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東京地方裁判所 昭和49年(ワ)1603号 判決 1978年1月25日

原告

田中冨美枝

右訴訟代理人

富森啓児

外二名

被告

田中玉枝

右訴訟代理人

三輪長生

主文

一  別紙目録(一)ないし(四)記載の各不動産につき、原告が一万分の四四八三の割合の共有持分権を有することを確認する。

二  被告は原告に対し、右各不動産につきなされた東京法務局杉並出張所昭和四九年一〇月一一日受付第三六二九八号の所有権移転登記につき原告が一万分の四四八三の割合の共有持分権を有する旨の更正登記手続をせよ。

三  原告のその余の第一次請求を棄却する。

四  訴訟費用はこれを八分し、その七を被告の、その余を原告の各負担とする。

事実《省略》

理由

一まず、第一次請求について判断するに、請求原因1、2の各事実は、当事者間に争いがない。

二乙第一号証の二の自筆証書による遺言の無効の主張(請求原因3)について

<証拠>によると、フクは右証書(乙第一号証の二)を自書したことが認められ、また、<証拠>によると、フクは、平素から高血圧気味であり、また、右証書作成当時、原告及びその夫真吉側とフク及び被告側との間で、本件建物の所有名義等をめぐつて激しい紛争状態が継続していたため、多少心身が疲労していたもののその当時遺言をする意思能力を有し、かつ、真意に基づいて右証書を作成したことが認められる。

この点に関する原告の主張を認めるに足りる的確な証拠はない。

三民法一〇二三条二項適用の主張(請求原因4)について

1  <証拠>を総合すると、次の各事実が認められる。

(一)  フクの長女である原告は昭和三七年末ころ真吉と結婚したが、その後右両名はフクから東京都千代田区神田神保町における飲食店の経営を引き継いだ。

(二)  ところが、右飲食店の所在地が昭和四二年ころ地下鉄用地として東京都に買収されたため、フクは、真吉らと相談のうえ、昭和四三年ころ本件各土地を代金合計約一三〇〇万円で購入し、同四四年九月ころ本件建物を新築(請負代金額約一六〇〇万円)して、原告夫婦及び次女の被告とともに同建物に転居した。

(三)  しかるところ、本件建物のうち二階及び三階部分の所有名義をフクとするか、あるいは原告とするかという問題等から、原告及び真吉側とフク及び被告側との間で対立関係が生じ、双方の感情的対立は激化するに至つた。

(四)  フクは、その間の昭和四五年一月二六日、前記自筆証書により本件各不動産を含む自己の全財産を被告に遺贈した。

(五)  そして、フクは、同月末ころ原告側を相手どつて調停の申立をしたが、これが不調に終わつたので、昭和四六年に至り真吉を相手どつて本件建物の明渡を求めるいわゆる断行の仮処分を申請したところ、同年九月三日、原告及び被告も利害関係人として参加して、右四者間で本件和解が成立した。

(六)  本件和解期日には、右各本人四名のほか、フク及び被告の代理人である弁護士三輪長生並びに真吉及び原告の代理人である弁護士竹上半三郎が出頭したが、右和解成立後、フク及び被告側の要望により、右関係者全員立会のうえで、「原告は、別件土地の持分譲渡代金額を一八七万円と定め、これと本件建物の立退料三五〇万円との合計額五三七万円を全額相続財産とみて、原告の相続分から控除することに異議がない。」と記載された念書が、原告側から被告側に交付された。以上の各事実が認められる。

2  ところで、民法一〇二三条二項の規定の法意は要するに遺言者の生前の最終意思を重視するところにあるものと解されるから、右の法意に照らすと、同項にいわゆる「抵触」とは、遺言と遺言後の処分行為とを同時に執行することが不能な場合のみならず、諸般の事情に照らして勘案し、遺言後の処分行為が前の遺言とこれを両立せしめない趣旨のもとでなされたこと明らかな場合をも含むものと解するのが相当である。

3  これを本件についてみるに、前認定にかかる事実関係に徴すると、(イ)前記遺言がなされた後も、原告側と被告側との紛争は激化する一方であつたので、フクは、原告及び真吉に本件建物から立ち退いてもらい、右紛争を終了させたいとの一念から本件和解に応じたものと推認できること、(<証拠>によると、フクは、右紛争が主たる原因となりうつ病及び高血圧症等の症状が悪化したため、昭和四五年二月ころから約一年間入院したことが認められる。)、(ロ)本件和解において、フクが原告及び真吉に対し立退料として三五〇万円を支払い、かつ別件土地の持分を譲渡する旨定められたが、他方、原告及び真吉の本件建物の明渡義務が定められ、また、フク、(被告側)は、右立退料(真吉分も含む)及び持分譲渡代金計五三七万円はいわゆる持戻贈与分とみなすことに異議がない旨記載された念書を原告から受領したのみならず、右持戻贈与額は本件各不動産の価額の概ね六分の一にも相当するのであるから、仮に本件和解の成立及び右念書の授受が、原告に相続分があることを前提としているものとしても、フク(被告)側に著しく不利益な結果を惹起させるものとは認め難いこと(なお、<証拠>によると、フクが昭和四八年三月一〇日死亡し、また本訴が昭和四九年三月三日提起されたため、右立退料は未だ支払がなされていないことが認められる。)、(ハ)右念書の記載内容は、明らかに原告に相続分があることを前提としているものと窺え、しかも右念書は被告側の要請で作成されたものと認められること、その他認定のとおり代理人である三輪弁護士とともにフク及び被告自身が本件和解及び右念書の授受に立ち会つていること等諸般の事情を総合して考察すると、本件和解の内容が実現されたとしても、必ずしも前記遺言の執行が不能となるわけではないが、フクは、代理人である三輪弁護士を介し、明らかに、前記遺言と両立させない趣旨、換言すると前記持戻贈与分は控除するものの、原告に決定相続分があることを是認する趣旨のもとで、本件和解及び前記持戻贈与額に関する合意をなしたものと認めるのが相当である。

4  尤も、<証拠>中には、三輪弁護士は、本件和解成立当時、前記遺言のなされていたことを知らなかつた旨の部分があるが、その当時、フクとともに原告側との間に生じていた紛争を解決することを三輪弁護士に委任していた被告は、前記遺言のなされていたことを知つていたこと、また被告は司法試験を受験中で、法律専門知識を有していたことに照らすと、前記被告の供述部分はにわかに採用し難いのみならず、仮にこれが採用できたとしても、もとより三輪弁護士はフクの代理人として本件和解及びその直後になされた合意に関与したのであるし、しかも前認定のとおりフク自身も同弁護士とともにこれに関与したのであるから、同弁護士の右に述べた善意が前認定の妨げとなるものではない。

そして、他に前認定を覆すに足りる証拠はない。

5  そうだとすると、フクは、本件和解の成立及びその直後になされた前記合意の際、前記遺言と抵触する法律行為をなしたものであり、民法一〇二三条二項により、前記遺言は右法律行為によつて取り消されたものとみなされることに帰着する。

従つて、この点に関する原告の主張は理由がある。

四原告の相続分の算定について<省略>

(飯田敏彦)

物件目録<省略>

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