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東京地方裁判所 昭和49年(ワ)4376号 判決 1978年9月12日

原告 広瀬神

右訴訟代理人弁護士 伊志嶺善三

同 小島成一

同 田中敏夫

同 福地絵子

同 田辺紀夫

同 永盛敦郎

被告 国

右代表者法務大臣 瀬戸山三男

右指定代理人 押切瞳

<ほか七名>

被告 千葉オーツタイヤ株式会社

右代表者代表取締役 塚本礼二

右訴訟代理人弁護士 原秀男

同 今村實

同 竹下正己

主文

被告両名は、各自、原告に対し、金三一二万二、一五二円及び内金二八四万二、一五二円に対する昭和四七年一二月一四日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、これを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告両名の連帯負担とする。

この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

原告訴訟代理人は、「一 被告両名は、各自、原告に対し、金五五五万九五〇円及び内金五二五万九五〇円に対する昭和四七年一二月一四日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。二 訴訟費用は、被告両名の連帯負担とする。」との判決並びに第一項につき仮執行の宣言を求め、被告国指定代理人及び被告千葉オーツタイヤ株式会社(以下「被告会社」という。)訴訟代理人は、いずれも、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求め、被告国指定代理人は、原告勝訴の場合につき、担保を条件とする仮執行免脱の宣言を求めた。

第二請求の原因等

原告訴訟代理人は、請求の原因等として、次のとおり述べた。

一  事故の発生

原告は、昭和四七年一二月一四日午前四時一〇分頃、小型貨物自動車(練馬四四さ第一二八二号。以下「原告車」という。)を運転し、千葉県加曽利町一八二番地先の国道一二六号線(車道幅員六・三メートルないし六・四メートル、二車線で、東金方面に向け右側にゆるやかな曲線状を呈し、千葉方面に向け左側には幅員一・五メートルの歩道が設けられたアスファルト舗装道路。以下「本件道路」という。)を千葉方面(西方)から東金方面(東方)に向け、時速約四〇キロメートルで走行中、同所の路面が凍結していたため、スリップ、蛇行を始め、ハンドル操作による方向修正不能のまま対向車線を越え、本件道路南側の田に転落した。

二  凍結の原因

右凍結は、本件道路北側に隣接する被告会社の本店営業所(以下「被告営業所」という。)の敷地内で洗車その他に利用されていた水道の蛇口から流れ出た水が、同営業所敷地前の本件道路沿いに設置された全長二四・四メートルの側溝(以下「本件側溝」という。)に流入し、更に、これから溢水して南側に約三パーセントの片勾配を有する本件道路面に流れ出し、発生したものである。なお、本件側溝は、その流末処理として設置された溜桝が浸透式構造で、排水ポンプも設置されていなかったため、極めて溢水しやすい構造となっており、従前しばしば溢水していた。

三  責任原因

1  被告国について

被告国は、建設大臣をして本件道路の管理(具体的事務は、関東地方建設局千葉国道工事事務所及び同事務所千葉出張所(以下「国道工事千葉出張所」という。)が担当していた。)をさせていたもので、本件道路を常時良好な状態に保つように維持し、一般交通に支障を及ぼさないように管理する義務があるところ、同被告は、昭和四六年一一月頃から、既に、被告営業所の洗車の水がしばしば本件道路に流出していることを知り、冬期これが凍結して事故原因となりうることを十分認識していたのであるから、被告営業所の水が本件道路に流出しないよう、万全の措置を採るべきであり、したがって、被告会社に対し、単に本件道路に本件側溝を設置するように指導するに止まらず、その流末処理についても、溜桝に排水ポンプを設置させる等して、本件側溝の排水機能を完備させるべきであったにかかわらず、これを放置したため、本件事故当時本件側溝から本件道路上に溢水した水が凍結するに至ったものであって、本件道路は通常有すべき安全性を欠いていたものというべきであり、本件事故は、本件道路の凍結により発生したことは明らかであるから、公の営造物である本件道路の瑕疵に起因するものというべく、被告国は、国家賠償法第二条第一項の規定に基づき、原告が本件事故によって被った損害を賠償すべき責任がある。

2  被告会社について

被告会社は、被告営業所において、安藤篤生ら六名の被用者を使用していたところ、右六名は、いずれも、本件側溝は極めて溢水しやすく、溢水すれば、本件道路に流れ出て凍結し、事故の原因となることを十分認識しえたのであるから、被告会社の業務の遂行に当たり、本件側溝に水が流入し続けることのないよう被告営業所の水道の開閉を適確にすべき義務があるにかかわらず、これを怠り、水道の水を流出させたままこれを放置し、本件側溝に流入した水道水を本件道路上に溢水流出させ、よって、本件事故を発生させたものであるから、被告会社は、民法第七一五条第一項の規定に基づき、原告が本件事故によって被った損害を賠償すべき責任がある。

四  傷害の部位、程度等

原告は、本件事故により、第二腰椎ないし第四腰椎左側横突起骨折の傷害を受け、本件事故当日慶応義塾大学病院で診断加療を受け、同日から昭和四八年四月二日までの一〇九日間自宅で安静加療を続けながら同病院へ通院したが、第三、第四横突起が遊離骨片となって癒合しないため、昭和四九年六月に至るも、同病院で投薬加療を受け続けており、重労働は疼痛を増強させるため可及的に避けるべきで、今後も疼痛は残存するものと考えられるとの診断を受け、なお治療を必要とする状態にある。

五  損害

原告は、本件事故により、次の損害を被った。

1  車両修理費

原告は、本件事故により損壊した原告車の修理費として、金四五万九五〇円の支出をし、同額の損害を被った。

2  治療関係費

原告は、本件事故による前記傷害のため、治療費として、金七万円、通院交通費として金一万円、自宅で安静加療中の付添人の付添費として、金六万六、〇〇〇円、合計金一四万六、〇〇〇円の治療関係費を支出し、同額の損害を被った。

3  休業損害

原告は、本件事故当時、原告車を所有し、双葉梱包名で有限会社鶴栄運輸の下請として商品運送に従事していたが、本件事故による自宅療養中の前記一〇九日間休業を余儀なくされ、そのため、原告車の修理期間中の休車損を含め、一日当り金六、〇〇〇円の割合による合計金六五万四、〇〇〇円の収入を得られず、同額の損害を被った。

4  逸失利益

原告は、本件事故当時、右営業により年収金一九七万三、二〇〇円から必要経費を控除した金一五〇万円を下らない純益を得ていたが、前記傷害により、重量物の積降ろしが不可能となり、運送業を廃業し、昭和四八年四月三日天野運輸株式会社に就職し、年収金一〇〇万円の事務職に就かざるをえなくなり、結局、本件事故(事故当時三四歳)以降稼働可能な二九年間、毎年金五〇万円を下らぬ減収を余儀なくされたので、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、原告の逸失利益の本件事故当時の現価を算定すると、金八八一万四五〇円となるので、内金三〇〇万円を請求する。

仮に、原告の本件事故前の年間純益が金一〇〇万円程度に止まるとしても、本件事故後は、同額の収入を得るために従前の二倍以上もの長時間(実働一二時間)労働を要しているのであるから、その実収入が半減し、毎年金五〇万円を下らぬ収入を失ったことは明らかである。

5  慰藉料

原告は、本件事故により前記傷害を受け、昭和四九年六月現在においてもなお、疼痛があり、今後も治療を要し、その完治の見込みもたたず、その精神的・肉体的苦痛に対する慰藉料は、金一〇〇万円が相当である。

6  弁護士費用

原告は、被告両名が任意に本件損害賠償金を支払わないため、やむなく、本訴の提起、追行を原告訴訟代理人に委任し、着手金として金一〇万円を支払い、成功報酬として判決認容額の一割を支払うことを約したので、その合計額は金三〇万円を超えるが、内金三〇万円を請求する。

六  よって、原告は、被告両名各自に対し、以上損害額合計金五五五万九五〇円及び右金員から弁護士費用を控除した金五二五万九五〇円に対する本件事故発生の日である昭和四七年一二月一四日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

七  被告国の主張に対する答弁

被告国の本件道路の凍結は予想しえなかったとの主張事実及び過失相殺の主張事実は争う。

第三被告国の答弁等

被告国指定代理人は、請求の原因に対する答弁等として、次のとおり述べた。

一  請求の原因第一項の事実中、原告車の時速が約四〇キロメートルであったとの事実は知らないが、その余の事実は認める。

二  同第二項の事実は、本件排水溝が従前しばしば溢水していたとの事実を除き、認める。

三  同第三項1の事実中、被告国は、建設大臣をして本件道路を管理させていたもので(具体的事務は関東地方建設局千葉国道工事事務所及び国道工事千葉出張所が担当)、本件道路を常時良好な状態に保つように維持し、一般交通に支障を及ぼさないように管理する義務があること、被告国が原告主張の頃から被告営業所の洗車の水が本件道路に流出していることを知り、冬季これが凍結しスリップ事故の原因となるおそれがあることを認識していたこと、及び本件事故が被告営業所の構内から本件道路上に流れ出た水の凍結に起因することは認めるが、その余の事実は争う。

本件道路の管理を担当する国道工事千葉出張所の係員は、昭和四六年一一月頃巡回点検の際、被告営業所の敷地から洗車の水が本件道路上に流出しているのを発見し、被告会社責任者に対し、凍結による事故の原因となるおそれを指摘して厳重に注意し、昭和四七年三月一四日、再度洗車用水が本件道路に流出しているのを発見した際には、厳重に注意するとともに排水施設の設置等の措置を採るように指導したところ、被告営業所の敷地の所有者である深山昭司は、本件側溝を設置すべく、昭和四七年六月一二日、道路法第二四条に基づく工事申請を関東地方建設局長になし、同局長は、同月二一日、本件側溝の流末処理として設置される溜桝に排水ポンプを付設することを指示確認したうえ、自動車乗入れ及び本件側溝設置工事につき、右申請を承認し、深山は、これに基づき、同年一一月初旬、工事に着工し、本件事故までに本件側溝及び溜桝を完成していたのであるが、排水ポンプが未設置であったため、本件排水溝の溢水、ひいては本件事故を惹起させたものである。

しかして、国道工事千葉出張所は、本件事故の前日の午後二時から午後三時三〇分までの間に二回にわたり、本件道路を点検(定期巡回)したが、いずれの際にも、本件事故現場付近には溢水等の異常はなく、同日は降雨・降雪もなく、また、その予測もされていなかった気象状況で、本件事故現場は気候温暖な千葉地方に属していたから、夜間本件道路が凍結することは到底予測できず、したがって、夜間の気温低下に対し、路面凍結防止のための特別の管理体制を採り、特別巡回を行う必要もなかったのであり、夜間の沿道からの思わぬ溢水による凍結については、予想し難く、もはや道路管理者の責に帰しえないものというべきであるから、被告の本件道路の管理には瑕疵がなかったというべきである。

四  請求の原因第四項の事実は、知らない。

五  同第五項の事実は、争う。

原告は、本件事故当時の年間純益は金一五〇万円を下らなかった旨主張するが、原告主張の金一九七万三、二〇〇円の年間収入から、原告の昭和四八年度都民税・特別区民税申告書記載事実から推認しうる必要経費を控除すると、その年間純益が金一〇〇万円を超えなかったことは明らかである。

六  過失相殺の主張

仮に、被告国に本件事故につき損害賠償責任がありとしても、原告車は本件事故直前大型対向車と擦れ違ったのであるから、本件事故当時、本件道路は両車の前照灯及び被告営業所構内の照明により明るく、したがって、原告が前方を十分確認しさえすれば、路面の一部が黒く変色し、濡れていることを確認できた筈であり、また、季節的にみて、本件道路面の凍結を予測しえたのであるから、早期に凍結を発見し、徐行その他の安全運転をなしえたものというべきところ、これを怠り、本件事故を惹起させたのであるから、右過失は賠償額の算定に当たり斟酌されるべきである。

第四被告会社の答弁

被告会社訴訟代理人は、請求の原因に対する答弁として、次のとおり述べた。

一  請求の原因第一項の事実中、本件道路が原告主張のとおり東金方面に向けゆるやかな曲線状を呈していること、原告主張の日時頃、本件事故現場付近の本件道路が凍結していたこと、及び原告車が本件道路南側の田に転落したことは認めるが、その余の事実は知らない。

二  同第二項の事実中、本件道路が南側に下り勾配を呈していること、本件事故現場の北側に被告営業所があり、その敷地内に水道が設置されていること、被告営業所敷地南側の本件道路沿いに本件側溝が設置され、その流末処理として設置された溜桝が浸透式構造で、本件事故当時排水ポンプが付設されていなかったことは認めるが、その余の事実は否認する。

本件凍結は、自然水(湧水や雨水)及び隣家の排水の逆流水等に起因するもので、被告営業所使用の水に起因するものではない。すなわち、被告営業所の敷地は、全体として南側に約一・五度の下り斜面をなし、その北側は、約〇・五メートル高くなって、幅員約二メートルの東西に通じる道路があり、その道路の北沿いに幅員約二・五メートルの水路(以下「北側水路」という。)が東から西へ流れ、更に、その北方は、右道路より一メートル高い宅地に続く山となっており、本件事故現場付近は、湧水の多い土地であるところ、本件事故の前前日頃には北側水路が溢れる程の豪雨が降ったため、本件事故当時、地下からの湧き水と雨水で本件側溝が満水となって路面に流出したものである。かつて、被告営業所の洗車用水が本件道路に流出し、国道工事千葉出張所係員から注意を受け、側溝を設置するようにとの指導を受けたため、被告会社は、被告営業所敷地の所有者深山昭司に依頼し、同人は、昭和四七年六月一二日頃関東地方建設局に対する工事施行承認申請書を同局千葉国道工事事務所に提出し、その許可を得て、同年一〇月二〇日頃から本件側溝設置工事に着手し、本件事故当時には、付設の溜桝に排水ポンプが設置されていなかったが、右工事はほぼ完成しており、また、右指導の後、被告会社は被告営業所の敷地内で洗車をしたことはなく、仮に、洗車したとしても、本件事故前日の午後五時頃までのことで、その使用水量は二〇リットル程度にすぎないから、右洗車の時刻及び使用水量にかんがみると、本件のような広範囲の凍結を惹起することはありえない。

更に、被告会社としては、前年の一二月の最低気温が零度を下らなかったことから明らかなように、一二月中旬である本件事故当日、最低気温が零度を下ることは予想できなかったのであって、加えて、本件事故当時、多数の車両が安全に本件事故現場を通過しているのであるから、本件事故は、専ら原告のハンドル操作の失敗若しくは不注意運転等に起因するもので、本件道路の凍結とは因果関係がないというべきである。

三  請求の原因第三項2の事実は、否認する。

四  同第四項及び第五項の事実は、知らない。

第五証拠関係《省略》

理由

(事故の発生及び事故現場の状況)

一  原告主張の日時頃本件道路が凍結していたこと、及びその頃原告車が本件道路南側の田に転落したことは、本件当事者間に争いがない。

よって、以下、本件事故発生の状況及び本件事故現場の状況等につき審究するに、右争いのない事実に、《証拠省略》を総合すると、(一)本件事故現場は、千葉方面(西方)から東金方面(東方)に通ずる被告国が管理する国道一二六号線路上であり、本件道路は、本件事故現場の西側手前で東金方面に向け右にゆるやかにカーブしているが、本件事故現場付近においては、ほぼ東西に走る南側に三パーセントの片勾配を有する直線道路で、車道幅員が六・三メートルないし六・四メートル、中央線により東金方面行車線(以下「下り車線」という。)と千葉方面行車線(以下「上り車線」という。)の二車線に区分され、上り車線左側には歩車道境界ブロックにより区分された幅員約一・五メートルの歩道が設けられ(なお、以上の事実は、原告と被告国との間において争いがない。)、制限最高時速五〇キロメートルと規制された道路となっており、本件事故当時は夜明前で交通量は少なかったこと、(二)本件事故現場付近は、上り車線脇の歩道南側は一段低く田となり、下り車線北側は被告営業所の敷地となっており(この敷地も全体として約一・五度の南斜面となっている。)、右敷地沿いの下り車線の路肩には全長二四・四メートル、深さ及び幅とも四五センチメートル程度の本件側溝が設けられていたところ、本件事故当時、本件側溝付近から下り車線に流れ出た水が、通行車両のタイヤにより同車線上に延展され、被告営業所の西側の出入口付近から東方に約八五メートルの間、下り車線の全域にわたり凍結していた(以下、この凍結を「本件凍結」という。)こと、(三)原告は、原告車に積荷を満載し、時速約四〇キロメートルで下り車線を走行し、被告営業所前付近に差しかかったところ、本件凍結のため、原告車は、スリップを開始し、ハンドル操作による方向修正不能のまま約八五メートル蛇行後、上り車線南側の歩車道境界ブロックに激突し、歩道南側の田に転落したこと、(なお、叙上の事実中、原告と被告国の間では、原告主張の日時、原告が原告車を運転し、被告国が管理する本件道路を千葉方向から東金方向に走行中、本件事故現場のアスファルト舗装路面が凍結していたため、原告車がスリップ、蛇行し、ハンドルによる方向修正不能のまま対向車線を越えて田に転落したことは、争いがない。)、以上の事実を認めることができ、右認定を覆すに足る証拠はない。

(本件凍結の原因)

二 《証拠省略》を総合すると(《証拠省略》中、後記措信しない部分を除く。)、(一)被告会社は、本件事故当時、被告営業所において、安藤篤生ほか五名の被用者並びに普通乗用自動車一台及び小型貨物自動車四台を擁し、自動車用のタイヤ、チューブその他ゴム製品の販売及び修理業を営んでいた者で、被告営業所建物西南角に設置された水道(以下「本件水道」という。)からホースで水を取り、洗車やパンクタイヤの修理等に利用していたところ、その水が被告営業所敷地の南斜面を流下し、本件道路に流れ出てこれを横切り、南側の田に流れていたため、昭和四六年一一月及び昭和四七年三月、国道工事千葉出張所の定期巡回の担当係官から、凍結時の通行車両事故の危険等を指摘され厳重な注意を受け、昭和四七年三月の折には、前記担当係官から道路管理者以外の者が道路に関する工事の設計及び実施計画について道路管理者の承認を受けて行う道路法第二四条所定のいわゆる請願工事として、被告営業所前の下り車線路肩に側溝を設置し(以下、右の側溝設置工事のことを「本件側溝設置工事」という。)、洗車用水等の流出を防止するように指示されたため、その頃、被告営業所の建物及び敷地の所有者である被告営業所の東隣に居住する深山昭司に本件側溝設置工事の施行を依頼し、同人は、その頃、これを東五建設株式会社(以下「東五建設」という。)に発注したこと、(二)深山昭司は、東五建設を通じ、同年六月一二日、予定工事の横断図及び平面図を添附して本件側溝設置工事に関する道路工事施行承認の申請を関東地方建設局長宛になし、同局長は、同月二一日、工事は原則として承認の日から一〇日以内に着手し、工事期間は二〇日間とすること、設置した本件側溝の所有権は国に帰属するものとし、工事完成後国道工事千葉出張所の完成検査を受け、これを引き渡すものとし、申請書のとおり施行することを条件として、右申請を承認したものであるが、右申請及び承認の段階においては、本件側溝の両端は他の側溝と接続しておらず、その流末処理は、本件側溝東端の北側一メートル付近の深山昭司方敷地内に設置される直径〇・九メートル、深さ二メートルの円筒形の浸透式の溜桝が予定されていただけあって、当時、関係者の間において、溜桝に排水ポンプを付設することは工事施工承認の条件とされていなかったこと、(三)東五建設は、同年一〇月二〇日に至り、ようやく本件側溝設置工事に着工し、本件事故当時までには、本件側溝及び溜桝の工事を一応完成し、本件側溝と溜桝との間はなお素堀されたままであったが、流通可能となっており、本件側溝設置工事の承認段階での予定工事はほぼ完成していたが、この間、深山昭司は、同年一一月中頃、東五建設の現場担当者及び被告会社関係者から、溜桝の排水状況が不良で水が溜まりやすいため、溜桝に排水ポンプを付設する必要があるとの忠告を受けたので、これを容れ、その頃、前記本件側溝工事とは別途に、東五建設に対し排水用ポンプ及び排水用ポンプから北側水路への排水管の設置を発注し、本件事故時には、未だ排水用ポンプ及びこれから北側水路への排水管は設置されていなかったが、本件事故後その日の午後、排水ポンプにホースを取り付けて仮に設置したこと、(四)本件事故当時、本件側溝及び溜桝は満水で、本件側溝から水が下り車線に溢れ出、この水が通行車両により下り方向に約八五メートル、同車線のほぼ全域にわたり延展されて凍結(本件凍結)しており、他方、本件水道の蛇口からはつららが下っており、本件水道の蛇口の下部から本件側溝にかけ、被告営業所敷地の舗装部分が一面に凍結していたこと、(五)被告営業所の敷地の北側は、右敷地より約〇・五メートル高くなり、幅員約二メートルの東西に通ずる舗装道路を隔て、上端の幅員約二・五メートルのゆるいU字型の土堀りの北側水路(水源は約五キロメートル東方にある。)に接しており、豪雨時には水位が上り、被告営業所及び深山昭司方の排水管を水路の水が逆流し、この水が被告営業所の敷地及び深山昭司方の敷地を南に流下し、下り車線の路肩部分等に溜まり、本件道路に流出し、また、北側水路の北方は一段高い宅地に続き起伏をなしているなど、本件側溝付近の土地は水はけの良くない土地となっていたが、常時湧き水があるわけではなく、また、豪雨に至らぬ程度の雨では降雨の翌翌日下り車線の路肩部分に水が溜まるほどのことはなかったこと、しかして、本件事故前前日に約九・五ミリメートルの降雨があったが、前日はなく、本件事故前前日の前三日間は〇ミリメートルを超える降雨はなかったこと、以上の事実を認めることができ(る。)《証拠判断省略》

右認定の本件側溝の設置に至る経過、本件事故当時の本件排水溝の構造及び流末処理の状況、本件事故直後の被告営業所の本件水道及び敷地内の状況等の諸事実を総合勘案すると、本件道路下り車線の本件凍結は、被告営業所の本件水道の栓が適確に閉められていなかったため、前日以来蛇口から少量ずつ継続して流れ出た水道水が、従前から排水が悪く、水が溜まっていた本件側溝に流入し、同様に従前から水が溜まっていた溜桝及び本件側溝を満水にし、その水が本件側溝から下り車線に溢れ出たことに起因するものと認めるのが相当であり(なお、本件凍結の原因が、被告営業所の敷地内から流れ出た水が本件側溝に流入し、溢水したことに起因することは、原告と被告国との間において、争いがない。)、本件凍結の原因が専ら地下からの湧き水と雨水に起因する旨の被告会社の主張は、上叙認定の事実に徴し、到底認め難いものといわざるをえない。

(被告会社の責任)

三 上叙認定の事実によれば、被告会社は、本件事故当時、被告営業所に安藤篤生ほか五名の被用者並びに普通乗用車一台及び小型貨物自動車四台を擁し、自動車用のタイヤ、チューブその他ゴム製品の販売及び修理業を営み、その業務に関連し、洗車、パンクタイヤの修理等のため、被告営業所屋外の本件水道を使用する機会が多く、本件側溝の設置前において、使用水を本件道路に流出させ、二度にわたり国道工事千葉出張所の係官に路面凍結の危険等を指摘されており、その結果、本件側溝設置工事の施行を地主の深山昭司に依頼し、同人は同工事に着手したのであるが、被告会社関係者が溜桝に排水ポンプを設置する必要のあることを深山に忠告した事実並びに被告営業所と本件側溝及び溜桝の位置関係からみると、被告営業所の被用者は、いずれも、本件事故当時本件側溝及び溜桝の排水状況が不良で、共に水が溜まりやすい状態であったこと、及び排水ポンプが未設置であったことを知っていたものと推認することができるから、被告会社の業務として、本件水道の使用、特にその栓の開閉に当たっては十分注意を払い、大量の水を使用しないだけでなく、使用後はその栓を完全に閉め、蛇口からの漏水を避け、本件側溝から本件道路に溢水しないように注意すべき義務があるにかかわらず、これを怠り、本件事故前日夕方ないし本件事故当夜、被告会社の業務の執行として、本件水道を使用した後(この事実は、本件水道の用途及び従前の使用状況から推認できる。)、その栓を完全に閉めなかった過失により、本件凍結ひいては本件事故を惹起したものと認めることができるから、被告会社は、民法第七一五条第一項の規定に基づき、本件事故により原告が被った損害を賠償すべき責任がある。

なお、被告会社は、本件事故当時気温が零度を下ることを予想しえず、また、本件事故は専ら原告の過失に起因するもので、本件凍結とは因果関係がない旨主張するが、《証拠省略》によれば、千葉地方は、温暖であるとはいえ、一二月に入ると最低気温が零度を下ることがままあり、殊に、本件事故前日は冷込み(最高気温は摂氏九度一分、最低気温は一度九分であり、本件事故当日は最低気温零下一・九度であった。)が厳しかったことが認められるのであるから、本件事故当時、本件側溝が溢水すれば凍結する場合のあることは容易に予想しえたものというべく、また、一般的に、道路の凍結は通行車両のスリップ事故の原因となる等極めて危険であるところ、《証拠省略》によると、本件事故当夜、本件凍結により一二、三台の自動車が事故を惹起したことが認められるほか、本件事故につき原告に特段の過失が認められないことは後記認定のとおりであるから、本件事故が本件凍結と因果関係がないものとは到底認めることができない。

(被告国の責任)

四 被告国が、本件道路の管理者であり、その具体的事務の担当者である関東地方建設局千葉国道工事事務所及び国道工事千葉出張所をして、本件道路を常時良好な状態に保つように維持し、一般交通に支障を及ぼさないように管理する義務があることは、原告と被告国の間において争いがないところ、前記認定の事実によれば、国道工事千葉出張所係官は、昭和四六年一一月及び昭和四七年三月、被告営業所から洗車用水が本件道路に流れ出ていることを現認し、凍結事故の危険をも指摘して厳重に注意し、昭和四七年三月の折には、本件道路への流出を防止するため、本件側溝設置工事を請願工事として実施するように指示し、同年六月二一日、工事は原則として一〇日以内に着工すること等の条件を附し、深山昭司の請願工事の申請を関東地方建設局長名で承認したのであるが、承認に当たり、両端が他の側溝に接続していない本件側溝の流末処理につき、直径〇・九メートル、深さ二メートルの浸透式の溜桝だけで十分であると判断し、これに排水用モーターを付設することを条件とせず、しかも、右着工時期の条件に反し、同年一〇月二〇日に至るまで本件側溝工事が着工されず、既に凍結の危険のある時季に入った同年一二月半ばの本件事故当時においても、なお未完成であったことを放置し、したがって、完成検査も未了で(この点は、《証拠省略》により明らかである。)、その結果、本件側溝の流末処理が不備であったことに気付くこともなかったものであるところ、前記認定の事実に徴すれば、本件事故は、不完全な流末処理による本件側溝の排水能力の欠如がその原因の一であることは明らかであるから、本件道路は、本件事故当時、通常有すべき安全性を欠如していたものというべく、被告国の本件道路の管理には瑕疵があったものといわざるをえず、したがって、被告国は、国家賠償法第二条第一項の規定に基づき、本件事故により原告が被った損害を賠償すべき責任がある。

被告国は、本件事故前日の定期巡回時に本件側溝が溢水しておらず、同日は降雨も降雪もなかったこと、及び千葉地方が温暖であること等を挙示し、凍結は予想し難く、道路管理者の責に帰しえない旨主張する。しかし、本件側溝からの溢水による本件凍結は、前記認定のとおり、本件事故前日及び当日限りの管理の瑕疵に起因するものではなく、その数か月前から継続する管理の瑕疵に起因するものであり、また、前記認定のとおり千葉地方は温暖であるとはいえ、一二月における最低気温が零度を下まわることはままあるのであるから、道路管理者としては、一般的に、一二月になれび道路上の凍結がありうること、殊に、本件事故現場については、国道工事千葉出張所係官において、溢水による道路の凍結の危険性を指摘し、道路法第二四条の規定により本件側溝設置工事の承認を与えた前叙の経緯に徴しても、本件道路の凍結の可能性を容易に予想しえたものというべきであるから、右主張は理由がないものというほかない。

更に、被告国は、原告には、本件事故につき、前方不注視の過失があるから、賠償額の算定に当たり斟酌されるべきである旨主張するが、前記認定の本件道路の状況、本件事故前の天候、本件事故当時他に一二、三台の車両が本件凍結により事故を起こしている等の事情を総合勘案すると、本件事故当時、下り車線の通行車の運転手が、具体的に、本件事故現場付近に溢水があり、道路上が凍結していることを予想することはおよそ不可能というべきであり、また、《証拠省略》によれば、前照灯により凍結箇所を事前に発見することは困難であったことが認められるから、原告には、本件事故につき、前方不注視その他の過失があったものとは到底認めることができず、したがって、被告国の右主張も理由がないものといわざるをえない。

(傷害の部位、程度等)

五 《証拠省略》を総合すると、原告は、本件事故により、第二腰椎ないし第四腰椎左側横突起骨折の傷害を受け、本件事故当日から東京都新宿区信濃町所在の慶応義塾大学病院に通院し、同日から昭和四八年一月中頃過ぎまで胸部から腰部下部にかけて脊椎ギブス固定を受け、その後は腰椎用軟性コルセットを着用するなどし、骨折の癒合に努力したが、効果がなく、昭和四九年一月に至っても、なお、第三、第四腰椎横突起は遊離骨片となって癒合せず、重労働は疼痛を増強させるおそれがあり、可及的に避けるのが望ましく、今後なお疼痛が残存すると考えられる旨の診断を受け、昭和五二年三月三日の原告本人尋問(第一回)当時、なお、天候の変わり目に腰部自発痛を生じ、また、野球等のスポーツを軽く楽しむ程度で腰痛を生じ、重労働はできず、痛み止め薬等の投与を受けていることを認めることができ、右認定を覆すに足る証拠はない。

(損害)

六 よって、以下原告の損害につき判断する。

1  車両修理費等

《証拠省略》を総合すれば、原告は、本件事故により損壊した原告車を東京自動車工業に修理させ、東京自動車工業までのレッカー車代及び現場作業代として金五万六、八〇〇円、修理代として金三九万四、一五〇円、合計金四五万九五〇円を支出し、同額の損害を被ったことが認められ、右認定を動かすに足る証拠はない。

2  治療関係費

前記認定の原告の症状及び治療経過に《証拠省略》を総合すると、原告は、本件事故により、治療費及び診断書料として慶応義塾大学病院に対し金五、七〇六円、腰椎用軟性コルセット代として金一万五〇〇円、脊椎のギブス固定を受け、自力で起床できず、また、坐ることのできなかった間の附添看護料として金六万六、〇〇〇円、事故後ギブス固定が解かれるまでの間の慶応義塾大学病院までの通院交通費として金一万円、合計金九万二、二〇六円を下らぬ治療関係費を支出し、同額の損害を被ったことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

3  休業損害

前記認定の原告の症状及び治療の経過に、《証拠省略》を総合すると、原告は、本件事故当時、その所有する原告車(最大積載量二トンの貨物自動車)を自ら運転し、双葉梱包名で有限会社鶴栄運輸の下請として、酒、味噌類の梱包及び運送に従事し(一か月当りの実働日数は二〇日ないし二三日で、一日当りの運送時間は六時間以内)、昭和四七年一月一日から本件事故当日までの三四七日間に金一九七万三、二〇〇円の収入を得、金一〇〇万二、六三〇円の経費を要し、金九七万五七〇円の純益(一日当り金二、七九七円、一年当り金一〇二万九〇五円、利益率約四九パーセントで、当裁判所に顕著な昭和四七年度労働大臣官房統計情報部編賃金構造基本統計調査報告(以下「賃金センサス」という。)第一巻第二表、産業計・企業規模計・学歴計・全年齢計男子労働者の平均賃金年収額金一三四万八、三〇〇円の約七五パーセントに相当する。)を得ていたところ、前記傷害のため、本件事故当日から昭和四八年四月二日までの一一〇日間稼働できず、この間、右割合による金三〇万七、六七〇円の純益を得られず、同額の損害を被ったことが認められる。

なお、原告は、右期間中の休業損害につき、休車損をも含めて請求しているけれども、《証拠省略》によれば、原告車の修理は昭和四八年二月二八日までには完了していたことが認められ、他方、原告は、原告車を自ら運転して稼働していたのであるから、原告が本件事故により休車損害を被ったことはありえないものというべきである。

4  逸失利益

前示認定の原告の本件事故前の稼働状況に、《証拠省略》を総合すると(右《証拠省略》中後記措信しない部分を除く。)、原告は、昭和一二年五月二六日生れの男子で、昭和四八年四月三日から従前の自営梱包運送業を再開したが、重労働で、腰痛を生じたため、まもなく廃業し、天野運輸株式会社に事務員として就職し、昭和四八年一一月から昭和四九年一月までの間に一か月当り平均金一二万一、四〇〇円の収入(年額金一四五万六、八〇〇円で、昭和四八年度賃金センサス第一巻第二表の前同様の男子労働者の平均賃金年収額金一六二万九、二〇〇円の約八九パーセントに相当する。)を、昭和五二年三月当時年額約金二三〇万円(昭和五一年度賃金センサス第一巻第一表の前同様の男子労働者の平均賃金年収額金二五五万六、一〇〇円の約八九パーセントに相当する。)を得ていたこと、他方、本件事故前の原告と同一の条件で天野運輸株式会社の下請として稼働していた者のうち、原告とほぼ同時期に稼働し始めた者らにつき、昭和四九年六月ないし九月の四か月間に得た収入を基礎として、その割合による年収を求め、前記四九パーセントの利益率を乗じて年間純益を求めると、平均金一四七万円となり、昭和五二年三月当時の年収金四二〇万円に前記利益率を乗じ年間純益を求めると、金二〇五万八、〇〇〇円となること、本件事故前の原告の稼働収入は各時期の請負量、請負単価により相当程度左右されること(ちなみに、本件事故後昭和四九年一年間の元同業者らの収入は前年に比し顕著に増加しているが、昭和五一年には前年に比し大幅に減少している。)、及び原告は、本件事故前、約六時間の運送時間のほか梱包作業、車両の整備等の稼働をし、前示の収入を得ていたのであるが、本件事故後は一日平均一二時間の勤務により前示の収入を得ていること、以上の事実を認めることができ(る。)《証拠判断省略》

しかして、右認定の原告の本件事故前後の稼働状況、収入状況、及び元同業者の収入状況並びに前示認定の原告の症状、治療経過及び後遺障害の程度等を総合すると、原告の本件事故後の収入状況は、収入金額のうえでは、賃金センサスの平均賃金との比較においても、また、元同業者の収入状況との比較においても、本件事故前より悪化したものとは認め難いが、その収入を得るに必要な稼働時間の面においては、明らかに長時間を要するに至っており、本件事故前の梱包運送業が重労働であり、本件事故後は事務職に従事していることを考慮に容れても、なお、原告は、本件事故により、その稼働能力を喪失し、得べかりし利益を失ったものとみるのが相当であり、その年齢をも併せ考えれば、原告は、本件事故により、その症状が固定した時期と推認できる昭和四八年四月三日以降の五年間は稼働能力の一〇パーセントを、続く四年間はその五パーセントを失ったものとみるのが相当であるところ、原告は、本件事故に遭遇しなければ、稼働の性質にかんがみ、本件事故後も少なくとも原告がほぼ満四五歳に達する昭和五七年三月に至るまでは従前通り梱包運送業を営み、毎年、昭和四七年の純益金一〇二万九〇五円に各年度の賃金センサスの前同様の男子労働者の平均賃金年収額の対前年度のそれに対する増加率(すなわち、昭和四八年度は二〇パーセント、昭和四九年度は二五パーセント、昭和五〇年度は一五パーセント、昭和五一年度は七パーセント)を加算した額を下らぬ収入を得たものと推認すべきであるから、以上を基礎として、ホフマン式計算方法により年五分の割合による中間利息を控除し、原告の本件事故による逸失利益の右症状固定時の現価を算定すると、金九九万一、三二六円となる。

5  慰藉料

原告が、本件事故で負傷したことにより、肉体的、精神的苦痛を被ったことは、以上認定したところから明らかであり、前記認定の原告の傷害の部位・程度、治療経過、骨折部の疼痛の残遺及び転職、その他本件口頭弁論に顕れた諸般の事情を勘案すれば、原告の前記苦痛に対する慰藉料としては、金一〇〇万円とみるを相当とする。

6  弁護士費用

以上によると、原告が本件事故により被った損害(弁護士費用を除く。)は合計金二八四万二、一五二円となるところ、《証拠省略》を総合すると、原告は、被告両名が本件事故の賠償金を任意に支払わないので、やむなく本訴の提起及び追行を原告訴訟代理人に委任し、賃手金一〇万円を支払ったほか報酬等の支払を約したことが認められ、本件の審理経過、事件の難易及び原告の右損害額にかんがみると、弁護士費用としては、金二八万円をもって本件事故と相当因果関係ある損害とみるを相当とする。

(むすび)

七 以上の次第であるから、被告両名は、原告に対し、金三一二万二、一五二円(前項1ないし6の損害額合計)及び右金員から弁護士費用を差し引いた金二八四万二、一五二円に対する本件事故発生の日である昭和四七年一二月一四日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるものというべく、原告の本訴請求は右の限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条及び第九三条ただし書の規定を、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項の規定を適用し、仮執行免脱の宣言は相当でないから付さないものとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 武居二郎 裁判官 島内乗統 裁判官信濃孝一は、転任につき、署名押印することができない。裁判長裁判官 武居二郎)

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