大判例

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東京地方裁判所 昭和49年(ワ)305号 判決 1974年11月12日

原告

畠山惇一

右訴訟代理人

関根俊太郎

外二名

被告

不二サッシ販売株式会社

右代表者

佐野友二

右訴訟代理人

鈴木宏

外二名

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は第一・二審を通じ原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(一)  債権者を原告および被告、債務者を株式会社ニューフロンテイアとする東京地方裁判所昭和四七年(リ)第一二七号債権配当事件につき作成された配当表中被告に対する配当額を取消し、右金額七八万四、〇七五円を原告に配当する。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

(一)  債権者を原告および被告、債務者を訴外株式会社ニューフロンテイア(以下「ニューフロンテイア」という。)とする東京地方裁判所昭和四七年(リ)第一二七号配当事件(以下「本件配当事件」という。)について左記の配当表が作成された。

配当にあてるべき金額

金一五七万八〇〇円

執行費用 金二、六五〇円

執行費用を除き配当にあてるべき金額

金一五六万八一五〇円

請求金額     配当額

原告の請求金額

金一五七万八〇〇円

原告への配当額 金七八万四〇七五円

被告の請求金額 金一五七万八〇〇円

被告への配当額 金七八万四〇七五円

(二)  原告は昭和四七年七月一〇日の配当期日に配当表について異議を述べた。

(三)  議異の理由は次のとおりである。

1 本件配当事件において配当されるべきものとされた金額はニューフロンテイアが訴外東海興業株式会社(以下「東海興業」という。)に対して有していた次の各約束手形の金額である(以下「本件配当債権」という。)。

(1) 金額一七万八〇〇円、振出日昭和四六年一月一一日、満期同年六月二〇日、支払地・振出地東京都千代田区、振出人東海興業、受取人ニューフロンテイア。

(2) 金額四〇万円、振出日同年三月一〇日、その他の要件(1)と同じ。

(3) 金額五〇万円、振出日同年四月一〇日、満期同年七月二〇日、その他の要件(1)と同じ。

(4) 金額五〇万円、振出日同年五月一〇日、満期同年九月二〇日、その他の要件(1)と同じ。

2 原告は東京法務局所属公証人伊東勝作成昭和四六年第一三一四号金銭消費貸借契約公正証書の執行力ある正本に基づき、債務者をニューフロンテイア・第三債務者を東海興業として、前記手形債権につき当庁に差押ならびに転付命令を申請して差押・転付命令を得(当庁昭和四七年(ル)第六九六号・以下「本件債権差押・転付命命令」という。)、右命令は昭和四七年二月二六日東海興業(第三債務者)に送達された。

3(1) 被告はニューフロンテイアに対する当庁昭和四六年(ワ)第七〇、七六六号事件の勝訴の確定判決を有する(請求原因となつた債権の内容は、(イ)金額二七万円、振出日昭和四六年六月二八日、満期同年一〇月二〇日支払地・振出地東京都新宿区、振出人ニューフロンテイア、受取人被告。(ロ)金額八九万八、〇〇〇円、その他の要件は(イ)と同じ。(ハ)金額五二万九、〇〇〇円、振出日同年七月二四日、満期同年一一月二〇日、その他の要件は(イ)と同じの各約束手形債権である。以下「被告の本件債務名義」という。)者として配当要求債権者とされたのであろうが、被告の右勝訴判決は原告が本件債権転付命令を受け、その命令正本が東海興業に送達された後になされたものであり、かつ被告は原告の本件配当債権につき本件債権転付命令前に配当加入をしなかつたから、被告は配当要求をなしえないものである。

(2) 仮りに、被告が前記判決記載の債権を被保全権利として、原告の執行申立前に債権仮差押決定(以下「本件仮差押」という。)を得て、これが東海興業に送達されていたことを根拠として配当要求の効力を認められたものであるとしても、右仮差押の執行は次の理由で無効であるから、結局配当要求の効力を生じない。すなわち、

(イ) 被告は、昭私四六年一一月一五日、ニューフロンティアを債務者、東海興業を第三債務者として、本件配当債権の内容たる前記手形債権を目的とする債権仮差押決定(本件仮差押)を得、右決定正本は同一一月一六日東海興業に送達された。

(ロ) しかし、ニューフロンティアは、当時右各手形を紛失したとして、昭和四六年東京簡易裁判所に公示催告の申立をなしていた(同四七年二月一〇日除権判決を受けた)ので、本件仮差押の執行として執行官が右各手形の占有を取得することはできなかつた。したがつて、手形債権の仮差押執行の効力は生じないというべきである。

(四)  以上のとおりであつて、被告は配当要求債権者ではないのに、執行裁判所が(一)のとおり配当表を作成し、被告に配当すべきものとしたのは違法不当であるから請求の趣旨記載の裁判を求める。

二  請求原因に対する認否

(一)  請求原因中事実関係の主張は全部認める。

(二)  被告の本件仮差押申請は、公示催告の申立が却下されることを解除条件とするものであり、その差押債権は、除権判決によつて債務者たるニューフロンテイアが手形を所持しないで第三債務者たる東海興業に対して行使できる手形債権である。その仮差押の執行は、仮差押決定正本を債務者と第三債務者に送達することによつて効力を生じ、執行官による手形の占有を要しないものである。

したがつて、被告の本件仮差押執行は有効であり、これにより当然後になされる強制執行につき配当要求の効力を有するというべきである。

第三<省略>

理由

一請求原因中、事実関係の主張は当事者間に争いがない。

二まず、原告がその(三)の3の(1)において「本件配当事件における配当要求債権者とされた被告の本件債務名義は原告が本件債権差押・転付命令を得て、その命令正本が東海興業に送達された後に取得されたものであり、かつ被告は原告の本件配当債権につき本件債権転付命令前に配当の加入をしなかつたから、被告は配当要求をなしえないものである。」旨主張するので、この点について判断する。前述のとおり、原告の右主張事実は当事者間に争いがなく、右事実によれば、被告は被告の本件債務名義をもつては、本件配当事件において配当要求をなし得ないことは明白と云わざるを得ないから、原告の右主張は理由があるものというべきである。

三つぎに、原告は同(2)において「仮りに、被告の本件配当債権に対する本件仮差押を根拠として、配当要求の効力を認められたものであるとしても、本件仮差押は前述のとおり手形債権に対する仮差押であるから、仮差押の執行として執行官が手形の占有を取得することが有効要件であつたところ、執行官は本件仮差押をなすべき前記各手形の占有を取得することができなかつたから、本件仮差押の執行は無効であり、結局配当要求の効力を生じないものである。」旨主張するのでこの点について判断する。前述のように、ニューフロンテイアは東海興業振出の前述の各手形を紛失したとして、昭和四六年七月東京簡易裁判所に公示催告の申立をなしていたこと、被告はニューフロンテイアに対する前記判決記載の債権を被保全権利として前述の公示催告申立中の手形催権の仮差押の申請をなして本件仮差押の決定を得たこと、しかるに執行官が右手形の占有を取得しなかつたこと、本件仮差押決定正本は昭和四六年一一月一六日第三債務者である東海興業に送達されたこと、は当事者間に争いがない。

ところで民事訴訟法第七四八条によつて準用される同法第六〇三条の規定によれば、手形の仮差押の執行は執行官がその証券を占有してこれを為さなければ仮差押の効力を生じないことは明らかである。しかしながら、成立に争いのない乙第一号証によれば、本件仮差押は公示催告の申立のなされた手形債権を仮差押したことが認められる。同債権は将来除権判決がなされれば、手形の所持なく権利を主張できる債権であるから、その仮差押の執行については通常手形債権の仮差押の執行とは異なり、民事訴訟法第七四八条によつて準用される同法第五九八条の規定により、その執行は仮差押決定正本を債務者と第三債務者に送達することによつて効力を生じ、執行官による手形の占有を要しないと、解釈されるべきである。さらに前述のとおり、右除権判決は昭和四七年二月一〇日なされたから、被告の本件仮差押にかかる前記手形に関しては、右除権判決により手形を所持しないで手形債務者(本件仮差押の第三債務者)たる東海興業に対して、権利を主張しうる手形債権となつたことが、明らかである。

四して見ると被告が本件仮差押をなした前記債権は、除権判決により手形を所持しないで東海興業に対し権利を主張しうる手形債権に昭和四七年二月一〇日なつたのであり、原告の本件債権転付命令正本が東海興業に送達されたのが同年二月二六日であるから、以上のことより判断すれば、被告の本件仮差押執行は有効であり、従つて被告の本件配当加入には何ら違法・不当な点はなく、配当要求の効力を有するというべきである。

五よつて、他に主張・立証のない原告の本件異議は失当たるを免かれないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟第九六条・第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(藤原康志 舟橋定之 永吉盛雄)

<参考判例>

(東京高裁昭和四九年(ワ)第三〇五号、配当異議請求控訴事件、同四八年一二月一三日第一〇民事部判決、原審東京地裁)

〔主文〕

原判決を取消す。

本件を東京地方裁判所に差戻す。

〔事実〕《省略》

理由

一配当異議の訴は、配当表の実質内容に対する不服申立の制度であり、配当表変更の効力を生ずる判決を求める形成の訴である。そして、配当異議の訴の原告は請求を理由あらしめる事由として、右訴の被告(以下被告という。)の債権が配当表の記載通りに存在しないことのほかに、被告の差押(仮差押をふくむ。以下同じ。)または配当要求が無効であることをも主張することができる(配当要求債権者の債権の存在とその差押あるいは配当要求の有効であることとは配当受領権の実質的発生要件であり、配当の実質的有効要件でもあると解すべきである。)。したがつて、配当要求債権者を甲、乙両名とする配当表が作成された場合において、乙の差押または配当要求が無効であるときは、甲は配当期日に右無効を主張して配当表中の乙の配当に関する部分につき異議を申立て、ついで乙を被告とする配当異議の訴を提起し、配当表中の乙に対する配当額を取消して甲へ配当すべき旨の判決を求めることができるものと解すべきものである。

ところで、控訴人の本訴請求の要旨は、被控訴人主張の仮差押は無効であるから被控訴人は配当要求債権者として配当に加わり得ないのに、配当裁判所が被控訴人を配当要求債権者と認めて配当手続に加え、本件配当表を作成したのは違法であるから本件配当表中の被控訴人に対する配当額を取消し、その金額を控訴人に配当する旨の判決を求めるというに帰するが、適法な配当異議の訴というべきであり、他に本件全資料を検討するも本件訴を不適法とする事由は存しない。

叙上の判断説示と異なる見解に立ち、控訴人の所論理由は配当異議の訴の理由とはなり得ないものであつて、控訴人は本件配当に対し、所論の理由に基づき執行方法異議の方法によつてのみ不服を申立てることができるし、控訴人の本件訴を却下した原判決の判断は採用できない。

二よつて本件訴を却下した原判決は不当であるから、民事訴訟法三八六条、 三八八条を則り、これを取消し、本件を東京地方裁判所に差戻すこととし、主文のとおり判決する。

(上野宏 後藤静思 日野原昌)

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