素地価格の算定につき本件各土地のうちA地とB地とを一括造成することと想定していることを批判する。しかしながら、A地とB地とは距離も近く同一所有者に属しており連絡道路を設けて両地を連結することにより取付道路をはじめ給排水、汚水処理施設等を共同で使用できるよう両者を一体として開発することは極めて合理的な手法であり、両者を別個独立に開発し両地にそれぞれ取付道路その他の施設を設けるものと想定することの方がむしろ経済合理性に反するものというべきである。

また、被告は、鶴田鑑定が造成計画の想定に当たり対象地の一部を造成計画から除外し、対象地外の協力地を含めて造成することとしたことについても批判する。しかし、右の一部除外は幅員五八メートルの都市計画道路予定地の分であるし、一般に第三者が対象地を取得して造成に着手することとした場合、対象地の地形、地勢等からみてそうするであろうと認められる合理的な範囲内にある限り買収地又は協力地を加えた造成を想定することは不合理ではなくむしろ合理的な造成計画の想定というべきである。

被告側鑑定においても、取付道路については協力地を買収することを前提としているものと考えられるのである。

また、宅地及び緑地として予定した協力地は、対象地に喰い込んでいる深い谷を本件対象地と一体として開発しようとするものであり、対象地の開発に当たっては何人が造成するとしても当然計画に入れると認められる。協力地の所有者にとっても現状のままでは利用の仕方もなく本件対象地のみ造成されれば、高い擁壁にはさまれた死地となってなお一層価値を減ずることとなり、対象地と一体として開発して始めて価値の生じる土地である。原告側鑑定は、このように不利な条件の土地をあるいはA地の比準価格で買収し、あるいは開発者負担で宅地に造成したうえ六〇パーセント又は五一・二四パーセントの割合で還元するというもので、いずれも協力地所有者に極めて有利な条件による買収であるから、容易にその協力を得られるものと考えられるのである。

次に、被告は、鶴田鑑定が宅地見込地価格と比準価格を関連づけてAB両画地の評価額を算出していることにつき、両価格評価の対象とした土地の範囲が異なる等と主張する。

しかし、右鑑定における宅地見込地価格の評価対象はAB両画地であって、これは比準価格の評価対象と一致しているから被告の批判は当たらない。

3  被告主張3について

原告らは本件各土地の買収について被告と協議をせず都収用委に対し意見書を提出しなかったがそのことは本件裁決の違法性不当性を何ら治癒するものではない。

第三証拠《省略》

理由

一  本訴請求の趣旨について

原告らは、本訴請求の趣旨として、主位的に、被告に対し、本件裁決に示された損失補償額を上まわる分の金員の支払いを求め、予備的に、本訴裁決中の損失補償金額を決定した部分を右上まわる額へ変更すること及び被告に対し、右上まわる分の金員を支払うことを求めているところである。

法一三三条に基づく、損失補償金の増減額の請求は、権利取得裁決の主文に示された損失補償金額を変更することを目的とするものであるから、同条によって右請求に係る訴えが当事者訴訟とされていても、請求の趣旨としては、右裁決の一部変更を求め、その上で必要のある場合には増差額分についての給付の訴えを併合提起すべきものというべきである。そうすると本訴請求の趣旨のうち主位的請求に係るものはこれを不適法として却下すべく、予備的請求に係る訴えについて、その請求の当否を判断すべきである。

二  当事者間に争いのない事実

請求原因1の事実のうち、原告重芳が、本件土地(一)を、同壽が本件土地(二)をそれぞれ所有し、原告会社が本件土地(一)の一部(その範囲については争いがある。)を使用して産業廃棄物処理業を営んでいること、請求原因2ないし4の事実、同5の事実中本件各土地が自然の画地としては、同項記載のAないしDの大小四つの画地を形成しており、A画地は稲城長沼駅の南西約二キロメートルに位置し、東西約一〇〇〇メートル、南北約五〇〇メートル、面積約三一万八五〇〇平方メートルの画地であって、北側の主尾根から南東方向に三つの支尾根が張り出し、本画地の北側及び西側は幅員約三・五メートルないし三メートルの未舗装公道に接し、約六〇〇メートルでバス路線のある鶴川街道に至るもので、北側公道に沿って一部平坦な部分があるものの支尾根の斜面はやや急でかなり起伏のある土地であること(標高差については、争いがある。以下BないしD画地について、同じ。)、[B画地は、稲城長沼駅の南西方約二・六キロメートル、A画地の西方に位置し、東西約四〇〇メートル、南北約四〇〇メートル、面積約二万九〇〇〇平方メートルの画地であって、北側の主尾根から南方に二つの支尾根が張り出し、その間には深い谷があるが比較的整形をなす画地であり、北側道路沿い及び北西部は平坦であるが、南東部の斜面は急で起伏のある土地で、南西部の谷(約九〇〇〇平方メートル)はゴミ捨場となっていて、ゴミが堆積していること、道路は、北側が幅員約四メートルの未舗装公道に接し、ほかにも林道が介在していること、C画地は、A画地とB画地との間にある面積約一一六〇平方メートルの小さな画地であって、東西に長い長方形のほぼ平坦な土地で、北側が幅員約三メートルの未舗装公道に接していること、D画地は、稲城長沼駅西方約三キロメートルに位置し、東西約二〇〇メートル、南北約一五〇メートル、面積約一万三二六〇平方メートルの不整形な画地の一部であって、台地上の平坦地、東向き斜面及び下方の平坦地から成り、鶴川街道及び既存集落に比較的近いこと並びに本件価格時点から権利取得裁決時までの修正率は、当事者間に争いがない。

三  原告らの主張する損失補償額について

1  原告らは、本件裁決において認定された本件各土地の損失補償額は低きに過ぎるとして、原告らが相当とする損失補償の額を主張し、その根拠として、不動産鑑定士鶴田辰男が、原告重芳に対して提出した本件各土地の鑑定評価書(以下「鶴田鑑定」という。)の記載等を援用するので、以下右鑑定の結果について検討する。

(一)  《証拠省略》によると、鶴田鑑定は、本件各土地の正常価格につき、価格時点を昭和四六年七月三〇日として、昭和五〇年四月八日鑑定評価を行ったこと、同鑑定は、対象地をA地(請求原因5項(一)のA画地と(三)のC画地とをあわせたもの、以下「A地」という。)、B地(請求原因5項(二)のB画地と同一。以下「B地」という。)及びC地(請求原因5項(四)のD画地と同一。以下「C地」という。)の三つの画地に分類したうえ、取引事例比較法による比準価格と、当該宅地見込地について価格時点における転換後・造成後の更地価格を求め、その価格から通常の造成費相当額と発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を控除し、その額を当該宅地見込地の熟成度に応じて適正に修正して求めた価格(以下「素地価格」という。)とを関連づける手法によって鑑定評価額を決定したことが認められる。そこで、まず、同鑑定のした取引事例比較法による評価を検討する。

前掲証拠によれば、鶴田鑑定は、取引事例として、A(稲城長沼駅南西方約三・七キロメートルに所在する稲城市坂浜一八号一四一八ほかの山林ほか二一万五〇〇〇平方メートルの昭和四五年三月における一平方メートル当たり七〇〇〇円の取引事例、以下「A事例」という。)、B(稲城長沼駅南西方約三・五キロメートルに所在する同市坂浜一八号一三三六ほかの山林ほか一万六五二八平方メートルの昭和四七年一月における一平方メートル当たり一万二二〇〇円の取引事例、以下「B事例」という。)及びC(稲城長沼駅西方約四・三キロメートルに所在する川崎市多摩区黒川谷津八八二ほかの山林ほか約二三万平方メートルのうちの八三二二平方メートル(但し公簿上面積)の昭和四六年一二月における一平方メートル当たり一万七五〇〇円の取引事例、以下「C事例」という。)の三事例を参照し、これとA地とを比較し、取引事情、取引時点、道路や団地への近接性、高圧線通過の有無による標準化、交通接近条件、行政的条件、宅地造成条件、将来性による地域格差、A地に高圧線が通過しているという個別的要因によって、右取引事例における取引価格を修正したところ九三五〇円から九二六〇円までの価格が得られたとして、A地につき一平方メートル当たり九三〇〇円という値を得、これを同地の比準価格とし、その上でB地とA地とを比較し、地域格差(無しとしている)、傾斜の程度、幹線街路・既存集落への接近性、ゴミ捨場の有無の個別的要因によって、右A地の比準価格を修正し、B地につき一平方メートル当たり八三七〇円という値を得、これを同地の比準価格としていること、C地については、右A地につき、更に造成後価格からの推定価格を算出してこれを勘案のうえ決定した最終的な評価額を基準とし、A地とC地とを、高圧線通過の有無、地域格差(無しとしている)並びに画地条件、街路条件及び環境条件による個別的要因に基づき修正して一平方メートル当たり七九七〇円という値を得、これを同地の鑑定評価額としていることが認められる。

また、前記争いのない事実に《証拠省略》を総合すると、本件各土地の地勢、地形等の個別的状況として、次の事実を認めることができる。

(1) 鶴田鑑定におけるA地

A地は、東西約一キロメートル、南北約五〇〇メートル、地積約三二万平方メートルの広大な土地であって、その全体が、標高差約七〇メートルの、雑木や草の繁茂する丘陵地であり、おおむね東方向に傾斜しつつほぼ東西に走る主尾根及びその南側部分と、そこからほぼ南方向及び東南方向に傾斜しつつ延びる三つの支尾根から成り、右主尾根及び支尾根からそのふもとまでは大部分が急峻な傾斜地となって谷状を呈している。しかしながら、主尾根の頂き付近には、一部平坦になっている部分もあり、主尾根から急峻な傾斜地に至るまでの間に、なだらかに南に傾斜する土地部分もある。更に、南方に延びる支尾根の中腹部分にも、一部なだらかな南傾斜となっている個所があるが、その個所には、A地の中央部より南寄り附近を東西に通過する東京電力の高圧線を支える鉄塔が設置されており、その基礎部分の土地は、周囲を削りとられて小山状を呈している。また、主尾根の北側にも、なだらかな北傾斜地とかなり急な北傾斜地とが若干存在している。最も東側の支尾根のふもとに近い西側部分には、なだらかな南傾斜地、これより緩い南傾斜の現況農地、その下方の平坦地、平坦な現況宅地及びその私道部分がある。南方向に延びる西側の支尾根のふもとの部分にもゆるやかに南に傾斜するほぼ平坦な土地がある。幅員二ないし三メートルの尾根道(未舗装の市道)が、主尾根の頂き部分をほぼ東西に走り、南方向に延びる支尾根の西側部分をほぼ南北に走っているが、人の通行に使用しうる程度の道路である。A地の南側を幅員八メートルの主要道路・町田調布線(通称鶴川街道)が走っており、A地の最東端から約二キロメートル北東に稲城長沼駅とその周辺の公共施設、主要集落が存在する。

(2) 鶴田鑑定におけるB地

B地は、東西及び南北各約四〇〇メートル、地積約一一万九〇〇〇平方メートルの広大な土地であって、その全体が、標高差約五〇メートルの丘陵地であり、A地西北端と約六〇メートルの間隔をおいて(中間の飛び地を除く。)主尾根の西側に続く部分と、そこからほぼ南方向に傾斜しつつ延びる二つの支尾根から成り、ほとんどが主尾根及び支尾根からそのふもとまでの急峻な傾斜地である。もっとも、主尾根の頂き部分にはほぼ東西に細長く比較的平坦な土地が存し、その上を前記尾根道が走っている。その南方には一部右平坦な土地と接してゆるやかに西向き傾斜地が存し、同地はゴミの選別所として使用され、ゴミも相当量投棄されている。

その西南部の急峻な法面地はゴミ捨場として使用され、大量のゴミが投棄されている。中央部を高圧線が通過している。主要道路や稲城長沼駅へは、A地より更に遠くなっている。

(3) 鶴田鑑定におけるC地

C地は、稲城長沼駅の南西方約三・一キロメートル、A地の南西方約一キロメートルの地点にあるおおむね平坦な土地であって既存集落や鶴川街道に比較的近いが、そこへの道路の接続状況は良くなく、土砂採取によって切り開かれたものであるため土砂崩れ等の災害発生の危険のある土地で、宅地造成は相当に困難と考えられる土地である。

以上のとおり認められ(る。)《証拠判断省略》

右認定事実からすれば、右A地及びB地は、単純な丘陵地ではなく、起伏に富み、複雑な地形、地勢を示しているのであって、その各所には尾根道、高圧線、その支持鉄塔、ゴミ選別所、ゴミ捨場のあるものがあり、また平坦地、緩傾斜地、傾斜地、急傾斜地があり、更に、農地、宅地、林地、私道等用途の異なる土地がある等宅地見込地としての不動産の価格の形成に大きな影響を与える要因がさまざまに組み合わさった土地から成っており、しかも、A地やB地自体広大な土地でかつ地形が複雑であるため、その一方の端と他方の端とでは、交通機関や既存集落、公共施設等との接近性にもかなりの違いが生じており、これらの土地に大規模な宅地造成工事を施行するとしても各部分によってさまざまに難易度が異なると考えられるのである。

ところで、取引事例比較法による価格の評定においては、対象土地と類似する土地の取引事例を蒐集し、その土地と対象土地との価格形成要因の違いに応じ、右取引事例の価額に一定の合理的な割合による修正を施して対象土地の評価額を推定するものであるから、これを適用するためには、第一に、対象土地の価格形成要因が、その土地全体について一様であること、仮に若干は異った部分があったとしても、その部分は対象土地全体としての評価上は無視しうる程度のものであることが必要であるというべきであり、第二に、比準事例地は、いくつかの価格形成要因について修正を加えれば、対象地の取引価格の推定値を算定し得るという程度に、対象土地と類似性を有するといえるものであることが必要であるというべきである。

しかるところ、前認定の事実によれば、A地及びB地は、複雑な地形・地勢を示す丘陵地であって、価格形成要因はそれぞれ一様ではなく、むしろさまざまに異った価格形成要因を持つ土地の集合ともいうべきものであり、その大部分を占める急峻な傾斜地を主たる土地としてこれを基準とし、他の価格要因を持つ土地を無視して比準すべき取引事例を蒐集することは、明らかに相当性を欠くものであるから、本件A地やB地は、これをそれぞれ一括して取引事例比較法の対象とするについては前記第一の条件を必ずしも満足するものではないものというべきである。このような大規模画地について取引事例比較法を適用するには、結局のところ一つの土地の価格形成要因がなるべく一様となるようにこれを分割せざるをえないものというべきであって、被告の採用した方法は、その分割の基準や分割の結果の如何はともかくとして、その指向する方向は妥当というべきである。

もっとも、大規模な宅地開発事業の対象地という観点からすれば、このような土地であっても、一つの丘陵を丘陵全体として細い相違点を無視して価格付けするということも考えられる。しかしながら、このような価格づけは、一つの丘陵を一括して買い取り、一括して造成しようとする事業主体のするものであり、このような事業は、投下資本が巨額に上り、事業期間も長期となって相当な金利負担を免れず、かつ造成した宅地を購入する一般消費者に対して、販売後も長期にわたり責任を負っていくものであるから、これを民間の企業体が行おうとする場合には、右事業の完成の見通し、一般の景気の動向、住宅需給の変遷見通しや住生活に対する一般の意識の変化の予測等について相当程度確実な見通しをつけたうえでなお相当のリスクを覚悟しなければならないものというべきである。したがって、これら企業体は、対象土地の隅々に至るまでその造成の難易度、これに要する手間、費用、期間、有効宅地化率、当該対象地が宅地化した場合の需要の程度等について綿密かつ周到な把握をし、これにより詳細な計画を樹て、これに基づいて提示可能な買収価格を決定するものと考えられるのであるが、このように複雑かつ詳細な各種価格要因の衡量は、当該対象土地やその周辺に固有の無数の属性によって微妙に影響を受けるものであるから、右の衡量に基づく法定価格は、いわばその土地限りの価格ともいうべきものであって、このような価格を、他の異った大規模画地の取引に比準事例として適用することの相当性は極めて疑わしいといわなければならないのである。

本件各土地のうちA地及びB地をそれぞれ一括して取引事例比較法を適用することは、以上のとおり極めて困難であると考えられるのであるが、鶴田鑑定は、前認定のとおり、AないしCの三事例地を採用してこれを取引事例としているので、以下これらの事例地について、これを右A地やB地の比準事例地としうるものであるかどうかを検討する。

《証拠省略》によれば、前記鶴田鑑定のほか、株式会社日本不動産鑑定所(代表取締役不動産鑑定士小岩井永雄、不動産鑑定士補小野澤邦男)及び不動産鑑定士阿久津節男、柳本郁司がそれぞれ本件各土地の評価額についてした鑑定があり、これら三鑑定はいずれも同じ比準事例地を使って比準価格を算出していることが認められる(もっとも、阿久津、柳本両鑑定士の鑑定では、鶴田鑑定のB事例を採用しないで他の事例を使用している。)。そこで、これら三鑑定の説明を参照すると、A事例の対象地は、全体として緩やかな北傾斜をなす原野で、起伏は若干あるもののおおむね平坦な土地であり、東西、南北とも各五〇〇メートル以上ある大きな画地で、その南方約五〇〇メートルには東京都開発にかかる平尾団地があり、その更に南の地区は既に広大な地域開発が行われていて、市街化調整区域にはあるものの市街化の途上にあるものであることが認められる。右認定にかかるA事例の土地の立地条件や地勢等の状況は比較的に単純であって、A地やB地のように複雑な要因を抱える画地とは顕著に相違しているものというべく、右事例地の取引価格に前認定の鶴田鑑定のした補正を施すことによって、A地やB地の比準価格が得られるとする認定判断は合理性に乏しいものといわざるをえないのである。

また、右三鑑定(但し阿久津、柳本の鑑定を除く。)及び証人鶴田辰男の証言によれば、鶴田鑑定がB事例とするものは、大規模宅地見込地の一括取引の事例ではなく、その対象土地の所有者が数人に分かれていて、昭和四六年一二月から昭和四八年一一月に至るまでの間に何回かに渡って買収されたものであること、鶴田鑑定はこれを一括し、買収平均価格をもって取引価格として事例としたものであることが認められるのであって、A地やB地のような大規模な画地を、その大規模なままで取引の対象とした場合の価格を推定するための比準事例として、このような事例を採用するのは適切でないものというべきである。また、右三鑑定及び証人鶴田辰男の証言によれば、C事例は、東西五〇〇メートル南北五〇〇メートルに及ぶ山林等の大規模画地のうちの一部であって、右大規模画地は、京王線を中心として南北にそれぞれ南傾斜、北傾斜をなし、高低差が約四〇ないし五〇メートルあるというのであって、右のような大規模画地は、A地やB地とは立地条件や地勢等の状況が全く異なり、到底比較の対象とすることはできないと考えられるうえに、鶴田鑑定が対象地とした土地が、右大規模画地のいずれにあるのかも明らかではないのであるから、このような事例を比準事例として採用するのは適切でないものというべきであり、右のことは、右AないしC事例以外の土地で、鶴田鑑定以外の鑑定が採用した比準事例についてもいうことができるのである。

そうすると、鶴田鑑定が本件各土地についてした取引事例比較法による比準価格の評価は、採用した取引事例が相当性を欠くものとして、これを採用しえないというべきである。

(二)  次に《証拠省略》によると、鶴田鑑定は、素地価格の算出については、AないしC地を一括し、これに中間の他人所有土地(協力地)五万〇二八六平方メートル(うち原告重芳所有地二五二〇平方メートル)を加えた四七万六二五七平方メートルを開発することを想定し、造成後の有効面積を二三万九二四九平方メートル(有効面積率五〇・二四パーセント、潰地率四九・七六パーセント)うち二二万四二八四平方メートルを住宅用地に、うち一万四九六五平方メートルを商業用地にそれぞれあてること、潰地については道路が一〇万四〇三一平方メートル、公園が一万八二〇七平方メートル、調整池一万六七七〇平方メートル、汚水処理場二二八〇平方メートル、給水用地七五七平方メートル、緑地九万四九六三平方メートルにそれぞれあてること、工事計画としては、土工事、道路工事、雨水排水工事、汚水排水工事、擁壁工事、給水設備工事、電気工事を想定し、これらの合計額として二〇億四八三六万九一六〇円と、間接工事費(共通仮設費、一般管理費、建設業者利潤等)として五億〇六六三万〇八四〇円と想定し、合計二五億五三〇〇万円としたこと(総面積一平方メートル当たり五三六一円)、協力地買収費として取付道路分六四九四平方メートルはA地比準価格の二倍と、その余の分はA地の比準価格と同じとして合計五億二八〇五万円としたこと、転換後・造成後の更地面積として、稲城市坂浜四二号三一六一所在宅地(一区画平均一三四平方メートル)の昭和四五年九月における一平方メートル平均二万〇六〇〇円の取引事例ほか三例及び多摩市桜ヶ丘三丁目二番七号の公示地取引価格(昭和四六年一月一日で一平方メートル当たり四万六〇〇〇円、昭和四七年一月一日で一平方メートル当たり五万一〇〇〇円)を参考とし、これら価格に所要の修正を加えて対象地の平均的かつ標準的な宅地の比準価格を一平方メートル当たり三万九〇〇〇円と評定したこと、更に商業地については宅地価格の一〇パーセント増とし、これを加えて転換後更地価格を決定したこと、付帯費用については転換後更地価格の一〇パーセントとし九億三八九〇万七〇〇〇円と想定したこと、金利及び開発利潤については、加重平均により造成完了までの平均期間を二二・九八か月、宅地化までの平均期間を三〇・九六か月と見積り、金利・開発者利潤をあわせて投下資本利益率とし、これを年一二パーセントと把握し、以上のデータによって所要の計算を行った結果、素地価格を一平方メートル当たり八〇九〇円(総額三八億五一六六万七〇〇〇円)と査定したこと、更に、同鑑定は、調整池を三沢川改修後(価格時点の一〇年後と想定)宅地化するものとし、その分の価格増加を、前同様の過程により計算し、その結果、全体の素地価格を一平方メートル当たり八四三〇円と決定したこと(調整池の宅地化によって最終的な有効面積率は五三・三四パーセント、潰地率四六・六六パーセントとなる。)が認められる。また、《証拠省略》によれば、その余の原告側の二鑑定も、本件各土地の造成計画、造成工事の概要については、右鶴田鑑定と同一のプランに基づいていることが認められる。右認定の素地価格の算出過程は、それなりに合理性を有するものということができるが、右鑑定が前提とする造成計画や造成工事の内容には、当然のことながら想定事項が極めて多く、これら想定事項は、後記被告側鑑定における想定事項と対比してみても、造成販売にあたる業者が当然前提とするといえる程に確実度の高いものではなく、むしろかなり幅のあるものと考えられるのであって、対象地が大規模であり、鶴田鑑定はこれを協力地と共に一括して造成するとしてその一平方メートル当たりの素地価格を算出しているものであるだけに、想定事項に僅かな相違が生じても、算出される素地価格には大きな食い違いが生じてくるものと考えられるから、鶴田鑑定の算出した素地価格を、本件各土地の価格評価として採用することは困難であるといわざるをえず、このことは、次のとおり被告側の鑑定と対比すれば一層明らかとなるというべきである。

すなわち、《証拠省略》によると、本件各土地の評価額については、被告の依頼により不動産鑑定士飯島俊夫の鑑定(以下「飯島鑑定」という。)、同菊地正人の鑑定(以下「菊地鑑定」という。)、同渕上臣の鑑定(以下「渕上鑑定」という。)、同桐山良賢の鑑定(以下「桐山鑑定」という。)及び同金森徹雄の鑑定(以下「金森鑑定」という。)があり、これらの鑑定においても、それぞれに素地価格を算出しているところ、前三者の鑑定においては、A地(鶴田鑑定におけるA地と同じ、以下B地、C地についても同じ。)、B地を別個に造成するものとし、まずA地について素地価格を算出しているのであるが、そこにおける有効宅地面積率は、飯島鑑定においては六六パーセント、菊地鑑定においては五二パーセント、渕上鑑定においては五六パーセントとなっており、転換後・造成後の更地価格も、飯島鑑定においては、三万九五〇〇円、菊地鑑定においては、三万五〇〇〇円、渕上鑑定においては三万六〇〇〇円の部分と三万二〇〇〇円の部分とがあるとしてその平均値三万四〇〇〇円とそれぞれ査定されており、開発費用及び素地価格については、飯島鑑定においては、造成費一平方メートル当たり一万〇七七〇円、付帯費用造成後更地価格の一五パーセント、金利(年八・五パーセント)及び開発者利益(年五・五パーセント)の合計投下資本の一四パーセント、造成完了までの平均期間は加重平均して三二・七四月、宅地化までの平均期間も加重平均して四七・三月とし、所要の計算をして素地価格を一平方メートル当たり六一四〇円と、菊地鑑定においては、造成費一平方メートル当たり六五〇〇円、付帯費用、金利及び開発者利益販売費率を全体で投下資本の四九パーセント(うち金利及び利潤の合計は一五パーセント、なお工事期間三年、分譲期間一年は折込みずみ。)として所要の計算をして素地価格を一平方メートル当たり五七〇〇円と、渕上鑑定においては、造成費一平方メートル当たり四五〇〇円、一般管理費販売費は売上額の一五パーセント、利潤及び金利は年一四パーセントとし、素地価格(買収費)に対し五年で七〇パーセント、工事費に対し二年で二八パーセントとして所要の計算をして六一五〇円とそれぞれ算出し、その他の地区についても同様の計算をして素地価格を算出していること、桐山鑑定においては、最も開発費を要する土地として別表四の一の5の土地を選び、これについて有効宅地面積率を六五パーセント、転換後・造成後価格を三万三〇〇〇円、造成費を一平方メートル当たり九五三〇円(造成工事期間一年、資金は当初、中間、終期の三回に分けて投入するものとし、金利九パーセント、利益率九パーセント、と仮定。)と計算し、一方、造成費の最も少いものとして別表四の一の9の土地を選び、これについて同一の造成内容のものとして造成費を計算したところ、一平方メートル当たり三六六〇円となって5の土地と開差が生じたが、これは地勢傾斜度によって生じたものと考えられるとして、本件各土地に一〇メートル×一〇メートルのメッシュを切り、そのメッシュ内に入る等高線の数を数えその平均値をメッシュ指数とし、造成費をこの指数の函数とする簡便法を採用して各画地(別表四の各画地)ごとの造成費を算定し、更に、5の土地について付帯経費を売上額の一五パーセント、投下資本に対する金利と利益率一八パーセント(造成期間三年の中間一・五年に対するものとする。)、素地価格(買収費)については更に三年の資本投下期間があるとして、所要の計算をし、5の土地の素地価格を一平方メートル当たり四七〇〇円、同様に9の土地の素地価格を一平方メートル当たり八三〇〇円としてその余の画地についても右価格の範囲内で素地価格を算出していること(なお、同鑑定は、別表四の一の1、5、11、13、14及び18については、取引事例比較法によっては比準価格を求め難いとして素地価格のみを算出している。)、金森鑑定においては、比較的平坦な部分で多少の造成費を投ずることによって宅地化できる部分につき、単独で開発した場合の素地価格を算出しているほか(潰地率三五パーセント、造成費用を各画地により一五〇〇円から四〇〇〇円として計算)、AないしC地をそれぞれ大規模開発するとした場合の素地価格として各団地ごとにこれを計算しているところ、A地については造成後・転換後価格を四万五五〇〇円、有効宅地面積率五一パーセント(潰地率四九パーセント)、造成費用一平方メートル当たり八八〇〇円、販売費率投下資本の一〇パーセント、金利及び利潤をそれぞれ投下資本に対し年八パーセント及び年一五パーセント、工事期間三年六月として所要の計算をして素地価格を六三六六円と、B地については造成後・転換後価格を三万八九〇〇円、工事期間三年その余の条件をA地と同じとして素地価格を七三九三円とし、C地についても同様にして素地価格を算出していることが認められる。

以上のとおり、素地価格の算出については、転換後・造成後価格の設定はともかくとして(この点については、A地について最も高いもので四万五五〇〇円とするものがあるほか三万三〇〇〇円から三万九五〇〇円の範囲に入っている。)、有効宅地面積率(六六パーセントから五一パーセント)、造成費(一平方メートル当たり一万〇七七〇円から四五〇〇円)、利潤及び金利(投下資本に対し合計一四パーセントから二三パーセント)等の想定事項で、各鑑定間にかなり大きな開差が生じているのであって、このうちいずれの鑑定結果についても、他に比して合理性が高いとにわかに断ずることは到底できないというべきである。確かに、鶴田鑑定の前提とする造成計画、造成工事概要は、他の鑑定結果における想定に比し、精密度においてより高いものといいうるのであるが、A地及びB地を、その中間の協力地ともども一括して造成するとの仮定は、かなり大胆なものというべく、このような素地価格の算出については、なるべく控え目な価格を算出すべきであると考えられることからして、必ずしも右のような想定をすることの妥当性を肯定し難いというべきであるし、商業用地を別に設定してその分の価格を一割増とする点や、調整池を三沢川改修後において宅地化するとの想定についても、同様のことがいいうるのである。また、本件各土地のような大規模開発については、開発対象区域の地勢や傾斜等によっておのずから造成費に相違が生じてくるはずであり、分譲価格についても、当然対象地の位置関係によって高低が生じるものと考えられるのであるが、鶴田鑑定はこれらを開発対象全地域(但し、商業用地を除く。)にわたって同一としているのであって、このような想定には、たとえそれが平均値をとったものと説明されるとしてもその算定過程に鑑みれば合理性を直ちに承認し難いのである。

以上によれば、鶴田鑑定の採用した素地価格も、これを本件各土地の本件評価時点における価格としては採用し難いものといわざるをえず、そのことは、他の原告側の二鑑定についても、これらが同一の造成計画を前提とする以上、同様にいいうることであるから、結局のところ、本件各土地について原告重芳らが本件裁決の認定した価格を上まわるとして主張するところのものは、これを証明する証拠がないことに帰するものというべきであり、かえって、右判示したところに《証拠省略》を総合すれば、本件裁決の認定額は、本件各土地の本件価格時点における相当な価格としてこれを認めることができるものというべきである。

2  原告らは、本件裁決における本件各土地の評価額は、本件各土地を恣意的に細分化し、いわばミニ開発を寄せ集めるという手法によって算出されたものであって、高地、低地で土量のバランスをとることが可能であるとか、単一の所有者からの買収土地のみで、大規模開発が可能となるといった集積の利益を無視し、ことさら評価額を低額にさせた点に違法があると主張する。しかしながら、《証拠省略》に右判示したところをあわせれば、本件裁決において本件各土地の価額認定の基礎とした本件各土地の区分は、本件各土地の地形、地勢、接道状況、既存集落への接近状況、現況の利用状況、嫌忌施設の有無等の価格形成要因においてほぼ等しい区画を一つのまとまりとして分割し、これをそれぞれ一単位として価格評価の対象としたものであって、その区分には十分な合理性があるものと認められるのである。そして、このように本件各土地を分割することは、前判示のように本件各土地をA地、B地のように一団として把握するものとしては比準価格を算出することができない以上、比準価格算出上そうせざるを得ないものとして是認すべきものといわなければならない。原告らは、右各画地のいくつかのものについて地勢等の把握の誤りを主張する。そのうち別表四の一の3については、前認定のとおりゴミ捨場として使用されていたと認められるので、原告らの主張は理由がなく、その余のものについては、仮に若干の把握の誤りがあったとしても、それが各画地についての評価額に影響を及ぼす程のものとは到底認められないから、これらの主張もまた採用し難いのである。

次に、原告らは、被告側の鑑定は多摩ニュータウン計画区域内における被告買収事例を取引事例として採用して比準価格を算出しているが、右区域内の土地は一般の売買が規制され、被告以外には買手の存在しない限定された市場であり、買収申請後六か月以内に成約すれば所得税控除の恩典がある一方、被告には強制収用権が委ねられているのであるから、右区域内の取引価格は、正常でない状況で形成されたものとして、これを採用すべきではないと主張する。確かに、《証拠省略》によれば、前記の被告側鑑定は、いずれも、被告の本件各土地の近隣地域における買収事例を比準事例として採用していることが認められ、また、多摩ニュータウン計画区域内においては、一般の売買が規制され、被告の任意買収に応じれば税法上の恩典があり、被告に強制収用権のあることは、被告の自認するところである。

しかしながら、《証拠省略》によれば、本件価格時点当時においては、稲城地区の約八〇パーセントは既に被告が買収を了していたことが認められるのである。そして、多摩ニュータウンのかなりの土地は、本件各土地のように大規模開発によらなければ宅地化することができないものであり、また、仮に宅地見込地とならないで従前の状況のままの土地であれば、比較にならない程低価格の土地としてとどまらざるを得なかったという事情もあったのであるから、被買収者の側にもこのような事情を反映した一定の相場のようなものが形成されるものと考えられるのであり、右に認定したような被告の任意買収の進捗は、被告の提示した価格を被買収者の大部分が決して低価格とは考えなかったことの証左であるということができるのである(もし低価格であるとかなりの被買収者が考えたとすれば、その場合法律上とりうる手段があるのであるから、被買収者らが共同してこのような手段にでる可能性が高かったものというべきである。)。そうすると、このように買い進まれた場合における取引価格は、既に近隣の相場を形成しているものというべきであるから、これらを取引事例として採用した被告側の鑑定はこれをもって不当であるということはできず、原告の右主張は採用し難いものといわなければならない。

四  原告らの賃借権、使用借権に関する主張について

原告らは、本件裁決の認定した阿川清治、榎本幾太郎、立川幸、小泉和一の本件各土地の一部の賃借権又は借地権について、あるいは認定された借地面積又は賃借面積が広過ぎ、あるいは認定された賃借権が実際には存在しない旨の主張をする。しかしながら、原告らは、本件各土地の権利関係に関して被告が作成した土地調書について、その記載事項が真実でない旨の異議を述べ、これを右調書に附記していないことは、原告らの自認するところであるところ、右事実によれば原告らは、法三八条によって、右調書の記載事項が真実に反していることを証明しない限り、これに異議を述べることはできないものと解される。しかるに、《証拠省略》によっては、到底原告らが右阿川らの借地権又は賃借権について主張するところを認めるに足りず、他に右事実を認めるべき証拠はないから、原告らの右主張はこれを採用することができない。また、原告らは、本件裁決が原告会社の本件各土地に対する権利につき、選択的に、使用借権があるものと仮定した場合としてした面積の認定について、うち一六五〇平方メートルは賃借権であると主張する。しかしながら、原告らが、右の点についても土地調書に異議を附記していないことを自認していることは、前同様であるところ、《証拠省略》によっては到底原告らの主張事実を認めるに足りず、他に右事実を認めるべき証拠はないから、右主張もこれを採用することができないのである。

更に、原告らは、和田商店については使用借権がないと主張する。しかしながら本件裁決は、和田商店の使用借権については、その存否が裁決の時期までに確定しないとして法四八条五項にのっとり、当該権利が存するものとして裁決し、あわせて裁決の後に当該権利が存しないことが確定した場合の土地所有者の受けるべき補償金について裁決したものであるから、原告重芳としては、和田商店との間で使用借権の有無について、合意又は民事訴訟によってこれを確定させたうえしかるべき補償金の支払いを受ければ足りるものであって、仮に和田商店に裁決が選択的に認めた使用借権がなかったとしても、そのことは本件裁決の違法事由とはならず、したがって、法一三三条に基づく訴えにおける損失補償金の増額を基礎づける事実ともならないから、右主張は失当であるというべきである。

五  結論

よって、原告らの主位的請求に係る訴えは不適法であるから、これを却下し、予備的請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宍戸達德 裁判官 中込秀樹 小磯武男)

<以下省略>

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