大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和49年(ホ)3503号 決定 1974年7月24日

被審人 学校法人愛国学園

右代表者理事長 織田淑子

主文

被審人を過料五〇万円に処する。

手続費用は被審人の負担とする。

理由

一  被審人は、教育事業を目的として私立学校法に基づき設立された学校法人であって、肩書地に中学校・高等学校および短期大学を、茨城県竜ヶ崎市に短大附属竜ヶ崎高等学校を設置し、昭和四三年五月当時教職員数は一三〇名、生徒数は二、二五〇名(但し、短大および同附属竜ヶ崎高等学校を除く。)を擁していた。

深谷静雄、洞井浩、遠藤昭および平瀬誠一はいずれも被審人学園に採用され、教諭として勤務していたものであるところ、被審人は、昭和四二年四月一日、当時東京私学労働組合東部支部愛国学園分会執行委員であった深谷静雄に対し雇用契約の継続を拒否し、また、昭和四三年三月二八日、同分会分会長であった洞井浩、同分会副分会長であった遠藤昭および同分会書記長であった平瀬誠一に対しいずれも懲戒解雇をなした。そこで同人等から被審人を相手方として東京都地方労働委員会に不当労働行為救済の申立をなしたところ、同委員会は、昭和四七年二月一五日、〔一、被申立人学校法人愛国学園は、申立人深谷静雄が「愛国学園分会の情宣活動の中には行きすぎのあったことを反省する」との書面を学園あてに差し入れるときは、同人を原職へ復帰させ、期間の定めのない雇用契約が成立しているものとして取扱い、昭和四二年四月以降原職に復帰するまでの間に受けるはずであった給与相当額を支払わなければならない。二、被申立人は、申立人洞井浩、同遠藤昭、同川田秀司、同平瀬誠一らが前項の書面を学園あてに差し入れるときは、同人らを原職に復帰させ、昭和四三年四月以降原職に復帰するまでの間に受けるはずであった給与相当額を支払わなければならない。三、(省略)〕との命令をなした。これに対し被審人は、中央労働委員会に再審査の申立をなしたが、同委員会は、昭和四八年七月四日、〔一、初審命令主文第一項中の「が『愛国学園分会の情宣活動の中には行きすぎのあったことを反省する』との書面を学園あてに差し入れるときは、同人」の部分および初審命令主文第二項中の「が前項の書面を学園あてに差し入れるときは、同人ら」の部分をそれぞれ取り消す。二、再審査申立人学校法人愛国学園の本件再審査申立てを棄却する。〕との命令をなした。そこで被審人は、当庁に対し、右命令の取消を求める訴えを提起し、右事件は当庁昭和四八年(行ウ)第一二一号事件として係属中である。ところで、中央労働委員会は、当庁に対し、労働組合法二七条八項に基づく仮の命令(いわゆる緊急命令)を求める申立をなし、これに対し当庁は、同年一一月二九日、「被申立人は、被申立人、申立人間の当庁昭和四八年(行ウ)第一二一号不当労働行為救済命令取消請求事件の判決確定に至るまで、申立人が被申立人になした中労委昭和四七年(不再)第一七号および第一八号不当労働行為再審査申立事件命令(昭和四八年八月一五日交付)に従い、一、被申立人は、深谷静雄を原職へ復帰させ、期間の定めのない雇用契約が成立しているものとして取扱い、昭和四二年四月以降原職に復帰するまでの間に受けるはずであった給与相当額を支払わなければならない。二、被申立人は、洞井浩、遠藤昭、平瀬誠一を原職に復帰させ、昭和四三年四月以降原職に復帰するまでの間に右の者らが受けるはずであった給与相当額をそれぞれ支払わなければならない。」との決定をなし、この決定は、昭和四八年一二月五日被審人に送達された。ところが、被審人は、右裁判所の決定によって命ぜられた前記中央労働委員会の救済命令に対し、遠藤昭、洞井浩、平瀬誠一、深谷静雄に対しそれぞれ給与相当額(但し、賞与等団体交渉中の部分もある。)を支払ったのみで現在に至るもなお右の者ら(但し、遠藤昭は昭和四九年五月二〇日付にて退職した。)に対し授業を担当させないばかりでなく、教科書、教務手帳等も支給せず、また共済組合(健康保険)への加入申請、身分証明書の発行、児童手当申請手続等を拒否しており、しかして右の者らは被審人学園に出勤するも何らの業務をも与えられない状況にある。被審人が右の者らをかように取扱う主たる理由は、右の者らの言動が被審人学園の建学精神・教育方針に全く相反し、学園における教育者としては全くの失格者であって、右の者らに授業を担当させることは学園の建学精神・教育方針を自ら否定することになり、学園を大きな混乱に陥し入れるというにある。その外に、右の者らに授業を担当させることには父母会(P・T・A)からの強い抵抗があるばかりでなく、他の教職員中にも反対の者が存在し、被審人としてはこれらの声を無視し得ない状況にあることもその理由となっているところである。

以上の事実は、本件記録中の東京私学労働組合執行委員長伊藤茂の抗議文写、洞井浩外三名の上申書、緊急命令写、被審人学園校長三浦亮一の陳述書、当庁昭和四八年(行ク)第八〇号緊急命令申立事件記録中の東京都地方労働委員会および中央労働委員会各命令書写の各記載を総合することにより明白である。

二  被審人が洞井浩、深谷静雄、平瀬誠一、遠藤昭(但し、同人は昭和四九年五月二〇日付にて退職したので、同人については同日までの緊急命令違反が問題となる。)に授業を担当させないことは緊急命令違反たるを免れないところであって、被審人がその理由とするところは、前記救済命令がこれに対する取消訴訟において取消されることがない以上は、これに対する不遵守を正当化する法律上の事由となし得ないものといわざるを得ない。しかしながら、ことは教育の場における紛争であって、そのもたらす影響は計り知れないものであるから、その解決には当事者の自主的努力の最も望まれるところであり、また父母会(P・T・A)が右の者らに授業を担当させることに強く反対し、他の教職員中にも反対の者が存在すること等の事情を無視することもできないであろう。さすれば、右の者らに給与相当額が支払われ、学園内における行動も一応保障されている現状に鑑みれば、右の者らに対する救済も不満足ながら一応ある程度与えられていることになり、以上の諸事情を総合考慮したうえ、労働組合法三二条により被審人を過料五〇万円に処するを相当と認め、非訟事件手続法二〇七条第四項に則り主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 大西勝也 裁判官 林豊 中田昭孝)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例