大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和49年(ワ)10296号 判決

【主文】

一  被告らは各自、原告に対し、金三二万七三四二円及びこれに対する昭和五一年一〇月二〇日以降支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その一を被告らの、その余を原告の各負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

【事実】

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告に対し、金八七二万〇一五二円及び内金七二万〇一五二円に対する昭和五一年一〇月二〇日以降、内金八〇〇万円に対する昭和五七年六月六日以降各支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告らは、原告に対し、朝日新聞、毎日新聞及び日刊工業新聞の各全国版に各一回づつ別紙目録記載の文案により、標題はゴシック体二倍活字、その他はゴシック体一倍活字を使用して、謝罪広告を掲載せよ。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  第一項につき仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  訴外佐竹利彦は、次の特許権(以下、「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」という。)をその権利存続期間の満了日である昭和五一年一〇月二〇日まで有していた。

発明の名称 石抜撰穀機

出願日 昭和三五年九月一二日

出願公告日 昭和三六年一〇月二〇日

登録日 昭和三七年三月一九日

登録番号 第四〇〇五四〇号

2  原告は訴外佐竹利彦から、昭和四九年六月二五日、本件特許権につき、期間・本件特許権の存続期間中、地域・日本全国、内容・製造及び販売とする専用実施権の設定を受け、同年八月一三日その設定登録を了した(以下、右専用実施権を「本件専用実施権」という。)。

3  本件発明の特許出願の願書に添附した明細書(以下、「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載は次のとおりである。

「前方もしくは前斜方向に噴風するように開口した多数の噴風孔を設けた多孔壁比重撰粒盤の後方行程に多孔壁粒大撰粒盤を設けたことを特徴とする石抜撰穀機。」

4(一)  本件発明の構成要件を分説すれば次のとおりである。

A 前方もしくは前斜方向に噴風するように開口した多数の噴風孔を設けた多孔壁比重撰粒盤を有すること

B 多孔壁比重撰粒盤の後方行程に多孔壁粒大撰粒盤を設けたこと

C 石抜撰穀機であること

(二)  本件発明の作用効果は、次のとおりである。

A 比重撰粒盤の噴風孔から噴出する風力によつて、土砂微粒子又は砕穀微粒子と穀粒子とは、比較的軽いために浮上しながら比重撰粒盤上を後方低部に向つて傾流し、また、穀粒の粒大とほぼ近似の重い土砂大粒子は比重撰粒盤底面上に沈下と同時に前高方に吹送撰別され、該比重撰粒盤上を後方低部に向つて傾流する軽粒子中、土砂微粒子又は砕穀微粒子は多孔壁粒大撰粒盤の孔目から漏落して撰出され、穀粒は該盤上を流下し高純度の完全粒子として撰出され、大小の混合土砂粒子を悉く穀粒と撰別することができる。

B 土砂混合穀粒中の土砂微粒子の粒大撰粒を比重撰粒行程後に行なうよう構成したので、故障なくかつ構造が簡潔堅牢に小型化できる。

5  被告株式会社丸七製作所は、別紙物件目録記載の石抜撰穀機(以下、「被告製品」という。)を業として製造して被告丸七商事株式会社に販売し、同被告は被告株式会社丸七製作所の商事部門として被告製品を業として販売した。

6(一)  被告製品の構成を分説すれば次のとおりである。

a 孔の前方側孔側端縁が低く、反対に後方側孔側端縁が高くなるように押圧成形されたスリット状の多数の噴風孔2を穿設した多孔盤1を有し、その下部に風車7を設置し、該風車7を回転させて多孔盤1の下部より送風する。

b 右多孔盤1の後方行程に網盤(多孔壁粒大撰粒盤)5を設けている。

c 石抜撰穀機である。

(二)  被告製品の作用効果は、次のとおりである。

a 風車7を回転させた場合、風車7より送られた風は、多孔盤1の噴風孔2から噴出し、この風力によつて供給口8より流出した土砂混合穀粒のうち、土砂微粒子又は砕穀微粒子とは、比較的軽いため浮上しながら多孔盤1上を後方低部に向つて傾流し、また、穀粒の粒大とほぼ近似の重い土砂大粒子は多孔盤1底面上に沈下と同時に前高方に吹送撰別される。また、該多孔盤1上を後方低部に向つて傾流する軽粒子中、土砂微粒子又は砕穀微粒子は、網盤(多孔壁粒大撰粒盤)5の孔目から漏落して撰出され、穀粒は該網盤5上を流下して、高純度の完全粒子として撰別され、大小の混合土砂粒子を悉く撰別する機能を果たすことができる。

b 土砂混合穀粒中の土砂微粒子の粒大撰粒を比重撰粒行程後に行うよう構成したので、故障なくかつ構造が簡潔堅牢に小型化できる。

7  本件発明の構成要件と被告製品の構成とを対比すれば次のとおりである。

(一) 構成要件Aについて

被告製品は、多孔盤1の盤面上に、ほぼ全面にわたり多数の噴風孔2が穿設されている。この噴風孔2はスリット状を呈し、かつ、孔の前方側孔側端縁が低く、反対に後方側孔側端縁が高くなるように押圧成形されており、その結果この噴風孔2は多孔盤1の前斜方向に向つて傾斜状に穿設された状態となつている。したがつて、多孔盤1の下面に設置された風車7を回転させると、風車7から送られた風は多孔盤1の各孔2を通つて、多孔盤1の上面側に噴出する。この際の風の噴出方向は噴風孔2の向きに規制されて噴風孔2の方向とほぼ一致する。このように被告製品の噴風孔2は、風車7から送風される風を噴風孔2の向きで規制して指向性を与え、前斜方向に噴風せしめるのであるから、本件発明の「前方もしくは前斜方向に噴風するように開口した噴風孔」と同一である。

また、被告製品における多孔盤1は、盤面上、ほぼ全面にわたり多数の噴風孔2が穿設されているのであるから、本件発明における「多数の噴風孔を設けた」多孔撰粒盤に該当する。

(二) 構成要件Bについて

被告製品では、多孔盤1の傾斜低端部すなわち、後方行程端部に網盤5が一体的に連設されている。この網盤5は、通常の平織製の金網であつて、網目の大きさは一辺の長さが二ミリメートル程度である。したがつて、この網目の大きさからして穀粒の通過は不可能である。本件明細書の詳細な説明の欄には「5はその後方行程において穀粒中から微粒土砂粒子を漏下撰別する多孔壁即ち金網」(本件特許公報左欄最下行及び右欄一行ないし二行)と記載されており、その上、図面において網目表示がされていることにより明らかな如く、本件発明の実施例では多孔壁粒大撰粒盤として金網を用いているのであるから、被告製品の網盤(金網)5は本件発明の多孔壁粒大撰粒盤と同一である。

以上により被告製品は構成要件Bを充足する。

(三) 被告製品は、土砂、小石等の異物と穀粒とを撰別するいわゆる「石抜撰穀機」である。したがつて、構成要件Cを充足する。

結局、被告製品は、本件発明の構成要件のすべてを充足し、その作用効果も前記のとおり本件発明のそれと同一であるから、被告製品は、本件発明の技術範囲に属する。

8  被告らは、本件専用実施権登録の日の翌日である昭和四九年八月一四日から本件特許権の存続期間が満了する昭和五一年一〇月二〇日までの間、少なくとも被告製品を四五台製造販売し、総額三二七万三四二〇円の売上を得た。原告は、本件専用実施権につき訴外株式会社東洋精米機製作所(以下、「東洋精米機」という。)に対し、昭和四九年九月一一日通常実施権設定を許諾し、その実施料は売上の二二パーセントであるから、被告らは、特許法第一〇二条第二項の規定により損害賠償として七二万〇一五二円の支払義務がある。

9  原告は東洋精米機との間の昭和四九年九月一一日付通常実施権設定契約において、東洋精米機に対し権利侵害に関する排除義務を負担し、右義務を完うしない場合、一〇〇〇万円の違約損害金支払義務を負担する旨約定した。

ところで、東洋精米機は、被告らの権利侵害行為に対し、原告が適切強力な排除措置を講じなかつたことを理由に原告に対し右一〇〇〇万円の賠償を請求し、原告は、右損害金の支払をなさざるを得ない事態となり、示談交渉の結果昭和五七年六月五日東洋精米機に対し八〇〇万円を支払つた。

10  被告らは、被告製品が本件専用実施権を侵害するものであることを知りながら、しかも、原告が実施権を許諾している東洋精米機の製品(以下「原告製品」という。)より粗悪品にしてかつ模造品である被告製品をかなり廉価に販売している。すなわち、被告製品は原告製品と比較し撰別効果が劣り、更に原告製品の金網の材質がステンレススチールであるのに対し、被告製品の金網の材質は鉄であるため防錆性が低く摩擦系数が高く糠・砕粒等が付着し易く網目の掃除を再三行わねばならないという欠点を有する。その上、被告製品は原告製品に比べて相当大型であり、据付に場所を必要とするのみならず、電力消費量、騒音等において劣るものである。

ところが、被告らは、被告製品を不当に廉価に販売した上、値引に応ずる等顧客を吸引している。そのため、原告は本件専用実施権に基づき原告製品を製造販売せんとしても、その意図した販売価額を維持することが困難であり、また、第三者に実施を許諾せんとしても実効をあげることができない。以上のように、原告は、被告らの右行為により著しく営業上の信用を失墜させられたのであるから、被告らは、原告が失つた営業上の信用を回復する措置をとる義務がある。

11  よつて、原告は、被告らに対し、各自金八七二万〇一五二円及び内金七二万〇一五二円に対する侵害行為後である昭和五一年一〇月二〇日以降、内金八〇〇万円に対する損害の発生後である昭和五七年六月六日以降各支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払い及び請求の趣旨記載の謝罪広告の掲載を求める。<以下、省略>

【理由】

一請求の原因1の事実及び本件明細書の特許請求の範囲の記載が原告主張のとおりであることは、いずれも当事者間に争いがなく、<証拠>によると、原告は、訴外佐竹利彦から本件専用実施権の設定を受け、昭和四九年八月一三日、その設定登録を了したことが認められる。

右争いのない特許請求の範囲の記載と<証拠>によれば、本件発明は、石抜撰穀機に関するものであつて、原告主張のAないしCの各構成要件からなるものであること及び本件発明の作用効果が原告主張のとおりであることが認められる。

二請求の原因5の事実は当事者間に争いがない。

三そこで、被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか否かについて判断する。

1  被告製品の構造の説明及び図面であることに争いのない別紙物件目録の記載によれば、被告製品は、「前方もしくは前方斜方向に噴風するような傾斜角を有する噴風孔を設けた多孔盤の後方行程に網盤を設けたことを特徴とする石抜撰穀機」であるところ、右多孔盤が本件明細書の特許請求の範囲に記載されている多孔壁比重撰粒盤に、網盤が同じく多孔壁粒大撰粒盤にそれぞれ相当することは、被告らにおいて認めており、また、多孔盤に多数の噴風孔が設けられていることは、別紙目録記載の図面上も、あるいは被告製品の写真であることに争いのない甲第六号証の一〇、一一によつても明らかである。

2  構成要件Aについて

被告らは、本件発明の対象は風力単独型石抜撰穀機に限定されるから、構成要件Aも、多孔壁比重撰粒盤が静止していることを要件とすると主張する。

しかしながら、前顕甲第二号証(本件特許公報)によると、本件発明は、多孔壁比重撰粒盤の後方行程に多孔壁粒大撰粒盤を設けたことを特徴とする石抜撰穀機に関するものであり、比重撰粒盤あるいは粒大撰粒盤上における穀類の移送方法そのもの又はその改良方法を目的課題とするものではないことが明らかであつて、撰粒盤上における穀類の移送方法については、特許請求の範囲の記載上何ら限定はなく、本件明細書の発明の詳細な説明の欄にも格別これを限定する趣旨の説明は存せず、逆に「この発明は、撰粒盤が振動する場合にも停止する場合にも用いられる」との記載がある(右欄第一八、一九行)ことが認められ、右事実によると、本件発明は多孔壁比重撰粒盤が静止していることを要件とする旨の被告らの主張はこれを採用することができない。

そうすると、被告製品は、前方もしくは前方斜方向へ噴風するような傾斜角を有する多数の噴風孔を設けた多孔盤を有し、この多孔盤が本件発明における多孔壁比重撰粒盤に相当することは明らかであるので、本件発明の構成要件Aを充足する。

3  構成要件Bについて

被告らは、本件発明の登録出願時において、多孔壁比重撰粒盤の後方行程に多孔壁粒大撰粒盤を設けた石抜撰穀機は、公知であつた旨主張する。

しかしながら、昭和一〇年実用新案出願公告第一二七五七号公報、昭和五年実用新案出願公告第八三五三号公報、実用新案出願公告昭三五―二一一四二号公報には、いずれも多孔壁粒大撰粒盤といい得るものの記載がなく、特許第一一一五三〇号明細書に示される撰穀機における塵芥除去穀粒撰別装置は、比重撰粒の前段階で粒大撰粒を行なうものであり、登録実用新案第四一三七五号公報(乙第三五号証)に示される石抜機には、粒大撰粒盤は存するが比重撰粒盤といい得るものが存せず、したがつて、これらをもつて右被告らの主張を認めるに足りず、他に多孔壁比重撰粒盤の後方行程に多孔壁粒大撰粒盤を設けることが本件発明の出願時に公知の技術であつたと認めるに足りる証拠はない。

そして、本件特許公報によれば、本件発明における多孔壁粒大撰粒盤の設置位置については、多孔壁比重撰粒盤の後方行程に設けるというほかに何らの限定もないことが明らかである。

そうすると、被告製品は、本件発明における多孔壁比重撰粒盤に相当する多孔盤の後方行程に本件発明における多孔壁粒大撰粒盤に相当する網盤を設けたものであるから、被告製品は、本件発明の構成要件Bを充足する。

4  構成要件Cについて

被告製品が石抜撰穀機であることは前記のとおり当事者間に争いがなく、したがつて、被告製品は、本件発明の構成要件Cを充足する。

5  作用効果について

被告らは、被告製品の多孔盤は、粒大のいかんにかかわらず穀粒の比重より大きい土砂粒子を撰別し、網盤は、穀粒中に混在する極く細い米穀粒のみを分離する点で本件発明と作用効果を異にすると主張する。

しかしながら、前認定のとおり、被告製品は、本件発明の構成要件を悉く充足する以上、その作用効果についても、本件発明と同一であると推認して然るべきであり、これを覆すに足りる証拠はない。

6  以上認定の事実によると、被告製品は、本件発明の技術的範囲に属すると認められる。

四権利濫用について

被告らが原告の本訴請求が権利濫用である旨主張するところは、その理由として主張する事実がすべて認められるとしても、これのみをもつて直ちに原告の本訴請求が権利の濫用であるというに足らないものであり、主張自体失当といわざるをえない。

五以上のとおり、被告製品は本件発明の技術的範囲に属するから、被告らが請求の原因5の態様で被告製品を製造、販売する行為は、共同して本件専用実施権を侵害する行為に該当する。そして、特許法第一〇三条の規定により被告らには右侵害行為について過失があつたものと推定されるから、被告らには、右侵害行為によつて原告の被つた後記損害を不真正連帯の関係で賠償する義務がある。

1  被告らが、原告の本件専用実施権が有効に存続していた期間中である昭和四九年八月一九日から同年一〇月二四日までの間に、被告製品を四五台製造、販売し、総額三二七万三四二〇円の売上額を得たことは当事者間に争いがない。<証拠>によると、原告は、本件専用実施権につき、東洋精米機に対し、昭和四九年九月一一日通常実施権の設定を許諾し、その実施料を売上額の二二パーセントと定めたことが認められるところ、この事実と本件発明の技術内容その他諸般の事情を綜合考慮すれば、本件発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額としては、売上額の一〇パーセントをもつて相当と認めることができ、これに反する証拠はないから、特許法第一〇二条第二項の規定により、被告製品の売上額三二七万三四二〇円の一〇パーセントにあたる三二万七三四二円が、被告らの侵害行為により原告の被つた損害と認められる。<以下、省略>

(牧野利秋 飯村敏明 高林龍)

物件目録

図面の説明書

図面第一図は、石抜撰穀機の縦断側面図であり、第二図は第一図の石抜撰穀機と同一機械に小米取器を附設させた縦断側面図、第三図は要部側面図、第四図は石抜撰穀機において、供給口(ホッパー)及び網盤覆いを取り外した要部平面図である。

図中1は多孔盤、2は噴風孔、3は土砂排出口、4は多孔盤後方端部、5は網盤、6は穀粒流下樋、7は風車、8は供給口、9はモートル、10はベルト、11はプーリー、12は円形偏心カム、13はカム腕手、1414'は揺動支持杆、15は溜である。

図面に示すように、前方もしくは前方斜方向に噴風するような傾斜角を有する噴風孔2を設けた多孔盤1の後方行程に網盤5を設けたことを特徴とする石抜撰穀機である。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!